作者別: sakuma

『わたしとあなたのものがたり』表紙

わたしとあなたのものがたり

アメリカの絵本。「クラスには、茶色いはだの子どもは、ひとりしかいなかった。それが、わたし」という文章で、この絵本は始まります。「学校で、奴隷制について勉強した時、みんなが、わたしをじっと見ているような気がしたものよ。奴隷たちが大農園で綿つみをさせられたことや、ほったて小屋にすんでいたことや、子どもたちが、ばらばらに売られていったことを先生がはなすと、わたしは消えてしまいたいとおもったわね」

アメリカの学校には、アフリカ系アメリカ人の歴史をふりかえるBlack History Monthが設けられています。アフリカから奴隷が連れて来られてプランテーションなどで強制労働をさせられ、奴隷解放宣言が出てからも差別され、公民権運動が起こり、少しずつ権利を獲得していった歴史を学ぶのです。過去の歴史を学ぶことによって未来をもっとよくしようという意味がそこにはあるのでしょう。でも、そんなとき、肩身の狭い思いをしていた子どもがいることには、私はこの絵本に出会うまでは気づいていませんでした。語り手の「わたし」は、白人の男の子に「リンカーン大統領がいなかったら、おまえはまだ、おれたちの奴隷だったんだぞ!」なんていく言葉を投げかけられたりもしています。

そんな「わたし」が、やはりクラスでたった一人の茶色い肌の娘に向かって、「あなたには、すがたをかくしたり、消えてしまいたいとおもったりしないでほしいの」「どうどうと立って、空高くはばたいていってほしいの。・・・だって、だいじなのは、ほかの人にどう見えるか、じゃなくて、鏡にうつった自分に『なにが見える?』って といかけてみることだから」と語りかけています。

(編集:相馬徹さん 装丁:森枝雄司さん)

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2022年02月 テーマ:12歳の冒険

日付 2022年02月18日
参加者 まめじか、ハル、アンヌ、エーデルワイス、雪割草、ルパン、ハリネズミ、ニンマリ、西山、コアラ、シア、さららん、サークルK(しじみ71個分)
テーマ 12歳の冒険

読んだ本:

『ジークメーア』表紙
『ジークメーア〜小箱の銀の狼 』
斉藤洋/著   偕成社   2021.09

〈版元語録〉ジークメーアは、ザクセン公国の北のはずれ、北海に面する洞窟の中で母親とくらしている。泳ぎがうまく、夜でももののかたちがはっきりとわかり、半弓の技にたけていた。ある夜、村をおそった海賊とたたかう百人隊長・ランスを助けたことから、ジークメーアの運命は大きく動きはじめる。母の言葉に導かれ、12歳になる年、ジークメーアはランスとともに旅に出る。旅の目的は、邪悪な魔神をあやつり、ヨーロッパを征服しようとしている隣国・フランク王国の企みを阻むこと。そのためにはまず、古くから伝わる『マーリンの書』に書かれた「小箱の銀の狼」を手に入れる必要があるという……。中世ヨーロッパを舞台に、さまざまな敵と対峙しながらたくましく成長する少年のすがたを描く。斉藤洋の冒険ファンタジー、新シリーズ第1弾。


『キケンな修学旅行』表紙
『キケンな修学旅行〜ぜったいねむるな! 』
ジェニファー・キリック/著 橋本恵/訳   ほるぷ出版   2021.07
CRATER LAKE by Jennifer Killick, 2020
〈版元語録〉小学校の修学旅行で、クレーター湖にきたランスたち。ところが、何か様子がおかしい。バスの前に血まみれの男が飛び出してくるし、施設のスタッフはあやしいし――、おまけにどうやら、眠ると別の何かに変身させられてしまうようだ! ランスたち5人は、力を合わせて迎えがくるまで敵とたたかうことを誓う。合い言葉は、「ぜったいに眠るな!」イギリスでロックダウンの最中に出版され子どもたちの人気を博した、SFホラーサスペンス!

(さらに…)

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『キケンな修学旅行』表紙

キケンな修学旅行〜ぜったいねむるな!

まめじか:主人公のサイドは善という構図で描かれたエンタメですね。最後に主人公は豪邸に住んでいたことが明かされるのですが、それをよしとするような価値観に底の浅さを感じました。p188で、マックは空気のにおいをかいで、チェッツの行き先がわかるのですが、どれだけサバイバルスキルに長けていても、人間の能力では不可能ですよね。p126では、電話は鍵のかかったオフィスにあり、でも、そのあとp164で、すべてのドアを解錠したとあるのですが、なんでこの時点で助けを呼ばなかったんですか? p146でワーカーたちが「この体は食べ物が必要なんだ。まともな栄養をとらなければ、コロニーは機能しない」「この体は弱い」と話すのですが、読者に必要な情報を伝えるための会話だなと。そもそも、なぜ先生がランスを目の敵にしていたのかもよくわからないし。虫みたいな目というのは複眼のことだと思いますが、これで子どもにわかるかなあ。p175「おぞましい!」、p295「ブタやろう」などは、子どもの言葉じゃないように感じました。「えーん」「うわーん」といった訳語にもひっかかりました。p194の6行目に、読点が重なっている誤植がありました。

エーデルワイス:イギリスの子どもたちによく読まれているということですが、このような内容なら、日本のアニメやゲームの方がおもしろくて優れているような気がします。登場人物の子どもたちが、孤児だったり、サバイバルを生き延びるための訓練を受ける、私立中学受験など多様な子どもたちを登場させているのは現在を反映していると思いました。主人公のランスが睡眠時無呼吸症候群というのを効果的に使っているのは新しいと思いました。ランスが実はお金持ちで……は、拍子抜けしましたが、友人たちと安心してくつろぐ最後はいいですね。(それぞれの親には知らせてあるのでしょう)イラストがあんなにあるより、最初に登場人靴の顔と紹介、冒険の地図の紹介があったらよいと思いました。

アンヌ:おもしろいけれど1度読んでしまえば終わりという感じで何も残らないし、2読目には疑問ばかりになりますね。何しろ設定も解決方法も昔からある古典SFそのままなのであきれました。『宇宙戦争』(H.G.ウェルズ 著 井上 勇訳 創元SF文庫)や『人形つかい』(ロバート A.ハインライン著 福島 正実訳 ハヤカワ文庫SF)とか。まあ、この本をきっかけに、そういうSFの世界も楽しんでほしいとも思いますが。寄生生物という概念を説明するのにテレビ番組を見させるというのも、安直だなあと感じます。トレントの誕生日パーティのエピソードは、まあこの子は一族郎党含めて、人の気持ちがわからないんだなと納得させられました。でも、読者を誤解させる様に書いておきながら、実は主人公の家は大金持ちでした……という幕切れと同様に、後味が悪くて笑えませんでした。

ルパン:なんか、マンガ読んでるみたいでした。マンガならおもしろいのかも。でも、「宇宙人の侵略」というとてつもない非現実の設定のわりには、主人公の秘密が、さんざんじらしたあげく無呼吸症候群だったりとか、親に捨てられてずっと里子だったというバックグラウンドが全然キャラ設定やストーリーに関係なかったりとか、SFなのかリアルな学園ものなのかはっきりしなくて、なんだかものすごくちぐはぐ。ミス・ホッシュやトレントなどの悪役は最後まで救いようがなくて、魅力ないままで終わるし、いろんな名前の子が出てくるけど、どれがどれだか(最初は男か女かすら)わからなくて、ほんとにマンガにしてくれ、という感じです。あと、ちなみに、宇宙人を撃退するのにクマムシを使うんですけど、地上最強の生物というわりには、意外とすぐ死ぬらしいです。温度差に強いだけみたいです。

ハリネズミ:引っかかるところがたくさんありすぎて、楽しめませんでした。たとえばp35に「乳歯が生えてきた」とありますが、この年令で乳歯なんか生えてこないでしょ。作者がいい加減なのか、編集者がいい加減なのか。また夜になって子どもたちが部屋に閉じ込められるわけですが、どうして鍵穴に鍵を刺さったままにしておくのかなど、随所にご都合主義が透けて見えます。p177では装置を入れたリュックをかついでいるはずなのに、絵はそうなっていません。もっとていねいに訳さないと、物語に入り込めません。キャラも浮かび上がってきません。

雪割草:おもしろくありませんでした。読んだ後、何も残らない。ゲームみたいだと思いました。登場人物の描写は外面的で、子どもたちの心の動きもリアルに感じられませんでした。こんなに奇妙でシリアスな状況なのに、物事に冷静に対処する子どもたちは異様だと思います。よかったことを絞り出すとすれば、親がいないなど様々なバックグラウンドの子が描かれているところでした。これは本である必要があるのだろうか、こんな本を出すのか、イギリスで人気と書いてあるが、子どもたちは大丈夫か、などふつふつと思ってしまいました。また、あとがきだけでなく、作者や役者のプロフィールさえ掲載されておらず、滑稽に感じました。

ハル:なるほどなぁ、と思いました。「SFホラーサスペンス‼」とうたわれてしまうと物足りないのだけど、それを児童書に落とし込むとこうなるのかなぁと思いました。でも、うーん、「なるほど」とは思うけど、「イギリスで子どもたちの人気を博した」ってほんとう? と思ってしまう。全体的に表面的で、不安定な感じがありました。これは計算だと思いますが、まとまりのない装丁や落っこちそうなノンブルの位置も絶妙で、良くも悪くも落ち着かない。おっしゃるとおり、登場人物も、挿絵を見るまで、どの子がどんな雰囲気の子なのかもなかなかつかめず。それぞれの告白タイムも、これがあってこその作品なんだとは思いますが、やや無理やりいい話にしようとした感も否めず。トレントをトイレに閉じ込めた理由も、エイドリアンとトレントの間にあった出来事も、すっきりしませんでした。

さららん:ゲーム感覚で書かれた作品だなあと思いました。主人公のランスは、常に動きつづけることで、解決方法を探します。絶対に何か方法があるはずなんだ、と周囲を探しまわると、その何かががうまく出てくる。PCやスマホゲームにはまっている世代には、ランスの判断や行動はすごく身近に感じるんでしょう。ランスには少し先が見えているのか、こんなときはこうする、という判断が早く、戦略も立てられるので仲間たちから頼りにされる。でも、ここで描写される世界には、現実感がまったくありません。例えばp178で、主人公たちは必死に泳ぎます。そのあと、「体が鉛のように重い」とひとことあるものの、息切れもしてないし、服もぬれているのかよくわからない。一事が万事、夢の中の出来事のよう。だからどんな危機的な状況になっても、私には緊迫感が感じられませんでした。でも、ゲーム好きの子どもが読むと、共感できておもしろいのかもしれません。

ハリネズミ:いや、ゲーム好きの子にとっては、こういう本よりゲームそのもののほうが絶対的におもしろいと思います。だから本は、ゲームと違うおもしろさを追求しないと。

ニンマリ:最近、選書される本は賞をとっているなど評価の定まったものが多いので、こういう新しい本を読むのは新鮮でした。ただ、ツッコミどころは非常に多いと思っています。特に大きいところで2つありまして。まず1つめは、人物描写が荒っぽすぎるということです。冒頭、主人公のクラスメイトたちの名前が次々に出てきますが、トレント、エイドリアン、チェッツについては描写が最低限あるのですが、マックとカッチャについては全然出てこないんですよね。そして、クレーター・レイクに到着した後、敵側のボスであるディガーが登場するのですが、そのシーンの描写が「ハゲの大男」のみ。これはあまりに乱暴すぎる気がしますね。作品の前段階のプロットを読んでいるような気になりました。もう1点は、このサバイバルの目的に共感できないことです。一般的には「脱出」と「助けを求めること」が第一目標になると思います。いきなり「敵のことをよく知ろう」という話になるのですが、それは脱出できないし助けも求められない状況に陥ってからではないでしょうか。p126の小窓から電話を見つけるシーンで、主人公は部屋になんとか入る努力をしないんですよね。電話せずピンチを自分の力で乗りきりたい、と思いを明かします。これ以降どんなピンチに陥っても、自分が選んだ道だよね、と突き放したい気持ちになってしまいました。電話がつながらなかったとか、どうやっても部屋に入れなかった、というプロセスがあればよいのですが。最終的に、屋根にのぼれば電波がつながって、スマホで助けを求められたし、オフィスの固定電話も使えたことがわかって、なんだったんだろう、と気が抜けました。作者が子どもたちをはらはらさせようと急ぎ過ぎて、必要な描写やプロセスをカットしてしまったような気がしてなりません。

サークルK:登場人物の個性が際立たされていない(いわゆるキャラが立っていない、という状態な)ので(挿絵を参考にしようとしてもあまり頭に入ってこなかったです)、誰にどう感情移入すればよいのか、だれが主人公なのかさえ、しばらくわからなかったです。そういう意味でほかの方も指摘されていたように、ミステリーの中で楽しめるはずの疑心暗鬼とは異質な居心地の悪さがありました。ミス・ホッシュははじめからランスを敵対視していますが、修学旅行の引率まで引き受けるくらいですからきっと上層部には受けの良いしっかりした教師というポジションがあるのかもしれません。けれど執拗な弱い者いじめをするいわゆる極端なブラックな担任になってしまっていて、この人ははじめから異星人だったのだったかも、と思いそうになりました。挿絵から分かるエイドリアンの褐色の肌や、ランスがアッパーミドルっぽい階級に属しているらしいなど人種や階級などの格差社会にも目配りあり、というサインが散見されると思いました。それだけに、作者の紹介やこの作品についての解題的な解説が最後にほしかったです。

コアラ:タイトルはおもしろそうで、小学6年生だったら絶対に手に取るだろうなと思いました。内容はぶっとんでいて、特に、エイリアンになった人を助けるために、コケを飲み込ませて、コケの中にいるかもしれないクマムシにエイリアンを食べさせるとか、とんでもないけれど、勢いで最後まで読ませてしまいます。こういう作品なんだと思って読んだので、あまり引っかかりませんでした。イギリスでも修学旅行があるんだなあと思いました。出だしで人物名がたくさん出てきて、それもマックとかチェッツとかカッチャとかカタカナで見た目が読みづらくて分かりにくかったです。最初に登場人物紹介があったら少しは馴染みやすかったのではと思いました。

シア:設定がかなり古臭いですよね。1960年代の海外SFドラマや映画のようで。私はこういうカルト的な人気を誇るSFは大好きなので問題ないのですが、これが現代に登場してしまうのかと。そして子どもに人気が出るのかと驚きました。そこはやはりイギリス。尖っていますね。「テレタビーズ」(BBC)を生み出した国はセンスが違います。この古さは子どもには新鮮なのかもしれません。そんな妙な納得感があったので、気になる点もあったのですが細かいことを気にするより気楽にいこうと、するすると読んでしまいました。くだらなさが逆に癖になるスピード感のある本でした。登場人物は少々テンプレ気味ですが、個性もありそれが強みにつながっています。エンターテインメントとしてのキャラクター性はあると思います。大変なことを乗り越えたり、隠し事をすることによって生まれる連帯感など、子どもが共感しやすい作りになっています。B級ホラー映画のような導入もおもしろいですし、クマムシというマニアックな着眼点がB級らしさを高めます。テンポが良く一気に読める本なので、とくに本が苦手な子どもや男の子に良いと思います。海外ものらしい分厚さがあるので、読破できたら達成感もあるのではないでしょうか。イギリス作品のため「ハリー・ポッター」シリーズ(J.K.ローリング著 静山社)の小ネタも散りばめられているのですが、最近の子はハリポタを読まないのでその後の読書につなげられるかもしれません。それにしても、原題は『Crater Lake』なのに邦題がダサすぎますね。表紙がかっこいいのにどうにも締まりません。ですが、そこがまたB級感溢れていて味わい深いと思いました。文章として気になったのはp194「なので、ひとつめの」と文頭に「なので」が使われているところです。口語ではありますが、まだ正しい使い方とは言えないので、子どもの語彙を増やす使命を持つ児童書には適さないと感じます。この本では使われていませんが「知れる」や「ほぼほぼ」もYAや児童書でよく見かけますので、言葉は揺れ動くものですが、子どもは言葉を本からも覚えるということを軽視してほしくないと考えています。

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しじみ71個分(メール参加):イギリスでは人気のあるシリーズとのことですが、さくさくとストーリー展開で読めてしまうからなのかなと思いました。私は、小学生時代あまり本を読まない子どもでしたが、その頃の自分だったら、気楽に読んだかもしれません。バットマンやジョーカーのこととか、あちこちみんなが知ってる「くすぐり」みたいなしかけもあって、ああ、あれね、なんてことを知ったかぶりして話したくなったりするかも。私も、子どもの頃に見たテレビシリーズを思い出して、それなりに興味を持って読みました。物語というより、子ども向けのテレビドラマとして読むととてもよく分かる気がします。頭の中で、いろいろな情景がドラマの場面として簡単に浮かび上がってきます。悪役のはげた大男、というのも「ああ、あんな人」という感じだし、ラストに主人公の家で、みんなでまったりするシーンも目に浮かぶようです。物語を読んで深く考える本ではないですが、でもたまに気楽にポテチをかじりながら読めばいいんじゃん、みたいなときにはアリなのかも。そんな印象でした。

(2022年02月18日の「子どもの本で言いたい放題」の記録)

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『ジークメーア』表紙

ジークメーア〜小箱の銀の狼

まめじか:子どものとき、斉藤さんの『ジーク 月のしずく日のしずく』(偕成社)がとても好きだったので、この本が出たときはわくわくして読みはじめました。斉藤さんはアーサー王伝説を子ども向けに書き直していらっしゃいますよね。この本では、アーサー王の要素を上手に入れていて、すらすら読み進めたのですが、作家の中にすでにあるものをパッチワークのようにつなげているというか。オリジナルの世界が立ちあがってこないように感じました。

ハル:これはシリーズものの1巻目ですよね? 最後まで読んで「やっぱり、1巻じゃ終わらないよね」と、がくっときたのですが、それでもやっぱり開幕感がありましたし、今月のもう1冊(『キケンな修学旅行』ほるぷ出版)と読み比べても、物語が豊かだなぁと思いました。セリフが少しかたく感じるところもありましたが、ジークメーアも少年とはいえ冷静で賢く、そもそも特異な存在ですし、読者とはやや距離のあるキャラクターなので、それはそれでいいのかもしれません。挿絵も独特の雰囲気がありますが、入れる位置は、あと少し後ろにしてー! と思う箇所もありました。たとえばp183の元海賊の男が再登場する場面。ハラハラしてページをめくって、先に挿絵が目に入って「あの海賊がいる」と思ったし(顔はちゃんと描き分けられているのです)、p229も箱を開ける前に狼の挿絵が目に入ってしまった。素直に文字だけを追っていればぴったりの場所に入っているので決して間違ってはいないのですが、できればちょっとずらしていただければありがたいです。しかし、つづくにしても、ラストはすごいですね。ショックとともに、続編を渇望させる、これも作戦でしょうか?

アンヌ:魔術と魔物がいる世界にマーリンとかが絡んでくる。そんな、よくあるファンタジー世界を新たに書きだすのに、相変わらず女性は魔女というか賢い女の占い師で、それ以外は宿屋のおかみさんしかいないんだなと、あまり期待せずに読み始めました。フランク王国とか、キリスト教の進行とか、歴史で習う前の小学生にはわからないことが多いのが気になりました。まあ、私自身、ローズマリー・サトクリフの物語で、イギリスにおけるローマ軍の侵略を知ったので、物語さえおもしろければ、そこらへんは理解できなくとも読めるとは思いますが。挿絵は独特で、例えばp15のイグナークの顔など、昔読んだ『ほらふき男爵の冒険』(ビュルガー編 新井皓士訳 岩波文庫)のギュスターヴ・ドレの絵のようなグロテスクさがあって、怖いもの見たさの興味がわきました。物語全体は何か盛り上がりに欠けるような気がするんですよね。続き物だとしても、第1巻を1つの世界として楽しめないといけないと思うのですが、もう少し読者が主人公に感情移入できるような場面がほしい気がします。最後の冒険場面でも、例えば魔物はあまり怖くないし、閉じ込められていた場所の謎解きとか、もっと書き込めないのかとも思いました。手に入った小箱の狼とかについての記述もあまりなくて終わってしまうし、ラストを盛り上げてこそ、次回に繰り広げられる世界への期待がわくのじゃないかと思いました。

エーデルワイス:斉藤洋はさすがうまいストーリーテラーだと思いました。おもしろく読みました。斉藤洋氏が20年ほど前に盛岡にいらしたことがあります。講演会場の小学校の体育館の舞台に立たれると、舞台の端から端ヘと左右何度も移動されながらお話している姿が思い出されました。ストーリーの中では、村に11歳以上の子どもがいない。この解明に続編を期待しています。キリスト教にも触れていますが、多神教の方が柔軟という印象を受けました。

雪割草:書き方や表現、トーンはどちらかといえば好きかなと思います。世界観があるし、小箱の中に狼などエンディングが不思議で、続きがあるなら読んでみたくなりました。ただ、世界観は少々ベタな感じで、登場するのが男性ばかりなので、続きでは女の人にも光を当てて描いてほしいです。人のあたたかさもちゃんと描かれていると思いました。

ルパン:急いで読んだからかもしれないんですけど、全然お話の世界に入っていかれないまま終わりました。長編の1巻だとは知らずに読んだので、ページが終わりかけていても全然クライマックスが来なくて、「え? だいじょうぶ?」と心配になりながら読み、最後は「あれ、これで終わり?」というキツネにつままれたような感じでした。おとなだから読み終わってから、「まあ、斉藤洋だし、『西遊記』みたいにこれから続くんだろう」と思いましたが、子どもはわからないんじゃないですか? いろいろ伏線みたいなことも散りばめられていますが(11歳以上の子どもがいない、とか)、そういったことの理由も明かされないままで、不完全燃焼でした。せめて「続く」とか書いてあげてほしい。

ハリネズミ:私はエンタメだと思って読みました。斉藤さんは、子どもがおもしろいと思う本はどんな本か、ということを調査し、研究してそのセオリーに則って書いている部分もあるように思います。1巻目なので山場はまだこの先にあるのでしょうね。一神教と自然神の対立などが描かれているのも、私はおもしろいと思いますが、今後その辺ももっと描かれてくるのでしょう。斉藤さんがどのように考えているのか、続編が楽しみです。

ニンマリ:佇まいがとても魅力的な小説ですね。イラストも素敵で、世界名作全集を想起させます。1巻はまだ序章で、これから物語が大きく展開していきそうですね。今のところジークメーアは母とランスの言うとおりに動き、受け身なので、主人公への感情移入はまだ薄いです。いつか、ジークメーアが自分の意思で羽ばたいたときに、魅力が高まるのでしょう。個人的には2巻は気になるけれど、とても待ち遠しいというほどではないです。その理由はやはりジークメーアの心情がわかりづらいところにあるかと思います。とても静かな物語なんですよね。ジークメーアに相棒のリスでもインコでも犬でも、何かいて、話しかけることで気持ちがわかったりとか、お茶目な一面が見えたりとかするとぐっと引き込まれるかと思うのですが……。そうするとエンタメになってしまって、この佇まいが台無しになるのかもしれませんね。

西山:斉藤洋って、こういう文章だったっけと驚きました。雑すぎやしないかと……。例えば、p100、半弓が手元にすでに城にあるというのは、ある種のギャグかと思ったくらいです。ふつう、そういうアイテムを1つ1つ手に入れていく冒険が展開されるのではないかと思ったのですが、あれもこれも「実は家にありましてん」という漫才台本になりそうと勝手に笑ってしまいました。ていねいに書かれた本を読みたいなぁというのが読了後一番に感じたことでした。

コアラ:装丁が、ヨーロッパの中世のファンタジーという感じでとてもいいと思います。挿絵も、ヨーロッパの昔話やファンタジーの挿絵っぽくて、よく見ると、左下にドイツ語で挿絵タイトルが書かれていて、右下には画家のイニシャルが入っているんですよね。凝っているなと思いました。ザクセンが舞台だから、ドイツ語で書かれているとそれっぽくていい感じだと思いました。中世のドイツを舞台に、アーサー王伝説を組み合わせたファンタジーで、その設定だけでもワクワクするし、途中まではおもしろく読みました。ただ、最後のほうで、なんだか煙に巻かれたような、すっきりしない、腑に落ちないような形になって、それが残念でした。「洞窟」というのが、大ムカデの口、あるいは腹の中、というのは、ちょっと納得できないし、それより何より、ランスはずっと、「小箱の銀の狼」というのは馬だと言っていたんですよね。p99の最終行からp100の1行目にかけて、「『小箱の銀の狼』という名の、たぶん馬が、どこかにいる」と言っています。ところが、p232の後ろから3行目「小箱を見た瞬間、わたしは、この中に狼がいると直感した。だから、さほどおどろきはしなかった」などと言っているんです。「馬」と言っていたのはどうなったんだと、すっきりしない感じが残りました。それ以外は、おもしろかったです。シリーズ物のようなので、続きが楽しみです。

ハリネズミ:このタイトルとサブタイトルは、続きがあることを想定させていますよね。

シア:オビに「新しい冒険の物語がはじまる」とありますし、偕成社のWebサイトにも「ジークメーア1」と題名の上に書いてあります。だから続くと思いたいのですが、この著者の『ルーディーボール エピソード1 シュタードの伯爵』(斉藤洋著 講談社)が2007年のエピソード1以降音沙汰なしなので、売れ行き次第なところがあるのでしょうか。この本を初めて見たときに、『ジーク 月のしずく日のしずく』の続きだと思いまして、『ジークⅡ ゴルドニア戦記』の2001年からの超ロングパスで続編を書くなんて、児童書界のアイザック・アシモフか! と喜んだのですが、全く違いました。しかし、挿絵も描いている人は違いますが『ジーク』に似ている感じがしますし、『テーオバルトの騎士道入門』(斉藤洋著 理論社)に「ランス」という名の従者が出てくるので、最近流行りのクロスオーバー作品かなと混乱しながら読みました。そのため、この本自体にはあまり大きな感動はありませんでした。最後の川の辺りの描写が読みにくいというか、いまいち想像しにくく、しかも肝心のラストも別にそこまで盛り上がらず、往年の輝きがなくなってきてしまっているようにも感じました。久しぶりに会った方がお爺さんになっていたような感覚です。個人的に大好きだった2シリーズと勘違いしたので、期待値が大きすぎました。とはいえ、最近はアーサー王伝説を知らない子どもが多いので、その辺りを知るのに良い本ではないかと思います。この方の本はどれもおもしろいですし、とくにファンタジーは最高にクールなので、中高生にも薦めやすい本です。p21、p22に「さほど」という言葉が集中的に3か所も出てくるのでここは訂正してほしいと思いました。

さららん:たとえば、洞窟の中に住む主人公は、満潮のときは泳いでいかないと外には出られません。そんなときのために、乾いた服を別の場所に用意しておく、といった描写などに、手触りのある世界を感じました。物語の構成はクラシックですが、マンネリとは思わなかったです。キリスト教、アーサー王伝説についての知識がちりばめられ、その中で登場人物たちもしっかり動いているように思えました。例えば新しい弓をもらった主人公は、古い弓をどう処理するのか。作者はそこまできちんと書いています。母親に対する深い信頼、ランスへの不信感などが、言葉というより、むしろ主人公の行動で表されているため臨場感があります。なお文章は、少し時代劇っぽい感じがありました。例えばp198「ジークメーアはそう思った」までで、心の変化を数行かけて説明したあと、「川で魚がはねた」と、突然短い風景描写を入れて、章を締めくくるあたりなどです。テレビドラマでもよく場面転換に使われる手ですが、作者はそこで、間を取りたいのかもしれませんね。

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しじみ71個分(メール参加):日本人作家による、ヨーロッパを舞台にした時代劇という点におもしろさを感じました。未読ですが、アーサー王物語シリーズを先に書いておられるので、そのスピンオフというところなのでしょうか。ジークメーアの暮らしぶりや能力を描き、続いて冒険物語がサクサクと展開していくので、するすると読めました。ですが、時代物の典型のような話運びなので、斬新さや深い感情移入などはなかったという印象です。まだシリーズ第1巻のせいもあるかとおもいます。何より一番気になったのは、話の終わりどころでした。えー、狼見つけただけで終わっちゃうの?という感じで、もう一つ狼との関わりを語る逸話が欲しかったなぁと思ってしまいました。振り返ると、そこまでにあまり盛り上がりが足りなかったということなのかな…すんごい大冒険をして、苦労して狼を得たという感じがあまりしなかったのでした。でも、とにかく第2巻以降に期待というところです。挿絵はとてもいいと思いました。ヨーロッパの古い銅版画をおもわせるようなイメージは好もしかったです。

(2022年02年18日の「子どもの本で言いたい放題」の記録)

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『ダーシェンカ』表紙

ダーシェンカ 愛蔵版

『ダーシェンカ 愛蔵版』(NF)をおすすめします。

フォックステリアのダーシェンカが、「片手にひょいと載せられるほどの、白い小さなかたまりだった」時から、歩けるようになっても「足を一本見失ってしまい、四本であることをすわりなおして確認しなくてはならな」かったり、なんでもかんでも手当たり次第にかんでしまったり、おしっこの水たまりをあっちこっちに作ったりしながら成長していく過程を、味のある文章と、愛情あふれる写真と、ゆかいなイラストで描写した本。ヒトラーとナチスを痛烈に批判した作家の、日常生活や人となりを知るうえでもおもしろい。

原作:チェコ/13歳から/犬、ペット

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2021」より)

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『ネコとなかよくなろうよ』表紙

ネコとなかよくなろうよ

『ネコとなかよくなろうよ』(NF絵本)をおすすめします。

ネコが飼いたいパトリックは、ネコのことならおまかせ、というキララおばさんのところへやってくる。そしてさまざまなネコの種類についての説明を聞き、古代エジプトから現代に至るまでの人びとの、ネコとのつき合い方の変遷を知り、ネコが登場する絵やお話について教えてもらい、ペットとして飼うための秘訣を話してもらう。自分もネコを飼っていた作者が、キララおばさんの姿を借りて、子どもに知っておいてほしいネコについての知識のあれこれを、楽しい絵とともにわかりやすく伝えている絵本。

原作:アメリカ/7歳から/ネコ、古代エジプト

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2021」より)

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『父さんが帰らない町で』表紙

父さんが帰らない町で

『父さんが帰らない町で』(読み物)をおすすめします。

12歳の少年ウェイドの父親は、戦争で出征したまま5年たっても戻ってこない。母親とウェイドと兄ジョーの貧しい一家は、金持ちの息子ケイレブのからかいやいじめの対象だ。そんな時、村にやってきた移動遊園地の「恐怖の館」に陳列されている「最後の兵士」を見て、ウェイドは父親と重ね合わせる。ところが、夜中にその「最後の兵士」が現れてジョーに何かをささやいたせいか、ジョーは、移動遊園地を手伝いながら父親を探し、自分も兵士になると言いだす。スリリングな展開で読ませる成長物語。

原作:イギリス/11歳から/戦争、兄弟

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2021」より)

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『〈死に森〉の白いオオカミ』表紙

〈死に森〉の白いオオカミ

『〈死に森〉の白いオオカミ』(読み物)をおすすめします。

村には、川向こうの森を丸裸にしてはいけない、という言い伝えがあったのに、人口が増えて農地が足りなくなると、男たちは向こう岸にわたり森を焼き払ってしまう。そこは〈死に森〉と呼ばれるようになり、村人たちを襲うオオカミが次々に現れる。リーダーの巨大な白いオオカミは森を守っていた魔物なのか? 子どものエゴルカが一部始終を見届け、村を救う。ロシアの伝承を下敷きにし、不思議な人びとも登場する、土の香りがする物語。自然と人間の関係を描いた象徴的な寓話としても読める。

原作:ロシア/11歳から/オオカミ、伝説、自然

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2021」より)

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『オオカミの旅』表紙

オオカミの旅

『オオカミの旅』(読み物)をおすすめします。

親に守られ、兄弟と競い合いながら子ども時代を過ごしたオオカミのスウィフトは、別の群れに家族を殺されてひとりになってしまう。生存をかけてさまよう間に何度も危険な目にあうが、やがてとうとう自分の居場所を見いだして家族が持てるまでに成長する。ノンフィクションではないが、オオカミの生態をうかがい知ることができるし、巻末には物語のモデルになったオオカミの紹介や、シンリンオオカミの特徴についての説明もある。波乱に満ちたサバイバル物語としても、おもしろく読むことができる。

原作:アメリカ/11歳から/オオカミ、旅、 サバイバル

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2021」より)

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『クリスマスの小屋』表紙

クリスマスの小屋〜アイルランドの妖精のおはなし

『クリスマスの小屋』(読み物)をおすすめします。

捨て子だったオーナは長じて働き者になったが、自分の家はなく家族はいない。飢饉に襲われたあるクリスマスイブのこと、年老いたオーナは、食べものは子どもたちに譲ろうと自分は死を覚悟し、丘に登る。すると小さな妖精たちがやってきて、小屋を建ててくれる。それからは、ホワイトクリスマスになるたび、その小屋が孤独な者、悲しみを抱えた者を受け入れてくれるようになったという。すぐれたストーリーテラーが、幼い頃に乳母から聞いた昔話を再話している。挿し絵も幻想的な雰囲気を伝えている。

原作:アメリカ/9歳から/クリスマス、妖精、昔話

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2021」より)

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『ウサギとぼくのこまった毎日』表紙

ウサギとぼくのこまった毎日

『ウサギとぼくのこまった毎日』(読み物)をおすすめします。

先生から預かったウサギのユッキーのせいで、トミーの一家は大騒ぎ。俳優のお父さんが仕事をもらえそうだったのに、ユッキーが主役俳優のズボンにおしっこをひっかけてダメになったり、トミーがユッキーを散歩させていたら犬たちに囲まれてしまったり、庭でユッキーとお茶会をしていた妹が風邪をひいてしまったり……。でも、そのユッキーが逃げ出してトミーが必死で探し出したときから、一家にもなんだか運が向いてきた。厄介なウサギを抱えた少年と一家の日常を、ユーモアたっぷりに描く楽しい物語。

原作:イギリス/9歳から/ウサギ、ペット、 家族

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2021」より)

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『せんそうがやってきた日』表紙

せんそうがやってきた日

『せんそうがやってきた日』(絵本)をおすすめします。

おだやかな日常の暮らしのなかに、戦争がやってきた。女の子はひとりで逃げる。そしてようやく難民キャンプにたどりつくが、そこにも戦争が追いかけてきて、女の子の心を占領してしまう。ふと窓の向こうを見るとそこは学校。女の子は入ろうとするが、いすがないと先生に拒絶されてしまう。ところが女の子が小屋で寝ていると、学校にいた子どもたちがいすを持ってきて、一緒に学校へ行こうと誘ってくれた。オリジナリティのある視点で、戦争が子どもの心身をむしばむ様子と、子どもたちが助け合う姿を伝えている。

原作:イギリス/7歳から/戦争、難民、学校、 友だち

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2021」より)

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『ステラとカモメとプラスチック』表紙

ステラとカモメとプラスチック〜うみべのおそうじパーティー

『ステラとカモメとプラスチック』(絵本)をおすすめします。

おばあちゃんと海辺で暮らすステラは、カモメのミューと仲よしだ。ある日ミューの元気がないので獣医さんに診てもらうと、おなかにプラスチックが詰まっていることがわかった。ステラは、鳥や動物がプラスチックゴミの被害を受けないように、まわりの人に声をかけ、プラスチック包装をしているチョコレート会社に手紙を出し、みんなでおそうじパーティーをすることに。カモメを登場させることによって、小さな子どもにもプラスチックゴミの問題をわかりやすく伝えている。巻末に補足説明もある。

原作:イギリス/3歳から/海、プラスチック、カモメ、海浜清掃

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2021」より)

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『ありがとう、アーモ!』表紙

ありがとう、アーモ!

