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平和な世界を願って 子どもの本にできること

「こどもの本」2023年3月号(日本児童図書出版協会)に「平和な世界を願って 子どもの本にできること」というエッセイを書きました。

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本さえ読めば平和が来るとは思わないが、平和につながる道を少しずつ作っていくことは、本にもできるのではないだろうか。私が訳した『子どもの本で平和をつくる』(キャシー・スティンソン文 マリー・ラフランス絵 小学館)には、イエラ・レップマンという女性が登場する。彼女はドイツ生まれのユダヤ人ジャーナリストで、ヒトラーが政権を握ると命の危険を感じて、子どもたちと一緒にイギリスに避難していた。

『子どもの本で平和をつくる〜イエラ・レップマンの目ざしたこと』(さくま訳)の表紙絵

戦後故郷に戻ったレップマンは、ドイツの子どもたちの窮状を目の当たりにして二〇の国に手紙を出した。それぞれの国のすぐれた子どもの本を送ってもらえないか、と依頼したのである。周囲からは、「戦争でドイツと戦った国々が本を送ってくれるはずがない」と批判されもしたが、幸い一九の国からは、すぐに児童書が送られてきた。でも、一か国からは、「私たちは二度もドイツに侵略されているので、残念ながらご希望にそうことはできません」という手紙が届いただけだった。

レップマンはそこであきらめずに、もう一度手紙を出した。「ドイツの子どもたちに新たな出発をさせてやりたいのです。他の国々から届いた本を見ることによって、子どもたちはお互いにつながっていると感じるでしょう。戦争がまた始まらないようにするには、それが一番ではないでしょうか」と書いて。

すると、その手紙を読んでレップマンの意図を理解したその国ベルギーからも、素晴らしい児童書のセットが届いたのだ。レップマンは、届いた本を国内巡回して子どもたちに見せ、ドイツ語に訳して読んでやり、それをもとにしてミュンヘンに国際児童図書館をつくった。そして、一九五三年には様々な国が子どもの本について話し合うための国際組織IBBY(国際児童図書評議会)も設立した。

現在の国際児童図書館

私が今会長を務めているJBBYも、一九七四年にIBBYの支部として発足し、「本、子ども、平和」をキーワードにし、ボランティアベースで多様な活動を行っている。詳しくはウェブサイトをご覧いただきたい。https://jbby.org

一九九八年に国際アンデルセン賞を受賞したアメリカの児童文学作家キャサリン・パターソンは、受賞スピーチの中で、「アメリカの図書館には自国で出版された本がすでにたくさん並んでいるせいか、外国からの翻訳作品も必要だということを忘れてしまいがちです。でも、私たちはアメリカの子どもたちに、イランや韓国・北朝鮮や南アフリカやセルビアやコロンビアやチリやイラクに暮らす友だちをあたえていかなければなりません。つまりどの国の子どもたちとも仲良くなってもらわなくてはなりません。人は、自分の友だちが暮らしている国に害をあたえようとは思わなくなるからです」と語っている。

こうした人たちの言葉は、子どもの本が平和につながりうることを示唆している。

子どもの本にかかわる人の中には、子どもがおもしろがればそれでいい、と考える人もいる。楽しい、おもしろいというのは、子どもの本にとって不可欠な要素だと私も思う。立派なテーマを掲げた本でもおもしろく読めなければ、子どもの本としては失格だ。でも、「おもしろい」というのは、表面的なおもしろさだけではないだろう。読んですぐは、ゲラゲラ笑ったりするようなおもしろさを感じなくても、子どもの心の中に種として残り、その種が芽を出し花を咲かせることもある。そういう種を持ったような本をつくっていければ、と私は思う。種には、平和の種もあれば、好奇心の種もあり、生きるエネルギーを生み出したり、ちょっと一休みするすべを学んだりするための種もあるだろう。

また平和を生み出すためには、偉い人に言われればそのまま従うような人ではなく、自分の頭で考え、自分の心で感じ、しかも客観的に判断できる人を育てていくことが必要だ。そのための種をまくには、本をつくる側の私たちも、これからはどんな社会が望ましいのかを、考えておく必要があるだろう。

