日付 | 2009年12月10日 |
参加者 | プルメリア、バリケン、ハリネズミ、ぷう、カワセミ、げた、セシ |
テーマ | 少年少女が旅で見つけたもの |
読んだ本:
篠原勝之/著
講談社
2008.1
版元語録:父さんがくれたマウンテンバイクの「UMI」に乗って、ミカン山から生まれ育った鯨の町へーー。それは、僕が大人になるために、自分に課した「宿題」だった。 *第58回小学館児童出版文化賞受賞
原題:MARKLIN OCH TURBIN by Ulf Stark, 2005
ウルフ・スタルク/作・絵 菱木晃子/訳
小峰書店
2009.08
版元語録:トゥルビンとメルクリンは、父をさがして旅にでます。でも、この兄弟は、隣の家よりむこうのひろい世界には行ったことがないのです。砂漠をめざし、ヘンテコ冒険旅行。ウルフのイラストもナンセンスで楽しい!!
原題:RULES OF THE ROAD by Joan Bauer, 1998
ジョアン・バウアー/著 灰島かり/訳
小学館
2009.07
版元語録:全国有名靴チェーン店でアルバイトをしている女の子は、天才的センスで靴を売るスーパー店員だ。ある日、オーナーの運転手となり全国を回ることになる。オーナーとのドライブで、彼女がつかんだものは……。
走れ UMI
篠原勝之/著
講談社
2008.1
版元語録:父さんがくれたマウンテンバイクの「UMI」に乗って、ミカン山から生まれ育った鯨の町へーー。それは、僕が大人になるために、自分に課した「宿題」だった。 *第58回小学館児童出版文化賞受賞
プルメリア:子どもが持ちやすい、手に取りやすいサイズの本。マウンテンバイクが大好きな少年が、離婚したお母さんの実家に行き、夏休みに自転車屋を営んでいるお父さんの家に戻ってくる。少年の葛藤が描かれている成長物語かなと思いました。お父さんと少年が、足の悪い犬を船に乗せて海にタイをとりにいく場面は大変ていねいにかかれていると思いました。両親が離婚をした家庭に育った子どもには、少年の生き方に共感する部分があるのではないのかな。お父さんのもとに戻ってきた少年に接する大人たちに、あたたかさを感じました。
カワセミ:決して悪い感じではないんですが、全体にいじましい感じがして、読んでいてあまり楽しくなかったですね。主人公も出てくる大人たちも、みなそれぞれの境遇で一生懸命に生きている姿がよく描かれているけれど、現状維持に精一杯で、正直に生きていてもなかなか殻をやぶれない、先へ進まないもどかしさがありました。「旅をする少年少女」というのが今回のテーマだったけれど、元の家に戻るだけだし、主人公があんまりジャンプしないし、お話も同じところにとどまっているので、物足りなかった。せっかく自転車なのだから、もっと爽快でも良かったと思います。
ぷう:すごくいやな感じがするわけではなく、わりと感じよく読めたのは事実です。ただ、ゲージツカのクマさんの作品だというのがまず頭にあったので、その印象が強くて。アングラの小劇場系の男性で、幼少期には、昔街角にあった黒い木製のゴミ箱にひとりで入って、板の隙間から見える外の世界を飽かず眺めていた、というようなエピソードがこちらの知識としてあるものだから、どうしてもそういう人が作った作品という感じで読んでしまいました。一言で言えば、一昔前の不器用な男の子のひと夏の物語で、そういうものとしては、なるほどなあ、と思って読めました。いいなあと思ったのは、大人が少年を主人公に書いたものにありがちなノスタルジーになっていないところ。子どもの成長が著者にとっての現在形として書かれているところかな。嘘がないなあと思った。それと、作者がかなりの釣り好きなので、海の怖さや獲物を釣り上げる快感といったものがよく書かれていると思いました。とにかく、男の世界、という感じで、正直だし嫌だとは思わなかったけれど、全体に世界としては古い。今の子にどう受け取られるのかなあ、というのは疑問として残りました。
