日付 2024年03月22日
参加者 ハル、アカシア、花散里、サークルK、ANNE、アマリリス、ルパン、コアラ、西山、雪割草
テーマ 自分の殻をやぶる

読んだ本:

緑色の卵が入った巣の縁に鳥がとまっている
『ブラックバードの歌』
原題:BIRDSONG by Katya Balen, 2022
カチャ・ベーレン/作 千葉茂樹/訳 鈴木まもる/絵
あすなろ書房
2023

〈版元語録〉フルートの演奏が生きがいだった少女アニー。母親が起こした事故で、大ケガをしてしまい、音楽学校に入学する夢をあきらめてしまう。引っ越した先の空き地で、アニーは不思議な少年ノアと、2羽のつがいのブラックバードのさえずりと出会う。 オス鳥の死後、歌わなくなったメス鳥のために、アニーは再びフルートを吹き始めて・・・。少年ノアとブラックバードとのふれあいによって未来への「希望」と、母との「絆」を取り戻す感動の物語。
色とりどりのランドセルを背負った女の子たちが絵を見ている
『なりたいわたし』
村上しいこ/作 北澤平祐/絵
フレーベル館
2022

〈版元語録〉3年生になったあたりから、千愛(ちなる)はなんだかうまくいかない。だいすきな友だちの愛空(あいら)ちゃんから、きらわれている気がするし、なかよし4人グループのなかで、まるでじぶんだけ、とうめい人間になっちゃったみたい…。学童クラブ「くれよん」を舞台に、女の子たちの友情と悩み、将来へのあこがれを描く、やさしくてちょっぴりほろにがい物語。


ブラックバードの歌

緑色の卵が入った巣の縁に鳥がとまっている
『ブラックバードの歌』
原題:BIRDSONG by Katya Balen, 2022
カチャ・ベーレン/作 千葉茂樹/訳 鈴木まもる/絵
あすなろ書房
2023

〈版元語録〉フルートの演奏が生きがいだった少女アニー。母親が起こした事故で、大ケガをしてしまい、音楽学校に入学する夢をあきらめてしまう。引っ越した先の空き地で、アニーは不思議な少年ノアと、2羽のつがいのブラックバードのさえずりと出会う。 オス鳥の死後、歌わなくなったメス鳥のために、アニーは再びフルートを吹き始めて・・・。少年ノアとブラックバードとのふれあいによって未来への「希望」と、母との「絆」を取り戻す感動の物語。

ハル:なかなか重たい展開でしたし(けがの話もちょっと怖いし)、短いお話ではありましたが、力強いなと思いました。モチーフとして、ブラックバードであることにちゃんと意味があるのがすごくいいなと思いました。だからこそ、この鳥の描写も生きてくるし、そのときの様子や音色も脳裏に広がっていくようで、共感しながら読むことができました。主人公と似た境遇、同じ体験をする読者は少ないとしても、子どもだろうとおとなだろうと、生きていればいくつもの壁にぶちあたるでしょうから、そういうときは、本能によって生きている自然や動物たちの物語に目を向けるのもいいですよね。

アカシア:私はひねくれているせいか、あざとい物語だと思ってしまいました。交通事故にあった主人公のアニーは、骨折はリハビリすればよくなると言われているのに、いじけて母親をうらんでいます。私はまずそこに共感できなかったんです。もっとひどい状況に置かれた子はたくさんいるのに、と。野生の存在であるブラックバードに人間が餌や巣の材料を持っていったりすることが肯定的に書かれていることにも疑問を感じました。また、p76には「守ってあげられなくてごめん」という言葉が出てくるんですが、それも単なる自己中心的なセリフのように感じました。アニーは立ち直るためのきっかけとして、もっと大きなショックが必要なのだと思いますが、そこにブラックバードの悲劇をもってきているのも嫌でした。ブラックバードの生態についていろいろ書かれていて、最初は歌がへただけどだんだんじょうずになってシンフォニーを完成させていく、なんていう部分はおもしろかったんですけどね。

