日付 | 2013年1月31日 |
参加者 | あかざ、ajian、シア、ハリネズミ、プルメリア、みっけ、ルパン、レジーナ |
テーマ | 恋と秘密 |
読んだ本:
原題:AVALON HIGH by Meg Cabot, 2006
メグ・キャボット/作 代田亜香子/訳
理論社
2007.02
版元語録:その人は谷にいた。そして、こっちを見てほほえんだ。この笑顔には、なぜだか記憶がある。まったくの初対面のはずなのに、どうしてあたし、このほほえみを知っているの? ひとめぼれ? それとも前世の恋人?? 転校した学校で巻き起こる世にも不思議なラブストーリー。
原題:MATCHED by Allyson Braithwaite Condie, 2011
アリー・コンディ/著 高橋啓/訳
プレジデント社
2011
版元語録:結婚も、職業も、死さえも…すべてが決められた“偶然の起こるはずのない社会”。そこに暮らす17歳の少女の運命を変える選択とは---。『嵐が丘』『風と共に去りぬ』そして、『トワイライト』に次ぐ新たなラブロマンスの傑作。
荻原規子/著
角川書店
2008.07
版元語録:世界遺産に認定される玉倉神社に生まれ育った泉水子は突然、東京の高校進学を薦められて…。新感覚ファンタジー。
アヴァロン〜 恋の〈伝説学園〉へようこそ!
原題:AVALON HIGH by Meg Cabot, 2006
メグ・キャボット/作 代田亜香子/訳
理論社
2007.02
版元語録:その人は谷にいた。そして、こっちを見てほほえんだ。この笑顔には、なぜだか記憶がある。まったくの初対面のはずなのに、どうしてあたし、このほほえみを知っているの? ひとめぼれ? それとも前世の恋人?? 転校した学校で巻き起こる世にも不思議なラブストーリー。
みっけ:この3冊の中では、一番苦手だった気がします。なんかもう、いかにも女の子があこがれそうなアメリカの富裕層の生活そのものという感じで、高校生がヨットを持っていたりする話の展開に、げんなりしてしまいました。それと、アーサー王の生まれ変わりがどうとかこうとかと、アメリカ人は因縁めいた話や新興宗教めいたことが好きなんだなあと思い、それもあって「またか……」という気分になりました。別に、読みにくかったわけではないんですが、全体としては、あまりおもしろいと思えませんでした。すみません。
ルパン:私、3冊のなかで、これ一番好きだったなあ。この男の子のベタさがたまらない。絶対いないような、こういうリアリティのないキャラ、好きなんですよ。アーサー王のことあまり知らなかったんですけど、おもしろかったです。『アーサー王と円卓の騎士』(シドニー・ラニア編 石井正之助訳 福音館書店)は最後まで読めたことがなかったんですけど、うちの本棚にあるから今度こそ読みます。それを最後まで読めていたら、この本もっとおもしろかったのかな。日本で言うと「義経の生まれ変わり」みたいな設定なのかもしれませんね。それにしても、結構ゴシップ記事的要素満載。後妻が本当のおかあさんだったとか。児童文学でここまでやっちゃっていいのかな、って思うくらい。その前の夫を危ないところに行かせちゃうなんていうのは、旧約聖書のダビデとウリヤを連想しましたが、欧米のほうではアーサー王のほうが浸透しているのかな。ともかく一気に読みました。つっこみどころ、色々あったかもしれないけど、楽しかったから全部忘れちゃいました。
レジーナ:ひとりよがりにならずに読者をひきつけるユーモアというのは難しいものですが、キャボットはユーモアにすぐれていて、絶妙な味わいがありますね。たとえば「パーティーでワカモレサラダの横は背の高い女の子の定位置」や「(主人公のようなスポーティーな女の子たちが)(学園のアイドルである)チアリーダーの同級生の前を水着で歩くなんてありえナイ」など……。「キモチワルい」などカタカナを多用した表記が、少し不自然でした。高校生の会話だからそうしたのかもしれませんが、かえって現代的でなくなっているように感じました。
シア:今回選書係で入れさせていただいたんですが、2007年でちょっと前の作品になりまして、1巻で完結の本です。学校でも人気があります。アーサー王が題材ということで読んでみたのが、私とこの本との出会いですね。話はわかりやすいので先の展開などは読めてしまうんですが、とにかくテンポがよくて、女の子が好きそうな本です。キャピキャピしているので、『カッシアの物語』とは対照的ですね。なごむなー、という感じでした。絶対いないんですけど、転校先にこんな人たちがいたら明るい世界ですよね。いいなーと思いますね。挿絵はがんばってほしかったな。とくに、中がいまいちですよね。海外アニメっぽい絵ですよね。口語訳の言葉使いはちょっと古臭いところはありますが、『八月の暑さの中で』(金原瑞人/編訳 岩波書店)ほど古臭くはないかな。今でも聞かない訳ではないので。
プルメリア:副題の『恋の伝説学園へようこそ』はどうかな、ちょっと違うかなって思いました。主人公の家がプール付きの家に住むお金持ち。男の子が主人公の家に遊びにいくのが自然体で、ガールフレンドもいるのに、フレンドリーな性格なのかな。
ハリネズミ:なにしろアーサー王なんだから、何でもありなんじゃないの?
