彼岸花はきつねのかんざし

朽木祥『彼岸花はきつねのかんざし』
『彼岸花はきつねのかんざし』
朽木祥/著 ささめやゆき/絵
学習研究社
2008.01

版元語録:也子の前に現れたかわいい子ぎつね。「あたしに化かされたい?」ときかれた也子はとっさに、「ぜんぜん」と答えてしまう。段々とかけがえのない存在になっていく、也子と子ぎつね。だが、あの夏、あの恐ろしい爆弾が落とされた……。

酉三:広島原爆とキツネの話がしっくりいっていないと思いました。木に竹を接いでいる感じ。被爆二世として、原爆のことを若い人に伝えていこうという思いはわかるけれど。このテーマに再度挑戦してほしいと思いますね。

優李:原爆を描くのはなかなか難しいことですね。也子ときつねの子とのさまざまな関わりが深まっていくのを楽しみながら読みすすめていくと、本当に最後に、という感じで原爆がやってくる。私のように年を取った人には、原爆についてのたくさんの予備知識がありますが、全く知らない子どもたちにはわからないのではないか、とも思いました。ささめやゆきさんの絵は、とてもすてきでいいなあ、と思います。

メリーさん:テーマは戦争との関わりということでしたが、あまりそれを気にせずに読みました。あたたかい感じのする方言がきいていたと思います。子ぎつねがかわいいし、主人公の女の子がきつねに見つからないようにとえくぼを隠すのもかわいらしい。そんな中で、通奏低音のように、戦争が背景になっていて、じわじわと感じさせるところがこの本のいいところではないかと思いました。子どもの本のジャンルの中には、これまでずっと戦争と子どもとの関わりという部分があって、戦争の悲惨さを説くことが多い気がしますが、これは日常を丁寧に描くことで、逆に戦争を浮き彫りにしているのではないかと思いました。そんなことからも、『夕凪の街 桜の国』(こうの史代/著、双葉社)を思い出しました。あのコミックも、戦時中ながら、明るくちょっぴりぬけたキャラクターを中心に描かれていて、戦争という非日常の中で、たくましく生きていく人々を描いていました。そんな対比がこの物語にも出ているのではないかと思いました。

ナットウ:言葉が統一されていないので、雑多な感じがありました。たとえば72ページの地の文と会話文での、小さい/こまい。方言が多いので子ども向けの場合だと読みづらいかなと思いました。全体的に哀愁ただよう作品で、ラストは狐がどうなったか気になります。化かす/化かされるという行動の結末についても知りたいと思って読んでいましたが、それを原爆がうやむやにしてしまう。そこにリアルな当時の現状を反映させているように思いました。同じヒガンバナ科に「キツネのかみそり」というものもあります。彼岸花は死人花とも言われているので、手向けの意味で彼岸花を用い、狐の死を表現しているのかなと思いました。

タビラコ:朽木さんは『風の靴』(講談社)のような作品より、『かはたれ』(福音館書店)など、日本の風土に根差した作品のほうが、ずっと上手だと思いました。詩的な文章も奥深かったし、ささめやさんの絵も物語を一段と引き立てていますね。きつねの子のかわいいことといったら! ただ、原爆が天災と同じように描かれていて、遠くの風景のように感じられたのですが……。もちろん、主人公の家で働いているおじいさんは亡くなったし、主人公もガラスのかけらで怪我をしていますけれどね。小学生のときに『原爆の子』や『ひめゆりの塔』を見て、第五福竜丸の事件もリアルタイムで知っている私などの世代としては、正直言ってなにか物足りない感じもしました。とはいえ、「戦争もの」に拒否反応を示す子どもたちも少なからずいるということを、この読書会でもよく耳にしますし。今の子どもたちに戦争をどうやって伝えたらいいか、いろいろな手立てを考えるのが大人たちの使命だと、つくづく感じさせられました。

