柴田元幸/編
文藝春秋
2009.03
版元語録:レベッカ・ブラウンの「少女」、ユアグローの「少年」、デ・ラ・メアの名作「謎」の子どもたち…。世界と、あらゆる時から届けられた逸品、全13篇を収録。伝説の漫画「眠りの国のリトル・ニモ」などの特別付録2篇つき。
ajian:自分はちょっと苦手でした。デ・ラ・メアの「なぞ」は以前別の訳でも読んでいて、とても好きな作品なのですが、どうも、柴田さんの訳は柴田さんの文章になってしまって、デ・ラ・メアの感じがあまりしないです。全体として、おしゃれな感じのする、文学好きな人が所蔵しておきたいような本ではないかなと思いました。
優李:最初の4つ続けて気に入りましたので、うまい短編集だなあ、と思いました。その後は「謎」「修道者」を除いてはそれほどでもなかった(笑)。全体の印象としてはけっこう気に入りました。でも、昔少年少女だった「大人の私」が読むと、なかなか雰囲気のある本になっていると思うけれど、YA読者はどうなんだろう? 「今」の少年少女・中学生が読むかなあ? やはり、大人向けではないかと思います。
メリーさん:これも、子どもの本か大人の本かと考えると、やっぱり大人に向けた本なのですよね。それでも、おもしろい作品はいくつもあって、不思議な話よりも情感たっぷりなものがいいなと思いました。よかったのはデ・ラ・メアの「謎」とレベッカ・ブラウンの「パン」。やっぱりデ・ラ・メアは、余韻を残すやり方がうまいなと思いました。レベッカ・ブラウンは、全寮制という閉じた空間の中で、女の子たちだけの濃密な空間の物語。孤高の少女がとても印象的だし、2種類のパンでよくここまでストーリーがふくらむなと感心しました。
レン:こういう本は、高校生だったら、大人の文学への橋渡しとしていろいろな短編を味わえていいかなと思って読み始めたんですけど、『猫と鼠』でくじけました。フィリッパ・ピアスなど、もっとおもしろいのがあるなと思ってしまって。わざわざこれを読ませたいというほどではありませんでした。最後のデ・ラ・メアでちょっとホッとしましたが。
トム:デ・ラ・メアがよかった。ただ自分にとっては野上さんの訳の方が謎めいた世界の凄みを楽しめました。「灯台」は、少年少女の読む物語としてではなく、老灯台守に自分を重ねて読んでしまった。「修道者」は大人になることに抵抗する主人公の気持ちにひかれました。その葛藤を乗り越えていく道筋に重要な役をするのが、世間の枠の外で誇り高く暮らすおばあさんであることがおもしろい。保護者的立場など眼中に無いんですよね。「島」に描かれる大人と子どもの関係を、子どもはどのように受けとめるのでしょうか。
アカザ:「少女少年小説選」とうたっていますが、これも「少女少年について書かれた」もので、「少女少年のための」ものではありませんね。タイトルの「昨日のように遠い日」というのは、なかなか素敵な言葉で、わたしもどこかで使っちゃおうかな!「猫と鼠」は、わたしもちっともおもしろくなかったけれど、あとは大人の読者として楽しめました。「ホルボーン亭」と「パン」がよかったです。特に「パン」は、パンだけのことでこれだけ書けるのはすごいなあと感心しました。おなじような短編集として、日本でもとても人気のあるロシアの作家、リュドミラ・ウリツカヤの『それぞれの少女時代』(沼野恭子訳 群像社)を思いだしました。あれも大人の本ですが、それぞれの少女像が見事に描かれていて、傑作だと思います。
うさこ:私もみなさんと同じような感想です。副題に「少年少女小説選」とあるのを見たとき、今出る本でも副題とはいえ、こんなつけ方があるんだなとちょっと不思議でした。興味深く読み進めたけど、話がわかるのとわからないのと、わかるようでわからいないものがあった。言いかえると、おもしろいと思うものと、そうでないもの、おもしろいかどうかも判断つかないものがあったというのかしら。でも、だれが買うんだろう、この本。読者層がよくわからなかったなあ。あとがきを読んで、「ふーん、こんなのもありか」と思ってくれるととてもうれしいという訳者のことばがあって、私はまさにそんなふうに読んでしまったようで、まんまと「はめられた」みたいです。
アカシア:視点とリズムというのを考えると、これは子どもが読むものではまったくないなと思いました。ここでは、YAでもなんでも子どもが読むものを選ぶことになっているんですけど、選書の方にそれが伝わっていなかったかと。柴田さんが、後書きで世にある子どもの本はつまらないので新鮮な切り口で、というようなことをおっしゃっていますけど、今は子どもの本だって、無垢だの純真だのと言ってるわけじゃないので、もう少し今のをお読みになってから言ってほしかったな。作品としてはつまらなくないけれど、夢中になって読むほどおもしろくもない。大人が大人の視点で作っている物語は、子ども時代を語ってはいても、子ども時代のある1点をすごくひきのばしたり、ゆがんでななめから見たり。でもそれは、大人の読むおもしろさなんだと思うんです。「猫と鼠」は、アイデアだけでこんなに書かなくていいのにと、途中でやめました。アニメ見てればいいでしょ。
プルメリア:「永遠に失われる前の……」とあるのを見て期待して読み始めました。「ホルボーン亭」はふしぎな世界。「パン」は、寮生活している少女達の独特な世界、パンの食べ方に心理描写があらわれているなと思いながら読みました。最後の「謎」も謎めいていて、子どもが一人ずついなくなる不思議なストーリー。子どもの本は読んでいますが、大人の本?はあまり読んでいないので、この本は新しい出会いの1冊になりました。
アカザ:柴田さん、あまり子どもの本は読んでいないのかしらね。
優李:今は子どもの本だって、無垢な子どもなんて出てきませんよね。
(「子どもの本で言いたい放題」2011年6月の記録)