『れいぞうこのなつやすみ』
村上しいこ/著 長谷川義史/絵
PHP研究所
2006.06

版元語録:まいにちまいにちせっせとはたらいているのに、れいぞうこにはどうしてなつやすみがないんやろうか?

オカリナ:この本は図書館でずっと貸し出されていて、子どもたちに大人気なのだとわかりました。おとなの私も、とてもおもしろく読みました。まず会話が関西弁なので、リズムがあるし、とぼけた感じがいいですね。たとえば「ほな、なんですの? いいたいことがあったら、ちゃっちゃと、いうてください」なんていうところ、標準語の「だったら、なんなんですか? 言いたいことがあったら、さっさといってください」だと、きつすぎておもしろくないと思います。冷蔵庫がプールに行くという設定もずいぶん突飛だし、普通なら沈んじゃうだろうと思いますが、「ありえなさ」の段階が徐々にエスカレートしていくので、このあたりまで来ると、「それもありかな」と思えてきます。その後で、冷蔵庫が「日焼けが痛いからあと三日くらい待ってくれ」というのにも、笑ってしまいます。それから、長谷川さんの絵がいいですねえ。表紙は本文とは関係ないようですが、入道雲、麦わら帽子、スイカ、アイスキャンデー、かき氷で「まさに夏」を表現しているし、プールだけでなく今後はこんなこともありそうだと思わせています。文章は「通信販売のカタログの派手なパンツ」とあるだけのp.6の挿絵も、「わかがえる」「みわくのへんしん!」なんて書き文字を入れたうえで、スイカパンツ、サボテンパンツ、おさかなパンツまで描いています。楽しいですね。またp.12は、文章でお母ちゃんが冷蔵庫に宝くじやストッキングを入れているとありますが、絵ではおまけに、シャンプー、リンス、「かあちゃんのパンツ」まで入っています。どのページでも、人物や冷蔵庫の表情がその時々の気持ちをあらわすように描かれているのも、すてきです。

三酉:冷蔵庫がしゃべるのが驚きですね。だからここまでやるのなら、もう少しとんでもない展開があるのかなと思いました。が、プールでいじめっこをいじめて……ここで終わり。ちょっと期待はずれかな。始まりにしても、子どもが冷蔵庫に顔をいたずら書きしたら動き出した、というようなものだったら説得力あるかな、などとも。作者には失礼ながら、まあそれほどリキを入れずに書いた作品かな、という印象でした。絵については、長谷川さん、さすがですね。

ゆーご:読み聞かせにぴったりの作品だと感じます。笑いのポイントが随所にあるので、子どもたちがテンポよく笑えそう。長谷川さんの絵は昔から好きなんですが、今回も物語とマッチしていて、改めていいなと。冷蔵庫に突然顔が現れた部分は、笑いでなくまさに「大笑い」で、私までもらい笑いしそう。冷蔵庫が夏休みをとるという発想は、「冷蔵庫も大変だなあ」という作者の思考を感じます。今年は暑かったから、共感できますね。

優李:村上さんの作品は、『かめきちのおまかせ自由研究』(長谷川義史/絵 岩崎書店)が子どもたちに人気でした。この作品も人気です。冷蔵庫が急に変わるというところは、大人の私にはちょっと唐突で安易かなと思いましたが、その後のテンポがとてもいいですね。後半に行くにしたがって、じりじりよくなっていく感じ。進め方がうまいなと思いました。子どもたちからすぐに感想、質問が出そうなのが、長谷川さんの絵。特にp.6の絵、文中にない細かい点は、画家さんの想像力で描くのかな。すごい!と思いました。読み聞かせ中に、子どもたちがいろいろな発見ができる絵だと思います。お父さんとお母さんのキャラクターの感じもとてもいい。言葉もそうですが、関西の文化は奥深いなあと思わせられる楽しい本でした。

ジラフ:関西弁のことに、みなさん触れられていますが、私は三重県の出身で、京都でも長く暮らしたので、ここに出てくる関西弁のやりとりを、すごく心地よく感じました。関西で暮していると、商店街でおつりを手渡されるとき、「はい、百万円」なんて、冗談みたいなやりとりが実際にあったり(笑)、上方落語や漫才、人形浄瑠璃など、物語る文化、語りの文化が、日常のなかに息づいているのを感じます。この作品には、そんな関西弁の持ち味、可笑しみとか、深刻なことを軽みに変えてしまうユーモアが、うまく生かされていると思いました。暑い真夏に、冷蔵庫が動かなくなったりしたら、ほんとに困ると思いますが、それが、ごく自然にファンタジーの入口になっていて、元に戻るところでも、一日たつと、二日目には、三日目には……と余韻をもたせて、最後にすとん、と腑に落ちます。日常とファンタジーの行き来が、とても自然に感じられました。

