原題:THE NIGHT TOURIST by Katherine Marsh, 2007
魚住直子/著
講談社
2009
版元語録:「なにしろ、おれら園芸部だからな」高校生活をそつなく過ごそうとする、篠崎。態度ばかりでかい、大和田。段ボール箱をかぶって登校する、庄司。空に凛と芽を伸ばす植物の生長と不器用な少年たちの姿が重なり合う、高1男子・春から秋の物語。
くもっち:とてもおもしろく読みました。特に秀逸だったのは、ダンボールをかぶった庄司くんが、動揺して去るシーンで、いつもするりと通っていく道で頭をぶつけてダンボールが傾いてしまう。とてもよく書けていて思わず笑ってしまいました。高校一年生なのに女子が出てきても主人公たちとあまりからまないところなど、まったくリアリティがないように思えますが、それがまたとてもおもしろい。「こうあってほしい」的な、高校男子のピュアな感じというのでしょうか。庄司くんから、大和田くん、それからまた主人公と変化が連動していくあたりも、説得力があると思いました。
バリケン:私もとてもおもしろかった。ひきこもりの子どもをそのまま描写すると、話が暗くて、読むのもつらくなりますが、ダンボールをかぶせたことでユーモラスになっていて、楽な気持ちで読み進めます。とてもうまいと思いました。どこかにモデルになった少年でもいるのかしら? それに、いつ、どういうきっかけでダンボールをぬぐかという興味もわいてきます。高校の男子と園芸なんて、いちばんかけ離れている感じのものを結びつけたところが、この物語の成功のカギだと思いました。出てくる大人たちも、付かず離れずの位置にいて、過剰に善人でもなく、かといって少年たちの敵でもない点が、とてもいいと思いました。
メリーさん:冒頭から、いつ庄司がダンボールを取るのかとずっと思いながら読んでいきました。とにかく大和田の気持ちのいい性格にひっぱられて進んでいったという感じです。外見と反して、不良から花を守ろうとするところや、細かいことはあまり気にせずに、率直に相手のことを口にするところなどは、胸がすっとしました。庄司に「お前はのろまだけど、頭がいい」とまじめにいえるのは、やはり大和田ならではで、思わず笑ってしまいました。『武士道シックスティーン』と同様、キャラクターで読ませる小説だなと思いました。ただ後半、文化祭のところ、主人公がけんかする場面などはもっと描きこんでほしいなと思いました。女の子が入部してくるところも、もう少し彼らの生活に変化が出そうな気がします(まあ、こんな男子たちだから変わらないのかもしれませんが)。そして、最後の庄司がダンボールを取るきっかけ。かぶっていたものをはずす理由が、火というのは、もう少し他になかったのかな……と。個人的には大和田たちの言葉の力ではずすのかなと思っていたので。とはいえ、とてもさわやかでおもしろかったです。
タンポポ:読みやすくて、あっという間に読みました。ダンボールをかぶっている子がとても切ないですね。女の子の話が出てきませんが、逆にそれだから小学生にも手渡せます。読んだ6年生の中では、大和田が好きという声が多かったです。読み終わったあと、もう少しストーリーがあってもいいかなと思いました。同じ作者の「Two Trains とぅーとれいんず」(学習研究社)はとても心に残っています。
プルメリア:魚住さんの作品は好きで、読むといつも何か残るのですが、これはさらっと読めて、こういう作品もあるのだなと思いました。花の名前が出くくる場面では花を想像して読みました。バスケをやっていた主人公の篠崎君、不良っぽい大和田君、ダンボール箱をかぶった庄司君、性格が違う3人の関わり方がおもしろかったです。ダンボール箱をかぶることで登校できるなら幸せかも、と思いました。小学校には、相談室通いの子どもたちがたくさんいます。こだわりがあってマスクを二重にかけている子どももいます。マスクを二重にすることによって、他の人と違うキャラクターになって落ち着き、ほっとするようです。庄司君も、ダンボールをかぶることで自分にとって落ち着く世界をつくっているんでしょうね。大和田君は外見に似合わずやさしい子どもなんですね。2週間休んで、退学するのかなとひやひやしましたが、眉を太くして登校して来る。魚住さんは書き方が上手だなと思いました。
トントンミー:この本は、手にとった感じが好きです。薄さといい、こじんまりした感じといい、装丁からして「園芸少年」っぽい。本は内容だけじゃないです。見た目も大事。魚住さんの本を読んだのは初めてです。読者が頭の中で映像化しやすいように書いてくれていますね。必要なシーンに、必要なだけの会話。無駄がないんですけど、セリフとセリフの行間が豊かで、たまんないですね。キャラクターの書き分けがしっかりしていて、うまい。主役ではない庄司くんが、ちょっと目立ちすぎですけどね。
