ミラボー:私はね、中学が陸上部だったんですよ。タイムを競うところなんか、いろいろ思い出したりして、楽しく読めました。ただ私は、マンガ風の挿絵がだめだったな。今の中学生には、今風で抵抗なく受け入れられるような挿絵なんでしょうけど。内容的には、冒頭でお姉ちゃんにあいつに負けないように走れと言われて陸上部に入り、しっかり全国大会に行くという、安易といえば安易な流れ。子ども向けならいいと思うのか、子ども向けでも安易すぎるのか、どちらでしょうか?

ハリネズミ:さっと読めて、それなりに楽しいと思ったんですけど、『リバウンド』と比較すると、リアリティがいかにも希薄。まず、なぜ美沙が弟に書道、野球、サッカー、水泳、と次々やらせるのかがわからない。もう一人の姉の百合に「なにかに打ちこんでほしかったんじゃないかな」なんて言わせてるけど、「打ち込んでほしい」なら、なぜかんたんに前の習い事をやめさせて、次のものに向かわせるの? 安易なストーリーづくりとしか思えません。走ることに対する子どもたちのさまざまな思いは書けていると思うけど、登場人物がステレオタイプ。それに最後は和希が「走ることに意味なんて求めちゃいけないんだ」という結論に達するけど、小学校6年生でこんなこと言うのかな? 『リバウンド』には、最初はバスケット、それもレギュラーチームに入れるかどうかだけを心配していたショーンが、デーヴィッドのことを思って、客観的に自分を見つめたり、社会的に視野を広げたりしていくところが描かれています(p299〜)。ところが、この作品は方向が逆ですね。

メリーさん:適度に起伏があって、すぐに読めた1冊でした。これまでのスポーツ小説は、ただ単純に好きで好きでしょうがなくて(あるいはたとえつらくても、それが自分のアイデンティティだから)そのスポーツをやっている主人公、というものが多かった気がします。反対にこの物語では、主人公がずっと走る意味について考えていて、最後の最後で、悩まなくていいんだという結論に達している。今の子どもはこういうふうに考えているのかなと思いました。

マタタビ:今の子向けに書かれているなと思いました。お姉さんがどうして陸上をすすめるのか、最後にわかるのではと思いながら読んでいったのですが、あれ?という感じで、終わってしまって、謎ときの楽しみは少なかったんですけど。まあ、今の子どもは、ページが少なかったり、ストーリー展開がはっきりして前に進むものを好むので、こういう作品だったら読めるのかなと思いました。大人の私はどうしてもストーリーの複雑さや味を求めてしまうので……。でも、子どもはどうなんでしょう。自分も走ってみたくなるのかな。出てくるおじいさんが全国で100メートル2番目というのも、都合がいいなあと思いました。このおじいさんも、もっと物語にからんでもよかったし、ほかの人物同士のからみあいがもう少しあってもよかったんではないかと思いました。私にとっては珍しい挿絵でした。今、ティーンズの文庫なども、こういう絵で読ませていくものが多いので、取り入れているのでしょうか。好き嫌いで言うと、ここまで漫画化しなくてもいいんじゃないかと感じました。それに文字までは入れなくていいのでは。

うさこ:大きなドラマはないけれど、走ることが気持ちいいというのはそれなりに伝わってきました。冒頭での陸上部に入った動機の軽さや、挿絵の印象が軽いせいで、なかなか話のなかに入っていけなかったです。ストーリーは単純だけれど、スポーツって案外そんなもんだよな、とか、男の子って単純でそんなもんだよなと思いながら読みましたが、読後、心に残るものは少なかったですね。この主人公は、人との関係とか、走ることへの意味とか、どれもあっさり自己完結してしまっています。陸上は個人競技だからかもしれないけど、人との関係に深まりがないなとも思いました。

ピョン吉:おもしろがりながら、読んでいました。スポーツ物をおもしろく読ませるのには、どうしたらいいのかなあ、などと思案しながら。この作品では、主人公の入ったスポーツクラブとクラスのリレーの顛末が、もう少しうまくリンクしていくと、なるほど〜、という感じになるのかなあ? 最後の主人公が出した「走ることの意味」にも、わかりやすさが加わるのでは? それにしても、百合姉ちゃんが唐突に出てくるわ、美沙姉ちゃんもけっこう弟に強引だわ、マンガチックなところが多く、それでこういう挿絵になるのね、と納得しました。あと、細かいところですが、名前の「ゆうき」と「かずき」が似ていて、読んでいて少し混乱しました。

ハリネズミ:マンガのノベライゼーションみたいなものだったら、マンガそのものを読んだ方がいいんじゃないの?