花散里:私はとてもよい作品だと思いました。前半は交通事故でフルートが吹けなくなった少女の母親に対する思い、リハビリをする気にならないことなど、よく分からなくて読み難かったのですが、少年ノアと出会い、秘密の世界を見つけ、ブラックバードの世話をするうちに、指のリハビリや音楽に前向きになっていくところなどだんだんと惹きこまれ、ブラックバードとともに音楽を歌い上げていく姿が描かれていく後半はとても読み応えがありました。訳者の千葉茂樹さんが「あとがき」に書かれていたビートルズの名曲「ブラックバード」や、ブラックバードの鳴き声もYouTubeで聞くことができました。訳者念願の鈴木まもるさんの挿絵もとてもよいと思いました。挫折を克服し、夢に向かっていく構成は読後感もよく、子どもたちに薦めたいと思う作品でした。

サークルK:事故でけがをして夢を絶たれたと思い込んだ少女が再生していくお話と言ってしまえばそれまでなのですが、おもしろく読みました。その理由として1~33章までの各章がコンパクトにまとまっていて挿絵がシンプルながらとても的を射ていると感じられたからです。散文なのに詩のように短い文章が連なっていて流れるように読み進められました。ブラックバードの悲劇はこのお話の中核ですが、映画やミュージカルにもなった『ヒストリーボーイズ』の「バイバイ ブラックバード」という歌を思い出しました。

ANNE:まず、表紙の美しさに目を惹かれました。リアルな鳥の巣、その中に産みつけられた小さな青い卵。これはもしかしたらと、奥付を確認したら思った通り。絵本作家で鳥の巣の研究家としても知られる鈴木まもるさんのイラストでした。文中の挿絵も、物語とよく合っていて楽しめました。一章ごとの文章量がとても少なく、ちょっと散文詩を読んでいるように感じる章もありました。児童文学ではあまり読んだことのない書き方で、新鮮に感じました。

アマリリス:とてもよかったです。最近増えている詩の形式の物語に近い気がしました。短い描写でも、広がりがあります。もっとも、主人公が何に不満を持っているのか、なぜリハビリをしないのか、終盤まで明かされず、「どうして?」という思いがつきまとってしまいました。三人称だったら、その感覚が薄れたと思うのですが、一人称なだけに、主人公に感情移入できないもどかしさがありました。あと、最後に受験の曲を発表する場面、主人公が「タイトルは『バードソング』」と言います。原文だと小説の題名も「BIRDSONG」なので、曲名と題名がカチッと一致してかっこよく終わるのですが、翻訳では『ブラックバードの歌』なので、一致しないところが残念でした。

雪割草:はじめて読んで、なんて見事なんだろうと感動しました。水面にきれいな色の水彩絵の具をポトンと落としたのを眺めているような、そんな気持ちになりました。言葉の世界でありながら、色と音が心の目と耳で感じられて、鮮やかに描くことができました。これを読んだ読者は、ひとりで完璧である必要はなく、助けてくれる人や生きものがいるし、自分も誰かの力になれる、それが生きていくことと思えると思います。この作家のファンになり、いくつか作品を読みましたが、日本語版が出版された『わたしの名前はオクトーバー』(こだまともこ訳 評論社)が一番好きです。この作家が描く大人は、激しくなく好感がもてますし安心して読めます。みなさんと意見が違って恐縮なのですが、この表紙は昔の作品と勘違いされてしまう古風な雰囲気なのが、今の子には手にとってもらいにくいと思いますし、もったいないと思いました。

ルパン:おもしろかったんですけど、主人公より、母親のほうに感情移入してしまいました。親が自分のせいで子どもの才能をつぶすことになったらどんなにつらいだろうかと。でも、いつまでも被害者意識をふりかざしたり、理学療法士のルカが「リハビリをすればよくなる」と言っているのに努力をしなかったりするアニーにだんだんイライラしてきて、自分がこの子の母親だったら「いいかげんにしろ」というだろうな、と思っちゃいました。でも、最後に、アニーが音楽学校に行くためではなく、自分のためとブラックバードのためだけにフルートを吹く場面はすばらしく、すとんと腑に落ちました。

