日付 | 2021年05月21日(オンライン) |
参加者 | ネズミ、けろけろ、ハル、イタドリ、ルパン、アンヌ、コアラ、まめじか、西山、さららん、カピバラ、ニャニャンガ、マリンゴ、雪割草、ヒトデ、アカシア、(エーデルワイス、鏡文字、しじみ71個分) |
テーマ | 中学女子あるある? それぞれの国での「乗り越え方」 |
読んだ本:
こまつあやこ/作
講談社
2020.08
<版元語録>『おはようございます。実況はわたし、出席番号三十三番、綿野あみがお送りいたします。』 ひそかな趣味は脳内実況!そんなわたしがなぜか生け花部に……。2019年度中学入試最多出題作『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』で講談社児童文学新人賞受賞のこまつあやこ氏、待望の2作目。ユーモラスで爽やかな青春小説!
原題:THIS POST IS PASSWORD PROTECTED
ファン・ヨンミ/作 吉原育子/訳
金の星社
2020.12
〈版元語録〉学校の課題がきっかけで、仲よしグループから仲間外れにされるダヒョン。友人関係を見つめなおし、「わたしは、わたし」という思いを強めていく。韓国の中学生の日常、心情を鮮やかに描いた、すべての10代へのエール。
ハジメテヒラク
こまつあやこ/作
講談社
2020.08
<版元語録>『おはようございます。実況はわたし、出席番号三十三番、綿野あみがお送りいたします。』 ひそかな趣味は脳内実況!そんなわたしがなぜか生け花部に……。2019年度中学入試最多出題作『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』で講談社児童文学新人賞受賞のこまつあやこ氏、待望の2作目。ユーモラスで爽やかな青春小説!
アンヌ:とてもおもしろかったけれど、わかりにくかった点が1つあります。脳内実況と現実の実況の違いについてなんです。二重カギ括弧で濃い文字が脳内実況、カギ括弧で濃い文字が現実の実況、と気づくまでに時間がかかりました。声に出して実況しているところは、普通の会話と同じ文字にしておいて二重カギ括弧でくくれば、十分通じたのではないかと思います。主人公は他人の恋心や秘密を勝手に話してはいけないということが、ある意味最後までわかっていないようで、それを主人公の個性としてとらえていいのかどうか気にかかるところです。小学生のうちは、ついうっかりということですむのですが。でも、そんなことはどうでもいいくらい元気な気分で読み終えられたのは、このコロナ禍の中、大声で叫べないことが増えていて、例え脳内でも読みながら叫んでいて気持ちよかったからもしれません。競馬の実況中継が絶叫系だからでしょうか。華道部のところの二十四節気は何となく知っていたのですが、七十二候の話はよく知らなかったので、いろいろ調べるきっかけになっておもしろ読めました。
さららん:主人公の一人称の語りに、「おーっとどうする」のような、つっこみも交えた三人称的実況が入り、おもしろい効果をあげていますね。次章への好奇心をそそる章の切り方も上手です。心情を風景に投影した描写、例えば「家庭科実習室の壁紙が貼り替えられたように、白くまぶしく見えた」(p131)も、わざとらしさがなく好感がもてました。仲間外れ、ジェンダー、差別といったモチーフが重くなりすぎずに編み込まれ、いやだった自分を変えたい、という主人公の願いも、自分らしさを否定せずに実現させることができて、よかったと思います。文化祭での生け花の実況中継をやめたいと思いはじめる主人公を、無理強いせず、あえて後ろに引いて待つ姿勢の野山先生(p149)に、大人のあるべき姿を感じました。
ニャニャンガ:クラスの人たちを実況中継することで孤立感を紛らわせる発想は、斬新です。友だちから浮きたくなくて目立たないようにしている主人公に、共感する子どもたちが多いだろうと思いました。学生時代の私は孤立するのがいやで無難に受け流した記憶がありますが、今では「浮いていてなにが悪い」と思うので、主人公もその結論に達したのがよかったです。1つだけ気になったのは、頭の中で考えるだけでも、するっと実況中継できるようになるのかしらという点です。もともと才能があったのかもしれませんが、私には無理だと感じました。
ネズミ:私は、友だちづきあいや部活を中心においた本は苦手なんですよね。学校生活で、友だちや部活ありきと思いたくないという気持ちがあって。でも、実況によって自分を客観視していくというのは、目のつけどころがおもしろいと思いました。人のことをよく見ることにもつながっていくので。生け花部を通して、まわりの先輩や同級生のことを知っていくというのはよかったし、作者が成長物語としていろんなテーマを盛り込もうとしているのも好感が持てました。
ハル:まさに今回のテーマの「中学生あるある」という言葉がぴったりの本ですね。2回読みましたが、やっぱり楽しいし、おもしろかったです。なぜか著者の姿が浮かんでしまうのですが、デビュー作の『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』(講談社)と同じく、とても楽しんで書いているなぁという感じがします。物語から得るメッセージもさまざまありますが、言葉のおもしろさも感じさせてくれるのが、こまつさんの作品の好きなところです。1点だけ、最初に読んだときも思いましたが、肝心の、文化祭の実況が、実況としてはあまり上手じゃないというか、言いたいことが前面に出てくるとリズムが普通になってしまって、実況口調がうすれてしまったのは、読んでいてちょっとひっかかりました。といっても、ほとんど影響ないぐらいのつまずきでしたけど。読後感がさわやかで、心が落ち着くし、ぜひ中学生に読んでほしいです。あ、もう1点ありました。巻末に「『立冬』の『山茶始開』は、ふつう『つばきはじめてひらく』と読みますが、この『つばき』はツバキ科の山茶花(さざんか)のことなので、『サザンカはじめて開く』といたしました」という断り書きがありましたが、これはどうしてツバキのままじゃいけなかったんでしょう?
