日付 2025年3月18日
参加者 ハリネズミ、雪割草、きなこみみ、エーデルワイス、すあま、サークルK
テーマ 日常と地続きの不思議

読んだ本:

『夏のサンタクロース〜フィンランドのおはなし集』 岩波少年文庫

原題:ANNI SWANIN SADUT by Anni Swan
アンニ・スヴァン/作 ルドルフ・コイヴ/絵 古市真由美/訳
岩波書店
2023.10

〈版元語録〉フィンランドの「童話の女王」アンニ・スヴァンの作品集。民話的なファンタジーと、現実の風景や暮らしを融合させた童話は、およそ百年前から人びとに親しまれてきました。春をむかえにいくお話、妖精や魔物の登場するお話、ドラマチックな愛のお語など、色とりどりの13編をえりすぐり、美しい挿絵とともに紹介します。
『さんごいろの雲』
やえがしなおこ/作 出口春菜/絵
講談社
2024.02

〈版元語録〉ある日の夕ぐれ、旅のわかいバイオリンひきは空にかかるきれいな雲を見て曲をかなでました。さんごいろの小さな雲はそのお礼にと、彼のバイオリンに魔法をかけます。表題作「さんごいろの雲」のほか、「すみれの指の魔法」「リルムラルム」など、美しい情景描写であなたを不思議の世界にいざなう7編の童話集です。


夏のサンタクロース〜フィンランドのおはなし集

『夏のサンタクロース〜フィンランドのおはなし集』 岩波少年文庫

原題:ANNI SWANIN SADUT by Anni Swan
アンニ・スヴァン/作 ルドルフ・コイヴ/絵 古市真由美/訳
岩波書店
2023.10

〈版元語録〉フィンランドの「童話の女王」アンニ・スヴァンの作品集。民話的なファンタジーと、現実の風景や暮らしを融合させた童話は、およそ百年前から人びとに親しまれてきました。春をむかえにいくお話、妖精や魔物の登場するお話、ドラマチックな愛のお語など、色とりどりの13編をえりすぐり、美しい挿絵とともに紹介します。

雪割草:おもしろかったです。言葉が美しく、語りもたくみで引き込まれました。一方で、全体に自然の掟の厳しさが描かれています。たとえば、「波のひみつ」というお話では、水の王が掟を破ったからと娘を容赦なく追放します。あと、思い出したのは、河合隼雄著『物語とふしぎ』(岩波書店)で、子どもがお母さんに、なんでセミは鳴いてばかりいるのかたずねて、結局、子どもが自分で「お母さん、お母さんと言って、せみが呼んでいるんだね」(p6)とこたえて納得するエピソードです。河合氏は、「『そのときに、その人にとって納得がいく』答は、物語になるのではないだろうか」(p7)といいます。この本のお話は、そんな「物語」として私のなかに入ってきました。物語の生まれるところに立ち合えたような気持ちになり、またひとつ、私の世界が豊かになりました。この作品をいま、紹介してくださった訳者に感謝したく思います。また、あとがきに書かれているように、「生きてゆくことの真実をまっすぐに見つめるまなざし」(p265)が感じられ、主人公たちが自分で決めて幸せも不幸も引き受けていく姿が、心に残りました。原書のタイトルはアンニ・スヴァンのお話集などのようですが、日本語はだいぶちがうので、どんなふうに決めたのか知りたいと思いました。

ハリネズミ:アンニ・スヴァンという作家を日本の子どもは知らないので、子どもの目と心をもっと引き付けるタイトルにしたいと思ったんじゃないでしょうか。

エーデルワイス:昔話の形式の創作が、作者独得の世界観をもっていて、おもしろく読みました。絵も素敵です。p19の挿絵ですが、背負っている籠からから鏡がでてきますが、この籠を実際に見てみたいと思いました。p159に1889年春フィンランドを支配して帝国ロシアが、フィンランドをロシア化しようと厳しい施策をとり始めたとありました。この時代背景を知って読む「春をむかえにいった3人の子どもたち」は趣が全く違います。フィンランドにおける公用語フィンランド語とスウエーデン語の事情もわかり、今まで知らないことばかりだったと思いました。この短編集から何か選んでストーリーテリングをしてみたいと思いました。

