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セントエルモの光〜久閑高校天文部の、春と夏

夜空を背景に男子高校生と女子高校生が立っている
『セントエルモの光〜久閑高校天文部の、春と夏』
天川栄人/作
講談社
2023

きなこみみ:全く天体に興味のなかったえるもが、嵐士という先輩と天文に惹かれていくのが、楽しくて読ませます。この物語は、えるもがSNSでいじめにあって、そのせいで東京から帰ってきて、その傷もあって、やはり他人との距離がうまく取れない。人との距離感がひとつのテーマで、それを「天体」という雄大でどこまでも奥の深い距離感のものと重ねることで、かえって人間が生身に鮮やかに、かつロマンチックに描けるという、とてもうまい構成の作品だと思います。そして、心にすっと入ってくる、素敵な文章がたくさんあって、たとえばp138、9行目の嵐士先輩のセリフ「だから星たちは、俺たちの喜びや悲しみなんか、知ったことじゃない。今日も明日も、どんな辛いことがあった日だって、いつもと同じように、けろりと輝いてる」、p139、7行目の、そのセリフに呼応するところ、でもだから、俺の気持ちは俺のものだ、俺だけのものだ…」というところなど、とってもいいなと思います。そんな嵐士先輩とえるもの、ほのかな恋と、距離感もいい。文章も読みやすい。気になるのは、主人公のえるもの像が、少し定まらないところ。この物語の魅力は、嵐士という天体オタクの魅力的な先輩が披露する、えるもという名前がセントエルモの光が由来なのでは、というエピソードや、天文のコアな知識が、うまく物語の構成とかみ合って披露されていくことで物語が動いたり、進行していくところだと思うんです。でも、語り手のえるものキャラと、その知性的な部分が、ずれているところがあって。p103で、エルモは衛星と惑星の違いもわからないのだけれど、p192では慣性の法則を思い出して語ったりしていて、どんどん賢いキャラに変わっていく感じでした。これは、えるもの隠れた部分が出てきた、成長した、ということなのかな? 最後の観望会のシーンはとても良かったのだけれども、花火まで付けたのは、ちょっとやりすぎかも(笑)すてきなシーンだけれど、地元の神社の花火大会を、こんなにきれいに皆が忘れていたというのは、少し出来すぎの匂いがしました。でも、とても楽しい作品なので、この続きも、読んでみようと思います。

マリュス:著者の天川栄人さんって、プロフィールを見るまで男性だと思い込んでいました。こういう中性的なお名前、いいですよね。さて、作品ですが、ラノベのキャラクター設定に、とても近いんですよね。主人公は、かわいくて、でも悩みを抱えているという、読者が共感しやすい女の子。そして、めちゃくちゃイケメンで変人の先輩。他の人には理解されないけど、主人公だけが先輩の心のうちを理解できる。それをやっかむ幼なじみの男子、というあたりも含め、王道ラノベだと思いました。でもラノベっぽいというのは、悪い意味ではないです。読者をひきつける工夫がなされているという意味で、いいと思いました。さらに会話がとても生き生きしていて、読むのが楽しい。また、天体や星座の話が、わかりやすく頭に入ってきます。星の描写や、比喩として使われる場面の文章も美しく、読みごたえがありました。若干引っかかったのは、古雪が捨てアカウントで中傷してくる部分です。古雪は親友で、かつ従姉妹なので、「最近のあなた、自分らしくないよ」と直接言える関係性だと思います。わざわざ匿名にする理由がわからない。物語の力が強いので、ついつい説得されて読んじゃうのですが、後からちょっと無理があるんじゃないかと感じました。

コゲラ:テンポよく、すらすら読めておもしろかった。文章も、話の運び方も、作者はとても上手ですね。登場人物もそれぞれキャラが立っていて、アニメを見ているようでした。星の話や、天文学の知識の数々もおもしろい。夜中に学校に行くとか、天体観測の合宿をするとか、読者はワクワクするのでは。「すれちがえる奇跡」とか中高生の好きそうな言葉も、あちこちに散りばめられていますね。秋冬編があるという話ですから、古雪が送った謎のDMのわけや、母さんが主人公に「えるも」という名前をつけた理由も出てくるのかも。