イタドリ:普通、椿は冬から春にかけて咲くけれど、文化祭のある秋に咲くのは山茶花だからでは?
アンヌ:p198で部長が活けるのが山茶花だからでは?
ハル:なるほど! ありがとうございました。
けろけろ:こまつあやこさんは、力のある、これからの作品が楽しみな作家さんだなと思って、今回選書させていただきました。先日も、児童文学者協会の新人賞を取られましたね。小学校高学年で、自分の失言から仲間外れになって、中学になっても踏み出せずにいる主人公。仲間外れになったときに、「実況中継をしたらいいんじゃない」というアドバイスをされるというところがおもしろいですね。人間関係の外にいったん出るというのは、的確なアドバイスだったかもしれないと思います。中学で、うっかり入った華道部の部員の個性がうまく描けてますね~。特に私の推しは、城先輩。絶対いなさそうな人物だけど、描けちゃうのがフィクションのいいところですよね。私も華道を教わっているのですが、枝を切り落として姿を見つける感じとか、枝はひとつとして同じものがないなど、テツガク的なところがあり考えさせられます。お花をいけるシーンが伏線としてもう少し入ってもいいのかなと思いました。カオ先輩の進路の問題、マイちゃんの出身の問題など、結構盛りだくさんなのですが、バランスを考えたら、枝をもう少し切ってもよかったのではないかと思いました。
雪割草:全体としては、おもしろく読みました。特に、「実況」という語りの手法は、新鮮でした。生け花ショーの実況をするのに、生け花部の部員それぞれを観察するなど、「実況」が一人ひとりを知ろうとする切り口になったり、生け花ショーなので、お花を使ってそれぞれの個性を表現しながら実況したり。でも作品の最初の方は、「実況」がうるさいと感じてしまいました。それから、マイちゃんのお母さんがベトナムの出身であるなど、外国にルーツのある子どもを登場させているのもよかったです。友だちとの関係のところは、仲よしグループのような関係が苦手だったので、実感というより大変だなと思って読みましたが、主人公が、友だち関係のなかで負ったトラウマを乗り越えようと挑む姿は、同年代の読者の共感をよぶだろうと感じました。生け花のことはわかりませんが、日本の伝統文化でもあるし、もう少し踏み込んで描きこんでほしかったと思いました。
ヒトデ:今回の課題になった『ハジメテヒラク』と『チェリーシュリンプ〜わたしは、わたし』、舞台になる国はちがいますが、どちらも中学生たちの「友人関係」を描いた物語として読みました。はじめは、「脳内実況」に少し乗れないところもありましたが、p20を越えたあたりからグイグイ読み進めることができるようになりました。何よりもまず「実況」という装置が発明だと思いました。地の文と同じ「描写」をおこなっていても、それがより深まっていくというか・・・これまでに読んだことのない「読み口」の文章でした。物語の運びは定石通りではありますが、「人間関係を生け花にたとえていくこと」や「クラスの外で居場所を作ることの大切さを描いている」など、良い所がたくさんあった物語でした。城先輩の恋がむくわれなかったのは、少々残念でしたが(笑)
イタドリ:私もアンヌさんとおなじように、脳内実況しているところと実際にしゃべっているところが同じ活字なので、わかりにくいと思いました。内容についていえば、私が子どもの本を読んだときの感想って、おおざっぱにいえば3つに分かれるんですね。①『彼方の光』のように、「ぜったい読んだほうがいいよ」と、子どもに熱烈に押しつけたい(?)本 ②「なにかおもしろい本ないかなあ」といわれたときに、「これ、読んでみたら」と手渡したい本 ➂「ちょっとやめといたら」と言いたくなる本。これは、②の本かな。さわやかで、明るくて、楽しく読める作品だと思います。生け花については、もうちょっと掘り下げて書いてもいいかなと思ったし、いとこのお姉さんが、最初と最後だけちょこっと出てきて、主人公のヒーローというには、あっさりしすぎてるかな。その軽さが読みやすさに通じるのかもしれないけど。
ルパン:私は何回か競馬場に行ったことがあるのですが、あの馬たちの疾走の迫力に取り憑かれる人がいるのはわかる気がします。地鳴りのような馬の駆ける音とともに観客の歓声と怒号が鳴り響くあの雰囲気をことばで伝える実況放送はすごいと思います。なので、競馬放送の話になるのかな、と思ったら生け花部、というのはちょっと驚きでした。はじめはなかなか入っていかれませんでした。ストーリーはよかったのですが、私は主人公のあみちゃんに、正直あまり感情移入できませんでした。小学校のときにクラスの輪から外れたいきさつも、もう少し同情させてくれるシチュエーションだったらよかったな。というわけで、自分で好きで手元に置きたいという本ではなかったのですが、これを文庫に置いて、悩める年ごろの小中学生に手渡すにはいい作品だと思います。勇気づけられる子もいるかもしれないから。この作者の『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』はとてもよかったので、またほかの作品が出たら読んでみたいです。