セシ:私はおもしろく読みました。閉塞感のある田舎町で、出ていくわけにいかずに、淡々と生きていく父親、祖父というのがよく書けていると思いました。もう少し年長の子が主人公になった日本の作品は、大人の影がとても薄いけれど、これはまだ主人公が6年生で、大人のもとにいるしかない年齢だからか、大人の存在感がありました。意味のよくわからない、なぞなぞのような話をするジイチャンというのもいいですね。自転車修理や、タイを釣りにいったときにウロコがはりつくところとか、細部がきちんと書かれているので信頼できる感じがしました。ただ、タコヤキ屋のミサキちゃんのお父さんがコロをはねたと謝りにくるというのは、作り話っぽくなるので、なくてもよかったのではないかな。
バリケン:私も、気流しで坊主頭のあの人が、こういうものを書くんだなあと、まず、その点がおもしろかったです。文章も達者で、するすると違和感なく読めました。ただ、男の人は念入りに生き生きと書けていると思いますが、お母さんとか、みさきちゃんといった女の人の書き方が、イージー。みさきちゃんが登場する場面も、どっかで前に何度も読んだような……。作者は北海道出身ということなので、子ども時代の思い出をそのまま書いたわけではないと思いますが、思い出がベースにはなっているんでしょうね。時代背景のようなものがどこにも出てこないけれど、その時代につながるなにかがあれば、もっと奥深い作品になったのではと思いました。釣りの場面など、知らないことが出てくるのでおもしろかったけど。
ハリネズミ:これは、朽木祥さんの『風の靴』と争って、小学館児童出版文化賞を取った作品なんですね。よかったのは、細部の描写。たとえば、P63「茶の間の黒光りした太い柱。大きな古時計が、偉そうに一秒一秒、大げさな音を響かせている。時報を打つ前のわずかな時間、グズッとジイチャンが洟をかんでる音に聞こえた。ゼンマイがほどける音らしい」とか、釣りの場面など、観察が行き届いていて臨場感が出ています。洋が自転車で鯨の浜へ行くことを、単なる逃げではなく自分への『宿題』としているところも、いいですね。だけど、女の人や女の子の書き方には、物足りなさを感じました。お母さんは、なんで急に別居するんでしょう? 子どもの視点で進むのでくだくだ書く必要はないけど、なんか一言で背景をうかがわせるような言葉でもあれば、と思いましたね。みさきちゃんのイメージも、よくあるタイプ。うーん、悪くないけど、大傑作とは思いませんでした。コロにたこ焼きを食べさせるところは、どうなんでしょう? 犬にはイカやタコを食べさせるなって、よく言いますけどね。
げた:わりにシンプルな感じで、ストーリーはまあおもしろく読めました。気になったのは、お母さんのことがよくわからないところ。なんで、急に具合が悪くなったのか、お父さんとの関係もよくわからない。もう少し、お母さんについて書いてくれるとすっきりするのになあと、私も思いました。このお父さんの自転車屋さんもそうだと思うんだけど、町の自転車屋ってきっと経営が厳しいんだろうなと。だから、別居することになっちゃったんじゃないかなあなんて思いました。主人公の友だちのことも、ていねいに書かれていないんじゃないかな。みかん山の子どもたちが、いじめっ子なだけで終わっていて、一人一人があんまりわからない。みさきちゃんも、こういうのにはよく出てきそうなポニーテールできりっとした感じの女の子で、ステレオタイプというか、ありがちな設定だな。ただ、お父さんが漁で足をなくしたということについては、私の漁師の友だちが、魚を採っている時に腕をリールにはさまれて大怪我をしたという事故を体験しているので、現実感のある、身につまされる話だなと思いました。
カワセミ:186ページの、「液晶画面に点滅するちっぽけな一粒が、どこまでも広がる真っ暗な海に漂う、僕と父さんとコロに見えた」というところが、意味がよくわからなかった。操舵室からとびだしているのに、どうして液晶が出てくるのかな?
