ケヴィン・ヘンクス『オリーブの海』
『オリーブの海』
原題:OLIVE'S OCEAN by Kevin Henkes, 2003
ケヴィン・ヘンクス/著 代田亜香子/訳
白水社
2005

オビ語録:ほとんど口をきいたこともないクラスメイトの少女が事故で死んだ。彼女が残した日記の1ページが、わたしの心を強くゆさぶった……多感な少女のひと夏の体験を描いて心にしみるニューベリー賞オナー受賞作

愁童:つまんなかったです。細かいところに目がいきすぎている割には主人公のデッサンが貧弱。主人公とオリーブの関係がよく読者に伝わらないのに、題名が「オリーブの海」って言われても、作者が何を伝えたかったのかさっぱり分からない。

むう:だいぶ前に読んだっきり、あまりよく覚えていないんです。原書も最初のほうは読んだんですが、印象が薄かった。最近のYAものの一つの路線として、このタイプのものがけっこうあるような気がしてしす。癒し系、というのでもないんでしょうが、強いラインがない。スライドみたいにきれいなイメージをつないでいって、あわあわあわっと進んでいく感じ。ただ、Sun and Spoon もそうだったけれど、色のきれいな絵を見ているような感じ、あたたかい感じはこの人の持ち味なんだろうなと思いました。この子にとってオリーブの日記はひどく唐突なんだけれど、それをこの子は決して切り捨ててはいない。最後に海のかけらをオリーブのところに持って行くあたりも、この子の優しさなんだろうと思う。そういう死を巡ることが基本にあって、その間におばあちゃんとか、ジミーといろんなことがあるという形はよくわかるんだけれど、今ひとつ迫ってくるものが感じられなかった。

ウグイス:ストーリーに起伏がないので印象は弱いんだけど、思春期の女の子の心情をていねいに描いていると思うの。著者はとても繊細な人なのではないかしら。お父さん、おばあちゃん、お兄ちゃん、5人兄弟、それぞれとの関係を書きながら、マーサの感じたことや、小さな心の揺れをとらえている。オリーブは仲がよかったわけではないので、書かれていなくても仕方がないのでは? それが後から届いた日記を読んで、だんだんに存在を意識するようになるところがおもしろいのだから。インパクトのある作品ではないけど、読んでいるときは心地よく納得しながら読んでいきました。章立てが細かいのも読みやすかったし。

たんぽぽ:私はおもしろくって、あっという間に読んでしまいました。最初の手紙が、この物語全体の何か重大なメッセージとなるのかと思いましたが、そうではなかった。少女と家族のつながり、祖母との対話を通して生きるということ、老いるということが伝わってきました。海でおぼれかけたとき、自分が死んでも周りはひとつも変わらないと感じた少女の気持ちが、よく伝わってきました。最後の海の水を持って帰ってあげるところで、この子は純粋で優しい子なんだなと、思い、ここで最初の、友達の手紙の内容とつながった気がしました。

ミラボー:全体的な印象はよかった。死んでしまった子とのかかわりがもっと出てくるのかな、と思いつつ読んでいましたが、はぐらかされるというか、あまり出てきませんでした。作品の最初と最後に出てくるけれど、本の帯の宣伝文句とはずれていて、死んじゃった子のことが薄いような気がします。

アカシア:主人公のマーサは12歳なので、それまで特に仲良しではなくても、クラスメイトが死んじゃったというのはショックだと思うんです。しかも、その子オリーブが自分のことを考えていたとわかれば、そこから何かを考えはじめるのは自然だし、見えている世界が何かの拍子にパッと変わってしまうところなどはよく書けてますよね。お父さんやおばあさんが、とてもいい人だという点はクラシックですね。私は、海の水を持ってオリーブのお母さんを訪ねていくところとか、筆をとって水がなくなるまで描いていくというあたりは好きですね。でもね、こういうありふれた日常の中での心の揺れを書くのは、日本の作家のほうがうまいと思うの。だから、あえてこれを翻訳しなくたっていいじゃないかと思ってしまった。

きょん:半分くらいしか読めませんでした。すてきな雰囲気なのですが、忙しくて時間がなくて短い時間に読みつなげていたので、バラバラしていて世界に入れませんでした。落ち着いて、この世界にひたって読んだらもっと良かったのかもしれません。

みんな:どうしてこれが課題図書なの?

