泉田もと『旅のお供はしゃれこうべ』
『旅のお供はしゃれこうべ』
泉田もと/作
岩崎書店
2016.04

<版元語録>父からの頼まれごとで旅に出た惣一郎は、奉公人の裏切りで絶望のふちに。そこで出会ったのは、なんと、おしゃべりな「しゃれこうべ」だった―。おしゃべりなしゃれこうべと路上パフォーマンス!? 涙と笑いの人情時代小説。第14回ジュニア冒険小説大賞受賞作。

アンヌ:たいへん好きな作品でとてもおもしろく読みました。時代ものは武士の話が多いので、商人という設定もよかった。気になった点だけを言いますと、最後に助佐が人間の姿で別れを告げに来るところは、霊となってあの世に行く途中だから、わざわざ十六夜に変身させてもらわなくてもよかったと思います。幽霊が最後に昔の姿で別れを告げにくる話はよくありますから。後半は前半に比べて少しすっきりしていません。おもしろいので続き物にして、お春の話は次の巻にしてもよかったかもしれません。

しじみ71個分:私もおもしろいと思いました。人情の温かみもあって、いい話だなと。しゃれこうべと旅をするというのも変わっていますし、そのしゃれこうべがしゃべるという設定もおもしろかったです。ひ弱な商家の跡取り息子が旅の途中で様々な事件を体験して成長していく物語ですが、父親から受け取りに行ってほしいと言われた茶碗が道中でお供に盗まれ、それを探す謎解き要素もあり、読む人を飽きさせない展開になっていますね。しゃれこうべの助佐が最後に人の姿を現すのも感動的なのですが、やはり、ちょっとお茶の間の時代劇的な安易さもあって、そこは少し引っかかるところでした。例えば、助佐が、妹のお春のことが気にかかって成仏できないでいたのを主人公が解決して成仏させるあたりとか、終わりの読めてしまう分かりやすさがあるような・・・・・・。

ハリネズミ:気の弱い意気地なしの惣一郎が、しゃれこうべの言うことを聞いて体験を重ねるうちに成長していくという流れで、講談みたいなストーリー展開だなと思いました。表紙や裏表紙からもエンタメ作品だということはわかるので、リアリティにこだわらなくてもいいんでしょうけど、父親が自分の焼いた茶碗を息子の初出張として遠いところまで息子に取りに行かせ、それが盗まれるという展開はリアルではないと思いました。得意先なら、ほかのを買い付けに行ったついでにもらってくるのが普通でしょう? そこは、お約束ごととしてスルーするのであれば、後で惣一郎が怒ったりする場面を詳しく書いて読者の注意を惹きつけない方がいいのに、とも思いました。作者のデビュー作を書き直した作品ということで、応援したいなと思っています。

マリンゴ:ユニークな作品で、とてもおもしろく読みました。賞に応募した時のタイトルは『野ざらし語り』なんですね。このタイトルだったら、受ける印象がまったく違っただろうなぁ、と興味深かったです。内容はポップで元気なので、『旅のお供はしゃれこうべ』というタイトルのほうが、イメージに合っていてよかったとは思いますが、野ざらし語りという言葉の響きがとてもいいので少し残念な気も。ストーリーで唯一気になったのは、しゃれこうべのスペックですね。p15に「ひょこひょこ近づいてくる」とあるように、多少自分で動けるけど、遠くまでは行けない。何ができて何ができないのか、その境目って明確になっていたかな? 私、読み逃してしまったかしら……。

西山:ちょっと転がれるんだから、転がり続けたらどこでも行けそうな、とか?

レジーナ:転がって長距離を移動するのは、難しくないですか。坂とか障害物とかあるでしょうし。

西山:私は、この本を読んだのは2度目だったんですけど、前に好感を持って読んだ記憶はあるのですが、まぁすっかり忘れていて、2017年に同じ画家の表紙で出ている『化けて貸します!レンタルショップ八文字屋』を続編かと思って今回読んでしまい・・・。ラストを忘れている証拠ですよね、続きだと思ってしまうって。さらに、恥をさらせば、この2冊目も読んだことを忘れてました。失礼な話ですみません。ジュニア冒険小説大賞は、竜頭蛇尾の印象を得るものが多かったのですけど、この作品はバランスよくまとまっていると思います。たとえばp79に出てくる「目かづら」。「江戸で百目の米吉っていう男がそういう目かづらをつけて歯磨き粉を売り歩いてずいぶんと評判になってたんだ」とありますが、そういう江戸の風俗はきっと正しい情報なのだろうなぁ、この作者は江戸の風俗に詳しくて、それが作品の強みになっているのだろうなと思いました。(検索してみたら、「コトバンク」に出て来ました!)エンタメ系の作品はシリーズにしがちですけれど、シリーズにしようと思えばできる作りなのに、しっかり1冊で完結させているところが潔くて好感を持ちます。

