山本悦子/作 佐藤真紀子/絵
金の星社
2023.11
マリナーズ:テーマがはっきりとした物語で最終的な着地点が見えるんですけども、とても面白く読みました。序盤はちょっと、ギスギスしているかなぁ、と思う部分もありました。リイマもレオもカイもそれぞれのクラスで、黒人ルーツであることを多少なりともいじられていたので。ただ、中盤からケニアに行って一気に開放的になりますね。普通はルーツを探す旅、というと、重苦しい感じになるけれど、ツアーに参加する、というところが新しいと思いました。最終的にお父さんに会えて、人類のルーツまで話が広がって、読了感がさわやかなのはさすが山本さんですね。ひとつ気になったのは、p166で押し売りの女の人たちを追い払った部分の表現。「アイさんがもどってきて、女の人たちを追っぱらってくれた」とあります。物売りの人を追っぱらう、というのは大人が使いがちな表現ですが、子ども(リイマ)視点でこの言葉が出てくるのは、ちょっと適切ではないかなと思いました。
花散里:褐色の肌、くるくるの髪の毛で、同級生に「黒人」と呼ばれている主人公の学校での様子、シングルマザーとして3人の子を育てていた母親の再婚、新しい父親との関係、再婚先で、祖母となった元中学教員とのやり取りなどが、とてもうまくまとめられています。元教員だった作者・山本悦子さんの視点が生き生きとしていて、これまでの『神隠しの教室』(童心社)、『夜間中学へようこそ』(岩崎書店)などとともに本書も良い作品だと思いました。外国籍の子どもたちが通っている学校が増えて、人種差別やいじめなどの問題が多くなっていることも踏まえて、子どもたちに読んでほしい作品だと思いました。祖母とともにケニアに行き、父親と再会し、自分の名前の意味が「慈悲」であることを知ったこと、巻末の「わたしがわたしだってこと」という言葉が、リイマの毅然とした後ろ姿を描いた佐藤真紀子さんの表紙画と重なり、「わたしに続く道」という意味深いタイトルとともに印象的で、読後感もよかったです。図書館で表紙を面出しして手渡ししたいと思います。
すあま:日本人だけど見た目が外国人、という子どもが主人公の本はあまりないかもしれない、と思って読みました。自分は何者か、というテーマではあるけれど、親の再婚で新しい家族ができる、知らない人たちと家族になっていく話でもある、と感じました。気になったのはタイトルで、『わたしに続く道』では、読み終われば納得するけれど、題名だけではどんな話が伝わらない、読んでみようという気にならないかもしれないので、紹介しないと手に取ってもらえないのではないかと思いました。また、おばあちゃんは元先生だった、という設定なのですが、それにしては子どもとの距離感や接し方がうまくないので、リイマのような子に理解がある、ということなのかもしれないけれど、先生である必要があったのかな、とも思いました。
ハリネズミ:日本人だけど見た目が外国人という主人公は、『セカイを科学せよ』(安田夏菜 著 講談社)にも出てきていますね。この本がいいなと思ったのは、レイシズムや差別について、日本の子どもたちが感じるさまざまな気持ちを取り上げながら、身近なテーマとして真摯に考えようとしているところです。「アフリカルーツの人は足が速い」とか「歌や踊りがうまい」というのも差別になるというのは、日本の子どもたちにはなかなか理解できないことだと思いますが、そのあたりをうまく表現しています。日本で生まれたけど「外国人」などと呼ばれて屈折していたリイマが、おばあちゃんとのケニア旅行をきっかけに変わっている様子も、リアルでした。マミーも、シンちゃんも、おばあちゃんも、サクラさんも、芯はいい人たちだという描かれ方もすてきでした。ちょっと表紙が古い感じで、今の子どもたちが手に取りにくいのかな、とも感じました。一箇所だけ気になったのですが、p238にでてくる「類人猿」は「猿人」の間違いじゃないかな。
ハル:途中までとっても面白かったんですけど、後半の展開が私には腑に落ちませんでした。この子は、自分のルーツに悩んでいたわけじゃなくて、まわりから投げられた言葉をどう処理しようかということを考えているわけですよね。「模様が違ってもキリンはキリン」とか「大自然の中では人間の悩みなんて小さい」では、なにも解決していなくないですか? それと、見かけで判断されて英語で話しかけられるのは不快だというのは、気持ちはわかりますが、それを「無意識の偏見だ」なんて言われたら、どうしたらいいんでしょう。特に英語はメジャーな言語なんだから、許してほしいです。それと、ツアーのおじさんが英語で話しかけて失敗したことを、「かっこつけて英語で話しかけるから」だとか言うの、ほんとにやだなーと思って。旅先でコミュニケーションを取るために勉強したことを、こんなふうにばかにするの、ほんとにいやだ。だから私みたいに、何年たっても英語が話せないひとが出てくるんです、とひとのせいにしてしまいましたが(笑)。
