カチャ・ベーレン/作 千葉茂樹/訳 鈴木まもる/絵
あすなろ書房
2023
ハル:なかなか重たい展開でしたし(けがの話もちょっと怖いし)、短いお話ではありましたが、力強いなと思いました。モチーフとして、ブラックバードであることにちゃんと意味があるのがすごくいいなと思いました。だからこそ、この鳥の描写も生きてくるし、そのときの様子や音色も脳裏に広がっていくようで、共感しながら読むことができました。主人公と似た境遇、同じ体験をする読者は少ないとしても、子どもだろうとおとなだろうと、生きていればいくつもの壁にぶちあたるでしょうから、そういうときは、本能によって生きている自然や動物たちの物語に目を向けるのもいいですよね。
アカシア:私はひねくれているせいか、あざとい物語だと思ってしまいました。交通事故にあった主人公のアニーは、骨折はリハビリすればよくなると言われているのに、いじけて母親をうらんでいます。私はまずそこに共感できなかったんです。もっとひどい状況に置かれた子はたくさんいるのに、と。野生の存在であるブラックバードに人間が餌や巣の材料を持っていったりすることが肯定的に書かれていることにも疑問を感じました。また、p76には「守ってあげられなくてごめん」という言葉が出てくるんですが、それも単なる自己中心的なセリフのように感じました。アニーは立ち直るためのきっかけとして、もっと大きなショックが必要なのだと思いますが、そこにブラックバードの悲劇をもってきているのも嫌でした。ブラックバードの生態についていろいろ書かれていて、最初は歌がへただけどだんだんじょうずになってシンフォニーを完成させていく、なんていう部分はおもしろかったんですけどね。
花散里:私はとてもよい作品だと思いました。前半は交通事故でフルートが吹けなくなった少女の母親に対する思い、リハビリをする気にならないことなど、よく分からなくて読み難かったのですが、少年ノアと出会い、秘密の世界を見つけ、ブラックバードの世話をするうちに、指のリハビリや音楽に前向きになっていくところなどだんだんと惹きこまれ、ブラックバードとともに音楽を歌い上げていく姿が描かれていく後半はとても読み応えがありました。訳者の千葉茂樹さんが「あとがき」に書かれていたビートルズの名曲「ブラックバード」や、ブラックバードの鳴き声もYouTubeで聞くことができました。訳者念願の鈴木まもるさんの挿絵もとてもよいと思いました。挫折を克服し、夢に向かっていく構成は読後感もよく、子どもたちに薦めたいと思う作品でした。
サークルK:事故でけがをして夢を絶たれたと思い込んだ少女が再生していくお話と言ってしまえばそれまでなのですが、おもしろく読みました。その理由として1~33章までの各章がコンパクトにまとまっていて挿絵がシンプルながらとても的を射ていると感じられたからです。散文なのに詩のように短い文章が連なっていて流れるように読み進められました。ブラックバードの悲劇はこのお話の中核ですが、映画やミュージカルにもなった『ヒストリーボーイズ』の「バイバイ ブラックバード」という歌を思い出しました。
ANNE:まず、表紙の美しさに目を惹かれました。リアルな鳥の巣、その中に産みつけられた小さな青い卵。これはもしかしたらと、奥付を確認したら思った通り。絵本作家で鳥の巣の研究家としても知られる鈴木まもるさんのイラストでした。文中の挿絵も、物語とよく合っていて楽しめました。一章ごとの文章量がとても少なく、ちょっと散文詩を読んでいるように感じる章もありました。児童文学ではあまり読んだことのない書き方で、新鮮に感じました。
アマリリス:とてもよかったです。最近増えている詩の形式の物語に近い気がしました。短い描写でも、広がりがあります。もっとも、主人公が何に不満を持っているのか、なぜリハビリをしないのか、終盤まで明かされず、「どうして?」という思いがつきまとってしまいました。三人称だったら、その感覚が薄れたと思うのですが、一人称なだけに、主人公に感情移入できないもどかしさがありました。あと、最後に受験の曲を発表する場面、主人公が「タイトルは『バードソング』」と言います。原文だと小説の題名も「BIRDSONG」なので、曲名と題名がカチッと一致してかっこよく終わるのですが、翻訳では『ブラックバードの歌』なので、一致しないところが残念でした。
雪割草:はじめて読んで、なんて見事なんだろうと感動しました。水面にきれいな色の水彩絵の具をポトンと落としたのを眺めているような、そんな気持ちになりました。言葉の世界でありながら、色と音が心の目と耳で感じられて、鮮やかに描くことができました。これを読んだ読者は、ひとりで完璧である必要はなく、助けてくれる人や生きものがいるし、自分も誰かの力になれる、それが生きていくことと思えると思います。この作家のファンになり、いくつか作品を読みましたが、日本語版が出版された『わたしの名前はオクトーバー』(こだまともこ訳 評論社)が一番好きです。この作家が描く大人は、激しくなく好感がもてますし安心して読めます。みなさんと意見が違って恐縮なのですが、この表紙は昔の作品と勘違いされてしまう古風な雰囲気なのが、今の子には手にとってもらいにくいと思いますし、もったいないと思いました。