マリンゴ: 地の文、心の声の実況、会話をうまく重ね合わせていて、新しさがありますね。最後、たたみかけるように感動を連鎖させてクライマックスを作っているところも、本当にうまいと思いました。文化祭当日、大事な実況がぐだぐだになっていくのも、テンパっている感じが伝わってきてリアリティがありました。相手のことを知ると見方が変わり、いじめ突破の一歩にもなる、とエールを送っているのもいいと思います。先ほど、生け花の描写が物足りないという意見がありましたが、これ以上深く踏み込むと、どこの流派かを描かざるを得ないことになります。流派を選ばずに、ある程度、お花のことをちゃんと表現しているという点でも、この作品は巧みだと思いました。また、七十二候の入り方もおもしろく、知らなかったことを教えてもらえました。
コアラ:タイトルではどういう話かまったくわからなくて、カバー袖を見ると、実況の言葉だったので、放送に関する部活の話かと思ったんです。ところが、本文はバスケ部のマネージャーの話で始まり、仲間はずれのことが語られ、いじめの話かと思ったら、突然競馬場に連れていかれるし、バラバラで話が見えなくて、この本は興味が持てないかもしれないなと、ちょっと投げ出したくなりました。それでも、部活で生け花というのは新鮮で、主人公の行動にハラハラさせられながら、飽きずにおもしろく読み終えました。生け花の実況、というのは、私もおもしろい発想だと思います。実況というとスポーツの絶叫を思い浮かべますが、将棋のテレビ放送では実況のように解説していますし、静かで表に出ないものにこそ実況というのはアリだと、この本を読んで思いました。マイちゃんがベトナム人のハーフというのも、物語を奥行きのあるものにしていますよね。それから、主人公の「あみ」の欠点というか、人の代わりに告白してしまうクセが、結局治らなかったのが、私はおもしろいと思いました。欠点を直すことが成長、ではなくて、生け花に出会って人を見る目が変わって世界が広がったことで成長する姿を描いていると思います。中学女子にぜひ読んでほしいですね。
アカシア:職業や部活を取り上げた作品はけっこうあるけど、これはその隙間をついていますね。実況アナと生け花ですもんね。実況っていっても、種類はいろいろあると思いますけど、これは古いけど古舘一朗のプロレス実況みたいなノリ。そこが笑えました。居心地の悪い現実に、突拍子もない実況で切りこんでいく感じが爽快でした。『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』にも、マレーシアからの帰国子女が登場していましたが、ここにもベトナムからやってきた口数の少ない少女が出てきます。この作家さんには何らかの志があって、意識して出しているのだと思います。内容は、リアルな物語と言うよりは、マンガ風というかエンタメ的なおもしろさ。私はこの部長がそれほど魅力的な人物には思えなかったせいか、あみがその恋を応援しようとして頑張る下りも、ちょっと白けてしまったし、早月がどこかへ引っ越して音信不通という設定にもリアル物なら無理があると思いました。中学生くらいの年齢だと同調圧力を必要以上に意識してしまうので、共感を呼ぶ作品だと思います。
カピバラ:ひとり実況の形で見たこと感じたことを語っていく部分になると急に生き生きとしておもしろかったです。テンポがよくてどんどん読めました。友だちづきあいにいろいろ悩みはあっても、自分なりに考えながら少しずつ前に進んでいくところに好感がもてました。友だち、先生、親など、それぞれの描写はそれほど深くないけど、特徴をとらえていて人物像が浮かび上がってきました。現代の子どもたちの学校生活を扱った物語って、最近は特にひりひりとつらいものが多いんですけど、この本はそこまで深刻ではなく、気楽に読めて楽しめるし、この薄さもいいですよね、ちょっと読んでごらんってすすめるのにちょうどいい。お母さんがベトナム人の女の子が出てきますが、それがわかってからも、違和感なく同じように接するところもよかったです。タイトルはなんのことかなと興味をひくのでいいと思いますが、表紙のデザインはどう見ても女子向きで、男子は手にとらない感じなのが残念です。男子も登場するし、男子にも読んでもらいたいのに。
