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ゴースト

ジェイソン・レノルズ『ゴースト』表紙
『ゴースト』
ジェイソン・レノルズ/著 ないとうふみこ訳
小峰書店
2019.07

コアラ:タイトルを見て、幽霊が出てくる話だと思って期待して読み始めたのですが、主人公の男の子が自分につけたあだ名ということで、がっかりしました。タイトルで期待させて、ずるいと思いました。私はアラン・グラッツの『貸出禁止の本をすくえ!』の後でこれを読んだのですが、家族に向かって発砲するというショッキングなことが書かれているし、主人公が靴を盗んだりするので、これこそ「貸出禁止」になりそうな本だと思いました。アメリカの、銃の問題や暴力や家庭の問題は、今に始まったことではないと思いますが、アメリカの社会の現実を表している本なのかなと思います。「訳者あとがき」には「ノリのよさ」とありますが、全体的にちょっと荒っぽいなあという感想です。でも、p251の最終行、「自分という人間からは逃れられない。だが、なりたい自分に向かって走っていくことはできる」という言葉は、すごくストレートで、好感を持ちました。それから、アメリカの、学校の部活でない、地域のクラブチームとはどのようなものなのか知りたくなって、少しネットで調べたりしました。原題に「Book1」とありますが、シリーズものだったら、続きが読みたいと思いました。

ハリネズミ:私はとてもおもしろく読みました。今日11時に図書館で借りてきて、引きこまれてずっと読み、電車の中でも読んで読み終わったんです。こういう境遇の子どもはいっぱいいると思うんですが、まわりに手を差し伸べる大人がいるのがいいですね。お母さんもいっしょけんめいだし、おばさんとか、応援を派手にやるサニーのお母さんとかも。それぞれに背景があることも読んでいるうちにわかってきて、うまく作られているなあと感心しました。中華料理店で注文するものも庶民的だし、リアリティがうまく出ています。耳の遠いチャールズさんもいい味を出しているし、主人公のまわりに盛り上げ役の人たちがいっぱい登場するのも、おもしろかったです。シリーズだとすると楽しみです。

カピバラ:私もとてもおもしろかったです。主人公はものすごくシビアな状況を抱えているのに、明るくユーモアをもって語っているところがよかったです。ひとつひとつの描写が具体的で、例えばひまわりの種の食べ方でも、よくわかるように描かれているので、主人公が感じることを一緒に体感できると思います。また、母ちゃん、監督、チャールズさんなど、まわりの大人がよく描きわけられているし、主人公が口ではいろいろ言っていても、大人に対して意外に素直なところも好感をもちました。アメリカの児童文学では以前は白人は白人だけの社会、カラードはカラードだけの社会で別々に描かれていたけれど、今は普通の暮らしの中で自然に混ざり合っているんですね。この主人公はアフリカ系ですが、登場人物には白人もいて、そのような状態が日本の読者には、ちょっとわかりにくいかな、と思いました。本を読むときは姿かたちを想像しながら読むけれど、よくわからない場合もあるのではないかと思います。肌や髪の色がヒントにはなるけれど、すぐにわからないことも多いので。ジェームズ・ブラウンが白人だったらこんな顔、というような表現はわかりやすかったけど、ジェームズ・ブラウンってどんな顔かわからない読者もいますよね。

ハリネズミ:今、ジェームズ・ブラウンがわからなければYouTubeですぐ見られるので、わかると思います。

カピバラ:調べれば、ね。

ハリネズミ:興味があれば、とくに映像はすぐ検索する人が多いんじゃないですか。あと白人か黒人かというのは、どっちでもいいというふうに、この界隈ではなっているんじゃないでしょうか。だから、そこを書かなくてもいいんじゃないかな。

マリンゴ: 私も、選書しようかと、以前候補に入れていたことがありました。なので、読んだのが少し前で記憶が遠いのですが、よかったと思ったのは覚えています。ただ、本の帯やあらすじ紹介が、ちょっとミスリードしている気がしました。帯は、「銃声が聞こえたら走れ!」。あらすじの説明は、「あの銃声をきいた瞬間、逃げ足がいっそう速くなったってことだ。」。それを先に見た私は、足がとてつもなく速くなるファンタジーなのかと思ってしまい、当初戸惑いました。あと、監督が地元出身の五輪メダリストであることが後々わかるんですけど、こういう人って地元ではみんなが知る有名人なのではないかしら? 物語の都合上、知られていないことになっているのか、あるいはアメリカという国はメダリストも多くて、日本ほどメダルの価値が高くないから知らないのか、そのあたりがわからなかったです。

ハル:読み始めてすぐに、この主人公のことが好きになりました。ゴム製のアヒルを世界一たくさん集めるなんてブキミだと言ってみたり、いちいち口は悪いし、くすぶってるし、ひやひやさせられますが、とっても魅力的で、応援したくなります。他の登場人物たちもイキイキしていて、いろいろと映像を思い浮かべながら楽しく読めました。靴を万引きしたあと、なかなか発覚しないので逆にハラハラしました。でも、この決着のつけ方は、読者である子どもたちにとってはきっとうれしいでしょうし、味方になってくれる大人がいるんだと心強く思うかもしれませんが、お母さんからしたら、黙っていてほしくはなかったでしょうね。余談ですが、「歌手のジェームズ・ブラウンが白人だったらこんなだろうって顔をした人」(p9)というような表現は、白人の作家、あるいは白人の主人公のセリフとして書かれてあったら、読者の反応はどうなんだろうと思いました。

西山:どうなるのだろうという興味で読み進めましたが、全体としてはあまり賛成できなかったです。ディフェンダーズの新人食事会、それぞれの「不幸話」(敢えて言います)を打ち明け合うことで、一体感ができてしまう。監督も含めて。その展開はぺらぺらすぎる気がします。修学旅行の告白大会か?と言いたい。

ハリネズミ:私はそこはぺらぺらだと思わなくて、たとえばアン・ファインの『それぞれのかいだん』(灰島かり訳 評論社)だって、自分だけが特殊だと思っていた子どもたちが偶然集まった時、少しずつ話していくうちに、自分ひとりじゃない、ということがわかってくる。こういう界隈だと「自分ひとりがまわりと違う」と思っている子も多いと思うんですよね。それに告白大会ではなくて、ただ現実を話してるんですよ。

西山:だいたい、料理が来てから、あれを始めてしまう監督のやり方がとても嫌でした。温かいうちに食べようよ!

ハリネズミ:でも、料理が出てきて、うれしい気持ちにならないと、緊張はほぐれないし、言ったとしても表面的なことだけになってしまうのでは?