『ありがとう、アーモ!』(絵本)をおすすめします。

アーモ(おばあちゃん)が作っている夕ごはんのシチューのにおいがあたりにただようと、トントンとドアをたたく音。やってきたのは男の子。つづいて、おまわりさん、ホットドッグ屋さんにタクシーの運転手さん、お医者さん、絵かきさん……しまいに市長さんまでやってきた。みんなにシチューをふるまったアーモのお鍋は、夕ごはんの時には空っぽに。でも、うれしいサプライズが待っていた。コラージュを用いた楽しい絵とお話が、近所同士の思いやりを伝えている。おまわりさんや市長さんが女性なのも新鮮。

原作:アメリカ/3歳から/シチュー、近所づきあい

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2021」より)

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『戦場の秘密図書館』表紙

戦場の秘密図書館〜シリアに残された希望

『戦場の秘密図書館』(NF)をおすすめします。

内戦下のシリア南部にあるダラヤは、政府軍に完全封鎖されて激しい空爆を受け、食料や物資が不足していた。そのなかで、若者たちは破壊された家や瓦礫のなかから本を集めて地下に秘密図書館を作り、人びとの心に希望の灯を点していく。英国人ジャーナリストによるドキュメンタリーを、毎日新聞の記者が子ども向けに編集し訳している。内戦下にあるシリアの状況がリアルに伝わるだけでなく、本や図書館の本質的な役割とはなにかを考えさせてくれる。「頭や心にだって栄養が必要」という言葉がひびく。

原作:イギリス/8歳から/シリア 図書館 内戦 本

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2020」より)

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『ミイラ学』表紙

ミイラ学〜エジプトのミイラ職人の秘密

『ミイラ学』(NF絵本)をおすすめします。

王室御用達のミイラ職人の一家を主人公にして、王妃の父イウヤの遺体をミイラにしていく様を、絵と文章で表現した絵本。どんな材料や器具が使われ、どのような手順でミイラに加工されていったか、葬儀はどのように行われたのか、などがとても具体的に紹介されている。後書きには、ミイラ学の歴史や、イウヤとその妻チュウヤのミイラ(写真もある)が発見されたときの様子などが記されていて、興味深い。発掘調査にかかわる技術画を専門にしていた著者の、古代エジプト風の絵も趣をそえている。

原作:アメリカ/8歳から/古代エジプト ミイラ 葬儀

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2020」より)

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『プラスチック プラネット』表紙

プラスチックプラネット〜今、プラチックが地球をおおっている

『プラスチックプラネット』(NF絵本)をおすすめします。

身の回りに氾濫するプラスチック製品について考えてみようと呼びかける絵本。プラスチックとはなにか、プラスチックの利点と問題点、暮らしのなかでどう使われているか、どんなふうに普及してきたか、マイクロプラスチックやマイクロビーズについて、プラスチックゴミの野生生物や人体への影響などを、イラストや写真を交えてさまざまな観点から解説し、プラスチックごみがあふれる今、私たちになにができるかという具体的な案も提示している。見開きごとに1トピックになっていて、わかりやすい。

原作:イギリス/8歳から/プラスチック ごみ 地球

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2020」より)

 

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『映画ってどうやってるくるの?』表紙

映画ってどうやってつくるの?

『映画ってどうやってつくるの?』(NF絵本)をおすすめします。

映画はどうやって制作されているのかを、子どもにもわかるように概説した絵本。まずモーション・キャプチャーという技法の紹介で読者を引きつけておいて、19世紀に写真が発明されると、今度はその写真を動かす方法が考案された歴史を伝えていく。撮影前から撮影後までの過程でどのような仕事をどのような人たちが担っているのか、アニメーション映画はどう作るのかなどについても述べられている。音作りやソーマトロープなどを体験してみるページや、考えてみることを促すページもあり、楽しみながら学べる。

原作:オランダ/8歳から/映画 撮影 アニメーション

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2020」より)

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『飛ぶための百歩』表紙

飛ぶための百歩

『飛ぶための百歩』(読み物)をおすすめします。

5歳で失明したルーチョは、叔母に連れられてよく旅行やハイキングに出かけるが、コンプレックスも自尊心も人一倍強く、善意の援助を拒否して周囲とぶつかることも多い。一方、山小屋の娘のキアーラは、人づき合いが苦手だ。ある日一緒にワシの巣を見に行ったルーチョとキアーラは、密猟者からひなを守ろうとすることでぎこちなさがほぐれ、真の自分を見せ合えるようになる。居場所をうまく確保できない子どもたちの出会いと衝突、盲目の人が感じる世界、密猟者の問題など要素がいろいろあって、ぐんぐん読ませる。

原作:イタリア/12歳から/盲目 ワシ 山 密猟

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2020」より)

 

 

 

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『ほんとうの願いがかなうとき』表紙

ほんとうの願いが かなうとき

『ほんとうの願いがかなうとき』(読み物)をおすすめします。

父親は拘置所、母親は育児放棄という環境で、何事にも自信が持てなくなっていた少女チャーリーは、姉とも離れ、母親の姉夫婦のところでしばらく暮らすことになる。最初はすべてが気に入らずすぐにカッとなっていたチャーリーだが、包容力のある伯母夫婦や転校先の学校で出会った忍耐強いハワードに助けられ、自分になついてくれた野良犬のウィッシュボーンの存在を支えにして変わっていく。孤独な少女がしだいに心を開き、心のありどころや居場所を見つけていくまでの様子がていねいに温かく描かれている。

原作:アメリカ/10歳から/犬 友だち 願い

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2020」より)

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『この海を越えれば、わたしは』表紙

この海を越えれば、わたしは

『この海を越えれば、わたしは』(読み物)をおすすめします。

主人公のクロウは、赤ちゃんの時に流れ着いた島で、画家のオッシュに拾われ育てられている。しかし12歳になったクロウは、自分はどこから来たのか、なぜひとりで小舟に乗っていたのか、この島に住む人たちがなぜ自分を避けているのか、などを知りたいと思うようになる。身の回りの謎を解きながら自分のルーツをつきとめようとする少女の物語に、ハンセン病への偏見がからむ。世間から離れて生きようとするオッシュや、近所でひとり暮らしをするミス・マギーが、血縁の家族以上にクロウを思いやる姿が温かい。

原作:アメリカ/10歳から/ルーツ ハンセン病 非血縁の家族 海

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2020」より)

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『希望の図書館』表紙

希望の図書館

『希望の図書館』(読み物)をおすすめします。

舞台は1946年のアメリカ。母親が死去した後、父親と南部のアラバマから北部のシカゴへ引っ越してきたアフリカ系の少年ラングストンは、学校では「南部のいなかもん」とバカにされ、いじめにもあう。そんなとき、誰もが自由に入れる公共図書館を見つけ、そこで自分と同名のアフリカ系の詩人ラングストン・ヒューズの作品に出会い、その生き方にも触れる。本を窓にして世界を知り、しだいに自分の居場所や心のよりどころを見つけていく少年の姿が生き生きと描かれている。随所でヒューズの詩が紹介されているのもいい。

原作:アメリカ/10歳から/図書館 名前 詩 いじめ

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2020」より)

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『ヤナギ通りのおばけやしき』表紙

ヤナギ通りのおばけやしき

『ヤナギ通りのおばけやしき』(読み物)をおすすめします。

ハロウィンの夜の楽しい物語。リリーとビリーは、小鬼に変装してお菓子をもらいに、ヤナギ通りの家をまわることにする。ところが誰も住んでいないはずの「おばけやしき」に明かりがついているではないか。ふたりがチャイムを鳴らすと、中から出てきたおじいさんが、子どもたちを招き入れ、手品を見せてくれる。そのうち他の家の子どもたちもやってきて、家の中はいっぱいに。やがて、子どもを探しにやってきた親たちも加わり、パーティが始まる。ふんだんに入っている絵にも味がある。

原作:アメリカ/6歳から/ハロウィン 手品 パーティ

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2020」より)

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『ねこと王さま』表紙

ねこと王さま

『ねこと王さま』(読み物)をおすすめします。

主人公の王さまは、友だちのネコと、12人の召使いと一緒に立派なお城に暮らしていた。ところがある日、火を吹くドラゴンのせいでお城が火事になり、召使いたちはやめていき、王さまも小さな家に引っ越すことに。王さまはひとりではなにもできないので、有能なネコにひとつひとつ教わって庶民の生活の知恵を身につけていく。王さまがロイヤルとかキングと名のついたものにこだわるのも、となりの人たちとの交流も、最後はコーラのボトルでドラゴンをやっつけるのもゆかい。文・絵ともにユーモアたっぷりな展開が楽しめる。

原作:イギリス/6歳から/王さま ネコ ドラゴン

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2020」より)

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『ちいさなタグボートのバラード』表紙

ちいさなタグボートのバラード

『ちいさなタグボートのバラード』(絵本)をおすすめします。

ノーベル文学賞を受賞した詩人がソ連の児童向け雑誌に発表した詩を、国際アンデルセン賞を受けた画家が絵本に仕立てた作品。港で他の船の水先案内をしなければならないタグボートが主人公。外国から来る船を見て、どこか遠くへ行きたい願望はつのるものの、自分は港にとどまって役目を果たさなくてはならないという切ない思いをうたっている。絵の構図や場面ごとの変化、想像が豊かにはばたいていく展開に、画家の力量が発揮されている。中高生が読めば、もう一段深い味わい方もできるだろう。

原作:ロシア/8歳から/タグボート 海 あこがれ

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2020」より)

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『アンネのこと、すべて』表紙

アンネのこと、すべて

『アンネのこと、すべて』(NF)をおすすめします。

アンネは、ドイツに生まれたが、ヒトラーの脅威にさらされてオランダに移住する。そのオランダにもナチスの影が迫ってきて、隠れ家に身を潜める。しかし、2年後に見つかって強制収容所に連行され、命を落とす。そうした生涯を、写真とイラストをふんだんに使って紹介している。随所にはさまれたカラーのハーフページには、歴史的な事実や、隠れ家の見取り図や、オランダのナチについての解説など付随する情報が載っている。アンネの生涯は、世界じゅうで迫害されている子どもの象徴として記憶にとどめておきたい。

原作:オランダ/10歳から/アンネ・フランク ホロコースト 隠れ家

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2019」より)

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『私はどこで生きていけばいいの?』表紙

私はどこで生きていけばいいの?

『私はどこで生きていけばいいの?』(NF写真絵本)をおすすめします。

世界の難民や避難民の子どもたちの望みや不安を、写真と簡潔な文章で紹介する絵本。写真は、国連難民高等弁務官事務所が提供するもので、クロアチア、ハンガリー、ルワンダ、レバノン、イラク、南スーダン、ヨルダン、ギリシャ、ミャンマー、ニジェールなどで撮影されている。「『こんにちは。ここで安心して暮らしてね』と、笑顔でむかえてくれる人がいますように。あなたもそのひとりでありますように。」という、最後の場面に添えられた言葉に、本書の意図が集約されている。

原作:カナダ/8歳から/難民 子ども 旅

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2019」より)

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『しぜんのかたちせかいのかたち』表紙

しぜんのかたち せかいのかたち〜建築家フランク・ロイド・ライトのお話

『しぜんのかたち せかいのかたち』(NF絵本)をおすすめします。

ライトは、幼年時代に積み木で遊ぶことによって「形」の秘密に気づき、自然の中で過ごすことによって「形」の不思議に魅せられた。そして建築家となって、自然を切り離すのではなく自然に溶け込む建物をつくりだした。後年スキャンダルにも見舞われるが、この絵本では幼年時代・少年時代を描くことによってポジティブな面に光を当て、彼がどのような建築をめざしたかを、味わいの深い絵とともに提示している。作中に描かれた建築物が何かを説明するページもある。

原作:アメリカ/8歳から/建築 自然 形 伝記

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2019」より)

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M.G.ヘネシー『変化球男子』

変化球男子

『変化球男子』(読み物)をおすすめします。

シェーンは、女性の体をもって生まれたが自分は男性だと思い、男子として転校してきた今の学校では野球のピッチャーとして活躍している。だがある日、転校前は女子だったことがばれそうになる。シェーンを敵視するニコや、無理解な父親がつくる壁も厚い。でも親友のジョシュがいつも隣にいるし、母親は理解しようと努力してくれるし、トランスジェンダーの先輩アレハンドラは励ましてくれる。自分の存在に違和感を持つ子どもが、試練をのりこえていく様子が生き生きと描かれている。

原作:アメリカ/10歳から/野球 トランスジェンダー 親

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2019」より)

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『ふたりママの家で』表紙

ふたりママの家で

『ふたりママの家で』(絵本)をおすすめします。

「わたし」の家は、ふつうとはちょっと違う。医者のミーマと救急救命士のマーミーというふたりの母親に、それぞれ肌の色が違う子どもが3 人。だれも血はつながっていないけれど楽しい家族だ。近所の人に家族の悪口を言われて子どもが脅えると、母親たちは「あの人は(中略)わからないものが怖いの」と話す。養女として迎えられ愛情たっぷりに育ててもらった「わたし」が、ふたりの母親と弟、妹と過ごしたすばらしい日々を語る。多様な家族の形を知るきっかけとなる作品。

原作:アメリカ/8歳から/家族 母親 養子

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2019」より)

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『かあちゃんのジャガイモばたけ』表紙

かあちゃんのジャガイモばたけ

『かあちゃんのジャガイモばたけ』(絵本)をおすすめします。

戦争するふたつの国の境に住む母親は、ふたりの息子とジャガイモ畑を守るために高い塀を築き、日常の暮らしを続ける。ところが大きくなった息子たちは塀の外を知りたくなって出ていき、やがて兄は東の国の将軍に、弟は西の国の司令官になってしまう。そしてついに両国の軍隊は母親の畑にも攻め入るのだが、賢い母親はジャガイモを使って戦争をやめさせる。戦争と平和について考える種をくれる作品。1982 年に出た『じゃがいもかあさん』の、版元と訳者をかえたカラー版。

原作:アメリカ/8歳から/母親 戦争 平和

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2019」より)

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『子ネコのスワン』表紙

子ネコのスワン

『子ネコのスワン』(絵本)をおすすめします。

ママや兄弟をなくしてひとりぼっちになった子ネコが、雨に打たれたり、犬にほえられたり、自転車にひかれそうになったり……。木に登っておりられなくなった後に施設に保護され、やがてかわいがってくれる一家に迎えられ、スワンという名前もつけてもらう。スワンは落ち着いた環境のなかで、好奇心いっぱいに歩き回り、家族とのつき合い方を学んでいく。幸せな終わり方にホッとできるし、スワンのさまざまな姿を描く絵もあたたかい。人間に置き換えて読むこともできる。

原作:アメリカ/6歳から/ネコ 家族 孤児

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2019」より)

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『きのうをみつけたい!』表紙

きのうをみつけたい!

『きのうをみつけたい!』(絵本)をおすすめします。

昨日がとても楽しかったと思う男の子が、なんとかして昨日に戻りたいと考える。光より速く動けば昨日に戻れるのかな? でも、それにはどうしたらいい? 男の子がたずねると、おじいちゃんは自分の体験を話し、これからだって楽しい日は来るよ、と教えてくれる。そしてふたりで「きょうの ぼうけん」に出発する。タイムマシンやワームホールまで登場させる科学的な思考と並んで、絵にはふしぎな想像の世界のあれこれが描かれている。じっくりながめるだけでも楽しい。

原作:イギリス/6歳から/時間 祖父 楽しい記憶

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2019」より)

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『このねこ、うちのねこ!』表紙

このねこ、うちのねこ!

『このねこ、うちのねこ!』(絵本)をおすすめします。

旅に出た白ネコが、とある村にたどりつく。そして、村の7 軒の家を次々に回って食べ物をもらい、家ごとに別の名前をつけられる。ある日、この村に役人がやってきて、ネズミ退治のためにどの家でもネコを飼うように法律で決まったと伝える。村人たちは口々に、うちは○○という名のネコを飼っていると言うのだが、役人はネコを見せろと迫る。困った村人たちは同じネコだとばれないように一計を案じて……。原書は1979 年刊だが、お話も絵もユーモラスで楽しい。

原作:アメリカ/3歳から/ネコ 計略 ユーモア 名前

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2019」より)

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『カタカタカタ』表紙

カタカタカタ〜おばあちゃんのたからもの

『カタカタカタ』(絵本)をおすすめします。

女の子のおばあちゃんは、昔ながらの足踏みミシンでいろいろなものを作ってくれる。でもある日、女の子の劇の衣装を縫っているときにミシンが故障して、修理屋でも直せない。それでも、おばあちゃんは夜遅くまでかかって、手縫いで衣装を間に合わせてくれた。「ほんとうに すごいのは カタカタカタじゃなくて、おばあちゃんだったのね。」という言葉がいいし、壊れたミシンが、テーブルにリフォームされる最後にも納得できる。ユニークな絵と文で、おばあちゃんと女の子のあたたかい交流を伝えている。

原作:台湾/3歳から/ミシン 祖母 リフォーム

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2019」より)

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『マララのまほうのえんぴつ』表紙

マララのまほうのえんぴつ

『マララのまほうのえんぴつ』(NF絵本)をおすすめします。

誰かが声を上げないと、と感じたとき、パキスタンの少女マララは、「まって……、だれかじゃなくて、わたし?」と、ネットでの発信を始める。その後銃撃されて瀕死の重傷を負ったマララは、回復するとさらに歩みを進める。そして、小さいころ夢見ていた魔法の鉛筆は、自分の言葉と行動のなかにあるのだと確信する。ノーベル平和賞を受けたマララの本はたくさん出ているが、この絵本は彼女が自分の言葉で文章をつづっている。流れもスムーズでわかりやすい。

原作:アメリカ/6歳から/マララ、魔法、言葉、学ぶ権利

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2018」より)

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『すごいね!みんなの通学路』表紙

すごいね! みんなの通学路

『すごいね! みんなの通学路』(NF写真絵本)をおすすめします。

他の国の子どもたちは、どんな道を通って学校に行くのかな? スクールバスに乗る子もいるけど、ボートや犬ぞりや、ロバとか牛に乗って通っている子もいるよ。ちゃんとした道や、ちゃんとした橋がないところを通っていく子もいるね。水を入れたたらいや机をかついで行く子もいる。国際慈善団体で働いてきた著者が、日本、フィリピン、カンボジア、中国、ミャンマー、ガーナ、ウガンダ、ハイチ、コロンビアなど、世界各地の通学する子どもたちを写真で紹介する絵本。

原作:カナダ/6歳から/学校 通学路 子ども 写真絵本

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2018」より)

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『ゴードン・パークス』表紙

ゴードン・パークス

『ゴードン・パークス』(NF絵本)をおすすめします。

『ヴォーグ』や『ライフ』で活躍した黒人カメラマンを紹介する絵本。貧困や差別によって何度も希望を打ち砕かれそうになったゴードンは、逆境の中で貯めたお金で中古カメラを買い、人生を変えていく。カメラマンとしてだんだんに仕事が増えてきたある時、何を撮ってもいいと言われたゴードンは、差別を受けている側の人たちを次々に撮る。ビル清掃員のエラ・ワトソンが、アメリカの国旗とモップを背にほうきを持って立っている写真は、ゴードンの代表作のひとつだ。セピアを基調にした絵がいい。

原作:アメリカ/6歳から/カメラ、アメリカ、人種差別

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2018」より)

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『ぼくたち負け組クラブ』表紙

ぼくたち負け組クラブ

『ぼくたち負け組クラブ』(読み物)をおすすめします。

6年生のアレックは、大の本好き。授業も聞かずに本を読むので、しょっちゅう先生に注意されている。放課後プログラムで、ひとりで好きな本を読むために「読書クラブ」を作ることにしたアレックは、誰も来ないように、わざと「負け組クラブ」という名をつけて登録。しかし、次々にメンバーが増え、思いがけないことが起こる。アレックは、いやでもさまざまな大人や子どもとかかわりを持つことになり、世界が開けていく。いろいろな本が登場するのも楽しい。

原作:アメリカ/10歳から/本、読書、放課後

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2018」より)

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『テディが宝石を見つけるまで』表紙

テディが宝石を見つけるまで

『テディが宝石を見つけるまで』(読み物)をおすすめします。

吹雪の中で迷子になったふたりの子どもを見つけて助けたのは、テディという犬だった。テディは、人間の言葉が話せて、だれもいない家に住んでいる。言葉は、今はいない飼い主の、詩人のシルバンさんから習ったという。雪に閉ざされた家の中で、「きみは宝石を見つけるだろう」と言い残していなくなったシルバンさんについて、テディは語る。やがて道路が復旧し、テディは「宝石」を見つける。犬が語るという視点で描かれたユニークな物語。

原作:アメリカ/10歳から/犬 吹雪 子ども 詩

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2018」より)

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『この本をかくして』表紙

この本をかくして

『この本をかくして』(絵本)をおすすめします。

町が空爆されて避難する途中で、ピーターが死ぬ間際の父親から託されたのは1冊の本。それは破壊された図書館から借りていた本で「金や銀より大事な宝だ」という。鉄の箱に入った本は重たくて、抱えて高い山を登るのは無理だ。ピーターはやがてその本を大木の根元に埋めて隠し、さらに先へと進む。移住先で大人になったピーターは、戦争が終わると大木の根元から本を掘り出し、故郷の町に戻って、新しく建てられた図書館にその本を置く。本や図書館について考えさせられる作品。

原作:オーストラリア/6歳から/本 図書館 戦争

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2018」より)

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『ぽちっとあかいおともだち』表紙

ぽちっとあかいおともだち

『ぽちっとあかいおともだち』(絵本)をおすすめします。

シロクマの子ミキが雪原を走っていくと、むこうにぽちっと赤いものが……。近寄ってみると、それは赤いコートを着た女の子だった。ミキは、女の子と遊んだり、女の子がなくした手袋を探してあげたりして、一緒に楽しい時間を過ごす。やがて女の子はお母さんと出会い、ミキも母クマと出会うという幸せな終わり方がいい。マックロスキーの『サリーのこけももつみ』を思わせる展開だが、本書は白と赤と青を基調とした絵が印象的で、リズミカルな訳もいい。

原作:イギリス/3歳から/シロクマ 女の子 友だち

シロクマ 女の子 友だち

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『なずずこのっぺ?』表紙

なずずこのっぺ?

『なずずこのっぺ?』(絵本)をおすすめします。

春になって地面から顔を出した小さな緑の芽が、ずんずん伸びて、花を咲かせ、しおれ、枯れてなくなる、という四季の移り変わりにあわせて、さまざまな虫たちや自然のドラマが展開していく。絵を細かく見ていくと、季節の変化にしろ虫たちのやりとりにしろ、さまざまな発見があって楽しい。「昆虫語」の言葉は、声に出してみると、不思議なリズムがあってとても愉快。ひとつひとつの言葉の意味を考えてみるのもおもしろいし、絵も美しい。

原作:イギリス/3歳から/昆虫 四季 自然 ふしぎ

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2018」より)

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『あおのじかん』表紙

あおのじかん

『あおのじかん』(絵本)をおすすめします。

太陽が沈んでから夜がやってくるまでの「青の時間」には、青い色の生き物たちが、いっそう美しくなる。この絵本は、世界各地にいるアオカケス、アオガラ、モルフォチョウ、ヤグルマギク、ブルーモンキーといった、青い色の(あるいは青く見える)小鳥、獣、カエル、チョウチョウ、花、虫、水鳥などを、シンプルな言葉とともに次々に紹介していく。読者は、さまざまな色調の青い色を体験できる。最後は、夜の闇がすべてを包み込む場面で、生き物たちはシルエットになっている。

原作:フランス/3歳から/青 生き物 闇

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2018」より)

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『ダイエット幻想』表紙

ダイエット幻想~やせること、愛されること

『ダイエット幻想』(NF)をおすすめします。

やせるためのダイエット法はさまざまなものが喧伝されているが、本書は、それを非難したり批判したりするものではない。文化人類学者である著者は、女性が「やせた」とか「かわいい」とか思われたくてダイエットに励むという状況の裏側に何があるのかをさぐっていく。そこからは、女性に子どもっぽさを求める日本の社会、「選ばれる性」「愛される側」にとどまる女性、頭にためこんだ知識にとらわれて生きる力を失ってしまう現代人など、さまざまな問題点が浮き彫りになってくる。例も豊富でわかりやすい。

13歳から/ダイエット 愛 かわいさ 摂食障害

 

Diet Fantasies: Lose Weight, Be Loved

The world is full of diet methods that come and go. This book does not negate or critique them; rather, the author, a cultural anthropologist, considers why Japanese women are encouraged to diet, thinking that they want to “slim down” or “be cute.” What is behind this? Japanese society’s fixation on childlike women; the tendency to see women as passive, “chosen” (or not) or “loved” (or not); the loss of power to live when eating based on facts accumulated in one’s head. Many issues come up with plentiful examples, all presented in understandable text. (Sakuma)

  • text: Isono, Maho | illus. Harada, Arisa
  • Chikuma Shobo
  • 2019
  • 224 pages
  • 18×11
  • ISBN 9784480683618
  • Age 13 +

Diet, Love, Cuteness, Eating disorders

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2021」より)

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『オランウータンに会いたい』表紙

オランウータンに会いたい

『オランウータンに会いたい』(NF)をおすすめします。

著者は、野生のオランウータンを調査・研究している学者。本書は、オランウータン研究者になった動機、ボルネオでの調査のやり方、オランウータンの生態、チンパンジーとは違う群れない生き方、絶滅の危機と私たちにできること、親子関係に見る人間やほかのサルとの違いといったことを、わかりやすい文章で伝えている。オランウータンについていろいろと知ることができるだけでなく、私たち日本人の暮らしとオランウータンが暮らす東南アジアの森が密接につながっていることにも目を向けさせてくれる。

11歳から/オランウータン ボルネオ ジャングル 絶滅危惧

 

I Want to Meet an Orangutan

Written by a Japanese scientist who studies wild orangutan, the text is very easy to follow. Readers learn what motivated the author to study orangutan, how she conducts fieldwork in Borneo, the ecology of orangutan, the fact that they are an endangered species, and what we can do to help them. The author also explores the differences between orangutan and chimpanzees, which live in groups, and differences in the parent-child relationships of orangutan as compared to humans and other ape species. Not only do we gain a deeper knowledge of orangutan, but we also learn how our own lifestyle is intricately connected to their habitat, the forests of southeast Asia. The author urges us to not only buy products that are good for us, but ones that are good for the environment of the whole planet. (Sakuma)

  • text: Kuze, Noko | illus. Akikusa, Ai
  • Akane Shobo
  • 2020
  • 188 pages
  • 22×16
  • ISBN 9784251073105
  • Age 11 +

Orangutan, Borneo, Jungle, Endangered species

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2021」より)

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『わたしたちのカメムシずかん』表紙

わたしたちのカメムシずかん~やっかいものが宝ものになった話

『わたしたちのカメむしずかん』(NF絵本)をおすすめします。

カメムシは触ると臭いから嫌いという人も多い。ところが、この嫌われ者の虫に夢中になり、もっともっと知りたくなり、1年間に35種類も集めて自分たちでカメムシ図鑑まで作り、やがてカメムシは宝だと言うようになった子どもたちがいる。この絵本は、岩手県の山あいにある小さな小学校での実話に基づき、どうしてそんなことになったのかを楽しい絵とわかりやすい文章で紹介している。カメムシにはさまざまな種類があることもわかるし、カメムシはどうして臭いのか、どうして集まるのかについても、説明されている。

9歳から/カメムシ 図鑑 観察

 

Our Stink Bug Book

Stink bugs (shield bugs) are often seen as smelly pests, but in the town of Kuzumaki in northern Iwate prefecture, children got excited about them and wanted to know more. They gathered specimens of some 35 types over a year’s time, and they created an encyclopedia. Now they think the stink bugs are great! This picture book uses enjoyable illustrations and easy-to-understand text to tell us how the students’ project came about. The book also offers basic information about stink bugs, why they give off odors, and why they form groups. The backmatter offers space for readers to begin their own encyclopedias. (Sakuma)

  • text: Suzuki, Kaika | illus. Hata, Koshiro
  • Fukuinkan Shoten
  • 2020
  • 44 pages
  • 26×20
  • ISBN 9784834085525
  • Age 9 +

Stink bug, Encyclopedia, Observation

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2021」より)

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『やとのいえ』表紙

やとのいえ

『やとのいえ』(NF絵本)をおすすめします。

石の十六羅漢さんが語るという体裁で、谷戸に建てられた一軒の農家と、それを取り巻く環境の、150年にわたる変化を伝えている絵本。水田や麦畑や林に囲まれていたかやぶき屋根の家は、今やモノレールやデパートやマンションやアパートに囲まれた瓦屋根の家に変わっている。農作業、子どもの遊び、お祭り、嫁入り、葬儀、開発の様子など人間の暮らしばかりでなく、ある時期までは野鳥や野生の動物も羅漢さんをしばしば訪れていたことも、ていねいな絵が伝えている。巻末には詳しい解説があって、モデルになった多摩丘陵の変遷もわかる。

9歳から/家 開発 都市化 十六羅漢

 

Yato Home

This picture book portrays 150 years in the life of a farmhouse in a yato area, with gently sloping hills and valleys. The book is narrated by stone statues of the sixteen arhats (disciples of the historical Buddha) that stand nearby. The farmhouse with thatched roof is first surrounded by rice paddies, fields, and forests; later, it becomes enclosed by a monorail, department store, and condominiums and apartment buildings. It is given a tiled roof. Planting and threshing processes, children’s play, festivals, weddings, funerals, and development are all depicted in detail. Until a certain period, wild birds and animals also visit the stone statues. The backmatter contains detailed explanations, including about the Tama Hills in southwest Tokyo/northeast Kanagawa, which served as the model for this book. (Sakuma)

  • text/illus. Yatsuo, Keiji | spv. Senni, Kei
  • Kaiseisha
  • 2020
  • 40 pages
  • 22×31
  • ISBN 9784034379004
  • Age 9 +

Home, Development, Urbanization, Sixteen arhats

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2021」より)

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『虫のしわざ図鑑』表紙

虫のしわざ図鑑

『虫のしわざ図鑑』(NF)をおすすめします。

植物の葉や枝や実に、虫がかじった跡がないだろうか? 虫が生きるための活動の痕跡を本書では「虫のしわざ」と呼び、見た目から、あみあみ、かじかじ、すけすけ、てんてん、まきまきなど16種類に分類し、写真と文章で紹介している。たとえば葉に「あみあみ」模様を見つけたら、本書の写真と見くらべれば、何の虫が何をした跡かがわかる仕組み。また「しわざコレクション」として、卵や糞、脱け殻やクモの網などについてコラム風にまとめている。昆虫写真家ならではの、おもしろい切り口の図鑑。

9歳から/虫 葉 卵 糞

 

Enclopedia of Insect Signs and Works

Have insects left any chew marks on leaves, branches, or fruit near you? Have you seen eggs, nests, or galls? This book divides common signs of insect activity into sixteen fun types, such as “chew-through,” “see-through,” “wrap-wrap,” “tent,” and more, and presents the activity in photos and text. The book is made so that, for example, if children find a leaf with one of the designs shown, they can compare it to the book and find out which insect was at work. Objects such as eggs, dung, husks, spiderwebs, and cocoons are also introduced in column-like format. An encylopedia-picture book with a fresh approach, created by a specialist in insect photography. (Sakuma)

  • text/photos: Shinkai, Takashi
  • Shonen Shashin Shimbunsha
  • 2020
  • 160 pages
  • 21×19
  • ISBN 9784879816924
  • Age 9 +

Insects, Leaves, Eggs, Dung

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2021」より)

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『タコとイカはどうちがう?』表紙

タコとイカはどうちがう?

