安東みきえ/著
講談社
2024.11
〈版元語録〉「ね、人のしぬことにきょうみがある人って、どうおもう?」 思ったことを言えない美海は、正直すぎて周囲の顰蹙をかってしまう転校生のアキトと仲良くなった。アキトは少し変わっているだけだと思っていた美海だが…。
ANNE:読み始める前に、帯に書かれた「ね、人のしぬことにきょうみがある人って、どうおもう?」という惹句にドキドキしました。なんでも正直に言いすぎて、「性格が悪い」と言われている転校生のアキトと、なるべく人に嫌われたくなくていろいろなことを曖昧にしてしまう美海。仲良しになった二人ですが、アキトが人の死やお葬式に興味を持っていることに気がついた美海はどんどん不安になり……。空気を読まないアキトは、きっと発達障がいを抱えているのでしょうが、周囲の人たちがそれを彼女の特性として捉えている描写に好感が持てましたし、最後には自分の考えをきちんと友人に伝えることができた美海の成長も感じられて、気持ちよく読み終えることができました。タイトルも含め、秋田弁が重要なモチーフになっている作品だと思いました。
花散里:秋田から転校してきた津田アキトの、お年寄りへの発言などが、多少の違和感とともに個性的に描かれていると感じました。美海はアキトと出会い、交流していくことで、ポン菓子好きじゃないのに言えなかったことなど、それまで人によく思われたいと思っていた自分に気がついていくという表現などはうまいと思いました。祖母を「ばあば」という呼び方には最後まで、なじめませんでした。タイトルからも、秋田の「なまはげ」について物語が展開している作品だと思いましたが、読後感はあまりよくありませんでした。
雪割草:さっとしか読めなかったのもあり、いまいち入りこめませんでした。以前も読書会で安東みきえさんをとりあげたことがあり、力のある方だと思いますが、今回はテーマがつかみきれませんでした。それにアキトちゃんはなかなか変わっていて、その言動の理由は後半でわかりますが、それでもやっぱりびっくりする言動なので、モデルがいたのだろうかと考えてしまいました。まわりの子たちは、あたたかくていいなと思いました。それから、「なまはげ」について、子どもがかばってくれるおとながいるのを知る機会になると説明されていて、知らなかったのでなるほどと思いました。
カケス:わたしはとてもおもしろく読みました。上手な作家ですね。アキトのキャラクターも、おもしろい。思うままにふるまうのは素晴らしいと思う反面、戦争体験を話すおじいさんを、自分の体験ではないだろうと詰問したり、遺族の心情を考えずに見知らぬひとの葬儀場へずかずか入ってしまったり、明らかに他者への共感を欠いている子で、なんらかの障がいがあるような感じですが、作者はそれをはっきりとは言っていない。多くの物語では、そういう子に主人公、この本の場合は語り手の美海が働きかけていくという筋書きが多いように思いますが、この本の場合はアキトに美海が影響され、変わっていくというところが独特で、良いと思いました。最後の「なまはげ」が出てくるところもいいですね。ただ、公民館に卓球をしにやってきたおばあさんたちのところ、ちょっと嫌だなと思いました。美海は、ひとりひとりのおばあさんのこと、どういう生き方をしてきた人なのか、どんな背景がある人なのかも知らないのに「ユニホームから出た細い足を広げ気味に、トコトコ行進していく」とひとくくりにして、かなり意地の悪い見方をしている。ほんの数行しか出てこない登場人物でも、愛情をこめて描いてほしいと思うのは、欲ばりすぎでしょうか?
エーデルワイス:私の住んでいる岩手のお隣は秋田ですので、秋田弁が出てきて楽しみました。2年前に99歳で亡くなった舅が岩手弁で「おもさげね、ぶちょうほうしで、まんずおへれんせ(=すみません、ご無沙汰して、まあまあ(家の中に)お入りください。)」と、言っていた声を思い出します。秋田に限らずご当地ヒーローがあって、岩手はそれが「鉄人ガンライダー」で、腕が南部鉄器でできています。県内にガンライダーのキャラクター自動販売機が結構あります。アキトは頭がよく、周りの空気は読まず思ったことをズバズバ言う、そのくせ道が覚えられずに迷子になる。一種の発達障がいと思うのですが、そのことには一言も触れずにスーッと物語が進んでいくところが新鮮でした。美海は周囲の輪を重んじ、空気を読み、敢えて自分の意見を言わない様子に、読んでいて息苦しさが伝わってきます。それがアキトと友だちになることで、解放されて行く様子がとてもいいです。書道教室であれこれ半紙に書き合うシーンが好きです。また言葉遊びがたくさん出てきておもしろいです。p33の、アキトの名前について秋田出身だから漢字は「秋人」なのかと思いきや「亜希人」で「亜」の字の下に「心」という字をつけ足すと「悪」になるとか。p152の「うらやむ」「うらむ」「うらやましい」「うらめしい」とか。アキトがコロナのせいでちゃんとおじいちゃんとお別れできなかったことを悔やんでいること。改めて最盛期のコロナ時期の大変さを思い出しました。
また文章が美しいと思いました。特にp178~p179のところ。ですが、ラストがちょっと物足りないです。美海が自分の祖母を「ばあば」と呼びますが、現在日本全国で祖父母を「じいじ、ばあば」と呼ぶのが流行っているように思います。私はまだ話せない孫に「ばあちゃん」と言って聞かせていたのですが、保育園に入りましたら、「ばあば」と言われるようになりました。個人的に残念に思っています。
ハリネズミ:じつは最初に読んだときは、この作品はあまり印象に残らなかったんです。アキトを悪い子だとも思わなかったし。でも、2度目に読んだらおもしろかったです。美海もアキトも、独特な感性をもった子です。特にアキトは、アスペルガーと言われかねない特性をもっていますが、そういうレッテルを貼ることなく、ひとりの特性を持った子どもとして描いています。そしてそういう子を周りも理解していく。アキトが思ったことを斟酌せずに言ってしまうのに対して、美海は嫌われまいとしてウソをついてしまう。そこは対象的に描かれていますが、美海はアキトの影響を受けて、自分の気持を言えるようになっていくという展開もいいですね。「なまはげ」については、子どもを脅していい子にさせようとする行事だと思っていましたが、p168に「おどすだけじゃない。この子は悪い子じゃないと、信じてくれる人がいる。なまはげから守ってくれる人がちゃんという。それに気づかせてくれる行事でもある」とあり、認識が変わりました。一箇所気になったのは、書道に使う墨は、ティッシュで拭いても落ちないのでは? というところ。今は落ちる墨液もあるようですが、書道教室では墨をすって使うのでは?
