駅鈴(はゆまのすず)

『駅鈴(はゆまのすず)』
久保田香里/著 坂本 ヒメミ/挿絵
くもん出版
2016.07

版元語録:「重大な知らせを伝える。それがわたしたち駅家の仕事だ」メールも電話もない時代。駅鈴を鳴らし、馬で駆け、急を知らせた人たちがいた―。近江国(滋賀県)を舞台にした奈良時代の感動ストーリー。

しじみ71個分:古代史のことはよくわからないけれども、史実はきちんと描いているのだろうという印象を受け、筆力のあるきちんとした作品だと思いました。天平時代の史実を脇に置きながら空想とも言える古代の世界を描き、かつジェンダーの問題も含めていたりしておもしろい。表現はかっちりしているけど、おもしろかった。馬が盗まれたり、山火事があったり、地震があったりと、途中からは展開もスピーディになり、読んでドキドキ感もありました。今回は3作品とも、動物が非常に大きなキーポイントになっていたのも興味深かった点です。

西山:私の勝手な読み方なのですが、あちこち現在のあれこれの隠喩のように読んでしまいました。例えばp112の70年前の戦。p249の双六にはまってしまうところでは、「カジノ法」を思い出したり・・・・・・。同じ著者の『氷石』(くもん出版)でも、そういう感触を覚えた記憶があるので、この作家は奈良時代を舞台にしても、現代への見方を結構込めている気がします。

さららん:小里が、女にはなれないと言われている「駅子」になりたいと強く願い、それをかなえていく過程が描かれていて、ジェンダーの視点からは好感が持てるお話でした。淡い恋の物語に、和歌がひと役買い、相手の好意に無頓着だった小里が、少しずつ目覚めていく。ふたりの想いがひびきあう。そのあたりも、さらっと描かれています。若見はかなり頼りないけれど、逆に今の若者っぽい感じがしました。

マリンゴ:この作品は、古文や歴史に興味をもつきっかけの1冊になってくれるかもしれません。ただ、その場合、もう少し補足的説明があってもいいのではないでしょうか。たとえば、新羅、渤海、という国名。中学生以上なら習うでしょうが、小学高学年の子が読む場合、まだ習っていない可能性も高いですし……。あと、序盤から中盤にかけて、話がループしているように感じられました。もう少し、ギュッとコンパクトにしたほうが読みやすいかと思います。

ハリネズミ:駅の読み方が、はゆま、うまや、えきと3種類あるんですね。気にしないで読み飛ばせばよかったのかもしれませんが、いちいち、これはなんだったけと立ち止まってしまいました。総ルビにしてくれればよかったのに。小里が馬を早く駆けさせるのに魅力を感じているのはわかりますが、この時代に恋人の誘いを断っても駅長になりたいとまで執着するのであれば、駅そのものの魅力をもう少し書き込んでもらいたかったです。小里と若見がこの先どうなっていくのかが、私にはよく見えませんでした。安積親王や安人はとても個性が強くておもしろいのですが、物語の本質にかかわるわけではないので、メインストーリーから焦点をそらすことになっているような気もします。

カピバラ:この時代のこの職業への興味からどんどん読めるし、男がやる仕事を一生の仕事にしようとする主人公はなかなかかっこいいです。文章はナレーション部分が簡潔で歯切れがよく、好感をもちました。後半は馬が盗まれたり山火事などが起こり展開がありますが、途中までちょっとまどろっこしい感じでした。若見さんはすぐどこかに行ってしまい、またちょろっと現れるんだけどたいした進展もなく……というのが続いていくので。全体を3分の2くらいの分量にしてもよかったのでは?
アンヌ:とても楽しく読みました。奈良時代が舞台の小説はあまりないような気がします。女帝となる内親王を皇太子とした時代で、今の感覚と違う社会であることが、父親が駅長に返り咲くのではなく、小里が駅長になれる仕組みとしてうまく使われていると思います。ちょっと若見に魅力がなくて、歌も下手なのが残念です。でも、万葉集に「鈴が音の早馬駅の堤井の水を賜へな妹が直手よ」というのを見つけたので、長じた若見がこれを歌ったのなら楽しいな、などと考えました。表紙の絵の色も独特で、奈良の色彩感覚で描いたのだろうと思いました。

ルパン:小里が駅子になりたい気もちはとてもよく伝わってきました。飛駅が近づいてくるときの緊張感、近づいてくる蹄の音、駆け出してくる威勢のいい男たち・・・ものすごい高揚感です。登場人物たちの名前がまたいい。十喜女、恵麻呂、若見・・・聞きなれない分、日本の話なのにエキゾチックな感じがします。最後、小里が駅長になるところはものすごくかっこよかった。「おわりじゃない。」と啖呵切るところ。「あたしについておいで!」みたいな。こんな女の子がいたら惚れそう。惜しむらくは、クライマックスで小里が飛駅走らせるところ。若見といっしょに走ってもらいたかったなあ。なんで豊主なんだろう。思いっきり脇役なのに惚れそう。惜しむらくは、クライマックスで小里が飛駅走らせるところ。若見といっしょに走ってもらいたかったなあ。なんで豊主なんだろう。思いっきり脇役なのに。