『タコとイカはどうちがう?』(NF)をおすすめします。

食卓でもおなじみのタコとイカ。どちらも頭足類だけど、どこが似ていてどこが違うのだろう? この絵本では、両者がさまざまな角度から比較されている。足の数など見た目の違いから、獲物のとらえ方、スミの吐き方、すんでいる場所や活動の場所、敵から身を守る方法、体の色の変え方、子育ての仕方、赤ちゃんたちのサバイバル方法に至るまで、いろいろ比べて写真とイラストと文章で楽しく伝えている。長い腕をポケットにしまうイカがいるとか、タコは道をおぼえていて迷子にならないなど、びっくり知識も豊富。

9歳から/タコ イカ 海

 

What’s the Difference between Octopus and Squid?

Octopus and squid appear often on Japanese tables. Both are cephalopods (like heads on legs!) with soft bodies, but how are they different? This picture book compares them from several angles. From differences that we can see with our eyes (number of legs) to differences in how they catch prey and release ink, where they live, how they protect themselves from their enemies, how they change color, how they parent, and even how their babies survive, we get the full story in photos, illustrations, and text. Did you know that some squid can put their long arms in pockets? Or that an octopus can memorize routes and not get lost? Did you know that the squid and the octopus both have multiple hearts, big and small? Many surprising facts fill this book. (Sakuma)

  • text: Ikeda, Natsumi | photos: Minemizu, Ryo | spv. Sugimoto, Chikatoshi
  • Poplar
  • 2020
  • 32 pages
  • 22×29
  • ISBN 9784591163504
  • Age 9 +

Octopus, Squid, Ocean

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2021」より)

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長倉洋海『さがす』表紙

さがす

『さがす』(NF写真絵本)をおすすめします。

作者は、世界各地の子どもたちの写真を撮りながら、「人はなんのために生まれてきたのか」「自分の居場所はどこなのだろう」「生きる意味とは何なのだろう」と考え続けてきた。その答えを探して弾丸の飛び交うアフガニスタンやコソボ、極寒のグリーンランド、灼熱のアラビア半島など、さまざまな環境のなかでさまざまな生き方をしている人びとに出会ってきた。その旅路の果てに、「さがしていたものは、いま、自分の手の中にある」と語る。心にひびく写真と言葉を味わいながら、読者も一緒に考えることができる写真絵本。

9歳から/世界 幸せ 生きる意味

 

Search

Photojournalist Nagakura has taken photos of children the world over while asking, “Why were humans born?” “Where do we belong?” “What is the meaning in living?” He has asked these questions in places where bullets fly, such as Afghanistan and Kosovo; in a refugee camp in El Salvador; in Greenland with its extreme cold; and on the Arabian Peninsula with its scorching heat. He has met all kinds of people living in different ways in contrasting environments. Now, Nagakura says, what he was searching for is in his own hands. This picture book invites us to experience touching photos and text and to think together with the author. (Sakuma)

  • text/photos: Nagakura, Hiromi
  • Alice-kan
  • 2020
  • 40 pages
  • 26×20
  • ISBN 9784752009375
  • Age 9 +

World, Happiness, Meaning in life

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2021」より)

 

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『恐竜学』表紙

恐竜学

『恐竜学』(NF)をおすすめします。

最新の情報に基づいて、恐竜のことを子どもたちにわかりやすく解説した本。まず地球の歴史と恐竜の関係について述べ、子どもたちに人気のティラノサウルスはどんな恐竜だったのかを描写し、化石からわかる恐竜同士の対決について語り、最新の恐竜研究でわかったことを説明し、鳥類と恐竜の関係や比較、恐竜が大量絶滅した原因などをさぐっていく。講演会の時などによく出る質問に真鍋博士が答える章も設けられている。絵や写真がふんだんにあって興味をひくし、子ども目線で本づくりされているのがいい。

9歳から/恐竜 化石 絶滅 地球

 

Science of Dinosaurs

Based on the latest information, the author, a paleontologist explains dinosaurs to children in an accessible way. The book begins with the history of the planet Earth and dinosaurs, then describes what Tyrannosaurus, a dinosaur popular with children, were like, what fossils can tell us about confrontations between Tyrannosaurus and other dinosaurs such as Triceratops, and what has been discovered through the most recent paleontological research. The author explores the relationship between birds and dinosaurs, comparing them, and also the reasons for the extinction of dinosaurs. One chapter is devoted to Dr. Manabe’s answers to questions he is frequently asked at events and lectures, such as how paleontology can be useful. The book is well-designed for children with illustrations and photos on every page to draw the eye and excite curiosity. (Sakuma)

  • text: Manabe, Makoto
  • Gakken Plus
  • 2020
  • 200 pages
  • 19×13
  • ISBN 9784052051852
  • Age 9 +

Dinosaurs, Fossils, Extinction, Earth

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2021」より)

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『りんごだんだん』表紙

りんごだんだん

『りんごだんだん』(NF写真絵本)をおすすめします。

最初は、ぴかぴかでつやつやの赤いリンゴの写真に、「りんご つるつる」という言葉がついている。その同じリンゴが、少しずつ変わっていき、しわしわになり、ぱんぱんになり、しなしなになり、ぐんにゃりとなり、やがて哀れな姿に。作者が1年近くの間リンゴを観察して記録した写真絵本。それぞれの写真には、ごく短い言葉がついているだけだが、生きているものは時間とともに否応なく変化していくこと、そして、それを糧にしてまた次の命が育っていくことなどが、リアルな写真から伝わってくる。

3歳から/リンゴ 腐敗 変化 命

 

Apple, Bit by Bit

A photo of a bright red apple appears with the text “Smooth Apple.” The same apple changes little by little over time, becoming wrinkly, swollen, soft, limp, and then bug-eaten. But is that the end? The author observed and photographed the same apple for about a year to create this picture book. Each photo has only brief words with no explanations, but the idea that all living things change, ultimately becoming nourishment for future life, comes across in the realistic photos. (Sakuma)

  • text/photos: Ogawa, Tadahiro
  • Asunaro Shobo
  • 2020
  • 36 pages
  • 20×21
  • ISBN 9784751529614
  • Age 3 +

Apple, Decay, Change, Life

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2021」より)

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『団地のコトリ』表紙

団地のコトリ

『団地のコトリ』(読み物)をおすすめします。

母親とふたりで団地に暮らす中学生の美月(みづき)と、同じ団地の下の階にかくまわれている11歳の陽菜(ひな)の、ふたつの流れで物語は進む。陽菜の母親は、子連れで職業を点々としながら全国を放浪し、娘を学校にも行かせていなかったのだが、その母親が倒れて救急車で運ばれてからは陽菜は施設に入って学校にも通っていた。その後また公園で倒れて柴田老人に保護された母親は、施設に無断で陽菜を連れ出し親子で柴田老人の家に居候し、息をひそめるように隠れている。

しかしある日、柴田老人がスーパーでくも膜下出血を起こして病院に収容され、家にこもったきりの陽菜たちは食料がつきてしまう。やがて美月の前に「助けて」とやせ細った陽菜があらわれる。血を吐いた陽菜の母親が死去し、陽菜は施設に戻ることになる。美月は陽菜を妹のように感じる一方で、陽菜の瞳の暗さに脅えもする。そうかんたんではない状況だが、美月の母は、夏休みなどの一時里親を、柴田老人も、陽菜の経済的支援を、申し出る。

居所不明児童や独居老人を取り上げ、リアルなエピソードを積み重ね、人が人を思いやる気持ちに目を向けたYA小説。重苦しい場面も多いが、美月が飼っているおしゃべりインコがユーモラスで、救いになっている。

13歳から/居所不明児童 独居老人 思いやり

 

Little Bird of the Apartment Block

Mitsuki is a junior high student living with her mother in a large apartment complex. Hina is an 11-year-old being hidden from authorities with her mother, by a single elderly man living one floor below. This novel brings together Mitsuki and Hina’s two stories.

Hina’s mother had been drifting around the country, taking her daughter with her to various jobs and not sending her to school. After Hina’s mother collapsed at a train station and got taken away by ambulance, Hina was put in an institution and began to attend school. But after her mother collapsed again in a park and was taken in by the elderly man, Mr. Shibata, her mother nabbed Hina from the institution and brought her into hiding with her.

One day, Mr. Shibata suffers a subarachnoid hemorrhage while at the supermarket, loses consciousness, and is taken to hospital. Stuck in his apartment and unable to leave, Hina and her mother run out of food. Hina, reduced to skin and bones, appears in front of Mitsuki and says, “Help.” Hina had known about Mitsuki and had even nicknamed her Kotori-chan (Little Bird), because Mitsuki keeps a parakeet.

Hina’s mother coughs up blood and dies after being taken to hospital. Hina returns to the institution. Mitsuki now thinks of Hina as a younger sister, but at the same time, she is scared by the darkness she sees in Hina’s eyes. Knowing that helping Hina will not be simple, Mitsuki’s mother nonetheless agrees to foster her during vacations, and Mr. Shibata offers financial support.

This YA novel takes up issues lately pressing in Japan, as elsewhere: missing children and the isolated elderly. With realistic episodes, it turns our gaze toward people showing compassion to other people. It contains a number of heavy scenes, but the talking parakeet lends a saving humor. (Sakuma)

  • text: Yatsuka, Sumiko | illus. Nakamura, Yukihiro
  • Poplar
  • 2020
  • 208 pages
  • 20×13
  • ISBN 9784591167243
  • Age 13 +

Missing child, Elderly living alone, Compassion

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2021」より)

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『イーブン』表紙

イーブン

『イーブン』(読み物)をおすすめします。

中1の美桜里(みおり)は、父親のDVが原因で両親が離婚し、スクールカウンセラーの母親と暮らしているが、友人との関係がうまくいかず不登校になっている。そんな折り、キッチンカーでカレーを売っている貴夫と、その助手をしている高校生だがやはり不登校の登夢(とむ)に出会う。

美桜里もキッチンカーを手伝ううちに、登夢の母親が、子どもをネグレクトしたあげくに犯罪の手先までやらせていたことや、今は貴夫が保護者がわりに登夢と暮らしていることなどを知る。一方両親の離婚について考え続ける美桜里は、母親とも父親とも対話を重ねるうちに、人間関係の複雑さに目を向けるようになる。いつしか恋心を抱くようになった登夢からもさまざまなことを学ぶなかで、美桜里は、親子にしろ男女にしろ夫婦にしろ、互いに尊重し合える対等(イーブン)な人間関係が重要だと気づき、それはどうすれば可能なのかをさぐっていく。やがて美桜里の父親は、自分も親から虐待されていたこと、言葉で表現するのが苦手で暴力や暴言に訴えてしまったことを初めて打ち明ける。弱点もさらけだして本音で語り合う関係があれば、そこから道がひらけていくことが示唆されている。自らも虐待体験を持つ著者が、子どもたちに寄り添って一緒に考えようとする作品。

13歳から/親の離婚 キッチンカー 虐待 DV

 

Even

Twelve-year old Miori’s parents divorced because of her father’s abuse, and Miori now lives with her mother, a school counselor. Miori has stopped going to school because of difficulties getting along with her friends. One day, she meets Takao, a man who runs a curry food truck, and his assistant, Tom, a high school student who, like Miori, is not going to school. When she begins helping Takao with his food truck, she learns that Tom’s mother not only neglected him as a child but used him to commit crimes and that he now lives with Takao, who has become his guardian. Meanwhile, Miori is constantly thinking about her parents’ divorce. Through conversations with her mother and father, she starts to see the complexity of human relationships. She also gains many insights through talking with Tom, with whom she is falling in love. During this process, she comes to realize that being on an equal or even footing is the key to good relationships, whether between parent and child, man and woman, or a couple, and begins exploring how to make such relationships possible.

One day, Miori’s father attends a meeting hosted by Miori’s mother about women’s rights. There he confides that he suffered abuse from his own parents and struck out both physically and verbally because he had trouble expressing himself in words. Gradually, Miori and Tom find the next step they can take.

Miori’s story gives us hope, demonstrating that it’s possible to find a way forward by sharing our weaknesses and speaking honestly about our shortcomings. The author, who was a victim of abuse herself, helps readers to explore this serious issue. (Sakuma)

  • text: Murakami, Shiiko | illus. Mamefuku
  • Shogakukan
  • 2020
  • 208 pages
  • 19×14
  • ISBN 9784092893016
  • Age 13 +

Divorce, Food truck, Abuse, Domestic violence

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2021」より)

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『父さんと、母さんと、ぼく』表紙

父さんと、母さんと、ぼく〜ラビントットと空の魚 第五話

『父さんと、母さんと、ぼく〜ラビントットと空の魚』(読み物)をおすすめします。

「ラビントットと空の魚」シリーズの第5話で最終巻。舞台は異世界のトンカーナで、ここでは魚が空を飛び、鳥は地中を泳いでいる。主人公は、耳長族の少年ラビントットという漁師の息子で、自分も漁師になるつもりで修業するのだが、高いところが苦手なラビントットは親方のもとを逃げ出し、明け方だけ低空飛行するイワシをとって生計を立てることにする。

シリーズの第1話から第4話までは『鰹のたんぽぽ釣り』『そなえあればうれしいな』『くれない月のなぞ』『森ぬすっとの村』となっており、ラビントットは、さまざまな事件や、思いがけない出会いを経ながら否応なく冒険の旅を続けることになる。

この第5話では、ラビントットは故郷に帰る途中、イトマキエイに大勢が襲われたと聞き、急いで現場の月見山へ向かう。ラビントットは、騒動の原因となったイトマキエイの子どもを救い出した後、みんなの話を聞くうちに、月見山では昔、耳長族同士が戦った歴史があったことや、自分も生まれつき高所が嫌いだったわけではないこと、母さんの家族と父さんの間には深い溝があったことなど、いろいろなことを知る。自分のルーツや民族の歴史を知ったラビントットは、ちゃんとした漁師になるために自分の道を歩き始める。楽しく読めるファンタジー。

11歳から/異世界 漁師 ファンタジー

 

Dad, Mom, and Me

This is the fif th and final book in the series Rabintotto, the Fisherboy of the Sky. The setting is a parallel world called Tonkana, where fish fly through the sky, birds swim in the earth, and the inhabitants of the surface are not humans, but mysterious people. The main character is a fisherman’s son named Rabintotto, who hails from a long-eared clan and is apprenticing to become a fisherman himself one day. He is afraid of heights, however, and he runs away from his master. He decides to support himself by catching sardines, which move low in the sky only at dawn.

The first four volumes of this series are The Tuna’s Dandelion Fishing, Happy are the Prepared, Riddle of the Red Moon, and A Village of Forest Thieves. Throughout the series, Rabintotto goes through mishaps and surprise encounters on an unending, unchosen journey of adventures.

In this fifth volume, as Rabintotto is journeying toward his home, he hears that many have been threatened by spinetail devil rays, and he hurries to the scene: Tsukimi (Moon Viewing) Mountain. Rabintotto saves the spinetail devil ray child that caused the disturbance, and then he hears that long ago on this mountain, there was a history of long-eared tribes fighting. He also learns that his fear of heights was not innate, and that there has been a great gulf between his mother’s family and his father. Upon visiting his parents’ relatives, he is told that he can stay, but having learned his roots and history, Rabintotto vows to become a proper fisherman after all and sets out on a new journey.

This fantasy is fun to read, with illustrations that aptly convey Rabintotto’s world. (Sakuma)

  • text: Ochi, Noriko | illus. Nishizaka, Hiromi
  • Fukuinkan Shoten
  • 2020
  • 252 pages
  • 20×14
  • ISBN 9784834085600
  • Age 11 +

Parallel world, Fisherman, Fantasy

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2021」より)

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『ギフト、ぼくの場合』表紙

ギフト、ぼくの場合

『ギフト、ぼくの場合』(読み物)をおすすめします。

けなげな子どもが頑張って道を切りひらくという点では古典的だが、精一杯のことをしていても貧困から抜け出せず、公的なセーフティネットからも抜け落ちしてしまう家庭や子どもを描いているという点では、とても現代的な物語。

主人公の優太(ゆうた)は、小学校6年生。父親の不倫が原因で離婚した母親と、小2の妹と暮らしている。専業主婦だった母親はなかなか暮らしの手立てをつかめず、アルバイトをふたつ掛け持ちして働いている。

家族を大事にする優太だが、妹が盲腸炎にかかり手遅れで死去してしまい、貧困に輪をかけて辛い気持ちが増幅する。父親に対しては、自分たちを捨てたことを恨み、もらったギターをたたき壊し、絶縁したつもりになっているが、文化祭でギターを弾くはずの生徒が骨折したため、優太が代役を務めることになる。長いことギターには触っていなかったし、弾くと父親を思い出すので葛藤もあるが、弾くのが楽しいという経験を味わったことで、優太の前に新たな世界が開けていく。

優太の場合のギフトとは、絶対音感を持っていてメロディをすぐに再現できる才能でもあるが、母親が働くねじ工場の小西さん、文化祭のコンサートを指導するジョー先生、スクールカウンセラーの湯河原さんなどとの、あたたかい関係を引き寄せることのできる、真っすぐな人間性でもあるのだろう。

11歳から/ギター 貧困 母子家庭 職人

 

Gifted, In My Case

This story of a brave, honest child who forges his own path in the face of adversity is reminiscent of such classics as Burnett’s A Little Princess. But in its portrayal of children and families who cannot escape poverty and fall through the cracks in the public safety net, it is a very contemporary tale.

The main character, Yuta, is in sixth grade. He lives with his mother and his sister, who is in second grade. His mother, who divorced because of her husband’s infidelity, has never worked before and has a hard time making ends meet as she juggles her work at a screw factory with a part-time job at a convenience store.

Yuta cares deeply about his family, but the death of his younger sister due to delayed treatment for appendicitis and the family’s deepening poverty take an emotional toll. In his rage at his father for deserting them, Yuta destroys the guitar his father gave him in a symbolic act that severs their relationship. A student who is supposed to play the guitar at the school festival, however, breaks an arm, and Yuta is asked to fill in. Although he hasn’t touched a guitar for some time and doing so brings back painful memories of his father, he begins to see the world differently once he tastes again the joy of playing music.

Yuta’s gift is his musical ability. His perfect pitch allows him to reproduce a melody when he has only heard it once. But he is also gifted in his upright character and humanity, which attract the support and friendship of Mr. and Mrs. Konishi, who own the screw factory, Mr. Sawaguchi (commonly known as Joe), who directs music for the school festival concert, and Mrs. Yugawara, the school counselor. (Sakuma)

  • text: Imai, Kyoko
  • Shogakukan
  • 2020
  • 232 pages
  • 20×14
  • ISBN 9784092893030
  • Age 11 +

Guitar, Poverty, Single-mother family, Craftsman

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2021」より)

 

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『科学でナゾとき!わらう人体模型事件』表紙

科学でナゾとき!〜 わらう人体模型事件

『科学でナゾとき!〜 わらう人体模型事件』(読み物)をおすすめします。

科学の知識を盛り込んだ、学校が舞台の物語。6年生の彰吾は、自信過剰な児童会長。中学教師の父親が、小学校でも科学実験の指導をするために彰吾の学校にもやってくることに。父親を評価していない彰吾は、学校では家族関係を隠すようにと父親に釘を刺す。

ところが彰吾の学校では、次々に不思議な事件が起こる。最初は、理科実験室で人体模型がギャハハと笑ったという事件。生徒たちが脅えているのを知ると、彰吾の父親のキリン先生(背が高くポケットにキリンのぬいぐるみを入れている)は、みんなを公園に連れて行き、準備しておいたホースを使って、実験室の水道管が音を伝えたことを実証してみせる。

2つ目は、離島から来た転校生が海の夕陽を緑色に描いて、ヘンだと言われた事件。3つ目は、なくなったリップクリームが花壇に泥だらけで落ちていた事件。最後は、図書館においた人魚姫の人形が赤い涙を流す事件。どれもキリン先生が謎を解き明かし、光の波長や、液状化現象や、化学薬品のアルカリ性・酸性の問題など、事件の裏にある科学的事実を説明してくれる。彰吾も父親を見直す。科学知識が物語のなかに溶け込んでいて、おもしろく読める。

11歳から/学校 謎 科学 父と息子

 

Solving Riddles Through Science!

Set in a school, the story relates four episodes rich in scientific knowledge. Shogo, a cocky sixth-grader, is head of the children’s association. His father is a science teacher who teaches at many different schools, one of which is Shogo’s. But Shogo is embarrassed by his father’s clumsiness and begs him not to let anyone know they are related.

However, mysterious things are happening at Shogo’s school. First, the anatomical model in the science room bursts out laughing. When Shogo’s tall, lanky father, who carries a giraffe toy in his pocket and has been dubbed Professor Giraffe, hears that the children are frightened, he takes them to a park and uses a hose to show them that sound travel can long distances. It becomes clear that the sound of laughter must have traveled along an unused water pipe from another location.

The second mystery surrounds a transfer student from a distant island who is upset that his classmates laughed because he painted the sunset green. The third mystery involves a tube of lip gloss that disappears from the classroom and shows up in a flower bed. In the final episode, a mermaid doll in the school library weeps red tears. Professor Giraffe conducts experiments to solve each case, explaining the scientific facts behind them, such as light wavelength, liquefaction, and the alkalinity and acidity of chemicals. During this process, Shogo’s opinion of his father changes. The author expertly weaves scientific information into the story to make this a fascinating and informative read. (Sakuma)

  • text: Asada, Rin | illus. Sato, Odori | spv. Takayanagi, Yuichi
  • Kaiseisha
  • 2020
  • 208 pages
  • 19×13
  • ISBN 9784036491407
  • Age 11 +

School, Mystery, Science, Father and son

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2021」より)

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『あるひあるとき』表紙

あるひあるとき

『あるひあるとき』(絵本)をおすすめします。

旧満州(中国東北部)に暮らしていたひとりの女の子(わたし)が主人公。女の子は、父親が日本から買って帰ったお土産のこけしに、ハッコちゃんという名前をつけてかわいがっていた。女の子は友だちの家にも防空壕にも、どこにでもハッコちゃんを連れていった。しかし敗戦で日本への引き揚げが決まり、一家は家財道具や持ちものを処分しなくてはならなくなる。ハッコちゃんも燃やされる。子ども時代を大連で過ごした作者が平和への願いを込め、おとなたちの戦争の陰で幼い子が体験した深い悲しみを伝えている。

9歳から/こけし 戦争 引き揚げ

 

One Day, One Time

During the Second World War, Japan occupied northeastern China, which it named Manchuria. Many Japanese moved there as settlers. The main character in this story is a little girl who lives in Manchuria. Her favorite toy is a wooden kokeshi doll that her father brought back from Japan as a gift. She names the doll Haruko and takes it with her everywhere, even to her friend’s house and the air raid shelter. When Japan loses the war, however, the girl and her family have to sell or burn everything they own, and Haruko is thrown on the fire. The author, who lived as a child in Dalian in northeastern China during the war, imbues this book with her yearning for peace and reveals the deep sorrow that children experience
in the shadow of wars waged by grownups. (Sakuma)

  • text: Aman, Kimiko | illus. Sasameya, Yuki
  • Nora Shoten
  • 2020
  • 36 pages
  • 27×22
  • ISBN 9784905015543
  • Age 9 +

Kokeshi doll, War, Evacuation

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2021」より)

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『ひょうたんとかえる』表紙

ひょうたんとかえる

『ひょうたんとかえる』(絵本)をおすすめします。

ひょうたんが、つるから「ぼっくりこ」と池に落ちると、蓮の葉の上に寝そべってのんびりしていたカエルが見つけて、「げっこりこ」ととびつく。重いのでひょうたんが沈むと、今度はカエルが背中にのせて運ぶ。単純なストーリーだが、「ぼっくりこ」と「げっこりこ」の繰り返しがおもしろく、最後は「それゆけ げっこりこげっこり ぼっくり ぼっくりこ」で終わる。もともとは作者が1932年に発表し、音楽つきでレコードまで出ていた詩だが、画家がゆかいな絵をつけたことによって、ユーモラスな絵本ができあがった。

3歳から/ひょうたん 池 カエル リズム

 

The Gourd and the Frog

When a gourd on a vine extending over a pond drops into the water—bokkuriko!—a frog that had been relaxing, stretched out on a lotus leaf, jumps onto it—gekkoriko! When the gourd sinks due to the frog’s weight, the frog carries the gourd on its back instead. It’s a simple story, but the onomatopoeia repeats, adding delight until the finale: “Go, go, gekkoriko, gekkori! Bokkuri, bokkuriko!” The basis is a 1932 poem by Saijo Yaso, a poet representative of the Taisho and Showa eras (1926-89), who released the poem with music on a record. The illustrator brings it
back to life as a humorous picture book with fun, enjoyable illustrations. (Sakuma)

  • text: Saijo, Yaso | illus. Tonouchi, Maho
  • Suzuki Shuppan
  • 2020
  • 24 pages
  • 22×21
  • ISBN 9784790254102
  • Age 3 +

Gourd, Pond, Frog, Rhythm

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2021」より)

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『チンチラカと大男』表紙

チンチラカと大男〜ジョージアのむかしばなし

『チンチラカと大男』(絵本)をおすすめします。

知恵が回るので有名なチンチラカは、気まぐれな王様に、魔の山にすむ大男から黄金のつぼや、人間の言葉を話す黄金のパンドゥリ(楽器)を取ってくるように次々命じられる。チンチラカがそれに成功すると、今度は大男をつかまえてこいとの命令が。チンチラカは大男をなんとかだまして箱に入れて連れてくるのだが、王様が箱を開けてしまい、大男は王様や家来を飲み込んでしまう。怖いところもあるがハッピーエンドなのでご安心を。コーカサス地方にある国ジョージアの昔話に、ダイナミックで魅力的な絵がついている。

3歳から/知恵 大男 王様 ジョージア

 

Chinchiraka and the Giant

A folktale from Georgia in the Caucasus unfolds
in this dynamically illustrated picture book.
Chinchiraka, the youngest of three brothers known for his wisdom, is commanded by a moody king to snatch a golden vase from a giant who lives inside a magic mountain. When Chinchiraka succeeds, he is told to go take a golden panduri instrument that speaks human language. After that, he must go and catch the giant himself. Chinchiraka somehow tricks the giant into a box and catches him, but when the giant comes out of the box, he gobbles up the king and his servants! Scary parts are balanced by a happy ending, in which Chinchiraka becomes the king. (Sakuma)

  • text: Katayama, Fue | illus. Suzuki Koji
  • BL Shuppan
  • 2019
  • 32 pages
  • 29×22
  • ISBN 9784776409274
  • Age 3 +

Wisdom, Giant, King, Georgia

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2021」より)

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『たいこ』表紙

たいこ

『たいこ』(絵本)をおすすめします。

太鼓がひとつ。「トン トン トトトン」とひとりがたたいていると、「なかまに いれて」と誰かがやってくる。ふたりで「トントン ポコポコ」とたたいていると、また誰かがやってくる。仲間が4人にふえて盛り上がっていると、「うるさいぞー ガオー」とワニがやってきて、みんな逃げてしまう。でも、ワニもちょっとたたいてみたところ、あらおもしろい。音を聞いて、さっきの仲間が徐々に戻ってくる。ひとりひとりの音が重なって、最後はみんなで「トン ポコ ペタ ボン ガオー ゴン」。太鼓を打つ楽しさが伝わってくる。

3歳から/たいこ リズム 仲間 楽しさ

 

Drum

When someone finds a drum and plays ton, ton, to-to-ton, someone else asks, “May I join you?” As the two play ton ton, poko poko together, a third and fourth ask to join. As they play with delight, an alligator grouches, “You’re too loud! Gaah!” and they all flee. But then the alligator sidles up to the drum, taps it, and finds out playing is fun! When the four hear the alligator playing, they gradually come back. Everyone’s rhythms join together: ton poko peta bon gaah gon! The rhythms and fun of taiko drumming spill forth. (Sakuma)

  • text/illus. Hikatsu, Tomomi
  • Fukuinkan Shoten
  • 2019
  • 24 pages
  • 22×21
  • ISBN 9784834085051
  • Age 3 +

Drum, Rhythm, Companionship, Fun

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2021」より)

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『虫ぎらいはなおるかな?』表紙

虫ぎらいは なおるかな?〜昆虫の達人に教えを乞う

『虫ぎらいは なおるかな?』(NF)をおすすめします。

チョウやセミにさえさわれないほど虫嫌いの著者が、それをなんとか克服しようと7 人の専門家に会いに行った記録。会ったのは、虫と子どもの関係を調査している教育学者、昆虫館の館長、生きもの観察や野遊びの達人、虫オブジェを制作しているアーティスト、害虫研究家、「こわい」の心理を研究する認知科学者、多摩動物公園の昆虫飼育員。著者の奮闘ぶりはほほえましいが、虫好きの人が熱く語れば語るほど引いてしまう場面などがユーモラスで、おもしろく読める。イラストも楽しい。