雪割草:登場人物が一辺倒で、漫画っぽいと思いました。「嘘つき」といったのが古雪だったという展開は全く予想外で、古雪はえるもと晴彦にやきもちをやいているのだと思っていました。SNSの問題は、今の子どもたちにとって大変だと思います。p85に、「ちょっとSNSを離れたからって切られるような関係って、友達って言えるの?」とあるように、SNSは手軽な分、人と人のつながりも、それだけだと希薄になってしまうように感じます。嵐は、気の毒な設定で、お母さんまで亡くならなくてもよかったのではと思ってしまいました。主人公の心の声が語りの部分にたくさん描かれていて、ハッシュタグが章ごとにあるのは今の読者向けかなと思いましたが、ハッシュタグはなくてもいい気はしました。

アンヌ:私は、なんだかこの物語一つでは収まり切れていない感じがして、いろいろ謎が解けないまま、ふわんと逃げられた気がして不満でした。なかなかかっこいいセリフを吐くお母さんがどういう人なのかとか、えるもの名前は本当はどこからつけられたのかとか。そういえば、古雪も珍しい名ですよね、古いという字を名前につけるというのも珍しいから、そういう一族なのかな?でも、まあもう続編が出ているので、(『アンドロメダの涙〜久閑野高校天文部の、秋と冬 』)そこでということなんでしょうね。おもしろい話ではあるけれど、あまり技術もなさそうな主人公たち3人が、嵐士の天文写真を選別して投稿したり、後半の観測会の設営をしたり、後半バタバタと話が進んでいくのにも、少々首をかしげました。ただ所々、例えばp156の章の終わりのように、たぶん明け方の月を見たら思い出すような美しい描写があって、そういう魅力のある文章もあるので、とにかく続きを読んで考えてみたいと思っています。

エーデルワイス:図書館に予約してなんとか読めました。次の予約が入っていますのですぐ返却しました。人気ですね。学校の屋上で徹夜で空を観て、星の観察。ロマンチックです。映画、アニメ化されそうです。おもしろくて読み応えがありました。最後の花火のシーンは出来過ぎの感じ。p151の「私は多分小雪を許さないが好き」は心に残りました。続編も読みたく思います。

アカシア:エンタメだと思って、楽しく読みました。私がいちばんいいな、と思ったのはSNSに対して「天体観察」を持ってきたところです。これまでも、スマホ中毒やSNSから切り離すために、電波の届かないところに行くとか、自然の中で様々な体験をするという物語はいくつかあったんですけど、この作品では対極にあるものとして天体観察を出してきている。夜空の天体を見るには暗くないとだめなので、ケイタイの明かりは必然的に邪魔になるし、言葉の通じない天体を観察することと、無駄なおしゃべりが行き交うsnsは、そういえば対極になるのだなあ、と。えるも、という名前についてご意見がありましたが、私はこのお母さんならちゃんと意味がわかってつけてもしらばっくれることがあるだろうし、本当にお母さんが知らないのだとしても、今はいないお父さんなる人がつけたのかもしれないと勝手に想像したので、引っかかったりはしませんでした。えるもは、おバカキャラかもしれませんが、本当におバカなのではなく、おバカという仮面をつけているのだとすれば、何かを悟ったときに大きく変わるというのは不自然だとは思いませんでした。

ハル:今月の2冊は、どちらも若々しいというかみずみずしい感じで、慣れるまで目がすべるような感じがあったことはありました。でも、どちらも、同年代の子たちが読んだら、共感できるところが大きいんじゃないかなと思います。「セントエルモ」は、とってもエモーショナルですね。登場人物たちのつらかった日々や、人とつながれたときの喜びに、胸が打たれましたし、とてもおもしろかったです。一方で、「嵐士」は、すごくかわっている人という設定のようですが、読む限りでは、漫画やアニメでは人気があるタイプの“ドライな先輩”というイメージで、それほど変わっているようにも思えなくて、あの疑惑で壁にはった写真をやぶかれるほど、そこまで嫌われるものだろうか、というのは不思議に思いました。表紙ではわかりにくいですが、容姿の特徴でいじめるという感覚が私には理解できないので、実際にこういったケースもあるんだろうと思うと胸が痛いです。

