げた:よくわからないというのが、正直な感想です。言葉の裏のしかけや謎がいまいちわからないんですよね。私の頭が固いのかもしれないけど。旅に出て、不思議な体験をして、無事戻ってこれてよかったね、それだけ。全体がうまくつながらないんですよね。スタルクが書いて菱木さんが訳してるので、きっといい作品に違いないと思って読んだんだけど。よくわからないまま終わってしまいました。小さい子どもが素直に読んだほうがこの本のよさがわかるのかもしれないですね。

ハリネズミ:私もスタルクと菱木さんのコンビだからおもしろいに違いないと思って読んだんですが、よくわかりませんでした。寓話なんでしょうけど、骨格をつくっているものが伝わってこないので、もどかしい。家族っていう視点で見ると、お父さんを捜して旅をするんだけど、最後は「青い鳥」みたいに戻ってきたらそこに家族がいたっていう話ですよね。血のつながらないウルバーンと新たな家族をつくるんですもんね。欧米の児童文学には、血のつながらない人たちが新たな家族をつくる話がたくさんあって、これもその系統なのかもしれません。それにしても、サーカスの犬や女の人は、その後どうなっちゃったんでしょうね? 子どもの本ではないのかもしれませんね。

バリケン:私もスタルクと菱木さんのコンビなので、とても期待して読みました。兄弟で父親探しの旅に出て、おしまいに幻の家族ではない、血のつながっていない家族を作るという話なのかも……とも思いましたが、こういう作品は何を書いてあるかなんて考えながら読むべきではないのかも。作品の雰囲気や、いなくなったお父さんが飛行士のかっこうをしているというところから、『星の王子さま』へのオマージュなのでは?という気もしました。それでも、なにか手がかりがほしくて、「訳者あとがき」を読もうと思ったのですが、ないんですね! 訳者の菱木さんも、先入観なしで作品の世界にひたってほしいと思っているのでしょう。原書のタイトルは『トゥルビンとメルクリン』なのに、翻訳では「不思議な」がついているところを見ると、訳者にとっても不思議な作品だったのかも。でも、いやなものを読んだ感じはしないし、「ダチョウを飼っている、時計屋のおじいさん」のようなイメージは、のんきで好きです。明るさのなかに、ちょっと寂しさがある、美しい音楽を聞いたような……。

セシ:登場人物二人の世界がわかりませんでした。どう解釈すべきか、そのうちわかるようになってくるかと思って読み進めるのだけれど、最後まで読んでもやっぱりダメで。イエス様の人形をポケットに入れて旅に出て、157ページで飼い葉桶に寝かせるから、ある種のクリスマスストーリーなのかな。二人の会話がかみあわなさかげんがおもしろいのかもしれないけれど、フィクションの楽しみ方を知っている子どもでないと楽しめないのではないかなと思いました。見た目は3、4年生から読めそうだけれど、きびしそうですね。やっぱりYAでしょうか。だれに手渡したらいいのか、わかりにくい本だと思います。

ぷう:よくわからない本ではありましたが、味としてはかなり好きでした。相当好きかもしれない。年が離れたこの兄弟が、ふつうの仲良しでなく、お兄さんがかなり威張っているのに、弟がそれに不満を持つわけでもなく、なんとなく関節の外れたようなかくかくっとした関係で、それでいて結局はずっと一緒に過ごしていくという、この二人の関係の不思議さが妙に後に残りました。片方がもう片方を完全に支配しているわけでもなく、お兄さんが「本を読んであげよう」というと弟が「読まなくていいよ。考え事をしたいから」とすっと返すあたりは自由だし。かと思うと、二人でごっこ遊びのようにして砂を食べたつもりになってみたり。不思議で訳がわからなくて、でもなんだかおかしい。かえって低年齢の子のほうがいいのかな?と思ってみたり。わりと淡々とした感じなのだけれど、へんてこな二人のへんてこな関係を、変なやつ!とならずに書いてあるのが、この作者の力なのかな。最後に待っている人がいるっていうところも、なんとなく安心できますしね。

カワセミ:スタルクは、子どもの心理を絶妙に描いて、読者が一つ一つ納得できる描写をする人なので、この作品は意外でした。作者名を見ないで読んだらスタルクとは思わなかったかも。今まで書いたことのない雰囲気のものにチャレンジして、読者をあえて裏切ろうとしたのかしら。私もすぐに『星の王子さま』に雰囲気が似ているな、と思いました。34ページのミミズの出てくる場面、2人の問いと答えがちっともかみ合わないので、何を言いたいのかさっぱりわからない。わからないまま先に進んでしまう。おしゃれな雰囲気というのでもなく、ナンセンスというのでもなく、わけがわからないお話でした。

ぷう:このお兄さんって、ほんとうに変ですよね。だって、出かけるときだって荷物はほとんどお兄さんのもので、ひょっとすると弟のことなんかほんとうは考えていないのかも、と思わせるけれど、でも、いやなやつ!と言い切れないところがこの作品の特徴みたいな気がしました。

プルメリア:登場人物が少ない。二人のやりとりや行動はかみあわないけど、たくさんある挿絵にささえられています。兄をお父さんかなと思って読んでいましたが、ちがっていました。時計屋さんのガチョウの行動がおもしろい。砂漠の場面は「星の王子さま」風に見えました。「あとがき」がないのが残念。

カワセミ:スタルクの邦訳書は、はたこうしろうの挿絵が付いているのが多いけど、ちょっと絵の感じが似てますね。

(「子どもの本で言いたい放題」2009年12月の記録)