きなこみみ:短編集なのですが、ひとつひとつの話の味が濃くて内容が深くて、歴史的なものといいますか、神話とか、その土地に根付いている物語のエッセンスだとか、いろんなものが深く織り込まれていて、物語の厚みを感じました。深読みすればどこまでも深く読めそうな気がします。焚火のそばで、古老がひとつひとつを語ってくれているような、そういう雰囲気もあって、はじめて読んだのですが素敵でした。ひとつひとつの物語の根底に流れている価値観ていうのか、子どもにこれを語り伝えたいんだという確固たる姿勢を感じました。例えばひとつめの「お話のかご」だと、3人息子がいて、それぞれに成功するんだけれど、世間的な成功よりも、お話がたくさん生まれて、それを皆で楽しむところに喝采が送られていたり、「山のペイッコと牛飼いのむすめ」では、牛飼いの娘に山のペイッコが言い寄って、宝石やドレスという物質的なものを差し出しても、自分は自由に駆けまわったり、牛の世話をしたりするほうがずっと幸せなの、という自分の価値観をつらぬいたり。世代を超えて子どもたちにこれを伝えたいんだよ、っていう作者の声が作品の中から聞こえてくるようで、共感しました。後書きで、「春をむかえにいった三人の子どもたち」の背景には、ロシアの占領下にあったフィンランドのことがあると読んだのですが、それもまた、今の時代ともとても重なりますね。子どもたちに戦争のことを直接的に伝えるのは、子どもたちには辛かったり、荷が重かったりすると思うんですけど、その時にはすぐ気が付かなくても、心の中に撒いてずっと育っていく種のようなものがこの作品からも感じられて、今の時代だからこの作品を訳したかったという古市さんの気持ちもわかるような気がしました。挿絵もおもしろくて、p156の春の女神が、私のイメージしていた「春の女神」とは違っていて。女神というと、ふわあんとした、ボッティチェリのプリマヴェーラのようなイメージだったんですけど、この挿絵の女神はとてもたくましくて、大きな翼を持っていて、子どもたちをぎゅっと腕に抱きかかえていて、この物語にふさわしいと思いました。何度も読みたい作品集でした。

サークルK:初めてこの短編集を読みましたがとても楽しかったです。登場する精霊にも良い霊と悪い霊がいましたが、悪い霊でもペイッコやヒーシといった名前がかわいらしくて、どこか憎めないところもおもしろかったです。子どもたちにも名前がなじみやすいし、「悪い子のところにはペイッコが来ちゃうぞ」なんて言われて、フィンランドの子どもは育つのでしょうね。そんなペイッコの誘惑を頑としてはねつける牛飼いの娘は頼もしかったですし(『山のペイッコと牛飼いのむすめ』)、誘惑に負けて波の秘密を話してしまうメリヘルミ(『波の秘密』)が父王から罰を受ける厳しいエンディングもあり、土台となっている昔話の豊かさを感じました。
「お話のかご』は聖書の放蕩息子のエピソードを彷彿させられましたが、何と言っても心に残ったのは『少女と死の影』です。タイトルにまともに「死」の文字が現れていることで、読み始める前からドキドキしますし、病気の母親を置いて、鏡の前でドレスに着替えながらダンスに出かける誘惑に負ける様子は『白雪姫』の鏡の前の呪文や『赤い靴』の靴を脱げなくなって踊り続けなければならなくなる女の子が思い出されました。p233の挿絵には恐ろしい死神に立ち向かう様子が描かれ、p235の挿絵ではお母さんの今にも消えそうな小さな命を「わたしが守るのだ」という強い意志を感じ、決してこの女の子がわがまま勝手なだけのむすめではないことが表現されていて、短いながらも深い展開に感じ入りました。

ハリネズミ:創作ですが、昔話を土台にしていて、子どもたちに伝えたいことが寓話的に入っていますね。自然の厳しさと、楽しさの両方が伝わってきます。冬が厳しいので、春になると浮き立つようなうれしい気持ちになったりね。『少女と師の影』はおもしろいですね。北国だからかもしれませんが、精霊やもののけには冷たい心しかなく、人間にだけあたたかい心があるという設定も興味深かったです。

