『雪娘のアリアナ』
原題:THE SNOW GIRL by Sophie Anderson, 2023
ソフィー・アンダーソン/著 メリッサ・カストリヨン/絵 長友恵子/訳
小学館
2024.11

〈版元語録〉12歳の少女ターシャはある出来事からすっかり心を閉ざし、祖父が農場を営む山村で家族と静かに暮らしていた。初雪の日、心をこめて作った雪娘に「友だちになってくれたらいいのに」と願うと、その夜、不思議なことに、雪娘に命が宿る。毎晩その雪娘のアリアナと過ごし友情を育む中で、ターシャは明るくて好奇心旺盛だった元の自分を取り戻していく。しかし、その冬はいつになく厳しく、祖父の病気も悪化。周囲の人々も春の訪れを待ち望むが、冬が終わることは親友のアリアナとの別れも意味していた。ロシアの民話「雪娘」をモチーフに、少女の成長と友情を描いたファンタジー。

カワウ:とても美しい物語ですね。谷あいの村に暮らす人々の描写も、魅力的でした。雪娘の昔話は絵本の『ゆきむすめ』(内田莉莎子文 佐藤忠良絵 福音館書店)しか知らなかったけど、後半でいろいろなヴァージョンが紹介されていたのも楽しかった。でも、主人公のトラウマとなったカニ爪岩の事件がいったいどういうものなのか、100ページを過ぎてからやっと出てくるので、本当にいらいらしました。それと、主人公のメンタリティは、まさに小学生のものなのに、厚さや文章はYAっぽい。いくら長くても、やわらかい、やさしい文章だったら小学生も楽しめるのにと思いました。それから、英米のものと違って、なじみのない名前がつぎつぎに出てくるので、「マイカって、男の子だったっけ?」とか、「このひとは、いったい誰?」と、たびたび思ってしまいました。最初に登場人物の紹介があれば良かったのでは? 三人称で書かれているとはいえ、一人称に近い三人称なので、大人には「さん」をつけたりすれば、もっとわかりやすくなったかも。同じロシアの民話をもとにした本でも『<死に森>の白いオオカミ』(ディーコフ作 相場妙訳 徳間書店)は、いかにもロシアって感じで、良かったですね。翻訳も見事だったけど。やはり、その国に暮らす人が書くものは、迫力がちがうのかな。

ハリネズミ:自然の描写が美しいし、本の装丁や挿絵もきれいですね。ターシャが、怪我をしたヤマネコを救おうとしてひとりで雪山に登って、氷の川に落ちるところは、お話の進行があまりにも大胆なほうにぶれすぎていて、ついていけませんでした。ほかにも物語世界に疑問を感じるところがいくつかありました。たとえばターシャが助け出されたあと、回復までに時間がかかったと思うのですが、その間にだれも、「どうして外に出てていたのか」とか「なぜノナおばさんの生肉や薬を持ち出したのか」と誰もたずねない。また春を呼ぶ祭りに一所懸命になる気持ちと、雪娘にとどまってもらおうとする気持ちの間には矛盾がありますが、そこはつきつめない。そんなことをいろいろ考えると、1つの物語世界の中で動いていく話というよりは、無理につじつまを合わせようとして無理が出ている作品のように思えてしまいました。

花散里:表紙画、挿絵が美しい本だと思いました。全体的には物語が、なかなか進んでいかなくて、読みづらいと感じました。特にカニ爪岩で恐怖を味わったということが何度も出てくるのに、真相はなかなか明かされず、この話は、いつ分かるのだろうと思いながら読みました。ロシア民話「雪娘」の話、マイカのおばあさんの「雪の精霊」の話、聞きたくないけれど気にかかる、ということなど、昔話が物語の展開に大きなウェートを占めていて、子どもたちが昔話に関心を持って読めたらいいとは思いました。登場人物が多くて読みにくいということもありましたが、お爺さん、ノナおばさんは良く描かれていて、地域の人たちとの共同納屋での祭りへの話などは、好感がもてました。春を迎えることが大事なことと分かりながら、アリアナが消えてしまうのではないかという危機感、クララ、マイカとの友情など、小学校高学年以上に読んでほしいとは思う作品でした。

