原題:HEARTWOOD HOTEL: A TRUE HOME by Kallie George, 2017
ケイリー・ジョージ/作 久保陽子/訳 高橋和枝/挿絵
童心社
2018.10
<版元語録>親も家もなくしたねずみのモナは、ずっとひとりでくらしてきました。ある嵐の日、森をさまよいたどりついたのは、評判のすてきなホテル。そこでメイドとして働かせてもらうことになったモナですが、メイド長のリスはなぜかモナに冷たくあたります。とまりにくるお客さんも、それぞれ事情や秘密があるようで……。ホテルの生活はトラブル続きですが、モナは信頼と友情をきずき、自分の本当のわが家をみつけます。
カピバラ:ホテルの従業員やお客さんが、ひとりずつ順に登場して、どんな人物か紹介されていくのですが、それぞれの動物の特徴を生かした性格付けがされていて、おもしろかったです。挿絵は単純な線だけれどユーモラスに動物たちを描いています。こわいと思ったクマさんと友だちになり、そのことがオオカミを撃退する場面の伏線になっているなど、小さなエピソードや、ちょっとした事件がそれぞれ関連をもちながら語られていくので、どんどん読んでいけると思います。泊まるのを遠慮してほしいコガネムシが実はホテル評論家だったというのも愉快。ここに昔泊まったねずみ夫婦が、モナの両親かもしれないのですが、モナが再会できるかどうかは1巻目には書いてありません。続きを読みたくなりますね。中学年の子どもたちにすすめたいと思いました。
マリンゴ: とてもかわいらしい本で、おもしろかったです。イラストがすばらしいですね。特にモナとトカゲ。著者本人が描いたのかと思うほど雰囲気に合っています。物語では、オオカミが悪役でクマがいい役なのですが、オオカミは肉食で、クマは7割くらい植物を食べる雑食で、小動物に少し近いからかな、などと構造の設定を想像しました。もっとも、ホテルの従業員とお客が草食ばかりというわけではなく、たとえばアナグマは雑食、ツバメは肉食だそうなのですが。なお、表紙ですが、左下に著者、翻訳者、画家の名前があって、帯がかかると完全に隠れてしまっているのはよくないと思いました。『トルネード!』(ベッツィ・バイアーズ作 もりうちすみこ訳 学研)も同じ位置にありますが、こちらは帯に名前が表示されているので、問題ないですね。
ケロリン:中学年向けの、エンタメではなくきちんとしたストーリーのある物語が始まったといううれしい気持ちで読みました。動物が登場人物ですが、人間関係ならぬ動物関係がとてもよく描かれています。注意するとしたら、動物の実際からあまり違うことが起きたりすると、違和感が増してしまって物語に入りこめなくなるということですね。高橋さんの挿し絵もとても合っていますね。今後のシリーズ展開が楽しみです。
西山:かわいらしい本ですね。中学年くらいに読まれるシリーズになるのでしょう。小さいものの世界がこまかく描かれていて、シルバニアファミリーのようなミニチュアの世界が提供する楽しさがあるように思います。小さきものはみなうつくし、です。ネズミとリスの大きさの違いが意外とこだわられていたり、はまる要素はたくさんあるのでしょう。だけど、私自身は、この世界の人間観や構図がすごくクラシックで、なんだかなぁと入りきれません。親がいなくて、かわいそうな女の子、いじわるな同僚、理解のある上役、お客さんには徹底した敬語で、人間関係が古くさい。それはそれで安定感のある古典みたいなよさがあるのかもしれないけれど、このシリーズが大好きになる子はいるのでしょうけれど、退屈せずに読みましたけれど、特に推したいと思う作品ではありませんでした。
カピバラ:「ダウントンアビー」のメイドの世界みたいですよね。
ネズミ:女の子っぽい本だなと思いました。悪くはなかったけれど、健気な女の子ががんばるというのは、どこか古臭い感じもして、これをぜひどうぞ、とまでは私も思いませんでした。森のいろんなアイテムを想像する楽しみはあるけれど、どこまでがリアルで、どこからがファンタジーか、よくわからないところも。たとえば、ペパーミントでにおいを消すというのがありますが、動物のにおいは、ほんとうにペパーミントで消えるんでしょうか? ハリネズミがハリでメモをとめるなど、おもしろいですが、p84の最後から2行目「ずっとひとりきりで生きてきたモナは、相手に思いを言葉で伝えることに、まだなれていませんでした」と言われると、動物だか人間だか、わからなくなってしまいます。また、登場人物同士のせりふがあけすけで、人間だったらぎょっとしてしまうような直接的な表現があるなあと思いました。たとえば、p154の冒頭の「このままだと、わたしよりモナのほうが評価されるようになるんじゃないかと不安だったんです」とか。悪くはないけど、私はもっとほかの本を子どもに読ませたいかな。