すあま:アンニ・スヴァンの作品を、久しぶりに読むことができて良かったです。フィンランドの自然と昔話を元にした創作物語で、非常に楽しく読みました。楽しい話、悲しい話、怖い話、冒険ものなどを選んで編纂してあるので、子どもが読めば好きな話が見つかるのではないかな。アンデルセンの作品のように、様々な感情が描かれているので、共感しながら読めるのではないでしょうか。フィンランドの自然を描写しているため、リアリティがあって、作品の世界に入り込めました。「春をむかえにいった三人の子どもたち」のように、フィンランドの当時の情勢が背景にあるような話もあり、大人も子供も楽しめるし、短編集なので読みやすく、薦めやすいと思います。私はこの中では「お話のかご」と「夏のサンタクロース」が好きです。

(2025年03月の「子どもの本で言いたい放題」より)


さんごいろの雲

『さんごいろの雲』
やえがしなおこ/作 出口春菜/絵
講談社
2024.02

〈版元語録〉ある日の夕ぐれ、旅のわかいバイオリンひきは空にかかるきれいな雲を見て曲をかなでました。さんごいろの小さな雲はそのお礼にと、彼のバイオリンに魔法をかけます。表題作「さんごいろの雲」のほか、「すみれの指の魔法」「リルムラルム」など、美しい情景描写であなたを不思議の世界にいざなう7編の童話集です。

サークルK:表紙からして雰囲気があり、子どもだけでなく大人も手に取りやすい装丁だと感じました。リースになっている葉陰に物語に登場するのであろう動物たちや草花、昆虫、果物にセーターまで(!)などが描かれていて素敵です。
『リルムラルム』は詩の部分(p28)もあり、読み聞かせなどで読み手が節を付けて語ってくれたら、楽しいだろうなと思いました。中でも、心に残ったお話は『すみれの指の魔法』でした。安房直子さんの童話の世界観に似ていますが、それはとてもきれいな日本語が使われていることとも関係があるような気がします。会話の一言一言にていねいな心のこもった表現があり、心地よかったです。例えばp7「もしもしあなたさま」「こんな日ぐれにどこへむかっておられるのですか?」やp8「それはありがたい。今夜は、とまるあてもなかったんです。遠くへ行こうと、とつぜん家を出たもんですから」などのように、誰に対しても滑らかで肌触りの良いタオルを触っているような会話が特に良かったです。ドラマチックな展開がないわけではないのに、言葉にずかずかと入り込まれたり、心の中の波をかき立てられないとはこんなに気持ち良いものなのだなと感じました。

きなこみみ:とても美しい本で、この世界に遊びにいくような感じだなと思いながら読みました。挿絵と本文がとてもうまく組み合わされていて、たとえばp32の「リルム ラルム/あまい 野いちご/ひみつの いちご」という歌声のところに、野いちごの絵が描かれていたり、この世界にそっと遊びにいく雰囲気が作られているというか。日常から少し離れて浮かんだところにある、とっても美しい世界にいって、その景色をながめさせてもらう感じで、自分が小学校高学年ぐらいにこの本を読んだら、さぞかし楽しかっただろうなあと思いました。多分、いろんな物語の世界観、たとえば「セーターと雪ぐつ」だとグリム童話だろうなとか、「金の馬車とひばり」だと、ギリシャ神話だとかが下敷きになっていると思います。いろんな物語の世界観をちょっとずつ重ねて、自分の世界観を、ひとつひとつの言葉に気を付けて、紡ぎあげるような。詩に近い、はかなげな、おぼろげな世界が素敵だなあと。「リルムラルム」とか、独特の効果音や、小鳥がとても印象的に使われていて、小鳥が物語を呼んだり、「王さまと虹」だと、コマドリに惹かれていろんなところに迷い込む、と言うのは、たくさんそういう物語があって、コマドリが出てきた時点で、ああ、コマドリに王様は惹かれていくんだろうなとわかる、という仕掛けがあちこちにあって、物語を読み慣れた大人は、その仕掛けに誘われて次々物語の扉が開いていくし、子どもたちはうっとりとこの世界に浸って楽しむことができるんじゃないかなと思います。やえがしさんの世界観が出来ていて、ちょっとでも言葉選びとかまちがえると崩れてしまう世界なので、とても気を付けて作り上げられていて素敵でした。

エーデルワイス:作者のやえがしなおこさんは、岩手県出身、在住です。ずいぶん前に講演会でお話を伺ったことがあります。物静かな方で、書くことに真摯に向き合っている印象を受けました。日本語が本当に美しいです。グリムの昔話や、安房直子さんの作品を自分の独得世界に引き寄せている感じがします。「かつらの木と星の夜」は宮沢賢治の「土神ときつね」を思わせます。「金の馬車とひばり」は、カムイユカラ(神謡)のアイヌの伝承からきているような気がします。金の馬車ですから、ギリシャ神話かもしれませんが。子どもたちにこの世界を味わってほしいと思います。希望者がいたらですが、文庫で子どもたちに対面で朗読してあげたいです。