まめじか:監督も同じような過去を抱えているし、この子は、これまで心を開くということをやってこなかったんですよね。で、これがきっかけで初めて相手を信頼して自分の過去を出すことができる。たしかに軽いタッチでは書かれているけれど、シリアスにならずにどんどん読ませて、でもやっぱりとても考えてそこは出しているんだと思います。

ハリネズミ:ごちそうが出ているから、あったかいゆとりのある気持ちになっているんだと思うのね。教室で、ひとりずつ何か言いなさいというのとは違う。

西山:ところで、北京ダックって、どうやって食べればいいのかわからない料理の一つだと思うのですが、アメリカではそうではないのでしょうか。お高くて難しいメニューというイメージをもってしまっているので、それをするっと注文し、とまどいも無く食べるゴーストって?とひっかかりました。万引きも、解決としてあれで良いのか?と思います。盗んだ靴を履き続けることに抵抗はないのか。こちらも扱いの軽さに釈然としませんでした。現実問題として自分だけじゃないという共感はとても大事だと思いますが、作品を読みながら思ったのは、重い過去をもっていない子がいたら、どうなるのか、ということです。

ハリネズミ:そこは監督がわかってるんだと思いました。詳しいことはわからないでしょうが、監督も同じような育ちなので、バイブレーションのようなものは感じてるんだと思います。だから、最初は嫌がっていたゴーストも、p185「みんな、自分の家族についてすごく個人的な話をした。だからひょっとしたら、うちの話もだいじょうぶかも」となり、話した後はp186「おれは・・・・・・気分がよかった。さっぱりした気持ち。みんな、ぎょっとしたみたいだけど、おれのことをわかってくれたような気がした。やっとみんなと同じレースで、同じスピードで走ってるって気持ちになった」となる。それに、子どもたちから責められて、監督も自分の過去を話さざるを得ないという展開に、作者はもっていっています。

西山:監督も、負けず劣らずハードな過去を持っていることを明かすことで、ゴーストの反発が消える展開から、つまるところ、同じ境遇の存在同士しか本当にはわかり合えないのだという認識を突きつけられたようで、私は反発したのだと思います。

ネズミ:おもしろく読みました。『貸出禁止の本をすくえ!』もそうですが、はっきりとした声が伝わってくる文章がよかったです。貧困地区に住んでいるというだけで嫌な思いをさせられ、しかもこの子は怒りをコントロールできず、すぐに爆発してしまう性格。一度かかわった子どもを見放さない監督に出会えてよかった。ドキドキしながら、一気に読んでしまいました。靴を盗んだことがわかったp210からp211にかけての「罰をくらったり、母ちゃんともめたりするのがこわいわけじゃない」から始まるパラグラフは、口には出せない主人公の複雑な思いが言葉にしてあってとてもよかったです。外に出せずとも、いろいろなことを考えていること、人間の感情の複雑さが集約されていて、こういうことを文字で読めるのはすごくいいなあと。

まめじか:「体のなかに悲鳴がうずまいている」主人公は、怒りやフラストレーションをコントロールできず、自分をもてあましています。そんなゴーストが、過去と向きあうなかで自分と向きあいます。それまでは発砲する父親や、靴を盗んだ店から逃げるために走っていたのに、最後は未来に向かって走りだすのがいいですね。訳は読みやすかったのですが、p98「完全無欠の人間」はちょっと固いかなと思いました。またp30「かけっこの得意なミルク色のぼうや」、p85「かんべんしてよう」とか、p135で靴を「シルバーのかわいいやつ」と呼ぶのは、中学生っぽくないと感じました。バカにしたり、ふざけて言っていたりするのでしょうが、日本の中学生がそんなふうに言うのはあまり聞かないので。

彬夜:まず、タイトルだけ見みたら、まったく違う物語と誤解されないかな、と思いました。おもしろくなかったわけではないですが、いかにも若い作者が書いたのかな、という荒削りな印象がありました。それは、けっして言葉使い云々ということではありません。登場人物の中では、チャールズさんがよかったです。監督は良い人物なのですが、明かされる過去のことばかりでなく車の中が汚いことなども、いかにも「感」があって、あんまりおもしろい人物造型とは思えなかったです。ハリネズミさんがおっしゃるように、個々の子どもたちの裏までわかっているのだとしたら、りっぱすぎて却って興が削がれる。それに比べるとチャールズさんの人物造型は好感度が高くて、その差が何かと考えたら、言葉の量の差かも。語りすぎないほうがいいんですね。自戒を込めて。こうしたクラブがどの程度の水準なのかはわかりませんが、それにしても陸上競技の描き方が適当すぎるのでは?大会の位置づけもよくわからないし、スニーカーで走るの?とか、当日に出場種目の発表?とか。ブランドンの走力もわからないまま、いきなりラストで出てきて、そういうところが、読んでいてストレスでした。読後の自分のメモに「軽妙が持ち味だが、深刻な問題を軽妙に書けばいいというものでもないのでは?」と書いてあり、そう思ったのは、なんとなく大味な感じがしてしまい、ストンと腑に落ちる感がちょっと足りなかったのかもしれません。

ルパン:おもしろく読みました。靴を盗むシーンでは、読書会で「人のものを盗んではいけません」って発言するのを期待されるだろうなあと思いながら読んでました。確かに「いけないわ」とは思ったんですけど、だんだん本人が、後ろめたさを感じはじめる、罪悪感が芽生えてくるプロセスが読み取れて、好感がもてました。一番いいなと思ったのは、物語中でずっと「監督」と呼ばれている監督が、最後の最後に「オーティス」という名前だ、というのがわかったところです。主人公が急に監督に親近感をもったであろうことが感じられました。父親から銃を向けられるというのは、ありえないような体験ですが、実の父親に発砲されたことで足が(逃げ足が)速くなった、というこのストーリー仕立てはすごい、と感服しました。リアリティとお話の力を同時に感じながら読みました。

すあま:お父さんに銃を向けられその結果お父さんは牢屋に入っている、という日本の子どもでは体験することのない設定だけど、主人公の気持ちは共感して読めるだろうなと思いました。お父さんはいないけど、チャールズさんや監督という親ではない大人が見守ってくれる。ゴーストが、けんかをしたり万引きをしたりと陸上を始めてすぐに変わってしまうわけではないところも、よかったです。万引きの解決方法はちょっと甘い感じもしましたが、読後感がよく、おもしろく読めました。ただ、ラストの方でけんか相手の男の子が選手としてでてくるのは、ちょっとできすぎだったように思います。

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しじみ71個分(メール参加):読後感のさわやかな、気持ちいい本でした。ゴーストがどのように走って成果を出すかの直前のわくわく、ドキドキするところで終わっているのも心憎いなと思いました。父親と貧困の問題を抱えた少年が、理解のあるコーチとチームのメンバーとともに陸上に喜びを見出していくさまは読む人に希望を与えます。存分に走りたい気持ちから靴を盗んでしまう場面では胸が痛みますし、そのことから生まれる気持ちの悪さ、罪悪感を一緒に背負って読みました。監督に盗みの件が露見して、謝罪しに行き、許されて、監督に靴を買ってもらうというのはとてもでき過ぎのような気もしますが、読みながら自分の気持ちをゴーストの気持ちに重ねて、罪を犯してしまった苦悩とその昇華を疑似体験できたように思います。翻訳の面でいうと、他の作品を読んでも、どうしてもリズミカルなアフリカ系アメリカンの英語のポップさ、リズムを再現するのは難しいと感じる点はありますが、引っ掛かるところなくすいすいと読みました。人物として魅力的なのはチャールズさんでした。ジェームズ・ブラウンを白人にしたら、という表現は言い得て妙というか、人物像が浮かんできてとてもいいなぁ、と思ったところです。チームのメンバーもアルビノ、養子、片親等々さまざまな背景を抱えているだけでなく、個性的で魅力的だと思います。苦しい練習を仲間と乗り越えていく中で、心中に渦巻く嵐を抑制できるようになり成長するストーリーに重点があるのかもしれませんが、欲を言えば、せっかくスポーツを題材にした物語なので、走ることのすばらしさをゴーストの感覚を通じてもっと描写してくれたら、もっと表現が胸に迫ってきたのではないかなとも思います。

アンヌ(メール参加):これは痛快で、今回の3冊の中で一番好きだし、歌のような作品だと思った。アルコール依存症とはいえ、実の父親に拳銃で撃たれて、その時自分が足が速いと気づくなんて、ラップが聞こえてきそうな感じだ。でも、彼はPTSDで自分の部屋で眠ることができず、毛布を敷いてい寝ている。食堂で働く母親との生活も貧しい。あっという間に監督を信頼するところとか、監督もお金持ちの道楽ではないところがいい。母に心配をかけまいとする監督を叔父に仕立てるところとか、クラスメートを殴った理由をきちんと説明できるところとか、自分を開いていくことができる主人公に信頼感を持って読んでいけて楽しい。万引きのところもドキドキしたが、きちんと解決がついたところでホッとしたし、監督の出自も語られて同じ痛みを知っている人なのがわかるところもすごい。最後も勝ち負けを書かずにいるところで、未来が開けていく感じがしてよかった。