13歳から/昆虫 好き嫌い インタビュー

 

Learning to Love Bugs from the Experts

The author hates bugs, even butterflies and cicadas. In this book, she records her encounters with seven bug experts she visits in an attempt to overcome her aversion. She meets an expert in the field of education who is studying the relationship between children and bugs, the director of a bug museum, an expert on wildlife observation and outdoor play, an artist who makes clay bug objects, a scientist researching harmful insects, a cognitive scientist studying the psychology of fear, and a bug keeper at the Tama Zoo. With a humorous touch, the author describes how the experts’ enthusiasm sometimes has the opposite effect, turning her off bugs even further. Her persistent efforts to like bugs are endearing, and the illustrations make this a fun read. (Sakuma)

  • Text/Illus. Kanai, Maki
  • Rironsha
  • 2019
  • 160 pages
  • 19×13
  • ISBN 9784652203095
  • Age 13 +

Bugs, Likes and dislikes

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2020」より)

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『ギヴ・ミー・ア・チャンス』表紙

ギヴ・ミー・ア・チャンス〜犬と少年の 再出発

『ギヴ・ミー・ア・チャンス』(NF)をおすすめします。

2014 年、千葉県の八街少年院で、少年たちに保護犬を訓練してもらうプログラムが始まった。第1 期に参加する少年は3 名。捨てられたり手放されたりして保護された犬が3 匹。犬と少年は1 対1のペアになって3 か月の間授業を受け、一般家庭に犬を引き渡すための訓練を行う。本書は、その訓練の日々に密着し、犬と少年の間に信頼感が芽生え、心が通い合い、両者ともに変わっていく様子をいきいきと伝えている。犬の表情をうまくとらえた写真と、抑制のきいた文章が心にひびく。

13歳から/少年院 犬 訓練

 

Give Me a Chance

ーA Fresh Start for Dogs and Boys

In 2014, a program was started at Yachimata Reformatory in Chiba prefecture to have young inmates train rescued dogs. Three boys joined the program in the first phase, and were paired up with three abandoned dogs from a shelter. The program lasted for three months during which time the dogs were trained in order to be rehomed with ordinary families. This book closely documents the day to day process, vividly demonstrating how a sense of trust developed between the neglected or abused dogs and the delinquent juveniles as they began to understand each other, and together they began to change. Readers will be deeply moved by the photos capturing the dogs’ facial expressions and the neutral written account. (Sakuma)

  • Otsuka, Atsuko
  • Kodansha
  • 2018
  • 208 pages
  • 20×14
  • ISBN 9784065130001
  • Age 13 +

Juvenile reformatory, Dogs, Training

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2020」より)

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『ヒロシマ消えた家族』表紙

ヒロシマ 消えたかぞく

『ヒロシマ 消えたかぞく』(NF写真絵本)をおすすめします。

広島に暮らしていたある一家の記録を、一家の父親が撮りためていた写真をもとに構成し、日本語と英語の文章をつけている。理髪師の鈴木六郎は、妻の笑顔、子どもたちが元気で遊ぶようす、飼っていたネコや犬の何気ないしぐさなど、日常生活のひとこまひとこまを愛情たっぷりに撮影していた。しかし1945 年8月6日、原爆が広島を襲うと、一家全員の命がぷつっと絶たれる。作者は広島平和記念資料館でこれらの写真に出会って、一家をよみがえらせる一冊の作品にしあげた。いのちや平和について考えるきっかけになる写真絵本。

9歳から/広島 原爆 写真 家族

 

A Family in Hiroshima

ーTheir Vanished Dreams

Rokuro Suzuki, a barber who lived in Hiroshima, recorded the life of his family in photos near the end of World War II. Each photo captured their daily life with a loving touch: the smiling face of Suzuki’s wife, the laughter on his children’s faces as they played, and the innocent antics of their pet cats and dogs. On August 6, 1945, the entire family was wiped out by the atom bomb that fell on Hiroshima. When author Kazu Sashida first saw their photos in the Hiroshima Peace Museum, she was intrigued. Based on the photos and interviews with Suzuki’s relatives who saved the photos, Sashida brings the Suzuki family back to life. Suzuki’s photos and Sashida’s text, which is written in both Japanese and English, inspires readers to ponder such themes as life and peace. (Sakuma)

  • Text: Sashida, Kazu | Photos: Suzuki, Rokuro
  • Poplar
  • 2019
  • 40 pages
  • 23×23
  • ISBN 9784591163139
  • Age 9 +

Hiroshima, Atomic bomb

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2020」より)

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『車いすの図鑑』表紙

車いすの図鑑

『車いすの図鑑』(NF)をおすすめします。

第1章「車いすを知ろう」では、車いすの構造や乗り方、どんな人たちが使うのかや、介助の仕方などを説明し、第2章「車いすとバリアフリー」では、町の中にあるさまざまなバリア、道路やトイレや乗りもののバリアフリーのくふう、福祉車両やUD タクシー、ユニバーサルデザイン、車いすスポーツ、補助犬などを紹介し、第3章「車いす図鑑」では、日常使われる車いすから、パラスポーツ用車いすまでさまざまな車いすを紹介している。バリアフリー社会を考えるきっかけになる。索引あり。

10歳から/車いす バリアフリー パラスポーツ

 

An Illustrated Reference of Wheelchairs

ーUnderstanding Accessibility

This book aims to make us think about universal accessibility through wheelchairs. Chapter 1, Guide to Wheelchairs, tells us about what they are, what kind of people use them, their structure and how to use them, and how to assist those using them. Chapter 2, Wheelchairs and Accessibility, is about the types of barriers that exist in cities, ways to make roads, toilets, and public transport accessible, assistive vehicles and UD (universal design) taxis, universal design, wheelchair sports, assistance dogs, and so forth. Chapter 3, Illustrated Wheelchair Reference, introduces various types of wheelchairs from those for daily use to those used for disabled sports. This book is an extremely useful way to introduce issues of accessibility. Index included. (Sakuma)

  • Ed. Takahashi, Gihei
  • Kinnohoshisha
  • 2018
  • 80 pages
  • 29×22
  • ISBN 9784323056586
  • Age 10 +

Wheelchairs, Accessibility

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2020」より)

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『つらら』表紙

つらら〜みずと さむさと ちきゅうの ちから

『つらら』(NF写真絵本)をおすすめします。

つららの不思議に迫る写真絵本。寒い冬に見られるつららは、どんな場所にどうやってできるのか、どうして長くなるのか、どんなふうに姿を変えていくのかを、美しい写真を使ってわかりやすく説明している。春になっても探せばつららが見られることや、一年じゅうつららが見られる洞窟の存在や、地面から生えたタケノコのような氷があることも伝えている。巻末には、冷蔵庫でつららを作る実験を紹介し、タルヒ、スガなど日本各地からつららを指す言葉を集めて地図とともに掲載している。

6歳から/つらら 冬 方言

 

Icicles

ーWater, Cold, and the Power of the Earth

This picture book introduces the icicles we often see in a cold winter through stunning photographs. How are they formed? Why do they grow so long? Their changes in appearance are explained in simple terms using beautiful photographs. Readers are informed that there are places where we can still see icicles in spring, caves where they can be seen all year round, and sometimes ice sprouts up from the ground like bamboo shoots. There are several appendices, including instructions on how to conduct an experiment to grow icicles in the refrigerator using familiar items such as cup noodle containers, and a map showing the various names for icicles in different dialects around Japan. (Sakuma)

  • Text: Ijichi, Eishin | Photos: Hosojima, Masayo
  • Poplar
  • 2019
  • 36 pages
  • 21×26
  • ISBN 9784591161074
  • Age 6 +

Icicles, Winter

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2020」より)

 

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吉野万理子『部長会議はじまります』

部長会議はじまります

『部長会議はじまります』(読み物)をおすすめします。

中高一貫教育の私立学校の中等部を舞台にした学園物語。第1 部は文化部の部長会議、第2 部は運動部の部長会議で、それぞれ各部の部長が一人称で語っていく設定になっている。

第1 部は、美術部が文化祭のために作ったジオラマがいたずらされた事件をめぐって展開する。登場するのは怒っている美術部の部長、怪しげな部活だと思われて悩んでいるオカルト研究部部長、いろいろなことに自信のない園芸部部長、ミス・パーフェクトといわれる華道部部長、恋をしている理科部部長。犯人はだれなのか? いじめがからんでいるのか? それとも恨みか? 会議は紛糾する。

第2 部は、解体されることになった第2 体育室を使っていた卓球部と和太鼓部にも、運動場やグラウンドの使用を認めるための会議。初めのうちはほとんどの部長が、自分の部が損にならないように立ち回ろうとするが、だんだんに解決策を見いだしていく。卓球部、バスケ部、バレー部、和太鼓部、サッカー部、野球部の各部長に、パラスポーツをやりたいという人工関節の生徒もからんで、意外な展開になっていく。

それぞれ個性的な各部長の語りが複合的に絡み合って、読者には出来事が立体的に見えてくる。また各人が、他者にはうかがい知れない悩みを抱えていることもわかってくる。楽しく読めて、読んだ後は、まわりの人にちょっぴりやさしくなれそうだ。

13歳から/部活動 学校生活 友情

 

The Captains’ Meeting Will Come to Order

This novel unfolds in a private middle school in Japan. Part 1 is a meeting of the student captains of culturerelated clubs, and Part 2 is a meeting of the student captains of sports clubs. The novel unfolds with each captain speaking in the first person. (School club activities in Japan happen after school, each led by a captain. If a problem occurs, club captains meet to discuss it.)

In Part 1, the art club’s diorama for a school festival has been vandalized. Participating in the culture club meeting are an angry art club captain, a discouraged occult research club captain, a less-than-confident gardening club captain, a Miss Perfect-like flower-arrangement club captain, and a deep-inlove cooking club captain. Who committed the crime? Did the vandalism stem from bullying? From a grudge? The captains’ opinions clash at first, but they eventually find an answer.

In Part 2, one of the gyms is being razed, so the table tennis and Japanese drumming clubs that used it need new spaces to practice. At first, the various sports captains try to defend their own clubs’ practice spots, but then they work toward a fix. The captains of table tennis, basketball, ballet, drumming, soccer, baseball and even ParaSports—a student with a prosthesis—find themselves in unexpected territory.

In this book, as various captains’ distinctive voices weave together, the reader starts to see the full picture. The reader also gathers that each captain faces struggles the others could never know. While entertaining to read, this book promises to make readers a bit kinder to others, too. (Sakuma)

  • Yoshino, Mariko
  • Asahi Gakusei Shimbun
  • 2019
  • 264 pages
  • 19×13
  • ISBN 9784909064738
  • Age 13 +

School clubs, School life, Friendship

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2020」より)

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『キャプテンマークと銭湯と』表紙

キャプテンマークと銭湯と

『キャプテンマークと銭湯と』(読み物)をおすすめします。

今の子どもたちが夢中になるサッカーと、今は消えつつある銭湯をつなぐ物語。

サッカーのクラブチームに所属している中学生の周斗(しゅうと)は、ある日、キャプテンを新入りと交替させられ、友だちに心ない言葉を投げつけてチームメートから批判され、いら立ちがつのる。そんなとき、幼い頃祖父と通った銭湯の楽々湯を見つけ、入ってみた周斗は、かちかちになっていた心も体もほどけていくのを感じる。それからは何度も楽々湯に通って、そこが癒やしの場所になっていくと同時に、そこで出会う人びととの交流によって、周斗は新たな視野でものを見ることができるようにもなっていく。

楽々湯の常連には、地元のお年寄りも多いが、若いファンもいる。児童養護施設で育った左官屋の比呂(ひろ)は、いい親方に恵まれ、自分なりのベストを尽くそうと仕事をがんばっている。女子高校生で銭湯オタクのコナは、インスタグラムで銭湯の良さをアピールしている。

しかし、2 代にわたって77 年続いてきた楽々湯も、とうとう閉店することになった。店主の老夫婦には、薪での風呂たきが無理になったのだ。閉店の日、試合に勝利してわだかまりも解けたチームのメンバーは、常連たちと一緒に楽々湯につめかけるのだが、途中で停電に…。最後まで営業を支えようと奮闘する周斗たちに共感して読める。

13歳から/サッカー 銭湯 キャプテン 友情

 

Captain Mark and the Bathhouse

This interesting story links soccer, which is all the rage among children these days, and the public bathhouses that are now slowly disappearing.

Shuto, a junior high school student who belongs to the soccer club team, is shocked when he is replaced as captain by newcomer Daichi, and gets irritated when he is criticized by his team mates for saying cruel things to him. When he comes across the public bathhouse where he used to go with his late grandfather as a little boy, he decides to go in and feels his irritation melt away as he soaks in the hot water. After this he goes to the bathhouse regularly, and it not only becomes a place of healing for him, but he also begins to see things from a new perspective as he chats with the people he meets there. He comes to understand that even Daichi, who he used to resent for being able to do everything well, has a big problem of his own.

Most of the regular customers at the bathhouse are local elderly people, but there are also young people too. A plasterer called Hiro, who grew up in a children’s home, has been blessed with a good boss and does his best at work. Kona is a high school student obsessed with bathhouses, and she posts on Instagram about their attractions.

However, after 77 continuous years of business through two generations of ownership, the bathhouse is finally to close down. The old couple who run the place can no longer cope with burning the wood to heat the water. On closing day the entire soccer team, having won a game and with all the ill-feeling between them dispelled, all crowd into the bathhouse along with the regulars. But then there is a power cut . . . Readers are sure to sympathize with the efforts of Shuto and the others to support the business right until the end. (Sakuma)

  • Sato, Itsuko | Illus. Sato, Makiko
  • Kadokawa
  • 2019
  • 248 pages
  • 20×14
  • ISBN 9784041077054
  • Age 13 +

Soccer, Public Baths, Captain, Friendship

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2020」より)

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『ゆかいな床井くん』表紙

ゆかいな床井くん

『ゆかいな床井くん』(読み物)をおすすめします。

6 年生になった暦(こよみ)の隣には、人気者の床井(とこい)君が座っている。クラスでいちばん背が低い床井君はウンコの話もするし下品だけど、クラスでいちばん背が高い暦のことを「いいなあ」と純粋にうらやましがる。そのおかげで、「巨人族」とか「デカ女」という悪口も影をひそめている。暦は、クラスの同調圧力に一応気を使って思ったことをはっきり言わないこともあるが、床井君は、自分の意見をはっきり言うし、どの人にもいいところがあることをよく見ている。そんな床井君に暦はしだいに好意を持つようになる。

全部で14 章あるが、1章ごとにひとつのエピソードが紹介されていく。性への関心が強まり教育実習生に「巨乳じゃん」と言ってしまうトーヤ、学校のトイレで生理になり困ってしまう小森さん、塾では普通に話すのに学校では言葉を発することができない鈴木さん、父親が失業し友だちに八つ当たりしてしまう勝田さんなど、クラスにはさまざまな生徒がいる。なにかが起こるたびに暦は考え、床井君の反応に感心し、違う見方ができるようになって次のステップを踏み出していく。

11歳から/学校 視点 ユーモア

 

Happy Tokoi

This novel vividly portrays a year in the class of two Japanese sixth-grade students: Koyomi, a girl, and Tokoi, a boy.

One episode unfolds per chapter. In one episode, a boy named Toya blurts out that a student teacher has large breasts. In another, a girl named Omori realizes in the school bathroom that she’s gotten her period and doesn’t know what to do. Another girl, Suzuki, can speak freely at cram school but struggles to speak at school. Katsuta’s father has lost his job and unfortunately takes his stress out on her, so she takes her stress out on her classmates. Many different stories fill the class.

For her part, Koyomi is the tallest student and has been called “Giant” and “Amazon Woman,” but the shortest student in the class, Tokoi, once expressed jealousy of her, saying, “I wish I could be tall.” Now, nobody makes fun of height. Koyomi often feels pressured by classmates but dislikes playing along with them; in contrast, Tokoi voices his thoughts freely and finds the good in everyone. Koyomi gradually comes to admire Tokoi; when something happens, she considers it, observes Tokoi’s reaction, and takes a step toward trying someone else’s point of view.

Humorously narrated and filled with the appeal of Tokoi, this book keeps readers turning pages and offers them the appeal of new viewpoints. Winner of the Noma Children’s Literature Prize. (Sakuma)

  • Tomori, Shiruko
  • Kodansha
  • 2018
  • 192 pages
  • 20×14
  • ISBN 9784065139059
  • Age 11 +

School, Point of view, Humor

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2020」より)

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佐藤まどか『つくられた心』表紙

つくられた心

『つくられた心』(読み物)をおすすめします。

舞台は近未来。新設された「理想教育モデル校」では、スーパーセキュリティシステムが完備され、各クラスには監視役のガードロイドをまぎれこませて、カンニングやいじめや校内暴力を防止するという。これはカメラやマイクを内蔵した最新型のアンドロイドで、人間そっくりに作られ、人間と同レベルの知性を持ち、外見だけでなく性格の個性も備えてあるとのこと。

期待をもって転校してきた6 年生のミカは、席の近い鈴奈、お調子者の仁、フィリピン人の母親をもつジェイソンと仲よくなる。やがてクラスで、本来は禁止されている「ガードロイド探し」が始まると、ミカも疑心暗鬼になる。4人は、怪しいと思われる生徒の家に行ってみたり、マラソンをしても呼吸の乱れない生徒に探りを入れたりする。しかしそれより、もしかしてこの4人の中にガードロイドがいるのではないか? 友だちの笑顔はウソなのか? だれかにリモートコントロールされているのか? 本当は心なんてないのに、感情があるふりをしているのか? すべてが演技なのか? 疑念はふくらむ。

最後にガードロイド自身も自分の正体を知らされていないことが判明し、ガードロイドがだれかはわからないまま物語は終わる。だからこそよけいに、全員を監視する超管理体制ができあがった社会の不気味さが、読者にひしひしと伝わってくる。

11歳から/近未来 アンドロイド 疑念 友だち

 

Artificial Soul

The story is set in the near future. A newly established model school not only offers small classes and hightech facilities but also has a super security system to prevent cheating, bullying and violence. Each class has a guard-droid that looks and behaves just like one of the students, but is actually an android programmed with the same intelligence as a human and equipped with a built-in mike and camera through which the school can watch over the students. The androids each have their own personality and are indistinguishable from humans.

Mika comes to this new school with great expectations and makes friends with three students sitting near her. The students are forbidden to look for the guard-droid, but Mika’s class secretly tries to find out. Mika starts suspecting everyone. She and her group of friends visit the home of a girl who appears suspicious and closely observe a boy who never gets out of breath even when he runs a marathon.

But perhaps the guard-droid is really one of Mika’s friends. Are their smiles fake? Is one of them being operated by remote control and just pretending to have feelings? Is it all an act?

In the end, the students find out that even the guard-droid doesn’t know who the droid is, and its identity is never revealed. The author vividly conveys the frightening nature of a society in which everyone is watched and where it is impossible to tell the real from the fake. Artificial Soul warns us that the human mind could one day be subdued and controlled. (Sakuma)

  • Sato, Madoka | Illus. Urata, Kenji
  • Poplar
  • 2019
  • 176 pages
  • 20×13
  • ISBN 9784591162057
  • Age 11 +

Near Future, Android, Doubt

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2020」より)


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『ねこのこふじさん』表紙

ねこのこふじさん〜とねりこ通り三丁目

『ねこのこふじさん』(読み物)をおすすめします。

ネコのこふじは、働いていた広告会社で同僚から仲間はずれにされるようになり、退職して引きこもりになっていた。そんなこふじが、世界旅行に出かける祖母から、とねりこ通りの家の留守番をたのまれる。そして家賃がわりに「月に一度、その月らしい行事をする」という約束をさせられる。

仕方なく4月はお花見、5月は衣替え、6月は梅仕事、7月は七夕、8月は花火見物、9月はお月見、10 月は栗拾い、11 月は七五三、12 月はリース作り、1月はお正月料理、2月は豆まき、3月はひな祭り、と行事を行っていくうちに、こふじは、この町のさまざまな動物と出会い、交流するようになる。とねりこ通りに暮らす多様な動物たちの中には、帰国子女、独居老人、さびしさから暴力をふるう子などもいるが、お互いの欠点を補い合いながら暮らしている様子に、こふじも元気をもらう。そして1年たった頃には、いつしかこふじも、伝統的な織物を継承したいと意欲まんまんになっていた。

それぞれの月の行事については、ご近所に住むネズミのネズモリによる解説がつき、ネズモリ自身の物語も展開している。最後は、世界旅行から帰ってきた祖母を含め、物語の登場キャラクターが全員出てくるネズモリの結婚式の場面だ。絵もたくさんついた1章1話の楽しい物語。

11歳から/ネコ 行事 引きこもり 多様性

 

Kofuji the Cat

ーNumber 3 Ash Street

Kofuji the cat once worked very hard at an advertising company. When her coworkers began to treat her coldly, however, she quit her job. Now she stays at home, never leaving the house. One day, however, her grandmother asks her to take care of her house on Ash Street while she travels around the world. Instead of rent, she asks Kofuji to plan a monthly event, each one befitting the month in which it is held.

Although reluctant at first, Kofuji plans a picnic under the cherry blossoms in April, a seasonal change of clothing in May, plum juice-making in June, a star festival in July, fireworks in August, moon viewing in September, chestnut gathering in October, a festival for children aged three, five and seven in November, wreath making in December, making traditional New Year’s dishes in January, bean throwing in February, and a dolls’ festival in March. The neighbors on Toneriko Street are a diverse group of characters. There is a tapir who moved back from overseas and thinks she has to conform to fit in, a young fox who throws tantrums because she’s upset that her mother has a new fox cub, and an elderly monkey living on his own. Through her interactions with these different neighbors, Kofuji gradually perks up and by the end of the year, she has decided to start weaving traditional textiles.

Each monthly event is described by Nezumori, the postmouse who lives in the cupboard of her house. His own story also unfolds within this book, and the last scene is his wedding, which is attended by all the characters who have appeared, including Kofuji’s grandmother who has returned from her travels. With one story per chapter and plenty of illustrations, the book is easy and entertaining even for children unused to reading. (Sakuma)

  • Yamamoto, Kazuko | Illus. Ishikawa, Eriko
  • Alice-kan
  • 2019
  • 168 pages
  • 21×16
  • ISBN 9784752008934
  • Age 11 +

Cat, Event, Stay-at-home, Diversity

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2020」より)

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村中李衣『あららのはたけ』

あららのはたけ

『あららのはたけ』をおすすめします。

山口に引っ越した10 歳のえりと、横浜にとどまっている親友のエミが交換する手紙を通して物語が進行する。

えりは祖父に小さな畑をもらい、イチゴやハーブを育てることにする。そして、踏まれてもたくましく生きる雑草のことや、台風の前だといい加減にしか巣作りをしないクモのことや、桃の木についた毛虫が飛ばした毛に刺されて顔が腫れてしまったことなど、自然との触れ合いで感じたこと、考えたことをエミに書き送る。都会で育った子どもが田舎に行って新鮮な驚きをおぼえたり、感嘆したりしている様子が伝わってくる。

エミは、えりの手紙に触発されて調べたことや、今は自分の部屋に引きこもっている同級生のけんちゃんの消息を、えりに伝える。えりもエミも、幼なじみのけんちゃんのことを気にかけているからだ。

失敗の体験から学ぶことを大事にしているえりの祖父、まわりの空気を読まないで堂々としている転校生のまるも、けんちゃんをいじめたけれど内心は謝りたいと思っているカズキなど、脇役もしっかり描写されている。今の時代に、電話や電子メールではなく、手紙のやりとりによってふたりがつながりを深めていく様子は興味深いし、えりから届いた野菜の箱の中からカエルがぴょんと飛び出したことがきっかけで、けんちゃんに変化が訪れるという終わり方はすがすがしい。坪田譲治文学賞受賞作。

9歳から/畑 手紙 いじめ 自然

 

Garden of Wonder

This story unfolds through the letters exchanged between ten-year-old Eri, who has moved to Yamaguchi, and her friend Emi left behind in Yokohama. Through these letters we learn how Eri’s grandfather has given her a small patch of land where she grows strawberries and herbs. She writes all her thoughts to Emi, like how vigorously all the weeds grow even if you step on them; about a spider that only spins a temporary web when it senses a typhoon is about to hit; how her face swelled up when stung by hairs from caterpillars on the peach tree; and the feeling of being in contact with nature. The reader can appreciate the fresh amazement and wonder that a city-raised child feels upon moving to the countryside.

Emi tells Eri how she has studied about spiders and caterpillars thanks to her letters, and also about their classmate Kenji, who now won’t leave his bedroom. Kenji has been their friend since they were little, and they are both worried about him.

Other people in their lives include Eri’s grandfather, who emphasizes learning from experience and only tells her what to do after she has made a mistake; a new transfer pupil Marumo, who sticks to her own ways without realizing the pressures on her to change; and Kazuki, who bullied Kenji but deep down wants to apologize.

It is interesting to see how in this day and age Eri and Emi deepen their connection not by telephone or email, but by letters, and the story ends on a refreshing note when a frog jumps out of a box of vegetables that Eri sends Kenji, prompting him to step outside and begin to change. This book won the Joji Tsubota Prize. (Sakuma)

  • Muranaka, Rie | Illus. Ishikawa, Eriko
  • Kaiseisha
  • 2019
  • 216 pages
  • 21×16
  • ISBN 9784035309505
  • Age 9 +

Fields, Letters, Bullying, Nature

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2020」より)

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『お正月がやってくる』表紙

お正月がやってくる

『お正月がやってくる』(NF絵本)をおすすめします。

都会に住むなおこさん一家三世代の、歳末から新年までのさまざまな習慣をわかりやすく描いている。年の瀬になると、なおこさんたちは酉の市に出かけて熊手を買う。浅草のガサ市で買った材料を使って玉飾りや招福飾りを作り、門松やしめ縄と一緒に近所の人に売る。それが終わると大掃除をして、おせち料理を作り、大晦日には年越しそばを食べて新年を迎える。家族の仕事は工務店だが、お正月には獅子舞もしながら近所を回る。都会での年越しや正月の伝統が楽しくわかる作品。

6歳から/正月 年越し 獅子舞

 

It’s New Year!

This picture book portrays traditional Japanese New Year customs. The protagonist is Naoko, who lives in a modern city where her husband manages a construction firm. As the year draws to a close, they buy a special lucky rake from a shrine fair, and then some materials for New Year decorations at Asakusa’s Gasa-ichi fair. They use these materials to make traditional decorations, which they sell to local people. When they’ve finished that, their family thoroughly cleans their house from top to bottom, she prepares the special New Year’s food, and on New Year’s Eve they eat buckwheat noodles as they see in the New Year. And once the New Year has started, in order to chase out bad luck, Naoko’s husband and others put on the Lion Mask and dance to the accompaniment of drums and flutes as they go around the neighbourhood wishing everyone a Happy New Year. (Sakuma)

  • Text/Illus. Akiyama, Tomoko
  • Poplar
  • 2018
  • 32 pages
  • 24×27
  • ISBN 9784591160657
  • Age 6 +

New Year, New Year’s Eve, Lion dance

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2020」より)

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『まめつぶこぞうパトゥフェ』表紙

まめつぶこぞうパトゥフェ〜スペイン・カタルーニャの むかしばなし

『まめつぶこぞうパトゥフェ』(絵本)をおすすめします。

パトゥフェは、体は豆粒ぐらい小さいのに、なんでもやろうとする元気な男の子。お母さんにたのまれたおつかいも、踏みつぶされないように「パタン パティン パトン」と歌いながら歩いていき、ちゃんとなしとげる。ところが、お父さんにお弁当を届けに行こうとしてキャベツの葉の下で雨宿りしているとき、牛に飲み込まれてしまう。さあ、どうしよう。パトゥフェは牛のお腹の中でも歌って、お父さんとお母さんに居場所を知らせ、牛のおならとともに外に飛び出す。絵も文もゆかいで楽しい。

3歳から/昔話 牛 おなら おつかい

 

The Pea-sized Boy Patufet

ーA Folktale from Catalonia, Spain

Patufet is an active little boy who tries to do everything even though he is pea-sized. When his mother asks him to go and buy some saffron, he successfully fulfills his mission. To make sure no one steps on him, he sings “Patan, patine, paton” the whole way there. When he goes to take lunch to his father, however, it begins to rain. Patufet shelters under a cabbage leaf, but is swallowed by a cow that eats the cabbage. What does he do? The resourceful boy sings loudly inside the cow’s stomach so that his parents can find him and leaps out when the cow farts. The illustrations and text are fun and entertaining. (Sakuma)

  • Text: Uno, Kazumi | Illus. Sasameya, Yuki
  • BL Shuppan
  • 2018
  • 32 pages
  • 29×22
  • ISBN 9784776408628
  • Age 3 +

Folktale, Cow, Fart, Errand

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2020」より)

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『へいわとせんそう』表紙

へいわとせんそう

『へいわとせんそう』(絵本)をおすすめします。

谷川は、戦時中に空襲に遭い焼死体をたくさん見た実体験を持つが、この絵本では残酷な体験を語ったり抽象的に平和を説いたりはしない。最初の見開きは「へいわのボク」「せんそうのボク」、次は「へいわのワタシ」「せんそうのワタシ」というふうに、短い言葉で平和時と戦争時の状況を対比させていく。絵はモノクロの線画で、どの場面もシンプルでわかりやすく幼児にも伝わるものがある。最後の見開きの「みかたのあかちゃん」「てきのあかちゃん」ではどちらもまったく同じ絵になっている。

3歳から/平和 戦争

 

Peace and War

As a teenager, the author was forced to flee from fire bombs during World War II, at which time he saw countless corpses. In this book, however, he neither shares those painful experiences nor talks about peace in abstract terms. Instead, he takes familiar things and actions that we take for granted and juxtaposes what they look like during a time of peace and a time of war. The book begins with a child (me at peace, me at war) and progresses through a father, a mother, a family, a tool of peace (a pencil) and a tool of war (a gun), as well as such things as a queue, a tree, the sea, a town, night, and a cloud. Except for the mushroom cloud rising from the atomic bomb, which is a photo, the pages are illustrated with simple black-and-white drawings. In the last spread, “a baby on our side” and “an enemy baby,” the pictures are identical. (Sakuma)

  • Text: Tanikawa, Shuntaro | Illus. Noritake
  • Bronze Publishing
  • 2019
  • 32 pages
  • 19×19
  • ISBN 9784893096579
  • Age 3 +

Peace, War

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2020」より)

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『あまがえるのかくれんぼ』表紙

あまがえるのかくれんぼ

『あまがえるのかくれんぼ』(絵本)をおすすめします。

アマガエルの子ども3 匹がかくれんぼをして遊んでいると、1匹の体がいつのまにか茶色っぽくなってしまう。洗ったりこすったりしても体の色はもどらない。どうしてだろう? そのとき突然空からサギが舞い降りてくる。こわい!でも、サギは気づかずに去っていく。アマガエルは、成長すると、体色が周囲の色に合わせて変化するようになるのだが、この絵本はそのことを、物語として伝えている。何年もアマガエルを飼育し観察してきた画家の絵はリアルで、あちこちに小動物を発見する楽しみもある。

4歳から/アマガエル 保護色 かくれんぽ

 

Little Frogs Play Hide-and-Seek

Three frog children are playing hide-and-seek in the grass, when all of a sudden one of them turns brown. The other two wash and scrub him, but his color remains stubbornly brown. They are wondering why when suddenly a heron swoops down from the sky. The shocked frogs freeze, and the heron moves away without noticing them. Through a fun story, this picture book informs the readers how as frogs grow, their bodies change color to blend in with their surroundings. The illustrator spent a number of years watching tree frogs breed, and her illustrations accurately capture the actions of the frogs. It is also fun discovering the other small creatures. (Sakuma)

  • Text: Tateno, Hiroshi | Illus. Kawashima, Haruko
  • Sekai Bunkasha
  • 2019
  • 24 pages
  • 27×24
  • ISBN 978441819- 8085
  • Age 4 +

Tree frogs, Camouflage, Hide-and-seek

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2020」より)

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ノウサギの家にいるのはだれだ?〜ケニア マサイにつたわるおはなし

ノウサギが外から戻ってくると家の中にはだれかがいる。だれだと問うと、そいつが「おれは強くて勇敢な戦士だぞ。サイを張り倒すことだって、ゾウを踏みつぶすことだって、ちょいのちょいだ」というので、ノウサギは怖くなって、ほかの動物に助けを求める。ジャッカル、ヒョウ、サイ、ゾウが助けにくるものの、みんな怖くなって逃げていく。最後にカエルがやってきて、とうとう中にいたものが最後にわかって、みんなで大笑い。

斎藤さんの絵がとてもいいので、見てください。
(編集:檀上聖子さん 装丁:中浜小織さん)

 

〈マサイの人たちに伝わる昔話〉(あとがき)

本書は、東アフリカに暮らすマサイの人たちに伝わる昔話で、勇敢な戦士であることが重んじられていたマサイの人たちの価値観が色濃く反映されているように思います。力の弱い者が家をのっとられて、ほかの動物に加勢を頼みます。加勢してくれる動物たちは、しだいに大きく強くなっていきますが、中から聞こえてくる大言壮語にみんな怖気づいてしまいます。偉そうに声を張り上げていた者の正体が最後にわかると、みんながびっくりする、という展開がとてもゆかいですね。

マサイの人たちは、ケニアとタンザニア北部に暮らしています。もともとは遊牧民ですが、今はあちこちに動物保護区や国立公園ができてしまい、自由に動き回ることができなくなっています。伝統的な文化や風習を重んじる人も多いのですが、なかには『ぼくはマサイ〜ライオンの大地で育つ』(さくま訳 さ・え・ら書房)の著者ジョゼフ・レマソライ・レクトンさんのように外国に留学して政治家になった人もいます。

マサイの昔話は、以前『ウサギのいえにいるのはだれだ?』(ヴェルナ・アールデマ文、レオ・ディロン&ダイアン・ディロン絵 やぎたよしこ訳 ほるぷ出版)という絵本が日本でも翻訳出版されていました。登場する動物たちはほぼ同じですが、マサイの人たちが上演する劇という形をとっていて、話そのものももう少し複雑なので、本書とは趣がずいぶん違います。本書のようなシンプルな昔話をもとにして、いろいろなバージョンが生まれてきたのだと思います。

同じような昔話は、ロシアにもあります。『きつねとうさぎ』(ユーリー・ノルシュテイン絵 フランチェスカ・ヤールブソワ絵 こじまひろこ訳 福音館書店)という絵本では、家をのっとられたのはウサギで、のっとったキツネを追い出そうとします。東アフリカとロシアではずいぶん離れているし、文化も違うのに、同じようなお話が伝わっているのは、おもしろいですね。

本書では斎藤隆夫さんが、東アフリカの風土や動物たちの特徴と魅力をじゅうぶんに生かした、とてもおもしろい絵を描いてくださいました。マサイの人たちが暮らすサバンナに行ったつもりで、お話を楽しんでいただければ幸いです。

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『ようこそ、難民』表紙

ようこそ、難民!〜100万人の難民がやってきたドイツで起こったこと

『ようこそ、難民!』(NF)をおすすめします。

本書は厳密には事実に基づく創作だが、事実の部分が多いのでここ(NF)に入れた。ドイツに永住した著者が、難民とはどのような人たちで、なぜ自分の国を逃げ出さなくてはならなくなったのか、ドイツはなぜ難民を多く受け入れたのか、感情や理想だけでは進まないという事実、文化の違いから来る誤解、イスラム教徒もそれぞれに違うこと、難民がドイツになじむために行われている教育などについてもわかってくる。多様な視点が登場するのがいい。

11歳から/難民 ドイツ 多文化共生

 

Refugees, Welcome!