雪割草:美しい文章にうっとりしながら読みました。もう1冊の今回の課題図書のフィンランドのお話とはちがって、どこにもない場所、ふと日常からおとずれることのできるような非日常の世界に感じました。絵がお話ととっても合っていて、表紙のリースの奥には漆黒の魔法の世界が広がっていて、各章のとびらにも窓のようにその世界が描かれ、お話とともに読者を誘っているように感じました。今回の2冊を読んで、どのお話も語られるのを耳で聞いて楽しめるものでもあるのだろうと思いました。

ハリネズミ:岩手の作家ということですが、フィンランドの自然から生まれたアンニ・スヴァンの作品と比べると、少しマイルドですね。同じ岩手でも宮沢賢治にはもう少し厳しいものを感じるのですが。こういうお話は、下手をするとセンチメンタルになりかねないのですが、そうなっていないところに作家の力量を感じました。

すあま:安房直子さんの物語の世界を思い出させるような作品だと思いました。私は子ども時代のある時期、こんな雰囲気の本、ちょっと不思議な世界が描かれた物語が好きだったことを思い出しました。アンニ・スヴァンの本の後に読んだので、実際にある自然というよりも作者が作った風景、世界という印象が強かったです。作者の描く世界に入り込めるかどうかで好みが分かれるのかも。登場人物に大人が多いこともあって、大人の方が楽しんで読む本かもしれない、とも思いました。

ハリネズミ:スヴァンの作品は、もっとダイナミックな感じがしますが、やえがしさんはもう少し静かで、その世界に浸っているときの居心地のよさがあります。エーデルワイスさんは、やえがしさんの作品を他にも読んでいらっしゃいますか?

エーデルワイス:ほかの作品も読んでいます。やえがしなおこさんは、作品数は少ないのですが、佳作ばかりと思います。作品ごとに一生懸命言葉を選び、ひっそりと黙々と書いていらっしゃる感じがします。

きなこみみ:こういう世界にあこがれて創作する人は割と多いと思うのですが、雰囲気は感じても、世界観まで作ることができる人は、そうはいないと思います。自分の世界を作ることに心血を注いでおられるのでしょう。「金の馬車とひばり」とアイヌの物語との関連性には気づきませんでした。教えていただけて良かった。

エーデルワイス:アイヌの伝承にひばりがでてくるお話があります。それと、「リルムラルム」の言葉の響きに、『夏のサンタクロース』のp80ひな鳥の鳴き声「ティリリー、ティリリー」と同じような印象を受けました。

きなこみみ:自然をどういう風に捉えるかの捉え方は違うけれども、この2つの作品に大きな比重を占めているという点は共通していますね。

ハリネズミ:どちらも自然との親和性の中から生まれてきた物語集なのではないかと感じますが、両者を比べると、国民性の違いもあって、やはり違いますね。

きなこみみ:『夏のサンタクロース』は、地底の奥の奥まで凍り付いてる感じがします。

ハリネズミ:この本はJBBYの「おすすめ!日本の子どもの本」に選ばれているのですが、毎年出しているこのJBBYのおすすめ本ガイドブックも、予算が削られて、掲載できる冊数が減らされているんです。

きなこみみ:紙の値段もものすごく上がってて。でも、子どもへの活動が、いろんなお金の面で制限されてしまうって、これから少子化で子どもも減ってしまうのに、その子どもたちにお金も手間もかけないでどうするんだろうと思うんですけど。

ハリネズミ:芥川賞を受賞した『ハンチバック』(市川沙央著 文藝春秋)にもあったように、紙の本では読めないという方もいます。それで、紙とデジタルと両方で出せばいいという話にもなるわけですが、両方出すと紙の本の部数は必然的に少なくなり、紙の本は部数が少ないと定価があがってしまうんですよね。実際に今は本の定価がぐんと高くなってしますよね。