アカシア:生や死を扱っていて、嫌みがないからじゃない?

カーコ:前に読んだとき、感じのいい作品だったという記憶はあったんですけど、ストーリーはすっかり忘れてしまって、今回全部斜め読みしました。主人公のまわりの人たちは、年端のいかないルーシー以外、みなそれぞれの人生があって、主人公はその中でいろいろなことを考えていくんですね。それはおもしろいんだけど、大きな事件は起こらないので、山あり谷ありの派手なストーリーを求める子には、読みにくいかもしれないと思いました。ゴッビーは、主人公を導いてくれる大事な人物なので、もう少し強烈な印象があると、もっと全体のメリハリが出てきたんじゃないかしら。

むう:オリーブが死んだということと、夏休みのいろいろな出来事で現されるものとの対比が弱いんじゃないかな。「死」という通奏低音の部分がもっとしっかり流れていると、上に乗っている「生」のほうも、決して派手ではなく、強いストーリーがなくても、もっとくっきり浮かび上がってくる気がするけど。

カーコ:確かに、8ページの、オリーブの日記を読んだときの主人公の気持ちが書いてある部分も、弱い感じがしますよね。「ぞっとした」というのが、どういう感じなのかつかみにくいんじゃないかなあ。

アカシア:ヘンクスは、ストーリーの起伏で読ませるタイプの作家ではないので、翻訳だと、そのへんの機微がわかりにくくなるのかもしれない。p141の詩もぴんとこないものね。

愁童:あまりうまい作品とは言えないんじゃないか。家族のこともきちんと描かれていないし。12歳の子が共感するだろうと訳者後書きにあるけれど、家の方の図書館では子どもは全然借りていないんだよね。だから、ぼくはすぐ借りられたけどね。

ねず:白水社のこのシリーズって、読者対象はどうなんでしょうね。

だれか:やっぱりYAじゃない?

ウグイス:小学生でもわかるところもあるわよ。

アカシア:物語を構築するんじゃなくて、情景を重ねていくタイプのこういう作品は、翻訳すると、よほどうまく訳さないかぎり原文の微妙な味わいも消えてしまうと思うの。

ウグイス:作者が21歳の時に出たデビュー作All Alone は、男の子がたった一人で自然の中で光や音を感じるという静かな絵本。あわあわとしているのね。この人自身が静かな人なんじゃないかな。2005年に『まんまるおつきさまをおいかけて』(福音館書店)でコールデコット賞もとってるのよね。

アカシア:『夏の丘、石のことば』(多賀京子訳 徳間書店)は、二人の視点から描かれていて、もう少しくっきりしたわね。

たんぽぽ:子どもって、しっかり、うけとめているけれど、あっさりしている。薄情というのではなくて、なんか、さっぱりしているところがあるのではないかなと思います。

小麦:最初の出だしには、すごくひきつけられたんだけど、期待したほどおもしろくはなかったです。マーサの気持ちの変化や、他者との関係についての説明があまりされてなくて、全体的にあわあわとしていて感情移入ができず、物語をぼんやりながめた感じで終わってしまいました。どうしてジミーを好きになったのかとか、オリーブに対する気持ちとか、さらっとは書いてあるんだけど物足りない。そういったところに、12歳ならではの気まぐれさや、自己完結的で言葉足らずな面があらわれていると思えば、まあそうなんだけど。本文の組み方なんかを見ても、白水社のYAシリーズは完全に大人向けだと思いますが、この本は大人の私には物足りなかったな。かといって、12歳の子がこの本を読んでマーサに共感するようにも思えないし……。

げた:亡くなったクラスメイトの母親が突然訪ねてくるという、ちょっと変わった始まり方に、まずひきつけられました。夏休みのおばあちゃんちでのジミーたち兄弟との出会いや、ジミーの裏切りにとまどい、ゆれる12歳の女の子の、まあこの時期特有の心の動きに共感できる部分がありました。

(「子どもの本で言いたい放題」2006年10月の記録)