岩貞るみこ/著
講談社
2012
版元語録:作家、イラストレーター、デザイナー、そして、校閲や販売、印刷会社、取次、書店…。一さつの本を世に出すため、奮闘する人々。四か月におよぶ取材にもとづいた、臨場感あふれる現場の姿。これを読んだら、あなたも本を作りたくなっちゃうかも。
サンザシ:これは、講談社の中の、しかも「青い鳥文庫」編集部プロパーの話だなと思いました。児童書編集部がみんなこうだと思ったら間違い。まず「青い鳥文庫」なので、「かわいい」というキーワードが頻繁に出てくるし、ただ今現在の子どもたちに受けるかどうかが大きな問題になってます。でも、児童書の出版社の中には、「かわいい」では子どもの心の奥までは届かないと思ってるところもあるし、「今の子どもに受けるか」より、「今の子どもには何が必要か」を優先して考える出版社もあるでしょ。クリスマスセールに間に合わせて、売れるように最大限かわいくするというのだから、本でもほかの商品とあまり違わない。それがいけないっていうんじゃなくて、いろいろな本作りがある中の一部だっていうふうに思います。それに、講談社は大出版社なので、いろいろな仕事が分業になってますけど、小さな出版社では、編集者がひとりでみんなやるのよ。それからこの編集者は、とにかく急ぎだということで、著者の原稿の構成や文章について相談しながら改善していくことはほとんどしていない。まあ、この場合は出す本がエンタメだしシリーズなので、最初にコンセプトが決まってるってこともあるんでしょうけど。どっちかというと右から左に流してるって感じです。今はそういう編集者も多くなったけど、もっといろいろやりとりして、本当に質の高いものを生み出そうとしてる編集者もいますよ。それから、p150の「ノックアウトさせるのに」は、「ノックアウトするのに」じゃないかな。
トム:途中、数回休んで一息入れないと疲れて……。きっと読んでいるうちに いつの間にか編集現場にいる気持ちになっていたのかも。その意味では、完成するまでの臨場感があるお話になっているわけですね。モモタはすでに独り立ちした編集者! 実際、編集者になりたい人は少なくないので、そもそも、モモタが編集者になりたいと思った気持ちや、なってからの日々、初めて一冊の本を任された時のことなども語られたら、興味をもつ人も多いのでは、と個人的に思いました。それから「子どもに何を手渡そうか」とみんなで考えたり話しあったりする状況も知りたかったなと。本を投げてはいけない!跨いではいけない!と小さい頃言われたことを思い出しました。今「子どもに受けるのは何か」、「子どもに必要なのは何か」という視点をうかがって、ハッとしています。
レン:子どもの本をよく読んでる人が、とっかかりは「えっ」と思うような本だけど本のつくり方がわかっておもしろいと言っていたので、期待して読んだんですけれど、私にはちょっと期待はずれでした。広い読者層に向けて書くと、こんなにやさしくしなきゃならないのかって。雑誌のようなつくられ方だなって思いました。1冊の本を作るにも、いろんな人たちのプロの技があってできているのを読めば、子どもはこんなに大変なのかって思うのかもしれないけれど、私からすると、これでできちゃうのか、という感じでした。人物も一面的ですよね。
ジラフ:児童文学作品として考えると、今おっしゃったような問題がたしかにあると思うんですけど、子どものための実用書ととらえて、内容をわかりやすく伝えるためにフィクション仕立てにしたもの、と考えれば、けっこうおもしろく読めるんじゃないかな。いま、編集を担当しているフランスのファンタジーを、とある高校の図書館委員の生徒たちに、「スチューデント・レビュアー(先行読者)」として読んでもらっていて、ちょうど今日、ゲラ(校正刷り)を届けたところなんですけど、本づくりの過程のゲラというものに初めて接して、みんな大喜びでした。そんなふうに、さまざまな職業の現場にふれることって、子どもたちにはすごくわくわくすることだろうし、ここに書かれていることは、かなり誇張はあるにしても、取材もよくできているし。プロの仕事の現場の雰囲気を知るにはおもしろいのかな、と思いました。ただ、「出版の裏側がわかっておもしろかった」とか、帯に読者の声が引用されていますけど、読者層はわりと幼いんですね。子どものおこづかいでは、「青い鳥文庫」を月に1冊しか買えないから、売れ筋の本が、同じ月に2冊重なったら困る、なんていうくだりにも、リアリティを感じました。
サンザシ:講談社のような会社だと分業システムがちゃんとできてるから、それがいい意味でも悪い意味でも編集者の守備範囲を狭くしてますよね。小さい出版社だと、本作りの1から10まですべてを見届けて、製版所や印刷所の担当者とも直接相談したり、印刷立ち会いにいったりもしますよ。私自身はそっちのほうが好きだけど。
プルメリア:今までにない本のつくり方で、子どもたちの好きな青い鳥文庫だから、子どもたちは手に取るでしょうね。
レジーナ:本が出版されるまでの過程を、物語としておもしろく描いています。子どもにとって魅力的な装丁なので、軽い読み物しか読まない子どもが知識を増やすためのステッピング・ストーンとしてはよいのでしょうか。「前野メリー」さんは、おそらく仕事に没頭すると前のめりになることから、このあだ名になったのでしょうが、説明がないので、子どもの読者にはわからないでしょうね。セントワーズのようなシステムは、他の出版社にもあるのでしょうか。青い鳥文庫では、ひげ文字の「八」の字は使わないなどの豆知識は、興味深く読みました。37ページで、石崎洋司のコラムが挿入されていますが、物語の流れが妨げられるので、最後に持ってきた方がよかったのではないでしょうか。あとがきで、東北の製紙工場が被災したときの状況に触れていますが、東日本大震災後、紙の値段が上がったのにともない、本の単価もあがったと、出版社の人が言っていたのを思い出しました。
(「子どもの本で言いたい放題」2013年4月の記録)