モフモフ:作品の密度が濃くて読み飛ばせなかったので、読み終わるまでに時間がかかりました。知らなかったのですが、ロケット開発の最初の時期はアメリカよりもロシアのほうが先行していたのですね。作品中で描かれているように、アメリカの学校ではカリキュラムを変更したりして、ロシアに後れをとったことがそんなにショックだったのかと感慨深かったです。上巻と下巻では主人公の立ち位置がおちこぼれから、みんなに認められる町のヒーローに変わっていって、立身出世の物語のような感じもあり、ぎくしゃくしていた父親と主人公の関係も、どうなるんだろうと思いながら読み進めました。お父さんは、たたき上げの炭鉱の監督で、炭鉱で起きるすべてのことに責任を感じるような人。肺の病気もあるし、落盤事故の怪我もあるし、満身創痍ですよね。当時の炭鉱町の様子、そこで生きる人間は、こんなふうに考えていたのかと新鮮でもありました。

げた:たまたま、なんですけどね、今回のとりあげた本の年代は大体50年きざみになっています。この本の時代は今から50年前です。アメリカとソ連が鎬を削りあっている頃で、アメリカがソ連には負けないぞという頼もしさが伝わってきました。ここのところ、この会でとりあげられている本が、厳しい状況におかれた子どもたちを扱ったものが続いたので、楽しく生き生きとした子どもを扱ったこちらの本を選書係として選ばせてもらいました。最初はプラスチックの模型飛行機に癇癪玉を詰めただけのロケットから、最後の微分積分などで計算して作られたロケットにまで到達したというのがすごいな。しかもこれは実話なんですよね。考えてみると、2、3年の間にこんなことができたのがすごいですね。この年代の普通の男の子らしく、女の子に対する興味もおもしろく描かれていましたね。ドロシーに寄せる恋心も興味深かったな。とにかくおもしろかったです。上下巻2冊で分量はそこそこあるけど高校生くらいなら読めるし読んでほしいな。

サンザシ:すごくおもしろかった。映画も本も知らなかったんですが。下巻は2か月で7刷りまでいっているので、売れているのかなと思います。どこまで自伝なのかわかりませんがノンフィクションだから書けるところや重みもあるんでしょうね。この人は技術者だからお鍋やストーブをだめにしちゃうのもリアルに書かれているし、そういうのを許すお母さんはすごい人だなと思いました。仲が悪そうなのに良いところもあるし、お金も貯めていてすごい、なかなかこうはいかないだろうなと思いました。大人らしい大人がいっぱい出てくる作品だと思いました、今は大人らしい大人は少ない。ロケットのノーズコーンはこうだ、お酒はこうだ、とアドバイスをくれたり、大人が反対してくれたり、子どもにとっても良い時代だったと思ったりもしました。アメリカだけじゃなくてアフリカにも、学校に行けなくなったけど自分でゴミ捨て場から拾ってきた材料で風車をつくった少年がいて、『風をつかまえた少年』(ウィリアム・カムクワンバ&ブライアン・ミーラー著 田口俊樹訳 文藝春秋)という本を書いています。子どもはそういう力を持ってるんでしょうけど、常識的な親が芽を摘んじゃうこともあるでしょうし、環境も良かったんだろうなと思います。最後のお父さんの残したのも良かった。

プルメリア:上・下の2巻構成 活字もたくさんですが、作品に入り込み、一気に読みました。実話だったからこそ内容がわかりやすくとてもおもしろかったです。主人公の父親の責任感ある行動力がすばらしく、偉大さがあり、立派だなと思いました。周りの人々が少年たちの実験をなんとなく見守ってくれるのもこの時代だからこそだなと感じました。今の子ども達はやりたいことがあってもなかなか実行できず終わってしまうケースが多いですが、この少年たちからは周りの人々に支えられながら頑張っていく意欲や熱意が伝わってきます。一つ一つの積み重ねの実験が大きな成功に結びついていくんだなと思いました。スペースシャトルに関する土井さん(素敵なマスク!)の話はわかりやすく、全体のストーリー構成のつながりも良く、スケールの大きな話でした。

