マチルダばあやといたずらきょうだい

『マチルダばあやといたずらきょうだい』
原題:NURSE MATILDA by Christianna Brand, 1964
クリスティアナ・ブランド/著 こだまともこ/訳 エドワード・アーディゾーニ/絵
あすなろ書房
2007.06

版元語録:おぎょうぎが悪くて、ひどいいたずらばかりするブラウン家の子どもたちと家庭教師マチルダの物語。

愁童:ちょっと個人的な感慨になっちゃうんだけど、久しぶりに同人誌時代の若い頃のこだまさんと、おしゃべりしているような雰囲気を感じながら楽しく読んじゃいました。幼児語の翻訳なんか、なかなか秀逸だと思いました。原作の持つかなりハチャメチャな雰囲気と訳者の体質がうまくマッチしていて楽しい翻訳本になってますよね。

mari777:懐かしい感じのテイストが好き。昔の岩波書店の翻訳シリーズを読んでいるような感じ。7つのおけいこの構成がミステリ仕立てだな、と思いながら読んでいたら、この作家、ミステリ作家だったんですね。書きなれているという印象で、安心して読めました。ただ、せっかくなら魔法ではなくて知恵とか気持ちの持ち方で解決していってほしかったなと思うようなところもあります。最後に約束どおり、ばあやが子どもたちを離れていく、というストーリー展開は、予想がついたけれどもほろり。装丁も懐かしい感じがしていいなと思いました。

みっけ:子どもに媚びていない感じがあちこちにあって、おもしろかったです。たとえば、7ページで、「あんまりたくさんいたので、名前はいちいち書かないことにします。……ぜんぶで何人いるか、足し算してくださいね。」なんていうところには、おっと、こうきたか!という感じでした。それでいて、いかにもおばあちゃんが話してくれている雰囲気が出ていて、そのあたりが絶妙でした。語り手のおばあちゃんのたたずまいまで想像できてしまう訳文だと思いました。きっと、とても礼儀正しくてきちんとした人だけど、それでいて、いたずらっぽく目がきらっと光っているような人なんじゃないかなあ。読み始めてからしばらくのあいだは、子どもたちが何か悪さをするたびに大騒ぎになって、でも、マチルダばあやにSOSを出すと一件落着!みたいな感じで話が進んでいきます。心のどこかで「大丈夫なのかなあ」とちょっと腑に落ちない感じもしました。ところがそのまま読み進めたら、最後の一回になって、子どもたちの悪さでひどい目にあった人たちが勢揃いして、子どもたちがたいへん怖い思いをする。この展開には感心しました。妙に救済したりしていないところが、いいなあと思います。どことなく意地悪というか、ぴりっとした隠し味が聞いている。ただ、大おばさんにイバンジェリンがもらわれていく話は、これでいいのかな、と思いましたけど。あと、アーディゾー二の挿絵は、もうそれだけで古き良き時代に連れ戻してくれる感じで、いいですね。

アカシア:この本は昔から知ってたんですけど、上流階級の子どもの話だし、とてもイギリス的な乳母の話なので、今の日本では受け入れられないだろうな、と考えていたんです。でも、今回この本を読んで、あまり古いという感じがしませんでした。逆に、古い部分よりもおもしろい部分がきわだつ訳になっていて、ああ、こういうふうにすればこの作品も原題に生きてくるんだな、と思いました。訳者の力ですね。舌足らずの子どものセリフも、ちょっと考えると意味がわかるようになっていて、うまいですね。

みっけ:ラストは、出っ歯が落ちて、それが宝箱になって、そこから出てくるおもちゃに夢中になっていると、マチルダばあやがいなくなっているという展開で、なんというか、肩すかしを食らったような不思議な終わり方ですよね。

愁童:マチルダばあやを、単なる雇い人として描くのじゃなくて子どもたちに君臨する動かし難い大人として書いているのがいいな、なんて思いました。

アカシア:ばあやは、メアリー・ポピンズと同じで、ずっと不機嫌な顔をしている。厳格なイギリスの乳母の典型ですよね。ただね、下層の子が身代わりになって嫌なおばさんの養子になり、それでめでたしめでたしなんていうところには、作者の階級意識があらわれているかも。