プルメリア:どんな時にも自然体で入っていけるウィルの性格がいいな。ウィルがアーサー王伝説のエレインじゃなくって、湖の姫なのには驚き、ホッとしました。この作家の想像性はおもしろいなって思いました。ウィルがいい方向にすすんでいくのが、漫画的でもあり、読み手を読ませるのもよかったです。題名がちょっときびしかったです。
シア:生徒が「アーサー王って何?」って聞いてきたりするので、円卓の騎士の話をしたり、関連図書を貸してあげたりしていますね。
ハリネズミ:アーサー王やその周辺の人物たちは、イギリスの子どもたちにはおなじみだけど、日本の子どもにはわからないですよね。それに、あまりにもリアルじゃないから、どう読んだらいいのか、日本の子はとまどうんじゃないかな。私はあんまりおもしろくなかったな。本が好きな子にとっては、ほかのアーサー王ものを読んでみる入り口になるかもしれませんね。でも、この作品自体はマンガですよね。物語の中のリアリティもぶつぶつ切れてるし。かといって、エンタメだとすると、日本の子には背景がわからない。中途半端なんじゃないかな。
シア:妙なライトノベルよりいいかなって。たとえばクトゥルフ神話とかマニアックなものに詳しいのに、逆に当たり前の神話を知らないような子が多くて、変なところが抜けているっていうか。お母さんたちに読んでもらっていないのかなって。
ハリネズミ:お母さんたちも古典的なファンタジーはもはや読んでないんじゃないですか? でも、こんなリアリティのないものを読んで恋を夢見たりすると、とんでもないことになりそうですね。
シア:『レッドデータガール』とか文庫で出ているものは、文庫で図書館に入れてくれって生徒に言われますね。やはり、荷物が多いので小さいほうが持ち歩きやすいようです。
(「子どもの本で言いたい放題」2013年1月の記録)
カッシアの物語
原題:MATCHED by Allyson Braithwaite Condie, 2011
アリー・コンディ/著 高橋啓/訳
プレジデント社
2011
版元語録:結婚も、職業も、死さえも…すべてが決められた“偶然の起こるはずのない社会”。そこに暮らす17歳の少女の運命を変える選択とは---。『嵐が丘』『風と共に去りぬ』そして、『トワイライト』に次ぐ新たなラブロマンスの傑作。
プルメリア:この作品から『ザ・ギバー〜 記憶を伝える者』(ロイス・ローリー作 掛川恭子訳 講談社/『ギヴァー : 記憶を注ぐ者』島津やよい訳 新評論)を思い出しました。マッチバンケットとかファイナルバンケットとか。自分の考えもセーブしなきゃいけない。こういう管理社会ってすごいなって思いました。カイは冒険心があり危ないことをするのがスリリングです。また生き方や考え方が魅力的、主人公がカイにひかれていくのがよくわかりました。今の社会とは違いますが、まったく違うわけではない気がします。いろんなことを考えさせてくれたこの作品に出会えてよかったと思います。
あかざ:3・11以降、書き手も読み手も、意識が完全に変わったんじゃないかと思いますね。『ザ・ギバー』を読んだころは、ディストピアは漠然と未来にあるかもしれないものだと思っていましたが、いまでは現実そのものじゃないかと感じています。この物語も、高齢者などの弱者切り捨てとか、情報管理とか、仕分けとか、読んでいるうちに今の日本のことを書いているようで……。もちろん作者の意図は別のところにあるのかもしれませんが。ただ、近未来の或る社会を描こうとしたのであったら、それほどしっかり構築されているとはいえない……。