コアラ:とても素敵な話でした。最初の1行で胸をつかまれたし、美しい表現が随所に出てきてとてもよかったです。p5の「わたしには、フルートの音を目で見ることができた。音がまわりの世界に色をつけていくのも見えた」というのは、美しい比喩として読むこともできるし、共感覚の世界を描いているとも読めると思いました。つらい経験から一歩踏み出す様子がていねいに描かれていて、勇気を与える本だと思います。なかなか一歩が踏み出せずにいる人にはぜひ読んでもらいたいですね。挿絵はちょっとひっかかるところがあって、p27はベランダから外の公園を見ている絵ですが、p25の最終行に、部屋は15階とあります。15階から下を見たら、もっとずっと小さく見えているはず。ただ、カバーの鳥と鳥の巣の絵はとても魅力的で、訳者あとがきには、挿絵の鈴木まもるさんは「鳥の巣の研究家」とあるので、そういう研究分野があるのかと知りました。あと、訳者あとがきにもありましたが、ビートルズの曲や、ブラックバードの鳴き声をYouTubeで聞いてみました。メロディを口笛で吹いているようにとても美しい鳴き声でした。

西山:短さにびっくりというのがいちばんの感想です。こってりとした重くて長い作品になりそうな内容なのに。かといって、特段物語を急いでいる感じはしなかったし、むしろゆったりした印象が残ったので、おもしろい本だなと思いました。話は違いますが、鈴木まもるさんの去年出されたノンフィクション『ニワシドリのひみつをもとめて』(理論社)もおもしろかったですね。

ハル:先ほどのアカシアさんのご意見にあったように、野生の鳥に人が手を出していいのかという点は、ほんとにそうだなぁと思いました。勝手に「都会にまぎれこんでしまった弱い存在」かのように読んでしまいましたが、鳥がけがをしていたわけじゃないし、ブラックバードはロンドンの公園に普通にいる鳥なんだと思いますし、手を出す必要はないですよね。

アカシア:そこがセンチメンタルに書かれているような気がして、野生の鳥に対して失礼なんじゃないかと私は思ったのでした。

ハル:なにも手を出さなくても、観察しているだけでもお話は展開できたかもしれませんよね。

花散里:作者カチャ・ベーレン『わたしの名前はオクトーバー』を読んだばかりで、本作でも鳥のことなど、とてもよく調べて描かれているのかと思いました。

アカシア:私もその作品は好きなのですが、そっちでは、フクロウを野に放せない理由がありましたよね。そこがこの作品とは違うように思います。

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しじみ71個分(メール参加):物語から浮かぶ音のイメージがとても美しいと思いました。けがをした子どもが目標に向かって立ち直っていくというストーリー自体はかなり典型的なもので新鮮味はないという印象ですが、主人公のアニーの心情に絞り込んで、登場人物の書き込みもおそらく必要最小限にして、最後の希望の結末に向かって、まっすぐに筋が進み、短い間に完結するのでとても読みやすい形になっていると思います。著者が、自閉症の子どもたちへの物語の影響を研究したと紹介にありましたのでその点も意識して書かれたのかもしれないと思いました。また、描かれている内容は、事故をきっかけに、自分の内側に閉じこもっていた少女が、歌を失ったブラックバードに寄り添って音楽を取り戻す手伝いをしていくうちに、自分も癒されていき、希望に向かっていくというもので、共感や寄り添いをテーマにしていると思いました。コミュニケーションを苦手とすることが多い自閉症の子どもたちに伝えたい気持ちも込められているのかとも思います。鈴木まもるさんの絵も優しい味わいです。普通に読むとあっさりしすぎとか、物足りないとか思ってしまうかもしれませんが、言葉も美しいですし、画像を頭に浮かべやすいですし、共に読み合う読書に向いているのではないかと思います。読み終わったあと、Youtubeでブラックバードの声を聞いてみました。とてものびやかで美しくて、いつまでも聞いていたい感じでした。

(2024年03年の「子どもの本で言いたい放題」より)


なりたいわたし

色とりどりのランドセルを背負った女の子たちが絵を見ている
『なりたいわたし』
村上しいこ/作 北澤平祐/絵
フレーベル館
2022

〈版元語録〉3年生になったあたりから、千愛(ちなる)はなんだかうまくいかない。だいすきな友だちの愛空(あいら)ちゃんから、きらわれている気がするし、なかよし4人グループのなかで、まるでじぶんだけ、とうめい人間になっちゃったみたい…。学童クラブ「くれよん」を舞台に、女の子たちの友情と悩み、将来へのあこがれを描く、やさしくてちょっぴりほろにがい物語。