うさこ:ある日突然どこかからやってきた人の物語は、またある日いずこへか帰っていくというお約束があるのだけど、このお話はどういう展開で結末を迎えるのかなと楽しみでした。「1つめのおけいこ」の章の流れが各章のおけいこのある規則性を示しているのかなと思ったけど、どの章もちがうかたちでいたずらと「おけいこが終わりました」でまとめられている。どの章も「…でも歯はでっ歯でした」の表現が妙にインパクトがあるなと思ったら、最後のとっておきのごほうびとうまく結びついて楽しかった。

ウグイス:以前は、G社が出していた世界の童話シリーズの中の1冊。このシリーズの中では、この『ふしぎなマチルダばあや』だけが他と比べて古めかしい印象があったので、正直言って今さら新訳?と思ったんですけど、読んで見ると古めかしさより軽快な楽しさが感じられておもしろかった。原文もそうなんでしょうけど、翻訳もとても丁寧で上品な言葉使い。そういう言葉使いなのに実はとてもおかしなことを言っている、というのがこの本のおもしろさだと思う。旧版は、明らかに3〜4年生を対象にした作りでしたが、この装丁や字の大きさを見るともっと年齢が上の子をターゲットに作ったのかな? 内容的には3、4年生に読んでほしいんだけど。

ペロ:この装丁は、原書とだいたい同じ。この原書、天地155ミリ×左右110ミリと、小ぶりでかわいい! 今の子どもたちは、読める子と読めない子との差が大きくて3〜4年生でも読める子はどんどん読むし、5年生でも、読めない子は低中学年向きの本も読むのがたいへんという話だから、読者対象をどのくらいに設定するかっていうのは、なかなか難しい問題だと思います。

げた:子どもたちのいたずらの内容など、よく考えてみれば、とんでもない話ですよね。ロバに女の子の洋服を着せて身代わりにするなんて、ドタバタ劇になっちゃうような話ですよ。描き方によっては、とっても下品な感じになるんだけど、それがちゃんと上品な仕上がりになっているのがすごいなと思いました。アーディゾーニの挿絵の効果もありますよね。

ネズ:大人の本でも新訳ものが続々と出てきていて、旧訳と読みくらべてみると楽しいですよね。特に子どもの本は、その時代の子どもや児童文学に対する考え方があらわれてくるのでおもしろい。それから、アカシアさんの話にもあったけれど、この本にかぎらずこういう古い作品は、どこかに差別的な物の見方などがちらちら現れたりするので、訳すのに神経を使いますね。

(「子どもの本で言いたい放題」2007年10月の記録)

マチルダばあやといたずらきょうだい

『マチルダばあやといたずらきょうだい』
原題:NURSE MATILDA by Christianna Brand, 1964
クリスティアナ・ブランド/著 こだまともこ/訳 エドワード・アーディゾーニ/絵
あすなろ書房
2007.06

愁童:ちょっと個人的な感慨になっちゃうんだけど、久しぶりに同人誌時代の若い頃のこだまさんと、おしゃべりしているような雰囲気を感じながら楽しく読んじゃいました。幼児語の翻訳なんか、なかなか秀逸だと思いました。原作の持つかなりハチャメチャな雰囲気と訳者の体質がうまくマッチしていて楽しい翻訳本になってますよね。

mari777:懐かしい感じのテイストが好き。昔の岩波書店の翻訳シリーズを読んでいるような感じ。7つのおけいこの構成がミステリ仕立てだな、と思いながら読んでいたら、この作家、ミステリ作家だったんですね。書きなれているという印象で、安心して読めました。ただ、せっかくなら魔法ではなくて知恵とか気持ちの持ち方で解決していってほしかったなと思うようなところもあります。最後に約束どおり、ばあやが子どもたちを離れていく、というストーリー展開は、予想がついたけれどもほろり。装丁も懐かしい感じがしていいなと思いました。

みっけ:子どもに媚びていない感じがあちこちにあって、おもしろかったです。たとえば、7ページで、「あんまりたくさんいたので、名前はいちいち書かないことにします。……ぜんぶで何人いるか、足し算してくださいね。」なんていうところには、おっと、こうきたか!という感じでした。それでいて、いかにもおばあちゃんが話してくれている雰囲気が出ていて、そのあたりが絶妙でした。語り手のおばあちゃんのたたずまいまで想像できてしまう訳文だと思いました。きっと、とても礼儀正しくてきちんとした人だけど、それでいて、いたずらっぽく目がきらっと光っているような人なんじゃないかなあ。読み始めてからしばらくのあいだは、子どもたちが何か悪さをするたびに大騒ぎになって、でも、マチルダばあやにSOSを出すと一件落着!みたいな感じで話が進んでいきます。心のどこかで「大丈夫なのかなあ」とちょっと腑に落ちない感じもしました。ところがそのまま読み進めたら、最後の一回になって、子どもたちの悪さでひどい目にあった人たちが勢揃いして、子どもたちがたいへん怖い思いをする。この展開には感心しました。妙に救済したりしていないところが、いいなあと思います。どことなく意地悪というか、ぴりっとした隠し味が聞いている。ただ、大おばさんにイバンジェリンがもらわれていく話は、これでいいのかな、と思いましたけど。あと、アーディゾー二の挿絵は、もうそれだけで古き良き時代に連れ戻してくれる感じで、いいですね。

