真夜中の電話〜ウェストール短編集

『真夜中の電話〜ウェストール短編集』
ロバート・ウェストール/作 原田勝/訳 宮崎駿/装画
徳間書店
2014.08

版元語録:英国児童文学を代表する作家の全短編から選び抜いた九編を収めた珠玉の短編集。宮崎駿監督描きおろしカバー画&推薦帯付き!

ajian:これはとてもおもしろかったですね。これだけおもしろいと「おもしろい」以上の感想が出て来なくて困ります。どれもよかったけれど、「吹雪の夜」が一番好きかもしれません。猛吹雪をようやく切り抜けたと思うと、今度は子どもが産まれそうで、たいへんな状況が次から次につづく。最後はホッとしますが……。吹雪のなか、火を焚く場面で、「男は臆病だからこそ命を危険にさらすことができるのだ」とあるじゃないですか。しびれますよね。こういう断定が、くさくならずに説得力を持っているのはどうしてなんでしょうね。ウェストールがそういうなら、そうなんだろうなあ、と……。ほかに印象に残ったのは「ビルが見たもの」でしょうか。目の不自由な人が感じる世界を詳細に、リアルに描いている。これもページをめくらずにはいられない展開です。そして短いなかに、寂しさや、うち震えるような怒りや、感情の濃密な部分が克明に描かれている。収録作がこれだけバラエティに富んでいるのもすごいですね。ゴーストストーリーも、ハートウォーミングな話も、ほんとうにどれもおもしろかった。

レン:先月、原田さんの朗読会に行きました。短編集ができるまでの話などもお聞きしましたが、それはこの本の後書きに詳しく書かれていますね。人間って、どこに行っても変わらない。ぶざまなことをしたり、いい加減だったりしながら生きているというのがうかびあがってきて、ひとつひとつの話がおもしろかったです。原田さんの訳は丁寧で、それでいて男っぽくてすてきでした。日本のオリジナルでこういう本が出るというのはいいですね。さすが徳間書店児童書20周年です。10代の心理がよく描かれているので、高校生に読んでほしいです。大人の外国文学への橋渡しにもなりそうです。

ajian:あ、あと好きだったのは「最後の遠乗り」です。主人公の最後の独白部分。「おれはこの先も、少しずつジェロニモから遠ざかっていく。そして、髪にカーラーをつけ、油ぎった熱い包みをかかえてフィッシュ・アンド・チップス屋から出てくるばあさんたちに近づいていくんだ。電気屋のショーウィンドウをのぞきこんでいる中年男たちに……」。中年に近づいている自分としては、この台詞、非常に身にしみて感じます。

レン:細部がリアルですよね。ちゃんとみんな体験してきた人なんだろうなと思いました。やわらかい羊のフンが、踏むとつぶれて靴につくところとか。線を引いておきたくなるような、いい言葉もたくさんありますね。p106に「夜中、ビルは眠れぬまま横になり、不安に思うことがある。世界じゅうの人たちがあまりに排他的になり、真の平和は日々遠のいているのではないかと……。」とか、今読んでもドキリとしました。

レジーナ:中学の時に、ウェストールの『海辺の王国』(坂崎麻子訳 徳間書店)を読みました。当時、中学生向きの読み物はあまり見つけられなかったのですが、この作品は甘いハッピーエンドで終わらせず、少年の成長していく姿をしっかり書いていて、とても心に残りました。すぐれた作家の中には、長編はすばらしくても、短編になると弱くなってしまう人もいます。ウェストールは、長編も短編も書ける作家ですね。それぞれの話は、登場人物の年齢も、置かれた状況も全く異なりますが、どれも人間の生きる姿を伝えています。特に好きなのは、「吹雪の夜」と「ビルが「見た」もの」。吹きすさぶ風や吹雪の激しさは、ロンドンの都会ではなく、まさにイギリスの北方の厳しい自然ですね。土地の描写に、力があります。p165に「革ジャンの背中のベルト」とありますが、革ジャンにベルトはついているのでしょうか?

アンヌ:「吹雪の夜」は本当におもしろく、イギリスの獣医ジェイムズ・へリオットの著作の中のイギリス高地の物語を思い出しながら、何度も読み返しました。

レン:私たちは、あまりに多くの情報にさらされて、感覚が鈍って、こういう観察眼を持てなくなっているように思いました。

アンヌ:ただこの短編集にあるホラー3篇は、他の物語に比べて、そんなに見事な出来だとは思いませんでした。最初の「浜辺にて」も、夢落ちで終わっているし、「真夜中の電話」も、ハリーが幽霊と20年も電話し続けているというのが少し納得がいきません。最初はいろいろ調べたというのに、メグのように引きこまれたりはせず、幽霊も手出ししないで、毎年繰り返していたのはなぜかとか、疑問が残ります。「墓守の夜」も、設定が、ピーター・S・ビーグルの『心地よく秘密めいたところ』(創元推理文庫)と、同じなので

アカシア:とてもよくできた短編集だと思いました。「真夜中の電話」だけでなく、ひとつひとつの話が、「生きること、死ぬこと」を考えさせますね。描写もリアルです。私はホラーとは思わなかったんですけど、「浜辺にて」では、アランも死んでいるのかと少し思っていまいました。バイクで疾走する場面とか、サマリタンが電話を受ける場面とか、屋根裏に潜んでいるお父さんを見つけた場面など、自然描写も心理描写も情景がありありと思い浮かぶように書かれているのがすばらしいです。翻訳もうまい。

