安東みきえ/著 下和田サチヨ/絵
理論社
2007.04
版元語録:「小さな童話大賞」(毎日新聞社主催)受賞作「いただきます」を含む,人生について考える7つの動物寓話。
げた:この本は、今、人気の本なんです。うちの図書館も、気づいたら予約がいっぱいになってて、びっくり! 最初1冊しか購入していなかったのですが、あわてて3冊追加購入しました。うちの図書館では、分類は「児童書」にしたんですけど、実は今、ちょっとまずかったかもと思ってまして……。圧倒的に、子どもよりも、大人に読まれているんですよね。予約をしている人も、ほとんどが大人。で、僕もざーっと読んでみたんですけど、やっぱり子どもの本ではないですね。YAでもキツイかも。一般書かな。書評でとりあげられたこともあって、今は予約がいっぱいなので、しばらくはこのまま行きますが、一段落したらYA棚か一般書に移そうかと思案中。お話はおもしろいけど、やっぱり児童書としては扱えないので……。僕は、7編のうち「頭のうちどころが悪かった熊の話」「いただきます」「ヘビの恩返し」あたりが、特におもしろかったな。「頭のうちどころの悪かった熊の話」の最後、熊のセリフで、そういえばレディベアをお嫁さんにしたとき、友だちの月の輪熊に「どこか頭のうちどころを悪くしたか」ってたずねられたけど、あれはどういう意味だったんだろうなんていうところ、ニヤッとしちゃった。
うさこ:私は、大人のための寓話だなと思いました。読み終わってから、ふと「こういうお話が読みたいときって、どんなときだろう?」って考えたんです。さみしいときかなあとか、なにか特別なときかなあとか。もやもやしてるときに読むのもいいかと思いますね。読後感もそれなりにおもしろいし、読んだ後、スーッとして、ミント味のキャンディをなめたみたいな感じも。読んだときどきで、感想も変わりそうです。例えば、88ページの終わりから2行目、「自由なたましいに縄がかけられないことを父さんは知っていた」というフレーズは、気持ちに何かかかえているときに読むと、「そうだよな〜」と共感して読めるけど、フツウの気分のときに読むと「大げさな…」と感じるかもね。
ケロ:やっぱり、大人に向けた寓話かな。寓話っていっても、イソップなんかとは、だいぶ違いますよね。私は「いただきます」が、とくに好き。7編が、1冊の最後になって、まとまりを見せるという構成もおもしろかったな。
アカシア:私も図書館で借りようと思ったら、たいへんな順番待ちになってて借りられず、買って読みました。やっぱり、子どもには難しいかも……。この本、子ども向けの本ではないですね。たとえば「りっぱな牡鹿」なんかは、子どもにはわからないんじゃない?「ないものねだりのカラス」は、ちょっと宮沢賢治の「よだかの星」に似たテイストがあるんだけど、こういうのって、子どもにはどうかなぁ? いや、こういうお話って、大人でも、好きな人は好きだと思うんだけど、でも、普遍的でだれにでも愛されるっていうのとはちょっとタイプがちがうかも。理論社のYA路線のうまさもあるよね。ちょっとひねってあって、メッセージもあって、っていう……。
みっけ:私も図書館では借りられず、買って読みました。うーん。おもしろかったのは、おもしろかったんだけれど。とても奇妙な味わい。どちらかというと、さみしいような、やさしいような、ふしぎな雰囲気で、たしかに、子どもにはちょっと難しいかも。読んでると、なんかこう、「カクッ」とくるようなところがあって、人生いろいろあるという大人にすればおもしろいところなんだと思うけれど、書いてあることだけを追って読む子どもには、通じにくいかもしれない。決して嫌いな本ではないし、読んで損したとも思わないけど、でも、子ども向けの本ではないような気がします。初出の雑誌から見ても、もともと子どもに向けて書いたのではなくて、子どもの周辺にいる人に向けて書いたようだし。
mari777:国語の教科書関係の仕事をしているので、短編を読むときは「教科書に載せられるかな?」と、ついつい考えながら読んでいます。今回も、やっぱりそういうことを考えながら読みました。教科書に掲載する作品って「おもしろかった」で終わってしまうものはあまり向いてない。いろいろな読み方のできる作品のほうが、教材としてはとりあげやすいんです。表題作の「頭のうちどころが悪かった熊の話」と、「池の中の王様」は、内容としてまとまっていて長さも適当だし、コミュニケーション不全についてのメッセージとしても読めるかな、案外、小中学校ではなくて高校の教科書に載せたらどうだろう、などと思いましたが、やっぱりちょっときついかな。高校生も含め、子どもが楽しく読む、という類の本ではない、という気がしました。でも、表紙の絵がかわいくて、ちょっとおしゃれな感じで、こういうのも人気の秘密なのかな。
ウグイス:この本、興味があったのよね〜。まず、タイトルがおもしろいでしょ。それに、小泉今日子が書評でとりあげてから、スゴイ人気になってるみたいだったし。それで、期待して読んだんだけど、人間のもっている、いろいろな、ままならない感情をうまく表現してるなあと思いました。部分的には、そういう感情あるあるって思うんだけど、1つ1つの点がつながって1本の線となったときに、一体どうなっているのか、よくわからなくなる。そういうことから考えると、子ども向きではなくて、大人向きですね。といっても、子どもが笑いそうなところもあるのよね。子どもの本としておもしろいかなと思ったのは、「池の中の王様」で、オタマジャクシの「ハテ?」が、おばあさんに「顔、洗って、きちんとしといで」って、いわれるところとか、「りっぱな牡鹿」で、アライグマがげんなりやつれて、目のまわりが茶色になってしまった、なーんていうところ。大人より子どものほうが、こういうのをおもしろがると思うの。だから、子どもを意識して書けば、それはそれでおもしろいものになったんじゃないかという気もする。
みっけ:なんか、最後がなんとなく尻切れトンボというか、よくわからないで終わっちゃうのが多いんですよね。
ウグイス:最後に、「あっ、そういうことか!」って思うこともあるんだけど、いや、でもやっぱり違うかもっていう気もしてきたり……ほんとによくわからない。こう、煙にまかれる感じ……。
みっけ:そう、そう、煙にまかれるの!
ウグイス・みっけ・アカシア:そして、それをわかってて、わざとやってるって感じ!
みっけ:ラストは、読者にぽーんって預けちゃう感じ。
ウグイス:あと、この本、動物の短編集だけど、この動物だからこの話っていう必然性はあんまりないのよね。あ、ヘビの話は例外で、これはヘビならではのお話だけど。その他は、あんまり動物の生態とは関係がなくて、例えばクマの話は、別にクマである必要はなく、キツネでもいいというような感じ。だから、動物の話というよりは、動物の皮をかぶった人間の話なんでしょうね。
こだま:ふふふ。「とくにこの本が」、ということではないんだけど、わけのわからない本を、書評なんかで「おもしろい」っていうと、なんとなーくおしゃれに見えるっていうこと、あるわね。
ウグイス:ともあれ、大人に「おもしろい、おもしろい」と言われて売れるっていうのも、それはそれで、結構なことだと思うわぁ。
(「子どもの本で言いたい放題」2007年10月の記録)