コアラ:王道のストーリーで、読み応えのある物語でした。奈良時代の駅家(うまや)という設定もよかったと思います。知らない仕事の世界を知るおもしろさと、万葉集の歌とか歴史上の人物とか知っているものが登場するおもしろさがありました。ただ、細かいところで引っかかるところも多くて、作者が都合よく登場人物を動かしてしまっているのが残念でした。ルビについては、ページ初出にルビを振っているようですが、私も通常の読みでないものは全部にルビを振ってほしいと思いました。本文の組み方は、1行の文字数を少なくした組み方なので、ページを増やして読み応え感やずっしりとした感じを出した本の造りにしたのかな、と思いました。本文中の挿絵はちょっと幼い感じがしましたが、装画や装丁はいいですね。

レジーナ:馬の疾走感や、そのときに埃が立つ様子が目に浮かぶ本です。馬が盗まれたり、地震や火事が起きたり、読者を飽きさせない展開ですね。苦しい生活の中、大仏を作る市井の人の生きる姿も伝わってきました。

ネズミ:それなりにおもしろかったのですが、時代背景がよくわからず、もやもやしました。出だしから、駅家というのはわかったけれど、駅はどんな役割なのか、駅子は何をするかなど、なかなかつかめませんでした。また人の位や階層も、都の役人なのか地方なのか、どちらが上なのかなどつかめず、途中で頭がこんがらかってしまいました。登場人物の大人たちが、この物語の中から出てきたというよりも、ストーリーの都合に合わせて出てきた感じがして、今回のほかの2作品とは大人の描き方に違いを感じました。

:あえて設定を古い時代にしたのに、男の子の領域に挑戦する女の子、という、ずいぶんと昔ながらの物語になってしまっているのがいまいちかな。時代的な習俗や雰囲気はとてもよいのに、作者が現代を背負ってしまっているので、逆に、不自由な女の子、という古い価値観を無意識的に示してしまっています。

西山:時代がさかのぼると、ジェンダーのしばりが逆になかったりするのにね。

(2017年2月の言いたい放題)

駅鈴(はゆまのすず)

『駅鈴(はゆまのすず)』
久保田香里/著 坂本 ヒメミ/挿絵
くもん出版
2016.07

しじみ71個分:古代史のことはよくわからないけれども、史実はきちんと描いているのだろうという印象を受け、筆力のあるきちんとした作品だと思いました。天平時代の史実を脇に置きながら空想とも言える古代の世界を描き、かつジェンダーの問題も含めていたりしておもしろい。表現はかっちりしているけど、おもしろかった。馬が盗まれたり、山火事があったり、地震があったりと、途中からは展開もスピーディになり、読んでドキドキ感もありました。今回は3作品とも、動物が非常に大きなキーポイントになっていたのも興味深かった点です。

西山:私の勝手な読み方なのですが、あちこち現在のあれこれの隠喩のように読んでしまいました。例えばp112の70年前の戦。p249の双六にはまってしまうところでは、「カジノ法」を思い出したり・・・・・・。同じ著者の『氷石』(くもん出版)でも、そういう感触を覚えた記憶があるので、この作家は奈良時代を舞台にしても、現代への見方を結構込めている気がします。

さららん:小里が、女にはなれないと言われている「駅子」になりたいと強く願い、それをかなえていく過程が描かれていて、ジェンダーの視点からは好感が持てるお話でした。淡い恋の物語に、和歌がひと役買い、相手の好意に無頓着だった小里が、少しずつ目覚めていく。ふたりの想いがひびきあう。そのあたりも、さらっと描かれています。若見はかなり頼りないけれど、逆に今の若者っぽい感じがしました。

マリンゴ:この作品は、古文や歴史に興味をもつきっかけの1冊になってくれるかもしれません。ただ、その場合、もう少し補足的説明があってもいいのではないでしょうか。たとえば、新羅、渤海、という国名。中学生以上なら習うでしょうが、小学高学年の子が読む場合、まだ習っていない可能性も高いですし……。あと、序盤から中盤にかけて、話がループしているように感じられました。もう少し、ギュッとコンパクトにしたほうが読みやすいかと思います。