(「子どもの本で言いたい放題」2015年2月の記録)

真夜中の電話〜ウェストール短編集

『真夜中の電話〜ウェストール短編集』
ロバート・ウェストール/作 原田勝/訳 宮崎駿/装画
徳間書店
2014.08

ajian:これはとてもおもしろかったですね。これだけおもしろいと「おもしろい」以上の感想が出て来なくて困ります。どれもよかったけれど、「吹雪の夜」が一番好きかもしれません。猛吹雪をようやく切り抜けたと思うと、今度は子どもが産まれそうで、たいへんな状況が次から次につづく。最後はホッとしますが……。吹雪のなか、火を焚く場面で、「男は臆病だからこそ命を危険にさらすことができるのだ」とあるじゃないですか。しびれますよね。こういう断定が、くさくならずに説得力を持っているのはどうしてなんでしょうね。ウェストールがそういうなら、そうなんだろうなあ、と……。ほかに印象に残ったのは「ビルが見たもの」でしょうか。目の不自由な人が感じる世界を詳細に、リアルに描いている。これもページをめくらずにはいられない展開です。そして短いなかに、寂しさや、うち震えるような怒りや、感情の濃密な部分が克明に描かれている。収録作がこれだけバラエティに富んでいるのもすごいですね。ゴーストストーリーも、ハートウォーミングな話も、ほんとうにどれもおもしろかった。

レン:先月、原田さんの朗読会に行きました。短編集ができるまでの話などもお聞きしましたが、それはこの本の後書きに詳しく書かれていますね。人間って、どこに行っても変わらない。ぶざまなことをしたり、いい加減だったりしながら生きているというのがうかびあがってきて、ひとつひとつの話がおもしろかったです。原田さんの訳は丁寧で、それでいて男っぽくてすてきでした。日本のオリジナルでこういう本が出るというのはいいですね。さすが徳間書店児童書20周年です。10代の心理がよく描かれているので、高校生に読んでほしいです。大人の外国文学への橋渡しにもなりそうです。

ajian:あ、あと好きだったのは「最後の遠乗り」です。主人公の最後の独白部分。「おれはこの先も、少しずつジェロニモから遠ざかっていく。そして、髪にカーラーをつけ、油ぎった熱い包みをかかえてフィッシュ・アンド・チップス屋から出てくるばあさんたちに近づいていくんだ。電気屋のショーウィンドウをのぞきこんでいる中年男たちに……」。中年に近づいている自分としては、この台詞、非常に身にしみて感じます。

レン:細部がリアルですよね。ちゃんとみんな体験してきた人なんだろうなと思いました。やわらかい羊のフンが、踏むとつぶれて靴につくところとか。線を引いておきたくなるような、いい言葉もたくさんありますね。p106に「夜中、ビルは眠れぬまま横になり、不安に思うことがある。世界じゅうの人たちがあまりに排他的になり、真の平和は日々遠のいているのではないかと……。」とか、今読んでもドキリとしました。

レジーナ:中学の時に、ウェストールの『海辺の王国』(坂崎麻子訳 徳間書店)を読みました。当時、中学生向きの読み物はあまり見つけられなかったのですが、この作品は甘いハッピーエンドで終わらせず、少年の成長していく姿をしっかり書いていて、とても心に残りました。すぐれた作家の中には、長編はすばらしくても、短編になると弱くなってしまう人もいます。ウェストールは、長編も短編も書ける作家ですね。それぞれの話は、登場人物の年齢も、置かれた状況も全く異なりますが、どれも人間の生きる姿を伝えています。特に好きなのは、「吹雪の夜」と「ビルが「見た」もの」。吹きすさぶ風や吹雪の激しさは、ロンドンの都会ではなく、まさにイギリスの北方の厳しい自然ですね。土地の描写に、力があります。p165に「革ジャンの背中のベルト」とありますが、革ジャンにベルトはついているのでしょうか?

アンヌ:「吹雪の夜」は本当におもしろく、イギリスの獣医ジェイムズ・へリオットの著作の中のイギリス高地の物語を思い出しながら、何度も読み返しました。

レン:私たちは、あまりに多くの情報にさらされて、感覚が鈍って、こういう観察眼を持てなくなっているように思いました。

アンヌ:ただこの短編集にあるホラー3篇は、他の物語に比べて、そんなに見事な出来だとは思いませんでした。最初の「浜辺にて」も、夢落ちで終わっているし、「真夜中の電話」も、ハリーが幽霊と20年も電話し続けているというのが少し納得がいきません。最初はいろいろ調べたというのに、メグのように引きこまれたりはせず、幽霊も手出ししないで、毎年繰り返していたのはなぜかとか、疑問が残ります。「墓守の夜」も、設定が、ピーター・S・ビーグルの『心地よく秘密めいたところ』(創元推理文庫)と、同じなので

アカシア:とてもよくできた短編集だと思いました。「真夜中の電話」だけでなく、ひとつひとつの話が、「生きること、死ぬこと」を考えさせますね。描写もリアルです。私はホラーとは思わなかったんですけど、「浜辺にて」では、アランも死んでいるのかと少し思っていまいました。バイクで疾走する場面とか、サマリタンが電話を受ける場面とか、屋根裏に潜んでいるお父さんを見つけた場面など、自然描写も心理描写も情景がありありと思い浮かぶように書かれているのがすばらしいです。翻訳もうまい。

(「子どもの本で言いたい放題」2015年2月の記録)