(2019年12月の「子どもの本で言いたい放題の会)

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ソロモンの白いキツネ

『ソロモンの白いキツネ』表紙
『ソロモンの白いキツネ』
ジャッキー・モリス/著 千葉茂樹/訳
あすなろ書房
2018. 10

アンヌ:きれいな、いい表紙絵だとは思うのですが、なんとなく手に取った時からこの絵で先入観を持ってしまって、アニメの『あらいぐまラスカル』のように野生の白狐を飼う話だと思いこんでしまいました。p29~p30の見開きの絵からも、この父親は白人だと思って、なかなかイヌイットの人々の話だと気づけませんでした。10年以上も、学校でも父親とも会話を交わしていない少年が、不意にソロモンのように知恵者のような発言ができるところは腑に落ちません。読んでいくと、最後のほうは「信太の狐」の伝説のようで、前半の野生のキツネの話がイヌイットのおとぎ話に移行していくのかなと思いましたが、リアリティのある感じからそれも違うように思えて、うまく物語の中に入りこめませんでした。

コアラ:絵本のようなつくりだと思いました。読み終わって改めて見ると、絵は最初と真ん中と最後の3枚しかなかったのですが、情景が思い浮かぶような物語で、本の形と内容が合っていると思いました。白いキツネとソルは深いつながりがあるということが、読むにつれてだんだんわかってくるし、父親の悲しみも描かれていて、しみじみと深みのある物語だと思います。じいちゃんとばあちゃんが先住民族だったことや、読み書きができないことが出てくるけれど、それがあまりたくさんは書かれていないので、逆に読み終わってからあれこれと考えをめぐらせることになりました。余韻と深みのあるいい本だと思います。大人にもおすすめですね。

イバラ:最初読んだときは、私もソルが先住民の子どもだということがわかりませんでした。読み直してみて、よくわかりました。p53に「民族」という言葉がありますが、これを「先住民族」としてくれると、最初からもっとくっきりわかったように思います。都会で居心地悪く暮らしていた先住民の父と息子が、ホッキョクギツネの導きで故郷に帰る話なんですよね。祖父母の自然に近い暮らしの中で子どもが癒やされるという話はたくさんありますが、これは、それだけでなく、ソルが文字の読み書きのできない祖父母に文字を教えるという場面もあり、お互いに補いあっていくのがいいですね。父と息子も、故郷に帰ることによって理解しあうようになるんですね。それに、文章がもつイメージが、すばらしく美しいですね。私はタイトルだけ違和感が少しありました。ソルが、キツネは自分のものではない、自由な存在だと言っている場面があるので、「ソロモンの」じゃなくて「ソロモンと」のほうがいいかと思ったんです。

カピバラ:とても静かな印象の物語。言葉少ないけれど、その裏にいろいろなことが隠されていて、あとから物語の背景がわかってくるようなところがあります。小さな作品ではあるけれど、大きなことを伝えようとしていると思いました。黒い髪に黒い目でいじめられるのですが、主人公が先住民族だということは、日本の読者にはわかりにくいと思いました。心に残る作品でした。

リック:とても美しい物語。絵も素晴らしい。読後、じんわりと心に残り続ける、出会えてよかった作品です。ただ、主人公の男の子もお父さんも、ちょっと語りすぎなのが気になります。いじめと戦う必要はない、という主人公の言葉はとてもいいと思いました。これはいじめがメインテーマの話ではないけれど、いじめられている当事者が読んだら、勇気づけられる言葉だと思います。ずっと本棚においておきたい1冊です。

マリンゴ: 絵がとにかく素敵でした。作者がイラストレーターというプロフィールを見て、この人の絵かと思いこんでいたら、違うんですね。途中でそれを知って、実はショックでした(笑)。本の装丁などが、モーパーゴの『だれにも話さなかった祖父のこと』(あすなろ書房)を想起させました。版元も一緒ですものね。旅をするうちに、距離が近くなっていく父と息子、いいなと思います。あと、子どもが、いじめのある学校に行かない、と主張できるようになるところも印象的でした。p49 「あいつらとたたかう必要なんてない。ぼくがいじめてくれってたのんだわけじゃないんだから」という言葉が頭に残っています。1つだけ気になるのは、ホッキョクギツネがすべてのキーワードであることを、ストーリー上の随所で強調されている点。ああ、すべてがつながっているんだなぁ、と読者が気づいて余韻を感じるスペースがないように思えて、わずかに残念でした。

しじみ71個分:今回読んだのは2回目で、1回目はいい話だと思ったけれども、あっさり読んでしまいました。今回、さらりとおさらいしたくらいですが、ページをめくっている間にもじんと心にしみてくる静かな感動がありました。その魅力はなんだろうかと考えました。白いキツネも主人公のソロモンも都会に似合わないものとしてやってきて、一緒に故郷へ帰る旅をする中で、母親を失った後、おかしくなった父親との関係も修復されていくというのもよかったし、また、故郷の祖父母の背景まで理解が深まっていきました。白いキツネは象徴的な存在で、自然と共生するイヌイットの、ソロモンのオリジンの文化や民族の血脈の高貴さが美しく表されていると思いました。学校で黒い目や髪を理由にいじめられたりする日常を脱し、故郷に帰るにつれて、自分の中の民族のルーツに気づいてだんだんと強くなり、彫刻家になりたいという気持ちに気づき、前向きに考えられるようになるという流れが表現されています。気持ちよく感動して読みました。絵も著者が描いたと思っていたのですが、違いましたね。で、絵を見て、車に乗っているお父さんは白人っぽいなと思い、ソロモンはハーフなのかなと思って読んでいました。

さららん:読んでいて、うれしくなった作品です。引き締まった訳がいいですね。ソルの視点ではじまりながら、短い文章の中ですっと第三者の視点に移行し、父親の感情に入っていく。たとえばp9など、その移行が自然で見事です。p13「ソルは息を長く吐きだした。ほんとうにいたんだ。シアトルの波止場のどまんなかに、まいごになった場ちがいなホッキョクギツネが、ぽつんと一匹。まるで、ソルとおなじように」。この最後の文章で、「まるで自分と同じように」とは訳さず、「ソル」と名前を出すことで、読者は主人公の気持ちにうまく近づけるように思います。ほかにも、そのキツネを、波止場の男たちがピーナッツバターのサンドイッチでつかまえるところなどに、さりげないユーモアを感じました。ソルは学校での疎外感、父親は妻を失った悲しみを抱え、二人とも都会の暮らしになじめずにいるのに、それを内側に抱えこんでしまうタイプです。鍵となるホッキョクギツネ(母親の愛の象徴?)の登場により、物語が動きはじめ、自分らしい生き方をとりもどしていくまでが、センスよく描かれています。読後感もさわやか。こんな作品もあるんだよと、本をあまり読んでいないYA世代にすすめてみたいです。個人的には、イヌイットのテーマを掘り下げた、もっと書きこんだ作品も読みたくなりました。

鏡文字:とても美しい物語だと思いました。絵がきれいというだけでなく、文章から惹起されるイメージが視覚的にきれいです。白いキツネ、森、オーロラ・・・・・・。冒頭、ソルがソロモンの愛称だとわからなかったんです。これは、英語圏ではあたりまえのことなんでしょうか。

