神戸遥真/著 カシワイ/画
講談社
2024.08
〈版元語録〉コンプレックスから学校にあまりなじめていない中1のさくらは、SNSで同じマンガが好きな中2の男子・ユナと親しくなり、本当の自分を隠してビデオ通話をすることに…。オンラインで生まれた2人の友情を描く、@さくら編。
オカピ:性別や顔のあざが、オンラインだとわからないというのは、なるほどと思いました。一つの物語を二人の視点から、2冊に分けて描いているのが新しいですね。それで本が売りにくいということはあるのでしょうか。
きなこみみ:神戸さんの物語は読みやすくて、かつ繊細で面白くて、基本いつも一気読みしてしまいます。この物語もSNSという、今や子どもたちの暮らしの大きな部分を占めているものをテーマにしていて興味深く読みました。日常で繋がっていない、SNSの付き合いだからかえって心を開きやすいというのは、功罪ありながらも真実で、私もSNS繋がりの友だちがやはり、います。だからこそ、SNSならではの怖い面もあるのですが、神戸さんはそのあたりの事情や付き合い方などもうまく紹介しながら、人の視線が気になるさくらの気持ちを、とてもうまく描き出しているなあと思って読みました。顔にあざがあることを気にするなと言われても、それはどんな年齢でも性別関係なくいろんな感情が胸のなかで渦を巻いてしまう。だから誰もが共感できるし、見た目がいちばん気になる思春期の子どもたちの気持ちにも刺さる物語だなと思いました。
読みどころは、さくらとお母さんの確執で、これもまた思春期の永遠のテーマですが、柔らかい心の描き方が神戸さんはとてもうまくて、私のなかの少女の心がチクチクします。SNSという新しい波に翻弄されてはいても、やっぱり人間の心というのは変わらなくて。でも、そう思いながらも、SNSというものをもうちょっとよく知りたい、若い人たちがどんな風に使っているのか、情報源や人付き合いのツールとしての機能が、どんどん変わっていくんだろうなと思うと、やはりむずむずしてしまう気持ちです。
さららん:ネットの友達と現実の友達は違うのか、という素朴な問いかけが物語の底にずっと流れていて、それはSNSを使いながら普通に暮らす今の子どもたちみんなが直面する切実なテーマです。主人公のそんな悩みに答えるp139~p140の麻実ちゃんの言葉を読んで、ホッとする読者も多いでしょうね。またお母さんがちょっと未成熟な感じがして……現実のお母さんっぽいのかも。お化粧であざを隠してチャットしていた娘に対して、「みっともない顔をして」(p144)とつい言ってしまう。自分で自分を納得させている論理を娘に押し付ける母親像にぞっとする一方で、「でも、ああ、子どもの気持ちに鈍感な点では私も同罪かも」と思わされました。そして、未來(みく)のお姉ちゃんがとてもいい人で、お母さんの気持ちを代弁してフォローしてくれます。ちょっと、お姉ちゃんが便利に使われている感じはしますが、そして登場人物の造型は『家に帰らなかったカラス』(ジーン・ウィリス作 山﨑美紀訳 徳間書店)に比べると軽いスケッチのようですが、今の日本で生きる子どもたちにとって役立つ知識も入った、身近で、必要とされる物語なのだと思います。新しい機器による、新しい認識の形に切り込み、たとえ画面を通してでも、「――ちゃんとここで、つながってる。」(p189)ことの大切さが、自然に感じられました。