雪割草:読後感が爽やかな作品でした。主人公が自分のルーツを知る旅に出かけ、アフリカで広大な自然やときに厳しい自然のなかで生きる動物たちとの出会い、人類という大きな視野で見ることができるようになる、自分は自分だと気づく展開は好感がもてました。私もベナンで生活していたときに、地平線の近くに浮かぶ太陽がとても大きくて驚いたのを覚えていますが、p188の日の出のシーンは作者自身がきっと体験されて書いたのだろうなと思いました。マサイの村のシーンなど少し観光客目線だなと思うところはありますが、日本の子どもがアフリカに触れて興味をもつきっかけになるのではと思いました。
ANNE:構えずにさらっと読めるタイプのお話でした。ケニア人の父と日本人の母のもとに生まれた少女リイマが、さまざまな出来事を通して自分のアイディンティティを確立していく様子が爽やかに描かれていると思いました。リイマの足が速いことを「黒人だからずるい」という男子、「それは人種差別」だと決めつける女子など、小学校での児童のやり取りがとてもリアルで、現場を良くご存じの方の作品だなと感服しました。箱根駅伝や実業団駅伝などではアフリカ系の選手の方が活躍されていますが、選手として走れなくなった時にあの方たちはどうやって生活していくのかしらと、いつも思っていました。リイマの本当のお父さんが選んだ道は、それも一つの生き方なのでしょうね。リイマとレイとカイ、そして産まれてくる赤ちゃんが幸せでありますように。
エーデルワイス:面白く読みました。主人公の主人公リイマは自己主張ができて強い子。偏見に対して「漢字検定6級」「ことわざ検定7級」と叫ぶところが共感できました。子どもたちに分かりやすい展開です。前半は家庭と学校、後半はおばあちゃんとケニア旅行とメリハリがありました。リイマがケニア旅行中水や食べ物ではなく、精神的にお腹が痛くなり食べられなくなる場面には、子どもたちが共感すると思いました。ケニア旅行の内容に惹かれました。リイマが石けんで顔を洗う場面。p11「白くなれ 白くなれ 白くなれ……。スーパースターの故マイケル・ジャクソンが整形を繰り返し、肌を白くしようとしたことを思い出しました。最後にリイマが人種を乗り越えて、『人類』に意識がいくところで終わり、読後感が爽やかでした。
きなこみみ:爽やかに読めた本でした。リイマがすぐに「ことわざ検定7級」「漢字検定6級」と言い出すところが、とても好きです。親友の真子ちゃんがとても良いキャラクターだなと思います。差別がテーマである物語なんですけど、リイマを支える周りの大人や親友が性格よく書かれているので、難しいテーマでも安心感をもちながら読めるのかな、と思いました。p45に純太が「黒人なんて、速いに決まってるじゃん」と言うんですけど、こうして書いてある言葉で読むと「そんなことないよ」と思うんですが、陸上競技を見てるときとか、自分のなかにも、そんな感覚があるような気がして。ドキッとしました。そして、この物語が深いなと思ったところはp53で、リイマが、競技大会に出したらずるい、という純太に対してではなくて、「人種差別に反対します!」と、一見正しいことを言う三島さんに怒りが沸くというところです。純太の「ずるい」は能力の違いに向いているんです。しかし、三島さんが「人種差別」ということによって、それが人種の問題にすり替わってしまう。だからもやっとした気持ちが生まれてしまうんだと思うんですけど、「人種」って、ほんとは無いんですよね。学術的に、科学的にも「人種」なんていうものは存在しなくて、DNAなんかを調べても全く「人種」の違いなどという科学的な根拠は何もないんですが、「人種」っていう言葉をぽろっと使っちゃうところに、言い難い呪いみたいなものがある。そこを提起できた山本さんの視線はいいなと思います。
リイマの弟たちが「自分の国に帰れ」と言われる、っていうのが出てくるんですけど、ネットにもそんな言葉がものすごくあふれてて、うんざりします。ほんとに普通に書かれていたり、言われたりしてるので、子どもたちもちょっとネットを見ると、そんな言葉にぶち当たってしまうんじゃないでしょうか。そんなとき、「自分の国に帰れ」という言葉が、どんなに人を傷つけるのかを、こういう物語を読んで知る、というのは、とっても大事なことだなと思いながら読みました。日本人の排他的なところとか、マジョリティとしてのいやらしさも、きちんと書かれてるのがいいなって思います。距離のあったツンデレのおばあちゃんとケニアにいってからの展開は、いろんなエピソードが詰め込まれているんですが、最後に「わたしは、リイマ」というところにたどりつく、リイマっていう、ひとりの人間なんだよ、っていうところにたどりつくのはとってもいいと思います。読後感がとても良い作品でした。
