濱野京子/著 黒須高嶺/挿絵
くもん出版
2012.01
版元語録:父親と二人で生きてきた未果と、大家族でくらす香里。育った環境も性格も違う二人が人とのつながりの大切さに気づく物語。
ルパン:飽きずにひといきで最後まで読めましたが、「くりぃむパン」の意味がよくわからなかったです。表題にもなっているので何か特別のいわれのあるものかと思って最後までそれが出てくるのを待っていたのですが、とくになかったので拍子抜けでした。ただの近所のおいしいパンだったんですね。つるかめ堂の立ち位置もよくわからなかったし。下宿という設定はいいですね。漫画家が下宿していて、自分のことがマンガになるというエピソードもおもしろかったです。主人公の未果、いいですね。ためたお金でパンを買って配るシーンはぐっときました。
メリーさん:主人公たちがひいおばあちゃんの部屋へ行く場面、時間がゆっくり進むから、得したような気になる、という感想がいいなあと思いました。それから、漫画家の志帆さんが、実は住んでいる家と家族をすごく気に入っていて、そのことを漫画に描いていたというくだりも。普段見慣れてしまった、ありふれた町や商店街の風景がまた違ったものに見える感じがよく伝わってきました。「友チョコ」、派遣社員の問題、子どもの話し言葉。今の風景を取り入れようとしているのはよくわかるのですが、下宿という設定はどうか。貧困というきびしい現実は厳然としてあるけれど、この設定は今の子どもにとって本当にリアルなのかなと思いました。
レジーナ:ひねくれていて、すぐすねる子どもが主人公なのは、新しいですね。92ページで、未果が、「パンは手軽だから」と言いますが、子どもの言葉遣いではないですね。94ページで、パンをもらった主人公が、「生きるってせつないよね」と言うのは、少し唐突に感じました。『キッチン』(吉本ばなな=著 福武書店)に、朝食のパンをもそもそかじりながら、「みなしごみたい」と言う場面がありますが、パンの独特のわびしさのようなものは、大人だからわかる感覚ではないでしょうか。
ハリネズミ:そこは女の子にありがちな、背伸びをして言ってみたかった言葉なのでは?
レジーナ:それでも、登場人物はきちんと描き分けられています。未果が、すごくいい子に描かれているので、もっと本音にせまる描写があってもいいのではないかと思いました。
ハリネズミ:『オムレツ屋へようこそ!』と似た設定ですが、あちらが全体的に無理矢理作った話という感じがするのに対して、こちらはそれがないので、物語世界にすんなり入って行けます。余計なことですが、p66に「おにいちゃんは、口をとがらせて、おかわりのお茶わんをママに差しだす」とありますが、ご飯をよそうのはいつもお母さんなんだなあ、と考え込んでしまいました。ひと昔前は子どもの本の中のジェンダーにずいぶんとこだわって固定観念を取り除こうとしていましたが、今は出版社側もあんまりそういうことを考えないんですね。
プルメリア:なぜクリームが「くりぃむ」なのか気になりました。お笑い芸人を意識しているのでしょうか? 主人公のようにお金が大好きな子どもはいますが、「守銭奴」という言葉はこどもたちにとってはわかりにくい言葉です。1学期、3、4年生にブックトークで今回の課題図書を紹介した時、「守銭奴」の言葉の意味を教えました。まわりの人々が未果に優しくする気持ちはよくわかると思います。二人の子どもの心情がよく書かれています。謎めいた作家の設定もいいなと思います。お父さんが職をなくしたときに、ためていたお金が入った貯金箱をこわしてパンを買うというところはわからなかったです。
ルパン:やけくそになったんじゃないかな。せっかくお父さんと暮らすためにお金を貯めていたのに意味がなくなってしまったわけだし。
ハリネズミ:店の名前は昔からあるつるかめ堂がクリームパンを売り出したときは、平仮名にしたほうがハイカラに見えたのでは?
アカザ:わたしは、しゃれてるなと思いました。ぜんぶカタカナで書くと固い感じだし、あたりまえになっちゃうのでは?
プルメリア:バレンタインデーに男の子にチョコレートをあげないところが現実的でよく書かれていると思いました。この本は高学年向けのほうがよかったのではないでしょうか。
(「子どもの本で言いたい放題」2013年10月の記録)