イバラ:p33に出てきます。ソロモンの愛称がソルだって。訳者の千葉さんがここで入れたんでしょうね。

鏡文字:p33というと、ほぼ中間なので・・・・・・。まあ、見返しをちゃんと見ればすむ話でしょうが。12歳というのも、見返しには説明がありますが、そこを読まずに本文を読み始めてしまい、人物設定を理解するのに戸惑ったこともあって、冒頭部分がちょっと入りづらかったです。後半はテーマが盛りだくさんです。先住民のこと、いじめのこと、文字のこと・・・・・・。いじめのことは前半でも触れられますが、先住民=いじめられる対象、ということでいいのかな、というのが少し疑問でした。だれ一人、味方してくれなかったのでしょうか。ある種、象徴的作品ということだからなのかもしれませんが、どことなく二項対立的に描かれているようにも思えて。美しい作品ですが、物語として読むと少し舌足らずで、詩的で象徴的な作品とすると、やや饒舌かな、という印象です。

ハル:コアラさんもおっしゃっていましたが、私も今改めて見直して、あれ? こんなに絵が少なかったんだっけ、と思いました。全ページに絵が入っていたような感覚で、文章もイラストも、心に視覚的な余韻が残るような、味わい深い本だなぁと思います。今回の3冊の中では、このお話は、異なる世界、文化が受け入れられなかった話ですね。今いる場所が自分に合わない場合、逃げるのでも、戦うのでもなく、自分に合う場所を選択していくこともできるんだというメッセージは、とても大事なことだと思います。それでも、異なる文化との断絶ではなく、少しずつ変わっていくのではないか、これから始まってくのではないかと思わせる、優しいラストでした。

すあま:スターリング・ノースの『あらいぐまラスカル』のように野生のキツネを飼って最後に野生に戻す、という話かと思って読み進めていったら、キツネには名前もつけずにあっさりと山に帰したのが意外な展開でした。でも、ふるさとがアラスカであるということが、なかなかわからなかったので、日本の子にはどこの話なのかぴんとこないのではないかと思いました。アラスカとシアトルの位置関係もわかりにくいのでは? 登場人物が少なく、文章も少ないので、長編がまだ読めないような中学生にもすすめられると思いました。読後感もよかったです。

西山:いま、うかがって、ああそういう読者層が想定できるのかと思いました。展開が早いのに驚きつつ読んで、絵本ではないけれど、たっぷりのドラマがあるはずだけれど、文章は少ないし・・・・・・と、だれがどのように楽しむのかイメージできなかったんです。半ば、散文詩を味わうような感じでさらさらぁっと読んでしまった感じです。

まめじか:「まいごになった場ちがいなキツネ」と、都会になじめなかった母親、学校で居場所のないソルの姿が重なります。「子どもの人生だって、そんなに気楽で楽しくなんかない」(p34)というセリフには、深くうなずかされました。「オーロラのなかにはかげもあって、そこには死者の魂が宿っているとも信じられている」(p58)という文章をはじめ、全体をとおして人生の美しさと苦さを見据えています。作者のまなざしの深さを感じました。母親とキツネは特別な絆で結ばれていたと、イヌイットの祖母は語りますが、ジャッキー・モリスの『こおりのなみだ』(小林晶子/訳 岩崎書店)も、人と動物の魂の結びつきを描いています。これは、クマの赤ん坊が人の子として育てられる話です。

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エーデルワイス(メール参加):12歳のソロモンの心の動きがていねいに描かれていますね。ソルがおばあちゃんに「はじめるのに遅すぎることはないよ」というところが、とてもいい。今年読んだ本のマイベストになりそうです。

(2019年11月の「子どもの本で言いたい放題」)

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シャイローと歩く秋

フィリス・レイノルズ・ネイラー著『シャイローと歩く秋』(さくまゆみこ訳 あすなろ書房)表紙
『シャイローと歩く秋』
フィリス・レイノルズ・ネイラー/著 さくまゆみこ/訳
あすなろ書房
2019.08

ニューベリー賞を受賞した『シャイローがきた夏』の続編です。ビーグル犬のシャイローは、前編に書かれていた様々な出来事をのりこえて、マーティの家にやってきました。でも、シャイローの元の飼い主ジャドは、いろいろな嫌がらせをしてきます。ジャドはまた酔っぱらってはケンカをしたり、トラックを暴走させたりするので、村の人たちも眉をひそめるようになります。

本書では、ジャドがどうしてそんな性格になってしまったのかも明かされています。獣医さんの役目もしてくれるお医者さんのマーフィ先生、施設でいろいろな事件を起こすおばあちゃん、何があっても絶対に目を覚まさない下の妹のベッキー、などサブキャラも存在感を発揮しています。主人公の少年マーティが、なんとしてもシャイローを守ろうとする気持ちが本書でも痛いほど伝わってきます。

(編集:山浦真一さん 挿絵:岡本順さん)

 

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<訳者あとがき>

本書は、アメリカの女性作家フィリス・レイノルズ・ネイラーの作品SHILOH SEASONの翻訳です。

ビーグル犬のシャイローをめぐるネイラーの作品は、アメリカでは4冊出ており、これはその2番目にあたります。アメリカではどの巻もよく読まれ続けていて、2015年には4巻目のSHILOH CHRISTMASも新たに出版されました。また3 巻目までは映画やDVDにもなって人気を博しています。

作者のフィリス・レイノルズ・ネイラーは、1933年にアメリカのインディアナ州に生まれた作家で、小学校4年生の頃から物語を書いていたといいます。日本でも他にアリスのシリーズ(講談社/青い鳥文庫)や、ミステリーホテルのシリーズ(偕成社)などの翻訳が出ています。

シャイローのシリーズの1巻目『シャイローがきた夏』(原題SHILOH 1991)は、アメリカで最もすぐれた児童文学作品に与えられるニューベリー賞を受賞した作品で、2014年にあすなろ書房から翻訳が出て、幸い版を重ねています。この作品は、1993年に別の出版社から『さびしい犬』という題で翻訳出版されたことがあったのですが、その後絶版になって日本語では読めなくなっていました。私は、自分でもビーグル犬を飼っていることもあって、もう一度日本の子どもたちにも読んでほしいと思い新たに訳し直したのでした。

このシリーズでは、全体を通して、動物と人間との関係や、人間としての誠実な生き方や、事実とゴシップの違いや、虐待された子どもなどについて考えさせてくれますが、お説教臭いところはなく、時にユーモアも交えて物語そのものの力で引っ張っていきます。登場人物にもそれぞれ特徴があり、構成もみごとで、物語の伏線もきちんと張られています。よくできた物語として楽しんでいただければ幸いです。

2019年8月 さくまゆみこ

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ヒットラーのむすめ(新装版)

ジャッキー・フレンチ『ヒットラーのむすめ』新装版 さくまゆみこ訳
『ヒットラーのむすめ(新装版)』
ジャッキー・フレンチ著 さくまゆみこ訳 北見葉胡挿絵
すずき出版
2018.03

オーストラリアのフィクション。ある雨の日スクールバスを待っているときに、アンナは「ヒットラーには娘がいて……」というお話を始めます。マークは、アンナの作り話だと思いながらも、だんだんその話に引き込まれ、「もし自分のお父さんがヒットラーみたいに悪い人だったら……」「みんなが正しいと思っていることなのに、自分は間違っていると思ったら……」などと、いろいろと考え始めます。物語としてとてもうまくできています。現代の子どもが、戦争について考えるきっかけになるのではないかと思います。
(装丁:鈴木みのりさん 編集:今西大さん)