シア:非常に気に入りました。すごく印象の強い一冊です。今回は『ムーンレディの記憶』で一度挫折してから読んだ本なので、特にそう感じました。表紙のイメージだと、自然や田舎に関する内容のように思えますが、中を開くと戦争に関する記述が目に飛び込んできたので、よくある戦争の本かなと思いました。子どもは日々そういうものを押しつけられている(とくに夏には)ので、戦争ものは拒絶されがちですね。でも、そんな中で、この本はすらすら読めます。訛りや戦時中の言葉を、同じページ内の注に入れているのが便利でしたね。大人の本のように、何度も後ろのページを開く必要がありません。この注の入れ方は、どんどん取り入れて欲しいですね。ただ、広島弁については、もう少し注を入れてもいいかなと思いましたが、方言自体はかわいいなと感じながら読みました。
 とにかくこの本は子ぎつねがかわいくて、29ページのセリフから心をわしづかみにされました。物語というのは、かわいい・楽しいばかりのストーリー進行だと、話の流れは徐々にかわいそうな方向へ流れていくものなので、ページをめくっていくのが、逆につらくなりました。いもとようこさんが絵を描かれた『そばのはなさいたひ』(こわせたまみ/著、佼成出版社)という絵本があるのですが、この物語も登場人物がとてもかわいらしかったのを思い出しました。『そばのはなさいたひ』ではラストでかわいい登場人物が死んでしまうのがつらかったのですが、今回の本では子ぎつねの消息がわからずに終わっています。そこが違いですね。周囲の登場人物たちがどうなったのかわからない、というのが戦争のリアルさを表しているように感じ、日本にとって身近な悲惨さを表しているように思いました。本の裏表紙に学年別表示が「中学年から」とありますが、高校生にもすすめられる作品だと思います。しかし、学年表示があると、読者を限定してしまうのでよくないと感じます。保護者や教員が、子どもっぽい本だと決め付けてしまい、避けてしまいます。どうしても表示したいのでしたら、「〜おとなまで」をつけた方がいいのではないでしょうか。絵本は最近では全年齢扱いになってきましたが、まだまだ教育界での本への偏見は根強く、名作以外の本、とくに児童向け作品は選定から落ちやすい状況です。「3歳から100歳まで」とかにしたらまだいいかも?

プルメリア:きつねがかわいいなと思いました。開けてみて、戦争・彼岸花。各章ごとに必ず挿絵が入っているのが印象に残りました。物語にいろいろな植物がたくさん入っているので、季節感があり田舎の自然がわかりやすかったです。だんだんと戦争に入っていく雰囲気、当時の人々の様子や生活が子どもにもわかりやすく書かれています。戦争の本はたくさんありますが、自然体の本かな。この作品を読んだ子どもの反応は「きつねがかわいかった」でした。今年から教科書が変わって本の紹介がたくさん出ています。この作品は光村図書4年生の「ひとつの花」の後に紹介される本の1冊です。少しずつ戦争色が表れてくる内容なので、戦争を知らないこどもたちには最初から「この本は戦争の本だよ」といって与えたほうが、いいかも。戦争についての作品だとわかっていながら読めば、きつねだけに印象が偏らないと思います。

ハリネズミ:戦争の取り上げ方についての意見がありましたが、最初から「戦争の本だよ」というと嫌がって読まない子も多いかもしれません。でも、言わないと、戦争のことだとわからなくて、きつねの印象だけが強く残ってしまうんでしょうか。難しいですね。

プルメリア:さっきの子は、挿絵がかわいいきつねに視点がいってしまったんだと思います。ただ、これから後になって戦争について学習したときに、「あの本は戦争があった頃のことが書かれていたんだ」と思い出すかも知れないので、その時に気づけばいいのではないかと思います。

ダンテス:昔のお金 持ちの、ほんわかした雰囲気がよく書けている。自分の地元の言葉を生かして書いているのでしょう。きつねがどうなったかわからない形で終わらせるのが、会いたいのに会えないという余韻を残している。被爆の体験も 直接は書いていない。またきつねに会いたいなという終わり方はうまいと思います。

ハリネズミ:この本は好きな一冊です。こういう形で出していけば、子どもが戦争に拒否反応をおこさないで受け入れられるのではないかと思いました。この著者の文章が私は好きなんですが、子どもの気持ちをよくすくいあげていると思います。きつねのかわいさも子どもをひきつけるし。通奏低音は切ないのですが、大きな死はなく、日常を淡々と書いているのがいい。おばあちゃんきつねは、人間のおばあちゃん、おかあさんきつねは人間のお母さん、子ぎつねは人間の子どもの前に現れるんですけど、きつねの寿命と人間の寿命は違うので、リアリティを考えると変だな、と思いました。きつねの寿命のほうがずっと短いですよね