アマリリス:最初のうちは、小さくてややこしい人間関係だな、と思って読んでいたのですが、どんどん引き込まれていき、余韻が残りました。自分が子どもの頃のことを思い出しちゃったりして。わたしは誰かが去っていくのが苦手なタイプの子どもだったので、この子はとても頑張っているな、最終的に前向きになって、えらいなと思いました。ただ、同時に、終盤の展開がちょっと急かなという気もします。わたしの見落としかもしれませんが、前半に伏線が見当たらなかったので、この子は年下の子ともうまく人間関係が築けないのだと思っていたんです。こんなに慕われているとは意外でした。

サークルK:さびしんぼうの女の子が友達とどううまくやっていったらいいのか、戸惑いながら自分を見つけていくお話でサクサク読んでいけました。何と言っても北澤平祐さんの挿絵というところが素敵です! 活字も大きくて読みやすく、3年生の女の子たちってこんな感じなんだなって教えてくれるお話です。ただ千愛(ちなる)がもどかしいほどまごまごしている様子に、そんなに気を遣わなくてもいいのよと声をかけてあげたくなりました。まだ生まれて8年かそこらでこんなに気を遣って会話しなければいけないのはかわいそうだなって。名前が今風でふり仮名なしでは絶対読めない子たちばかりでしたがキャラクターの名づけも作家さんは大変だなと思いました。

ANNE:主人公は千愛ちゃん。仲良しのお友達は愛空(あいら)ちゃん・風翔(ふうか)ちゃん・麻央(まお)ちゃん。近ごろの子どもたちのお名前にちょっとビックリです。全てにルビが振ってありましたがちょっと読み難いと思いました。もう少し普通(?)の名前でもよかったかなと。逆に低学年の子たちの名前が全部ひらがなだったのは、何か意図されてるのかな? 作者の村上しいこさんの『うたうとは小さないのちひろいあげ』(講談社)から始まる短歌小説がとても好きで、YAからおとな向けのものはいろいろ読んできましたが、中学年向けのものは初めてでとても新鮮でした。私が勤務する図書館では「日曜日」シリーズも人気なので、続けて読んでみたいと思いました。

西山:すごく好き。おもしろかったです。このグレードで子どもの心理に寄り添った物語は貴重だと思います。このぐらいの年頃のリアルってこうなのだろうと思いながら読みました。千愛はほんとにめんどくさい。心の中ではいろいろな語彙で自己分析ができたりするけれど、コミュニケーションが本当にへたくそです。どうしてこの子はこんなに自己評価が低いんだろう、親には特に問題はなさそうだけど……と思ったのですが、他の3人とはちがってこの子のすごく幼い部分は、育ちのでこぼことしてあるのだろうと受けとりました。例えばp86からp88ページにかけて、千愛がまっすぐ駐車場に向かうか、4人の待ち合わせ場所の図書室前に行くか迷いながらも決断する場面など、大人からしたら大したことがないことも、千愛にとってほんとに一大事なのだと伝わってきました。子ども読者に共感されて読まれるのだろうと思います。
2年生の子から「千愛ちゃんて、かわいそうだよね」(p61)と言われるところ、あれはきつかったですね。低学年の子どももああいう人間観察はしているということなども子ども観が深まる刺激を感じました。鋭かったり、ほんとに幼かったりするでこぼこがおもしろいと思います。あと、表紙のランドセルの色が素敵ですね。現在の話なのに、表紙や挿絵が女の子が赤、男の子が黒というランドセルが描かれている本を見ると、がっかりするのですが、これはいい。おずおずと立っている千愛の赤いランドセルや服装も絶妙、物語にぴったり合ったいい絵だなと思います。

コアラ:タイトルからは、「なりたいわたし」という憧れの自分の像が高いところにあって、それとのギャップのような物語をイメージしていましたが、全然違っていて、思いがけない展開でした。主人公の女の子が、自分の頭で「なりたいわたし」を考えるところがとてもいいと思いました。p85の後ろから2行目の「まずできることといえば、みんなでいっしょに車に向かおうって、決めてあるのを、なくすこと」というのは、「なりたいわたし」を憧れの姿として考えるのでなく、身近なところから第一歩を始めるということで、それがすごくいいと思いました。それから、その前の部分ですが、後ろから4行目の「自分をしばっていることから、自分を自由にしてあげなくてはいけないと、そう思った」というのは、大人にも有効なことで、それを小学校中学年向けの子どもの本で書いているというのは、作者は、子どもの読者の読む力というものをすごく信頼しているんだなと思いました。ただ、主人公の女の子をうとましく思っているように扱っていた愛空ちゃんが、途中からなんとなく「いい子」になっちゃって、最後は「千愛のことがうらやましくて」とか言い出すのは、ちょっと都合よく作ってしまっているかな、という気がしました。