しじみ71個分:おもしろくサクサクと読みました。私自身は、主人公のえるもの造形にあまり共感を持てなかったのですが、いじめを受けてつらかったという過去と、高校生になってからの軽めのキャラとの間にあまり連続性が感じられなかったからかもしれません。それに、ハルピコがえるもを好きで、古雪はハルピコが好きで、でもえるもは気づかず、嵐士先輩が好きらしい、でも恋愛話としは展開なく宙ぶらりんのままというのが生煮えの感じで、お話がどっちに向かうのかなと引っかかったせいかもしれません。古雪が中学生のときSNSへの書き込みの犯人が自分だったと告白したのも、私の読みが浅すぎるのだとは思いますが、えるもとハルピコとのやり取りを見ての場面だったので、その点はちょっと気になりました。天体観測と孤独、宇宙と命といった大きな視点で人間性を見つめなおすような表現がところどころにあって、それには心が惹かれましたが、そういったキラリと光る深さにマッチしていない軽い部分も多く、全体的になめらかなつながりにやや欠けた印象を受けました。えるもが嵐士のお父さんのお店にいきなり飛び込んでいろいろ事情を知ってしまうのもかなぁという気もしました。その勢いがえるもの魅力でもあり、最後の方で天文部のために1年生が頑張るのも好ましい展開と思いましたが、どこかで読んだような印象があるなとも思いました。でも、青春物語としてさわやかなので、若い世代の気持ちをつかめる作家さんなんじゃないかなと思いました。

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ANNE(メール参加):おもしろく読みましたが、ちょっとご都合主義的な結末な気がしました。そんなにうまくいくかしら? 結局、「えるも」という主人公の女の子の名前の由来がよくわからなかったのと、晴彦と古雪の想いはどうなってしまったのかがモヤモヤしました。2作とも現代のSNS事情が背景にあって、私のようなおばさんにはちょっと理解しきれない部分があるのだろうと思いましたが、おばさんなりにアンテナを高くしておく必要があるかもしれませんね。

(2024年06月の「子どもの本で言いたい放題」より)

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ハジメテヒラク

こまつあやこ『ハジメテヒラク』表紙
『ハジメテヒラク』
こまつあやこ/作 
講談社
2020.08

アンヌ:とてもおもしろかったけれど、わかりにくかった点が1つあります。脳内実況と現実の実況の違いについてなんです。二重カギ括弧で濃い文字が脳内実況、カギ括弧で濃い文字が現実の実況、と気づくまでに時間がかかりました。声に出して実況しているところは、普通の会話と同じ文字にしておいて二重カギ括弧でくくれば、十分通じたのではないかと思います。主人公は他人の恋心や秘密を勝手に話してはいけないということが、ある意味最後までわかっていないようで、それを主人公の個性としてとらえていいのかどうか気にかかるところです。小学生のうちは、ついうっかりということですむのですが。でも、そんなことはどうでもいいくらい元気な気分で読み終えられたのは、このコロナ禍の中、大声で叫べないことが増えていて、例え脳内でも読みながら叫んでいて気持ちよかったからもしれません。競馬の実況中継が絶叫系だからでしょうか。華道部のところの二十四節気は何となく知っていたのですが、七十二候の話はよく知らなかったので、いろいろ調べるきっかけになっておもしろ読めました。

さららん:主人公の一人称の語りに、「おーっとどうする」のような、つっこみも交えた三人称的実況が入り、おもしろい効果をあげていますね。次章への好奇心をそそる章の切り方も上手です。心情を風景に投影した描写、例えば「家庭科実習室の壁紙が貼り替えられたように、白くまぶしく見えた」(p131)も、わざとらしさがなく好感がもてました。仲間外れ、ジェンダー、差別といったモチーフが重くなりすぎずに編み込まれ、いやだった自分を変えたい、という主人公の願いも、自分らしさを否定せずに実現させることができて、よかったと思います。文化祭での生け花の実況中継をやめたいと思いはじめる主人公を、無理強いせず、あえて後ろに引いて待つ姿勢の野山先生(p149)に、大人のあるべき姿を感じました。

ニャニャンガ:クラスの人たちを実況中継することで孤立感を紛らわせる発想は、斬新です。友だちから浮きたくなくて目立たないようにしている主人公に、共感する子どもたちが多いだろうと思いました。学生時代の私は孤立するのがいやで無難に受け流した記憶がありますが、今では「浮いていてなにが悪い」と思うので、主人公もその結論に達したのがよかったです。1つだけ気になったのは、頭の中で考えるだけでも、するっと実況中継できるようになるのかしらという点です。もともと才能があったのかもしれませんが、私には無理だと感じました。

ネズミ:私は、友だちづきあいや部活を中心においた本は苦手なんですよね。学校生活で、友だちや部活ありきと思いたくないという気持ちがあって。でも、実況によって自分を客観視していくというのは、目のつけどころがおもしろいと思いました。人のことをよく見ることにもつながっていくので。生け花部を通して、まわりの先輩や同級生のことを知っていくというのはよかったし、作者が成長物語としていろんなテーマを盛り込もうとしているのも好感が持てました。

