原題:BROWN GIRL DREAMING by Jacqueline Woodson, 2014
ジャクリーン・ウッドソン/著 さくまゆみこ/訳
小学館
2021.08
国際アンデルセン賞、アストリッド・リンドグレーン賞を受賞したウッドソンが自分が生まれて、南部の祖父母の家とニューヨークの母のアパートを行ったり来たりしながら少女時代を過ごし、やがて文字や文章に興味をもって作家をめざすようになるまでの反省を散文詩で描いています。
これを訳すのは結構大変でした。詩のリズムを活かしながら意味が通って行くようにしなければならなかったし、そのままではわかりにくい言葉に注を入れなくてはならなかったし、詩らしい形を整えなくてはならなかったからです。
利発で成績もよい姉オデラの陰で読み書きもうまくできなくて劣等感を感じていたこと、おとなしい兄のホープが歌の才能に恵まれていたのを知り、自分にも隠れた才能があるのかと不安になったこと、肌の色も目の色も自分たちとは違う弟のローマンに最初は違和感を持つけれどやがて弟として大事に思うようになること、大好きだった祖父や、エホバの証人の信者だった祖母のこと、いつも陽気なロバートおじさんが逮捕されて収監され、刑務所に面会に行ったときのことなど、家族のこともたくさん書かれています。
それに加え、ブラックパンサー党やアンジェラ・デイヴィス、キング牧師、マルコムXなども登場し、当時のアフリカ系の人たちがどう考えていたのか、それを子どもの目がどうとらえていたのかをうかがい知ることもできます。
(編集:喜入今日子さん 装丁:アルビレオ イラスト:MARUU)
*全米図書賞受賞
*ニューベリー賞オナー受賞
*コレッタ・スコット・キング賞作家賞受賞
*E.B.ホワイト賞受賞
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〈訳者あとがき〉
本書は、2014年に出版され、全米図書賞、ニューベリー賞オナー、コレッタ・スコット・キング賞、E.B.ホワイト賞など、アメリカの主要な児童文学賞を総なめにしたジャクリーン・ウッドソンのbrown girl dreamingの翻訳です。
ウッドソンは、2015年から2017年までアメリカの「若い人たちのための桂冠詩人」を、2018年から2019年にはアメリカの児童文学大使をつとめています。また2018年にアストリッド・リンドグレーン記念文学賞、2020年に国際アンデルセン賞作家賞を受賞しているので、まさに現代のアメリカの児童文学界を第一線で牽引している作家といってもいいでしょう。
本書はそんなウッドソンの代表作の一つで、オバマ元アメリカ大統領も、アメリカの人種問題を理解するために本書をすすめています。
最近アメリカでは、詩の形式で書かれた物語がたくさん出版されていますが、本書も散文詩で書かれています。それについてウッドソンは「普通の文章で書けば、時系列や因果関係や起承転結をはっきりさせないといけないけれど、これは頭に浮かんでくる思い出を書きとめたものなので、こういう形式がふさわしいと思ったのです」と語っています。
1963年にオハイオ州コロンバスに生まれたウッドソンは、若くして離婚した母親といっしょに、母親の実家があるサウスカロライナ州グリーンビルと、母親が引っ越した先のニューヨーク市ブルックリンを行ったり来たりしながら育ちます。本書はそんなウッドソンの半生記と言えますが、ウッドソンが幼いころから文字や言葉に興味をもっていたこと、それでも読んだり書いたりすることがうまくできずに優等生の姉にコンプレックスを抱いていたこと、先生に励まされて自分の才能に気づいて行くところなどもリリカルに語られており、彼女が作家になっていく道のりを垣間見ることができます。祖父母、父母、きょうだいなど家族のことも、ひとりひとりのイメージがくっきりとうかぶように描かれているのが、おもしろいところです。
また祖父母のいるサウスカロライナにまだ残っていた人種差別についても、キング牧師、マルコムX、アンジェラ・デイヴィスといった先輩たちの公民権運動やフェミニズム運動から受けた影響についても、子どもの視点から描写されているので、BSM(ブラックライブズマター)の背景についてもわかっていただけるのではないかと思います。
詩の翻訳はむずかしく、さまざまに迷いながら訳しましたが、若いみなさんに楽しんでいただければ幸いです。
2021年7月 さくまゆみこ