『はみだしインディアンのホントにホントの物語』
(シャーマン・アレクシー著 さくまゆみこ訳 小学館)がこの7月に出るWWzineで紹介されます。書いてくださったのは、青木耕平さん(アメリカ文学研究者)です。教えてくださったのは岩波の須藤建さん。ありがとうございます。
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「ブラウン管の向こう側 かっこつけた騎兵隊が インディアンを撃ち倒した」
──ブルーハーツ「青空」
おそらくだが、あなたの頭の中のインディアンは、21 世紀を生きていない。あ
なたは頭の中でネイティブ・アメリカンを過去の遺物だと捉えている。あなた
の思い描くインディアンはiPhone を持っていない。車になど乗らない。あなた
の想像のなかのインディアンは、羽飾りをつけたジェロニモで、西洋文明の外
部に立ち、英語ではない言語で、詩的な警句を口にしている。そして彼/彼女は、
あなたのことを憎んだりしない。
シャーマン・アレクシー『はみだしインディアンのホントにホントの物語』の
主人公であり語り手の俺=ジュニアは、先天的な病気持ちで、歯がガタガタで、
いじめられっこで、吃音持ちで、貧困家庭に生まれ、おまけに──インディア
ンだ。そう、現代アメリカでインディアンであるということは、決してポジテ
ィヴな意味になりえない。彼らは生まれつき囲まれている。保留地という土地
があてがわれ、彼らの大半はそこから出ない。そして、人々(おそらくあなた
もその一人)が勝手に想像し押し付けるイメージの枠にも彼らは囲まれていて、
そこから出ることは、大きな困難を伴う。本作主人公ジュニアはそこから「は
み出す」ことを望み、懸命にもがき続けることを諦めない。
実際にインディアン保留地に生まれ育った著者が2007 年に著したこの自伝
的小説は、同年の全米図書賞を始め、各賞を総舐めした。なぜ? インディアン
が物珍しいから? 政治的に正しい訴えをしたから? そう思ったあなたは、イ
メージの中でインディアンをやはり囲っている。本作が絶賛されたのは、まず
第一にこの小説が無類に面白いからだ。なかなかお目にかかれない、ずば抜け
た傑作だからだ。彼の出自、肌の色、先天的欠陥、そんなもの、最終的にはこ
の主人公ジュニアには関係がなく、この小説の面白さを最終的に決定するのは
それじゃない。ここに書かれるのは、一人のたくましく生きる少年の姿であり、
友情であり、恋愛であり、死であり、未来だ。最高の青春小説なんだ。
「生まれたところや 皮膚や 目の色で 一体この僕の なにがわかるというのだ
ろう」
出自や皮膚や目の色に関係なく、澄んだ目をしたはみ出し者は、いつだって最
高の言葉を持っている。