金城一紀/著
角川書店
2011.02
版元語録:これから話そうと思っているのは、僕と仲間たちの生まれて初めての冒険譚だ---。ザ・ゾンビーズ結成前夜。すべてはここから始まった!
メリーさん:『レヴォリューション No.3』(金城一紀/著 角川書店)を読まずに『〜No.0』を読んだので、キャラクターについて前もってわかっていれば、もっと楽しめたのかなと思いました。金城一紀の作品では『GO』がとても面白くて、高校生の男くさい感じは似ているなと感じてました。ただ、今回の登場人物たちは、少し型にはまったキャラクターのような気が。アギーなどもちょっと説明不足。物語というより敵を倒すゲームのような感覚で、ちょっと物足りなさを感じたのですが、最後の脱出のところはやはり引き込まれました。昔は映画をやると、原作とともにノベライズ版が出ていましたけれど、最近は小説自体が会話中心の、シナリオのようなものになっている感じがします。(現にノベライズがあまり出ていない)。この本もそういう意味では映像化しやすいのかなと思いました。ただ、なかなか物語の世界に入っていけない、高校生たちには手に取りやすいのではないかと思います。
かぼちゃ:青春もの、一瞬一瞬の情動。すっきり読みやすい。男子校は未知の領域なので興味深く読めました。女の子を助けたりと、ヒロイズムを満たせる。脱走は本来なら悪いことですが理不尽な行為を受けているので悪いこととは言えない。「自分で考えて理不尽にどう対応するか」ということを考えるのに良い作品。流れに沿ってやめたり転校したりするのは反抗するより簡単なこと。今の日本には反抗したり戦う意欲を持った人が少ないように思えるので、日本にもレヴォリューションが起きれば良いなと、この作品を見て思いました。
シア:『レヴォリューションNo.3』が出たときに読みたいとは思っていたのですが、機会がないままでした。この作品は『~No.3』のボーナストラック的な本のようなので、あちらを読んでからの方がいいのではないかと思います。読んでみて『バトルロワイヤル』のギャグ版のような感じを受けました。石田衣良や東野圭吾も青春ものを書いていますが、それとは何か違います。金城さんの作品は『GO』(金城一紀/著 角川書店)でもそうでしたが、社会とか体制への憤り、うずまく憎悪に近い激しい感情を感じるので、少し怖いと思ってしまいました。日本の作品にはお国柄でしょうか、この焼けた石のような感覚はあまりないですね。文章自体は短文で進むところが中高生には読みやすいと思いますが、学園ものとしては設定がちょっと古いですよね。一昔前の不良漫画みたいで。この時代感覚のギャップをどう埋めるかが気になります。映画『パッチギ』(井筒和幸監督 2005年 日本映画)を思い出しました。登場人物が熱いところが似ていると思います。韓国から留学生が来たときに、「クラスの子たちの元気が足りずつまらない」と言われたことがありますが、前へ前へ進む積極性とでも言えばいいのか、そういうところが日本とは違うのかなと思いました。
ハマグリ:『GO』は以前読書会でやって好評でしたが、これはおもしろくなかったですね。『〜No.3』を読んでいないせいもあるけれど、人物像がうまくつかめなかった。子どもたちが何に反抗しようとしているのか、よく伝わってこない。学校に対する怒り、親に対する不満などは書かれていますが、それはどこにでもあると思います。教師・猿島の暴力が極端すぎて、戦時中の軍隊のしごきの場面のように思え、ここまでする教師が本当にいるのかと真実味が感じられなかった。それにしては、生徒たちがその場ではそれに耐えてしまっているのも納得がいかない。男子校には男子校の良さがあると思うけど、ドロドロしたところがだけが書かれていて、後味が悪かった。
アカシア:リアルなスクールライフを書いているのではなく、漫画のようにある部分を拡大して書いているじゃないかな。読み始めて、「あ、これ読んだことあるな」と思ったのは、前に『〜No.3』を読んでたからだったんですね。前の巻が頭にまだ残っていたせいか、私はその流れて読むと悪くないな、と思いました。猿島のような、ここまでひどい教師は実際にはいないかもしれないけど、それに近い教師はまだいますよね。うちの子どもの中学時代にもまだいましたよ。主人公は、自分の父親のほうがもっと悪いと思っているわけですね。それがよくわかります。今の時代、決まった路線を歩けという社会に対して、男の子は迷いが大きいと思います。この作品は、そんな男の子たちに対する応援歌になってます。ただ、この作品だけ単独で読むと、人物描写を薄っぺらに感じるのかもしれませんね。文章はわかりやすいし、読みやすいけど。
