『だれにも話さなかった祖父のこと』
マイケル・モーパーゴ/著 ジェマ・オチャラハン/絵 片岡しのぶ/訳
あすなろ書房
2015.02

アンヌ:モーパーゴはうまいと思うけれど、なぜか苦手で、今回も設定の不自然さばかり気になって物語の中に入り込めませんでした。例えば、マイケルのお母さんは、生まれおちた時から自分の父親を見ているはずで、そういうものだと受け入れていると思うのに、大人になってからは目をそむけ続けているというところに納得がいかなかった。第2次世界大戦後に、もっと他の傷痍軍人にも出会っているはずだと思うし。ただ、この作品のように、戦争によって傷つけられ人生も変わってしまうのは兵士だけではない、その時代にその場にいた、ありとあらゆる人に起きるのだ、ということを語り続けるのは、とても意味があると思いました。

ハリネズミ:R.J.パラシオの『ワンダー』(中井はるの訳 ほるぷ出版)にも、顔が普通とは違う子どもが出てきましたね。その本でも、みんながチラッと見てすぐ目をそらすと書いてありました。よほど親しくなって表面の向こうの中身が見えるようにならない限り、普通の人は目をそむけるのではないかな。そこまで親しくないと、逆にそっちの方が礼儀だと思うんじゃない? この子のお母さんは、自分も心にわだかまりのある母親から接触を禁止されていたし、父親もアル中だったことから、そこまでお父さんと親しくなれなかったんでしょう。私はそこは不自然だとは思いませんでした。

ペレソッソ:単純に綺麗な本だなというのが第一印象です。先月『月にハミング』(杉田七重訳 小学館)を読んだばかりなので、ああ同じテーマと思って読みました。『月にハミング』もそうでしたが、モーパーゴは和解の話が得意なのだなあと思いました。読者を不快にさせない。そのあたりを甘く感じてか、『戦火の馬』(佐藤見果夢訳 評論社)をあまり好きになれないと言っていた人がいました。単にいい話で終わると・・・・・・うまさにちょっとひっかかったりします。

ハリネズミ:モーパーゴってうまいんですよ。最近とみにうまくなってます。戦争を自分のテーマにしている作家で、これもその一つだと思いますが、確かにうまいから綺麗に収まってしまうところがありますね。

ペレソッソ:そう言うのって危ない気もします。

レジーナ:私も、顔に先天的な異常のある男の子を描いた『ワンダー』を思い出しました。おもしろく読みましたが、大きなテーマを扱っている割に短い話なので、展開が早過ぎるように思います。主人公とおじいさんが心を通わせていく様子を、もっとじっくり書いてほしかったです。またテーマに対し、絵が少し浮いてしまっている気がしました。テーマの重さとバランスがとれるように、シンプルで、デザイン性の高い挿絵を使っているのかもしれませんが。モーパーゴの他の作品の挿絵を描いている、マイケル・フォアマンやピーター・ベイリーのように、温もりのある抒情的な挿絵の方がしっくりくるような……。

マリンゴ:とても味わい深い作品だと思いました。絵のトーンも好きです。不幸に見える人に会ったとき、じろじろ見たら失礼だ、というのは「本当に失礼だと思って遠慮する」のと「避けて通りたいから目を逸らす」のと、2種類あるのだということが、改めて明確に伝わってきました。当人が聞いてほしがっている、聞いてくれる人がいるなら話したい、と思っていることだってあるのですよね。そのとき、何もできないからと目を逸らすのではなく、向き合って話を聞くことだけでもできる……そんなことを考えさせられました。ちなみに、挿絵に1つ疑問が。人口80人の島と書いてあるわりに、島に戻ったときに訪ねた病院が大きすぎますね。別の大きな島の病院なんでしょうが、文と絵が合っていない気がします。全体的な絵のタッチは好きなのですが、大人の絵本のようなテイストなので、売れるのか、ちょっと心配です。余計なお世話ですけど。

アンヌ:これはヤングアダルト扱いですか?

ハリネズミ:ルビがたくさんふってあるので、小学校中学年くらいから読んでもらいたいんじゃないかな。

マリンゴ:中学生くらいが主に読むのかなぁ、と思いました。

ハリネズミ:主人公は大人になってから思い出して書いているという設定ですが、シリー諸島まで一人でおじいちゃんを訪ねて行ったのは12歳ぐらいとなっていますね。テーマは『ワンダー』と共通したところがあって、まわりの人々とのコミュニケーションを断たれている人がこの場合は祖父で、孫がその祖父とコミュニケーションを取る。親世代を飛び越えた祖父と孫の関係がうまく書かれています。きれいに終わりすぎているという意見も出ましたが、若い人の中には本当に悲惨なものは読みたくないという人も多いので、こういう作品から入るのもいいと思います。戦争は抽象的に描かれていて、絵も怖くないので、そういう人たちには入りやすいと思います。

ペレソッソ:原書もこのイラスト?これが原書のままだとしたら、縦書きだから、開きが逆ですよね。絵は裏焼きみたいに刷るんですか?

ハリネズミ:原書は当然横書きですよね。日本で出す場合は、縦書きにする場合もあります。出版社によって違いますね。絵はこの本の場合は、左右逆にはしてないんじゃないかな。縦書きにすると絵を左右逆にしなくちゃならない場合もありますよね。とくに動きが大事な絵だったりすると。その場合は、原著の出版社に断ってそうしていると思います。
*画家名の表記はこれでいいのか、という疑問が出たので出版社に問い合わせたのですが、原著出版社に確認した上でこの表記になったそうです。

(「子どもの本で言いたい放題」2015年11月の記録)