山本直樹・山本美智子/著
岩波ジュニア新書
1999.08
版元語録:エイズってなに? エイズウイルス、感染しない方法、エイズの検査、検査と告知、治療法の進展、苦戦するエイズワクチン、エイズのこれから、等10章。
ポロン:私はこの本、むずかしくて読めなかった。読むというより、なんとか眺めたという感じ。だから、ひとことだけ感想を言います。「この本が、読める人はすごいなあ」
紙魚:そうなんですよね。これを子どもに読ませようとしているというのは、大人としてなんだかやるせないです。でも、この本ちゃんと重版かかっているし、こういう類のものでさえ他に類書がないので、きっと学校なんかでは参考図書としてよく使われているんだろうなと思います。これ、構成もよくないですよね。3章からはじまったほうが、まだよかったのでは?
アカシア:岩波の本は権威があると思われていて、引用されたりすることも多いと思うんですが、p151とp157は矛盾してます。p151の円グラフ(世界のエイズ患者の州別割合)では、感染者がいちばん多いのはアメリカで、全体の約半分を占めています。この同じグラフで、今回みんなで読んだ作品の舞台になっているアフリカの患者の数を見ると、70万6318人。グラフでも全体の三分の一くらい。ところが、p157の本文には「世界中のエイズ感染者のうち三分の二以上がサハラ砂漠以南に住み、その数は2100万人にのぼります」と書いてある。70万と2100万では差がありすぎます。円グラフの数字が正しいのかどうかも疑問ですが、正しいとするなら、なぜ2ケタも違うのかをきちんと説明してくれないと。政府が届けた数は意味がないと言いたいなら、実数に近いと思われるUNAIDSの推定数でつくった円グラフも載せておいてほしい。p151の円グラフは見やすいしインパクトが強いので、これを見たらエイズは主にアメリカの問題だと思ってしまう子も多いと思うんです。エイズは世界の貧困の問題とも大いに関係がありますが、この円グラフではその辺がまったく見えなくなってしまう。
ハマグリ:このようなグラフや表を載せる場合には、それをどのように読み解くかの解説も必要ですよね。
トチ:教室でエイズの勉強をするときなど、おそらく岩波で出したこの2冊を副読本のように使うんでしょうね。それだったら、もっと正確な、分かりやすい本にしてほしい。新聞記事は、いちばん読んでほしい重要なことから逆ピラミッド型に書いていくけれど、こういった本も作者が読者にいちばん伝えたいことをトップに持ってきて、最初の1、2章で飽きてしまった読者も、いちばん大切なことは知ることができたというような構成にすべきじゃないかしら。
(「子どもの本で言いたい放題」2006年3月の記録)