ルパン:おもしろかったんですけど、主人公より、母親のほうに感情移入してしまいました。親が自分のせいで子どもの才能をつぶすことになったらどんなにつらいだろうかと。でも、いつまでも被害者意識をふりかざしたり、理学療法士のルカが「リハビリをすればよくなる」と言っているのに努力をしなかったりするアニーにだんだんイライラしてきて、自分がこの子の母親だったら「いいかげんにしろ」というだろうな、と思っちゃいました。でも、最後に、アニーが音楽学校に行くためではなく、自分のためとブラックバードのためだけにフルートを吹く場面はすばらしく、すとんと腑に落ちました。
コアラ:とても素敵な話でした。最初の1行で胸をつかまれたし、美しい表現が随所に出てきてとてもよかったです。p5の「わたしには、フルートの音を目で見ることができた。音がまわりの世界に色をつけていくのも見えた」というのは、美しい比喩として読むこともできるし、共感覚の世界を描いているとも読めると思いました。つらい経験から一歩踏み出す様子がていねいに描かれていて、勇気を与える本だと思います。なかなか一歩が踏み出せずにいる人にはぜひ読んでもらいたいですね。挿絵はちょっとひっかかるところがあって、p27はベランダから外の公園を見ている絵ですが、p25の最終行に、部屋は15階とあります。15階から下を見たら、もっとずっと小さく見えているはず。ただ、カバーの鳥と鳥の巣の絵はとても魅力的で、訳者あとがきには、挿絵の鈴木まもるさんは「鳥の巣の研究家」とあるので、そういう研究分野があるのかと知りました。あと、訳者あとがきにもありましたが、ビートルズの曲や、ブラックバードの鳴き声をYouTubeで聞いてみました。メロディを口笛で吹いているようにとても美しい鳴き声でした。
西山:短さにびっくりというのがいちばんの感想です。こってりとした重くて長い作品になりそうな内容なのに。かといって、特段物語を急いでいる感じはしなかったし、むしろゆったりした印象が残ったので、おもしろい本だなと思いました。話は違いますが、鈴木まもるさんの去年出されたノンフィクション『ニワシドリのひみつをもとめて』(理論社)もおもしろかったですね。
ハル:先ほどのアカシアさんのご意見にあったように、野生の鳥に人が手を出していいのかという点は、ほんとにそうだなぁと思いました。勝手に「都会にまぎれこんでしまった弱い存在」かのように読んでしまいましたが、鳥がけがをしていたわけじゃないし、ブラックバードはロンドンの公園に普通にいる鳥なんだと思いますし、手を出す必要はないですよね。
アカシア:そこがセンチメンタルに書かれているような気がして、野生の鳥に対して失礼なんじゃないかと私は思ったのでした。
ハル:なにも手を出さなくても、観察しているだけでもお話は展開できたかもしれませんよね。
花散里:作者カチャ・ベーレン『わたしの名前はオクトーバー』を読んだばかりで、本作でも鳥のことなど、とてもよく調べて描かれているのかと思いました。
アカシア:私もその作品は好きなのですが、そっちでは、フクロウを野に放せない理由がありましたよね。そこがこの作品とは違うように思います。
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しじみ71個分(メール参加):物語から浮かぶ音のイメージがとても美しいと思いました。けがをした子どもが目標に向かって立ち直っていくというストーリー自体はかなり典型的なもので新鮮味はないという印象ですが、主人公のアニーの心情に絞り込んで、登場人物の書き込みもおそらく必要最小限にして、最後の希望の結末に向かって、まっすぐに筋が進み、短い間に完結するのでとても読みやすい形になっていると思います。著者が、自閉症の子どもたちへの物語の影響を研究したと紹介にありましたのでその点も意識して書かれたのかもしれないと思いました。また、描かれている内容は、事故をきっかけに、自分の内側に閉じこもっていた少女が、歌を失ったブラックバードに寄り添って音楽を取り戻す手伝いをしていくうちに、自分も癒されていき、希望に向かっていくというもので、共感や寄り添いをテーマにしていると思いました。コミュニケーションを苦手とすることが多い自閉症の子どもたちに伝えたい気持ちも込められているのかとも思います。鈴木まもるさんの絵も優しい味わいです。普通に読むとあっさりしすぎとか、物足りないとか思ってしまうかもしれませんが、言葉も美しいですし、画像を頭に浮かべやすいですし、共に読み合う読書に向いているのではないかと思います。読み終わったあと、Youtubeでブラックバードの声を聞いてみました。とてものびやかで美しくて、いつまでも聞いていたい感じでした。
(2024年03年の「子どもの本で言いたい放題」より)