シア:近未来物というより、現代物っぽいなって思いました。『トワイライト』(ステファニー・メイヤー著 小原亜美訳 ヴィレッジブックス)シリーズを読んでいて、その次に読む本と銘打たれていたんで読んでみました。カッシアたちと同じくらいの年代の子が、自由の本当の意味を考えてもらうにはいい本だなって思いました。ただ、一人称でぶつ切りの言葉が多いので、文章として読みにくく、そこは少しつらかったですね。全体として起伏にかけるのは第1巻だからでしょうか。果たして日本の子どもにはこれが読めて、そして売れるのかなと心配になりました。それに、装丁がいただけないですよね。カバーがないほうが素敵です。この挿し絵、考えているのでしょうか? 服も未来っぽくないですよね。いい雰囲気のシーンでも、この挿し絵でムードぶち壊しです。話のところどころに古典作品の引用があって、感動しました。本が失われていく社会というのは、『華氏451度』(レイ・ブラッドベリ著 宇野利泰訳 早川書房)を思い出しました。作者や主人公が文学的な物が好きで、こういう風に扱ってもらえると、読み手側、とくに若い子に好意的に受け入れてもらうようになるので、ありがたいなって思います。それにしても、女の子がカイを探しにいくというのは、アンデルセンの『雪の女王』みたいでいいですね。
ルパン:今日の3冊の中では、私は読むのが一番大変だったかな。全体のテーマとしては、新しいんですかね。『ザ・ギバー』は読んでいないのですが、オルダス・ハクスリーの『すばらしい新世界』を思い出しました。ちょっとわかりにくいところが多かったかな。エアトレインとか、あまりイメージが浮かんできませんでした。最後のあとがきを読んで、そうだったのか、って思ったところもたくさんあったし。「逸脱者」とか「異常者」とか、あまり具体的な説明がなくて、物語に入っていかれない部分もありました。おじいさんの最後も、どんな風に生き返るのか、とか。社会の仕組みそのものがわかりにくい、というのが足をひっぱっちゃったかな。ただ、読むのは大変だったけれど、続きは気になります。続編が出たらぜひ読んでみたいです。
みっけ:SFはあまり得意でありません。というのは、まったく新しい世界を舞台にしたお話は、書く側も背景を構築するのが大変だろうけれど、それにつきあう側もかなりエネルギーがいるので、あまり手に取らないんです。映画なんかで視覚的に見せられるのであればまだ楽なんだろうけれど、今自分がいる世界とはまったく違う世界を書いてある文字から立ち上げて頭の中に思い描くというのはそうとうエネルギーのいる作業でしょう? この作品は、どなたかがおっしゃっていたように、そのあたりにあまりエネルギーを使っていなくて、社会の仕組みこそ違え、舞台設定はほとんど現代と変わらない感じになっている。(ちょっと近未来的な乗り物は出てきますけれどね。)すべてを管理してすばらしい世界を作るというディスユートピアの話もあまり好みではないけれど、この作品は、ふたりの男の子の間で揺れる女の子の心に焦点が合っているのであまりディスユートピアに引っ張られず、それなりにさくさくと読めました。恋模様が結構丁寧に書かれているのがおもしろくて、つづきはどうなるのかな、と思いました。これは3部作の1冊目なので、ここには書かれていないことも、次の2冊で書き込んでいくのかもしれませんね。一見ソフトだけれど、実は恫喝も含めてかなり徹底した管理がなされている社会で、それ以外の状況を知らない人々が別に歯をむくこともなく暮らしていくというシチュエーションは、私たちが暮らす現代とかなり重なりますよね。こういう本は、課題にでもならなければ自分からは手に取らなかっただろうから、読む機会があってよかったと思います。
プルメリア:岡田淳さんが講演会で「子ども達は最初、本の背表紙、次は表紙、最後に厚さを見て本を選ぶ」と言ってらっしゃいましたね。
みっけ:これって、デビュー作なんですよね。だからやっぱりまだまだうまく書けていないところがあるんじゃないでしょうか。ひとつの世界をリアルに再構成するにはまだ力が足りないのでは?