―When a Million Refugees Arrived in Germany

This book is not non-fiction in the strictest sense, but much of it is real, which is why it is included here. The author, a Japanese woman in Freiburg, discusses refugees. What sort of people are refugees and why did they have to flee their countries? Why did Germany recently accept so many refugees? What actions were taken by German people against them? Why can’t reality be sustained by emotions and ideals alone? What misunderstandings arose from cultural differences? What are the differences between the various adherents of Islam, and what was done to help the refugees learn German? She tackles the issue from various perspectives, giving readers the opportunity to think for themselves. (Sakuma)

  • Imaizumi, Mineko
  • Godo Shuppan
  • 2018
  • 176 pages
  • 22×16
  • ISBN 978-4-7726-1339-2
  • Age 11 +

Refugees, Germany, Multicultural society

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2019」より)

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『世界を救うパンの缶詰』表紙

世界を救うパンの缶詰

『世界を救うパンの缶詰』(NF)をおすすめします。

パン職人の秋元義彦さんは、1995年の阪神・淡路大震災をきっかけに、固い乾パンではなく、幼い子どもや老人でも食べられるパンの缶詰を作ろうと考え、さまざまな工夫や改良を重ね、試行錯誤をくり返したのちにとうとう完成させる。次に秋元さんは、賞味期限が近づいたパン缶を回収して、海外の被災地や飢餓地帯に送ることを思いつく。アイデアをひとつひとつ具体的に実現させてきたひとりの職人の考え方や、やり方を伝える感動的な読み物。

11歳から/パン 缶詰 職人 夢の実現

 

Saving the World With Canned Bread

This book is about a baker called Yoshihiko Akimoto. When the Kobe earthquake happened in 1995 and there was a need for nonperishable food, Mr. Akimoto hit upon the idea of canning bread that so that it would be soft enough for children and the elderly to eat. After trying many techniques and improvements, and much trial and error, he finally succeeded. Next Mr. Akimoto decided to recall unused canned bread that was approaching its expiry date, and send it to disaster and famine areas around the world through NGOs. This is a moving book about how one artisan dreamed of building a business that would benefit not just his local area but the world at large, and took the necessary steps to make his dream come true. (Sakuma)

  • Text: Suga, Seiko | Illus. Yamashita, Kohei
  • Holp Shuppan
  • 2017
  • 156 pages
  • 20×15
  • ISBN 978-4-593-53523-1
  • Age 11 +

Bread, Canned food, Artisans, Dreams

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2019」より)

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『しあわせの牛乳』表紙

しあわせの牛乳〜牛もしあわせ!おれもしあわせ!

『しあわせの牛乳』(NF)をおすすめします。

岩手県の「なかほら牧場」では、115-19年中放牧されている牛が無農薬の野シバを食べ、自然に子どもを産み、山林と共生している。人間は子牛の飲み残した牛乳をもらう。牛の健康を犠牲にして効率を重視する「近代酪農」がほとんどのなか、経営者の中洞さんは、「しあわせに暮らす牛から、すこやかでおいしい牛乳を分けてもらうほうが、みんなうれしい」と信じ、困難を乗り越えて山地酪農の道を切りひらいた。信念を貫くすがすがしい生き方が感動的。

11歳から/牧場 牛乳 アニマル・ウェルフェア

 

Milk of Happiness

Japan’s first dairy farm to be animal welfare-certified is Nakahora Farm in Iwate Prefecture. This book tells of Mr. Nakahora’s struggles to reach this point. In his dairy operation, cows are let out to pasture year-round. They eat pesticide-free wild grasses, birth their calves naturally, and live in harmony with the mountains and the woods. People receive the milk left over from nursing their calves. In an age when “modern” methods call for sacrificing cows’ health to raise efficiency, Mr. Nakahora believes that “even if we cannot drink milk every day, it is better to receive rich, tasty milk from cows living happy lives. That makes everyone happy!” The way he lives out his ideals is very moving. (Sakuma)

  • Text: Sato,Kei | Photos: Yasuda, Natsuki
  • Poplar
  • 2018
  • 175 pages
  • 20×14
  • ISBN 978-4-591-15813-5
  • Age 11 +

Ranching, Milk, Animal welfare

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2019」より)

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谷山彩子『文様えほん』

文様えほん

『文様えほん』(NF絵本)をおすすめします。

文様とは、「着るものや日用品、建物などを飾りつけるために描かれた模様」とのこと。文様は、縄文時代から土器や人形に描かれていたし、現代でもラーメン鉢や衣服に描かれている。文様のモチーフは、植物、動物、天体や自然などさまざまだし、線や図形を組みあわせた幾何学文様もある。本書は、こうした多種多様な文様を紹介するだけでなく、地図で世界各地の文様の違いや伝播を見せてくれる。文様について楽しく学べる絵本。巻末に文様用語集や豆知識もついている。

10歳から/模様 パターン 日本の伝統

 

The Pattern Picture Book

Patterns are the designs created to decorate clothes, articles in daily use, buildings, and so forth. In Japan, spatulas, bamboo sticks, shells, and nails have all been used to pattern pots and figurines since the Jomon period, and these days ramen bowls and clothes too. This book not only introduces Japanese patterns using various motifs of plants, animals, celestial bodies and nature, and geometrical patterns combining lines and figures, but it also includes a map to show differences with other patterns around the world and how some patterns of one region have spread to others. Along with illustrations, the book also includes a glossary of terms and useful information for readers to enjoy learning about the patterns. (Sakuma)

  • Text/Illus. Taniyama, Ayako
  • Asunaro Shobo
  • 2017
  • 48 pages
  • 21×22
  • ISBN 978-4-7515-2828-0
  • Age 10 +

Patterns, Motifs, Japanese tradition

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2019」より)

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『デニムさん』表紙

デニムさん〜気仙沼・オイカワデニムが作る 復興のジーンズ

『デニムさん』(NF)をおすすめします。

東日本大震災からの復興を、縫製会社の社長・及川秀子さんの姿を通して描いた読み物。今は、高い技術で世界的に知られる「オイカワデニム」だが、夫の死や経済不況を乗り越えてようやく軌道に乗せたと思ったら、倉庫や自宅が大津波にさらわれてしまう。及川さんは高台にあった工場を臨時の避難所にし、その後も新たなアイデアを生かして復興の先頭に立ってきた。どんな時にも明るさを失わない及川さんに心を寄せながら震災を振り返ることができる。

10歳から/震災からの復興 女性 衣服

 

Ms. Denim

ーThe Jeans Produced by Oikawa Denim as a Symbol of Recovery

The city of Kesennuma, Miyagi Prefecture, sus- tained devastating loss in the 2011 Great East Japan Earthquake and Tsunami, as well as the terrible fire that followed. This book depicts the disaster and recovery through the eyes of a woman, Hideko Oikawa. Just when she had managed to get her jeans manufacturing business on course after losing her husband and going through a recession, the quake struck. She lost her warehouse and her house in the subsequent tsunami. Oikawa turned her factory into an evacuation site and became a leader in the recovery effort. Her new ideas and the resilience of Tohoku people have made Oikawa Denim an internationally respected brand. (Sakuma)

  • Text: Imazeki, Nobuko
  • Kosei Shuppansha
  • 2018
  • 128 pages
  • 22×16
  • ISBN 978-4-333-02780-4
  • Age 10 +

Earthquake recovery, Women, Apparel

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2019」より)

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『まなぶ』表紙

まなぶ

『まなぶ』(NF 写真絵本)をおすすめします。

キューバ、アフガニスタン、ミクロネシア、アンゴラ、ウズベキスタン、スリランカ、そして日本など、世界各地の子どもや若者たちが、学校や家や高原や旅先で学んでいる姿をすばらしい写真で紹介し、「学ぶ」ことにはどんな意味があり、「学ぶ」ことでどんなふうに世界が開け、「学ぶ」ことで何が受け継がれ、「学ぶ」ことがいかに平和につながっていくかを伝えている。子どもたちの真剣な表情と、未来を見つめている笑顔が印象的。同じシリーズに『はたらく』と『いのる』がある。

6歳から/学習 学校 文化

 

Learning

This photo picture book includes striking photos of children and young adults from Japan, Cuba, Afghanistan, Micronesia, Angora, Uzbekistan, Sri Lanka, Cambodia and other places around the world as they learn, both at school and at home, on the high plains and while travelling. Through them we can see what it means to learn, how the world opens up when we learn, what we inherit when we learn, and how learning is linked to peace. It is hard to forget the serious faces of the children, and their smiling faces as they look to the future. The same photo book series includes the titles Working and Praying (published 2017). (Sakuma)

  • Text/Photos: Nagakura, Hiromi
  • Alice-kan
  • 2018
  • 40 pages
  • 26×20
  • ISBN 978-4-7520-0843-9
  • Age 6 +

Study, School, Culture

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2019」より)

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戸森しるこ『理科準備室のヴィーナス』

理科準備室のヴィーナス

『理科準備室のヴィーナス』(読み物)をおすすめします。

中学1年生の瞳は、母親とふたり暮らしで、学校では疎外感を感じている。そんな瞳は、保健室に居合わせた理科の教師・人見先生に手当をしてもらったことから、アウトロー的なこの先生に魅了されていく。人見先生は第二理科準備室で授業のない時間を過ごすことが多く、顔がヴィーナスに似ていて、シングルマザーで幼い子どももいるらしい。そのうち瞳は、一風変わった男子の正木君も人見先生に惹かれているのに気づく。正木君と瞳は、美人でやさしく、しかも危険な匂いのするこの先生を「たったひとりの、特別な、かわりのきかない存在」だと考えて、第二理科準備室に入り浸る。性別の違うふたりの生徒と先生の、微妙なバランスの上で揺れる三角関係だ。大きな事件が起こるわけではないが、憧れに胸を焦がし、細かく揺れ動く思春期前期の子どもの心の情景を見事に描いた作品。

12歳から/憧憬 教師 学校

 

The Venus of the Science Lab

Hitomi Yuuki is in the first year at junior high. She lives with her mother, and she hardly ever sees her father since her parents divorced. She feels alienated at school. After she is tripped up in the classroom and falls, she goes to the sickroom for first aid treatment and has a conversation with the science teacher Ms. Hitomi, who happens to be there at the time. She develops a crush on the young teacher, whose surname Hitomi sounds like her own first name. Ms. Hitomi often spends time when she doesn’t have classes in the #2 Science Lab, and her face resembles Botticelli’s Venus. She is thirty-one, considerably older than student Hitomi, and is a single mother with a young child. She openly flouts school rules, eating sweets in front of her pupils, and to Hitomi she is the most beautiful, kindest, and also the most dangerous person she has ever known.
One day, Hitomi notices another boy, Masaki, staring at Ms. Hitomi. Masaki and Hitomi start spending all their time in #2 Science Lab, and both desire the teacher in slightly different ways. Nevertheless, both of them feel that she is a special, unique, and irreplaceable person in their lives. The three-way relationship between the two pupils, boy and girl, and their teacher maintains a delicate and complex balance. In the end it breaks down, but by then Hitomi has begun to think of Masaki, who is eccentric and tends to take chances, as a kindred spirit. “He was necessary in order to get close to something out of reach,” she thought.
Nothing dramatic happens in this book, but it wonderfully portrays the fluctuating emotions of children in early adolescence being consumed by longing. (Sakuma)

  • Text: Tomori, Shiruko
  • Kodansha
  • 2017
  • 206 pages
  • 20×14
  • ISBN 978-4-06-220634-1
  • Age 12 +

Aspirations, Teachers, School

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2019」より)

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濱野京子著『ドリーム・プロジェクト』PHP研究所

ドリーム・プロジェクト

『ドリーム・プロジェクト』(読み物)をおすすめします。

中学2年生の拓真の家には、祖父の勇が同居している。80歳になる勇は、ある日黙って家をでて、家族を心配させる。勇は、自分がもと住んでいた山あいの奥沢集落に向かおうとしていたのだ。勇がこの集落や、自宅だった古民家をなつかしんでいることに気づいた拓真は、古民家を修繕して、地域の人たちの憩いの場にしようと思い立つ。そこで友だちの協力もあおいで知恵をだしあい、必要な資金をクラウドファンディングで集めるプロジェクトを立ちあげる。拓真たちはフライヤーを作って配ったり、SNSで情報を拡散したり、地元の有力者に会いにいったりして努力を重ねる。160万円という目標の達成には多くの人の支援が必要になるが、果たして資金は集まるのだろうか? 楽しい読み物としてどきどきしながら読み進むうちに、クラウドファンディングの仕組みについても知識が深まる。

12歳から/クラウドファンディング インターネット 仲間

 

Dream Project

Takuma is in the second year at junior high. His grandfather Isamu has been living with him since losing his wife. Isamu is now 80, and when he leaves the house one day without saying anything, the family are worried about him. When they investigate, they discover that he has gone to the village in the mountains where he used to live. Realizing that Isamu is missing the village and his old house, which now lies empty, Takuma hits upon the idea of renovating the old wooden thatched house and making it into a center where local people can gather. He gains the support of some of his friends at school, and pooling their knowledge, they work together to set up a project to raise the necessary money through a crowdfunding campaign. They go to a crowdfunding company to explain their project, learn about the procedures, and receive advice, and then decide to go ahead with the project.
Takuma and his friends don’t just make the crowdfunding page, they work hard on the project doing things like making flyers to hand out at bus stops in the morning, spreading information via Twitter and Facebook, showing supporters from the city around, going to meet the former mayor who is a local figure of authority, and so forth. They need to get a lot of people to support them in order to meet their target of 1.6 million yen. Will they manage to raise the funds in the end? This entertaining and exciting read also deepens knowledge of the procedures of crowdfunding and how to participate in society. (Sakuma)

  • Text: Hamano, Kyoko
  • PHP Institute
  • 2017
  • 205 pages
  • 20×14
  • ISBN 978-4-569-78777-0
  • Age 12 +

Crowdfunding, Internet, Friendship

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2019」より)

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『こんぴら狗』表紙

こんぴら狗

『こんぴら狗』(読み物)をおすすめします。

江戸時代、商店の娘・弥生に拾われて大きくなった犬のムツキは、ある日、江戸から讃岐(今の香川県)にある金比羅神社までお参りに出される。弥生の病気の治癒を祈願する家族の代理で参拝することになったのだ。ムツキは途中で、托鉢僧、にせ薬の行商人、芸者見習い、大工、盲目の少年など、さまざまな職業や年齢の人々に出会い、ひとときの間道連れになって旅をする。そして、川に落ちたり、雷鳴に驚いてやみくもに逃げ出して迷子になったり、姿のいい雌犬と出会って仲良くなったり、追いはぎに襲われた道連れを助けたり、といろいろな体験をしながら、金比羅神社までの往復をなしとげる。ムツキをかわいがっていた盲目の少年が、やがてムツキの子どもをもらうという終わり方にもホッとできる。たくさんの資料や文献にあたったうえで紡がれた、愛らしいリアルな物語。多くの賞を受賞している。

12歳から/犬 参拝 旅

 

Konpira Dog

This is an entertaining adventure novel with a dog as the protagonist, and is also historical fiction introducing the customs and lifestyle of Japanese people in the Edo period (1603-1868). The dog, Mutsuki, had been abandoned, but was rescued by Yayoi, the daughter of a wealthy merchant, and is now grown up. In this story he is sent on a pilgrimage from Edo (Tokyo) to a shrine in Sanuki (today’s Kagawa Prefecture in western Japan) dedicated to Konpira, the guardian deity of seafarers. He is being sent as the family’s representative to pray that Yayoi will recover from illness. He sets out carrying a bag around his neck containing a wooden slab engraved with his owner’s name and address, a monetary offering for the shrine, and enough money for buying food to last him the journey. He comes to be known as “Konpira Dog” and is looked after by travelers and other people he crosses paths with, so eventually he completes his mission and returns home safely.
On his travels, Mutsuki keeps the company of many people of different trades and ages, including a mendicant, a snake oil peddler, an apprentice geisha, and a carpenter. He also has many experiences on his pilgrimage, such as falling into the river, making friends with an attractive female dog, and saving a traveling companion from bandits. His last companion on the road is a woman who runs a kerosene wholesale business and whose young son Muneo is blind. The boy is later given Mutsuki’s puppy, providing a satisfying conclusion to the story. The author researched the subject thoroughly to make it into a creative yet realistic story. The book won the Sankei Children’s Publishing Award, the Association of Japanese Children’s Authors Award, and the Shogakukan Children’s Book Award. (Sakuma)

  • Text: Imai, Kyoko | Illus. Inunko
  • Kumon Shuppan
  • 2017
  • 344 pages
  • 20×14
  • ISBN 978-4-7743-2707-5
  • Age 12 +

Dogs, Pilgrimage, Travel

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2019」より)

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魚住直子『いいたいことがあります!』表紙

いいたいことがあります!

『いいたいことがあります!』をおすすめします。

小学校6年生の陽菜子は、家事も勉強もちゃんとやれと口うるさくいう母親がうっとうしくて仕方がない。単身赴任中の父親はともかく、兄が家事を免除されているのも不公平だと思っている。ある日、陽菜子は不思議な女の子に出会い、その子が落としたらしい手帳を拾う。手帳には、「わたしは、親に支配されたくない。わたしは、わたしの道をいきたい」と書き付けてあった。何度か現れてアドバイスもしてくれる、あの不思議な女の子はいったい誰なのか? その謎を追いかけていくうちに陽菜子はしだいに強くなり、母親にも言い返せるようになる。最後に、不思議な女の子の謎がすべて解けたときには、陽菜子と母親の遠かった距離は近くなり、ふたりとも本来の自分の道を探す一歩を踏みだせるようになっていた。ファンタジー的要素も取り込んで現代の少女が置かれた状況を生き生きと伝える。

11歳から/母と娘 手帳 自分の道 家事の分担

 

I’ve Got Something to Say!

A story that with elements of fantasy portrays what life is like for girls in Japan. It is an entertaining read that has you wondering about a mysterious girl that the protagonist meets. Hinako is in her last year at elementary school and irritated at being constantly nagged by her mother to study and do housework. She feels it’s unfair that her brother is exempted from housework, as is her father on account of being posted to a job far away. Her mother believes it’s for the best to be strict with her, and Hinako cannot openly defy her. Thus their relationship quickly deteriorates as Hinako harbours counterveiling feelings of rebellion and guilt. And then Hinako meets a mysterious girl, who leaves behind a notebook in which it is written, “I don’t want to be controlled by my parents. I want to follow my own path.” Subsequently the girl turns up numerous times, and following her advice Hinako gradually becomes able to say the things she wants to say to her mother.
When her mother tells her off for playing hooky from the cram school, on the spur of the moment Hinako skips a mock exam and instead goes to her deceased grandmother’s old abandoned house. On the way there she again meets the mysterious girl, and they go into the house together. They are there talking together when Hinako’s Aunt Megumi (her mother’s sister) turns up and the mysterious girl vanishes. Her mother follows her aunt in, and as they talk things over they solve the mystery of the mysterious girl, clarifying her true identity. Hinako and her mother become closer as a result, and they are both able to take the first steps to seeking their own paths in life. The story depicts the difficulties between a girl in early adolescence and her mother. (Sakuma)

  • Text: Uozumi, Naoko | Illus. Nishimura, Tsuchika
  • Kaiseisha
  • 2018
  • 186 pages
  • 20×14
  • ISBN 978-4-03-727290-6
  • Age 11 +

Mothers and daughters, Notebooks, Housework

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2019」より)

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『青がやってきた』表紙

青(はる)がやってきた

『青がやってきた』(読み物)をおすすめします。

青(ハル)は小学校5年生の男の子だが、父親が「ドリーム・サーカス」のマジシャン(ハルにいわせれば本物の魔法使い)で、サーカスが鹿児島、福岡、山口、大阪、千葉と興業先を転々とするたびに自分も転校し、行く先々でさまざまな子どもたちに出会う。勉強や容姿にコンプレックスをもつ子もいるし、給食の野菜が嫌いで食べられない子もいるし、かと思うと、自分のだといい張るおじいさんからサーカスの犬を取り返してくれる子もいる。宮城にいたときに津波で父親を失った子は、マジシャンの修業をしているなら、亡くなった父親をマジックでだしてくれとハルに迫る。多様な状況にいる5年生を描く短編集だが、ハルと出会ったのがきっかけで、どの子も最後には精神的な成長を見せる。一編ずつが短いなりにまとまっているので、読書慣れしていない子どもにも薦められる。

10歳から/転校 サーカス 不思議

 

Here Comes Haru!

This collection of short stories realistically portrays the daily lives, environments, and problems of elementary school fifth grade children in five regions of Japan. Haru, a circus boy who never spends much time in one school as his family is constantly on the move, plays a supporting role throughout the book. His father is a magician in the world-famous Dream Circus, and Haru makes new friends at every new school he attends. Mio, who lives in Kagoshima, is worried about being bad at studying, while Mai, who lives in Fukuoka, has a complex about her appearance and an awkward relationship with her best friend. In Yamaguchi, Haru catches straight A student Shu sneaking the vegetables from school lunch into a plastic bag to hide them, and in Osaka he asks Kazuki to help him get a circus dog back from the mean old man next door, while in Chiba Koki presses Haru to use magic to bring back his father who was swept away when the tsunami hit in Miyagi. The book ends with a conversation between Haru and his father in the car as the circus heads to its next location. The children Haru meets all grow psychologically, but is that because the eccentric new boy Haru placed a spell on them, or was it a natural result from having met him? The author leaves this point open to the reader’s imagination. Each of the stories ends on an upbeat note, making the reader feel positive, so it is recommended for children not generally fond of reading. (Sakuma)

  • Text: Mahara, Mito | Illus. Tanaka, Hirotaka
  • Kaiseisha
  • 2017
  • 214 pages
  • 19×13
  • ISBN 978-4-03-649050-9
  • Age 10 +

School transfers, Circuses, Magic

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2019」より)

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富安陽子文 山村浩二絵 『絵物語 古事記』偕成社

絵物語 古事記

『絵物語 古事記』(読み物)をおすすめします。

712年に成立した日本最古の歴史書といわれる「古事記」(3巻本)の中から、神話をとりあげた上巻を、人気作家が物語として再話し、国際的なアニメーション作家でもある画家が、楽しい絵をつけた作品。監修者は、「古事記」の研究者。イザナキとイザナミによる国生み、イザナキの黄泉の国訪問、天の岩屋、やまたのおろち、稲羽の白うさぎ、海幸彦と山幸彦など、日本でもおなじみの神話が紹介されている。富安は、現代作家ならではの視点で、それぞれの話に流れをつけ、わかりやすくてダイナミックな物語に仕上げている。各ページにイラストを入れている山村は、さまざまな神々をユーモラスかつ人間くさく描くことによって、読者の興味をひくことに成功している。後書きには、「古事記」が作られた経緯や、成立にかかわった人々についての解説が載っている。

8歳から/神話 不思議

 

Illustrated KOJIKI

The Stories of Japanese Gods and Goddesses

Dating back to AD 712, the Kojiki is said to be Japan’s oldest historical record. It describes Japan’s history from the foundation of the nation to the era of Empress Suiko in the 7th century. The first volume tells richly imaginative tales of the gods, while Volumes 2 and 3 record the imperial lineage and major events during each reign. In this book, a children’s author who has been nominated for the Andersen Award from Japan retells the stories of Volume 1, accompanied by entertaining illustrations by an internationally renowned animator. The supervisor is a scholar of the Kojiki.
Myths known by Japanese children are retold here, such as the story of how the god Izanaki and goddess Izanami used a magical spear to form the country out of chaos; the story of how after her death, Izanaki chased Izanami through the underworld; and stories of how the sun goddess Amaterasu was so disgusted by the bad behavior of her younger brother Susanoo that she hid herself in a cave, and how Susanoo slayed the eight-headed monster Yamata no Orochi after being banished from heaven, and how the god Oonamuji saved the white hare that had its fur ripped out after tricking the sharks, and about the quarrel between the god Hoderi, who lived off the bounty of the sea, and the god Hoori, who lived off the bounty of the mountain.
Tomiyasu retells these many myths from the perspective of a contemporary author, making them into highly readable, entertaining, and exciting tales. Yamamura’s illustrations appear on every page, with amusing and humanlike portrayals of the deities that successfully draw children in. An afterword introduces how the Kojiki came to be written and the people who were involved in producing it. (Sakuma)

  • Text: Tomiyasu, Yoko | Illus. Yamamura, Koji | Spv. Miura, Sukeyuki
  • Kaiseisha
  • 2017
  • 255 pages
  • 22×15
  • ISBN 978-4-03-744870-7
  • Age 8 +

Myths, Gods

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2019」より)

 

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『手ぶくろを買いに』表紙

手ぶくろを買いに

『手ぶくろを買いに』(絵本)をおすすめします。

母狐は、雪で遊んで手が冷たくなった子狐に手袋を買ってやりたいと思うが、人間が怖い。そこで子狐の片方の前足を人間の手に変え、白銅貨をもたせて店に行かせる。子狐は違う前足を出してしまうが手袋を売ってもらえたので、人間はちっとも怖くなかったというのだが、母狐は「ほんとうに人間はいいものかしら」とくり返す。おなじみの童話に新たにつけた絵からは、寒々とした雪景色と対比するような狐母子の温かい愛情が伝わってくる。

7歳から/手袋 キツネ 冬 人間

 

Shopping for Mittens

Children’s author Niimi Nankichi (1913-1943) has been long loved by Japanese children, and his most popular work of all has been newly illustrated by a contemporary artist. When a fox cub’s front paws get cold as it plays in the snow, the mother fox turns one of the cub’s front paws into a child’s hand, gives it couple of coins, and sends it to the store. The fox cub holds out the wrong paw, but since the human sells it the glove anyway, it isn’t at all afraid. When it gets home, its mother also says, “I suppose it’s possible that humans really are good.” The illustrations capture the love between the mother fox and her cub amidst the snowy landscape. (Sakuma)

  • Text: Niimi, Nankichi | Illus. Doi, Kaya
  • Asunaro Shobo
  • 2018
  • 32 pages
  • 31×22
  • ISBN 978-4-7515-2837-2
  • Age 7 +

Mittens, Foxes, Winter, Humans

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2019」より)

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『ぼんやきゅう』表紙

ぼんやきゅう

『ぼんやきゅう』(絵本)をおすすめします。

岩手県釜石市の鵜住居地区は海に面しているので、2011年の津波に襲われて大きな被害を受けた。そのせいで、人々は生活を立て直すだけで精一杯となり、戦後ずっとお盆の時期に開かれていた野球大会も中断されていた。2017年、野球大会を再開して地域を復興させようと父親たちが立ち上がる。現地でさまざまな人を取材した絵からも臨場感が伝わってくる。巻末には、この地区の盆野球の歴史と、復活への経緯が、写真とともに掲載されていて、応援したくなる。

6歳から/津波 お盆 野球 震災からの復興

 

The Obon Baseball Tournament

Being next to the sea, the district of Unosumai in Kamaishi, Iwate prefecture, was severely damaged by the tsunami in 2011. Because of that, the baseball tournament held during the summer Obon festival ever since the end of the war was also cancelled. Everybody was too busy getting back on their feet. In 2017, local fathers decided to revive the tournament in order to help the area recover. This picture book portrays the occasion from the children’s perspective. The artist went to the location to talk to various people, so the pictures make you feel as though you are actually there. At the end of the book, a history of the district’s Obon Baseball Tournament and how it was revived is included along with photos. (Sakuma)

  • Text: Sashida, Kazu | Illus. Hasegawa, Yoshifumi
  • Poplar
  • 2018
  • 40 pages
  • 28×23
  • ISBN 978-4-591-15904-0
  • Age 6 +

Tsunami, Obon, Baseball, Earthquake recovery

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2019」より)

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寮美千子文 小林敏也画『イオマンテ:めぐるいのちの贈り物』ロクリン社

イオマンテ〜めぐるいのちの贈り物

『イオマンテ』(絵本)をおすすめします。

アイヌに伝わる〈クマ送り〉の儀式をめぐる絵物語。主人公の少年は、父親が仕留めた母グマの子どもをかわいがり一緒に成長するが、やがて別れの日がやってくる。成長した子グマを神の国へ送る儀式が行われることになったからだ。詩的な文章とスクラッチ技法による美しい絵が、さまざまな感情の交錯する世界をうまく表現している。生命が軽視されることの多い今の時代に、「いのちのめぐみ」を受け取るとはどういうことかを伝えている。

