トンケ・ドラフト『王への手紙』
『王への手紙(上・下)』
原題:DE BRIEF VOOR DE KONIG by Tonke Dragt, 1962
トンケ・ドラフト/著 西村由美/訳
岩波少年文庫
2005.11

版元語録:騎士になるための最後の試練の夜に、思いがけず重大な使命を与えられた少年ティウリは、隣国へと旅立つ。謎めいた隠者、陰険なスパイ……手に汗にぎる、オランダの人気冒険小説。

げた:ゲーム感覚で読みました。王へ手紙を届けるために旅に出て、いろんな敵がやってきて倒して、使命を成就して、またもとのところへ戻ってくるという、行きて帰りし物語の基本的なスタイルをとっていますよね。最終的にうまくいくことがわかっていても、それに至る過程を楽しむエンターテイメントですね。漢字が多いので、私の図書館ではYAのコーナーに置いていますが、小学生でも、読めると思います。オランダで石筆賞をとったらしいですが、なるほどという感じでした。

サンシャイン:おもしろく読みました。トールキンの『指輪物語』が出たのが55年で、これは60年ですから、やはり『指輪物語』の影響を受けているのでしょう。地図を見てもわかるように、単純な道筋なんですね。最初の辺りのお話はロールプレイングゲームのような気がしました。しゃべっちゃいけないという約束を守って騎士になるというのは、子どもたちも喜ぶでしょう。その約束を破って冒険に出るわけですから。

うさこ:最後まで読んでいなくて、途中まで読んでの感想なのですが、冒険ものの王道ですよね。正しい者が最後に勝つというのがなんとなくわかっているので安心して読めます。こういうタイプの物語は、読者はきっと好きだろうなと思います。この話の続きとして、ティウリとピアックが主人公の別の物語も昨年末に訳本が出たんですよね。

アカシア:クラッシックな感じのするお話だなと思いました。でも、その割に描写がきびきびしているので、わくわくしながら読める。ストーリーテラーとしての力が作者にあるので、おもしろかったですね。ゲーム的な作品というより、こういう冒険物語を元にしてゲームのストーリーがつくられていったんだと思います。だけどこれは、ネオファンタジーと違って登場人物の人となりや特徴などもちゃんと描かれている。ただ、一つひっかかったのは、最初の場面で、ティウリが割と簡単にドアを開けて出ていってしまうように思えたこと。なにがあっても開けてはいけないという決まりなのだから、もう少しためらったりした方がよかったのではないかと。そうすると最後の方でも、「自分はあのときこう決めたんだから」という割り切りがはっきりと出来てよかったのではないかと思いました。わからなかったところは、(下)124ページのボートを漕ぐシーン。ピアックが「こぐの手つだえない?」ときくと、ティウリが「いいよ」と言うんだけど、ピアックには漕がせない。なぜかな?

ウグイス:「いいよ」は、英語で言うと「Yes」ではなく「No thank you」なのよ。でも文面をみていくと、まぎらわしいですね。

愁童:ぼくは、あまりおもしろくは読めなかった。かなり冗長な感じもするし。「岩波は何をメッセージとして伝えたくて今の読者にこの物語を届けるのかな?」とききたい感じがする。ティウリ家柄もいいし騎士になるけど、ピアックの方は盾持ちにしかなれないわけでしょう。格差社会を肯定しているし、今の子に読ませてどうしようっての? 王様が絶対存在だっていうのも気になるしね。主人公は秘密の暗号で書かれた自分では意味の分からない「王への手紙」を最後まで分からないまま届けるんだよね。文面が最後まで分からないのも不満。ずるいよー、って感じ。こんなストーリーは、劇画で見せれば充分なのでは。

一同:(そうではないという反論あり)

ポロン:この激しい議論のあとでは申し上げにくいのですが……私の感想は「騎士は、カッコイイなあ」です。わくわくしながら読みました。ちょっと残念だったのは、章タイトルで内容がわかってしまうところ。「さあ、どうする? どうなる?!」と思いながら読んでいるのに、章が変わるところで、その後の展開がわかっちゃうところがいくつかありました。章立てがこまかくて、それぞれ章タイトルがついているのは、読者にとっていい道しるべになると思うのです。ここにもうちょっと工夫があれば、「この先、どうなるの?」心が、さらに盛り上がったと思うんだけど……。

ミッケ:するすると、おもしろく読みました。けっこう引っ張られて、ぐいぐい読み進む感じだった。この作品は、西欧の古くからの伝説や伝承がいっぱい積み重なったがっしりとした土台をしっかりふまえていて、その安定感が、読んでいてとても気持ちいいんだろうと思います。まあ、その上で何を書くかが問題になるわけだけれど。いろいろな場面での主人公の葛藤がちょっと物足りない気もしたけれど、要するにこの子は根がとてもいい子なんだなあと、一応納得。読後感がさわやかで、特に最後のところで、いったんは別れたピアックがもう一度現れるシーンはとても気に入りました。それと、最初のほうで、灰色の騎士の正体が読者にも主人公にもわからず、向こうも主人公のことを誤解しているという設定は、なかなかスリリングでじょうずだと思いました。

