『動物のおじいさん、動物のおばあさん』
高岡昌江/著 すがわらけいこ/絵
学研教育出版
2014.09

版元語録:いまや動物園も高齢化社会。おじいさん・おばあさんの動物たちは、どこで生まれ、どんな出来事を乗り越えてきたのでしょう。本人にかわり、毎日世話をしている飼育係さんに語ってもらいました。彼らの歩んできた人生がひと目でわかる「履歴書」も必読です。

アンヌ:全体の構造がよくできていると思いました。履歴書があって、本文である飼育員のお話があって、それから、その動物の写真がある。まず写真を持ってくるとイメージができてしまうけれど、履歴書で最初にその動物の生きてきた軌跡が見えるのがよかったと思います。好きな食べ物や、好きなことの項目もあって、例えばカバがプールの底の落ち葉を食べるとあって、動物園のプールではカバはただ泳いでいるだけと思っていたのに意外だったり、サイは角を磨くことが好きなんだなどと分かったりして、おもしろいと思いました。一番初めのシロクマのところで、生まれたのがドイツの動物園とあって、捕まえられたのではないと知りました。今動物園の役割は、動物を保護し繁殖することにあるのだなということが、色々な動物の履歴書を読んでいくうちにわかっていきます。ただ、今日欠席のルパンさんから、サイの出産履歴のところとか、ゾウのところの後継者争いとか、本文で説明されていないことが書かれているのがわかりにくいとのご意見もありました。私は、飼育員さんの「こわい」という気持ちについての説明や、動物が死んだ後に解剖し標本にするのも仕事だという言葉に、動物園で働くことへの思いや人間以外の生き物への尊敬の念を感じることができました。動物園についていろいろ知り、動物とともに生きることについて考えられるようになる本だと思います。

サンショ:この本は、老齢の動物だけを取り上げているのがおもしろいし、しかもラクダのツガルさんが前足だけで歩いていたなどという具体的な記述もあるので興味がわきます。ちょっと気になったのはバシャンの履歴書で、何匹かの子どもについてはどうなったのか記述がなかった点です。ルパンさんが指摘した「ラニー博子との別居を開始」という部分は、別に詳しく書かなくても状況がわかるだけでいいんじゃないか、と私は思いました。おもしろい本でした。

マリンゴ: すばらしい本ですね。小説でも成立したかと思いますが、やはりノンフィクションでよかった。国内最高齢にこだわって、本が出た時点で2頭死んでしまっているというリアルさに、子どもたちは動物の「命」を実感するのではないでしょうか。大人が読むと、老いた生き物の、人間に共通するせつなさを感じますね。子どもも大人も、それぞれの年齢で楽しめるという点でも、とてもいい本です。また、「動物園の動物」であることが大前提で、動物園を全面肯定している点を、面白いと思いました。動物園に閉じ込められた動物たち、というニュアンスで、否定的に描かれることも多いので。

ミホーク:「天才!志村どうぶつ園」を本で読んでいるようで、おもしろかったです。飼育員さんが、動物がいかに自然に死ねるか、というところを追求しているのが、興味深かった。ペットじゃないので、死んだら悲しいだけじゃなくて、解剖したりデータを残したりする。飼育員と動物の絶妙な距離感。どの飼育員さんも共通して動物に畏敬の念を持っているのが印象的でした。物語より図鑑好きの子どもは楽しめそう。