ハル:いまの時代、ネットで出会う=悪! 詐欺! の一辺倒ではいかないでしょうし、リアルな世界以外はすべて虚構だとは言えないだろうと思っていたところで、この物語をとおして、子世代の事情に思いを馳せることができました。通話中にお母さんが入ってきた場面なんて、私もむかっときましたし(笑)。ただ読者に寄り添って「親ってわからずや」だけではもちろん終わらせず、そこで立ち止まり、踏み込んで考えて、一歩前進する姿も見せてくれるところがいいなあと思いました。ぜひこの世代の読者にすすめたい本です。ただ、展開としては、ユナが男の子なんだろうなというのは早い段階から予想ができてしまったこともありますが、いくら性別は関係ないといっても、性別や年齢などの基本情報に誤解があったとなると、ほんのりトラブルの気配も漂ってくるので、ユナ側の秘密は基本情報とは別のところにあったほうがよかったかもなぁとも思いました。そのあたりは「@ユナ」で解消されるのかもしれませんし、ぜひユナ編も読みたいです。
エーデルワイス:『オンライン・フレンズ@さくら』『オンライン・フレンズ@ユナ』どちらも読みました。『〜@さくら』の方から読みましたが、ユナが男の子だということは全く分かりませんでしたので、終盤で「えー!」と驚きました。2冊対になっているところが面白いです。同じ場面を読み返して確かめたりしました。現在の子どもたちはSNSを使いこなしてすごいと思います。私は全くダメです。SNSを使うことについての注意事項もうまく散りばめられて感心しました。さくら=未來がユナに会いに行く時、父親についてきてもらうところもいいです。SNSで自分の歌声や、描いた絵をアップする。子どもたちは可能性をたくさん秘めていると思いました。そしてやはり直に会って、自分の言葉で話し合わなければお互い理解できない、としているところに好感をもちました。ユナと母親の関係を考えたとき、テレビドラマ「バニラな毎日」の中のある場面を思い出しました。母親は愛情深く、障がい者の娘を心配して過剰に構い過ぎる。娘は母親のことを愛しているのですが、鬱陶しく思い自立を目指している。そこの解決場面がとても爽やかでした。観ていない方ごめんなさい。
雪割草:読者の年ごろの感覚で書けていて、すごいと思いました。また、オンラインのいろいろを問題を含めてわかりやすく書いていて、感心しました。ただ、こういう作品は息苦しくなるというか、あまり得意ではありません。「さくらはさくらでしょう」(p175)とあっても、10代なら違ったかもしれませんが、そうかなと思ってしまう。実際にあまり使わない台詞だからか、話に引き込まれていないせいか、少し浮いて感じられました。「ちゃんとここでつながっている」(p185)にも私はそうかなと思ってしまう。今の子どもの感覚に疎いところはあるので、ユナの視点で書かれた作品も読んで、勉強したいと思います。
ヤマガラ:ユナが主人公の本を借りられず、読んでいないので、中途半端な感想になると思いますが、お許しください。これは、ぜひとも両方買わせようという販売戦略なのでしょうか? 主人公の気持ちはとてもていねいに描かれているし、読者の子どもたちにとって身近な問題なので、夢中になって読むのではと思いました。「オンライン・フレンズ」の怖さというか注意すべき点もていねいに書かれていて、良かったと思います。でも、とても狭い世界の噂話のような感じで……。ムーシカ文庫という文庫活動をやっていた作家のいぬいとみこさんが、小学校5,6年になると、身近なことばかりを書いた作品に夢中になる子が出てきて、そういう子は文庫から離れていき、読書自体をしなくなるけれど、ファンタジーとか物語世界に厚さと広がりのある本を読む子は、ずっと本とつながっていくと話していたのを思いだしました。あと、ゴミが落ちているのを知りながら拾わない子より、落ちているのを気づかないほうが悪いというようなたとえが出てきますが、どういうことなのか、私にはピンとこなかった。どなたか、教えてください!