*オーストラリア児童図書賞・最優秀賞
*産経児童出版文化賞JR賞(準大賞)

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<新装版へのあとがき>

この本の著者ジャッキー・フレンチは14歳のころ、ドイツ語の宿題を手伝ってくれた人から少年時代の話を聞きました。その人は、ナチス支配下のドイツで育ったのですが、家族も教師も周囲の人もみんなヒットラーの信奉者だったので、自分も一切疑いを持たず、障害を持った人やユダヤ人やロマ人や同性愛者、そしてヒットラーの方針に反対する人々は、根絶やしにしなくてはいけないと思い込んでいたそうです。そしてその人は強制収容所の守衛になったものの、戦争が終わると戦犯として非難され、密出国してオーストラリアに渡ってきたとのことでした。「周囲が正気を失っているとき、子どもや若者はどうやったら正しいことと間違っていることの区別がつけられる?」と、その人は語っていたと言います。

作者のフレンチは、長い間そのことは忘れていました。でもある日家族で「キャバレー」の舞台を見に行った時、息子さんが、ウェイター役が美声で歌う「明日は我がもの」に共感し、その後にそのウェイターや周囲の人々がナチスの制服を着ているのに気づいてショックを受け、「自分もあの時代に生きていたら、ナチスに加わっていたかもしれない」とつぶやいたのだそうです。息子さんは当時14歳。それで、フレンチは自分が14歳のときに聞いた話を思い出し、この本を書かなくてはと思ったのでした。

本書がすばらしいのは、子どもが自分と世界の出来事を関連させて考えたり想像したりしていくところだと思います。今、戦争を子どもに伝えるのは、そう簡単ではありません。体験者の多くがもうあの世へ行ってしまって直接的な出来事として聞く機会は少なくなりました。それに、暗い物語は敬遠され、軽いものがもてはやされる時代です。そんななか、子どもへの伝え方を工夫して書かれたこの物語が、今の日本でも多くの人々に読み継がれているところに、わたしは一筋の光が見えているような気がしています。

さくまゆみこ

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紅のトキの空

ジル・ルイス『紅のトキの空』さくまゆみこ訳
『紅のトキの空』
ジル・ルイス/著 さくまゆみこ/訳
評論社
2016.12

『紅のトキの空』をおすすめします。

今回は書評用に送られて来た本の中に、自分がかかわった作品が入っていたので、それを紹介したい。

著者のジル・ルイスは獣医の資格を持つイギリスの女性作家で、『ミサゴのくる谷』『白いイルカの浜辺』(共にさくま訳 評論社)など、動物や鳥の登場する作品をたくさん書いている。この作品にも、ショウジョウトキという紅色の鳥(「何百何千もの群れが飛んできて、木にとまります。それは、暗い空にともる紅のランタンみたいに見えます」)やハトやワニが象徴的に登場してくる。

主人公の女の子スカーレットは中学1年生。家族は、精神を病む母親と、異父弟で発達の遅れているレッド。スカーレットは、自分がしっかりしないと、愛している家族がばらばらにされてしまうと思って、弟や母親の世話も洗濯も掃除も買い物も、そして勉強もがんばっている、どこから見てもけなげな少女だ。

ところがある日、母親のタバコの不始末が原因で、住んでいたアパートが火事になり、一家は焼け出されてしまう。それにより、母親は病院へ、弟は保護施設へ、そしてスカーレットは一時的な里親のもとへ。でも、レッドには自分がどうしても必要だと思っているスカーレットは、ひそかに弟を誘拐して一緒に暮らす計画を練る。そして、誘拐には成功するのだが・・・。

ジル・ルイスの人間を見る目が深い。そして、里親になったルネの一家や、傷ついた鳥を保護しているマダム・ポペスクなど、子どもを理解する大人が登場するのもいい。

子どもに寄り添って物語を紡ぎ出す著者は、スカーレットの「けなげさ」をそのままよしとするのではなく、最後にすてきな解決法を用意している。

(「トーハン週報」Monthly YA 2017年4月10日号掲載)

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わたしのおひっこし

イヴ・バンティング文 ローレン・カスティーヨ絵『わたしのおひっこし』さくまゆみこ訳
『わたしのおひっこし』
イブ・バンティング文 ローレン・カスティーヨ絵 さくまゆみこ訳
光村教育図書
2017.12

イギリスの絵本です。コーリーという女の子の家の庭に、家具や本や電気製品など、いろいろなものが置いてあります。これまでコーリーの家族が使っていたものをずらっと並べて、セールをしているのです。一家が、何らかの経済的な理由があって、一軒家から小さなアパートへ引っ越すことになったからです。
なじみ親しんできたものや友だちとの別れは悲しいし、さみしい。けど、セールが終わったときには、愛し合っている家族の結びつきはこれまで以上に強くなったようです。
途中で、コーリーの愛読書が『おやすみなさい、おつきさま』だということもわかったりして、味わい深い作品です。
(装丁:城所潤さん+岡本三恵さん 編集:相馬徹さん)

 

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<紹介記事>

・毎日新聞北陸版 2018年2月5日

 

・小学図書館ニュース第1126号

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あさがくるまえに

ジョイス・シドマン文 ベス・クロムス絵『あさがくるまえに』さくまゆみこ訳
『あさがくるまえに』
ジョイス・シドマン文 ベス・クロムス絵 さくまゆみこ訳
岩波書店
2017.12

アメリカの絵本。絵が多くのことを物語っています。背景は冬の街、テーマは、願いと言葉の力。私は、ベス・クロムスの絵が大好きで、いつか翻訳を手掛けられたらいいな、と思っていたのですが、今回それが実現しました。描かれているのは、子どもの素朴な願いですが、この絵本をきっかけに、言葉の力、願いの言葉について思いをめぐらせてもらえるとうれしいです。

飛行機の操縦士をしているお母さん、疲れたお母さんのためにお茶のしたくをするお父さん、なんていう家族がそれとなく描かれているのもいいですよ。家にはネコも犬もいます。

とてもいい紙を使って印刷してくださったので、原書よりテカらなくて、おちついた感じに仕上がっています。
(編集:須藤建さん)

◆◆◆

<作者あとがき>より

あなたのねがいはなんですか? そのねがいをあらわすのにぴったりの言葉をみつけて、声にだしてみましょう。そうしたら、つつみこむような暗い夜の底にも、雪のかけらが、ひらひらとまいおりてくるかもしれませんよ。

ジョイス・シドマン

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<紹介記事>

・MOE 1928年3月号

 

・読売新聞 「本こども堂」2018年3月20日

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紅のトキの空

ジル・ルイス『紅のトキの空』さくまゆみこ訳
『紅のトキの空』
ジル・ルイス作 さくまゆみこ訳
評論社
2016.12

イギリスの児童文学。『ミサゴのくる谷』や『白いイルカの浜辺』でおなじみのジル・ルイスの作品です。ルイスは獣医でもあるので動物の描写が正確だし、困難な状況を抱えた子どもたちに寄り添おうとする気持ちが、この作品にも反映されています。
この作品に象徴的に登場するのは、ショウジョウトキ(スカーレット・アイビス)。トリニダード・トバゴに生息する真っ赤なトキです。そこから名前をつけられたスカーレットは12歳で、褐色の肌(写真でしか知らない父親がトリニダード・トバゴの人だったのです)。精神的な問題を抱えた母親と、発達が遅れている白い肌(父親が違うということですね)の弟との3人暮らし。毎日の生活をなんとか回しているのはスカーレットなのですが、なにせ12歳なのでそれにも限界があります。
スカーレットは母を心配し、弟を守ろうと懸命なのですが、住んでいるアパートが火事になったことから、これまでの暮らしとは違う世界に投げ出されてしまいます。果たしてスカーレットたちは、自分の居場所を見つけることができるでしょうか?この作品にも、傷ついた鳥や捨てられた鳥の世話をしているマダム・ポペスクという魅力的なおばあさんが登場します。
ジル・ルイスは後書きで、主人公スカーレットのような、家族の責任を自分が背負わなくてはいけないと思っている子どもが、英国にはたくさんいると書いています。また、「家」や子どもの居場所について考えて書いた本だとも述べています。
(装画:平澤朋子さん 装丁:中嶋香織さん 編集:岡本稚歩美さん)

