:感覚的にダメだった。気持ち悪くて。なんだか嘘っぽくて、男のいやらしさがそこここに出ている感じ。ギュンター・グラスの『ブリキの太鼓』を思い出しちゃった。大人になってから子ども時代を回顧して書くという系統のものだから、根本的に違うでしょう、子ども向けのものとは。大人向けのものと子ども向けのものの違いを再確認しました。4つの物語が収められた短編集(「きみ去りしのち」「Too Young 」「センチメンタル・ジャーニー」「煙が目にしみる」)だけど、とくに「Too Young 」は現実的じゃなくて、いかにも男の人が書いたものという感じ。

ウンポコ:「Too Young 」は、たしかにリアリティがないね。看護婦さんの弟がちょろっと出てくるんだけど、それがどこにもつながっていかないから、なんのために登場したのかよくわからない。「きみ去りしのち」も、子どもが描けていない。主人公の男の子は小学校高学年っていう設定だけど、それにしては幼稚すぎるよ。女の子もだけど・・・。この作家、子どもいない人だなと思ったね。今現在を生きている、ナマの子どもを知らないんじゃない? 志水辰夫は、サスペンスもののうまい作家だから、「読ませるなー」と思うところは多々あるんだけどねえ。

愁童:そうだね、うまいと思うけど・・・でも、設定がうまくないんだよ。「きみ去りしのち」は、子どもが語る形式にしたところに無理があると思う。「煙が目にしみる」も、大学生が主人公なんだけど、大学生ってこんなに幼稚なものかなあと疑問を感じた。だって大学生にもなって、こんなに鈍感なわけないんじゃない? それにしても、心のひだをひっくり返してルーペでのぞくような小説は、どうも好みじゃないんだな。

ひるね:なんだかレトロ調よね。文章そのものが、男の子の口調ではないですね。女性の描き方も、外見が美しいとか醜いとか表面的なことばかりで、それもお母さんや看護婦さんなど美しい人は心も美しく描かれているのに対して、主人公に意地悪をする役の紀美子なんて、外見も気の毒なくらい醜く描かれているでしょ。おとぎ話といっしょよね、キレイな人は心もキレイって。「きみ去りしのち」でも、叔母さんがお父さんを奪っていったというのなら、なにか具体的なエピソードが必要でしょう。ただ「この人は、いつも人のものをほしがるんだから」っていうだけでは、納得がいかない。最後の1行にリアリティがないのは、そのせいだと思う。きちんと説明しないで、あいまいに表現することで、終わらせようとしているのよね。説明がなくてもわかる読者にはいいけれど、わからない人には、物語が成立しない。それでもいいっていうスタンス。

ウンポコ:要するに、「女の人は不可解で美しいものだ」ということを書きたがる男の作家ということかな。

ウーテ:私も、物語が上手だってことは認めるわ。上手か下手かといったら上手。でも気にくわないの。この作者「なにさま系」の人なのよ。自分だけが一段高いところにいて、人を判断するタイプの人。「きみ去りしのち」の華やかで美しい3姉妹のからみなんて、よく描けていると思うけど、いかにも「男が描く女」という感じ。だいたい、細部が時代錯誤じゃない? ひとりよがりで不気味だし、へんなセンチメンタリズムがあって、虫が好かない小説でした。

ウォンバット:私も、好きになれませんでした。登場人物がみんな、美しい人を陰からそっとのぞくだけで、何か行動を起こすわけでもなく、美人の傍観者である自分に酔っている。ただ見ているだけでわかったような気になっている自己満足小説。スタンダードナンバーからタイトルをとっているようだけど、内容とタイトルのつながりがわからないし、歌との関係もちっともわからなかった。

ウーテ:これでは、有名な歌の題名をタイトルにもってくる意味ないわよねえ。

(2000年01月の「子どもの本で言いたい放題」の記録)