レジーナ:飽きさせない展開で、一気に読みました。ティリーがモナをかばう場面は唐突で、なぜ急に態度を変えたのか、わかりませんでした。読みやすい訳ですが、ひっかかったのはp91「止まり木のかわりにみじかい小枝が打ちつけてありますが、ねむるにはおぼつかないのか、すみに小さなベッドが置いてあります」。「おぼつかない」は、物には使わないかと。あと、p70「あなたがのろのろしてるのは、わたしのせいじゃないし」で、これは、仕事に手間取って食べるのが遅くなっても、自己責任だという意味でしょうか。ちょっと意味がとりづらいので、中学年向きの本ならば、ここはもう少していねいに訳したほうがいいと思いました。
鏡文字:私は、基本的に人間至上主義なので、動物ものはちょっと苦手です。でも、いろんな意味で、安心して読めました。表紙の絵はすごくかわいいんだけど、字体もいろいろで、字面がおちつかない気がしました。このグレードだと、本のサイズももう少し大きいほうが一般的なのかな。もっと上の子向けの話かと思いました。私も、これが人間だったら、きつかったかも。ご指摘があったように、古典っぽい感じもしました。意図して、なのかもしれませんが。言葉づかいもクラシック。ストーリーとしては、結局はモナ一人(一匹)が活躍しているのが気になりました。
ネズミ:文字量からすると、高学年じゃないと難しいですか?
ケロリン:中学年向けソフトカバーだと、この判型と厚さはよくあります。
カピバラ:タイトルの「秘密」が漢字なので高学年向けでしょうか? 本文にはルビがありますけどね。
アカシア:楽しく読みました。全体にかわいらしいお話だし、オオカミ以外は本質的にいいキャラだし、ハッピーエンドなので安心して読めます。ただ、ものすごくおすすめとは思いませんでした。物語世界のつくり方が不安定だからかもしれません。擬人化の度合いはこれでいいのかな、と疑問に思うところがありました。たとえばモナですけど、お話の中ではネズミではなく擬人化の度合いが高く、まるで人間のように描かれています。でも、両親の記憶もないくらい小さいときに孤児になって、どうやって生きのびたのか、そこは不明です。このホテルに到着するまではネズミ的で、ホテルに到着してからは人間と同じような存在ってこと? うーん、どうなんでしょう。私は、小さい子どもが読む本でも、作品世界はきちんと作ってほしいと思うほうなので、そのあたりが中途半端で残念でした。ストーリーが都合よすぎるところもありますね。ハートウッドさんはホテル評論家に来てもらって新聞にいい記事を書いてもらいたいと思っていますが、そうすると、知られたくないオオカミにもホテルの場所は知れてしまいますよね。オオカミがホテルのありかを探しているところで、においが漏れるからホテルでは料理しないとか、火を使わないと言ってますが、それでばれるくらいなら、夜に灯りをつけなくてもとっくにばれているようにも思います。ティリーの改心もとってつけたようで。あと、モナはいつも前向きで、応援したくなるキャラなのですが、ひたすらいい子なんですね。中学年くらいまではこれでいいのかもしれないけど、年齢が高い読者だと,嘘くさいと思うかもしれません。
ルパン:私はおもしろく読みました。リアリティのなさにはあまりひっかかりませんでした。ひとつだけ・・・モナやティリーはお金をもたずに迷い込んできたらメイドになるのに、ツバメのシベルさんだけお客さん扱いなのはなぜだろう、と思いました。けがをしているからかな。 モナの両親は生きているみたいですね。2巻も読んでみたいと思います。
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エーデルワイス(メール参加):とてもかわいいお話で、挿絵と文章がよく合っています。女の子が喜びそうですが、だからといって甘ったるい感じはなくおもしろく読みました。続編も読みたいです。
(2019年1月の「子どもの本で言いたい放題」の記録)