ぷう:魚群を探知するレーダーのことじゃないかしらん。179ページの5行目に出てきますけど。
カワセミ:「見えた」だと、その場で見ているみたいじゃない? 「思えた」だったらまだわかるけど。
ハリネズミ:あと、ちょっと盛り込みすぎの感も。お父さんは片足を失って、犬は下半身部髄。お母さんはウツで家を出て行き、僕はいじめられる。釣りもあれば、お祭りもある。船に乗れば遭難しかかる。いっぱいありすぎて、心理描写がうすくなっちゃったのかな。ドラマチックではあるんですけどね。
(「子どもの本で言いたい放題」2009年12月の記録)
トゥルビンとメルクリンの不思議な旅
原題:MARKLIN OCH TURBIN by Ulf Stark, 2005
ウルフ・スタルク/作・絵 菱木晃子/訳
小峰書店
2009.08
版元語録:トゥルビンとメルクリンは、父をさがして旅にでます。でも、この兄弟は、隣の家よりむこうのひろい世界には行ったことがないのです。砂漠をめざし、ヘンテコ冒険旅行。ウルフのイラストもナンセンスで楽しい!!
げた:よくわからないというのが、正直な感想です。言葉の裏のしかけや謎がいまいちわからないんですよね。私の頭が固いのかもしれないけど。旅に出て、不思議な体験をして、無事戻ってこれてよかったね、それだけ。全体がうまくつながらないんですよね。スタルクが書いて菱木さんが訳してるので、きっといい作品に違いないと思って読んだんだけど。よくわからないまま終わってしまいました。小さい子どもが素直に読んだほうがこの本のよさがわかるのかもしれないですね。
ハリネズミ:私もスタルクと菱木さんのコンビだからおもしろいに違いないと思って読んだんですが、よくわかりませんでした。寓話なんでしょうけど、骨格をつくっているものが伝わってこないので、もどかしい。家族っていう視点で見ると、お父さんを捜して旅をするんだけど、最後は「青い鳥」みたいに戻ってきたらそこに家族がいたっていう話ですよね。血のつながらないウルバーンと新たな家族をつくるんですもんね。欧米の児童文学には、血のつながらない人たちが新たな家族をつくる話がたくさんあって、これもその系統なのかもしれません。それにしても、サーカスの犬や女の人は、その後どうなっちゃったんでしょうね? 子どもの本ではないのかもしれませんね。
バリケン:私もスタルクと菱木さんのコンビなので、とても期待して読みました。兄弟で父親探しの旅に出て、おしまいに幻の家族ではない、血のつながっていない家族を作るという話なのかも……とも思いましたが、こういう作品は何を書いてあるかなんて考えながら読むべきではないのかも。作品の雰囲気や、いなくなったお父さんが飛行士のかっこうをしているというところから、『星の王子さま』へのオマージュなのでは?という気もしました。それでも、なにか手がかりがほしくて、「訳者あとがき」を読もうと思ったのですが、ないんですね! 訳者の菱木さんも、先入観なしで作品の世界にひたってほしいと思っているのでしょう。原書のタイトルは『トゥルビンとメルクリン』なのに、翻訳では「不思議な」がついているところを見ると、訳者にとっても不思議な作品だったのかも。でも、いやなものを読んだ感じはしないし、「ダチョウを飼っている、時計屋のおじいさん」のようなイメージは、のんきで好きです。明るさのなかに、ちょっと寂しさがある、美しい音楽を聞いたような……。
セシ:登場人物二人の世界がわかりませんでした。どう解釈すべきか、そのうちわかるようになってくるかと思って読み進めるのだけれど、最後まで読んでもやっぱりダメで。イエス様の人形をポケットに入れて旅に出て、157ページで飼い葉桶に寝かせるから、ある種のクリスマスストーリーなのかな。二人の会話がかみあわなさかげんがおもしろいのかもしれないけれど、フィクションの楽しみ方を知っている子どもでないと楽しめないのではないかなと思いました。見た目は3、4年生から読めそうだけれど、きびしそうですね。やっぱりYAでしょうか。だれに手渡したらいいのか、わかりにくい本だと思います。