ハリネズミ:『〜@さくら』のほうだけ読み終わって、私は何か物足りない気持ちでした。それで、『〜@ユナ』のほうも読んでみたら、細かいところがうまく複合的に重なって見えてきて、おもしろい作品だなあと思いました。神戸さんの作品は『ぼくのまつり縫い』シリーズ(偕成社)と『笹森くんのスカート』(講談社)しか読んでないんですが、エンタメの中に社会的な視点もうまく取り入れることのできる作家さんだなあと思っていました。今回は人と人とのつながりが、リアルとSNSとの両面から書かれていて、興味深かったです。今の時代、子どもたちはもうSNSと無縁の暮らしはできなくなっている。ならば、いいところも危ないところもエンタメの中で伝えていこうというのは、作家さんの親心かもしれません。そして、両方をうまく使うことによって、人間関係が深まるのを見せていくんですね。オンラインで友だちになることの危うさについての忠告もいっぱい入っています。もしかすると、SNSについてのアドバイスがたくさん書いてある実用書より、こっちのほうが子どもの心に届くかもしれません。
ANNE:まず表紙のカシワイさんのイラストがとても好きです。正面を向いている女の子の頬に桜の花びら。物語を読み進めると、その意味が繋がって「なるほど~!」と思いました。お互いに秘密を抱えた二人の中学生の友情が、現代のSNSや押し活といった子どもたちになじみ深い背景と共に爽やかに描かれていて、さらさらと読むことができました。セットで発表されたもう1冊『オンライン・フレンズ@ユナ』を合わせて読むと、同じ場面でお互いがどう感じていたかが理解できて、また楽しいと思います。
西山:『オンライン・フレンズ@ユナ』の方を先に読みました。そのせいか、『オンライン・フレンズ@さくら』の方がより面白く読めたのですが、これは、逆もまたしかりなのか、これから「ユナ」を読む方の感想が気になります。「さくら」の方をテキストにした理由に「ルッキズム」の問題が出ていることもあると聞きました。両方読んで、「オンライン・フレンズ」というテーマとしては「さくら」の方がよりテーマに合っていると、選書に納得です。人は見た目じゃないといいながら、初対面の人はぱっとアザを見る、その視線を受け続けているさくらを主人公にして、うまく設定と題材がマッチしていたと思います。ゴミのたとえは、説明しろと言われたら説明できるほどピンときていないかもしれませんが、どきんとしたのは確かです。問題に気づかない、ある存在がまったく目に入らない人への厳しい批判として受け止めました。2巻に共通するラストは、おとな世代はどうしても「実際に会った友達じゃないとね」という感覚をもってしまうように思うのですが、作者は、オンラインの友だちを否定しない、そういう出会いを肯定する姿勢であるということをはっきり表明しているラストだと理解します。
マリメッコ:さくらの視点の本と、ユナの視点の本、1冊に前編後編でまとめることもできそうですが、それを2冊に分けたところが、この作品の特徴ですね。逆の視点から読む楽しさを読者は味わえると思います。『オンライン・フレンズ@さくら』では、単純性血管腫の主人公が、オンラインで知り合ったユナに相談しながら、少しずつ現実世界で友人を作って視野を広げていきます。メイクをやってエフェクト機能を使って、というあたり、今っぽさがありますね。お母さんの存在がけっこうリアルだと思いました。最初は、あざをどうにかできないか必死に調べたりして、でも難しいとわかると、今のままのさくらでいい、と未來本人にも押し付けてくるあたりです。迷惑な行動ですが、お母さんの気持ちも伝わってきました。p186「リスペクトって、多分、すごく一方的なのだ。自分のなかにある理想を押しつけすぎると、その人自身が見えなくなる」は、いい言葉だなと思いました。女の子の一人称で甘めな文章ですが、これはもう1冊の『オンライン・フレンズ@ユナ』と違いをはっきりさせるためかと思います。ユナの方は、落ち着いた堅めの文章になってます。ユナは、男の子です。合唱部に入っていることもあって、声変わりに対してとても抵抗があります。友達だと思っていた子に告白されたのがトラウマになっていて、女子に近づきづらく、だからさくらとの会話に安らぎを見出しています。最後は、さくらと直接会う場面があって、サボり気味だった合唱部をやっぱり頑張ろう、と決意します。どちらの巻から読んでも、もう一つの巻につながっている面白さを中学生は感じるのではないかなと思いました。
(2025年02月の「子どもの本で言いたい放題」より)