メリーさん:関西弁のテンポのよさと、いわゆる「関西人」のノリでしゃべる家族の会話が生きていて、とてもおもしろかったです。冷蔵庫がしゃべり出したときに、「わたしらを たべんといてください。たべるんなら、この人だけにして」とお母さんがお父さんを前に押し出すところとか、冷蔵庫に手足だけでなく、しっぽも出ると、「おいおい。しっぽまで いらんがな」とか。お母さんの水着を何とか着ることができてしまうと、「なんか むかつく」。クスッと笑わせる家族の会話がとてもよかったです。ほかにも、れいぞう「子」だから、冷蔵庫が女の子だという設定や、町の人々もなんだかんだいいながら、冷蔵庫にきちんと対応しているところ、プールから戻ってきて日焼けをして、痛がっている冷蔵庫をきちんと待ってあげるところなどは家族の一員みたいでおもしろかったです。よくよく考えるとおかしいことなのだけれど、不思議と納得してしまったのは、やはり関西弁の力なのかなと思いました。

ダンテス:おもしろかった。関西のノリですね。関西弁を作品に入れるのはむずかしいんでしょうけど。作者と長谷川さんが、文と絵を相談しながら作っていったのではないかなと感じました。おひさまの絵、とてもいいですね。

タビラコ:幼年童話は絵と文章が50%ずつなので、おそらくこの本は文章の方が先にできたのでしょうが、文章の持つエネルギーが絵に注ぎこまれて、ますます生き生きとした絵になったのではないかと思います。おひさまの絵、わたしもすごいなあと思いました。子どものころって、鉛筆や消しゴムなどの文房具が使っているうちに小さくなってかわいそうというように、道具を擬人化して思いやるということがよくありますが(私は、どういうわけか、なかったけど!)、この本はそういう、ちまちました道具ではなくて、ドーンとした冷蔵庫を対象として思いついたところがおもしろい。ナンセンスというのは、幼年童話になくてはならない大切なジャンルですが、この作品は、見事なナンセンス童話だと思いました。

プルメリア:この作品が出た時にすぐ読んでおもしろいと思いましたが、まわりの先生たちからは「ふざけている」といわれた1冊です。今回、もう一度読んでみて、子どもたち(小学校4年生)に1、2、3の場面に分けて読み聞かせしました。プールが嫌いで、泳げない子どもがクラスに一人います。その子も、ほっとした様子で聞いていました。子どもにとって身近な日常生活が取り上げられていますが(泳げない、いじめなど)、子供の心情をわかって書いているんでしょうね。最後の場面、冷蔵庫の「しっぽ」の部分では、余韻を残す印象なので、次作につながるのかなと思いました。見返しの夏に関係する挿絵を見せながら、子どもたちに夏休みの生活についていろいろ質問しました。「大人の飲み物のビール、飲んだことのある人いますか?」と問いかけたら、手を挙げる子どもがたくさんいて みんなで大笑いをしました。

たんぽぽ:ふざけている話だけれど、おもしろかったと思いました。『すいはんきのあきやすみ』(同コンビによる、PHP研究所)が出て四季がそろいましたね。

プルメリア:近くの図書館には『ストーブのふゆやすみ』(同コンビによる、PHP研究所)は入っていませんでした。

タビラコ:「ナンセンス」と「ふざけている」というのは、違うと思うけれど。小学校の図書館には入れられないけれど、家で読むのはいいっていうのかしら? それとも、そう言っている先生たちは、こういうものは子どもに読ませたくないのかしら?

三酉:やっぱり関西弁の軽さがいい。標準語ではホラーになってしまうもの。

タビラコ:翻訳絵本でも、『ぼちぼちいこか』(マイク・セイラー/作 ロバート・グロスマン/絵 偕成社)は今江祥智さんが関西弁で訳されてますね。

シア:今回の本の中では、子どもに一番人気のありそうな本だと思いました。テンポがいい文体に加え関西弁でノリがよく、楽しく読めました。公共図書館では夏の間に地域のこの本が全て貸出中になったので、子どもたちは読書感想文を書くのでしょうが、何を書くのか気になります。楽しいけれど、書くのはむずかしそう。ラストに冷蔵庫のしっぽが出てきて終わるのが、余韻のある締め方でいいなと思いました。子どもらしいハッピーエンドで、寂しくならないですね。冷蔵庫って浮くのか? とも思いましたが、全てが子どもらしくていい話です。冷蔵庫は最後に「こ」がつくので女の子なんだというところで気が付きましたが、今の女の子の名前には「子」があまりつかないですね。変わった名前が多い気がします。

すあま:私はこの本を知らなかったし、四季でシリーズになっているのも初めて知りました。絵と文のコンビがいい。絵はにぎやかだがドタバタではなく、物語もくすっと笑える。これが関西弁ではなく、標準語だったらおもしろくないかも。関西弁のパワーに助けられてますね。家族たちのあたたかい感じもあって、おもしろかったです。

タビラコ:『特急おべんとう号』(岡田よしたか/作・絵 福音館書店)も同じような雰囲気だけれど、あっちは、この本の持っているような幼い子が感じる情緒というか、あたたかさのようなものが欠けているように思いました。

(「子どもの本で言いたい放題」2010年9月の記録)