けろけろ:この本の担当編集者として、みなさんのお話をうかがいました。まずは、読んでくださってありがとうございました。
 朽木さんは、プロフィールに被爆二世と書かれていることからもわかるように、原爆というテーマについて、ぜひ作品を書きたいというお気持ちがあったと思います。『はだしのゲン』(中沢啓治著、汐文社など)が怖くて読めない、という今の子どもたちに読んでもらえる話にするには、どうしたらいいかと、いつも考えられていたのではないでしょうか。そして、自分のいちばん近くにいる家族やペット、友人、当たり前のようにあった日常が突然、ぶつっと切られてしまうということを表現しようと考えたのだと思います。これなら、今の読者にも簡単に想像できることです。原爆で引き起こされる悲惨な表現よりも、こちらに集中しようと。それに対する大人の読者からの「表現がたりない」というような批判も、覚悟の上だったと思います。
 もちろん、著者の持ち味である端正なファンタジー世界も、生き生きと描かれています。作品の生まれるきっかけは、子ぎつねが「あたしわりあい化かすのうまいんだよ、化かされたい?」と話しかけてきたことと聞きました。ささめやゆきさんの子ぎつねの絵が入って、この作品世界がとても絵画的であることが改めてわかりました。とてもいい絵をいただいたと思います。
制作の過程で注意したのは、原爆の話だよというインフォメーションを少しずつ織り交ぜたことです。また、広島弁については、著者はとても苦労されました。話し言葉をそのまま書くと、文面が読み取りにくくなるので、かなり音読して読み返し、書き直されています。
今回の震災のとき、窓ガラスがひどく揺れて割れそうになったのを見て、私の娘は「彼岸花」の原爆のシーンで、主人公の腕にたくさんガラスがささった場面を思い出したと言っていました。原爆のすべてをこの作品でわからなくても、成長しながら少しずつ思い出したり、思い当たったり、原爆についてもっと深く知りたいと思ってもらえるようになっていってくれたら、うれしいと思います。

酉三:被爆体験が届かない、と嘆くのではなく、届かせようと工夫するのは大事。たしかに被爆の現実は強烈で、うちの子は、小学校2年生のときに長崎原爆資料館に連れて行ったのですが、写真や資料にショックを受けて、展示室を飛び出して行ってしまった。だからこういうことへの最初の出会いをゆるやかなところから始めるというのは、考えていいのかもしれないですね。

タビラコ:けろけろさんのお話を聞いて、感動しました。作者と編集者のこの作品にこめた思いが、よくわかった気がします。わたしの読み方が浅かったかな。それに、震災の前と後とでは、子どもたちの読み方も変わってくるのではないかと思いました。より主人公の心に寄り添って読めるようになったのではないかな……と。

(「子どもの本で言いたい放題」2011年5月の記録)

彼岸花はきつねのかんざし

朽木祥『彼岸花はきつねのかんざし』
『彼岸花はきつねのかんざし』
朽木祥/著 ささめやゆき/絵
学習研究社
2008.01

酉三:広島原爆とキツネの話がしっくりいっていないと思いました。木に竹を接いでいる感じ。被爆二世として、原爆のことを若い人に伝えていこうという思いはわかるけれど。このテーマに再度挑戦してほしいと思いますね。

優李:原爆を描くのはなかなか難しいことですね。也子ときつねの子とのさまざまな関わりが深まっていくのを楽しみながら読みすすめていくと、本当に最後に、という感じで原爆がやってくる。私のように年を取った人には、原爆についてのたくさんの予備知識がありますが、全く知らない子どもたちにはわからないのではないか、とも思いました。ささめやゆきさんの絵は、とてもすてきでいいなあ、と思います。

メリーさん:テーマは戦争との関わりということでしたが、あまりそれを気にせずに読みました。あたたかい感じのする方言がきいていたと思います。子ぎつねがかわいいし、主人公の女の子がきつねに見つからないようにとえくぼを隠すのもかわいらしい。そんな中で、通奏低音のように、戦争が背景になっていて、じわじわと感じさせるところがこの本のいいところではないかと思いました。子どもの本のジャンルの中には、これまでずっと戦争と子どもとの関わりという部分があって、戦争の悲惨さを説くことが多い気がしますが、これは日常を丁寧に描くことで、逆に戦争を浮き彫りにしているのではないかと思いました。そんなことからも、『夕凪の街 桜の国』(こうの史代/著、双葉社)を思い出しました。あのコミックも、戦時中ながら、明るくちょっぴりぬけたキャラクターを中心に描かれていて、戦争という非日常の中で、たくましく生きていく人々を描いていました。そんな対比がこの物語にも出ているのではないかと思いました。