ハリネズミ:『ザ・ギバー』は物語世界がきちんと構築されてて、読者もそこに入って行けたけど、この作品は、よくわからないところがたくさんあります。たとえば、管理する側が、わざとこの主人公を動揺させる仕掛けを設定するんだけど、なんでそんなことをするのか、わからない。だから謎ばっかりで世界に入っていけない。
みっけ:人工遺物を回収するというのは、人々の物語をうばっちゃうということなのではないかしら。ここに書かれている社会では、個人に固有なものはいっさい許されず、それをソフトな形で排斥しているんじゃないでしょうか。
ハリネズミ:文字は書けないという設定だけど、コンピュータでは文章をつくっているわけよね。だから筆記体は書けなくても活字体なら書こうと思えば書ける。だけど、だれも書かない。それはなぜなのかな? 詩をおぼえておこうとか何か意志があれば、人間は工夫するはずなんですよね。薬を飲まされて忘れるって設定かもしれないけど、この子は薬を飲まなかったりするわけだし。訳もしっくりこない。たとえばp445に「ベンチは石をくりぬいて作ったものだった。博物館の薄暗がりに何時間もいたせいで、冷たく固く感じられた」ってあるけど、どうして薄暗がりに長くいると、このベンチが冷たく固く感じられるの? 原文のせいか訳のせいかわからないけど、そういうしっくり来ない描写を延々と読まされてちょっとうんざりしてきました。
みっけ:この作品は、どちらかというとディスユートピアよりも恋愛に力点があるような気もします。恋愛は不自由で障害物が多いほうが盛り上がるから。オーウェルなんかは管理社会そのものを書こうとしていたけれど、この作者の力点は社会にはないのかもしれない。
レジーナ:ポプラの木の描写がとても美しく、私もはじめて英国でポプラを見たときに、「あの光っている木はなんなのだろう」と心うたれたのを思い出しました。テニソンの詩の引用も効果的でした。たきぎの墨で字を書いたり、本が燃やされた図書館の跡地にたたずむ場面では、土を耕したり、物語を分かちあうという人間の本質を想いました。「字を書く」というのは、自分の考えをあらわすことであり、ときには恥や痛みをともなう行為です。そうした身体に根ざした感覚を、人の生きる意味につなげようとする試みが、この本の根底にあるのではないでしょうか。
(「子どもの本で言いたい放題」2013年1月の記録)
RDGレッドデータガール〜 はじめてのお使い
荻原規子/著
角川書店
2008.07
版元語録:世界遺産に認定される玉倉神社に生まれ育った泉水子は突然、東京の高校進学を薦められて…。新感覚ファンタジー。
みっけ:この作家の本は、基本的に好きです。日本の昔の出来事やなにかをうまく取り入れて、違和感のない作品を書く人ですよね。この作品でも、修験道や万葉集など日本古来のものを取り入れているんだけれど、それが単なる表面だけにとどまらず、うまく物語に取り込まれ、織り込まれている。いいなあと思いました。泉水子が無意識に作り出して結局はもてあましてしまう式神にしても、なるほどと思えました。自然やなにかの描き方が上手で、読み手を独特の雰囲気にひきこんでいく腕前はさすがですね。それにこの作品は泉水子の成長物語にもなっている。まったく無自覚だった女の子が、最後のところで自分が作ってしまったものの力関係をもとにもどすわけで、この先どう成長していくのだろうと思わせる。ちなみに私はこれに続いて第5巻まで読んじゃいました。
ルパン:おもしろかったけど、主人公の女の子が私の好みではなかった。目立たなくておとなしくて、とくに取り柄もないのに、まわりのお友達にすごくよくしてもらえる、って、なんだか少女漫画みたい。かえって、リアリティのない登場人物のほうが魅力的でした。たとえば和宮君とか。
シア:今回読んだ3冊の中では一番まとまって、やはり荻原さんだなって思いました。その先が読みたいなって思える作品になっている。自然の描写が少ない『カッシアの物語』に比べ、日本の自然は美しいなと改めて思いました。男の子も魅力的なんですよね。荻原さんの作品でひねくれた男の子って珍しいような気がしたので、驚きながら読みました。巫女とか山伏とかマニアックな要素をふんだんに盛り込んでいるんですけれど、上手にこなしていますね。