きなこみみ:この『さんごいろの雲』もそうですけど、電子媒体になっちゃうと、全く違ってしまうような気がします。扉を開いて本の世界に入っていく、体の感覚として大事なことだと思うんですけど。「子どもと読書」(親子読書地域文庫全国連絡会)の2024年度の調査でも、翻訳作品が減ってるんです。国内作品よりもコストがかかるのもあるかもしれないんですけど、今、外国の作品を読むのはとても大切じゃないかと思うんで、図書館がせっせと買い支えるとかしてほしいなと。予算の締め付けが厳しいところも多いでしょうが…。いろんな価値観や新しい目を広げるのも大切で、この『夏のサンタクロース』にしても、フィンランドという馴染みのあまりない国の物語を読むのってとっても貴重な体験だと思います。

ハリネズミ:子どもたちが文化の多様性とか、多様な価値観などを知るのはとても大事なことだと思うのですが、儲かる儲からないを基準にして世界を短絡的にとらえるトランプのような政治家が一方にはいるので、トランプ的なるものと闘う必要もありますよね。

きなこみみ:このあいだから『絵本戦争 禁書されるアメリカの未来』(堂本かおる著 太田出版)という本を読んでいます。アメリカで広がっている図書館での禁書運動をとりあげた本です。NHKのBS世界のドキュメンタリー「ねらわれた図書館 アメリカ“分断の最前線”」でもやっていたのですが、LGBTQなどのダイバーシティ──多様性ですね──を扱った本を置くことが攻撃されていて、司書さんたちもずいぶん苦労されているというのを見て、びっくりしました。言論とか多様性を弾圧する方向にアメリカが走っているのが、とても恐ろしくて。

ハリネズミ:アメリカではずいぶん前から州や地域によって、公共図書館や学校図書館においてはいけないとされる本がありました。それが今も続いているのだと思いますが、トランプみたいな政治家が出てくると、いっそうその傾向が強まる可能性もあるのかもしれません。

きなこみみ:トランプの4年間の間に、どうなっちゃうのかとても不安で心配です。

ハリネズミ:私などから見るとトランプはとんでもない人物のように見えますが、恐ろしいのはアメリカ人の多くがまだ支持しているように見えることです。これだけ振れ幅が大きいと、トランプが辞めてからも押し返すことができるのかどうか、心配になります。

すあま:以前読書会でも取り上げた『貸出禁止の本をすくえ!』(アラン・グラッツ著 ないとうふみこ訳 ほるぷ出版)を思い出しました。

ハリネズミ:PTAの会長が、子どもの道徳観をそこなうような本を図書館から排除しようとするけれど、子どもたちがそれに抗議行動を起こすという物語でしたね。日本でも他人ごとではありませんが、トランプ的なるものが幅を利かせるようになると、時代が逆戻りしていくように思います。

きなこみみ:まるで第二次世界大戦前のようですね。だから、余計に、このアンニ・スヴァンのような物語を読んでほしいです。お説教くさくないけど、大切なことが書かれてます。AIのことばっかり覚えさせるんじゃなくて。

ハリネズミ:私も紙の本のほうが内容を深く感じ取れるように思っています。だからAIでノウハウを教えることばかりでなく、心の中に芽を出すような作品にも触れてほしいと強く思います。それと同時に、声の文化をどう活かしていくのか、という視点も大事ですね。

きなこみみ:この間、ホラー映画好きな友達と言ってたんですが、昔ほど映像のものが怖くなくなっちゃってるなって。AIでなんでも作れちゃうし、昔私たちが心霊写真を見て感じたような怖さって、あんまりなくて。怖い映像なんて、AIに作ってっていえば、なんでも作れちゃうんで。そう思うと、文字で書かれた怖い話って、自分の頭の中でどんどん膨らんじゃうんで、そのほうが怖いんじゃないの、っていう話をしてました。物語の力って、AIとかと次元が違うのものなんじゃないかなって思うんです。言葉とか耳で聞く物語のほうが、イマジネーションが膨らむんじゃないかなって。

雪割草:AIの話で思い出したのですが、『ひとのなみだ』(内田麟太郎文 nakaban絵 童心社)でロボットを戦場に送り、戦地で人を殺す映像を自分の家の居間で他人事のように眺めている場面があって、あまりにリアルな感じがしてゾッとしました。なんでも便利で簡単にできるし見てわかったような気になっている社会ですが、実体験が希薄になっていることに危機感を覚えます。人間も生きものだから、そういう肉体的な感覚や経験なく、大事なものを見失ってしまってはならないと思います。

(2025年03月の「子どもの本で言いたい放題」より)