ぷう:よくわからない本ではありましたが、味としてはかなり好きでした。相当好きかもしれない。年が離れたこの兄弟が、ふつうの仲良しでなく、お兄さんがかなり威張っているのに、弟がそれに不満を持つわけでもなく、なんとなく関節の外れたようなかくかくっとした関係で、それでいて結局はずっと一緒に過ごしていくという、この二人の関係の不思議さが妙に後に残りました。片方がもう片方を完全に支配しているわけでもなく、お兄さんが「本を読んであげよう」というと弟が「読まなくていいよ。考え事をしたいから」とすっと返すあたりは自由だし。かと思うと、二人でごっこ遊びのようにして砂を食べたつもりになってみたり。不思議で訳がわからなくて、でもなんだかおかしい。かえって低年齢の子のほうがいいのかな?と思ってみたり。わりと淡々とした感じなのだけれど、へんてこな二人のへんてこな関係を、変なやつ!とならずに書いてあるのが、この作者の力なのかな。最後に待っている人がいるっていうところも、なんとなく安心できますしね。
カワセミ:スタルクは、子どもの心理を絶妙に描いて、読者が一つ一つ納得できる描写をする人なので、この作品は意外でした。作者名を見ないで読んだらスタルクとは思わなかったかも。今まで書いたことのない雰囲気のものにチャレンジして、読者をあえて裏切ろうとしたのかしら。私もすぐに『星の王子さま』に雰囲気が似ているな、と思いました。34ページのミミズの出てくる場面、2人の問いと答えがちっともかみ合わないので、何を言いたいのかさっぱりわからない。わからないまま先に進んでしまう。おしゃれな雰囲気というのでもなく、ナンセンスというのでもなく、わけがわからないお話でした。
ぷう:このお兄さんって、ほんとうに変ですよね。だって、出かけるときだって荷物はほとんどお兄さんのもので、ひょっとすると弟のことなんかほんとうは考えていないのかも、と思わせるけれど、でも、いやなやつ!と言い切れないところがこの作品の特徴みたいな気がしました。
プルメリア:登場人物が少ない。二人のやりとりや行動はかみあわないけど、たくさんある挿絵にささえられています。兄をお父さんかなと思って読んでいましたが、ちがっていました。時計屋さんのガチョウの行動がおもしろい。砂漠の場面は「星の王子さま」風に見えました。「あとがき」がないのが残念。
カワセミ:スタルクの邦訳書は、はたこうしろうの挿絵が付いているのが多いけど、ちょっと絵の感じが似てますね。
(「子どもの本で言いたい放題」2009年12月の記録)
靴を売るシンデレラ
原題:RULES OF THE ROAD by Joan Bauer, 1998
ジョアン・バウアー/著 灰島かり/訳
小学館
2009.07
版元語録:全国有名靴チェーン店でアルバイトをしている女の子は、天才的センスで靴を売るスーパー店員だ。ある日、オーナーの運転手となり全国を回ることになる。オーナーとのドライブで、彼女がつかんだものは……。
プルメリア:この作品、すごくおもしろかったです。タイトルも表紙もいいなって思いました。プロローグからひきつけられて一気に読みました。おばあさんはアルツハイマーだし、離婚したお父さんが酔っ払ってアルバイト先にたずねてきます。家族の悩みがあっても、主人公ジェナの前向きに生きる明るい行動がすてきです。ジェナの靴に関する意気込み、専門的な知識、熱意をもって仕事をする姿勢に、最後までひきつけられました。
カワセミ:最近のYAのリアリズムのお話は、主人公が冷めた感じで、まわりの大人を簡単には受け入れないといったものが多いと思うんですけど、この子はいろいろなことを素直に受け入れる。まわりのどこかしら欠陥のある大人たちへの接し方を見ても、根本的な性格として人が好きっていうのがわかり、好感が持てました。悩みをかかえ、失敗もするんだけど、何とか良くしていこうっていう前向きなところ、まだまだ大人じゃないけれど、しっかりと自分の頭で考え、行動するところがよかった。ユーモアのある描写もあり、おばあさんの社長を乗せて慣れない運転をしてアメリカの道路を突っ走っていくっていうのも、その場面が見えてくるみたい。映画を見ているような感じでした。うまく起承転結がつけられていて、最後は主人公なりの成長がわかって満足感がある。ものを売るということの哲学もおもしろかったです。