アカシア:私が小学校のころは、友だちと連れ立ってトイレに行く子はそんなにいなかったと思うし、私もひとりで行っていました。でも、こういう子はいると思うし、この年代の子どもたちのすれ違いや憧れや思いが、ちゃんと伝わってくる作品ですね。憧れの人物と同じようにするのではなく、自分は自分として考えるようになるまでのプロセスがちゃんと描かれているのがすばらしいと思います。学童クラブは東京だと親のお迎えはないと思いますが、ここはあるんですね。

花散里:村上しいこさんの作品では『うたうとは小さないのちひろいあげ』がとても印象深く残っています。中学年向けの本作品では、主人公たちが小学3年生なのだろうかと思う場面が多く、読み難い名前、経済格差を感じさせる場面の描き方などとともに違和感を覚えながら読みました。愛空ちゃんの学童の先生に対する言い方なども気にかかりました。前半と後半、最後の展開の変わりよう、ラストのところがうまく行き過ぎていて、中学年の子どもたちはどのように読むのだろうかと思い、秀作の多いYA作品と比べて読後感があまりよくありませんでした。

ハル:私は感動しました。読みながらずっと苦しかったけれど、思い返せば主人公たちと同じくらいの3年生……はもしかしたらちょっと早かったかもしれませんが(設定が4年生でもよかったのかも?)、4年生、5年生くらいになると、世の中のことや自分の心の複雑さに対応しきれなくて、いつももやもや、もやもやしてたなぁという共感を覚えました。千愛の味方になって読みながらも、ほかの3人の子たちが決して意地悪なばかりではないことは、セリフのはしばしや行動から感じられて、4人それぞれの性格やその背景とのつながりにも矛盾を感じません。とてもていねいに描かれた作品だと思いました。p40の「おとなのいやなにおい」はドキッとしました。こういった絶妙な表現もいいです。この物語に共感し、はげまされる読者は多いと思います。

雪割草:個人的にはこういう狭い人間関係のなかでの話は得意ではないのですが、子どもの視点に立って、こんなに細かなところまで気持ちに寄り添って表現できるのがすごいなと感銘を受けました。特によかったのは、主人公の「なりたいわたし」というのは、他の3人のようにアナウンサーやモデルなどわかりやすい夢ではなく、私であるところから少しずつ変わっていこうとするところで、その姿勢に好感をもちました。愛空ちゃんが千愛のことをうらやましく思っていたから、いつも怒っているような態度をとっていたというのも、親との関係のことも描いていてリアルだと思いました。今の子は、3年生で習いごとと将来を結びつけて考えるのだとしたら大変だなとも思いました。

ルパン:心理描写よりも、情景描写がリアルだと思いました。4人の仲間なのに3人掛けの席にすわるとき、いつも自分だけが違う机になってしまうこと、待ち合わせの場所に行ってもみんながいないこと、そういう時のせつなさはひしひしと伝わってきます。でも、心理描写はくわしすぎて、3年生の子どもらしくない。地の文でよけいなことを言いすぎる気がします。わざわざ解説しなくても、エピソードだけで十分たくさん伝わるのに、と。ただ、3年生の子どもが読むときは、むずかしいところは飛ばして読むだろうから、子どもにとってはそういう説明描写はあってもなくても同じなのかもしれません。

アカシア:さっきコアラさんから、愛空ちゃんがなんとなくいい子になってしまうのに違和感があったとおっしゃいましたが、愛空は、もともと意地悪な子という設定ではなく、意地悪をしたりするのも、千愛が何でも一緒にしたがるのをうざったいと思ってるからだと思うんです。それが学童が終わるときになって、本来の素直な気持ちが出てくるのでは? 村上しいこさんは子どもの心理については、とてもリアルな視点を持って書いておられるのだと思います。

(2024年03月の「子どもの本で言いたい放題」より)