ハリネズミ:駅の読み方が、はゆま、うまや、えきと3種類あるんですね。気にしないで読み飛ばせばよかったのかもしれませんが、いちいち、これはなんだったけと立ち止まってしまいました。総ルビにしてくれればよかったのに。小里が馬を早く駆けさせるのに魅力を感じているのはわかりますが、この時代に恋人の誘いを断っても駅長になりたいとまで執着するのであれば、駅そのものの魅力をもう少し書き込んでもらいたかったです。小里と若見がこの先どうなっていくのかが、私にはよく見えませんでした。安積親王や安人はとても個性が強くておもしろいのですが、物語の本質にかかわるわけではないので、メインストーリーから焦点をそらすことになっているような気もします。

カピバラ:この時代のこの職業への興味からどんどん読めるし、男がやる仕事を一生の仕事にしようとする主人公はなかなかかっこいいです。文章はナレーション部分が簡潔で歯切れがよく、好感をもちました。後半は馬が盗まれたり山火事などが起こり展開がありますが、途中までちょっとまどろっこしい感じでした。若見さんはすぐどこかに行ってしまい、またちょろっと現れるんだけどたいした進展もなく……というのが続いていくので。全体を3分の2くらいの分量にしてもよかったのでは?
アンヌ:とても楽しく読みました。奈良時代が舞台の小説はあまりないような気がします。女帝となる内親王を皇太子とした時代で、今の感覚と違う社会であることが、父親が駅長に返り咲くのではなく、小里が駅長になれる仕組みとしてうまく使われていると思います。ちょっと若見に魅力がなくて、歌も下手なのが残念です。でも、万葉集に「鈴が音の早馬駅の堤井の水を賜へな妹が直手よ」というのを見つけたので、長じた若見がこれを歌ったのなら楽しいな、などと考えました。表紙の絵の色も独特で、奈良の色彩感覚で描いたのだろうと思いました。

ルパン:小里が駅子になりたい気もちはとてもよく伝わってきました。飛駅が近づいてくるときの緊張感、近づいてくる蹄の音、駆け出してくる威勢のいい男たち・・・ものすごい高揚感です。登場人物たちの名前がまたいい。十喜女、恵麻呂、若見・・・聞きなれない分、日本の話なのにエキゾチックな感じがします。最後、小里が駅長になるところはものすごくかっこよかった。「おわりじゃない。」と啖呵切るところ。「あたしについておいで!」みたいな。こんな女の子がいたら惚れそう。惜しむらくは、クライマックスで小里が飛駅走らせるところ。若見といっしょに走ってもらいたかったなあ。なんで豊主なんだろう。思いっきり脇役なのに惚れそう。惜しむらくは、クライマックスで小里が飛駅走らせるところ。若見といっしょに走ってもらいたかったなあ。なんで豊主なんだろう。思いっきり脇役なのに。

コアラ:王道のストーリーで、読み応えのある物語でした。奈良時代の駅家(うまや)という設定もよかったと思います。知らない仕事の世界を知るおもしろさと、万葉集の歌とか歴史上の人物とか知っているものが登場するおもしろさがありました。ただ、細かいところで引っかかるところも多くて、作者が都合よく登場人物を動かしてしまっているのが残念でした。ルビについては、ページ初出にルビを振っているようですが、私も通常の読みでないものは全部にルビを振ってほしいと思いました。本文の組み方は、1行の文字数を少なくした組み方なので、ページを増やして読み応え感やずっしりとした感じを出した本の造りにしたのかな、と思いました。本文中の挿絵はちょっと幼い感じがしましたが、装画や装丁はいいですね。

レジーナ:馬の疾走感や、そのときに埃が立つ様子が目に浮かぶ本です。馬が盗まれたり、地震や火事が起きたり、読者を飽きさせない展開ですね。苦しい生活の中、大仏を作る市井の人の生きる姿も伝わってきました。

ネズミ:それなりにおもしろかったのですが、時代背景がよくわからず、もやもやしました。出だしから、駅家というのはわかったけれど、駅はどんな役割なのか、駅子は何をするかなど、なかなかつかめませんでした。また人の位や階層も、都の役人なのか地方なのか、どちらが上なのかなどつかめず、途中で頭がこんがらかってしまいました。登場人物の大人たちが、この物語の中から出てきたというよりも、ストーリーの都合に合わせて出てきた感じがして、今回のほかの2作品とは大人の描き方に違いを感じました。

:あえて設定を古い時代にしたのに、男の子の領域に挑戦する女の子、という、ずいぶんと昔ながらの物語になってしまっているのがいまいちかな。時代的な習俗や雰囲気はとてもよいのに、作者が現代を背負ってしまっているので、逆に、不自由な女の子、という古い価値観を無意識的に示してしまっています。

西山:時代がさかのぼると、ジェンダーのしばりが逆になかったりするのにね。

(2017年2月の言いたい放題)