6歳から/アイヌ(先住民) 生命 クマ

 

Iomante

ーThe Gift of the Cycle of Life

A picture book about the ritual held by the Ainu, indigenous people of Hokkaido, when bears were killed. The protagonist is a young boy who dotes on a bear cub after its mother was killed by his father. They grow up together, and the villagers, too, rear the bear carefully as a god. However, the day they must part finally arrives. It is time to hold the ritual to send the grown bear cub to the land of the gods. A range of emotions in the unique world of the Ainu is beautifully portrayed through poetical phrasing and powerful scratch art illustrations. In these times, when life is often treated lightly, this work shows what it means to accept its blessings. (Sakuma)

  • Text: Ryo, Michiko | Illus. Kobayashi, Toshiya
  • Rokurinsha
  • 2018
  • 68 pages
  • 26×19
  • ISBN 978-4-907542-566
  • Age 6 +

Ainu (Indigenous people), Life, Bears

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2019」より)

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『巨人の花よめ』表紙

巨人の花よめ〜スウェーデン・サーメのむかしばなし

『巨人の花よめ』をおすすめします。

スウェーデンの少数民族に伝わる昔話の絵本。サーメ人の美しい娘チャルミが、山の恐ろしい巨人に結婚を迫られる。チャルミは知恵を働かせて巨人の手から逃れようとするが、なかなかうまくいかない。とうとう婚礼の宴が開かれ、巨人もお客も浮かれているすきに、テントの中に身代わりの丸太を置いて、チャルミは逃げ出す。そして川の氷に大きな穴を掘り、村人を困らせていた巨人を退治する。現地に取材した画家の絵がダイナミック。

5歳から/サーメ 巨人退治 知恵

 

The Bride of the Giant

A Swedish to Japanese translator retells the legends of the Saami people of Lapland in Sweden, and an artist provides wonderful illustrations researched on location. When a giant who lives in the mountains falls in love at first sight with a beautiful Saami girl, Charmie, she wracks her brains to find a way to escape from him but things don’t go well. Finally their wedding banquet is held, and she takes advantage of the giant and his guests making merry to dress a log in her bridal clothes and make her getaway. She digs a large hole in the ice on the river to exterminate the giant that had caused so many problems for the villagers. (Sakuma)

  • Text: Hishiki, Akirako | Illus. Hirasawa, Tomoko
  • BL Shuppan
  • 2018
  • 32 pages
  • 30×22
  • ISBN 978-4-7764-0836-9
  • Age 5 +

Saami, Giants, Wisdom

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2019」より)

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『夏がきた』表紙

夏がきた

『夏がきた』(絵本)をおすすめします。

海辺の村の夏を描く作品。IBBYバリアフリー児童書にも選ばれている。夏休みになり、子どもが近所の子どもたちに「あーそーぼー!」と声をかけ、連れだって海辺へとやってくる。浜では、海の家の準備の真っ最中。子どもたちも手伝って、スイカやおにぎりをごちそうになる。すだれ、風鈴、麦茶、扇風機、麦わら帽子、うちわ、入道雲、夕立、アサガオの鉢、蚊取り線香、花火など、夏ならではの風物が描かれていて、ふんだんに夏を感じることができる。

5歳から/夏 海 遊び

 

Summer Is Here

This work unfolds in a Japanese seaside village. As
summer vacation begins, a child calls to neighbor children, “Hey, let’s play!” and they go to the beach together. Here, preparations are underway at a rest house (for changing clothes, taking breaks, and buying snacks). The children help with the chores and get watermelon slices and rice balls in return. Bamboo mats, wind chimes, barley tea, straw hats, fans…puffy clouds, a sudden shower, potted morning glories, mosquito coils, fireworks. This book exudes summer, which you can feel even without reading the text. Chosen as an IBBY Outstanding Book for Young People with Disabilities. (Sakuma)

  • Text/Illus. Hajiri, Toshikado
  • Asunaro Shobo
  • 2017
  • 32 pages
  • 24×26
  • ISBN 978-4-7515-2830-3
  • Age 5 +

Summer, Summer sounds, Beach rest houses

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2019」より)

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『犬が来る病院』表紙

犬が来る病院〜命に向き合う子どもたちが教えてくれたこと

『犬が来る病院』(NF)をおすすめします。

聖路加国際病院の小児病棟の子どもたちを3年半にわたって取材したドキュメンタリー。日本で初めて小児病棟にセラピー犬を受け入れたこの病院で、犬の訪問活動はどうやって始まったのか、子どもたちの反応はどうだったのか、子どもたちが豊かな時間を過ごすための配慮がどう行われていたか、多くのスタッフがどう連携してトータルケアをめざしたのかなどについて述べられている。4人の子どもたちとその家族が、それぞれ病に直面して歩んだ軌跡も感動的。

12歳から/犬 セラピー 病院

 

The Hospital Where Dogs Visit

ーWhat the Children in Touch with Life Taught Us

A documentary book following children in the pediatric unit at Saint Luke’s International Hospital in Tokyo. Saint Luke’s is the first hospital in Japan to admit therapy dogs into the pediatric unit. The book looks at topics like how the visits by dogs started, how the children reacted, how care was taken to make the children’s time in hospital rich, and how many staff cooperated in the aim for total care. The book gives a moving account of four children (two passed away; two left hospital to find their own paths in life) and their families, whose progress they tracked as they dealt with their illnesses. (Sakuma)

  • Text: Otsuka, Atsuko
  • KADOKAWA
  • 2016
  • 224 pages
  • 19×13
  • ISBN 9784041035085
  • Age 12 +

Therapy dogs, Hospital, Children

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2018」より)

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『金さえあればいい?』表紙

お金さえあればいい?〜大人は知らない子どもは知りたい! 子どもと考える経済のはなし

『お金さえあればいい?』(NF)をおすすめします。

とてもわかりやすい文章とユーモアたっぷりのイラストで、お金や経済について学ぶ本。お金はなんのためにあるの? 経済とは本来どんなものなの? 今の日本経済に警鐘を鳴らす著者は、本当の経済は人と人が出会う場をつくるもので、そこからは幸せが生まれてこなくてはいけないという。利益ばかりを追い求めるような偽の経済活動を賢く見ぬいて、お金にふりまわされないで幸せになるためにはどうしたらいいか。それを本書は伝えている。

11歳から/経済 社会 お金 幸せ

 

All We Need Is Money?

ーA Tale of Economics to Think about with Young People

In easily understood language supported by humorous illustrations, this book teaches us about money and economics. What is the purpose of money? What is economics? The author, Noriko Hama, is a famous economist. She explains that true economics should be about creating spaces in which people can come together and that generate happiness. Unfortunately, economic activity today is increasingly focused on the pursuit of profit. She teaches how to discern such “false” economics and live a life that is not controlled by money and that will bring us happiness. (Sakuma)

  • Text: Hama, Noriko | Illus. Takabatake, Jun
  • Crayon House
  • 2017
  • 64 pages
  • 21×15
  • ISBN 9784861013195
  • Age 11 +

Money, Happiness, Economics

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2018」より)

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『円周率の謎を追う』表紙

円周率の謎を追う〜江戸の天才数学者・関孝和の挑戦

『円周率の謎を追う〜江戸の天才数学者・関孝和の挑戦』(NF)をおすすめします。

関孝和の一生を、円周率を探る研究を核にして描いている。私たちが約3.14と学校で習う円周率も、関が学び始めた頃は3.16とされていた。それに疑問を感じて追求しようとする過程や、漢文から思いついて数式を表す方法を編み出すところなどがスリルに富んだ推理小説のように描かれている。同時に、この数学者が何かを一途に追求し消えない炎を持ち続けていたひとりの人間として浮かび上がってくるので、読み物としてもおもしろい。さまざまな文献を研究して書いた労作。

11歳から/数学 歴史 江戸時代 円周率 関孝和

 

Solving the Mystery of Pi

ーThe Genius Mathematician of Edo, Seki Takakazu

Portrays the life of Seki Takakazu, the master of Japanese mathematics known as wasan, with particular focus on his research on pi. We learn at school that pi is about 3.14, but when Seki started his studies it was thought to be 3.16. The process of working through the doubts he felt about this until he was convinced, and the way he devised a method to express numerical formulae based on Chinese kanbun writing is as thrilling as a mystery novel. This mathematician emerges as one human being who single-mindedly pursued something with unextinguished passion. Based on thorough research. (Sakuma)

  • Text: Narumi, Fu | Illus. Ino, Takayuki
  • Kumon Shuppan
  • 2016
  • 208 pages
  • 19×14
  • ISBN 9784774325521
  • Age 11 +

Mathematics, Edo period (1603-1868), Pi

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2018」より)

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『世界中からいただきます!』表紙

世界中からいただきます!

『世界中からいただきます!』(NF)をおすすめします。

世界各地の普通の家に居候して、家族の素顔や、いつもの暮らしを見せてもらい、普通の食事を食べさせてもらう。そういうふうにして集めたモンゴル、カンボジア、タイ、ハンガリー、イエメン、モロッコなど14カ国の17家族の生き方が、食を中心に写真とともに紹介されている。楽しいレイアウトのおかげで、日本の読者にも親しみやすく読みやすくなっている。コラムでは、世界の主食や屋台やトイレ、日本から持っていって喜ばれたお土産なども紹介されている。

9歳から/ごはん 台所 料理 異文化理解

 

Eating the Globe!

A writer and photographer travel all over the world, staying in ordinary homes and observing families going about their daily lives, and eating the same food as their hosts. They introduce us to the food and lifestyles of seventeen families in fourteen countries, from Mongolia, Cambodia, and Thailand, to Hungary, Yemen, and Morocco. The fun layout features many photos of children preparing and eating food, making it approachable for young readers everywhere. We also learn about staple foods around the world, street stalls, and toilets, as well as what kind of Japanese souvenirs are most appreciated by the host families. (Sakuma)

  • Text: Nakayama, Shigeo | Photos: Sakaguchi, Katsumi
  • Kaiseisha
  • 2016
  • 128 pages
  • 21×18
  • ISBN 9784036450602
  • Age 9 +

Food, Kitchens, Cooking

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2018」より)

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『干したから・・・』表紙

干したから・・・

『干したから・・・』(NF絵本)をおすすめします。

食を追求してきたカメラマンがつくった写真絵本。世界各地で見つけた乾燥食品を写真で示しながら、干すことによる食品の変化や、干すことの意味や目的を、わかりやすく説いている。野菜や果物や魚や肉や乳製品は、干すと水分がぬけて腐りにくくなり保存がきくようになるのだが、そこに子どもが興味をもてるよう構成や表現が工夫されている。めざし、梅干しなど乾燥食品を使った日本の典型的な食事や、野菜の簡単な干し方も紹介されている。

7歳から/食べ物 干物 自然 知恵

 

See What Happens When You Dry It Up

This is a picture book by a photographer on the theme of food. The author uses photos of dried foods found in many parts of the world to explain the changes that occur when foods are dried and the meaning and purpose of drying food. Drying removes the liquid from vegetables, fruits, fish, meat and milk products, preserving them so that they don’t go rotten, and the author use photos and text in ingenious ways to excite the reader’s curiosity and make this process easier to understand. The short appendix introduces examples of dried foods used in traditional Japanese cuisine and methods for drying vegetables and other foods that can be done at home. (Sakuma)

  • Text/Photos: Morieda, Takashi
  • Froebel-kan
  • 2016
  • 34 pages
  • 22×27
  • ISBN 9784577043714
  • Age 7 +

Food, Dried fish, Practical wisdom

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2018」より)

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『わたり鳥』表紙

わたり鳥

『わたり鳥』(NF絵本)をおすすめします。

世界のわたり鳥113種の旅を描いたノンフィクション絵本。なぜ長距離を移動するのか、どんなルートがあるのか、どんなところにどんな巣をつくるのか、渡りの途中でどんな危険に遭遇するのか、何をたよりに移動するのかなどを、子どもにもわかる文章と興味深い絵で説明している。巻末には、本書に登場するわたり鳥44種それぞれの大きさや姿、巣の大きさ、卵の色や形、渡りのルート、繁殖地と冬期滞在地などを紹介する一覧と、「世界のわたり鳥地図」も掲載している。

5歳から/渡り鳥、環境

 

Migratory Birds

This non-fiction picture book describes the journey of migratory birds from around the world. An astounding number of birds travel long distances every year in search of food and a safe place to lay their eggs and raise their young. What routes do they travel? What kind of nests do they build and where? What dangers do they face on their journey? How do they find their way? The author, who is an expert on birds answers such questions as these in words and illustrations that children can easily grasp. (Sakuma)

  • Text/Illus. Suzuki, Mamoru
  • Doshinsha
  • 2017
  • 40 pages
  • 26×26
  • ISBN 9784494010004
  • Age 5 +

Migratory birds, Environment

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2018」より)

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『フラダン』表紙

フラダン

『フラダン』(読み物)をおすすめします。

笑いながら読める青春小説だが、福島の原発事故をめぐる状況や、多様な人々とのぶつかりあいや交流なども書かれていて味わいが深い。工業高校に通う辻本穣は、水泳部をやめたとたん「フラダンス愛好会」に強引に勧誘される。しぶしぶいってみると、女子ばかり。ところが、シンガポールからのイケメン転校生、オッサンタイプの柔道部員、父親が東電に勤める軟弱男子も加入してくる。穣は男子チームを率いることになり、最初は嫌々だが、だんだんおもしろさもわかってきて、真剣になっていく。

15歳から/フラダンス 青春 震災 福島

 

Hula Boys

This is a laugh-out-loud youth novel, but its description of the circumstances surrounding the Fukushima nuclear disaster is thought-provoking. Yutaka, who attends a technical high school, leaves the swimming club only to be dragged into Hula Dance Club. When he grudgingly goes to take a look, he finds it full of girls. However, some other boys also join; Okihiko, a heart-throb type who has just moved from Singapore, Taiga, a geezer-type who also belongs to the judo club, and Kenichi, a weedy type whose dad works for TEPCO which is extremely unpopular in the wake of the nuclear disaster. Yutaka is put in charge of the boys team. (Sakuma)

  • Text: Furuuchi, Kazue
  • Komine Shoten
  • 2016
  • 290 pages
  • 20×14
  • ISBN 9784338287104
  • Age 15 +

Hula dance, Fukushima, Friendship

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2018」より)

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『こんとんじいちゃんの裏庭』表紙

こんとんじいちゃんの裏庭

『こんとんじいちゃんの裏庭』(読み物)をおすすめします。

リアルな状況を踏まえた男の子の成長物語だが、同時に現代ならではの冒険物語にもなっている。中学3年生の悠斗の祖父は、交通事故にあって入院し、意識が混濁したままになる。しかも悠斗の家族は、加害者から損害賠償を請求される。納得できない悠斗は、警察、保険会社、日弁連の法律センターなどを回って真相究明にのりだす。一方で、祖父のかわりに「裏庭」の果樹の世話も続ける。こうした過程を通して周囲の人々を一面的にしか見ていなかったことに気づいた悠斗は、多面的な視点を獲得して成長していく。

14歳から/認知症 家族 訴訟

 

Grandpa’s Back Garden

A realistic coming-of-age story about a 15-year-old boy, Yuto. One day, his grandfather, who showing signs of dementia, is run over as he cycles over a pedestrian crossing, and is taken to hospital where he remains in a state of semi-consciousness. On top of that, Yuto’s family receives a demand for compensation from the person who ran him over. Yuto is outraged and decides to try to clarify the truth. He goes to see the police, the insurance firm, and the law center. At the same time, he continues to care for his grandfather’s garden the way his grandfather taught him. In the process, he learns to see things from various points of view. (Sakuma)

  • Text: Murakami, Shiiko
  • Shogakukan
  • 2017
  • 256 pages
  • 19×13
  • ISBN 9784092897571
  • Age 14 +

Traffic accidents, Elderly people, Gardening

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2018」より)

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山本悦子『神隠しの教室』

神隠しの教室

『神隠しの教室』(読み物)をおすすめします。

ある日、5人の子どもたちが学校で行方不明になる。5人とは、いじめを受けていた加奈、ガイジンといわれているブラジル人のバネッサ、虐待されているみはる、情緒不安定の母親にネグレクトされている聖哉、そして単身赴任の父親と2年も会っていない亮太。みんな「どこかへ行ってしまいたい」と思っていた子どもたちだ。この子たちは、戻ってこられるのか? 戻るには何が必要なのか? 読者は謎にひかれて読み進むうちに、現代日本の子どもをとりまく社会にも目を向けることになる。野間児童文芸賞受賞作。

10歳から/いじめ ネグレクト ミステリー

 

The Hidden Classroom

A novel dealing with the problems that Japanese children these days have to deal with. One day, five children disappear from school: Kana, a girl who was being bullied; Vanessa, a Brazilian singled out for being a foreigner; Miharu, a girl who is abused by her mother’s lover; Seiya, a boy who is neglected by his emotionally unstable mother; and Ryota, a boy whose father has been away for work for two years. Will they be able to find their way back from their “parallel school”? What do they need to do in order to return? Noma Prize for Juvenile Literature.

  • Text: Yamamoto, Etsuko | Illus. Maruyama, Yuki
  • Doshinsha
  • 2016
  • 383 pages
  • 20×14
  • ISBN 9784494020492
  • Age 10 +

Bullying, Neglect, Mystery

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2018」より)

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藤重ヒカル著 飯野和好絵『日小見不思議草紙』

日小見不思議草紙

『日小見不思議草紙』(読み物)をおすすめします。

江戸時代を舞台にした5篇のファンタジー短編集。不思議な刀のおかげで鼻にタンポポが咲き、相手が笑ってしまうので戦わずして勝てる侍の話、野原で出会った不思議な女の子にすばらしい絵の具をもらって出世する絵描きの話、クマの助けを借りて一夜にして堰堤を築く話など、どれも短いなりにまとまりがよく、おもしろく読める。それぞれの短編の前後に江戸時代と現代を結びつける仕掛けもあり、虚実の境がわざとあいまいになっている。ユーモラスな味わいを支えている挿絵もいい。日本児童文学者協会新人賞受賞作。

10歳から/ファンタジー 江戸時代 変身

 

Hiomi’s Tales of Mysteries

A collection of five fantasy stories set in the Edo period. A samurai wins without fighting thanks to his magical sword, which makes dandelions bloom from his own nose resulting in laughter; an artist becomes successful after being given some amazing paints by a mysterious girl he met in a meadow; a dam is built to prevent the river from flooding, with help from some bears…all the stories are short, but well-constructed and fun to read. Each also has something that connects the Edo period with the present, and the border between fact and fiction is deliberately blurred. The illustrations add a humorous touch. Newcomer Prize of Japanese Association of Writers for Children. (Sakuma)

  • Text: Fujishige, Hikaru | Illus. Iino, Kazuyoshi
  • Kaiseisha
  • 2016
  • 231 pages
  • 22×16
  • ISBN 9784035404002
  • Age 10 +

Edo period (1603-1868), Humor, Fantasy

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2018」より)

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岩瀬成子『春くんのいる家』

春くんのいる家

『春くんのいる家』(読み物)をおすすめします。

新しい家族の形をテーマにしたフィクション。日向は、両親が離婚した後、母と一緒に祖父母の家で暮らしているが、そこに従兄の春も加わって一緒に暮らすことになった。春は、父親が病死し母親が再婚した結果、跡取りとして祖父母の養子になったのだ。新たな5人家族は、最初はぎくしゃくしていて、感情も行き違う。しかし、春が子ネコを拾ってきたことなどをきっかけに、徐々にみんなが寄り添いあい、新たなまとまりを作り出していく。その様子を感受性豊かな日向の一人称で描いている。

9歳から/家族 友だち ネコ

 

The House Where Haru Lives

A story about a new type of family. After Hinata’s parents divorce, she goes with her mother to live with her grandparents, but then her cousin Haru also comes to live with them. Haru’s father had died of an illness, and when his mother remarried, his grandparents adopted him as an heir. To begin with, relations in this new family of five are strained, as conflicting feelings and misunderstandings arise between them. However, after Haru picks up an abandoned kitten one day, they gradually draw closer together and create a new family unit. This process is sensitively portrayed from Hinata’s perspective.

  • Text: Iwase, Joko | Illus. Tsuboya, Reiko
  • Bunkeido
  • 2017
  • 104 pages
  • 22×16
  • ISBN 9784799901625

Adoption, Family, Divorce, Remarriage

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2018」より)

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角野栄子作 森環絵『靴屋のタスケさん』

靴屋のタスケさん

『靴屋のタスケさん』(読み物)をおすすめします。

職人の手仕事に興味をひかれる戦時下の幼い少女の気持ちをみずみずしく描いたフィクション。舞台は1942年の東京。小学校1年生の「わたし」が住む地域に、若い靴職人のタスケさんが店をだす。少女は放課後になると靴屋にいき、タスケさんのプロの仕事ぶりに見とれる。極度の近眼のため徴兵を免れていたタスケさんだったが、やがて戦況が悪化すると少女の前から姿を消す。兵隊にとられたのだ。おだやかな日常と、暴力的な戦争の対比がうかびあがる。

9歳から/戦争 友情 切なさ

 

Tasuke the Cobbler

This story is about a little girl who is drawn to an artisan’s handiwork during the war. The setting is Tokyo in 1942, and the author bases the story on her own wartime experiences. The first-person protagonist has just started school when a young cobbler called Tasuke opens a shop in her neighborhood. She is fascinated by his craft, and after school drops by his shop to watch him at work. Tasuke had escaped the draft on account of being nearsighted, but as the war progresses even he is called up to fight. Abruptly the girl is made aware of the contrast between her peaceful days and the violence of war. Her feelings are vividly portrayed throughout the story.

  • Text: Kadono, Eiko | Illus. Mori, Tamaki
  • Kaiseisha
  • 2017
  • 72 pages
  • 22×16
  • ISBN 9784035285205
  • Age 9 +

Shoes, Artisans, War

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2018」より)

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八百板洋子文 斎藤隆夫絵『猫魔ヶ岳の妖怪』

猫魔ヶ岳の妖怪〜福島の伝説

『猫魔ヶ岳の妖怪〜福島の伝説』(絵本)をおすすめします。

この絵本には、福島県各地に伝わる伝説「猫魔ケ岳の妖怪」「天にのぼった若者」「大杉とむすめ」「おいなりさまの田んぼ」の4話が入っている。原発事故前の福島は、自然豊かなとても美しい土地だった。この絵本に収められた伝説からもそうした地域の背景がうかがわれ、人間と動物や自然との結びつき、人間には計り知れない自然の力などが感じられる。再話は、ブルガリアと日本の民話の研究者・翻訳者。絵も、伝説の雰囲気をよく伝えている。

6歳から/伝説 福島

 

The Monster of Nekomagadake

ーLegends from Fukushima

This book contains four legends from Fukushima that have been passed down for generations: The Monster of Nekomagadake, The Youth Who Rose to the Heavens, The Great Cedar and the Young Maiden, and The Foxes’ Rice Paddy. Before the nuclear accident that occurred during the 2011 tsunami, Fukushima was a beautiful land, rich in nature and home to many organic farmers. From these legends, we can imagine that land, feel humankind’s relationship with living creatures and nature, and sense nature’s immeasurable power.

  • Retold: Yaoita, Yoko | Illus. Saito, Takao
  • Fukuinkan Shoten
  • 2017
  • 56 pages
  • ISBN 9784834083279
  • Age 6 +

Legends, Fukushima, Nature’s power

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2018」より)

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『こうさぎとほしのどうくつ』表紙

こうさぎとほしのどうくつ

『こうさぎとほしのどうくつ』(絵本)をおすすめします。

4匹の子ウサギのきょうだいが、嵐を逃れるために洞窟に入りこみ、となりの子ウサギたちとも出会って、洞窟の中を探検する。そのうち、ランタンを落とし、真っ暗な中を子ウサギたちは洞窟の中の大広間にすべり落ちてしまう。ところがその大広間の天井には、星のような光がまたたいていて、子ウサギたちを洞窟の出口へと案内してくれた。最後は家にもどって一安心。子ウサギたちの驚き、不安、安堵、幸福感など心のうちを、顔の表情や変化に富む背景の色でうまく表現している。

5歳から/ウサギ 友だち 冒険

 

The Little Bunnies and the Star Cave

Four little bunnies run into a cave to escape a storm. There they meet their bunny neighbors and begin exploring the cave together. But one of them drops the lantern and in the darkness, they slide into a big cavern within the cave. The ceiling twinkles as though with stars. By this light, the bunnies find their way out of the cave and return home safely. The emotions they experience, such as surprise, anxiety, relief and happiness, are beautifully conveyed through their facial expressions as well as the richly varied background colors. (Sakuma)

  • Text: Watari, Mutsuko | Illus. Dekune, Iku
  • Nora Shoten
  • 2016
  • 40 pages
  • 26×21
  • ISBN 9784905015277
  • Age 5 +

Rabbits, Caves, Exploring, Friends

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2018」より)

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『あめがふるふる』表紙

あめがふるふる

『あめがふるふる』をおすすめします。

雨の日に、ふたりだけで留守番をしている兄のネノと妹のキフが、窓の外をながめていると、フキの葉の傘をさしたカエル、たくさんのオタマジャクシ、くるくる回るカタツムリ、踊っている木や草や野菜などが次々にあらわれる。そして魚に誘われて向こうの世界にとびこんだ兄妹は、困っている小さな動物たちを笹舟をたくさん作ってのせていく。やがてお母さんが帰ってきて、子どもたちは現実に戻る。「あめがふるふるふるふる・・・」という言葉が効果的に使われ、力強い絵がファンタジー世界を楽しむ子どもをうまく表現した絵本。

5歳から/雨の日 冒険 思いやり

 

It Rains and It Pours

Neno and his younger sister Kifu are home alone on a rainy day. As they gaze out the window, they slip into a fantasy world. One by one strange things come into view: a frog with a butterbur leaf umbrella, a horde of tadpoles, snails spinning round and round, huge trees and vegetables. Dancing joyfully, Neno and Kifu weave boats from blades of bamboo grass to help little animals get through the rain. When their mother comes home, they return to reality. The playful wording and strong illustrations capture the children’s delight in the strange world they encounter. (Sakuma)

Text/Illus. Tashima, Seizo Froebell-kan 2017 32 pages 25×23 ISBN 9784577045190 Age 5 +
Rain; Staying home alone; Reality and fantasy

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本 2018」より)

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『真夜中のちいさなようせい』表紙

真夜中のちいさなようせい

『真夜中のちいさなようせい』をおすすめします。

韓国の画家による初めての絵本。作者は、病弱で寝ていることが多かった幼少時代に、ゆめうつつに妖精を見たことがあるという。そんな体験を基に 2 年という年月をかけて生まれた作品。
熱を出して寝ている男の子は、お母さんが看病に疲れてうたた寝をしている間に妖精に会う。目をさまして、その妖精がくれた指輪を見たお母さんも、忘れていた記憶を思い出し、少女に戻って息子や妖精たちと遊ぶ。勢いの良さで勝負するような絵本やマンガ風の絵本がもてはやされる時代にあって、伝統的な手法でていねいに細かく描かれたこのような絵本は貴重だし、ぬくもりも伝わって想像力がひろがる。文章には登場しない猫があちこちに顔を出しているのも楽しい。

(産経児童出版文化賞/翻訳作品賞選評 産経新聞2022年05月05日掲載)

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『なかよしの犬はどこ?』表紙

なかよしの犬はどこ?