アカシア:この本は昔から知ってたんですけど、上流階級の子どもの話だし、とてもイギリス的な乳母の話なので、今の日本では受け入れられないだろうな、と考えていたんです。でも、今回この本を読んで、あまり古いという感じがしませんでした。逆に、古い部分よりもおもしろい部分がきわだつ訳になっていて、ああ、こういうふうにすればこの作品も原題に生きてくるんだな、と思いました。訳者の力ですね。舌足らずの子どものセリフも、ちょっと考えると意味がわかるようになっていて、うまいですね。

みっけ:ラストは、出っ歯が落ちて、それが宝箱になって、そこから出てくるおもちゃに夢中になっていると、マチルダばあやがいなくなっているという展開で、なんというか、肩すかしを食らったような不思議な終わり方ですよね。

愁童:マチルダばあやを、単なる雇い人として描くのじゃなくて子どもたちに君臨する動かし難い大人として書いているのがいいな、なんて思いました。

アカシア:ばあやは、メアリー・ポピンズと同じで、ずっと不機嫌な顔をしている。厳格なイギリスの乳母の典型ですよね。ただね、下層の子が身代わりになって嫌なおばさんの養子になり、それでめでたしめでたしなんていうところには、作者の階級意識があらわれているかも。

うさこ:ある日突然どこかからやってきた人の物語は、またある日いずこへか帰っていくというお約束があるのだけど、このお話はどういう展開で結末を迎えるのかなと楽しみでした。「1つめのおけいこ」の章の流れが各章のおけいこのある規則性を示しているのかなと思ったけど、どの章もちがうかたちでいたずらと「おけいこが終わりました」でまとめられている。どの章も「…でも歯はでっ歯でした」の表現が妙にインパクトがあるなと思ったら、最後のとっておきのごほうびとうまく結びついて楽しかった。

ウグイス:以前は、G社が出していた世界の童話シリーズの中の1冊。このシリーズの中では、この『ふしぎなマチルダばあや』だけが他と比べて古めかしい印象があったので、正直言って今さら新訳?と思ったんですけど、読んで見ると古めかしさより軽快な楽しさが感じられておもしろかった。原文もそうなんでしょうけど、翻訳もとても丁寧で上品な言葉使い。そういう言葉使いなのに実はとてもおかしなことを言っている、というのがこの本のおもしろさだと思う。旧版は、明らかに3〜4年生を対象にした作りでしたが、この装丁や字の大きさを見るともっと年齢が上の子をターゲットに作ったのかな? 内容的には3、4年生に読んでほしいんだけど。

ペロ:この装丁は、原書とだいたい同じ。この原書、天地155ミリ×左右110ミリと、小ぶりでかわいい! 今の子どもたちは、読める子と読めない子との差が大きくて3〜4年生でも読める子はどんどん読むし、5年生でも、読めない子は低中学年向きの本も読むのがたいへんという話だから、読者対象をどのくらいに設定するかっていうのは、なかなか難しい問題だと思います。

げた:子どもたちのいたずらの内容など、よく考えてみれば、とんでもない話ですよね。ロバに女の子の洋服を着せて身代わりにするなんて、ドタバタ劇になっちゃうような話ですよ。描き方によっては、とっても下品な感じになるんだけど、それがちゃんと上品な仕上がりになっているのがすごいなと思いました。アーディゾーニの挿絵の効果もありますよね。

ネズ:大人の本でも新訳ものが続々と出てきていて、旧訳と読みくらべてみると楽しいですよね。特に子どもの本は、その時代の子どもや児童文学に対する考え方があらわれてくるのでおもしろい。それから、アカシアさんの話にもあったけれど、この本にかぎらずこういう古い作品は、どこかに差別的な物の見方などがちらちら現れたりするので、訳すのに神経を使いますね。

(「子どもの本で言いたい放題」2007年10月の記録)