雪割草:絵も美しく、物語も昔話を題材にしていて美しい作品だと思いました。でも前半は、ターシャとアリアナの夜のお出かけが繰り返されてやや単調で、長く感じました。後半の方がおもしろく、読むペースがあがりました。p116からのカニ爪岩での出来事を打ち明ける場面は、トラウマと向き合うときの辛さ、心の傷の深さが伝わってきました。一方で、なぜターシャは、アリアナにだけすぐに心が許せたのか、よくわかりませんでした。自分が育てた者への愛着なのか、雪の精霊だから自然への親しみなのか。人間のクララやマイカもとってもいい子たちなのに。登場人物としては、おじいちゃんやノナおばさんは厚みがありましたが、父と母はいつも農場の修理で忙しく、ただいるだけのようで、もう少し人物像を描いてもよかったのではと思いました。マイカは、p145の絵でも女の子にみえて、心の性が男の子なのかと思っていました。

すあま:雪娘が主人公のファンタジーだと思い込んで読み始めたら、過去の出来事のせいで友だちができず一歩を踏み出せない女の子の話でした。雪娘に会いに夜中に毎晩出かけて、睡眠時間を削っているというのは、本当にだれにも気づかれないのか、そんなことができるのかと思ってしまいました。夢の中の出来事にしてしまった方が、逆にリアリティがあったように思います。雪娘が実際に存在することになっていて、そのまま冬が続いていくのか、ターシャが雪娘の世界に行ってしまうのかと怖くなりました。地元の子どもたちがとてもいい子たちなので、もっと早く仲良くなってもいいのではと思い、ちょっと話を長引かせすぎなところも気になりました。昔話をモチーフしているところがおもしろく、私も雪娘の話は最後に消えてしまうのが寂しいと思っていたので、ターシャがハッピーエンドの話を探すところは共感できました。

エーデルワイス:今回私は選書係だったのですが、もう1冊の『海の中の観覧車』はグリムの『いばら姫』という昔話をモチーフにしているので、『ゆきむすめ』というロシアの昔話をモチーフにしている『雪娘のアリアナ』を選びました。装幀も豪華でイラストもたくさんあり美しい本です。2月に読みましたので、この物語の寒さが伝わってきました。今よりずっと寒さが厳しかった子どもの頃を思い出します。積もった雪が腰くらいまであり、長い氷柱が並び、寒くても外で遊び、防寒具もそれほどではなかったので顔も手も足も凍え、霜焼けになりました。毎晩、ターシャがアリアナと出かけるシーンは幻想的でわくわくしてきます。何枚も重ね着しても凍えてくるところが共感できます。全編通してターシャの心の軌跡がていねいに書かれていると思いました。『ゆきむすめ』の昔話に何種類かあることが分かりました。日本で知られている『ゆきむすめ』はたき火の炎を飛び越えて、煙になってしまします。もし、太陽を避け、木陰で小川の水に足を浸しながら夏を乗り越えたら、生き延びていたかもしれません。雪娘アリアナも「春」と入れ替わりに森でひっそりと生き延びていると思います。スノードロップの花が象徴的でした。

西山:私も今回の選書係で、『海のなかの観覧車』をまず読み合いたいテキストとしてあげました。並べる翻訳作品はモーパーゴの『発電所のねむるまち』(杉田七重訳 あかね書房)をすぐに思い浮かべたのですが、この読書会でとっくに取り上げていましたね。結果的に、原発だけに焦点化せずに読む可能性がうまれたかなと思います。どちらも、昔話に対して、ほかの終わり方がないのかと考える、他の可能性を求めている点が共通しています。カニ爪岩で何が起きたのか、なかなか語られず焦れたという感想が出ていましたが、冒頭でなぞを出して、それで引っ張るやり方が、日本の最近の作品でよく見る気がしていて、翻訳物でもそうなのかと、妙に新鮮に感じました。真相が語られるための時間に必然性を感じさせるものと、単に読者を焦らして引っ張っているとしか思えないものがあります。後者にはあまり好感が持てません。あと、牧歌的で昔話にオーバラップするような雪国の暮らしなのに、近年、冬の間の暮らしを支え合うためにいろいろ持ち寄って備蓄することも、お祭りも廃れてしまっている、そういう古来の共同体が失われてきている様子も、現代の日本のようで、妙におもしろかったです。

(2025年04月の「子どもの本で言いたい放題」より)