西山:表紙がすごくきれいでいいと思っていたのですけれど、「女の子向けの本」の顔になってしまうことのマイナス面もあるのですね。実は・・・こんなに個性がある、特徴的なことがいっぱいでてくるわりには、前に読んで、内容をすっかり忘れていました。言い訳的にいえば、盛りだくさんで、私にとってこの作品が1つの像を結んでいなかったのかなと思います。実況が心の声でもあるんだけども、隠している自分の本音とかいうのではなく(ふと思い出したのは、『ぎりぎりトライアングル』(花形みつる著 浜田桂子絵 講談社)です。おどおどした主人公コタニの内面の声が、がらっとイメージの違う歯切れのいいツッコミ満載だったのとおもしろさでは共通しつつ、質は違うなと)、自分事を他人事にしてしまうというのが、つらい子どもにとってはすごい提案なのかなと思います。「脳内実況してみると、まるで人ごとのようにこの状況に何だか少し笑えてしまった」(p51)とあるように。 人ごとにしちゃうっていうところで、そこに救われる子どもの実情を思うと、闇は深いなという気がします。競馬といえば、『草の上で愛を』(陣崎草子著 講談社)は、広々とした競馬場の空気みたいな印象が残っています。そういうのがなかったかなぁ。
まめじか:この本では、友だち関係にとらわれていた主人公が実況によって、いったん自分を外に置いて、客観的に見られるようになっていきます。友人との距離感がつかめず、自意識にふりまわされていた子が、余分な枝葉を取り払うように心を整えていく過程に好感がもてました。ジェンダーのステレオタイプを破るような男子の華道部部長、ベトナムにルーツのある同級生など、多様な登場人物が出てくるのもよかったな。中学生が手に取りそうで、しかも品のある表紙がすてきですね。後ろのカバー袖に小さく描かれているのはなんでしょうか。スポイト?
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鏡文字(メール参加):意識的に外国ルーツの子を登場させていることに好感が持てました。着眼点がおもしろいし、するすると読めました。ちょっとマンガチックかな、という気もしましたが。けっこう長い間、なぜ従姉に連絡しなかったのかが謎です。
エーデルワイス(メール参加):以前の課題で読んだ『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』が印象に残っていて、今回もよかったです。さわやかで。それこそ胸がキュンキュンしました。『ハジメテヒラク』は華道からきたタイトルなのですね。花を生ける様子に実況をつけるなんて、おもしろいです!中高の部活ですから流派は出ませんでしたが、華道には池坊、小原流など、伝統と子弟制度があり面倒だと思っていました。この物語の華道の様子は自由でいいなと思いました。『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』ではマレーシアの帰国子女。今回はベトナムにルーツのあるマイちゃんが登場。アジアが身近に感じられます。
(2021年05月の「子どもの本で言いたい放題」より)
チェリーシュリンプ〜わたしは、わたし
原題:THIS POST IS PASSWORD PROTECTED
ファン・ヨンミ/作 吉原育子/訳
金の星社
2020.12
〈版元語録〉学校の課題がきっかけで、仲よしグループから仲間外れにされるダヒョン。友人関係を見つめなおし、「わたしは、わたし」という思いを強めていく。韓国の中学生の日常、心情を鮮やかに描いた、すべての10代へのエール。
まめじか:日本の中学生が読んだら、お隣の国でも同じようなことで悩んでいるのだとわかって親近感をおぼえると思うので、それはとてもいいと思いました。ただ、ここで描かれている友人関係の摩擦やモヤモヤした思いは日本にもあるので、日本の物語の韓国版という感じ。韓国の街の様子や食べ物が描かれているのはおもしろかったのですが。一読者としては、翻訳ものだったら、日本では書かれないような、違う景色が見られるような作品を読みたいなと思います。たとえば絵本の『ヒキガエルがいく』(パク・ジォンチェ作 申明浩・広松由希子訳 岩波書店)は、カエルたちが行進する姿に普遍的なものを感じますが、その一方で、作品の背景にはセウォル号の事件で真実が解明されていないことへの憤りがありますよね。p158で「バスの中でのことがずっとひっかかっていた」とあるのですが、話し続けるヘガンに冷たい態度をとったダヒョンは、そのことをそんなに気にしていたのですか? 数ページ前ではそんな様子はあまり感じなかったので。
けろけろ:p155で、イヤフォンをはめて、ヘガンの話を拒絶してしまったことを言っているのでは?
