『ふたつの月の物語』
富安陽子/作
講談社
2012.10

夏子:力のある作品だな、と楽しく読んでいたのですが、最後で拍子抜けしてしまいました。おもしろかったのは、ふたりの性格の違う女の子がビビッドに描写されている前半です。里親に返されてしまい養護施設で育って、心を閉ざした美月と、愛されて育った月明(あかり)。美月がどうやって心を開いていくのかと、期待しました。しかし後半は、事件の謎解きが中心となります。孫を亡くして悲しんでいる津田さんというおばあさんの後悔の気持ちには、充分に共感を寄せることができます。とはいえ『怪物』の感想でも言ったとおり、後悔は、人間の心の一部ではないでしょうか。魂を呼び寄せる儀式をするあたりから、津田さんの後悔が身勝手に思えるようになってしまいました。心を閉ざした子どもが置き去りにされて、津田さんの物語になってしまったようで、そこが不満でした。とはいっても、独特の民俗的な雰囲気のなかで繰りひろげられるサスペンスは、酒井駒子さんのイラストの魅力もあって、楽しかったです。

レジーナ:活動的な月明とおとなしい美月という対照的な双子には特別な力が備わっていて、出自には秘密がある。こういう設定のファンタジーは陳腐になりがちですが、この作品は、最後まで読者をぐいぐい引っぱっていきますね。情景が目に浮かぶように描かれているからでしょうか。サスペンスの要素もあります。取り乱してわめく江島さんの姿は常軌を逸し、山んばのようにおそろしくて、先へ先へと読んでしまいました。結末はひっかかりました。愛する人を失って、それでも生きねばならないのが人生ですし、児童文学もそうした視点で書かれるべきものだとすれば、つらいのはわかりますが、津田さんの選択が「逃げ」のように感じられて……。

クプクプ:美月と月明のふたりを主人公とする世界に、すぐに引き込まれました。孤児院に誰かがやってきて、条件付きで子どもを引き取るという設定や、外界から離れた山荘を舞台にした設定はよく見かけますが、富安さんはお話作りがとにかく巧い! 美月には、人にはわからないにおいを感じ取る不思議な力があって、月明にお調子者のポップコーンのにおいを感じたり、津田さんには悲しみのにおいとして、梅雨のころの雨上がりの地面のにおいを感じたり。そういうディテールの部分で、何度もはっとさせられました。そんな数々の工夫が、全体を豊かにしていますね。また月明は、危ないところまで行くと、別の場所に飛んでしまう力があるんです……。でも自分たちが引き取られた本当の理由を調べていたふたりは、津田さんの悲しみの原因を見つけ、そちらの物語のほうがだんだん大きくなっていく。愛しい孫を死なせてしまった津田さんが、よみがえりのために夜神神社の真神の力を借りようとするんですが、ふたりの祖父も息子を蘇らせようと真神の力を借りていて、ここで話が響きあい、重なりあう。そのあたりが見事ですねえ。津田さんの儀式のなかで、美月と月明はただ石の笛を吹くだけ、というのは、少し物足りない気がしましたが。ふたりのお母さんで、真神の贄となった小夜香がどんな結婚生活を送ったのか、書かれていない部分も知りたいです!

アカシア:おもしろかったです。夏子さんは、美月を「里親に返されてしまい養護施設で育って、心を閉ざした」っておっしゃったけど、そう心を閉ざしているわけではないでしょう? 最初からずっと謎があって、それで読者をひっぱっていくのは、うまいですね。生き返るということについての安易ではない扱い方もいいし、どんでん返しもあって、読者を飽きさせません。私は、美月と月明がふたごだっていうところで、ちょっととまどいました。ふたごである必要があったのかな? それから最後に、景山の目が青く光るという描写があります。とすると、景山は、この子たちのお父さんなんでしょうか? 読み終わってもまだ謎が残って考えてしまうところが、またすごいです。

クプクプ:なにをテーマにしたかったんでしょうね。

アカシア:生と死じゃないでしょうか。

クプクプ:取りもどせない時間かな。

夏子:津田さんを描きこんでしまうと、女の一生になってしまって、すごく重いものになりますよね。わたしはやはり、ふたりの少女を描きたかったんじゃないか、と思います。ただそれがちょっと中途半端に終わった印象です。でも、あの、『怪物はささやく』の迫力とつい比べてしまって、申しわけない。こちらはこちらで充分おもしろく読めるのですが……

アカシア:石笛は、縄文の昔から神事などに使われているんですね。

プルメリア:次の展開が見えてくる部分がたくさんありますが、わかっていてもなぜか読ませる作品でした。二人にはなにかあるって予想を持ちながら、読んだのがおもしろかったです。

(「子どもの本で言いたい放題」2013年7月の記録)