あかざ:とってもおもしろかったです。第2巻も読みたい! エンタメとして、見事に書けていると思いました。主人公の泉水子も、それほどうっとおしいとは思いませんでした。これから変わっていくところを描くのなら、これくらい強調しておいたほうがいいのでは? 最初は『十二国記』(小野不由美著 講談社・新潮社)とちょっと似てるかなと思ったのですが、こちらは日本の、それも都会で平凡に暮らしているものには見えてこない自然や、山伏のような日本の地に根ざしたものを描いているところが、とても魅力的でした。泉水子が山頂で舞を舞うところが素敵ですね。あの歌は、万葉集にあるものなのですね。
プルメリア:思ったことをなかなか言えずどうしようかと迷っている子どもは結構いるので、そういう性格を持っている主人公がいてもいいなと思いました。また、そういう子たちにとって自分と似ている性格の主人公がいる作品に出会うこともいいなって思いました。ふだんの生活では知らない神社のしきたりがたくさんあり、かなり山奥の大自然が舞台。山伏は普通の子ども達にはわからない存在ですが、このように意味深なものとして書かれているのもいいなって思いました。主人公の両親の職業は他の仕事とはかけはなれていたり、男の子のお父さんがヘリコプターで学校に来たり、以前読んだことのある荻原ワールドではないなって思いました。東京の商店街で主人公が帽子を買うシーンが、かわいいなって思いました。和宮くんが座敷童とは驚きました。この辺りから荻原ワールドがいよいよ出てきた感じ、作品がおもしろくなってきました。主人公の好き嫌いというよりも、作品のおもしろさ。わくわくしました。次作をはやく読んでみたいです。
レジーナ:それまで人まかせだった主人公が、「自分から知ろうとしなければ、見過ごしてしまう」と感じたり、また「(舞を踊る姿を)見られるのが怖いのは、傷つくのがこわいから、自分で自分を否定しているから」だと気づく場面に、成長を感じました。最後の対決は、あっけなく終わってしまったように思いましたが……。人品(じんぴん)」など、普通の女の子の言葉にしては難しい表現もありました。
ajian:漫画というか、若い女性向けの、Chik-Litみたいだなって思いました。自分に全然自信のない地味な女の子には、じつは魅力的な背景があって……っていうところから、強気で、なんだかんだと自分を守ってくれる男の子が登場するところまでふくめて。ベタな設定と展開が女性向けの通俗小説にのっとっている感じですよね。別にそれはそれで、個人的には大好物で、まったくかまわないんです。ただ、そういう小説で、いわば型を書いていても、どうしてもはみだしてしまう人間性や作家性というのがあって、そこがおもしろいところだと思うんですが、その点、これは少し物足りないなと思いました。あと会話が地の文に比べるとこなれていない。たとえばp10。「山奥に居つづけなくてはならない理由はないと思うよ。義務教育のあいだは、保護者と住むのはしかたないけれど、高校生にもなったらね。ご両親には、なにか言われているの?」ですが、いかにも説明という台詞ですよね。いや、基本的にはおもしろいし、うまく書かれていると思います。設定で、日本の民間信仰をとりいれているところも、いい着眼点だなと思いました。最近ずっと内向きだといわれていますが、裏を返せば、ナショナルなものへの関心が高まっているということだと思います。そういうものを取り入れて魅力的な物語に仕立てているから、これは売れているんじゃないでしょうか。
ハリネズミ:私は今回の3冊の中でおもしろかったのは、これだけなんです。エンタメではあるけど、世界がしっかり構築されてるし、それぞれのキャラもしっかりつくってある。ラノベ読むんだったら、このシリーズ読んだほうがよっぽどおもしろいと思うな。やっぱり荻原さんはうまいですよ。山伏みたいなものを持ってくるのも、さすがです。エンタメだって、ふにゃふにゃしたのじゃなくて、しっかり考えてつくってあるのを読んでほしいな。
ajian:アヴァロンは、これこそ Chik-Lit だなって思いました。アーサー王伝説がモチーフになっていますが、一般の人はあまり詳しくないと思うので、「湖の姫」っていわれても、遠いんじゃないかなと思いますね。この語りの調子は・・・中身がなくても、文体だけで魅力的な本ってあるじゃないですか。そうなってくれるとよかったんだけど、はっちゃけてるだけで、どうも乗れませんでした。あとは、ベオウルフとか、アレックス・ヘイリーとか、せっかく出てくるんだから、注があるとうれしい。
(「子どもの本で言いたい放題」2013年1月の記録)