西山:韓国の絵本はたくさん出版されていますが、読み物はめずらしいなと思って手に取り、大変興味深かったので、この会で取り上げようと思いました。韓国でも、こんなに同調圧力が強いのかと、同じであることにまずびっくりしました。同時に、友だち関係で神経をすり減らしている10代は日本の創作で見なれているものの、悪口などここまであからさまに描かれていないと思い、違いにも驚き、とても興味深かったです。あと、とにかく、食べ物がよく出てきて、いちいちおいしそう。これが、けっこうな魅力となっていますね。文化の違いを最も感じたのが、やけに簡単に物をあげることです。誕生日とか何かの理由もなくプレゼントなんかしようとして、きっと拒絶されるぞと思いながら読み進めると、相手はすんなり喜んで受け取ってしまう。贈り物の考え方が違うのでしょうか。韓国文化に詳しい方がいたら教えてほしいと思いました。韓国のイメージがアップデートされた感じでおもしろかったですね。
カピバラ:韓国の中学生の日常を描いた物語は初めて読んだので新鮮でした。最初は人物名が男子か女子かすぐにわからないので読みにくかったけど、それぞれの描き方がうまく個性を表現しているのですぐに慣れて物語に入り込めました。仲良しグループに入る、つるむ、違和感を感じる、はずれる、という関係性がうまく描けていたと思います。日本の中学生女子にも「あるある」なことが多く、読者は共感を持つと思います。でも、人をけなす言葉がずいぶんときつく、はっきりしているのは韓国だからでしょうか。主人公が、自分の気持ちを素直に表現していて、友だち関係から複雑な心境に陥ってしまい、そこからなかなか抜け出せなかったり、逆にちょっとしたきっかけで妙に単純に立ち直ったりするところなど、この年頃の女の子の心理が手に取るようにわかります。どの子にも友だちに見せる表面の顔と、裏の顔があることが描かれていて、人の言葉に左右されずに自分で本当の姿を見極めることが大切だということが、読者にも伝わると思います。韓国の食べ物がいろいろ出てくるのが興味深かったし、コスメショップでいろいろ買い物するのも韓国らしいのかなと思いました。中学生だけでコスメや洋服を買いに行ったり、しょっちゅう食べ物屋で食べたりするんですね。文章にはいいなあと思う表現が随所にありました。「ものすごく楽しみで、通りに飛びだしていって拡声器でお知らせしないといけないくらいだ。」「その日以来、幸せウイルスのアプリが体にインストールされたみたいだった。」(p99)、「地球はわたしを攻撃する方向に自転しているようだった。」(p200)とか。この本も、読者は女子だけなのかな? 副題に「わたしは、わたし」が付くと女子しか手を伸ばさないのではないかと気になりました。女子は主人公が男子の本でも読むけれど、逆はあまりないようなので、もっと読んでほしいからです。
アカシア:前半はダヒョンが使い走りをさせられているのに、どこまでも合わせよう合わせようとしているという状態にいらいらして、早くなんとかしなさいよ、と言いたくなりました。でも日本と同じように韓国にも同調圧力やいじめがあることはよくわかりました。後半ウンユと知り合いになって、自分は自分らしくと思い始めてからは、周りの人々のことも、表面と実際はかなり違うということがわかっていく。そういうところはとてもおもしろく読んだのですが、前半がもう少し短くてもいいように思いました。食べ物がたくさん出てくるのもおもしろかったです。ただ、これは読者である私の問題なのですが、ここで初めて見る名前がいっぱい出て来て、すぐにイメージがわきにくかったんです。たとえば同じ名前の人を知っていれば、それを思い出して、同じでなくてもイメージがしやすいんですけど、女性名か男性名かもわからず、古い名前かキラキラネームかもわからないので、とまどいました。欧米の名前だと読み慣れているからそうでもない、ということを考えると、いかに自分が韓国の作品を読んでこなかったか、ということですね。それから最初のコピーライト表示ですが、書名が英語で書いてあってハングルでないのはどうしてなんでしょう?