大人たちが脇にひかえているのがいいですね。それぞれの家庭事情が全面に出てこないところも。最近の小説って、問題が家庭環境にあるっていう展開、多すぎるから。主人公は父子家庭で育っただけあって、処世術にたけていて、面倒なことに巻き込まれないようにいつも立ち回って、空気読んでる少年なんです。自分の感情は隠す。それが、植物という、しち面倒くさいものを相手しているうちに、だんだん変わっていく。最後、感情を爆発させて、植物を守ろうとする場面では思わず泣いてしまいました。大和田くんの行動もわかるな。進学校に受かって、昔つきあっていた不良たちとは縁が切れたように見えたけど、気持ちが弱くて優しくて、ふんぎりがつかない。自分がもといた場所から、つぎの場所へ向かうとき、ジャンプするのって大変なんですよ。ちょっと助走がいるっていうか、構えが必要っていうか。人間の弱さ、微妙さ、危うさ。思春期の三大特徴が凝縮されていて、ぐっときました。
女の子の存在がないことは、そんなに不自然には感じなかったですね。何かに熱中するとき、異性のことを放っておいて打ち込むことはありえるから。ペチュニアに水をやるところ(p.132)はメッセージ性がありました。時期がくれば自然に花は咲く。大人が手を貸さず、その時期がくれば子どもも自然に草のように育っていく。いい作品だと思いました。
ハマグリ:私はまず『園芸少年』という題にとてもひかれました。高1の男の子とは最も遠いところにあるような園芸を題名で結びつけているから。最初に植物に興味をもつきっかけが、何気なくコップの水を鉢に捨てたら次の日に葉っぱが上を向いている、そのわかりやすさに感動してしまう、というのがおもしろいなと思いました。出てくるのは3人3様の個性がある少年たちですけど、その関係がまたおもしろくて、ふふっと笑えるところがたくさんありました。いちばんおかしかったのは、最後のほうで園芸しりとりをするところ。はじめはバラとチューリップぐらいしか知らなかったくせに、「おれたちは園芸しりとりをすることにした」ってあたりまえのように言うところが何ともおかしかった。それから、最初はこの主人公が今どきの冷めてる男の子なのかなと思ったら、意外と素直に友だちのいいところを見つけていくので、それも気持ちがよかった。欲をいえば、それぞれもうちょっと掘り下げてくれたらというところがあって、大和田がどうして中学の友だちと離れようとしたのか、庄司がどうして箱を脱げないのかなとかね。でも、そういったさらっとしたところがむしろこの本の持ち味なのかなとも思います。深くしていくと、重苦しくなるのかも。さらっとした感じなのは、女性が書いた男の子だからかな、とも思いました。
メリーさん:そうですね。すごく上手だと思います。幼いけれどもピュアな部分っていうのを もうちょっとドロドロした部分ってあるけど、男のいい部分をすくいあげているのか。男だとここまでコミカルにならないんですよね。
ハマグリ:誤植が2つありました。 p116 メコノシプス→メコノプシス、p142 すごくてショック→すごくショック。
レン:これくらいの子どもがまわりにたくさんいるので、重ね合わせながら読みました。主人公の男の子は今風ですね。表立って自分を出さずに、波風を立てずにまわりと合わせていくタイプ。草食系男子って感じです。でも、個性の強い大和田や、わけありげな庄司とつきあううちに、あっさりとすませられなくなるんですね。女子からすると、「男子ってバカだよね」という部分が出ていて、おもしろく読めました。庄司ダンボールをとるところは、ちょっとあっさりしすぎているかなと感じましたが。あと、登場人物の語りの書き分けがうまいですね。
アカシア:みなさんが全部言ってくださったので、それ以上あまり言うことがありません。文章はすごくうまいなと思いました。翻訳もこんなふうにできるといいんですけど。22pのバスケ部の子の台詞だけ気になったんですけど。「どこに一年がいるんだよ。今年はサッカーとテニスが体験入部帰還の前から動いて、運動部に入ってもいいという貴重な男子を全員とっていったんだ。どこを探しても、もういないよ」。ここだけ説明調なんですよね。それから、私は庄司くんがあっさり段ボールをぬいだとは思いませんでした。もうやめちまえって言われて、相談室に戻って考えるところが伏線としてあるんだろうし、だんだん脱ごうかと思いだしているうちに、ここできっかけをつかんだんだなと思いました。段ボールだったら逆にとても目立つので、実際にこんなことする子はいるのかと疑問だったんですけど、そんなことは気にならないくらいお話の中のリアリティがしっかりあって、ユーモアもあちこちにちりばめられていて、しっかり入り込めました。
あと、主人公の達也は、すごい調子いい子だったんですけど、変わっていきますよね。それを象徴的にあらわすのに、最初のほうには達也が倒した自転車を大和田が手伝って起こすシーン、最後のほうには達也のせいでかつてはいじめられていたツンパカが倒した自転車を達也が手伝って起こし「そんなキャラだったっけ」と言われるシーンを置いています。同じ場所の同じようなシーンを、立場を逆転させて使うところなんかも、うまいなって思いました。
(「子どもの本で言いたい放題」2010年2月の記録)