『なかよしの犬はどこ?』をおすすめします。

知らない町に父親と引っ越してきたペニーは、庭にやってきた犬といっぱい遊んで寂しさを忘れる。どこの犬だろう? ペニーと父親は、買い物をしながら犬のことをたずねてまわる。こうして町の人たちと知り合いになったものの犬は結局見つからない。しょんぼり帰ってくると、お隣からあの犬と男の子がひょっこり顔を出した。寂しさを抱える子どもが友だちを得るという展開に共感できる絵本。町の人々の肌の色、ペニーのおもちゃ、父子家庭の有りようなどいろいろな意味でステレオタイプを打ち破っている絵も楽しい。
3歳から

(朝日新聞「子どもの本棚」2022年04月30日掲載)

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『ニッキーとヴィエラ』表紙

ニッキーとヴィエラ〜ホロコーストの静かな英雄と救われた少女

『ニッキーとヴィエラ』をおすすめします。

第2次世界大戦直前、迫り来るナチスの魔手から子どもを救おうとした人たちがいた。イギリス人のニッキーもそのひとり。旧チェコスロバキアにいたユダヤ人の子どもを列車でイギリスへ逃がすために奔走した。10歳の少女ヴィエラは、家族と別れて列車に乗った669人のひとり。終戦後ニッキーは、自らの功績を語ることなく静かに暮らしていたが、2人は後に再会する。チェコで生まれ、自由を求めてアメリカに移住した作者は、これまでダーウィン、ガリレオなど勇気ある偉人について描いてきたが、今回は、良心に従って行動したほぼ無名の人物を取り上げてノンフィクション絵本に仕上げた。絵が語るものをじっくり見ていく楽しさもあるし、今の時代にも重なる。
小学校中学年から

(朝日新聞「子どもの本棚」2022年03月26日掲載)

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『シリアからきたバレリーナ』表紙

シリアからきたバレリーナ

『シリアからきたバレリーナ』をおすすめします。

11歳の少女アーヤは、内戦で故郷のシリアを離れ命からがら避難する途中、父親が行方不明になり母親は心身が衰弱してしまう。たどりついたイギリスでは、幼い弟の世話をしながら難民申請のために支援センターに通う日々。ある日音楽を耳にして吸い寄せられるように歩いていくと、そこはバレエ教室だった。アーヤは故郷でも夢中になっていたバレエをよりどころに、かつて難民だった先生にも支えられ、自分の居場所を見いだしていく。難民の少女の視点で紡がれた物語。
小学校高学年から

(朝日新聞「子どもの本棚」2022年02年26日掲載)

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『マイロのスケッチブック』表紙

マイロのスケッチブック

『マイロのスケッチブック』をおすすめします。

マイロは小さな男の子。お姉ちゃんと地下鉄に乗ると、ほかの乗客たちの暮らしを想像して絵に描いていく。でも、大金持ちのぼんぼんかと思った子が自分と同じ目的地に向かうのを見て、見かけと実際の現実は違うかもしれないと思い始める。さっき寂しい独り暮らしだと思ったおじさんには仲良し家族がいるのかも。ウェディングドレスのお姉さんの結婚相手は女の人かも。マイロたちが到着したのは刑務所。面会したお母さんにマイロが見せた絵は? 想像力が現実を変えることだってきっとあるよね。
小学校低学年から

(朝日新聞「子どもの本棚」2022年01年29日掲載)

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『火曜日のごちそうはヒキガエル』表紙

火曜日のごちそうはヒキガエル

『火曜日のごちそうはヒキガエル』をおすすめします。

冬は地面の下で過ごしているはずのヒキガエルのウォートンは、どうしてもおばさんにお菓子を届けようと外へ出てしまう。するとミミズクにつかまり、火曜日に誕生日を迎えるミミズクのごちそうにされることに。逃げ出せずにとうとうその日が来て万事休すとなったとき、不思議なことが次々に起こる。
小学校中学年から

(朝日新聞「子どもの本棚」2021年11月27日掲載)

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『こうさぎとおちばおくりのうた』表紙

こうさぎとおちばおくりのうた

『こうさぎとおちばおくりのうた』をおすすめします。

4ひきの子うさぎきょうだいが、祭りの花火の音に誘われて、落ち葉行列に参加したり、森に入って歌ったりはねたりするうちに、道に迷ってしまう。一面落ち葉に覆われた森は、様子が変わっていたからだ。助けてくれたのは、ブナの大木「ぶなじい」。冬になる前の美しくかがやく自然の中に入り込んで、子うさぎたちと一緒にささやかな冒険を楽しめる絵本。
5歳から

(朝日新聞「子どもの本棚」2021年11月27日掲載)

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『ちいさなおじさんと大きな犬』表紙

ちいさなおじさんとおおきな犬

『ちいさなおじさんとおおきな犬』をおすすめします。

小さなおじさんは、みんなからいじめられてひとりぼっち。おじさんが友だち募集の貼り紙を出すと、大きな犬がやってきた。毎日ポケットにクッキーを入れて犬がくるのを待つうち、おじさんは犬と友だちになる。楽しく日々を過ごしているところへ、かわいい女の子が登場し、大きな犬と大の仲良しに。おじさんは、自分が仲間はずれになったと思いこみ、ひとり森をさまよう。スウェーデンの地味な色彩の絵本だが、ユーモラスな絵には味があり、幸せな結末に心がなごむ。
小学校中学年から

(朝日新聞「子どもの本棚」2021年10月30日掲載)

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2022年01月 テーマ:兄弟愛

日付 2022年1月18日
参加者 アンヌ、コアラ、コマドリ、さららん、しじみ71個分、オカリナ、ネズミ、花散里、ハル、まめじか、マリンゴ、ヤドカリ、雪割草、ルパン、西山、(エーデルワイス)
テーマ 兄弟愛

読んだ本:

『拝啓パンクスノットデッドさま』表紙
『拝啓パンクスノットデッドさま 』
石川宏千花/作   くもん出版   2020.10

〈版元語録〉パンクは死んだ? 自分と右哉にとっては、育ての親のようなものなのに? すべての若き読者におくる青春音楽小説。


『青いつばさ』表紙
『青いつばさ 』
シェフ・アールツ/作 長山さき/訳   徳間書店   2021.09
DE BLAUWE VLEUGELS by Jef Aerts, 2018
〈版元語録〉ジョシュはいつも、まるで子どものような兄の面倒をみているが…?  家族の深い絆を描いた物語。オランダ・銀の石筆賞受賞。

(さらに…)

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『青いつばさ』表紙

青いつばさ

ヤドカリ:映画でも本でも「ロードムービー的」なお話に弱いので、熱中して読みました。兄弟が移動していくなかで、主人公が考え、いろいろなことに気づいていくという構成が、よくできているなと思いました。最後のママの決断については、驚くと同時に、これでいいのかしら、とも思いましたが、この物語のなかでは、説得力のある終わり方だったように思います。物語をとおして「翼」や「飛翔」というモチーフが、効果的に使われていたことが印象的でした。読めてよかったです。

ルパン:おもしろくて一気に読んだのですが、気になるところが多すぎて入りこめない部分もありました。まず、ヤードランのことがそんなによくわかっているなら、翼をつけて一緒に高いところに登ったら危ない(そもそも登ること自体が危ないし)でしょうし、10メートルの高さから落とされて骨折だけですむというのもちょっとリアリティがない。奇跡的にそういうことがあったとしても、ギプスをつけて座った姿勢で長時間トラクターに乗って長旅をするなんて考えられない。私も足にギプスをつけたことがあるけれど、ずっと下におろしていたら鬱血してしまうので、読みながら気が気じゃなかったです。こんな大事件があったのに、弟の体よりもツルを野生に帰すことのほうを優先しているヤードラン、そのヤードランを愛情をもって受け入れてくれる施設があるのにまだ家庭においておく決断・・・あまりにもヤードラン・ファーストな気がして、ジョシュのこれからの人生はどうなるのかな、母親はどう考えているのかな、と思ってしまいました。

さららん:2回読み返してみました。作者はベルギーの人で、舞台もベルギーかオランダ、そのあたりか。スウェーデンやフランスにもツルを見にいったと「作者より」に書いてありますので、いろんな土地の要素が混じっているのかもしれません。ともあれジョシュとヤードランのロードムービーとして移り変わる景色が見え、どんどん読み進められました。ジョシュは障碍のあるヤードランを決して嫌わず、自分が守ってあげなくちゃと思い続けている。すごい愛の物語だと思います。11歳というジョシュの年齢の設定(思春期に入る直前?)も巧みですね。兄弟が暮らすのは、障碍のある子をそのまま受け入れる学校や社会があるところ、インクルーシブ教育の進んだ国という印象を受け、ツルの子どもを連れて2人が旅に出る、という設定はもちろん、ジョシュの心の動き、ヤードランの障碍の在り方も含めて、この物語は日本では絶対に書けないものを書いている、と思いました。ヤードランの通う施設の指導員ミカ、ママの再婚相手のムラットやヤスミンも温かい人たちなのですが、ヤードランは「兄弟はいっしょにいなきゃダメなんだ!」(p102)という考えに縛られています。思いこみに加えて、ヤードランはいろんな人の言葉を口移しのように話すタイプで、例えば「ごめんね、ごめんね、ごめんね」と何度も子どもっぽく謝ったあと、「……だぜ」という男っぽい口調になります。昔、パパとママがお芝居で歌っていた歌も丸ごと覚えています。荒っぽいようで、実は繊細なヤードランが初めて見えてきました。ミカの語調が少し変わっていて、最初は男っぽいように感じたのですが、あとで、女らしい口調になっています(p73「みんなに提案があるの」など)。この人物の造形はあえてトランスジェンダー的にしているかな、と思いましたが、どうでしょう?

しじみ71個分:私はとてもおもしろく読みました。弟が兄のケアをするという設定は、韓国ドラマにもあります。お母さんに兄の面倒を見るように言われて、滅私奉公のように世話をするというのは、洋の東西を問わずテーマに取りあげられているのですね。物語の中に流れている感情が本当にやさしくて、いい話だなぁ、と思いました。弟のジョシュが兄のヤードランのことを本当に好きで、いやがりもせず、兄の性質を理解して献身的に世話をしますが、その兄のせいで大怪我をしてしまうというのはつらい。でも、愛情の裏付けがそこにあるので、つらくなく読めました。寝るときに落ちつけるように、息を合わせていく遊びを「呼吸の橋」と呼ぶのもとてもすてきだと思いました。離婚したお父さんがロシア人、お母さんの恋人がトルコ系ベルギー人などなど、家族関係が複雑だったり、国籍や人種の違う人がさまざま登場したりするのがごく自然にあたりまえのように描かれているのは、大変にヨーロッパっぽいなと思った点です。また、私もミカは最初男の人かと思い、ヤードランはゲイの要素も持っているのかなと勘違いもしたのですが、支援施設で働くしっかりした女性で、オオカミの入れ墨を入れているなんていうのもかっこよく、魅力的です。2人の南への冒険を黙って見守りながらついてくるところも、信頼がないとできないことだと思うのですが、ヨーロッパ式のなんというか、個を大事にする視点を感じました。日本だったらすぐ通報されて、連れもどされてしまうだろうなぁ。また、支援施設の名前が「空間」という名前なのも象徴的で、オープンな感じを与えるのもいいなと思いました。そういう文化的な背景の違うところをたくさん感じた物語です。2人は、ツルの子のスプリートを群れに戻すためにあてもなく南に向かいます。ゲーテの詩「ミニヨンの歌」に「君よ知るや南の国」と歌われるのはイタリアですが、この物語の中ではスペインですね。南というのは、ヨーロッパ北部の人にとっては、暖かくて豊かで幸せのあるところみたいな、特別な意味があるのですね。

コアラ:カバーの絵が、なんとなく昔の物語風に思えました。トラクターの絵というのがよくわからなくて、1920年代の車のように見えてしまいました。それで、読みはじめてみると、スマホが出てきて現代の話だったので、びっくりしました。さらさらっと読んでしまって、訳者あとがきのp226の「〈南〉は(磁石の南のことではなく)、いま自分がいる場所よりもっとよいどこかのことです」というところが、いちばん印象に残りました。そういう意味合いがあったんだなと。物語の中では、美しい場面はいろいろあったと思うのですが、ツルの子が糞まみれになる、という場面が強烈で、あまりきれいな印象をもてずに読み終わってしまいました。とにかく、最後に家族でまた暮らすことになってよかったと思いました。それから、私もミカが男性か女性かあやふやに感じました。フィンランドには、「ミカ」という男性がいますよね。登場した最初のほうでは、ミカ先生が男性だと思ってしまいました。

コマドリ:圧倒的な兄弟愛というか、どんなことがあろうともお互いのことが大好き、という気持ちが貫かれているのがよかったと思います。『拝啓パンクスノットデッドさま』(石川宏千花著 くもん出版)のほうも、兄弟がそういう絆で結ばれているので、共通しているところがあり、今回一緒に読めてよかったです。ツルがトラクターの後ろから飛んでくるシーンは映像を見ているようで好きでした。タイトルの「青いつばさ」が象徴的に使われており、ツルの翼と、お母さんの舞台衣装の青い翼が、どちらもヤードランにとっては大きな意味を持っています。またヤスミンが、壊れた翼を縫い合わせて再生させるのも、象徴的な感じがしました。表紙の絵は、たしかに古めかしい感じがしますね。兄弟の顔がリアルに描かれていますが、自分の想像とは違っていたので、ここまでリアルな顔ではないほうがいいように思いました。

雪割草:人への作者のあたたかなまなざしが感じられる作品で、ぐいぐい読ませる語りでした。母親がジョシュに甘えすぎかなと感じたのと、障碍をもった兄とその弟であるからかもしれませんが、兄弟の絆の強さに驚きました。ヤードランが、自分のせいで家族と離れ離れになってしまったツルのスプリートを、家族の元に連れていこうと躍起になるのが、父と母の離婚も自分のせいだと心の傷として負っていたからだったのだということが後半でわかり、胸に迫ってくるものがありました。気になった点としては、装丁がひと昔前のようで、伝えたいポイントがわからなかった(トラクターの絵は必要でしょうか?)のと、「大男」や「チビ」という訳語もイメージに合ってない気がして、古く感じられたのが残念でした。

花散里:障碍を持った兄とその弟という関係ですね。ヤングケアラーが今、いろいろととりあげられていますが、障碍をもつ兄弟がいるとき、親に何かあったときには兄弟に負担がかかっていくので、社会が保障していかなければならないということが言われています。そのあたりのことを考えさせられました。兄のことを「大男」という言い方は気になりました。母親と暮らすことになる新しい男性とその娘である女の子を受けいれて新しい家族を作っていくという感覚も新鮮で、こういう新しいスタイルの家族というのが児童文学の中でも描かれていくのかと感じました。

ネズミ:おもしろく読みました。障碍のある兄弟をもつ子どもの視点から描かれている作品は多くないと思い、いろいろ考えさせられました。お母さんは、『背景パンクノットデッドさま』の母親と対照的で、どこまでも子どものことを思っていて、それでも見えていないこともある。10メートル上から落ちて足を折るだけですむとか、トラクターで公道を走るとか、外国の話だからそれもありかと思って、このテーマに目を向けることができる気がしました。この物語では、最後にヤードランは施設に行かず、家で暮らすことになるわけですが、私は、それが最良だと作者が言おうとしているのではなく、人にも条件にもよる難しい選択を当事者が迫られることを示唆し、読者に問題を投げかけているように思いました。

まめじか:ヤスミンは、兄弟が築いてきた親密な世界に入っていけないさびしさを感じていたと思います。そんなヤスが、ヤードランが壊した青い翼を直し、鉄塔の上にいるヤードランのもとに、はしご車に乗って届ける。あざやかなイメージが強く心に残りました。それまでジョシュがヤードランの世話をしていたのが、ジョシュが怪我をしたり、また2人で旅に出たりしたことで、ヤードランがジョシュの世話をするのも印象的です。p140でジョシュは、車椅子が置きっぱなしになっているのに、だれも心配して見にこないなんておかしいと感じるのですが、そんなふうに思える社会っていいなあと。ムラットとヤスミンはトルコ系だと後書きにありますが、本文には書いてないですよね。もし作者に確認してわかったことなら、それも後書きで説明したほうがいいのでは?

しじみ71個分:私は、ムラットという名前と、ヤスミンについて、p53に「黒い髪の毛と眉毛」とあったので、金髪碧眼ではないからアラブ系の人かなと思って読んでいました。

オカリナ:原書を読む子どもにとっては、名前でどういう人かのイメージがわくのだと思います。私はアラブ系の人かと思いましたが、日本の子どもの読者はわからないので、トルコ系の人だと後書きで書いてあるのはいいな、と思いました。異文化を背負っている人だということがわかれば多様な人たちの家族というイメージを、日本の子どもも持てるので。

まめじか:「大男」という呼びかけや、「空間」という場所の名前は、日本語で読むと、ちょっとぴんときませんでした。

ハル:私は、読んでいてとっても苦しかったです。障碍のある人の自立をどう考えるかという問題については、当事者でないとわからないことも多いでしょうし、口を出すのは気が引けるような思いもどうしてもあるのですが、それでも、「兄弟や家族は絶対に離れてはいけない」なんて、特に本人の強い希望として言われたら、とても苦しくなる人も、少なからずいるのではないかと思います。施設で、家族以外の人とも暮らせるようになることも、自立のひとつだと思いますし、施設で暮らすギヨムたちの家族に愛がなかったとも思いたくありません。ほとんど死人が出てもおかしくない状況ですし、2人に連れまわされたツルの子・スプリートが下痢をしてしまうのもいやでした。お母さんが「ヤードランのことはジョシュが見ていなきゃだめじゃない」といった態度なのもいやでした。ただ3か所、家族に愛があるところ、特に「呼吸の橋」はいいなと思いましたし、p65でムバサ先生がジョシュに「あなたのお兄さんはとても特別な人だけど、あなただってそうなんだからね」と言ったところ、p210でジョシュが「脚が治ったら、たとえヤードランがどんなにうらやましがっても、潜水クラブに通うことにしよう」と心に誓うところ、その3点だけが救いでした。

アンヌ:私も、ミカが、名前だけでは男性か女性かわかりませんでした。でも、ヤスミンがスカーフをかぶっている場面で、今の時代の女の子でスカーフをしているのはイスラム系なんだろうと気がついて。こんなふうに推理しながら読むところも、海外小説のおもしろさだと思います。実は、野生のツルが頭上で飛んでいるのを見て、なんて大きいのだろうと驚いたことがあるので、ギプスの足の上に雛とはいえ、ツルを抱いての道中は大変だろうなと思いました。いちばん驚いたのは、ママの決断です。それでも、ヤードランがママと2人でミュージカルを演じる箇所を読むと、ヤードランには、施設に入って農業をする以外の道や能力が、まだいろいろあるのかもしれない。それを見つけるためにも施設ではなく、家族で暮らすという道も必要なのだろうなと思いました。

マリンゴ: ツルの子どもが登場して、途中からその子を群れに返そうとするロードムービーになることもあって、非常に視覚的で美しい作品でした。障碍をもつ家族が登場する他の多くの本と違うのは、どれだけ愛情があっても、手に負えないほど体が大きくなり力も強くなってしまったとき、リスクが伴う、ということを描いている点だと思います。その解決法は難しくて、外部の専門的な団体に委ねるのが最もいいと思われますが、主人公ジョシュは違う選択をします。ハッピーエンドのように見えるけれど、ハッピーエンドではない。これからどうなるのか、続編を読みたくなる物語でした。特に胸に残った言葉は、p187の「自分の気持ちを話すのは、脱皮するようなものよ」です。一つ気になったのは、ツルの描写です。途中、ツルが車に乗ったり降りたりするシーンで、描写がなくて、今、ツルはどこで何をしているのか、と気になる部分が何か所かありました。もう少し描写が加えてあるとなおよかったかもしれません。

オカリナ:ハードな内容ですが、ツルの子スプリートがそれを和らげているし、トラクターに乗って南を目指すのが冒険物語になっていて、おもしろく読みました。ジョシュとヤードランとお母さんという一つの家族と、ムラッドとヤスミンというもう一つの家族が一つにまとまろうとしている、もともと誰もが不安定になっている時期に、ヤードランが青年期になって力も強くなり意図しなくても暴力の加害者になりうるようになって、さらに不安定になっているという設定です。なので、最後にみんなが一つの家族になっていこうという方向性で安定感を出しているのは、作品としては納得がいく結末なのだと思います。ただ、現実を考えると、ヤードランをどうすれば家族が幸せになるのか、というのは難しい問題だと思います。障碍を持っている子どものきょうだいというのは、丘修三さんの『ぼくのお姉さん』(偕成社)をはじめいろいろな作品で書かれていますが、たいていは世話係や我慢をさせられている方がどこかで切れて、障碍を持っている子にひどいことを言ったりしたりする。そこを乗り越えて次の段階にいくという姿を描いています。でも、この作品では、p143に、ジョシュがスケートボードをしている中学生を見て「一瞬、ぼくはいっしょにやりたくなった。ヤードランのめんどうばかりみるのではなく、自分と同じようなふつうの男の子たちと、ふつうのことをしてみた……」と出てくるだけ。これって不自然じゃないか、と思ってしまいました。それと、障碍を持っている者は、愛情をもった家族が世話をするのがいちばん、という間違った印象を子どもの読者にあたえるのではないかという危惧も感じました。
細かいところでは、p187に「ヤードランにひどいことをしようとしていたママに、ぼくは猛烈に怒っている」とあるのですが、p184ではジョシュも、ヤードランは「空間」に行くのがいちばんいいと悟った後なので、文章の流れとしてあれ? と思ってしまいました。

西山:読み始めて最初に、『ぼくのお姉さん』、『トモ、ぼくは元気です』(香坂直著 講談社)を思い出して、障碍のあるきょうだいを持つ子どもの葛藤が出てくるのかなと思ったんですが、そうではありませんでしたね。冒険がはじまってスプリートを死なせちゃうんじゃないのか、とか、ひやひやしながら先へ先へと読み進めたわけですが、全体としてうーんどうなのかなと思わなくはないです。p23の「お兄ちゃんが困っていたら、助けてあげてね」と母親は言うわけですが、いいのかなこれは、と。この家族は、ヤングケアラーや共依存じゃないのと思いもしました。p143に「ヤードランのめんどうばかりみるのではなく、自分と同じようなふつうの男の子たちと、ふつうのことをしてみたい……」と考えるシーンもあるにはあるのですが、そこだけで、こういう思いが主題となる日本の先の作品とは方向が違っています。ミカがすごくすてきだったから、最終的に施設におちつくんだろうなと思っていたのですが……。ただ、『ぼくのお姉さん』や『トモ、ぼくは元気です』の弟が障碍を持つ姉、兄を負担に感じるのは、周りのからかいやいじめがあったからで、オランダだとそういうことはないのかなと、社会全体の違い故かもとも思いました。あと、ヤードランがソーラーパネルの向きで南を知ったり、いろいろできてしまうのは、物語としてはおもしろいのですが、危うさを感じます。いろいろできない人だったらどうなのか、とても負担を与える症状をもっていたらどうなのか。それでも共に生きる姿を見たいと思います。

しじみ71個分:私は、それまでは、幼いジョシュに甘えて、主に家族だけでなんとかしようとしていたのが、ジョシュの大怪我や2人の南への逃避行という大事件をとおして、さらにもっと、みんなで助けあおうという方向に行くのだと漠然と感じていました。そう思ったのは、p184ページのミカの「うまくいかなかったのは、わたしたち全員の責任だよ」「たとえだれかがいやだと思っても、みんながお互いを守る天使なのよ。全員がね。」というせりふや、p217のお母さんの「ミカがきっとじょうずにたすけてくれるはずよ」というせりふがあるからです。具体的には方法は示されませんが、家族で暮らすという選択肢を大事にしつつ、もっとオープンに「空間」やミカ、ムラットやヤスミンほかたくさんの人の助けを借りて、自分たちの希望を実現していくんじゃないかなという期待をもって読みおわりました。日本だとどうしても、家族だけで頑張るような、閉鎖的な印象を受けがちですが、そうではないと思いたいですね。

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エーデルワイス(メール参加):障碍をもつ16歳ヤードランの面倒を見る弟の11歳のジョシュが主人公。ママがジョシュに兄『大男』の面倒を見てあげてなんて、なんてことだろうと、腹がたちましたが、兄弟愛の強さに胸を打たれました。ヤードランが魅力的。ツルの子スプリートを『南』にいる群れに帰そうとするトラクターでの冒険の旅も臨場感にあふれています。盛岡にツルではありませんが、白鳥が越冬する『高松の池』(湖のような大きさ)があり、たくさんの白鳥でにぎわっているので、ツルの集まる湖の様子が身近に感じられました。ママの恋人の娘のヤスミンの気持ちもよくわかりました。ママが最後に、ジョシュがヤードランの面倒をみてきたのだからと、もう何もしなくてよいというところにホッとしました。

(2022年01月の「子どもの本で言いたい放題」より)

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『拝啓パンクスノットデッドさま』表紙

拝啓パンクスノットデッドさま

オカリナ:とてもおもしろく読みました。今回は兄弟愛というテーマで、もちろんこの作品は晴己(はるみ)と右哉(みぎや)の兄弟が中心なのですが、私は非血縁の人のつながりを描いているという意味で新しさを感じました。2人の母親は、兄弟をネグレクトしていて家にもあまり帰ってこない。晴己は弟のめんどうも見ながら家事もやり高校へ通っているという設定です。母親は「あんたたちのせいで、こんな人生しか生きられなかったんだよ」というのが口癖で、晴己はそれだけは言われたくないと思っているし、弟にもどなったりしてはいけないと自制している。兄弟の父親がわりになっていたのは、まったく血のつながりのない「しんちゃん」という母親の昔の友達。晴己はそのうち血縁へのこだわりを捨てて、「親でなくてもだれかに大事にされていれば大丈夫なのではないか」と思い始める。p166「母親じゃなくたってよかったのか……。/少しだけ、あきらめがついたような気がした。/たとえこのまま離ればなれになってしまっても、右哉はきっとだいじょうぶだ。自分はじゅうぶん、右哉を大事にした」と。そして自分も周りの「しんちゃん」をはじめいろいろな人に大事にされていたことに気づきます。そのうえ、母親にいったん引き取られた右哉が家出して自分の前に姿をまた現したときは、p182「自分が右哉の世話をしているんじゃない。右哉が自分をかろうじて、いまの自分にしてくれているんだ」と認識を新たにします。血縁ではない人と人のつながりが、これからは大事になってくると、欧米の児童文学はかなり前から言ってきたわけですが、日本にもこうした点に焦点を当てて描いた作品が、しかも上質の作品が出てきたという点でとても感慨深かったです。この作品に勇気づけられる子どもも多いと思います。

マリンゴ: 石川宏知花さんは、もともと文章、構成とも抜群にうまい方です。この作品は、テーマが重いですが、文章の疾走感に引っ張られて自分も高揚していく感じがありました。私の興味はハードロックどまりで、パンクの世界はほぼ知らないのですが、知らないなりに心地よく読めました。主人公が、受け身のキャラクターでありながら、世界を広げていく様がユニークで、私も中学、高校時代に音楽をやりたかったな、と思ったほどです。随所にうまいなと思うところはあります。たとえばp126で、加藤さんを菊池さんだと思いこんでいたことがバレますが、p189で「ようやく菊池さんから加藤さんへの修正が完了した」となります。主人公の思いこみの強さや、2人の親しさの深まりなどがうまく伝わります。p218で、あっという間に失恋するところもおもしろかったです。ヤングケアラーの問題として読むと、物語の最初と最後で、状況が変わっていないことは気になります。ただ、実際に似たような立場の子が読んだとき、物語のなかだけで希望の持てる展開が起きるよりも、この終わり方がリアルなのではないかと思いました。

アンヌ:今は、こういう音楽小説を読むのに、YouTubeでその時代の映像まで見られるので、音楽を聴きながら読んでいけるのが楽しかったです。そういう意味で、新しい時代の小説だなと思いました。ガンガンに音楽をかけながら疾走感を持って読み進んでいけたのですが、少し気になったのは場面が変わったことがすぐにわからないかったところです。たとえばp68からp69の電話の場面からスタジオの場面に移るところなど、2回読めば気にならなくなるのですが、最初はひっかかりました。こわれた家族のために食事をつくったりするのが、女の子なら当たり前だとされてきたので、主人公が男の子だから物語となるのかなとも思いましたが、現実に同じ立場にいる子どもたちにとって救いになるかもしれませんね。主人公も弟も物語の中で成長していくので希望を感じます。また、主人公も泣きますが、しんちゃんが泣く場面が多い。そこで、男なら泣くなとか男泣きというような従来のジェンダー的な縛りがないのも、新しい男性像のようで、いいなと思いました。

ハル:以前にしじみ71個分さんがこの本を薦めてくださったときに、早速読んですっかりハマってしまいました。しじみ71個分さんが推薦コメントとして「パンクじゃなきゃダメなんだというのがよくわかる」とおっしゃっていたと思うのですが、まさにそのとおり。パンクについての主人公たちの思いや、メロコアじゃないんだよな、というところとか、登場人物の人間性についても、もう、いちいち共感の嵐。たとえわからない曲でも、音が頭に響いてくるようで、ワクワクしました。愛があふれている作品ですね。作者のパンク(に限定せず、題材そのものかも)への愛、そして作中人物への愛もあふれていますよね。今の中学生にかけてあげたい言葉、見せてあげたい景色、とか言うとこういうのも大きなお世話なんでしょうけど、それが、全部、全部、つまっているようで、読後は快哉の声をあげたくなるような、そんな気分でした。

まめじか:晴己にとってのパンクは、まわりの世界との交点というか、それがあるから社会とつながれて居場所ができたのだな、と。「アイ・フォウト・ザ・ロウ」の歌詞も、ラストのフェスの場面で雨の中演奏しながら、「寿命が半分になってもいいから、一秒でも長く、このままでいたい」と思うところなんかもそうですが、パンクって刹那的な要素もありますよね。でも、この本はそこで終わってなくて、世界への信頼にしっかりと根ざしていて、それが児童文学の描き方だと思いました。主人公は、自分をつなぎとめている存在に気づくんですよね。自分も右哉に支えられているとか、自分にとって必要だったのは母親でもなく父親でもなく、大人になりきれていないしんちゃんだったとか。自分のまわりにも可能性が広がっていると思う主人公の姿に、「手が届かなくても、月に手をのばせ」という、クラッシュのジョー・ストラマーの言葉を思いだしました。

ネズミ:とてもおもしろかったです。同じ作家の『墓守りのレオ』(小学館)は、あまり得意じゃなかったのですが、こちらを読んでよかったです。大事にする人は親じゃなくてもいいということを言うp166、「自分だって、大事にされてきた。しんちゃんにも、万田ちゃんにも。母親じゃなくたって、自分を大事にしてくれるおとなはちゃんといた」というところが、心に残りました。説教くさくならずに、行き詰まっている中学生や高校生の視野を広げてくれそうです。バンドメンバーの羽田さん、園芸委員会で、ラップを歌う女の子など、脇役の登場人物に思いがけないところがあるのもいい。親が不在のこのような兄弟がいたら、現実には福祉行政によって施設に収容されるでしょうから、そうならないところはファンタジーですよね。勢いがあり、中高校生に薦めたい作品でした。

花散里:最初、このタイトルと表紙の装丁にひきつけられました。石川宏千花さんは「お面屋たまよし」シリーズ(講談社)など、これまでの作品から小学校高学年向けの本を書かれている人だと思っていました。ハードコアパンクなど、全く未知な音楽でしたが、晴己や右哉にとってパンクという音楽がかけがえのないものであることが伝わってきました。育児放棄のような母親との関係など、兄弟愛というより家族のありかたを描いた作品だと思いました。これまで児童文学にはタブーだったことが描かれるようになってきていると感じながら読みました。右哉が自分にとってどんな存在なのか晴己が気づいていくところなどを印象深く感じました。子どもの貧困が問題になっていますが、自分が生活費を稼がないといけないと考えながら生活をしている人たちがいることなど、YA世代に読んでほしい作品ですね。

雪割草:このジャンルの音楽には詳しくないのですが、ひきこまれる語りでした。タイトルも装丁もインパクトがあって、対象の読者が手にとってくれるのではと思います。大変な状況におかれた晴己にとって、音楽が、ここではないどこかに行ける、自分の居場所として描かれているのも、たとえそれが読者にとっては音楽でなくとも、共感を呼ぶのではと思いました。だめな母親との関係やその中での心の傷や悩み、右哉に生かされているという気づきなども、リアルに描かれていると思います。色々な困難に直面しながらも、自分はこの世界で生きていける、と晴己が世界への信頼や希望を自ら見つけていく姿も、よく伝わってきました。しんちゃんはおもしろい人で、その存在もいいなと思いました。ヤングケアラーという現代の問題も含まれていて、多くの人に読んでほしいです。

コマドリ:いろんな人物が登場するけれど、うまく特徴がとらえられていました。第一印象でこういう人だと思ったら、そうじゃないとだんだん気づいていくところもよく書けています。主人公が自分の状況を冷静に分析しながら物事に対処していく、冷めたような感じがよく出ていました。親ではない、信頼できる大人の存在も大きいですね。大人にも欠点や弱いところがあるところが描かれているのも良かったと思います。弟が、中2にしては子どもっぽいと感じましたが、これは晴己から見ると弟はいつまでも母に置き去りにされた小2の弟のままだからなのかな、と最後になって思いました。弟が歌をうたう場面はかっこいいんですけどね。歌詞のせりふになりそうな言葉を付箋に書いて柱にはっていくのはおもしろかったです。最後に晴己が小学校の同級生で「コミュ障」とあだ名されていた男子の姿を駅で見かけ、おしゃれな女子高校生と一緒に笑っている様子がごく普通の高校生らしい、と思ったあとに「オレたちは本当に、これからどんなふうにでも生きられるし、どこにでもいけるんだ」と書かれていて、希望が感じられるのがよかったと思います。一つ疑問だったのは、p37で田尾さんを紹介されたとき、「タオさん」のイントネーションからてっきり中国出身の人かと思った、というのですが、田尾さんのイントネーションって田にアクセント? 尾にアクセント? ちょっとわかりにくいと思いました。

コアラ:まずカバーが派手だな、というのが第一印象です。カバーの下の方の出版社名が斜めに配置されていますよね。デザイン的にタイトルなどが斜めになっていても、出版社名はまっすぐに配置されている本が多いので、これはおもしろいな、と思いました。カバーやタイトルで、これはパンクの本だとアピールしていて、中身もパンクの用語がいろいろ出てきますが、パンクを知らなくても意味合いがわかるように書かれています。私はパンクはあまりよく知らなかったのですが、知らなくても全然問題なく読めたし、“パンク、ちょっと聞いてみようかな”という気持ちになりました。p89からの、晴己がしんちゃんにバンドをやることを言ったときの、しんちゃんの反応が印象的でした。それまでの、保護者と保護される子ども、という関係性が変わった、という変化を感じた場面でした。物語は途中まで順調に進むのですが、後半になって、弟の右哉だけが母親に連れていかれます。ここで、主人公も読者も、一度どん底に落としておいて、その後、右哉が戻ってきて夢のステージで演奏する、という盛り上げ方。作者はうまいなと思いました。パンクを知らなくても楽しめる本だと思うので、お薦めです。

さららん:右哉と晴己の人物像も、目に浮かぶようだったけれど、私はしんちゃんという大人のリアリティに魅かれました。パンク好きで、昔好きだった女性の子どもの面倒をずっと見ているしんちゃんは、どこか成熟してないから、晴己がしんちゃんに相談なしにパンクのグループを集めていると聞くと怒りだす。しんちゃんより晴己のほうが大人、というか、大人にならざるをえないのでしょうね。たとえばp142に、自分たちを置いていった母親でも「きらいには、なれなかった。ただの一度も」という描写があります。ここには複雑な思いが描かれていて、母親を嫌うと、自分自身も否定してしまうような、危ういバランスの中で生きている。憎みぬいてもいいような母親を許しているのは、バイト先の花月園の店長もふくめ、晴己の状況を理解して支える周囲の大人たちがいるからだし、特に少々頼りないしんちゃんという他人の、底抜けの善意があるからだと思いました。貧困というテーマも、親子関係や大人と子どもの関係もステレオタイプが洗い流されていて、それがパンクという反抗の音楽を通して、力強く立ちあがってくる作品でした。この世界は捨てたもんじゃない、という希望が、素直に胸に落ちました。晴己が大人になったら、どんな人になるんだろう。右哉にはなにか障がいがあるように思えましたが、それもあえて名称を出さず、右哉は右哉なんだと、型にはめていないところがいいです。

しじみ71個分:とてもおもしろくて深い印象が残った本です。もう、大好きです。パンクについて詳細に書きこんであるのが、登場人物のありようと密接に結びついていて、人物像が際立って浮かびあがってきます。なので、人物をみな頭の中で映像として思い描けるんですね。頭の中で音楽も聞こえてきて、主人公の晴巳と右哉がどれほどパンクロックが好きで、なんでパンクじゃなきゃだめなのか、という必然性が随所に感じられました。これは、モチーフとしてパンクロックそのものについて、とても細かく描きこんであるからなんだろうと思いました。人物の根幹を定義するものになっているのですね。そこが素敵でした。2人の面倒をみてくれる、しんちゃんの人物像もとても魅力的です。2人の母親にぞっこんで、相手にされていないのに、2人の面倒を独身のまま見ているという不器用な優しさや、音楽をあきらめたと見せて、晴己がバンドを組むと知って、すねてしまうところとか、大人になり切れない大人のリアルな柔らかい部分を感じます。平気で右哉だけ連れていく母親も本当にひどくってリアルで。それがあるからこそ、晴己の受けたショックがどれほど大きく、しんどいことだったのかがまたザクっと胸に響いてきます。音楽を通じて、やさしい人々の関係や、晴己の成長がしっかり描かれているので、本当におもしろかったです。不器用な人物の代表格の、擬態でギターを持ち歩いていた海鳴も切なくてよかった。クライマックスの雨の中のライブの描写も本当に、読みながらドキドキ、ワクワクして、演奏が終わって晴巳といっしょにカタルシスを感じ、泣けました。本当に読んでよかった、おもしろかったです!