ナットウ:言葉が統一されていないので、雑多な感じがありました。たとえば72ページの地の文と会話文での、小さい/こまい。方言が多いので子ども向けの場合だと読みづらいかなと思いました。全体的に哀愁ただよう作品で、ラストは狐がどうなったか気になります。化かす/化かされるという行動の結末についても知りたいと思って読んでいましたが、それを原爆がうやむやにしてしまう。そこにリアルな当時の現状を反映させているように思いました。同じヒガンバナ科に「キツネのかみそり」というものもあります。彼岸花は死人花とも言われているので、手向けの意味で彼岸花を用い、狐の死を表現しているのかなと思いました。

タビラコ:朽木さんは『風の靴』(講談社)のような作品より、『かはたれ』(福音館書店)など、日本の風土に根差した作品のほうが、ずっと上手だと思いました。詩的な文章も奥深かったし、ささめやさんの絵も物語を一段と引き立てていますね。きつねの子のかわいいことといったら! ただ、原爆が天災と同じように描かれていて、遠くの風景のように感じられたのですが……。もちろん、主人公の家で働いているおじいさんは亡くなったし、主人公もガラスのかけらで怪我をしていますけれどね。小学生のときに『原爆の子』や『ひめゆりの塔』を見て、第五福竜丸の事件もリアルタイムで知っている私などの世代としては、正直言ってなにか物足りない感じもしました。とはいえ、「戦争もの」に拒否反応を示す子どもたちも少なからずいるということを、この読書会でもよく耳にしますし。今の子どもたちに戦争をどうやって伝えたらいいか、いろいろな手立てを考えるのが大人たちの使命だと、つくづく感じさせられました。

シア:非常に気に入りました。すごく印象の強い一冊です。今回は『ムーンレディの記憶』で一度挫折してから読んだ本なので、特にそう感じました。表紙のイメージだと、自然や田舎に関する内容のように思えますが、中を開くと戦争に関する記述が目に飛び込んできたので、よくある戦争の本かなと思いました。子どもは日々そういうものを押しつけられている(とくに夏には)ので、戦争ものは拒絶されがちですね。でも、そんな中で、この本はすらすら読めます。訛りや戦時中の言葉を、同じページ内の注に入れているのが便利でしたね。大人の本のように、何度も後ろのページを開く必要がありません。この注の入れ方は、どんどん取り入れて欲しいですね。ただ、広島弁については、もう少し注を入れてもいいかなと思いましたが、方言自体はかわいいなと感じながら読みました。
 とにかくこの本は子ぎつねがかわいくて、29ページのセリフから心をわしづかみにされました。物語というのは、かわいい・楽しいばかりのストーリー進行だと、話の流れは徐々にかわいそうな方向へ流れていくものなので、ページをめくっていくのが、逆につらくなりました。いもとようこさんが絵を描かれた『そばのはなさいたひ』(こわせたまみ/著、佼成出版社)という絵本があるのですが、この物語も登場人物がとてもかわいらしかったのを思い出しました。『そばのはなさいたひ』ではラストでかわいい登場人物が死んでしまうのがつらかったのですが、今回の本では子ぎつねの消息がわからずに終わっています。そこが違いですね。周囲の登場人物たちがどうなったのかわからない、というのが戦争のリアルさを表しているように感じ、日本にとって身近な悲惨さを表しているように思いました。本の裏表紙に学年別表示が「中学年から」とありますが、高校生にもすすめられる作品だと思います。しかし、学年表示があると、読者を限定してしまうのでよくないと感じます。保護者や教員が、子どもっぽい本だと決め付けてしまい、避けてしまいます。どうしても表示したいのでしたら、「〜おとなまで」をつけた方がいいのではないでしょうか。絵本は最近では全年齢扱いになってきましたが、まだまだ教育界での本への偏見は根強く、名作以外の本、とくに児童向け作品は選定から落ちやすい状況です。「3歳から100歳まで」とかにしたらまだいいかも?

プルメリア:きつねがかわいいなと思いました。開けてみて、戦争・彼岸花。各章ごとに必ず挿絵が入っているのが印象に残りました。物語にいろいろな植物がたくさん入っているので、季節感があり田舎の自然がわかりやすかったです。だんだんと戦争に入っていく雰囲気、当時の人々の様子や生活が子どもにもわかりやすく書かれています。戦争の本はたくさんありますが、自然体の本かな。この作品を読んだ子どもの反応は「きつねがかわいかった」でした。今年から教科書が変わって本の紹介がたくさん出ています。この作品は光村図書4年生の「ひとつの花」の後に紹介される本の1冊です。少しずつ戦争色が表れてくる内容なので、戦争を知らないこどもたちには最初から「この本は戦争の本だよ」といって与えたほうが、いいかも。戦争についての作品だとわかっていながら読めば、きつねだけに印象が偏らないと思います。