アマリリス: 魅力的なお話でした。ASDっぽい性格のアキトちゃんと、おとなしくて空気を読むタイプの主人公。ハリネズミさんがおっしゃるように、発達障がいの子の話です、と明らかにしていなくて、そういう個性の子と近づいていく、という描き方がよかったです。ふたりが近づいたり離れたりしながら、理解し合っていく様子がよく伝わってきました。秋田の要素がいろいろ絡められていますよね。「なまはげ」の伝説は知らなかったので、勉強になりました。最後、突然ファンタジーになったなぁ、と思ったら、お酒に酔っていた、という理由付けがあり、説得力があってうまいなと思いました。ただ気になるのは、女の子ふたりが必死で逃げて倉庫街に隠れるあたり。そんなに執拗に追いかけるかな、と不思議に思いました。変質者か何かに追われてるのかな、と思わせるミスリードのためかもしれませんが。なおこの場面、子どもをひとりで留守番させることすら許されないアメリカ人が読んだらどう思うんだろう、とちょっと想像しちゃいました。
ニャニャンガ:安東みきえさんの本は2冊目ですが、おもしろく読みました。ふしぎでちょっと怖い感じが好みです。はじめはアキトの行動についていけなかったのですが、アキトも困ってる子だなと思うようになりました。アキトに振り回されるうちに、空気を読みすぎる美海が自分の気持ちを出せるようになってよかったです。今回の課題本は2作とも過去を乗りこえる成長物語という印象を受けました。
すあま:アキトは最初女の子か男の子かわからなかったです。性別を感じさせないような描き方なのかとも思いました。アキトは発達障がいのようにも思えましたが、物語では特に触れられていません。美海のようにまわりに合わせようとする子が多い中で、思ったことをそのまま行動に移す、言いたいことをそのまま言う、対照的な存在として、アキトは描かれています。昔はアキトのような子がたくさんいたように思うし、友達にもこんな子がいたな、と思い出しながら読みました。自分とは性格の違う子との出会いによって変わっていく、という話はよくあるけれど、死を扱っているのはユニークなところかも。秋田の方言や風習、「なまはげ」などをモチーフに使っているのもおもしろいと思いました。
きなこみみ:この本は、刊行されてすぐに読みました。アキトは、多分相手の気持ちを読むのが苦手で、発達障がいの気配があるんですけれど、発達障がいの子を理解しましょう、とかではなくて、その特性を特性のままに、ひとりの人間として描いてあるのがいいなと思うんです。人の心を推しはかる、というのは確かに大切なことなのだけれど、今、そのスキルが細分化されてしまっていて、そこに縛られてがんじがらめになっている子が多いように思います。美海はそのタイプで、あまりに気が回りすぎて、自分の気持ちを言えないタイプ。ポン菓子が嫌いと言えないとか、困ったときには、とりあえず笑っておくとか、私もおとなの顔色とか、とても窺うタイプだったので、胸が詰まりました。その彼女が、アキトに惹かれていくのが、よくわかるなあと。なんでもダメ出しするヤエちゃんという子が出てきますが、SNSなどを見ていると一億総ジャッジという感じで、他人に対するダメ出しばかりで心がささくれて、疲れてしまいます。安東さんは、気持ちのすれ違いやボタンの掛け違いを絶妙に描きながら、登場する子どもたちをジャッジしないで書いていて、そこがまたいいなと思います。ヤエちゃんも、美海にポン菓子は嫌い、と言われても「先に教えてよ」ってさらっと受け流していて、やっぱりジャッジされていないんです。そこが気持ちいいなと。あと、アキトの一見ヘンな、危ないと思われる行動が、彼女なりの痛みから生まれている、というのが切なかったです。二人で梅酒を飲んでしまったあとの、半分異世界に入ってしまうような最後の部分は、安東さんの真骨頂だと思います。安東さんは、こういうあの世との境目を描くのがとてもお上手で、好きなところです。これが本当にあったことなのか、酔いが見せたことなのか、それもはっきりしないんですが、二人で、この世界に行って、帰ってきたということが大事なんだなと。アキトは、自分の特性のせいで、きっと人とぶつかることが多かったり、うまくいかなかったりすることも多くて、そのなかで、自分を可愛がってくれるおじいちゃんがいることが、とっても救いになっていたと思うんです。でも、急におじいちゃんが死んでしまって、コロナのあの時期に、別れの挨拶もできないまま別れてしまった。でも、あのあわいの時間に、おじいちゃんに会えたと思えた。それはやっぱり鎮魂の時間で、そう思わせてくれる最後のシーンが忘れられない美しさでした。
(2025年05月の「子どもの本で言いたい放題」より)