『キツネとねがいごと』をおすすめします。

今回は哲学的な絵本を。作者は、言語障碍の子どもたちに美術を教えながら、イラストレーターとしても活躍しているスイス人のカトリーン・シェーラー。年老いたキツネ(この作者の絵本には、キツネやネズミを主人公にした作品が多い)が、朝目をさますと、鼻先にはリンゴのにおいがただよい、耳にはツグミの鳴き声が聞こえてくる。はっとして外に飛び出てみると、木に実った大事なリンゴをツグミがつついている。ウサギやネズミもやってきて、だれも年寄りキツネなど怖がらず、どんどんリンゴの実を食べてしまう。

キツネには体力も敏捷性もないものの知恵があった。罠をしかけると、イタチがかかる。なんとこのイタチは魔法が使えるというので、逃がすかわりに、リンゴの木に触れた者はみんな木にくっつくという魔法をかけてもらう。やがてリンゴの木にはだれも近づかなくなり、キツネはリンゴをひとりじめ。と、ここまでは普通の絵本なのだが、ここから先がちょっと違う。

ある日、死神がキツネを迎えにきた。ところでこの死神、キツネの顔をしている。ふーん、そりゃそうだよね。人間やウサギの顔じゃおかしいものね。で、まだ死にたくないキツネが、最後に食べたいからリンゴをとってくれと死神を木に登らせると、案の定、死神は木にくっついて降りてこられなくなる。

さあ、これでキツネは永遠に生きることができるようになった。でも、それって、ほんとに幸せなの? 死神が困った顔をするどころか、ほほえんでいるのはなぜ?

原書名には「死」という言葉が入っているから「死」がテーマではあるのだが、この絵本から受け取るものは読者の年齢によって違うかもしれない。別紙に描いたものを切り抜いてコラージュした絵は、時とともにキツネの表情が変わっていくのをうまく表現している。

(「トーハン週報」Monthly YA 2017年8月14/21日号掲載)