*SLA夏休みの本(緑陰図書)選定

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<紹介記事>

・「子どもと読書」(親子読書・地域文庫全国連絡会)2017年5〜6月号

 

・「こどもとしょかん」(東京子ども図書館)2017年春号

 

・「子どもの本棚」(日本子どもの本研究会)2018年1月号

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白いイルカの浜辺

ジル・ルイス『白いイルカの浜辺』表紙(さくまゆみこ訳 評論社)
『白いイルカの浜辺』
ジル・ルイス作 さくまゆみこ訳
評論社
2015.07

イギリスのフィクション。主人公の少女カラは、難読症で学校でいじめにあっています。自然保護活動をしている母親は、野生のイルカを調査中に行方不明ですが、カラはいつか帰ってきてくれるものと信じています。やはり難読症の父親は、細々とエビ漁を続けながらひたすら途方に暮れています。ある日、カラの学校に転校生フィリクスがやってきました。フィリクスは、脳性麻痺で手足が不自由ですが、人一倍の自信家でもあり、ITオタクでもあります。
カラたちの暮らす漁村は、今のところ底引き網漁が禁止されていますが、もうすぐその禁止が解かれることになっていて、カラは、沿岸の海の自然が生物もろとも根こそぎ破壊されてしまうと心配しています。
そんなある日、カラは浜辺にのりあげている白い子イルカを見つけます。白いイルカはプラスチックの網にからまって大けがをしているのです。カラは、まわりの人たちの力を借りて、白いイルカのいのちを助けようと奮闘し、やがてクラスメートや地域の人も巻きこんで、底引き網漁に反対する活動を始めます。
ハラハラどきどきの冒険物語でもあり、親と子の物語でもあり、地域や政治とのかかわりの物語でもあり、大自然とITを対比する物語でもあり、そして何より動物について深く知ることのできる物語です。著者のジル・ルイスは獣医さんでもあるので、動物や自然についての描写は的確でウソがありません。おもしろいです。
(編集:岡本稚歩美さん 装画:平澤朋子さん 装丁:中嶋香織さん)

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<紹介記事>

・「子どもの本棚」(日本子どもの本研究会)2016年2月号

 

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ノックノック〜みらいをひらくドア

『ノックノック:みらいをひらくドア』表紙(さくまゆみこ訳 光村教育図書)
『ノックノック〜みらいをひらくドア』
ダニエル・ビーティー文 ブライアン・コリアー絵 さくまゆみこ訳
光村教育図書
2015.07

アフリカ系アメリカ人の男の子を主人公にしたアメリカの絵本です。「ぼく」とパパは、毎朝「ノックノック」のゲームをしています。パパがドアをたたくと、ぼくは寝たふり。そしてパパがベッドまで来るとぼくはパパにとびついて「おはよう」と言うのです。

ところがある朝以来、ノックノックの音が聞こえなくなってしまいました。ぼくは、パパが恋しくて、手紙を書きます。「パパ、かえってきて。ぼくは パパみたいに なりたいんだ。でも、パパが どんなだったか、わすれてしまいそう」と。ぼくの手紙は机の上に置かれたまま月日がたつのですが、とうとうある日、パパからの返事が机の上にのっていました。「すまないが、わたしは かえれない」で始まる返事の手紙が。父親の愛情にあふれるこの手紙がすてきです。

この絵本は、作者ビーディーの実体験を元に書かれています。ノックノックの遊びをしていたビーディーの父親も、家族から引き離されて投獄されたのでした。ビーティーは後書きでこう言っています。「後に小さな子どもたちを教える立場になった私は、多くの子どもたちが投獄、離婚、死などの理由で父親の不在と向き合っていることを知りました。こうした体験に後押しされ、子どもの視点から描いたこの絵本ができあがりました。この絵本はまた、父親をなくした子どもであっても、すばらしい人生を歩むことができるという希望も語っています」
(装丁:城所潤さん 編集:相馬徹さん)

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<紹介記事>

・「産経新聞」2015年8月16日

 

・「子どもの本棚」(日本子どもの本研究会)2016年12月号

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ローズの小さな図書館

キンバリー・ウィリス・ホルト『ローズの小さな図書館』
『ローズの小さな図書館』
キンバリー・ウィリス・ホルト/著 谷口由美子/訳
徳間書店
2013.07

『ローズの小さな図書館』をおすすめします。

最初に登場するのは、父親が蒸発して貧しくなった家庭のローズ。家計を助けるために年齢を偽り、14歳で移動図書館車のドライバーとして働き始めます。1939-40年のことです。でも、この本の主人公はローズだけではありません。第二部はローズの息子のマール・ヘンリー(時代は1958-59年)、第三部はマール・ヘンリーの娘のアナベス(1973年)、第四部はアナベスの息子のカイル(2004年)が主人公になっています。

四部構成になったどの物語も図書館が舞台というわけではなく、主人公の中には本嫌いもいます。内容も、不注意でわなに愛犬がかかってしまった話、恋といじめの話、アルバイトで子どもの劇を手伝う話など、様々です。とはいえ、だれもが、なんらかのかたちで本や図書館にかかわっています。

この作品には、4世代にわたるアメリカの10代の日常の変遷を生き生きとたどれるおもしろさがあります。人によって本の読み方も、本に求めるものもいろいろだということも、よくわかります。21世紀に入ると、アメリカでもホームレスの人たちが図書館を昼の居場所にして、ハリー・ポッターなどを読んでいる、なんてこともわかります。ただし、カタカナ名前がたくさん出てくるので、本の最初のほうに載っている家系図を見ながら読み進めるといいでしょう。

そして最後の第五部には、ひいおばあちゃんになったローズがもう一度登場します。79歳のローズはこれまでの体験を本に書いてとうとう出版したのです。お祝いの場に、ここまでの物語に登場してきた人物が勢揃いする(亡くなった人は別ですが)のも、おもしろいところです。

(「トーハン週報」Monthly YA 2014年2月10日号掲載)


おとうさん おかえり

マーガレット・ワイズ・ブラウン文 スティーヴン・サヴェッジ絵『おとうさん おかえり』さくまゆみこ訳
『おとうさん おかえり』
マーガレット・ワイズ・ブラウン文 スティーヴン・ サヴェッジ絵 さくまゆみこ訳
ブロンズ新社
2011.02

夜になると、お父さんたちが帰ってきます。魚のお父さんも、テントウムシのお父さんも、ウサギのお父さんも、クモのお父さんも、犬のお父さんも、小鳥のお父さんも、カタツムリのお父さんも、ブタのお父さんも。ライオンのお父さんは、ちょっと別ですけどね。そして、「ふなのりの おとうさんは、うみから あがり、おとこのこの ところに かえってきます。」「おとうさん おかえり!」
マーガレット・ワイズ・ブラウンが、この絵本の文章を書いたのは1940年代初頭で、戦争からお父さんたちが帰ってくる時代でした。サヴェッジは父親の自分が仕事を終えて娘のもとへ帰っていくことをイメージして、2年間かけて絵を書きました。原画は、リノリウム板を使った版画です。
(装丁:坂川事務所 編集:沖本敦子さん)