ハリネズミ:戦争の取り上げ方についての意見がありましたが、最初から「戦争の本だよ」というと嫌がって読まない子も多いかもしれません。でも、言わないと、戦争のことだとわからなくて、きつねの印象だけが強く残ってしまうんでしょうか。難しいですね。

プルメリア:さっきの子は、挿絵がかわいいきつねに視点がいってしまったんだと思います。ただ、これから後になって戦争について学習したときに、「あの本は戦争があった頃のことが書かれていたんだ」と思い出すかも知れないので、その時に気づけばいいのではないかと思います。

ダンテス:昔のお金 持ちの、ほんわかした雰囲気がよく書けている。自分の地元の言葉を生かして書いているのでしょう。きつねがどうなったかわからない形で終わらせるのが、会いたいのに会えないという余韻を残している。被爆の体験も 直接は書いていない。またきつねに会いたいなという終わり方はうまいと思います。

ハリネズミ:この本は好きな一冊です。こういう形で出していけば、子どもが戦争に拒否反応をおこさないで受け入れられるのではないかと思いました。この著者の文章が私は好きなんですが、子どもの気持ちをよくすくいあげていると思います。きつねのかわいさも子どもをひきつけるし。通奏低音は切ないのですが、大きな死はなく、日常を淡々と書いているのがいい。おばあちゃんきつねは、人間のおばあちゃん、おかあさんきつねは人間のお母さん、子ぎつねは人間の子どもの前に現れるんですけど、きつねの寿命と人間の寿命は違うので、リアリティを考えると変だな、と思いました。きつねの寿命のほうがずっと短いですよね

けろけろ:この本の担当編集者として、みなさんのお話をうかがいました。まずは、読んでくださってありがとうございました。
 朽木さんは、プロフィールに被爆二世と書かれていることからもわかるように、原爆というテーマについて、ぜひ作品を書きたいというお気持ちがあったと思います。『はだしのゲン』(中沢啓治著、汐文社など)が怖くて読めない、という今の子どもたちに読んでもらえる話にするには、どうしたらいいかと、いつも考えられていたのではないでしょうか。そして、自分のいちばん近くにいる家族やペット、友人、当たり前のようにあった日常が突然、ぶつっと切られてしまうということを表現しようと考えたのだと思います。これなら、今の読者にも簡単に想像できることです。原爆で引き起こされる悲惨な表現よりも、こちらに集中しようと。それに対する大人の読者からの「表現がたりない」というような批判も、覚悟の上だったと思います。
 もちろん、著者の持ち味である端正なファンタジー世界も、生き生きと描かれています。作品の生まれるきっかけは、子ぎつねが「あたしわりあい化かすのうまいんだよ、化かされたい?」と話しかけてきたことと聞きました。ささめやゆきさんの子ぎつねの絵が入って、この作品世界がとても絵画的であることが改めてわかりました。とてもいい絵をいただいたと思います。
制作の過程で注意したのは、原爆の話だよというインフォメーションを少しずつ織り交ぜたことです。また、広島弁については、著者はとても苦労されました。話し言葉をそのまま書くと、文面が読み取りにくくなるので、かなり音読して読み返し、書き直されています。
今回の震災のとき、窓ガラスがひどく揺れて割れそうになったのを見て、私の娘は「彼岸花」の原爆のシーンで、主人公の腕にたくさんガラスがささった場面を思い出したと言っていました。原爆のすべてをこの作品でわからなくても、成長しながら少しずつ思い出したり、思い当たったり、原爆についてもっと深く知りたいと思ってもらえるようになっていってくれたら、うれしいと思います。

酉三:被爆体験が届かない、と嘆くのではなく、届かせようと工夫するのは大事。たしかに被爆の現実は強烈で、うちの子は、小学校2年生のときに長崎原爆資料館に連れて行ったのですが、写真や資料にショックを受けて、展示室を飛び出して行ってしまった。だからこういうことへの最初の出会いをゆるやかなところから始めるというのは、考えていいのかもしれないですね。

タビラコ:けろけろさんのお話を聞いて、感動しました。作者と編集者のこの作品にこめた思いが、よくわかった気がします。わたしの読み方が浅かったかな。それに、震災の前と後とでは、子どもたちの読み方も変わってくるのではないかと思いました。より主人公の心に寄り添って読めるようになったのではないかな……と。

(「子どもの本で言いたい放題」2011年5月の記録)