コアラ:おもしろく読みました。グループ内での立場とか、そういうところは日本も韓国も変わらないんだなと思いました。ダヒョンの恋心がかわいかったです。印象に残ったのは、p190の6行目から、「わたしたちはみんな木と同じように独りぼっちなの。いい友だちなら、お互いに日差しになって、風になってあげればいい。自立した木としてちゃんと育つように、お互いに助け合う存在。」これはとてもいいと思いました。私が中学生なら、メモ帳にメモして持ち歩きたくなるいい言葉です。この木のたとえは、ダヒョンがチェリーシュリンプのブログに書くところでも出てきます。ページで言うとp206以降ですが、このあたりはどれもメモしたくなるくらい、いい言葉がありました。それから、この本に出てくる大人が、ちゃんと大人として存在しているのもいいと思いました。子どもにしっかりしたアドバイスをしているのが印象的でした。あと、ヘガンの口癖の「ヤバい」という言葉ですが、韓国語ではどういう意味の言葉なんだろうと興味を持ちました。
マリンゴ: とても魅力的な本でした。思春期の子たちのぐちゃぐちゃした人間関係、大好物です(笑)。特にいいなと思ったのは、ヒロインのダヒョンのウザい部分が書き込まれているところですね。とてもいい子なのにわけもなく嫌われる、のではなくて、ああ、こういう子はたしかに疎まれるかもしれないな・・・と思わせる部分をしっかり描いています。たとえば仲間に好かれるために積極的に悪口を言うところ、しゃべりだしたら止まらなくなるところなど、リアルです。日本が舞台ならば、少しユーモアを入れ込まないと、しんどい物語ですけれど、よその国のお話として距離を置いて読めるから、重苦しくても楽しめました。韓国の子たちのおやつ事情、食生活などもいろいろわかってよかったです。終盤、オトナがいいことをいろいろ言っていて、その言葉が印象に残りました。「世の中の人全員に好かれるのは不可能」(p188)、「憶えていてあげること、それが愛」(p193)などです。最近、一般書の韓国文学をちょくちょく読んでいます。チョン・セランなどがとても好きです。この本にも出会えてよかったと思っています。
ルパン:韓国の名前がなんだか耳に心地よかったし、翻訳ものといえば欧米の名前、という感覚があるからか、とてもエキゾチックに感じました。それにしても、実によく食べ物が出てきます。これと化粧品ネタがなかったら、このまま日本を舞台に置き換えてもいいくらい、日本の中学生と通じるところがあり、共感がもたれるのではないかと思いました。この読書会、リモートになって遠方や地方の方も参加できてよかったな、と思っているのですが、唯一対面でなくて残念なのが、みんなでおやつを食べられないこと。いつもアンヌさんが課題本にちなんだおやつを差し入れてくださっていたので、今回もし対面だったら何を買ってきてくれたかなあ、なんて想像しながら読んでました。
イタドリ:これから韓国の作品が、絵本だけでなく、どんどん紹介されていくんでしょうね。みなさんがおっしゃるように、食べ物のことやコスメのことだけでなく、子どもたちの暮らしの様子がわかるようになるので、楽しみにしています。『ハジメテヒラク』(こまつあやこ著 講談社)は、自分が一歩外に出て実況することで、物事を客観的に見られるようになるし、この本の主人公も新しい友だちを得ることで、人間関係を新しい視点から見ることができるようになる・・・テーマは、似通っていますね。ただ、日本の作品には母親を厳しい目で否定的に描いたものが多いような気がするんですが、この本のお母さんは、なかなかいいですね! こういうお母さんに育てられても、ウジウジしちゃうのかな?
ヒトデ:なによりも出てくる食べ物の描写がおいしそうで、「胃袋」に響く小説でした。韓国の小説は、一般書でも何冊か読みましたが、どれも「身体的な描写」にハッとさせられることが多かったように思います。この物語も、そうした意味でとても「身体的な(内臓的な)」小説だと感じました。大変な状況にあっても「食べる」ことで、主人公の身体にエネルギーが通って、物語が進んでいくような、そんな印象を持ちました。物語のなかに描かれている「高校入試」のシステムが複雑なのにも驚きました。アラムとの「落としどころ」は、読む人によって意見が分かれるのかもしれないなと思いつつ、私は好きな終わり方でした。
雪割草:とてもよかったです。登場人物が、家族やその子が置かれている環境とともによく描かれていると思いました。主人公や友だちのウンユが変わろうとする姿もていねいに書かれ、リアルに感じました。読んだ後に心に残る言葉のある作品が好きですが、この作品はまさにそうで、木や風を使った表現の箇所がよかったです。おとなの存在、おとなの視点が、作品でよく作用しているとも感じました。タイトルのチェリーシュリンプという生きものを知らなかったので調べてみました。日本では見慣れないこの生きものは、主人公がブログのタイトルに使って説明している以上の意味が韓国で何かあるのか、少し気になりました。