プルメリア:図書館で検索したところたくさんの予約があり驚きました。多くの人が読んでいる人気作品の1冊なんだと思いました。いろいろな場面になぐられ血が出てくるところがあり、私立高は体罰がゆるされているのかな? なんて! 登場人物それぞれの性格がわかりやすく、また暴力の場面はかなり書きこまれていますが、全体的に軽い感じがしました。主人公を取り巻く環境の中に抑圧は2つあるような感じがします。1つは行動面として暴力をふるう猿島という教師、もう1つは精神面として主人公の父親。集団山登りで猪が出てくる場面はリアルではないです。最後の「世界を変えてみたくないか」とっても素敵なフレーズですが、この作品からは伝わりにくいなと思いました。
ダンテス:読者層を限定して書いた作品でしょう。とくに現代の高校生。成績があまり振るわず、内心劣等感をもちながら、やりたいことは特にないという、白けている世代。燃え上がるところのない学生たち。内面にもやもやを抱えているのだが、何をするわけではない高校生たちに向けての作品だろうと思う。155ペー ジ「退屈なのは、世界のせいではない〜」というアジテーション、励まし。猿島先生の部分も誇張して書かれている。ただ一方で、私立が定員より多く人数をとるということは現実的にあることで、学級の人数が増えるということはありえます。生徒が自分が大事にされていないと感じることはあるかもしれない。ただし、そこは誇張して漫画のように書いているので、現実をベースにしながら、まったくありえない話ではないように設定し、無気力な高校生に向けて、なんでもいいから、もっと大人も思いつかないようなことをやって、反抗しろというアピールをしているのでしょう。『GO』の方は、在日韓国人・朝鮮人という社会的な視点が入っているので、より広い読者に受け入れられています。それよりはこの作品のターゲットは狭い。ストーリーとしては、 大げさだなと思いつつ、さらっと読んでしまったという感じです。
ジラフ:金城一紀は初めて読みました。キャラクターがいまいち立ち上がってこなくて、前作を読んでいれば、もう少し楽しめるのかなと思いましたが、シリーズのボーナストラック的な作品とうかがって、納得しました。それでも、会話の中にはきらきらした箇所がいっぱいあって、男の子たちの気高さを感じさせるフレーズとか、落ちこぼれの男子校で、無気力に生活する子たちの気持ちがふいに高まっていく部分や、反対に、燃え上がってもすぐに、その気持ちを引っ込めてしまう繊細なところなんかの、描き方がすごくよかったです。会話が紋切り型だったり、展開が端折られてるようなところは、テレビドラマみたいでしたが、実際、「SP」の作者なんですね。ただ、読みながら、自分が当事者だったらきついだろうな、とひしひし感じました。現実には、学校をドロップアウトしたら、その先はかなり厳しいので。どんな世代の人が読むのだろうと考えたとき、同じ世代だったらつらいのではないかとも思いました。現状への反発や怒りを表現した作品への共感という点では、音楽なら、そこからストレートに力を得られる気がしますけど、本の場合もそうなのか、と(主人公の)同世代が読んでいると聞いて、意外な感じがしました。
シア:『池袋ウエストゲートパーク』(石田衣良 文藝春秋)の方が、もっとぐっとくるし、子どもの視点でも、大人の目線になる瞬間があります。この本には、それがないですね。山田悠介に毛が生えた感じ。最近思いますが、ここまでして高校へ行く意味がないと思います。授業を聞きたくないのでしょうか?それなのに変に反抗する姿には共感できません。
アカシア:そういう子たちも、自己肯定感がほしいと思ってるけど、どこからも得られないんですよ。この本が、そういう子にとってのきっかけになれば、いいんじゃないかな。
シア:絵本なんかでも、子どもは野菜が嫌い、という偏見を植えつけている感があると思います。先生だから嫌い、というステレオタイプを増やしそう。
ダンテス:そういうステレオタイプでしか物を見ない人たちが気に入る本かもしれません。
アカシア:本を読まない人たちを引っ張る力はあると思います。
(「子どもの本で言いたい放題」2011年7月の記録)