ハル:まさに今回のテーマの「中学生あるある」という言葉がぴったりの本ですね。2回読みましたが、やっぱり楽しいし、おもしろかったです。なぜか著者の姿が浮かんでしまうのですが、デビュー作の『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』(講談社)と同じく、とても楽しんで書いているなぁという感じがします。物語から得るメッセージもさまざまありますが、言葉のおもしろさも感じさせてくれるのが、こまつさんの作品の好きなところです。1点だけ、最初に読んだときも思いましたが、肝心の、文化祭の実況が、実況としてはあまり上手じゃないというか、言いたいことが前面に出てくるとリズムが普通になってしまって、実況口調がうすれてしまったのは、読んでいてちょっとひっかかりました。といっても、ほとんど影響ないぐらいのつまずきでしたけど。読後感がさわやかで、心が落ち着くし、ぜひ中学生に読んでほしいです。あ、もう1点ありました。巻末に「『立冬』の『山茶始開』は、ふつう『つばきはじめてひらく』と読みますが、この『つばき』はツバキ科の山茶花(さざんか)のことなので、『サザンカはじめて開く』といたしました」という断り書きがありましたが、これはどうしてツバキのままじゃいけなかったんでしょう?

イタドリ:普通、椿は冬から春にかけて咲くけれど、文化祭のある秋に咲くのは山茶花だからでは?

アンヌ:p198で部長が活けるのが山茶花だからでは?

ハル:なるほど! ありがとうございました。

けろけろ:こまつあやこさんは、力のある、これからの作品が楽しみな作家さんだなと思って、今回選書させていただきました。先日も、児童文学者協会の新人賞を取られましたね。小学校高学年で、自分の失言から仲間外れになって、中学になっても踏み出せずにいる主人公。仲間外れになったときに、「実況中継をしたらいいんじゃない」というアドバイスをされるというところがおもしろいですね。人間関係の外にいったん出るというのは、的確なアドバイスだったかもしれないと思います。中学で、うっかり入った華道部の部員の個性がうまく描けてますね~。特に私の推しは、城先輩。絶対いなさそうな人物だけど、描けちゃうのがフィクションのいいところですよね。私も華道を教わっているのですが、枝を切り落として姿を見つける感じとか、枝はひとつとして同じものがないなど、テツガク的なところがあり考えさせられます。お花をいけるシーンが伏線としてもう少し入ってもいいのかなと思いました。カオ先輩の進路の問題、マイちゃんの出身の問題など、結構盛りだくさんなのですが、バランスを考えたら、枝をもう少し切ってもよかったのではないかと思いました。

雪割草:全体としては、おもしろく読みました。特に、「実況」という語りの手法は、新鮮でした。生け花ショーの実況をするのに、生け花部の部員それぞれを観察するなど、「実況」が一人ひとりを知ろうとする切り口になったり、生け花ショーなので、お花を使ってそれぞれの個性を表現しながら実況したり。でも作品の最初の方は、「実況」がうるさいと感じてしまいました。それから、マイちゃんのお母さんがベトナムの出身であるなど、外国にルーツのある子どもを登場させているのもよかったです。友だちとの関係のところは、仲よしグループのような関係が苦手だったので、実感というより大変だなと思って読みましたが、主人公が、友だち関係のなかで負ったトラウマを乗り越えようと挑む姿は、同年代の読者の共感をよぶだろうと感じました。生け花のことはわかりませんが、日本の伝統文化でもあるし、もう少し踏み込んで描きこんでほしかったと思いました。

ヒトデ:今回の課題になった『ハジメテヒラク』と『チェリーシュリンプ〜わたしは、わたし』、舞台になる国はちがいますが、どちらも中学生たちの「友人関係」を描いた物語として読みました。はじめは、「脳内実況」に少し乗れないところもありましたが、p20を越えたあたりからグイグイ読み進めることができるようになりました。何よりもまず「実況」という装置が発明だと思いました。地の文と同じ「描写」をおこなっていても、それがより深まっていくというか・・・これまでに読んだことのない「読み口」の文章でした。物語の運びは定石通りではありますが、「人間関係を生け花にたとえていくこと」や「クラスの外で居場所を作ることの大切さを描いている」など、良い所がたくさんあった物語でした。城先輩の恋がむくわれなかったのは、少々残念でしたが(笑)

