ブライアン・セルズニック『ユゴーの不思議な発明』
『ユゴーの不思議な発明』
ブライアン・セルズニック/著 金原瑞人/訳
アスペクト
2008.01

マタタビ:惹きつけられる作品でした。絵と文が贅沢にかみ合っていて、後半になって構成の謎が解けていく。絵から音が聞こえてくるんだあと思いました。街や駅のざわめきや足音なんかが聞こえてくる。不思議な感覚でした。本の中心は文章だけど、これだけインパクトのある絵がふんだんに入ることによって、絵からも様々な感覚が呼び覚まされるんですね。内容は小学生にはちょっと難しいかなあ。でも、少し読書量のある高学年の子が出会ったら、びっくりすると思います。私自身すごくびっくりしました。本の新しい可能性を感じました。

ジーナ:さくさくと読んだのだけれど、後で何も思い出せないんです。一時楽しいけれど、絵が特に心を打つわけでもなく、筋を読む本かなあと思いました。なぜ思い出せないのかというと、文を読むのと絵を見るのとは働きが違うからでしょうか。文字で一つ一つ書きあらわされたのを読むと、心にイメージがくっきり刻まれますよね。でも、この本では絵の部分はぱっぱっとめくってしまって、絵でストーリーが進む部分があるのに、そこの印象が薄いみたいなんですよね。だから、読み物としては物足りない。それにしても大きな本ですよね。絵がいっぱい入っているのを考えると、よくこの値段で出せたなとは思いますが、手元に置いておこうと思うのは、この絵が好きな人かな。

みっけ:私もさらさらと読みましたが、なんかうまく入れなかった。急いでいたせいもあるんでしょうが、とってもおもしろいとまでは思えませんでした。ある程度固まって出てくる文章を、読む速度でするすると読んでいくと、突然絵がどどどっと出てきて、文字がまったくなくなる。そうなると、こんどは文字を追うのとは違って、一枚一枚を見ていく感じになって、がくん、がくん、がくんというリズムになる。ようやく絵を見るのに慣れたと思ったら、また今度はするするが始まるという調子で、最後までリズムに乗りきれませんでした。絵も、私の好みで言うともう一つという気がします。うまいですけどね。内容として、からくり人形の話やら映画が初めて登場した頃の話は、とてもおもしろかったし、ああこの人は、からくり人形や映画が大好きなのだなあ、というのが伝わってはきたのですが、それ以上とまではいかなかった。絵と文章が肌別れしているんですよね。文章を、無声映画の台詞みたいな字体で書いたりすれば、もっとしっくりきたのかもしれませんね。でも、文章の量が多いから、それも難しいかな。

ハリネズミ:この本は、絵でコルデコット賞をとっているんですよね。普通は絵本が取る賞です。小説の文法と絵本の文法は違いますが、この本は絵本の手法で書かれているのかも。小説として完成させるなら、もっときちんと説明したほうがいいところがあります。たとえば、ジョルジュ・メリエスは実在の人物ですが、この本からだけではなぜこの人が映画を拒否しているのかよくわからないので、もう少し書き込んでほしいところです。それからお父さんが火事で死に、おじさんも行方不明になってユゴーは孤児になるわけですが、物語だったらそうそう都合よくすませてしまうことはできない。
この絵は、私は好きです。映画みたいに引いたり寄ったりで、スライドのような効果が出てますね。それに、次々に謎が出てきて読者を引っ張っていくのもいいと思いました。一つ変だなと思ったのは、本文冒頭に舞台は「1931年パリ」と書かれているのに、訳者あとがきには「時代は20世紀、おそらく第一次大戦と第二次大戦のあいだのいつか」と書かれているんです。なんなんでしょうね?

球磨:こんなに厚くてどうしよう、と思って本を開いたら絵が多くてすぐ読めてしまいました。ですが、小説としては完成していないというハリネズミさんの指摘には納得です。なるほどと思いました。絵はとてもよく描けていると思います。実話を元にして初期の映画のことなんかをこんなにおもしろくできるんだなあと、感心しました。翻訳に統一性がないのが残念ですね。題名は、原題は「ユゴーが作り出したもの」でしょうか、日本語では「不思議」を入れて子どもたちを引っ張るんでしょうね。『レ・ミゼラブル』の地下道を思わせるような箇所もありますね、パリの裏の魅力というか。あんまり本が好きでない子にも薦められるかもしれません。

ハリネズミ:原書の表紙はカラーですよね。日本語版の表紙はモノクロで、趣はありますが、楽しい感じは削がれてますね。
この後、本作りのことで盛り上がる。

(「子どもの本で言いたい放題」2008年7月の記録)