『縞模様のパジャマの少年』
原題:THE BOY IN THE STRIPED PYJAMAS by John Boyne, 2006
ジョン・ボイン著 千葉茂樹訳
岩波書店
2008

版元語録:大都会ベルリンから引っ越してきた見知らぬ土地で、軍人の息子ブルーノは、遊び相手もなく退屈な毎日を送っていた。ある日、ブルーノは探検にでかけ、巨大 なフェンス越しに、縞模様のパジャマを着た少年と出会う。ふたりの間には奇妙な友情が芽生えるが、やがて別れの日がやってきて…。

ダンテス:伏線がたくさんありました。マリア、お父さんの発言、おばあちゃんなど、引っ越した先で父親の仕事がいかなるものか、読む人にはわかります。あやしいな、という風にしておいて、フェンスの向こうとこっち側で、同じ誕生日の男の子との出会う。この辺でこれは作り話だなということがわかりました。お話としては、ちょっと鼻につきました。9歳の子が物事をわからなさすぎる。わからないままにフェンスの向こう側にパジャマを着て入っちゃった。ユダヤ人を殺す立場のお父さんと息子が反対の立場になってしまったんですね。後半、フィクションであるということがわかりつつも、読むのはつらかったです。アウシュヴィッツ関連の作品は読んでいてつらいです。作品として受け入れていく自分自身もつらい。そういうことも含めてこの作品だといえば、そうですが。ユダヤ人虐殺関連の作品は書き続けられていますね。これはちょっと新しいタイプのホロコースト文学と言っていいのでしょうか。

げた:あとがきから読んでしまったので、子どもが塀の外と中を出入りできるなんて、実際はありえないことだと、フィクションなんだ、ということを承知しながら読みました。それにしても、あまりにもブルーノが何も知らなくて、嘘っぽいんだけど、そこに逆にわかりやすさがあると思うんですね。今の子どもたちに読んでもらう意味では、こんな書き方もあるのかなと思います。現実にたくさんの子どもたちが収容所へ送られて、殺されたんですものね。子どもたちも現実を承知しながら、フィクションはフィクションとして読んでくれるに違いないと思います。

プルメリア:嘘っぽいけど、本の世界に入りこんで読みました。戦争に対して反対している祖父母と戦争賛成派の父、家族のなかでも賛成、反対があり、それぞれの生き方が描かれているところは、真実味がありリアリティを感じよかったです。戦争に対して悲惨な立場で書かれている作品が多い中、逆の立場で書かれている作品を読んだのは初めてかも。住んでいる家の中の様子がわかりやすく書かれていました。表紙は服と同じ縞模様でわかりやすいですが、シュムエルがグラスを磨いているのが、医師なのになんでお手伝いさん?と不思議に思いました。小学校は無理だけど、中学生だったらいろんな感想が出てきそう。

ひいらぎ:医師に医師の仕事をさせないのは、人格をおとしめるっていうのも、ナチスの意図だったからじゃないかな。それに、収容所では医者はいらないんじゃないですか。みんなガス室に送ろうとしてるんですから。

プルメリア:悲惨ですね。

ダンテス:何の作品だったか、音楽家なんかは、収容所からドイツ人の家に呼ばれていって演奏し、オレンジをもらって収容所に帰ってから仲間に分けるなんていう話もありました。

ひいらぎ:「ライフ・イズ・ビューティフル」の映画にも、収容所で音楽を演奏する場面がありましたね。現実をおおい隠すために音楽が使われていたみたいですね。

たんぽぽ:高校生の読書感想文課題図書で、感想文にしたら、とても書きやすい作品ですよね。読んでいて、つらい作品でした。

ジラフ:児童文学作品を読んだのは久しぶりで、入りこみました。先に「訳者あとがき」を読んだので、フェンス越しの友情なんて、本当はありえないシチュエーションだ、ということはわかっていましたが、そのうえで、男の子の大人を見る目や、感情がすごくリアルに立ち上がってくるのを感じました。親友と離ればなれになって、友だちのいない毎日がどんなにつまらないか、そのことが9歳の少年の人生のなかで、どれほど大きな比重を占めているかとか、お姉さんにムカつく気持ちなんかが、よく描かれていると思います。きつい結末ですが、終始、少年の目線にシンクロして、フィクションとして楽しみました。読みながら、アイルランド出身で、アイルランドで教育を受けた1971年生まれの作者が、どうして、アウシュヴィッツに題材を取ったこういう作品を書こうと思ったのか、そのことはずっと気になっていました。主人公のお祖母さんがアイルランド系だ、というくだりがありますが、アイルランドにかかわる部分はそこだけですよね。あと、「待遇のよすぎるメイド」とか「点が染みになり、染みがかたまりになり、かたまりは人影になり、人影は少年になった」とか、各章のタイトルのつけ方がうまいな、と思いました。