イタドリ:私もアンヌさんとおなじように、脳内実況しているところと実際にしゃべっているところが同じ活字なので、わかりにくいと思いました。内容についていえば、私が子どもの本を読んだときの感想って、おおざっぱにいえば3つに分かれるんですね。①『彼方の光』のように、「ぜったい読んだほうがいいよ」と、子どもに熱烈に押しつけたい(?)本 ②「なにかおもしろい本ないかなあ」といわれたときに、「これ、読んでみたら」と手渡したい本 ➂「ちょっとやめといたら」と言いたくなる本。これは、②の本かな。さわやかで、明るくて、楽しく読める作品だと思います。生け花については、もうちょっと掘り下げて書いてもいいかなと思ったし、いとこのお姉さんが、最初と最後だけちょこっと出てきて、主人公のヒーローというには、あっさりしすぎてるかな。その軽さが読みやすさに通じるのかもしれないけど。

ルパン:私は何回か競馬場に行ったことがあるのですが、あの馬たちの疾走の迫力に取り憑かれる人がいるのはわかる気がします。地鳴りのような馬の駆ける音とともに観客の歓声と怒号が鳴り響くあの雰囲気をことばで伝える実況放送はすごいと思います。なので、競馬放送の話になるのかな、と思ったら生け花部、というのはちょっと驚きでした。はじめはなかなか入っていかれませんでした。ストーリーはよかったのですが、私は主人公のあみちゃんに、正直あまり感情移入できませんでした。小学校のときにクラスの輪から外れたいきさつも、もう少し同情させてくれるシチュエーションだったらよかったな。というわけで、自分で好きで手元に置きたいという本ではなかったのですが、これを文庫に置いて、悩める年ごろの小中学生に手渡すにはいい作品だと思います。勇気づけられる子もいるかもしれないから。この作者の『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』はとてもよかったので、またほかの作品が出たら読んでみたいです。

マリンゴ: 地の文、心の声の実況、会話をうまく重ね合わせていて、新しさがありますね。最後、たたみかけるように感動を連鎖させてクライマックスを作っているところも、本当にうまいと思いました。文化祭当日、大事な実況がぐだぐだになっていくのも、テンパっている感じが伝わってきてリアリティがありました。相手のことを知ると見方が変わり、いじめ突破の一歩にもなる、とエールを送っているのもいいと思います。先ほど、生け花の描写が物足りないという意見がありましたが、これ以上深く踏み込むと、どこの流派かを描かざるを得ないことになります。流派を選ばずに、ある程度、お花のことをちゃんと表現しているという点でも、この作品は巧みだと思いました。また、七十二候の入り方もおもしろく、知らなかったことを教えてもらえました。

コアラ:タイトルではどういう話かまったくわからなくて、カバー袖を見ると、実況の言葉だったので、放送に関する部活の話かと思ったんです。ところが、本文はバスケ部のマネージャーの話で始まり、仲間はずれのことが語られ、いじめの話かと思ったら、突然競馬場に連れていかれるし、バラバラで話が見えなくて、この本は興味が持てないかもしれないなと、ちょっと投げ出したくなりました。それでも、部活で生け花というのは新鮮で、主人公の行動にハラハラさせられながら、飽きずにおもしろく読み終えました。生け花の実況、というのは、私もおもしろい発想だと思います。実況というとスポーツの絶叫を思い浮かべますが、将棋のテレビ放送では実況のように解説していますし、静かで表に出ないものにこそ実況というのはアリだと、この本を読んで思いました。マイちゃんがベトナム人のハーフというのも、物語を奥行きのあるものにしていますよね。それから、主人公の「あみ」の欠点というか、人の代わりに告白してしまうクセが、結局治らなかったのが、私はおもしろいと思いました。欠点を直すことが成長、ではなくて、生け花に出会って人を見る目が変わって世界が広がったことで成長する姿を描いていると思います。中学女子にぜひ読んでほしいですね。