けろけろ:韓国料理がとてもたくさん出てきて、主人公たちがそれをエネルギーにしている感じがおもしろいですね。帯の表4側に作者の日本の読者へのメッセージがありますが、作者は日本の作品を読むときに、その街並みや食べ物をとても楽しんでいたようで、韓国の話を書くときに、それを意識して書こうとしていたんだなと思いました。友人関係がすべてというこの世代に、国を超えてエールを送っている感じに、とてもじんと来ました。韓国の女子のいじめが、日本とあまりにも似ているのに驚きました。ただ、翻訳ものであることが、いい距離感を生んでいて、日本の作品だとリアルすぎるところが少し薄まって読めるんですね。私の好きなシーンは、主人公のダヒョンがウンユに、亡くなった父親について話すところ。ふたりの関係がしっかりと結びついていくのが、視線などでうまく描かれているなと思いました。SNSのいじめって、残酷ですね~。文字の会話が続いていくなかで、そこで発言していない子がいることにみんな気づいているのに知らんふりしている。透明人間みたいになってしまう。日本でも、こんなシーンがきっとあるんだろうな、と思うと、胸が痛みます。魚住直子さんの作品も韓国で人気ですが、なにか通じるものを感じました。
ハル:「ザ・中学生あるある!」という感じで、実際にこういう経験をしたかどうかはおいておいても、主人公の心情表現は、まるで中学生、高校生のときの自分の日記を読み返しているようなリアルさを感じました。「私の日記か」というのはつまり、リアルなだけに、浅く散らかっているというか、文章が上滑りしていく感じもあり、「ときどきこういう、リアルなんだけどどこか軽くなってしまう小説ってあるよなぁ」と思いながら読んでいたのですが、後半の10章あたりでぐっと引き込まれて、主人公が書き溜めていたブログを公開したところで、ああいいなぁ、と思いました。特に主人公たちと同世代の読者たちは、身近な解決策やヒントをもらったような、勇気づけられた気持ちになるのではないでしょうか。ただ、結局、チェリーシュリンプは特にキーとして登場するわけでもないし、全体的にすごくよくまとまっているかというとそうでもないようにも感じましたが、良い作品だと思います。「日本の小説を読むのと変わりがないんじゃない?」というと、そうでもなくて、やっぱり、日本と似ているようで違う文化もおもしろく、韓国の子は買い食いの習慣があるんですね、いろんな食べ物が出てきておいしそうでした。
ネズミ:主人公が、学校での人間関係を克服して、ブログを公開できるようになるまでの成長を描くというテーマはいいですが、『ハジメテヒラク』と同じで、こちらも読むのが苦しかったです。同調圧力がどうにも苦手で。苦しいのは、それだけ真に迫っているからでしょうね。そんなことがあるの?と、驚くようなことが次々あってもどうにか読み進められるのは、舞台が日本ではなく韓国だとわかっているからでしょうか。
ニャニャンガ:『きらめく拍手の音』(イギラ・ボル著 矢澤浩子訳、リトル・モア)、『82年生まれ、キム・ジオン』(チョ・ナムジュ著 斎藤真理子訳、筑摩書房)などの一般向け韓国作品は読んだことがありますが、子ども向けの韓国作品ははじめて読みました。本作では韓国の様子がわかり興味深かったです。ただ、特定の子を嫌った理由が冒頭の人物紹介に書いてあったのはネタバレではないかなと感じました。韓国の大気汚染がひどいことは本書を通して知りました。聞きおぼえのある食べものが多く登場しますが、キムパグはキンパのほうが一般的かもしれません。「目がふっと震える」(p135)はすてきな表現と思った一方で、「バスが無表情」(p195)という表現には引っかかりました。「アナジュセヨ」(ハグしてください)の勘違いのくだりについては、最初に出てきたところで詳しく書いてくれたらわかりやすかったです。まじめ虫という表現は、『82年生まれ、キム・ジオン』のママ虫を思いだして韓国特有の表現なのかなと思いました。
さららん:登場人物たちがみんな食べることに執着しているのがおもしろく、私もそこにバイタリティを感じます。特に主人公は、仲良しグループに気を使い続け、次第にハブられていきますが、これだけ食べることが好きなら、この子はきっと負けない!と感じられ、そのおかげで読み進めることができました。友だち同士言葉で激しく言い合い、傷つけあうところも描かれ、陰湿な場面もありますが、主人公は自分の意志で、仲良しグループのトークルームを抜けることを選びます。クラシック好きなことも隠していたけれど、自分が選んだものを肯定し、表に出していける環境をだんだんに作っていきます。このぐらいタフで楽観的でありたいと願う読者は、韓国はもちろん、日本にもたくさんいるかもしれない。また江南からの転校生は優秀だという妬みや、うどん屋でクラシックをかけるのはヘンだ、といったものの見方に、日本よりさらに階級化された社会を感じました。
アンヌ:最初はいじめの話だと、いやいや読みだしたのですが、おいしそうな食べ物が次々と出てくるので、読んでいて楽しくなってきました。つらい思いをしている主人公の話で、どうもおなかも弱いらしいので、まさかこんなにおいしそうな話になるとはと意外でした。作者がこんな風に食べる場面がたくさん出しているのは、子供の生命力を読者に感じさせるためではないかと思います。それにしても、中学生や高校生の頃って、本当に嫌になるほどおなかがすいていたなと思い出します。私は食べ物で本を読み解く主義なので、試しに数えてみたら食べ物が出てくる場面は28場面。食べ物は全部で60品目以上ありました。そのうちダブっているものや中華街の食べ物や日本でも手に入る食べ物を抜いたら、24品目が韓国固有の食べ物でした。