もぷしー:個人的にファンタジーには食傷していたので、ちょっと抵抗感もあって読み始めたんですが、ティアックとティウリが前向きでさわやかなのと、山河など旅の情景が心が洗われるほど美しかったので、好感を持って読み進められました。人名、国名などがたくさん出てくるため混乱しがちな構成なのに、それを騎士の色で区別して、わかりやすく表現しているのが賢いと思います。ちょっと気になったのは、人物の心の葛藤が浅いという点。アクションシーンよりも迷うシーンが多いのがこのお話の良いところだと思うのだけれど、迷っている人物のその葛藤が浅いのが物足りない。迷っても、「まあ、いいやとりあえずやってみよう」的に展開してしまう。善と悪の分け方も、気になりました。父王が「弟が邪悪だ」と言い切るシーンがあるけれど、我が子を悪と弾劾するまでの心の葛藤があまり書かれていないと思うので。スルーポルも最も怖い存在として引っ張ってきたのに、とらわれたとき、自分が何を考えて徹底悪に走ったか上手く告白できていない気がするんです。そこが書かれていればもっと良かったかな。

アカシア:我が子を悪と弾劾するって、286ページの、「王は言った。『いま、わかったであろう。エヴィラン王は、いまなお、われらの敵だ。彼に、この国を統治させてはならぬ。なぜなら、彼は悪だから! 彼はわたしの息子だ。わたしは彼を愛している。だが、彼は、悪だ。彼が王になれば、この国じゅうが苦しむであろう!』」っていうところですか? 私はここは、父親である王としての葛藤が表現されているんじゃないかって思ったけどな。スルーポルも、私には、悪人としての矜持みたいなものが伝わってきましたよ。それに、善悪をはっきり分けるのは、古典的ファンタジーの一つの特徴だからね。

紙魚:私も、286ページのこの部分はちょっとひっかかりました。ただ、善悪の問題というよりは、訳文の影響もあるかなという気がしました。「なぜなら、彼は悪だから! 彼はわたしの息子だ。わたしは彼を愛している。だが、彼は悪だ。」の部分などは、確かに原文ではそうなっているのでしょうけど、もう少し余韻があるような言葉で訳したら、印象もちがってたように思います。こういう文って、訳の特徴が出るところだと思うんですよね。

ウグイス:私も楽しく読みました。章数が多く、物語を小分けにして次へ次へと引っ張っていくので読みやすい。テンポの速さがいい。冒頭からすぐに冒険が始まるので、そんなに読書慣れしていない子でも、知らず知らずのうちに読み進められると思う。最後は成功するとわかっているから、途中にどんな試練があっても安心して読んでいけるのもいいですよね。話が長いし、いろんな人物がカタカナ名で出てくるので区別つきにくいんですけど、この作品は、赤い騎士、白い騎士というように色で分けたり、はじめて出てきた人の特徴をまず形から説明する(背の高さとか、ひげがあるとか、帽子とか)ので、イメージしやすい。子どもに親切な書き方だと思います。善悪がはっきりしてるって、もぷしーさんは言ってたけど、私はメナウレスさまの言葉に「もっともよい人と思える人こそ悪い」というのがあったので、ピアックも悪い人ではないか、と不安に思っちゃったのね。目次を見ると、そうではないことがわかってひとまず安心したんですが。この目次はたしかにネタバレになっていて、楽しみを削いでしまう部分もありますね。それからさっき愁童さんから、ピアックが盾持ちにしかなれないのは差別だという意見が出ましたが、騎士はどんな人でもまず盾持ちから入って修行を積んでいくわけだから、差別には当たらないと思うんです。将来ピアックも騎士になれるかもしれないわけだし、描き方も見下した感じはしないので、そこは階級差別とは言えないと思います。

ケロ:私はおもしろく読みました。主人公が経験を重ねながら成長していくというストーリーの王道を行っていると思います。それが、「よくある話」となる場合もあると思いますが、この話の場合、それぞれの思いが描かれているので安心しながら冒険につきあえる、という印象を受けました。たとえば、お金を払わなくては川が渡れず、ボートで渡ろうとして失敗するシーン。主人公は領主の姿を見て、あの人が信頼できる人かどうか、逡巡しますよね。こういうところ、現代でもあると思うんです。それが当たるかはずれるか、実社会ならもっとはずれることもあったりするんでしょうが。おもしろいシーンだと思います。また、最後に主人公が王に会い、任務を終えた後で、王がみんなの前で「この手紙を読まなかったら、息子の国と和平を結んでいただろう」というようなことを言ったとき、主人公はショックを受けて自分のやったことは余計なことだったのだろうか、と目の前が真っ暗になりますね。このシーンも王の苦しみや、主人公の気持ちがとてもうまく描かれていると思いました。

紙魚:すごろくのゲーム板のうえを、コマが進んでいくというような、シンプルな物語ですよね。わかりやすいし、楽しくも読めたのですが、私には最初の「使命」の必然性があまり強く感じられませんでした。何をティウリは信じたんだろう? 最初の約束を破っても騎士になれるのだとしたら、しゃべってはいけないという約束の意味は何だったんだろう? などと考えてしまいました。章ごとに入る、作者自身の絵はとてもよかったです。

アカシア: 26ページの叙任式の前夜の場面には、「(ドアを)開ければ、規則を破ったことになる……ティウリは思った。そうすれば、ぼくは、明日、騎士になることができない」と書いてあります。それでもドアを開けるのだから、ティウリは騎士になるのは断念して、それなりの覚悟をしたのだろうと思っていると、後の方では、断念しているわけではないらしい描写がたびたび出てきます。ストーリー的には、断念したのに思いがけず騎士になれた、という方がインパクトがあると思いました。

(「子どもの本で言いたい放題」2007年1月の記録)