ネズミ:パパッと読みました。おもしろく読んだけれど、エンタメだからか、特に印象に残らなかった感じです。成長物語だと思いますが、説明的に感じたところ、説教臭く感じたところがちょこちょこありました。最後に助佐が人間になって出てくるところや、p162からあとの惣一郎が若旦那になるところは、ややとってつけたようで、なくてもよかった気がました。その前の冒険で十分楽しめたので。

レジーナ:物語づくりがうまいなと思いました。おもしろかったです。しゃれこうべと旅をするという設定に引き込まれて一気に読みました。表紙の絵はちょっと古いような……。気弱な感じに描いたのでしょうが、顔立ちが女の子みたいでもあるし。

さららん:タイトルを見たときに、「うーん、どうなんだろう?」って思ったんですけど、読み始めたら設定がすごくおもしろい。江戸の浅草の商売をはじめ、知らないことを知ることができました。最後、キツネの十六夜が生きているから、しゃれこうべの助佐と別れたあとの惣一郎の喪失感はやわらいでいますね。甘っちょろいところもあるけれど、日本ならではのエンタメ物語です。父親が焼き物の本当の価値を惣一郎に知らせず、惣一郎の言葉が誤解を生んだ結果、出来心で盗んでしまった奉公人の市蔵が救われなくて、そこだけちょっとかわいそうでした。

鏡文字:表紙に画家の名前がないんですね。絵が少ないからでしょうか。すべて確認したわけではないですが、この賞(ジュニア冒険小説大賞)の受賞作シリーズは、ふつう表紙に名前があります。このグレードでエンタメのつくりとしては珍しいと思いました。物語はおもしろく読みました。西山さん同様、ジュニア冒険小説大賞は、「うーん」と、思う受賞作も結構ありますが、これは読みやすかったし、よくまとまっていると思いました。この人の文章は、読点が少ないですね。見せ物をする場面で、しゃれこうべに話させますが、観客は怖がったりはしてません。どう認識していたのでしょうか。

しじみ71個分:たしかに驚きはするけど怖がってはいないですね。

ハリネズミ:自然の中にしゃれこうべがごろんとあったら怖いけど、見世物は最初から怖いものを見せるという趣向なので、観客の好奇心が勝っているのでは?

鏡文字:基本的に惣一郎の視点だけど、視点がずれるところがあるのが残念。p89には市蔵の視点が出てきます。それから、大人になってからのシーンはありますが、その後、惣一郎はどう生きたのでしょうか。助左にとらわれて生きているのかも、と。結婚したのか、子がいるのか等気になりました。途中では春と結ばれるのかなと思ったのですが。あと、十六夜がスーパーすぎるのが、ちょっと気になりました。

すあま:読みやすく、さーっと読んでしまいました。おもしろかったのですが、時間が経つと気になることも出てきました。惣一郎は13歳ということでしたが、人前で話をするところなど、もう少し年が上のイメージでした。時代が古いので、早くおとなになるのかもしれませんが。盗まれた茶碗に何か意味があるかと思っていたら、父親の作ったもので価値がなかったのでちょっとがっかりしました。終わり方としては、しゃれこうべが成仏して終わりでもよかったかも。大人になった惣一郎の部分はなくてもよかったのではないかと思いました。

コアラ:おもしろく読みました。最後までユーモラスで、少しほろりとさせて、うまくまとめていると思います。しゃれこうべが話すというアイディアが、まずおもしろい。ただ、それだけではストーリーにならないところを、こういうストーリーに作り上げたのは見事だと思います。登場人物の中では、父親の人物像が少しつかみにくかったです。あと、主人公が最初は弱気だったのに、急にアイディアマンになったりするところは、ちょっと作者の都合を感じました。デビュー作ということですが、安定感がありますよね。

アンヌ:最後に十六夜と語り合うところで、続編があるのではと思い期待しています。

すあま:しゃれこうべとはいいコンビになっていたので、成仏しなければ続編も書けたのではないかと思いました。

ハリネズミ:子どもの本だと、そこは成仏させるんだと思うな。次の巻があるとしたら、やっぱり十六夜との話でしょうか。

ルパン(遅れて参加):楽しかったです。今日話し合う3冊のなかでいちばんおもしろかった。ユーモアのセンスもいいし、話もスピーディーで現代的。好きなテイストの物語です。

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エーデルワイス(メール参加):おもしろく読んで、よくまとまっていると思いました。日本の昔話「うたう骸骨」からヒントを得て書かれたのでしょうか?

 

(2018年11月の「子どもの本で言いたい放題」の記録)