村上しいこ/作 北澤平祐/絵
フレーベル館
2022
アマリリス:最初のうちは、小さくてややこしい人間関係だな、と思って読んでいたのですが、どんどん引き込まれていき、余韻が残りました。自分が子どもの頃のことを思い出しちゃったりして。わたしは誰かが去っていくのが苦手なタイプの子どもだったので、この子はとても頑張っているな、最終的に前向きになって、えらいなと思いました。ただ、同時に、終盤の展開がちょっと急かなという気もします。わたしの見落としかもしれませんが、前半に伏線が見当たらなかったので、この子は年下の子ともうまく人間関係が築けないのだと思っていたんです。こんなに慕われているとは意外でした。
サークルK:さびしんぼうの女の子が友達とどううまくやっていったらいいのか、戸惑いながら自分を見つけていくお話でサクサク読んでいけました。何と言っても北澤平祐さんの挿絵というところが素敵です! 活字も大きくて読みやすく、3年生の女の子たちってこんな感じなんだなって教えてくれるお話です。ただ千愛(ちなる)がもどかしいほどまごまごしている様子に、そんなに気を遣わなくてもいいのよと声をかけてあげたくなりました。まだ生まれて8年かそこらでこんなに気を遣って会話しなければいけないのはかわいそうだなって。名前が今風でふり仮名なしでは絶対読めない子たちばかりでしたがキャラクターの名づけも作家さんは大変だなと思いました。
ANNE:主人公は千愛ちゃん。仲良しのお友達は愛空(あいら)ちゃん・風翔(ふうか)ちゃん・麻央(まお)ちゃん。近ごろの子どもたちのお名前にちょっとビックリです。全てにルビが振ってありましたがちょっと読み難いと思いました。もう少し普通(?)の名前でもよかったかなと。逆に低学年の子たちの名前が全部ひらがなだったのは、何か意図されてるのかな? 作者の村上しいこさんの『うたうとは小さないのちひろいあげ』(講談社)から始まる短歌小説がとても好きで、YAからおとな向けのものはいろいろ読んできましたが、中学年向けのものは初めてでとても新鮮でした。私が勤務する図書館では「日曜日」シリーズも人気なので、続けて読んでみたいと思いました。
西山:すごく好き。おもしろかったです。このグレードで子どもの心理に寄り添った物語は貴重だと思います。このぐらいの年頃のリアルってこうなのだろうと思いながら読みました。千愛はほんとにめんどくさい。心の中ではいろいろな語彙で自己分析ができたりするけれど、コミュニケーションが本当にへたくそです。どうしてこの子はこんなに自己評価が低いんだろう、親には特に問題はなさそうだけど……と思ったのですが、他の3人とはちがってこの子のすごく幼い部分は、育ちのでこぼことしてあるのだろうと受けとりました。例えばp86からp88ページにかけて、千愛がまっすぐ駐車場に向かうか、4人の待ち合わせ場所の図書室前に行くか迷いながらも決断する場面など、大人からしたら大したことがないことも、千愛にとってほんとに一大事なのだと伝わってきました。子ども読者に共感されて読まれるのだろうと思います。
2年生の子から「千愛ちゃんて、かわいそうだよね」(p61)と言われるところ、あれはきつかったですね。低学年の子どももああいう人間観察はしているということなども子ども観が深まる刺激を感じました。鋭かったり、ほんとに幼かったりするでこぼこがおもしろいと思います。あと、表紙のランドセルの色が素敵ですね。現在の話なのに、表紙や挿絵が女の子が赤、男の子が黒というランドセルが描かれている本を見ると、がっかりするのですが、これはいい。おずおずと立っている千愛の赤いランドセルや服装も絶妙、物語にぴったり合ったいい絵だなと思います。
コアラ:タイトルからは、「なりたいわたし」という憧れの自分の像が高いところにあって、それとのギャップのような物語をイメージしていましたが、全然違っていて、思いがけない展開でした。主人公の女の子が、自分の頭で「なりたいわたし」を考えるところがとてもいいと思いました。p85の後ろから2行目の「まずできることといえば、みんなでいっしょに車に向かおうって、決めてあるのを、なくすこと」というのは、「なりたいわたし」を憧れの姿として考えるのでなく、身近なところから第一歩を始めるということで、それがすごくいいと思いました。それから、その前の部分ですが、後ろから4行目の「自分をしばっていることから、自分を自由にしてあげなくてはいけないと、そう思った」というのは、大人にも有効なことで、それを小学校中学年向けの子どもの本で書いているというのは、作者は、子どもの読者の読む力というものをすごく信頼しているんだなと思いました。ただ、主人公の女の子をうとましく思っているように扱っていた愛空ちゃんが、途中からなんとなく「いい子」になっちゃって、最後は「千愛のことがうらやましくて」とか言い出すのは、ちょっと都合よく作ってしまっているかな、という気がしました。
