ディック・キング=スミス『ソフィーとカタツムリ』
『ソフィーとカタツムリ』
原題:SOPHIE’S SNAIL by Dick King=Smith, 1988(イギリス)
ディック・キング・スミス=作・デイヴィッド・パーキンズ=絵 石随じゅん=訳
評論社
2004.09

版元語録:ソフィーは動物が大すき。自分の農場をもつのが夢。ある日、庭で黄色い小さなカタツムリを見つけたソフィーは…。ソフィーは小さいけれど、いちど決めたらやりぬく子。ソフィーが元気をくれるよ! イギリスを代表する人気作家の、ユーモラスな物語。

ドサンコ:全体として楽しく読めました。たいていの女の子は虫が苦手ですが、そうじゃないところがいい。クラシックなストーリーの部類に入るでしょうか。リンドグレーンの話も通じるかな。

ミラボー:双子のお兄さんは個性がありませんね。妹のソフィーは個性的。ドーンという女の子、おばあちゃんの登場など、お話の対比的な構成がはっきりしています。カタツムリが生きて帰ってきてよかった!

うさこ:ソフィーという4歳の女の子が生き物が大好きなのはありだし、その生き物好きの描き方が上手だと思いました。でも、絵がどうしても受け入れがたかったですね。オーソドックスというか古いというか。今の日本の低学年の子が親しみをもったり好んだりするような絵ではないと思うのですが。4歳のソフィーがふけてみえるのは、私だけかな? 絵がお話を台無しにしている印象、というのは言い過ぎでしょうか。

たんぽぽ:短いお話が集まっていて、小さい子には読みやすい本です。カタツムリが流れていくところでアッと思いますが、最後にまた会えるところもいいですね。

むう:とにかく、主人公の描き方がいい。女の子が持っていたポニーの人形を壊しちゃったり、ちょっと乱暴になりかねないけれど、自分なりの筋を通しているというか、そのあたりがとても魅力的。牧場貯金の話も、ええ、そんな途方もない、という感じだし、お兄ちゃん二人がつっこんでいる通り、かなりへんてこ話なんだけれど、子どもはそういうことを考えそうだし。両親がそれなりにフォローして、さらにおばあさんがもっとソフィーに近い気持ちで協力するというあたりも、よく書けています。楽しくてユーモアがあって。作者が、大人にとって都合のいい子どもを書いていないのがいい。それに絵も、ぶすっとしたソフィーの姿なんかは、私はぴったりだと思ったな。

ウグイス:好きなお話でした。ソフィーが個性的て魅力的。「一度決めたらやりぬく子」という訳し方も印象的です。名前の「キラキラあんよ」「はしかのブタ」とかの訳し方にも工夫があっておもしろい。「エイプリル」と「メイ」がどっちがすてきな季節か、という部分がありますが、子どもの読者には、これが四月と五月ということがわかるでしょうか。括弧で意味を付記したほうがおもしろさが増したのでは?

愁童:登場人物が簡潔な表現で実に良く描かれていて楽しいし、子どもの読者にイメージしやすいような配慮も感じられて、うまいと思いました。新しく越してきた近所の女の子ドーンとの葛藤なども秀逸で、冒頭からソフィーの人物像を読者の中に鮮明に定着させてしまうところなど、さすがだと思います。

アカシア:訳に工夫がいっぱいありますね。小さな子どもの英語のちょっとした間違いなんかも、同じように感じられる日本語になっています。あとクラシックなストーリーというと、子どもを守ってくれる親が登場してきますが、この作品は明らかに現代の特徴を持っていて、ソフィーは親に期待していないんですね。大事に育てていたダンゴムシをドーンに踏みつぶされた仕返しに、ソフィーはドーンのおもちゃを壊してしまう。そのいきさつを親に話したのか、ときく兄たちに対してソフィーは、「どうせ『わざとやったわけじゃない』とか、『ただのダンゴムシだろう』とか言われるだけだからさ」(p81)と諦めています。そして実際にその通りだったということを作者はp83に出しています。それから挿絵は、もう少しなんとかしてほしかったです。全部が変な絵というわけではないのですが、表紙にも魅力がないし、p103のお医者さんの絵などホラーみたいです。どの絵も1ページ大にしているのがよくないのかも。

げた:表紙の絵はおとなしくて、クラシックですね。でも、本文の挿絵はソフィーの野性的なキャラクターを的確に表現していると思います。ドーンの人形を踏んづけているところはリアルに表現されていますよね。このシリーズ、うちの区の図書館では全館においています。ものすごく貸し出しが多い本ではないけど、夏・冬・春のおすすめ本にも指定して、たくさんの子どもたちに手にとってもらおうと思っています。

もぷしー:勢いとユーモアがあって、引き込まれました。とても読みやすい日本語だったので、翻訳にはすごくいろんな工夫があるのでは? 幼年童話の翻訳物を出すのは、表現や文化の違いなどで難しいことが多いけれど、これは比較的ストレートでシンプルな文で読みやすい。お話の内容としても、キャラの立ったアリスおばさんがまず魅力的。それに、ソフィーが常に頭をつかって、「やりたいことを実現するにはどうしたらいいか」を具体的に考えている姿も好感がもてました。でも、表紙は日本人受けしないと思う……。

(「子どもの本で言いたい放題」2006年7月の記録)