よぞらをみあげて

ジョナサン・ビーン『よぞらをみあげて』さくまゆみこ訳
『よぞらをみあげて』
ジョナサン・ビーン作 さくまゆみこ訳
ほるぷ出版
2009.02

アメリカの絵本。女の子が夜の風にさそわれて、ふとんや枕をかかえて屋上に出ていきます。頭上にはひろびろとした空が広がり、女の子はお月様を見上げながら眠りの世界に入っていきます。女の子をそっと見守るお母さんがすてき。
原書は主人公の女の子がsheという三人称でしか出てこなかったのですが、いくら日本語では主語が省略できるといっても、まったく出さないわけにはいきません。子どもの本では「彼女」は使えないので、「この子」?「女の子」?といろいろ考えたのですが、sheと比べると音数も多いし、どうしても硬い感じになってしまいます。そこで作者といろいろ相談して、最終的には許可をいただき一人称で訳しました。
(装丁:羽島一希さん 編集:小山侑希子さん)

ボストングローブ・ホーンブック賞受賞


沈黙のはてに

アラン・ストラットン『沈黙のはてに』さくまゆみこ訳
『沈黙のはてに』
アラン・ストラットン著 さくまゆみこ訳
あすなろ書房
2006.01

カナダのYA小説。HIV/エイズがテーマです。舞台は南部アフリカ、主人公は16歳のチャンダ。母親と義父、妹二人、弟と暮らしています。義父がエイズになり、母親は自分もエイズにかかっていることを知り、子どもたちに迷惑をかけまいと一人で田舎に戻ります。「エイズ」という語はタブーで、口にすれば地域で仲間外れになるからです。同じようにエイズで両親を亡くした親友エスターと支え合いながら、チャンダが沈黙のタブーを破り、運命を切りひらいていこうとする物語。
『ヘブンショップ』(デボラ・エリス著 さくま訳)も、カナダの作品でした。日本の作家だと、わざわざ外国に出かけて取材したうえで作品を書いたりはしないと思いますが、カナダは、多文化理解という点では児童文学も一歩先を行っているように思います。
(イラストレーション:沢田としき 装丁:タカハシデザイン室 編集:山浦真一さん)

*プリンツ賞銀賞受賞


ミラクルズ ボーイズ

ジャクリーン・ウッドソン『ミラクルズボーイズ』さくまゆみこ訳
『ミラクルズ ボーイズ』
ジャクリーン・ウッドソン著 さくまゆみこ訳
理論社
2002.11

アメリカのフィクション。ニューヨークのハーレムで、三人の兄弟が生き抜いていく物語です。兄弟の父はアフリカ系アメリカ人で、池で溺れそうになった白人女性を助けて低体温症になり、命を落としてしまいます。兄弟の母はプエルトリコ人で、病気で亡くなります。残された息子たちは、それぞれがトラウマを抱えながら、なんとか三人で生きていこうとします。
(絵:沢田としきさん 装丁:高橋雅之さん 編集:小宮山民人さん、奥田知子さん)

*コレッタ・スコット・キング賞受賞


あかちゃんのゆりかご

レベッカ・ボンド『あかちゃんのゆりかご』さくまゆみこ訳
『あかちゃんのゆりかご』
レベッカ・ボンド作 さくまゆみこ訳
偕成社
2002.01

赤ちゃんが生まれてくるのを知って大喜びの家族。お父さんは、海で静かに揺れる船や、巣の中で静かに揺れる小鳥たちのことを考えながら、ゆりかごをつくります。おじいちゃんは、同じ地球に暮らすほかの動物たちのことを考えながら、ゆりかごに魚や動物の絵を描きます。おばあちゃんは、家族や親戚のことを一人一人思い出しながら、端切れを縫ってベッドカバーを作ります。お兄ちゃんは、早くいっしょに遊びたいなと思いながら、ベッドにつけるモビールをつくります。そして、お母さんはそのゆりかごを、窓辺に持って行って「そとを みながら、やわらかな つきのひかりや すがすがしい あさひのことを かんがえました。よぞらのほしや ひんやりした よるのくうきのことも かんがえました」。
やがて生まれてきた赤ちゃんが大泣きしても、だいじょうぶ。家族のそれぞれが思いをこめながら完成させたゆりかごに寝かせると、赤ちゃんは安心して、すやすや眠るのです。どの見開きにも、黒い犬が登場しています。犬も見守っているのですね。
(装丁:渋川育由さん 編集:和田知子さん)

・全国学校図書館協議会・選定図書
・社会保障審議会推薦文化財
・日本子どもの本研究会選定図書
・日本図書館協会選定図書

◆◆◆

<紹介記事>

・「おさなご」(長野県市立幼稚園協会編)2012.03

文字がわからない子どもたちにも温かい絵柄と色彩で楽しめる1冊。赤ちゃんが生まれてくるとわかった時の家族の喜びは誰も同じ気持ち。お父さんはゆりかご作りに取り掛かり、おじいちゃんはそのゆりかごにペンキを塗ります。おばあちゃんはベッドカバーを作り、お兄ちゃんはおもちゃを作りました。赤ちゃんに注がれるやさしい家族の眼差しに、心が温かくなります。

・「紀伊民報」2017年4月7日

もうすぐ赤ちゃんが生まれます。家族は手を取りあって、大喜び。
お父さんは、すべすべにかんなをかけた板でゆりかごを組み立てました。おじいちゃんは、そのゆりかごにペンキを塗って、青い海や空を飛ぶ大きな鳥を描きました。おばあちゃんは、小さな布を縫い合わせてベッドカバーを作りました。お兄ちゃんは、赤ちゃんが楽しめるように、モビールをゆりかごに付けました。
家族の一人一人が、赤ちゃんが生まれてきてからの新しい世界をうっとりと思い浮かべながら、リレーのようにゆりかごを作り上げていきます。その様子を、そっと見守るお母さん。赤ちゃんがお母さんのおなかで育っていく間に、足りないところはひとつもないすてきなゆりかごが、出来上がりました!
絵本全体に、新しい命を迎える喜びがあふれています。この絵本を読みながら、お子さんがおなかにいたときのことや、赤ちゃんのときのことを一緒にお話ししてみるのもいいですね。自分が生まれてきたときのことを家族から聞くことで、自分がどれだけ大事にされているのかを、実感できるのではないでしょうか。この4月から、新しい環境に飛び込んだ子どもたちも多いと思います。自分が大事にされているという実感は、きっと、子どもたちの背中を後押ししてくれるでしょう。(県立紀南図書館)

・「月刊リトル・ママ」〜妊婦さんにおすすめの本〜 2018年10月15日号

お父さんが作ったゆりかごにおじいちゃんが色を塗り、おばあちゃんがベッドカバーを縫い、お兄ちゃんがモビールを作って・・・と、赤ちゃんが待ちきれない一家のお話。赤ちゃんが少し大きくなってから、「こんなふうに待っていたんだよ」と読んであげてもいいですよ。

・「RADIANT」(立命館大学研究部)2018年3月号〜年代を超えて、心に働きかける絵本〜

お母さんは妊娠中。お父さんがゆりかごを作ると、おじいちゃんとおばあちゃん、そしてお兄ちゃんは赤ちゃんのためにゆりかごを飾り、赤ちゃんがやってくるのを待っている。家族の温かさと赤ちゃんを待つ喜びを感じさせる絵本。


ふれ、ふれ、あめ

カレン・ヘス文 ジョン・J・ミュース絵『ふれ、ふれ、あめ!』さくまゆみこ訳
『ふれ、ふれ、あめ』
カレン・ヘス作 ジョン・J・ミュース絵 さくまゆみこ訳
岩崎書店
2001.07