アカシア:私が小学校のころは、友だちと連れ立ってトイレに行く子はそんなにいなかったと思うし、私もひとりで行っていました。でも、こういう子はいると思うし、この年代の子どもたちのすれ違いや憧れや思いが、ちゃんと伝わってくる作品ですね。憧れの人物と同じようにするのではなく、自分は自分として考えるようになるまでのプロセスがちゃんと描かれているのがすばらしいと思います。学童クラブは東京だと親のお迎えはないと思いますが、ここはあるんですね。
花散里:村上しいこさんの作品では『うたうとは小さないのちひろいあげ』がとても印象深く残っています。中学年向けの本作品では、主人公たちが小学3年生なのだろうかと思う場面が多く、読み難い名前、経済格差を感じさせる場面の描き方などとともに違和感を覚えながら読みました。愛空ちゃんの学童の先生に対する言い方なども気にかかりました。前半と後半、最後の展開の変わりよう、ラストのところがうまく行き過ぎていて、中学年の子どもたちはどのように読むのだろうかと思い、秀作の多いYA作品と比べて読後感があまりよくありませんでした。
ハル:私は感動しました。読みながらずっと苦しかったけれど、思い返せば主人公たちと同じくらいの3年生……はもしかしたらちょっと早かったかもしれませんが(設定が4年生でもよかったのかも?)、4年生、5年生くらいになると、世の中のことや自分の心の複雑さに対応しきれなくて、いつももやもや、もやもやしてたなぁという共感を覚えました。千愛の味方になって読みながらも、ほかの3人の子たちが決して意地悪なばかりではないことは、セリフのはしばしや行動から感じられて、4人それぞれの性格やその背景とのつながりにも矛盾を感じません。とてもていねいに描かれた作品だと思いました。p40の「おとなのいやなにおい」はドキッとしました。こういった絶妙な表現もいいです。この物語に共感し、はげまされる読者は多いと思います。
雪割草:個人的にはこういう狭い人間関係のなかでの話は得意ではないのですが、子どもの視点に立って、こんなに細かなところまで気持ちに寄り添って表現できるのがすごいなと感銘を受けました。特によかったのは、主人公の「なりたいわたし」というのは、他の3人のようにアナウンサーやモデルなどわかりやすい夢ではなく、私であるところから少しずつ変わっていこうとするところで、その姿勢に好感をもちました。愛空ちゃんが千愛のことをうらやましく思っていたから、いつも怒っているような態度をとっていたというのも、親との関係のことも描いていてリアルだと思いました。今の子は、3年生で習いごとと将来を結びつけて考えるのだとしたら大変だなとも思いました。
ルパン:心理描写よりも、情景描写がリアルだと思いました。4人の仲間なのに3人掛けの席にすわるとき、いつも自分だけが違う机になってしまうこと、待ち合わせの場所に行ってもみんながいないこと、そういう時のせつなさはひしひしと伝わってきます。でも、心理描写はくわしすぎて、3年生の子どもらしくない。地の文でよけいなことを言いすぎる気がします。わざわざ解説しなくても、エピソードだけで十分たくさん伝わるのに、と。ただ、3年生の子どもが読むときは、むずかしいところは飛ばして読むだろうから、子どもにとってはそういう説明描写はあってもなくても同じなのかもしれません。
アカシア:さっきコアラさんから、愛空ちゃんがなんとなくいい子になってしまうのに違和感があったとおっしゃいましたが、愛空は、もともと意地悪な子という設定ではなく、意地悪をしたりするのも、千愛が何でも一緒にしたがるのをうざったいと思ってるからだと思うんです。それが学童が終わるときになって、本来の素直な気持ちが出てくるのでは? 村上しいこさんは子どもの心理については、とてもリアルな視点を持って書いておられるのだと思います。
(2024年03月の「子どもの本で言いたい放題」より)