ぷう:私は、このタイトルに引っかかりました。シンデレラ、といわれたとたんにこちらに、「ふうん、女の子が王子様に見いだされるとか、誰かに見いだされてハッピーエンドになるとか、そういう話なんだ」という構えができちゃって、それが邪魔になる気がしました。作品としては、自分が打ち込める仕事を見つけた子のはつらつとした感じが描かれていて、サクサクと読めました。途中で社長に引き抜かれるあたりは、いかにもアメリカという感じ。ある種のアメリカン・ドリームなんですね。それに、この子がすさまじくタフな社長に負けずに運転手を務めていく、そして時には社長に口答えするなんていうのも、なかなかスカッとしていて気持ちいいですね。結末も、この子にとっては外の世界である店のこともお父さんのこともうまく終わって、読後感がいい。一つだけ、途中でハリーさんという店長が急に死んでしまうのだけは、あれ????と思いましたけれど。とにかく、どんどん読み進められる本でした。
セシ:まだ途中までしか読めなかったのですが、ぐいぐい読まされました。職業倫理というのかな、安かろう悪かろうじゃなくて、本当に大事なのはこういうことだよというメッセージが根本にあって、大人の世界も捨てたもんじゃない、生きるっていいな、と思わせてくれます。
ぷう:この子にとっては外の世界である店のこと、あるいは社長との関係でこの子自身が成長して、それが最後に身近な父親との関係で現れる、というのはうまい造りだなと思いました。それに妹のことも、書き込んではいなくても、それなりにきちんと決着をつけようとしているみたいですし。主人公は妹にずっとコンプレックスを持っていて、でもその一方で妹を父親から守っていたのだけれど、最後には妹もその事実を知る、という話を入れたのは、作者が妹がらみの筋を決着させるためですよね。
ハリネズミ:さっとおもしろく読んだし、いいところについてはみなさんと同じ感想なんですけど、ちょっとひっかかるところがあってね。女社長さんの言葉なんですけど、「運転はていねいかね」とか、「……かね」というのがしょっちゅう出てくるの。「……かね」なんて、70代の女性で使う人いるのかしら?
セシ:男っぽくしたかったのかも。
ぷう:威圧感のある人にしたかったんですかね。
ハリネズミ:その口調のせいで、マンガっぽくなってしまってる気がしました。それから、最後のページの子ガモがいるというところで、「ここにも戦って勝った子がいる」っていう言葉が出てくるんですが、そこは物語の本質がすりかわっちゃうんじゃないかなと不安になりました。この物語は、競争社会で戦う話ではなくて、自分自身とたたかって一歩前へ進むという話だと思ったのに、この言葉があるせいで、妙に安っぽくなってませんか? リアリティという面では、アメリカの株式会社がいまどき世襲、っていうのもマンガっぽいのかな。軽いノリだから、逆に本を読まない子でも読めるというところにつながってるのかもしれませんけど。
カワセミ:リアリティという点からいえば、誇張されているところがあるわよね。
げた:コミックを思わせるような感じ。だから、リアリティってことについては、16歳にしては何十年も人生体験や職業体験がありすぎる感じがしたけど、話としてはそのほうがおもしろいのかな。拝金主義で、利益さえ上げればその過程はどうでもいいという今の風潮の中で中・高校生に警鐘を鳴らすという意味では、現実にはありえない話だろうけど、こんな本があってもいいかなと思いました。こういう題材をここまで扱っている本はあまりないですよね。単により多くの金を稼ぐことを目的にするのじゃなくて、仕事や商品に心をこめて、お客さんに喜んでもらえることを第一に考えることそんなメッセージがあふれている本です。だから、大人にもおすすめの本かな。
ハリネズミ:そういう職業倫理のようなものは、『幸子の庭』(本多明/著 小峰書店)でも取り上げられてましたね。
バリケン:『こちらランドリー新聞』(アンドリュー・クレメンツ著 講談社)も、職業を扱っていましたね。
ぷう:この作品は、利益第一のウォール・ストリートとはまた別のアメリカの伝統的で健全な職業倫理を描いた作品でもあって、だから好感が持てるのかもしれませんね。
(「子どもの本で言いたい放題」2009年12月の記録)