アメリカの絵本。ニューベリー賞を受賞したヘスの詩的な文章と、緑と光と熱気と雨の表現がすばらしいミュースの絵。暑い暑い夏にぴったりの絵本です。恵みと豊かさをもたらす雨が降ってみんなの気持ちがほどけ、さまざまな肌の色の家族がみんな笑顔になっていく様子がよく表現されています。
(装丁:鈴木康彦さん 編集:河本祐里さん)


メイゾンともう一度

ジャクリーン・ウッドソン『メイゾンともう一度』さくまゆみこ訳
『メイゾンともう一度』 (マディソン通りの少女たち3)

ジャクリーン・ウッドソン著 さくまゆみこ訳
ポプラ社
2001.04

アメリカのフィクション。「マディソン通りの少女たち」の第3巻。新しい学校に通い始めたメイゾンとマーガレットですが、メイゾンの前には蒸発した父親が現れます。マーガレットは、不自然なダイエットに苦しんだり、メイゾンとの仲がぎくしゃくするのに悩んだりします。キャロラインという白人の少女や、ボーという黒人の少年とも友だちになって、二人は成長していきます。
(絵:沢田としきさん 装丁:鳥井和昌さん 編集:米村知子さん)


マーガレットとメイゾン

ジャクリーン・ウッドソン『マーガレットとメイゾン』さくまゆみこ訳
『マーガレットとメイゾン』 (マディソン通りの少女たち1)

ジャクリーン・ウッドソン著 さくまゆみこ訳 沢田としき挿絵
ポプラ社
2000.11

アメリカのフィクション。ニューヨークに住むアフリカン・アメリカンの少女の友情物語。『レーナ』の作者ジャクリーン・ウッドソンが自分の子ども時代を思い出して書いたシリーズ〈マディソン通りの少女たち〉の1巻目です。祖母に育てられたメイゾンと、父を亡くしたマーガレットが主役ですが、超能力をもつデルさん、北米先住民のおばあちゃんなど、脇役も魅力的です。
(装丁:鳥井和昌さん 編集:米村知子さん)

SLA夏休みの本(緑陰図書)選定
*JBBY賞・翻訳者賞(シリーズ対象)


オーブンの中のオウム

ヴィクター・マルティネス『オーブンの中のオウム』さくまゆみこ訳
『オーブンの中のオウム』
ヴィクター・マルティネス著 さくまゆみこ訳
講談社
1998.11

メキシコ系アメリカ人の詩人が初めて書いたYA文学で、メキシコからの移民チカーノの少年の息づかいが伝わってきます。父親は飲んだくれのうえに暴力をふるう。兄や姉はいつもトラブルに巻きこまれる。一家はいつも貧困と差別と暴力にさらされているけれど、その家族を見る著者の目には、ぬくもりも感じられます。アメリカ人やスペイン語の得意な方に聞いてもわからないチカーノ特有の表現がたくさん出てくるので、作者に何度もe-mailで問い合わせたりして、翻訳には苦労しました。
(表紙絵:木村タカヒロさん 装丁:鈴木成一さん 編集:神田侑子さん、長田道子さん、沼田敦子さん)

*全米図書賞受賞、産経児童出版文化賞受賞


レーナ

ジャクリーン・ウッドソン『レーナ』表紙(さくまゆみこ訳 理論社)
『レーナ』
ジャクリーン・ウッドソン著 さくまゆみこ訳
理論社
1998.10

アメリカのフィクション。アフリカ系のマリーの父親は大学で教えていて、いい家に住んでいます。でも母親は家を出て世界各地を回って自分探しをしています。そんなマリーの学校に転校生のレーナがやってきました。白人のレーナの母親はガンで亡くなり、父親はいわゆる「プアホワイト」。このあたり、従来のアフリカ系の作家が書いた作品とは設定が逆転しています。マリーとレーナは肌の色が違うのを乗り越えて友だちになります。でも、レーナには秘密がありました。父親から性的虐待を受けていたのです・・・。
作者のウッドソンはアフリカ系アメリカ人の女性で、私、この人の大ファンです。表現はとてもリリカルなのに、きちんと社会問題(この作品は、人種問題、児童虐待など)を扱っているんです。父と娘二組の物語でもあります。ぜひ読んでください。沢田さんの表紙絵がまたいいですね。
(絵:沢田としきさん 装丁:高橋雅之さん 編集:平井拓さん)

*ジェーン・アダムズ児童図書賞銀賞受賞
*コレッタ・スコット・キング賞銀賞受賞


風が吹くとき

レイモンド・ブリッグズ『風が吹くとき』さくまゆみこ訳
『風が吹くとき』
レイモンド・ブリッグズ作 さくまゆみこ訳
あすなろ書房
1998.09

これは、もともとイギリスで1982年に出版された作品で、日本語訳は以前別の出版社で出ていましたが、今回翻訳をし直してあらたに出版することになりました。出版当時から、漫画のコマ割りの手法を使ってシリアスな問題を描いた、絵本の常識をくつがえす作品として、大きな評判を呼んだ作品です。それから15年以上たった今、ソ連は崩壊し、米ソ2大国が国際政治を大きく左右していた時代は去って、世界の情勢はもっと複雑になってきているように思えます。しかし、最近のインドやパキスタンの核実験で明らかになったように、核兵器をパワーゲームの切り札とみなす風潮はまだまだ盛んです。そういう意味では、核戦争の脅威は去ったわけではありません。まだ、核は使用しなくても、ジムやヒルダのようなふつうの人たちが犠牲になる戦争は、世界各地で多発しています。レイモンド・ブリッグズがこの絵本で描こうとした状況は、表向きの形は変わっても、今でも存在しているのです。この絵本が、親子いっしょに、もう一度核の問題、そして戦争の問題を考えるきっかけになってくれれば幸いです。
(編集:山浦真一さん)


その時ぼくはパールハーバーにいた

グレアム・ソールズベリー『その時ぼくはパールハーバーにいた』さくまゆみこ訳
『その時ぼくはパールハーバーにいた』
グレアム・ソールズベリー著 さくまゆみこ訳
徳間書店
1998.07

アメリカのフィクション。真珠湾奇襲のときハワイに暮らしていた日系ハワイ人の少年トミカズとその一家の物語。日米関係が緊迫してくると、移民してきた父親と、日本から呼び寄せた祖父は、収容所に入れられてしまいます。自分はアメリカ人だと思っていたトミカズも、それまで遊んでいた友だちと遊べなくなります。日常生活が一変して、悩みながらも成長していく少年を描いています。
著者ソールズベリーの父親は、第二次大戦の日本軍との戦いで戦死しているのですが、それでもこういう物語が書けるのですね。表紙絵を描いているのが横山隆一さんのお嬢さんなので、トミカズ少年はどこかフクちゃんに似ています。
(表紙絵:横山ふさ子さん 装丁:森枝雄司さん 編集:米田佳代子さん)

*スコット・オデール賞受賞


アフリカの子〜少年時代の自伝的回想

『アフリカの子〜少年時代の自伝的回想』
カマラ・ライェ作 さくまゆみこ訳
偕成社
1980.02

西アフリカのギニアでマリンケ人として生まれ育った作家が、少年時代を誇りをこめてふりかえった自伝的小説。鍛冶屋のお父さんの仕事、ワニのトーテムに守られたお母さんの不思議な力、太鼓のひびき、成人になるための儀式、村の日常生活、グリオのパフォーマンスについてなど、おもしろくて興味深い記述にあふれています。(カット:エム・ナマエさん 編集:家井雪子さん)