ピョン吉:これだったら、中学年でも1日あれば読めると思う。

ハリネズミ:読むのが苦手な子だったらマンガの方がおもしろいと思うだろうし、読める子だったら物足りないと思うの。この作品は中途半端じゃないのかな。

ジーナ:私も中途半端な感じがしました。小学校中学年と中学生のあいだの読み物として、こういうテーマでこのくらいの読みでのものは必要かなと思う一方で、積極的に手渡したいかというと考えてしまい、自分として結論が出ませんでした。人に言われてはじめた陸上が、最後は自分からやろうというものに変わっていくのを書きたかったのかな。でも、自分の子の小学校でのスポーツ体験からすると、今の子は塾もあるし、ゲームもしたいしテレビも見たいし、ここまで深く考えて1つのスポーツに毎日打ちこんでいる子はほとんどいないんですよね。切磋琢磨することより、仲間との温度差というような問題の方が先に立ちはだかる。だから、この物語は、現実とは離れていると思います。全員リレーのシーンはおもしろかったです。個人プレーで勝ってしまったことに後味の悪い思いをするところ。こういうところが、もう少しあとまで生かせたらよかったのに。若い作家だけれど会話はうまいなと思いました。

みっけ:さくさくとは読めましたけれど、おもしろかったかといわれると、ううむ。なんというか、設定に説得力がない気がして。都合がいいところで、不思議なおじいさんが出てきたりするのもなあ……と。この子も、悪い子ではないのだろうけれど、ふにゃふにゃした感じであまり魅力的に感じられない。クラス全員リレーの話も、クラス内のやりとりがほとんどないんですよね。これは今の学校のクラスを反映しているのかもしれないけれど、そういうほかの子との葛藤などもなく、ただ、自分ともう1人のクラブ員の女の子の2人だけの力で勝っちゃう。でもこれは、あくまでもクラスのありようの問題であって、それがこの子にとって、走ることの意味への懐疑につながるというのが解せない。なんかとってつけたようで……。だから、これが走るということなのかもしれないと言われてもなあ……という感じでした。

ウグイス:最初、本を見て、おもしろそうだな、と思いました。5,6年生のとくに男の子に薦められる本って本当に少ないので、あ、手に取りやすそうだな、と。主人公は、「ようやく水泳から解放された」と書いてあるので、水泳も好きでやっていたわけではなかった。それなのにまたお姉ちゃんに言われて陸上を始めたわけですね。しかも最初に、自分としてはよくわけがわからないまま坂本くんと走ることになり、というように、この子はなんでも他力本願なんですよね。こういうタイプの子って、結構いそう。でも、そこで坂本くんにタイムで大差をつけられて、悔しい気持ちになる、というのはよくわかるし、一人称で書いてあるので、主人公の気持ちになって、とんとんと読める。あんまり、本を読まないようなスポーツ好きの男の子に薦められると思います。でも、薦めても、おもしろくないと言われてしまうかもしれないな、とも思ったり。そういう子に薦めて「おもしろかった、もっと読みたい」と言わせるまでの力があるのかどうか、となると自信がありません。登場人物がステレオタイプだとかは、このくらいの文章量の中ではある程度は仕方がないけれど、この子の気持ちが今ひとつしっかり書かれていないというのが弱い点かな。真面目に書いていると思うし、読みやすくは書けているので、応援したい気持ちはあるんですけどね。ところで25ページの左上の字はなんでしょう?

一同:うーん、「ド」でしょうか。「ドヒュ!」。

ウグイス:文章で気になるところがいくつかありました。47ページ最後から5行の文章中「〜つつ」という表現が3回出てくるのが気になったわ。155ページ8行目「話がまとまると、さっそく和希たちはおじいさんの家に向かった」では、「和希たち」というともう1人子どもがいるのかと思ってしまった。「和希とおじいさん」とは思えなかった。

紙魚:男の子が読みたくなりそうな世界というのは、やっぱり、マンガによって表現されているので、そっちを読んじゃうのでは。

たんぽぽ:野球が好きで野球の本が読みたい子どもがたくさんいます。「バッテリー」(あさのあつこ著 教育画劇)を読みたがるのですが、小学生だと難しくて読めないんです。

ジーナ:やっぱりスポーツを表現するのに、マンガってすごく向いているんでしょうね。言葉ではなく、体の表現で伝わる部分がそのまま描けるから。

ウグイス:今回はスポーツものということで3冊選びました。『DIVE!!』(森絵都著 講談社)『一瞬の風になれ』『バッテリー』を取り上げたいところでしたが、図書館で予約待ちで借りられそうもないということでやめたんです。

(「子どもの本で言いたい放題」2008年4月の記録)