『現代語で読む たけくらべ』をおすすめします。

「廻れば大門の見返り柳いと長けれど、お齒ぐろ溝に燈火うつる三階の騒ぎも手に取る如く、明けくれなしの車の行來にはかり知られぬ全盛をうらなひて・・・・・・」

思い返してみれば、私も原文で『たけくらべ』を読んだことがある。注釈付きの本だった。大門というのは吉原の門のことだとか、お歯黒どぶというのは、遊女が逃げないように遊郭のまわりにつくられたどぶだ、というような注が下の方に入っていた。原文をそのまま読んだだけでは意味がよくわからないので、目を原文から注へ、注から原文へと行ったり来たりさせながら読んだ。でも、そういう読み方ではなんとか意味を理解するのが精一杯で、文学作品として楽しむというところまではいかなかったのをおぼえている。

私は古典の現代語訳はもともとあまり好きではないのだが、今回本書を読んで、これもありだな、と思った。その昔原文を読んだときよりは、よほどおもしろく読めたからだ。

「ここから表通りを回っていけば、吉原遊郭の大門にある見返り柳までは遠い。しかし、吉原を囲む真っ黒などぶ川には、芸者を揚げて騒ぐ三階の灯りが手に取るように映っている。人力車の行き来はひっきりなしで、はかりしれないほどの吉原の繁盛ぶりが想像できる」というのが、本書の現代語訳。

ただ「訳者」も後書きで述べているように、原文のリズムや響きを味わうためには、本書を読んだ後でもいいから、ぜひ原文のほうにも触れてもらいたい。動画サイトにも朗読があるのだから。

(「トーハン週報」Monthly YA  2012年12月10・17日合併号掲載)