原題:THE LIBRARY CARD by Jerry Spinelli, 1997 (アメリカ)
ジェリー・スピネッリ/著 菊島伊久枝/訳 いよりあきこ/挿画
偕成社
1999.10
<版元語録>どこからか舞いこんできた一枚の青いカード。町一番のワルガキ二人、テレビづけになった少女、母親の愛に飢えた少年が見つけた愛の証、恋人に裏切られたパンク少女と、さびしい女の子。一枚の図書カードがひきおこす、小さな小さな四つのドラマ。
裕:よくできている話だと思いました。ひとつのテーマでつながった連作短編っていう意味では、『不思議を売る男』(偕成社)『種をまく人』(あすなろ書房)と同じ系列よね。この本は、不思議な図書カードがもたらす4つの物語だけど、大人がアクセスできない子どもの内面をうまく表現してる。短編だからこそ描けた世界だと思う。4編(「マングース」「ブレンダ」「ソンスレイ」「エイプリル」)の中でとくによかったのは「マングース」と「ブレンダ」かな。「ブレンダ」はテレビ中毒の女の子の、ちょっと病的なところもコミカルでおもしろいし、本を読みましょうっていうメッセージもわかる。うちの息子にも、ぜひ読ませたい。そういえば、私スピネッリってドイツ人だと思ってた、ずっと。この本読んで初めて知ったけど、アメリカ人だったのね。
ウーテ:名前から考えると、ドイツ系なんじゃないかしら。それと、メッセージ性が強いから、ドイツっぽい感じがしたのかも。
一同:メッセージ性、強いよねー。
愁童:そうだね。メッセージ性は強いけど、おもしろかった。4編の中では「ブレンダ」が、ちょっと残念かな。
ひるね:ところで「図書カード」っていう言葉、ちょっと違わない? あんまりなじみがないよね。「ライブラリーカード」といえば、カッコいいけれど……。原題は The Library Card で「青い」とはいってないんだけど、どうして「青い」とつけたのかな。アメリカでは青いのが一般的とか?
一同:そうかなあ。(といいながら、自分の貸出カードの色を各自チェック。青の人もあり)
裕:本文に「青い」って出てくるからタイトルにも持ってきたんじゃない?
モモンガ:それより「図書カード」っていうと、図書館の貸出カードじゃなくて、本を買うためのプリペイドカードの方を思い出さない?
一同:そうだね。
ひるね:とにかくメッセージが強烈よね。意志的なものを感じさせる文学。この本の担当編集者は「ソンスレイ」がイチオシだって。ほろりとさせられますっていってました。「ソンスレイ」には思い出の本が出てくるんだけど、日本ではそういうのってあまりないわね。外国では映画でも、共通の体験として「本」が登場するっていうの、よくあるけど。あと前作『クレイジー・マギーの伝説』『ヒーローなんてぶっとばせ』と比べて翻訳がいちだんとよくなってると思う。とくに男の子の会話が生き生きしてる。
ウォンバット:私は「マングース」と「ブレンダ」がよかったです。とくに「マングース」。図書カードがきっかけで、「知識」というものに目覚めていく様子がとてもいいと思う。こういう目の前がぱあーっとひらけていく感じって現実にあると思うし。最後の場面、取り残されたウィーゼルがかわいそうなんだけど、そういう寂しさもまたいいし、彼は彼でこれを乗り越えて元気でやっていけそうなバイタリティーをもってると思うから。「ブレンダ」もメッセージは強烈だけど、テレビ中毒のコミカルな描写なんかはおもしろかったな。でも、あんまりメッセージばかりが勝っちゃうとつまらなくなっちゃうから、そのあたりのバランスが問題かもしれない。
ウーテ:私は「ソンスレイ」は、何かが欠けているような気がして嫌でした。このごろのヘルトリングもそうなんだけど、苛酷な現実を包む、何かこう温かいものが欠けてると思う。私がヘルトリングから心が離れた理由は、まさにそれなの。以前の彼の描くものには温かさがあったのに、このごろの作品はなんだか寒々として無残な感じなのね。たぶん彼自身に余裕がなくなったからだと思うんだけど。それと同じようなものを「ソンスレイ」にも感じました。いちばんよかったのは「マングース」。終わり方もいいし、少年の心がよく描けていると思う。作者の言いたかったことは「マングース」だけで充分言い切ってるんじゃない? ほかの作品はなくてもいいくらい。
ウンポコ:ぼくも「何かが足りない」っていうのに同感。『クレイジー・マギーの伝説』『ヒーローなんてぶっとばせ』のときにも思ったんだけど、どうも気持ちが愉快にならないんだよね。子どもの内面を描こうとしているのはわかるんだけど、クリアリーなんかとくらべると、スピネッリの作品は「もう1度読みたい」っていう気持ちにならないの。どうも人間性が、ぼくとはすれちがうみたい。理屈じゃない、何かふわっと包みこむものが足りないんだよね。あと、この本は、挿絵がどうも。「物」はいいけど、人物は出さないほうがよかったと思うなあ。表紙もイマイチ。他の本に紛れちゃう表紙だね。前作と比べても同じ作者のものとしての統一感がないから、損だよね。
モモンガ:私もスピネッリって、どうも読みにくいのよね。どんどん進めないの。
裕:叙述的なところと心情とが、パッパッと切り替わるからじゃない?
モモンガ:そうかもしれない。大人っぽい書き方で、これが今のものなのかな、とも思うんだけど。図書カードをひとつの窓口として使ってるという良さはあるけど、4つの物語がばらばらだから、もっと関連性があってもよかったと思う。「ブレンダ」は冷たくて、ナマの子どもじゃない感じ。なんだかあんまりメッセージがわかりすぎるとつまんない。
(2000年01月の「子どもの本で言いたい放題」の記録)