しじみ71個分:今回は、きなこみみさんからたくさんご提案をいただいたので、とても楽な選書係だったのですが、『ぼくの心は炎に焼かれる』(ビヴァリー・ナイドゥー/作 野沢佳織/訳 徳間書店)でケニアが出てきたから、ケニアつながりでどうでしょう?という、なんともお気楽な選書理由でした。すみません。この物語はとても明るくて、読後感もいいので、一緒に読むならバランスが取れるかな、とも思いました。主人公のリイマは、ママやしんちゃん、友人の真子ちゃんと、温かい人間関係の中で暮らしているのもあると思いますが、自己肯定感が高くて、前向きで、読んでいてとても気持ちよいキャラクターです。ですけど、よく考えてみたら、それでなくても思春期で心が揺れたり、アイデンティティに揺らぎを覚えたりする時期なのに、加えて、肌の色が話題になったり、新しい家族の問題とか、いろいろ重なってあったら、心のバランスを取るのが難しいだろうな、と思いました。そのような境遇にある子どもたちがいたら、辛いだろうと思います。
物語の前半では、日常生活の中で、リイマや弟のレオ、カイが出合うマイクロアグレッション、みのりおばさんや従妹の愛花の悪口のように、小さな悪意をはらんだ言葉などを、並べて提示してくれています。無知や偏見から生まれる歪んだ認知には、こんなものがあると、子どもたちにも分かりやすく並べて出してくれているように思いました。カイがクロちゃんと呼ばれることや、黒人だから足が速いとか、本当に日常的によくありそうな、子どもたちの反応事例を文字で表しているので、それを読んで自分たちのことを振り返って、同じようなことをしちゃったなとか、ああ、普段こんな風に思っていたなとか、自らの中のマイナーな部分を羞恥と共に気づかせてくれるように思います。私自身を振り返っても、肌の色の違う人が普通の日本語を話していると、つい驚いたり、違和感を持ったり、つい英語で話しかけたりしてしまう、偏見だらけの自分がいるのを感じました。誰もの心の中にありそうな、差別の意識を感じて、気づいてほしいという作者の気持ちが込められているように思いました。たとえば、亮がリイマが黒人だから足が速いと言ったのを、三島さんが人種差別はいけないと咎めましたが、リイマはなぜ三島さんの発言の方をより不愉快に思ったのか、亮と何が違うのか、リイマに簡単に語らせず、作者として説明もせず、読む人に考えさせるように問題を提示して終わらせています。
子どものつかみ方が大変リアルですし、子どもたち自身に考えさせるという点で、さすが山本悦子さんは先生だった方だな、と思ったところです。後半は、おばあちゃんと二人で、ケニアまでルーツ探しの旅に行くわけですが、ケニアでダディーに会ったり、マサイの人々の暮らし見たり、ケニアが人類発祥の地と言われていることを知ったり、おばあちゃんとも打ち解け合っていきますよね。その中で、だんだんに自分は自分であることに気づき、自分を肯定できるようになる様子は、希望に満ちて、読んでとても清々しい思いがしました。
小学校高学年はちょうどティーンエイジャーの入口に立つ年代で、ゆらゆら揺れる思春期の始まりだと思うのですが、とても明るい印象を残して終わるので、子どもたちにも安心して読んでもらえるし、本当にとても上手だと思いました。みなさんがおっしゃるように、ケニアの旅の描き方は少々、軽いと思いますし、物売りを追い払う場面なんかも、もしかしたら山本さんのケニアツアーの体験が表れているところかもしれないですよね(笑)。この本を『ぼくの心は炎に焼かれる』と対比させて読んでみると、同列に並べて論じるタイプの本ではないと思いますが、だからこそムゴの物語からリイマの物語まで、とても長い時間の経過と地理的な距離を感じて、印象深いところでした。ケニアの人々が自分たちの土地を奪われて、押し込められている時代から、日本まで来て日本人と結婚する時代までの時間的、地理的な距離です。やはり日本の人が人種問題をとらえると、こんなふうに、遠い感じになるのかな、という気がします。距離的な遠さが視点の遠さにつながるといいますか……。
でも、世界の国々は、実際は相変わらず遠い一方で、もう既に、様々な肌の色の人、言葉の違う人たちが日本に来て、直接、言葉を交わし触れ合う世の中になっています。自分の中の差別とか、偏見とか、そういう問題をちゃんと意識したり、自覚したりする前に、いろいろな人と直接出会ってしまうのが今の世の中なので、人種差別の問題は常に自分に跳ね返ってくるなーと思うと、ちょっと痛いです。肌の色の違う人を見れば、外国の人だと思い込むし、「こんにちは」ではなく「ハロー」と言ってしまいがちな自分が実際にいます。この身についてしまった、無意識な差別あるいは区別、偏見は、本当に意識して解消していくのは難しいよなーと、この本を読んでつくづく思いました。なので、リイマが狭い日本だけにおさまらずに、世界に飛び出して、自分のルーツを確認したという、視野の広い物語になっているのは、本当に良い、大事なポイントだなと思いました。
(2025年01月の「子どもの本で言いたい放題」記録)