ルパン:めちゃくちゃおもしろかったです。この会に参加させていただくようになってから、読んだことない本をたくさん読む機会ができてうれしいです。この作品を読んで、ボブ・グリーンの『十七歳』(文藝春秋)を思い出しました。実話ゆえのドキドキ感がちょっと似ています。主人公はこんな素敵な男の子なのに、好きな女の子を最後まで振り向かせられないところも。この作品もお母さんがいいと思いました。昔のBFが現れ、かつての恋敵が立派になって帰ってきたのを見たお父さんが「選び方をまちがえたな」と言ったとき、「ちゃんと正しい方を選んだわ」というシーンは素敵でした。ちょうど、最近になって理系のおもしろさに目覚めたところでもありました。理系の人はたぶん、文系の人よりもロマンティストですよね。『ロケットボーイズ』のような息子がいたら、きっと息子が恋人になっちゃうと思います。

トム:ソ連とアメリカの国の競争が炭鉱の町に住む少年にまで響いていることにびっくり! 同じころ日本も石炭がエネルギー源で、炭鉱の落盤事故ニュースにくぎづけになったことを思い出しました。あ〜アメリカもそうだったんだなぁと思いました。お父さんの危険と背中合わせの強い生き方、不安を見せないお母さんの逞しさも強い! ロケットボーイズのまわりで、彼らを押さえようとする人がいるなかで、やがて皆応援していくのはアメリカなんだろうなと思いました。おもしろかったです。物語を読んでいくと、エネルギーの変化やアメリカのロケット開発にドイツ人のブラウン博士がかかわっていること、それから炭鉱でひっそり働くバイコフスキーさんはユダヤ人らしいことなど時代の波を感じました。本は何度でも手にとれるので、いつか読み返した時、またいろいろ考える手がかりが埋まっている良い本だと思いました。この少年がもし物理の先生にだったら私は赤点取らなかったかも。

御茶:すみません上巻しか借りられていないのですが、17ページのペンテコステ派、メソジスト派、バプティスト派など、宗教がころころ変わっていくのはすごいことだなと思いました。戦争の時に石炭を必要とするのはどこも一緒なのだなと思いました。日本も女性を炭坑にかりだして女炭夫さんという方々もいたなと思い出しました。上巻まではロケットを飛ばすための助け合いや、友情は少なく、『少年少女飛行倶楽部』の方が描かれているなぁと思いました。男の子の視点で書かれているのですっきりしているなと思いました。

メリーさん:上下とボリュームのある物語ですが、とてもおもしろかったです。炭鉱の街の描写を背景に、主人公たちのロケットにかける青春を描く重層的な物語。文章は映像的で、特に下巻、主人公がチームを引っ張っていくようになってからぐいぐい引き込まれました。個人的に興味を持って読んだのが、父親との関係。父子というのは、ある意味で永遠の課題です。息子は父親のことが目の前に立ちはだかっている壁のように見えるのだけれど、父親も息子との距離をはかりかねている。父は、次男である主人公にかなりつらくあたるのだけれど、自分が命をかけている炭鉱を見せたり、主人公が行き詰っているときにはぽんと材料をくれたりと、気にかけている様子がところどころにはさまれる。一面的ではなく、善悪両面があるという描写にリアリティを感じました。息子は、最終的に父親を乗り越えるわけではなく違った道を見つけ出して選ぶ、そして父親を理解していくというのがとてもいいなと思いました。

すあま:映画を先に見ていて、あらめて読みました。スプートニクショックというのがアメリカにとってどうだったかというのを授業でも習っていたのですが、本当に大きな衝撃だったのだなと分かりました。科学コンテストの話は『ニンジャx ピラニア x ガリレオ』(グレッグ・ライティック・スミス著 小田島則子&恒志訳 ポプラ社)を思い出しました。科学をやらねばということで学校でも教育が見直されて国をあげてやっていったことが分かります。どんどん不景気になっていく炭鉱の町では、ロケットが未来に向けた希望だったのでは。馬鹿にしていたのに意外と上手くいって希望の光になっていったんだなと感じました。いろんな人がで登場しますが、親子、夫婦、兄弟、友達の関係もていねいに書かれていました。この作品は子ども時代の話ですが図書館では伝記の棚に入っていました。だけど、フィクションや小説、文学作品と言って良いのではないかな。『ロケットボーイズ2』というのも出ていますよ。

モフモフ:NASAの技術者の自伝的な作品ですが、ゴーストライターがいるのかと思うほど、細かな描写や構成がうまいです。下巻では自分のことを人気者でヒーローという感じで書いていますが、日本なら謙遜が入りそうなところだと思いました。

げた:この作品を教えてくれた人がいるんですけど、『ロケットボーイズ2』はあんまりおもしろくないって話だったので、まだ読んでません。

(「子どもの本で言いたい放題」2011年11月の記録)