まずいとされるのはハンバーグ屋のハンバーグと飲み物だけというのもおもしろいところです。また、先ほどご指摘があったように、同じページ内に注がついていて、どういう食べ物かすぐわかるのも魅力でした。作者と翻訳者の、韓国を紹介したいという気持ちが感じられるところです。今、日本の若い人が夢中の韓国コスメの話も楽しく、こんなに若い時からお化粧品を買うんだなとか、p194のコスメ屋さんに4人で行く場面で、お父さんにも乳液をプレゼントするんだとか、韓国では父母の日というのがあるんだとかいうことを知りました。知らない生活習慣や韓国のおいしそうなものが出てきて、外国文学を読む楽しさを堪能しました。ダヒョンがこんなにつらい生活の中でも自分を見失わなかったのは、やはりブログという形で一度言葉にして心の中のものを外に出して、自分の好きなもの、自分を形作っているものを見つめていたからだろうと思います。課題をこなすために集まったグループのうち、3人が将来は記者になりたいと言っていて、作者は言葉が好きな人間を応援しているとも感じました。ダヒョンもウンユも言葉を知っている子だなと思います。p190のウンユの言葉で始まる木と風のたとえは実に詩的で、さらに、ダヒョンのブログの中でそのとらえ方が変わっていくところも、ダヒョンの成長が感じられていいなあと思いました。それぞれつらい別れを知っているからこその言葉だと思いました。私はいじめっ子にもいじめるわけがあるという擁護はあまり好きではありません。作者はアラムがウンユにまとわりついてうまくいかなかったことや、つらい境遇にあることを最後の方に記しています。だからといって関係をどうにかするということではなく、アラムが困っているのを察したダヒョンがポーチを机の上に置いて、そのことを相手がどう思ってもいいと立ち去るところは、実に爽快感があってよい終わり方だと思いました。
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エーデルワイス(メール参加):女の子特有のグループでのいじめの問題は韓国も日本も同じようです。ほとどの子が塾に行っていることや、音楽、映画、恋心も。コスメの浸透にはちょっと驚き、韓国の美味しそうな食べ物がでてくるのは楽ししかったです。ページ内に小さく注釈があるのはいいですね。「大気汚染注意報」も驚き。マスクを付けて登校とは。最初に登場人物の名前の一覧があるのは助かりました。韓国の名前に馴染みがなく、途中で誰か分からなくなり時々確かめながら読みました。ボス的な女の子のアラムが実は寂しい家庭環境にあることを知った主人公のダヒョンが、アラムの席に整理用品をそっと置くラストは爽やかです。コミュニティ新聞つくりグループの4人中3人が将来は物を書く人になりたいというのは作者の投影でしょうか。
しじみ71個分(メール参加):中学生女子の「あるある」な物語で、自分が中学生のときのことを思い出しました。中学生のあたりは、まだ自我の確立なんて全然できていないし、自分が何者かもまったく分からない時期で、自分の周りの小さな世界に所属したくても、どうしてか世界と自分とが、食い違ってしまう、自分は周りと何か違う、息苦しいと気づき始める頃なのだろうと思います。誰でもこんなことあるよね、と思わせてくれる物語で、チェリーシュリンプに象徴される、自分らしさを大事にすることの気づきを得て終わってくれたので、読み終わってスカッとしました。中学生女子の間の同調圧力の理屈の無さ、未熟さ、想像力の欠如から、なぜか自然に誰かを無視したり、仲間外れにする仕組みがリアルに描かれていると思います。理由が分からないけど、友だちが嫌っているから私も嫌いと思い込むとか、空気を読んだつもりで悪口を言ってしまうとか、なんて馬鹿馬鹿しいことかと思いますが、結構、大人でもあるなと居心地の悪さも感じさせてくれました。また、韓国の中学生のコスメ事情など、関心事も細かく描かれて、とても興味深かったです。また、とてもおもしろいなと思ったのは、結構、ウジウジした内容なのに、主人公のキャラクターのおかげか、物語が湿っぽくなく、カラッとドライな印象のあることでした。日本の物語だともう少しじめっと湿っぽくなるかもしれません。そのドライさは、主人公の思考や受け止めに表れる芯の強さや朗らかさから来るのかなと思ったのですが、書き方の客観性かもしれないですし、そこに作者の気持ちや意図ががあるようにも思いました。
鏡文字(メール参加):登場人物紹介で、ある程度の筋が見えた感じで、どう物語を決着させるかという興味で読み進めました。ラストのシーンはなかなかいいのではないかと思いました。韓国でも今時の中学生はいろいろ大変なんだな、とも。学校生活など、日本の子どもにとってもさほど違和感がないように感じました。その分、あまり新味もなかったかも。ベトナム戦争のことなどがチラッと出てきて、やや唐突な印象。本筋にからまないことで出てくるのはいいのですが、あとほんの少しだけ踏み込んでいいような気がしました。p216で母親が語る「生きていれば、疎遠になったり、思いもよらない時期にまた会ったりするの。人間関係なんて、みんなそういうものじゃないかしら」という言葉は、子どもがどう受け止めるかはともかく、大人としては多いに納得です。翻訳物は、書かれた背景など、訳者のあとがきを読むのが好きなので、それがないのが残念でした。
(2021年05月の「子どもの本で言いたい放題」より)