ひいらぎ:BBCのポッドキャストで作家の声が聞けたんですけど、この人は友情が書きたかったって言ってました。自分はユダヤ人ではないんですね。

酉三:ホロコーストというまことに大きくかつ重い史実をどう語り継いで行くか、というのは大きなテーマでしょう。そのなかで、どれほど史実を離れることができるか。それが気になりました。アウシュヴィッツの鉄条網に、くぐり抜けることが可能な場所があったことなど考えられないし、監視塔の盲点があったという設定もありえないことでしょう。そういうありえないことを組み立てて、お話を作っていいのか? もっとも、読んでるときは、完全にもってかれてましたけれど。

すあま:これは、以前ブックトークで紹介されたんですが、内容を知ってしまったためにかえって読めなくなった本です。でも課題の本だったので仕方なくこわごわ読みました。今回のテーマの「ひみつ」が生んだ悲劇の物語ですね。大人も子どももお互いに秘密にしていたために、起きてしまった出来事が描かれています。他の方と同じで、この主人公の年齢で知らないということがあり得るのか不思議に思いました。本当の話のようで現実にはあり得ないことが書かれているので、これを戦争の本として手渡すのはちょっと怖いですね。説明が必要かもしれない。書かれていないために恐ろしい場面がたくさんある。パジャマは縦縞なのに表紙のデザインはなぜ横縞なんでしょう? タイトルを入れるには横縞の方がいいのかもしれませんね。

タビラコ:この作品は、ずいぶん前に読んで、後味が悪い話だなあと思ったのですが、何週間たっても忘れられない。それだけ強い力を持っているのだと思います。たしか、作者自身が「これは寓話だ」と言っていたように思いますが、寓話として考えれば訳者が後書きで書いている、必ずしも歴史的な事実と同じではないという点や、ブルーノがピュアすぎて不自然だという点もクリアになるのでは? いろいろな見方、感じ方ができる、おもしろい作品だと思います。

ひいらぎ:著者が語っているのを聞くと、小さな子どもでも、すぐには殺されなかったというケースはあったようです。使い走りをさせられたり、ペットがわりになったりと。それから、著者は、ユダヤ人からは批判は受けていない、むしろそれ以外の人たちからの批判があるというふうに言ってました。

うさこ:フェンスの向こう側とこちら側、フェンスというのを大きなキーにしてかかれた物語だなと解釈しました。フェンスの向こう側は想像もつかない世界。こちら側はあまりにも平和で幸せボケしていて、向こう側のシュムエルに思いをいたらすことができない。ブルーノは、今の私たちの現実にも重ねあわせる要素が多い。胸がつまる思いで読みました。9歳のブルーノがあまりにも無知でシュムエルと交流が深まっていっても、フェンスの向こう側に対しての想像力が弱い人物として書かれています。この人物描写については、読み進めていくにつれ自分のなかに違和感が広がっていったんですが、作者はあえて、ブルーノに気づきや成長や変化する姿を与えず、ブルーノという「個人」を描いたようにして、実は「マス(大衆)」の姿をそこに描いていたのではないかと思えてきたとき、この物語がストンと自分のなかに落ちてきました。この作者は、この物語を一つのきっかけとして、読者が自分の力で学んだり考えたりしてほしいと望んだのかもしれないとも思いました。

ひいらぎ:入り込んで読みました。訳もいいですね。ホロコーストをめぐる、いろいろな立場が描かれています。ブルーノの祖母は、「あなたたち軍人なんてそんなものなのよ。…新しい軍服が『すてき』に見えるかどうかしか頭にないんだから。そして、きれいに着飾った姿で、世にもおぞましいことに手を染めるのよ…」と、軍に反感をもっています。ブルーノの父親は、冷血漢ではないけれど、りっぱに出世することに心を砕いています。ブルーノの母親は、最初は夫の出世を喜んでいたのが、やがて家族がおかしくなっていくことに気づきベルリンに戻ろうとします。姉のグレーテルは、ナチスの教育に洗脳されていきます。一つの家族なのに、あえてさまざまな立場に立たせているんでしょうね。ブルーノが子どもらしい無邪気さで周囲の状況に好奇心をもって迫っていくのも、私はリアルなんじゃないかと思いました。ただ最後だけひっかかりました。これでは、イスラエルがパレスチナに対してやっていることを隠蔽したり、今現在あちこちで同じような暴力的な行為が行われていることから目をそらさせる結果になると思って。BBCのWorld Book Clubでは、著者は皮肉をこめたと言ってましたが、日本語で読むと、それが十分に伝わってきませんね。