アカシア:職業や部活を取り上げた作品はけっこうあるけど、これはその隙間をついていますね。実況アナと生け花ですもんね。実況っていっても、種類はいろいろあると思いますけど、これは古いけど古舘一朗のプロレス実況みたいなノリ。そこが笑えました。居心地の悪い現実に、突拍子もない実況で切りこんでいく感じが爽快でした。『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』にも、マレーシアからの帰国子女が登場していましたが、ここにもベトナムからやってきた口数の少ない少女が出てきます。この作家さんには何らかの志があって、意識して出しているのだと思います。内容は、リアルな物語と言うよりは、マンガ風というかエンタメ的なおもしろさ。私はこの部長がそれほど魅力的な人物には思えなかったせいか、あみがその恋を応援しようとして頑張る下りも、ちょっと白けてしまったし、早月がどこかへ引っ越して音信不通という設定にもリアル物なら無理があると思いました。中学生くらいの年齢だと同調圧力を必要以上に意識してしまうので、共感を呼ぶ作品だと思います。

カピバラ:ひとり実況の形で見たこと感じたことを語っていく部分になると急に生き生きとしておもしろかったです。テンポがよくてどんどん読めました。友だちづきあいにいろいろ悩みはあっても、自分なりに考えながら少しずつ前に進んでいくところに好感がもてました。友だち、先生、親など、それぞれの描写はそれほど深くないけど、特徴をとらえていて人物像が浮かび上がってきました。現代の子どもたちの学校生活を扱った物語って、最近は特にひりひりとつらいものが多いんですけど、この本はそこまで深刻ではなく、気楽に読めて楽しめるし、この薄さもいいですよね、ちょっと読んでごらんってすすめるのにちょうどいい。お母さんがベトナム人の女の子が出てきますが、それがわかってからも、違和感なく同じように接するところもよかったです。タイトルはなんのことかなと興味をひくのでいいと思いますが、表紙のデザインはどう見ても女子向きで、男子は手にとらない感じなのが残念です。男子も登場するし、男子にも読んでもらいたいのに。

西山:表紙がすごくきれいでいいと思っていたのですけれど、「女の子向けの本」の顔になってしまうことのマイナス面もあるのですね。実は・・・こんなに個性がある、特徴的なことがいっぱいでてくるわりには、前に読んで、内容をすっかり忘れていました。言い訳的にいえば、盛りだくさんで、私にとってこの作品が1つの像を結んでいなかったのかなと思います。実況が心の声でもあるんだけども、隠している自分の本音とかいうのではなく(ふと思い出したのは、『ぎりぎりトライアングル』(花形みつる著 浜田桂子絵 講談社)です。おどおどした主人公コタニの内面の声が、がらっとイメージの違う歯切れのいいツッコミ満載だったのとおもしろさでは共通しつつ、質は違うなと)、自分事を他人事にしてしまうというのが、つらい子どもにとってはすごい提案なのかなと思います。「脳内実況してみると、まるで人ごとのようにこの状況に何だか少し笑えてしまった」(p51)とあるように。 人ごとにしちゃうっていうところで、そこに救われる子どもの実情を思うと、闇は深いなという気がします。競馬といえば、『草の上で愛を』(陣崎草子著 講談社)は、広々とした競馬場の空気みたいな印象が残っています。そういうのがなかったかなぁ。

まめじか:この本では、友だち関係にとらわれていた主人公が実況によって、いったん自分を外に置いて、客観的に見られるようになっていきます。友人との距離感がつかめず、自意識にふりまわされていた子が、余分な枝葉を取り払うように心を整えていく過程に好感がもてました。ジェンダーのステレオタイプを破るような男子の華道部部長、ベトナムにルーツのある同級生など、多様な登場人物が出てくるのもよかったな。中学生が手に取りそうで、しかも品のある表紙がすてきですね。後ろのカバー袖に小さく描かれているのはなんでしょうか。スポイト?

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鏡文字(メール参加):意識的に外国ルーツの子を登場させていることに好感が持てました。着眼点がおもしろいし、するすると読めました。ちょっとマンガチックかな、という気もしましたが。けっこう長い間、なぜ従姉に連絡しなかったのかが謎です。

エーデルワイス(メール参加):以前の課題で読んだ『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』が印象に残っていて、今回もよかったです。さわやかで。それこそ胸がキュンキュンしました。『ハジメテヒラク』は華道からきたタイトルなのですね。花を生ける様子に実況をつけるなんて、おもしろいです!中高の部活ですから流派は出ませんでしたが、華道には池坊、小原流など、伝統と子弟制度があり面倒だと思っていました。この物語の華道の様子は自由でいいなと思いました。『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』ではマレーシアの帰国子女。今回はベトナムにルーツのあるマイちゃんが登場。アジアが身近に感じられます。

(2021年05月の「子どもの本で言いたい放題」より)

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