本が売れるというのはうれしいことだし、出版を続けるためには重要な要素でもある。でも、それだけを考えていると、どんどん子どもの本は種なしの、中身も味も薄い消耗品になってしまう。つくり手の側が利益だけではなく、子どもの中で育つ種があるかどうかの質を見分けられる「目きき」になることも、とても大事なことだと思う。

それともう一つ。「理想的なことばかり言っていても始まらない。現実は違うのだよ」と言う人がいるが、子どもの本にたずさわる者としては、あえて理想を口にすることも必要だと私は思っている。(さくまゆみこ)

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2021年9月 テーマ:音楽

日付 2021年09月14日
参加者 ネズミ、まめじか、アンヌ、雪割草、アカシア、西山、さららん、虎杖、ハル、コアラ、カピバラ、マリンゴ、ヒトデ、しじみ71個分
テーマ 音楽

読んだ本:

『いちご×ロック』表紙
『いちご×ロック 』
黒川裕子/著   講談社   2021.04

〈版元語録〉受験に失敗し、滑り止めの高校に通うことになった海野苺。そのショックで、友達も作らず、「ぼっち」な毎日を過ごしながらも、クラスのイケメン・シオンへの秘めた恋心をあたためていた。ところが、そんな想いもあっけなくバレ、あえなく撃沈。傷心の苺に追い打ちをかけるように、父親がとんでもない事件を引き起こし、警察のやっかいになることに……。お先真っ暗の苺は、江戸川河川敷で謎の集団の奇妙なパフォーマンスに遭遇する。仙人のような大男、学校1の問題児・笠間緑、そして苺を振ったシオン! 3人が繰り広げるのは……エアー・ギターだった!


『わたしが鳥になる日』表紙
『わたしが鳥になる日 』
サンディ・スターク-マギニス/作 千葉茂樹/訳   小学館   2021.03
EXTRAORDINARY BIRDS by Sandy Stark-McGinnis, 2019
〈版元語録〉主人公の少女デセンバーは、鳥が大好きで『鳥類完全ガイド』を丸暗記している。そして、自分も鳥で、背中から翼が生えてくると信じていた。ある日、動物保護センターで傷ついたノスリが自力で飛ぶ訓練をすることになる。 空を飛びたいと願う11歳の少女の悲しくも希望に満ちた感動物語。

(さらに…)

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2019年10月 テーマ:小学生はつらくて楽しいよ

 

日付 2019年10月16日
参加者 すあま、ハリネズミ、アンヌ、西山、彬夜、マリンゴ、まめじか、(オオバコ、エーデルワイス、さららん、ルパン)
テーマ 小学生はつらくて楽しいよ

読んだ本:

エレン・クレイジス『その魔球に、まだ名はない』
『その魔球に、まだ名はない 』
エレン・クレイジス/作 橋本恵/訳   あすなろ書房   2018.11
OUT OF LEFT FIELD by Ellen Klages, 2018
<版元語録>10歳にしてインテリの剛腕少女ゴードンは、独自の魔球を編み出した。無敵のピッチャーとして活躍していたが、その野球人生には大きな壁が! 抜群の調査能力で、ゴードンは明るみにされていなかった真実を知り・・・。


蒔田浩平『チギータ!』
『チギータ! 』
蒔田浩平/作 佐藤真紀子/絵   ポプラ社   2019.03

<版元語録>引っ込み思案で、卓球が好きな小学5年生の千木田寛仁。クラスで行うレクリエーションは一部の男子の強い主張でいつもサッカーやバスケになっていた。そのことがずっと心に引っかかっていた千木田は・・・。


村中李衣『あららのはたけ』
『あららのはたけ 』
村中李衣/作 石川えりこ/絵   偕成社   2019.06

<版元語録>畑の作物も虫もみんな自分のペースで生きている。横浜に住むエミと、山口に引っ越したえり。自然の不思議といじめに向き合う子どもの心を、少女たちの手紙のやりとりを通して描く。『Kaisei Web』連載を単行本化。

(さらに…)

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