ペレソッソ:今回読んだ本の中では一番おもしろかったです。介護や子育てをしている人の読書会のテキストにしたらおもしろいんじゃないかななどと思いながら読みました。例えば、檻に入ってくれないクロサイでしたっけ? それを待つエピソードなど、自分の思いどおりに行かない他者としての老人とか、子どもとかとつき合うときの忘れてはいけない基本を教えてくれている気がして。こわいというのを忘れないということが、異口同音に出てきていましたが、それも、どんなに仲良くなっても、他者は他者ということを忘れてはいけないということだと思いました。
 履歴書の部分は、おもしろく読んだのですが、もしかしたら、少し「お話」っぽくなって、愛玩っぽくなっているかもしれない。履歴書を読んで、ほほえましいと感じた感覚は、本文で受けとった、敬意を持って、他者であることを肝に銘じてつき合うべき動物というイメージとはちょっと違うベクトルかもしれない。あと、まったく余談ですが、わたしは、わりと動物園は好きな方で外国へ行くと、その国の動物園にはなるべく行ってます。もう27年も前ですが、リマの動物園では、ゾウに芸をさせてましたよ。ボリビアのラパスの市内に動物園があったときは、ライオンとか猛獣はいなくて、そのえさになるはずだったヤギしかいなかったり・・・。サバンナの動物が標高4000近いところで馴化できずに死んじゃったとか聞いてますけど、正確なところは調べてません。動物園は、その国の親子の様子を観察出来たりして、おもしろいですよね。全然関係ない話でごめんなさい。
(追記:介護や子育てをしている人、つまり大人におもしろそうということを述べましたが、例えば認知症になってしまったおじいちゃんおばあちゃんと同居して戸惑う子どもたちにとって、老人問題は他人事では無いので、子ども読者にとっても、視野を広げてくれたり気を楽にしてくれたりする本だと思います。年を取っていずれ死んでいくという生をどううけとめるかという大問題とも向き合わせてくれる本だと思います。
 あと一つ言い忘れ。「交尾」があっけらかんと連呼され、写真まで出ていたので、なんだかおもしろかったです。フィクションではここまで言うかな?とか、学校での「性教育」はどの程度受けている子がこれを読むのかなとか・・・・・)

レン:感じよく作られている本だなと思って、おもしろく読みました。どこかゆったり感じるのはなぜかなと思っていたのですが、みなさんのご意見を聞いて、飼育員さんと動物の関係が人間の親子の関係とは違って、相手に対する敬意に基づいているからかなと思いました。自分のもののように支配したり、コントロールしたりしようとしない。あくまでも他者なんですね。92ページの「ぼくは、ハナが勝手に生きていてくれるときが、一番うれしいんです。」というサイのハナさんの飼育員さんの言葉が心に残りました。

サンショ:それでも、動物園の中で暮らすのと、自然の中で野生のままでいるのは全然違いますよね。だから、そこは違うと思って読まないと間違えるかも。サイのハナさんのところでも、ケニアで捕獲されたので、動物園で生まれた2代目、3代目とは違うことがはっきり書いてあります。人間とほかの動物が違うだけじゃなくて、飼われているのと野生のとではまた大きく違うんですね。私も、今日の3冊の中ではこれがいちばんおもしろかったです。普通の動物園の本と違って、お年寄りの動物を対象にするという視点もよかった。

レジーナ:ゴリラのドンが、重い扉を軽々と開けてしまうエピソードは、動物の圧倒的な力の強さを感じさせます。けれど、どの動物も、できないことが少しずつ増えていき、死を迎えるまで、飼育員の人たちは世話をします。ラクダのツガルさんは、注目されるのが好きで、年をとり疲れやすくなっても、プロ根性でお客さんにサービスしますが、初めから人間と信頼関係を築けたのではなく、動物園に来る前は、世話をしてもらえないまま、観光牧場に放置されていたそうです。サイのハナは、野生で生きていた時に、ハンターに捕まり、体を深く傷つけられました。それぞれの動物に歴史があり、人間と動物の関係性も考えさせられます。質素で少なめの食事の方が、ハナの健康にいいと書いてありましたが、先日、新聞で、粗食の方が、サルの毛艶がよくなるという記事を読みました。

サンショ:昔は自分の家でもいろんな動物を飼っている人がいましたね。中野の駅の近くにはトラを飼ってる人がいたし。先日は、都会でカイマンという種類のワニを飼っていた人に会いました。飼うのは研究に必要なのかもしれませんが、できたら自然の中で暮らしているのがいい。そのほうが動物も美しいように思います。私はずっと動物園というものに疑問を持ってきましたが、だれもが自然の中の動物を見られるわけではないので、異種の動物の存在感を子どもが知ったり、絶滅しそうな動物の保存を図ったりするには動物園も必要かもしれないと、今は考えるようになりました。ただ、捕獲はもうしなくなっているのでしょうね。それはいいことだと思います。それと、なるべくもともとの生態系の中で生きられるように工夫されるようになったのもいいと思っています。

(「子どもの本で言いたい放題」2016年1月の記録)