ルパン:とてもおもしろかったです。ひどい母親なんですが、晴己が右哉を支えているようでいて、実は精神的には右哉の存在が晴己を支えている、というところにぐっときました。子どもたちを世話することで好きな相手とつながっていたい「しんちゃん」の存在も大きいし、「あじさい祭り」や「コミュ障の尾身」のような細かいネタが最後にひとつに収斂するところもよかったです。パンクは全然知らないけれど、それでも楽しめる物語でした。「ワン・ツー・スリー・フォー!」の高速カウントが聞こえてくるようで。「菊池さんあらため加藤さん」がたくさん出すぎて逆にどっちがどっちかわからなりましたが、名前って1度インプットされるとなかなか修正できない、という経験、私にもあります。

コマドリ:晴己は成り行きで園芸部に入るけれど、パンクバンドの世界と正反対にあるような園芸部で自然に自分の場所を見つけていくのもおもしろいと思いました。

ヤドカリ(担当編集者):石川先生との打ち合わせの場で、「パンクロック」の話を書きたいというお話をいただいたことがきっかけになって生まれた物語でした。私からも「なにか音楽モノを」という話をするつもりでしたので、「ぜひ!」ということで動きだしました。どの登場人物たちにも、きちんと眼差しが向けられていること、好きなものがあれば大丈夫なんだよ!というメッセージが、行間からひしひしと伝わってくることが、この作品の魅力だと思っています。デザインの面でも、デザイナーの坂川さんが、一目で「パンクっぽい」と思えるとっても素敵な装幀にしてくださいました。よく見ると、晴己の足がタイトルの「デッド」を踏んでいたり……などなど、色々な遊びを入れてくださっているので探してみてください。ひとつ裏話をすると、ピンクではなく黄色のカバー案もあったのですが、それはそのまますぎる……ということで、現在のデザインになりました(笑)

コマドリ:パンクの曲がわりと古いものが出てきたり、ライブの観客にもおじさんたちがいたりするのですが、パンク好きの世代は幅広いのでしょうか? そういうのはいいなと思いました。

西山:何度か読んでいますが、ますますいい、という感じです。最も印象的なのは「誘われてなにかする分にはしかたがない」「だれかに誘われてすることだったらノーカウントだ、と考えてしまう傾向がある」(p34~35)晴己の感覚です。そういう風に、自らリミッターをかけて自分を守っている様子がほんとに、厳しくて胸に刺さります。ただ、今回、バイトについて「自分がそれを望んでするのはよくても、強制されるのはいやだった」(p220)という、ここはここで分かるし、今までひっかかったことはなかったのですが、前者の考え方と合わせてちゃんと考えると、晴己像はもっと深まるのかも知れないと感じています。あと、やはり、しんちゃん、海鳴のありかたがとてもおもしろく、世界を広げていると思います。間接的にしか出てこないけれど、保健室の先生「万田ちゃん」の存在もよいです。

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エーデルワイス(メール参加):読むのが苦しかったです。現在高校生の晴己がほとんど家に帰ってこない母親の代わりに小学生の時から弟の右哉の面倒をみて生活しています。最低限の生活費なのでアルバイトをしながら学業、家事をこなしています。しんちゃんという愛情もかけくれる支援者がいなかったらと思うとぞっとします。母親に対して過度な期待しない、後で苦しくなるからという、晴己の気持ちが嫌というほど伝わってきます。それでも兄弟は母親を慕っているというのも現実ですね。若者たちの群像劇と受け止め、最後がさわやかに希望の持てる終わり方でほっとしました。

(2022年01月の「子どもの本で言いたい放題」より)

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わたしたちもジャックもガイもみんなホームレス〜 ふたつでひとつのマザーグースえほん

ホームレス,病気,飢饉,エイズなどの社会問題に目を向け,マザーグースの詩にのせて展開する,不思議な魅力のファンタジー絵本。 (日本児童図書出版協会)

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ダチョウのくびはなぜながい? 〜 アフリカのむかしばなし

昔むかし,首の短いダチョウがワニに虫歯の治療をたのまれて……。ケニヤに伝わる昔話を,カルデコット賞に輝くコンビが絵本化。 (日本児童図書出版協会)

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白雪姫と七人の小人たち (改訂版)

有名なグリム童話の絵本決定版。画家のひたむきな努力が実をむすび,物語の雰囲気をよく伝えています。格調の高い作品です。 (日本児童図書出版協会)

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マーヤのやさいばたけ

自然とは親しい友だちのマーヤが,畑でいろいろな野菜をつくり,それを使って,お料理をしたり,パーティーを開いたりします。 (日本児童図書出版協会)

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せかいいち大きな女の子のものがたり

大きなアンジェリカは,村人を困らせていた大クマを退治します。木を削った薄い板にダイナッミックに描かれた,底抜けに愉快なお話。 (日本児童図書出版協会)

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マーヤの春・夏・秋・冬

マーヤは,四季それぞれに身の回りの鳥や木や花や虫を観察して,おもしろいことをたくさん発見する。絵も文も楽しい自然観察の本。 (日本児童図書出版協会)

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小さな魚(改訂版)

第2次大戦末期,荒れはてたイタリアを舞台に,孤児たちがたくましく生きていく姿を描く反戦文学の改訳新装版。 (日本児童図書出版協会)

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おじいちゃんとのクリスマス

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くまくんはなんでもしりたい!

1995-09好奇心いっぱいのかわいいくまくんと一緒に時間や数や色のことを勉強したり,まちがいさがしや反対さがしのクイズで遊ぶ絵本。 (日本児童図書出版協会)

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いちねんのりんご

丘の上のリンゴの木には,12色の実がなります。新しい月が来るたびに一つ実が落ちて割れ,雪だるま,お姫様へと変身します。 (日本児童図書出版協会)

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わたしのだいすきなふねは…

小さなボートから大きな海を渡っていく客船まで,様々な船を力強いダイナミックな絵で紹介。何度でも見たくなる楽しい絵本。 (日本児童図書出版協会)

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わたしのだいすきなどうぶつは…

犬,にわとり,馬,牛,ねこ,ぶた……。子どもたちがよく知っている動物たちを迫力満点のダイナミックな絵で表現した絵本。 (日本児童図書出版協会)

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顔のない男

女ばかりの家族の中で孤立し悩む14才の少年。夏の日,顔半分に火傷を負った男と出会い,現実を直視し愛を恐れずに生きることを知る。 (日本児童図書出版協会)

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もうおふろにはいるじかん?

おふろに入るのは,ちょっと苦手かな? でもオオカミの子が眠りにつくまでのお父さんとの楽しいやりとりを見れば,もう大丈夫! (日本児童図書出版協会)

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いいこってどんなこ?

小さなうさぎの男の子とお母さんとの間のやりとりで展開する絵本。不安を抱えた幼い子をあたたかく包みこむお母さんがすてき。 (日本児童図書出版協会)

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ラクソーとニムの家ねずみ

自分たちの巣をダムから守るため,ねずみたちはコンピュータを利用することに…。父の遺稿を娘が引き継いだ,シリーズ第2弾。 (日本児童図書出版協会)

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くつくつどんなくつ?

ボタンの靴,ひもの靴,ゴム長靴にスケート靴…。靴がいっぱい出てくる楽しい絵本。中でも一番いいのは何でしょう? (日本児童図書出版協会)

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やんちゃねこのセビー

やんちゃな子ねこのセビーが,初めてひとりで家の外に出て,いろいろな動物と出会いながら農場を見て回ります。穴あきミニ絵本。 (日本児童図書出版協会)

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セビーのぼうけん

遊び相手がほしい子ねこのセビーは,農場の動物たちを次々にたずね,そのたびにびっくりしたり怖くなったり。穴あきミニ絵本。 (日本児童図書出版協会)

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3びきのかわいいオオカミ

お話はちょうど『3びきのこぶた』の逆で,無邪気なオオカミが悪い大ブタにいじめられます。昔話をしのぐ,現代的な動物寓話。 (日本児童図書出版協会)

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パンはころころ〜ロシアのものがたり(改訂版)

ころんころんところがり出たパンは,いろいろな動物からねらわれますがうまく逃げるので大丈夫。得意になってキツネの鼻へ……。 (日本児童図書出版協会)

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星のふる夜に

国際的に名声の高い日本画家が,小鹿の一夜の冒険を美しく表現しました。文字のない,絵の力が強く語りかける絵本。 (日本児童図書出版協会)

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よるの森のひみつ 〜スイス南部の昔話より

南スイスの昔話をもとにした現代版「こぶとり」の物語絵本。動物や植物と仲良くすることの大切さを,美しい絵で表現しています。 (日本児童図書出版協会)

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氷河ねずみの毛皮

極北へ向かう夜汽車を舞台に,自然界における「とるもの,とられるもの」の関係を描いた物語。新進気鋭の画家による幻想的な絵本。 (日本児童図書出版協会)

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月の姫

竹から生まれ,天上界と地上界の間で揺れ動く姫の心情を,大胆な墨の色と勢いのある日本画で表現した,力強く美しい絵本。 (日本児童図書出版協会)

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ロージー、はがぬける

ロージーの歯が抜けました。でも,ロージーは,歯の妖精にあげたくありません。子どもの成長をあたたかくとらえたシリーズ2作目。 (日本児童図書出版協会)

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ロージー、いえでをする

うさぎのロージーはママとお菓子をつくりたいのに,ママは弟のマットをかまってばかり。ロージーは家出をすることにしました。 (日本児童図書出版協会)

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ごちそうさまのなつ

野菜畑にはごちそうがいっぱい。天真爛漫なウサギの一家と人間の夫婦の知恵くらべ。ユーモアあふれる楽しい絵本。 (日本児童図書出版協会)

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モグラのイーニーがみつけたもの

まっ暗な深い穴の底に住むモグラの三姉妹。末のイーニーは,地面の上にすてきなものがあると聞き,それを探す冒険にでかけます。 (日本児童図書出版協会)

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おじいちゃんのはたけ

おじいちゃんのはたけには,いつも野菜や果物がいっぱい。はたけの作物を通して四季の移り変わりを鮮やかに描いた絵本です。 (日本児童図書出版協会)

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イングリッド・メンネン&ニキ・ダリー文 ニコラース・マリッツ絵『ぼくのアフリカ』

ぼくのアフリカ

南アフリカの反アパルトヘイト出版社の出した絵本の翻訳。男の子が自分の住んでいる街を紹介する。力強い絵が素晴しい。 (日本児童図書出版協会)

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もりのともだち

春になり,氷の家がとけてしまうと,きつねは野うさぎの家を占領してしまいました。それを聞いた森の動物たちは……。 (日本児童図書出版協会)春になり,氷の家がとけてしまうと,きつねは野うさぎの家を占領してしまいました。それを聞いた森の動物たちは……。 (日本児童図書出版協会)

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妖精事典

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バタシー城の悪者たち

画学生サイモンの下宿先は,王の暗殺をたくらむ一味のすみかだった。大冒険のすえ,悪者たちをやっつけるゆかいな物語。 (日本児童図書出版協会)

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サンタのおまじない

けんちゃんに届いたプレゼントは,大嫌いな野菜のつめあわせ。でも,おまじないを唱えると,切り絵のマジックで野菜が変身! (日本児童図書出版協会)

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やさいをそだてよう

無農薬で生態系を大事にしながら野菜を作る,子供のための園芸書。生命をいつくしみ,身の回りの環境に目を向ける力を養います。 (日本児童図書出版協会)

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ねこのタビサ

猫から見ると,人間の暮らしはどんなふうに見えるでしょうか? 子猫のタビサが母猫になるまでを描く絵物語。猫好きの方へ。 (日本児童図書出版協会)

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じめんのしたのなかまたち

北風が吹きあれ,雪がふりしきる季節に,地面の下はどうなっているのでしょう? 冬ごもりする虫たちの暮らしを描いた美しい絵本。 (日本児童図書出版協会)

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ちいさなおうさま

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ぬすまれた湖

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ケティのはるかな旅

アメリカの西部開拓時代に生きた一人の少女ケティ。新しい土地へ移住する旅の程で様々な事件に出会いながらケティは成長する。 (日本児童図書出版協会)

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からすのかーさんへびたいじ

かのハクスリーの書いた唯一の子どもの本。からすの夫婦が,いつも卵を盗みにくるへびを退治するまでの愉快な絵物語。 (日本児童図書出版協会)

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おいしいものつくろう

料理は初めてという小さなお子さまにもかんたんに作れます。火も包丁も使わないおやつやジュースまで。 (日本児童図書出版協会)

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にげだしたまじょ

777歳になる魔女のペタンコアンヨは、呪文に失敗しては、そのたびに自分の足が大きくなって、くさっていました。少女二キとのお話。 (日本図書館協会)

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うっかりまじょとちちんぷい

どじな魔女の見習いとなった,ちちんぷいは子供たちの味方をして,やがて天使になります。 (日本児童図書出版協会)

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ふふふんへへへんぽん! 〜 もっといいこときっとある

むく犬ジェニーは,何不自由のない暮らしに退屈し,”もっといいこと”をさがして旅に出ました。さてジェニーが見つけたものは? (日本児童図書出版協会)

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びっくりどうぶつえん

子どもたちの大好きなクイズや数あて,まちがいさがしなどがいっぱい載った動物絵本。動物の生態や姿なども知ることができます。 (日本児童図書出版協会)

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かみとあそぼう

1枚の紙とハサミとのり,動物やお面かわいい箱やとび出すカード43種類の紙工作を,型紙つきで紹介します。 (日本児童図書出版協会)

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ノアの箱船に乗ったのは?

『旧約聖書』にでてくるノアの箱舟の話をもとにした長編小説。時代を古代エジプト第6王朝(約4000年前)の頃に設定し、ノアをはじめ登場人物は人間的に描かれている。 (日本図書館協会)

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遠い日の歌がきこえる

キャトリーナとトビー、ミランダはイギリス諸島の一つで休みをすごすことになった。島の中の冒険、浜辺に棲むアザラシたち等、自然を通して成長していく若者達を描く。 (日本図書館協会)

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サンゴしょうのひみつ

1982年にニュージーランド最優秀児童文学賞を受賞した小説。耳と口の不自由なジョナシはサンゴ礁で不思議な白い亀に出会う。少年と亀の間に芽生えた愛の物語。 (日本図書館協会)

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ふしぎなどうぶつえん

迷路,かくし絵,数あて,まちがいさがし……子どもたちの大好きな遊びやクイズがいっぱいの動物絵本です。 (日本児童図書出版協会)

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いい子になれっていわないで

ジャンは,勉強はできないし,お行儀も悪い。先生や親の期待する”いい子”からはほど遠い。でもジャンは,車が大好きだった。 (日本児童図書出版協会)

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セロひきのゴーシュ

おなじみの若き音楽家と動物たちの交流の物語を,「私もひとりのゴーシュだ」と言う司修が,思いをこめて描いた力作です。 (日本児童図書出版協会)

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ふしぎな子

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まよなかのパーティー〜ピアス短篇集

美しい自然を背景に,ゆれ動く子どもの心の情景を描き,現実と幻想の接点をさぐる,すばらしい短篇集。 (日本児童図書出版協会)

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鳴りひびく鐘の時代に

鐘の鳴りひびく北欧中世の暗い時代に,自分らしい生き方を探しもとめた若き王。生きることの意味を問いかけるファンタジー。 (日本児童図書出版協会)

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シュゼットとニコラ6〜あめふりつづき

一週間のお休みというのに、日曜日から土曜日まで雨ばかり。でも、オーケストラごっこをしたり、かくれんぼをしたり、かそうパーティをしたりします。 (日本図書館協会)

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七わのからす

かしこくて勇敢な女の子が,からすになった七人の兄さんたちを助けだすというグリムの有名な話に,美しい絵がつきました。 (日本児童図書出版協会)

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いっとうのいぎりすのおうし

にひきのにたものがえる、さんとうのさけのみとら、よんわのよくばりぺんぎん、ごひきのごきげんなわに、などで12までの数を数える。言葉遊びも含む。 (日本図書館協会)

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ことりのオデット

一羽の小鳥が、辻音楽師のおじいさんと仲よく一緒に暮らしていました。でも秋になると、小鳥は暖かい国へ飛んでいかなければなりません・・・。 (日本図書館協会)

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もしもまほうがつかえたら

ある日,屋根裏で見つかった本には,魔法の呪文が書いてありました。ジャックはこの本を使って大人への復讐を考えます。 (日本児童図書出版協会)

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なめとこ山のくま

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賢者のおくりもの

クリスマスのプレゼントを買いたくて,おたがいに自分のいちばん大切なものを手放してしまう若く貧しい夫婦の心を打つ愛の絵物語。 (日本児童図書出版協会)

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ウィルソン文 市川里美絵『メリークリスマス』さくまゆみこ訳 冨山房

メリークリスマス 〜 世界の子どものクリスマス

子どもたちが心待ちにしているクリスマスって一体何なのでしょう? 他の国では,どんなお祝いをしているのでしょう? (日本児童図書出版協会)

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ねずみのウーくん 〜いぬとねことねずみとくつやさんのおはなし

くつ屋さんのペットは,けんかばかりしている犬とネコ,それにネズミのウーくん。そこへネズミぎらいのおばさんがやってきた。 (日本児童図書出版協会)

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あかずきん

数々の絵本賞,美術賞にかがやくツヴェルガーが,グリムの世界の雰囲気をそのまま伝えます。赤ずきん絵本の決定版。 (日本児童図書出版協会)

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魔法の城

ジェラルド、ジミー、キャスリーンの3人の兄姉が道端のほら穴をみつけ、入って行くと、素晴らしい大庭園に出る。そしてそこでピンクの美しい服を着た少女をみつける・・・。 (日本図書館協会)

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わらべうた 下

「かごめ かごめ」「かってうれしい はないちもんめ」「ことしのぼたんはよいぼたん」「とおりゃんせ」など古くから人々に親しまれている歌に絵を添えて紹介。 (日本図書館協会)

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ばらになった王子

ドイツの古典的な物語に,数々の国際絵本賞に輝く新進画家が美しい絵をつけました。小学生から楽しめるファンタジックな物語絵本。 (日本児童図書出版協会)

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なにしてあそぶ?

幼い子どもたちの生活が描かれた絵本。なわとび,かけっこ,人形芝居…子どもたちの創造性豊かに生き生きと遊ぶ姿が楽しめます。 (日本児童図書出版協会)

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シュゼットとニコラ5〜ゆめのどうぶつえん

ジュゼットとニコラは動物園で見た動物たちそれぞれのふるさとを訪ね、そこで彼らがどんなふうにくらしているかを見る。 (日本図書館協会)

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キリスト物語

美しい絵と,ひびきの良い文章で,イエス・キリストの一生をわかりやすい物語にして紹介します。 (日本児童図書出版協会)

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わらべうた 上

日本の山河を背景にして生まれ,代々受けつがれてきた伝承わらべうたの中から,リズムと言葉のおもしろいものを選びました。 (日本児童図書出版協会)

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ひみつの白い石

黒い髪をひらひらさせている背の低いやせっぽちの少女フィアと、半年毎に引越す靴屋の甥のハンプス少年との間を行ったり来たりする不思議な石の物語。 (日本図書館協会)

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まよなかのだいどころ

真夜中に目をさましたミッキーは,パン焼き職人が働いている台所へ。そしてはじまるふしぎな世界…。センダック三大代表作の一つ。 (日本児童図書出版協会)

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りす女房

嵐で倒れた大木の下敷になったみどりの森の妖精を助けた豚飼いの男が、お礼にもらったリスの化身の女房と、意地悪な兄の妨害にもめげず幸せになる話。 (日本図書館協会)

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いちばんぼしみつけた〜こどものための詩集・2

フロスト、エリオットなどイギリスの詩人の、子ども向きの作品20編を、楽しい挿絵入りで収録。 (日本図書館協会)

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雪の下の巨人

悪の一味である大将軍と手下の革人間たちがイギリス東部を支配しようと襲って来た。ジョンクとビルとアーフの3人が魔法を使うエリザベスの助けを得て一味をやっつける話。 (日本図書館協会)

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しろひげパチリくろひげパチリ

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ちいさなちいさなえほんばこ

『ピエールとライオン』『アメリカワニです、こんにちわ』『チキンスープ・ライスいり』『ジョニーのかぞえうた』の豆本4冊セット

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ジョニーのかぞえうた

ゆうゆうとひとり暮らしをしていたジョニーのところへつぎつぎに招かれざるお客がやってくる。ゆかいなゆかいな数え歌絵本。 (日本児童図書出版協会)

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アメリカワニです、こんにちは〜 ABCのほん

アメリカワニの一家が,ABC…と順番にZまで,楽しくアルファベットを教える絵本。ワニの動作がゆかいで,ついひきこまれます。 (日本児童図書出版協会)

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くるみわり人形とねずみの王さま

有名なくるみわり人形の物語の全訳。クリスマスに贈られたくるみわり人形が,ねずみの軍勢と戦い,マリーをお菓子の国へと誘う。 (日本児童図書出版協会)

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森の子ヒューゴ ( 北国の虹ものがたり3)

規則にしばられるのが大きらいなヒューゴは,母の死や父の逮捕にも負けることなく,自由にのびのびと生きてゆきます。 (日本児童図書出版協会)

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ふたり

精密に描きこまれた石版画,リズミカルなことば,いろいろな工夫やしかけ……。ネコとネズミの”ふたり”の関係を描いた傑作。 (日本児童図書出版協会)

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ママたちとパパたちと

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アベラールどこへいく〜 ちょっとかわったカンガルーのおはなし2

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シュゼットとニコラ3〜きせつはめぐる

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シュゼットとニコラ4〜こどものサーカス

市川氏の考えた話の筋にもとづいて、矢川氏が新たに文を書いている。ジュゼットと二コラの住む村で「世界こどもサーカス」が合宿をする。サーカスの芸を紹介。 (日本図書館協会)

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チキンスープ・ライスいり 〜12のつきのほん

何よりもおいしいお米の入ったチキンスープを毎回登場させながら,1月から12月までの季節の移りかわりを表現した楽しい絵本。 (日本児童図書出版協会)

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ピエールとライオン〜 ためになるおはなし

誰のいうこともきかないへそ曲がりのピエールが,大きなライオンに食べられてしまう! こわくてゆかいで”ためになる”絵本。 (日本児童図書出版協会)

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ヒューゴとジョセフィーン (北国の虹ものがたり・2)

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やまわらしきえた(わが西山風土記・冬)

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ティムとサンタクロース

はつかねずみのティムは、ヘレンと結婚しました。でも、ヘレンは、教会からでてきた花よめさんの美しいドレスを見てから、自分もドレスばかり作り始めます。 (日本図書館協会)

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ティムのおよめさん

はつかねずみのティムは、ヘレンと結婚しました。でも、ヘレンは、教会からでてきた花よめさんの美しいドレスを見てから、自分もドレスばかり作り始めます。 (日本図書館協会)

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ティムとめうしのおおさわぎ

はつかねずみのティムと、はりねずみのブラウンさんは、ミルクをもらいに農家へいきます。ねずみを見ておどろいた牝牛たちは大さわぎ・・・。 (日本図書館協会)

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チキチキバンバン〜まほうのくるま 1 ・2・3

1)孤独な発明家カラクタカスが50ポンドで買った中古のパラゴンパンサーが空を飛ぶ話。2)みち潮のため海中に沈みそうになったチキチキバンバンは、危機一髪のところで助かります。 (日本図書館協会)

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なだれだ!行け そうさく犬

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小さなジョセフィーン(北国の虹ものがたり・1)

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あさなゆうなに〜こどものための詩集・1

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こんこんさまよめいりいつじゃ(わが西山風土記・秋)

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忘れ川をこえた子どもたち

100年以上も昔の、リンゴの花咲く平和な村や、「忘れ川」に囲まれた北国の不思議な館を舞台に、幼い2人の子をめぐってくりひろげられる幻想的な物語。 (日本図書館協会)

スウェーデンの児童文学

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ティムとひこうせん

ティムが、はりねずみや、こまどりと力を合わせ、ひこうせんで、かやねずみを麦畑から救い出すお話。 (日本図書館協会)

 

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ティムといかだのきゅうじょたい

イギリスの絵本。

どぶねずみに捕えられたかえるのウィリーを探しながらのティムの冒険旅行。 (日本図書館協会)

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やまわらしだれや(わが西山風土記・夏)

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シュゼットとニコラ 2〜おつかいに

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さくま編訳『キバラカと魔法の馬』表紙

キバラカと魔法の馬〜アフリカのふしぎばなし

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あまがえるどこさいった(わが西山風土記・春)

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その他

◆1970年4月から1973年1月まで文化出版局編集部書籍編集課で、絵本の編集を担当していました。課長は『ヘビのクリクター』を訳された中野完二さんで、ちょうど文化出版局で絵本の出版を始めようとしていた頃。
H.A.レイの「じぶんでひらく絵本』シリーズ、長新太さんの「らいおん」シリーズや『ぼうし』や『しっぽ』、アーノルド・ローベルの絵本、太田大八さんの『のぼっちゃう』、石川重遠さんの『だれのぼーる』『かくれんぼ』『にじのくに』などの編集にかかわりました。

◆1979年5月から1998年9月までは冨山房編集部で、子どもの本を編集していました。
翻訳絵本、読み物、辞典などさまざまな子どもの本を担当していました。忘れないうちに思い出したものを書き出しました。若い人と一緒に作った本もあります。

 

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「2023年IBBYバリアフリー児童書」に日本から推薦した本

2月13日に「2023年IBBYバリアフリー図書」に日本から推薦する本を選ぶ選考会がありました。選考委員は、梨屋アリエさん(児童文学作家)、林左和子さん(静岡文化芸術大学教授)、村中李衣さん(児童文学者/ノートルダム清心女子大学教授)、山田真さん(小児科医)、そして私です。進行はいつも撹上久子さんがやってくださいます。
前は候補の本を並べて、一つずつ見ながら話し合っていたのですが、コロナでそれができなくなり、事前にそれぞれ見ておいてからオンラインで話し合うというかたちになりました。
この選考会は、いつもほかの委員の方々の意見をうかがって、なるほどと思うことが多々あるのですが、今回も「軽度障碍者を派遣で雇うことがいいことであるかのような書き方でいいのか」「パラリンピックの選手をこういうふうに描くと、障碍者にもっと努力しろというようなものではないか」「こういうふうに間の動きを描いてもらうと発達障碍の人たちにもわかりやすい」「これだと命を粗末にしているようにとられる」などなど、いろいろな意見が出てきました。
3時間の話し合いの結果、日本から推薦することにしたのは、次の作品です。
◆カテゴリー1:誰もがアクセスできる本
・『音にさわる-はるなつあきふゆをたのしむ「手」』広瀬浩二郎作  日比野尚子絵 偕成社
・『かける』はらぺこめがね作 佼成出版社
・『仕事に行ってきます① クッキーづくりの仕事 洋美さんの1日』(LLブック)季刊『コトノネ』編集部作 加藤友美子写真他 埼玉福祉会
・『どちらがおおい? かぞえるえほん』村山純子作 小学館
・『ふーってして』松田奈那子作 KADOKAWA
・『まどのむこうの くだもの なあに?』荒井真紀作 福音館書店
・『りんごだんだん』小川忠博作 あすなろ書房
◆カテゴリー2:障害がある子どもや人物を描いた本
・『全身マヒのALS議員 車いすで国会へ』舩後靖彦、加藤悦子、堀切リエ著 子どもの未来社
・『めねぎのうえんのガ・ガ・ガーン』多屋光孫作 合同出版
・『わたしが障害者じゃなくなる日』海老原宏美著 旬報社
2023バリアフリー児童書へJBBYが推薦した図書
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『スティーブン・ホーキング』(化学同人)表紙

スティーブン・ホーキング〜ブラックホールの謎に挑んだ科学者の物語

好奇心をもつことに焦点を当てた伝記絵本。体の自由が失われていっても、「どうして?」「なぜ?」と問いつづけた宇宙物理学者の誕生から死までを、すてきな絵と簡潔な文章で描いています。絵がとてもおもしろいです。

先日JBBYの「ノンフィクションの子どもの本を考える会」では、最近出版されている伝記について話し合いました。

かつては子どものための偉人伝がたくさん出て、よく売れていました。そのほとんどは偉さや、人並みはずれた頑張りや、克己心などを描いたものでした。なので、私はどうしても「わざとらしい」と思ってしまっていました。最近の伝記は少し違ってきているように思います(日本では旧態然とした偉人伝がまだたくさん出ていますが)。いわゆる「偉人」ではない人にも焦点を当てた伝記が出るようになりました。それに、偉さではなく弱点ももった人間として描こうとするようになってきたと思います。

ホーキングは「偉人」ではありますが、この絵本では、好奇心を中心にすえ、ホーキングのユーモアやお茶目な側面も描いています。そういう意味では「新しい伝記」の一冊かもしれません。

同名の伝記絵本を私はもう一冊約していて、それはこちらです。

(編集:浅井歩さん 装丁:吉田考宏さん)

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『スティーブン・ホーキング』(ほるぷ)表紙

スティーブン・ホーキング

小学校低学年から読めるようにと工夫された伝記絵本で、車椅子の宇宙物理学者として有名なホーキング博士の子ども時代から、難病にかかって絶望の縁においつめられたこと、そこから気を取り直して好奇心旺盛に何にでも挑戦するようになっていったこと、そして現代で最もすぐれた宇宙物理学者になったところまでを、親しみやすい絵で描いています。

このシリーズのコンセプトは、幼い頃に抱いた夢がどんなふうに将来につながっていったかを絵本で表現するということ。ほかには、マザー・テレサ(なかがわちひろ訳)、オードリー・ヘップバーン(三辺律子訳)、ココ・シャネル(実川元子訳)、キング牧師(原田勝訳)、マリー・キュリー(河野万里子訳)、ガンディー(竹中千春訳)、リンドグレーン(菱木晃子訳)、エメリン・パンクハースト(上野千鶴子訳)、マリア・モンテッソーリ(清水玲奈訳)があり、小学校の図書館に入れたらよさそうです。

本の翻訳は、つながっていることがあって、「ホーキング博士のスペースアドベンチャー」シリーズ(岩崎書店)を翻訳したことから、ホーキングの伝記絵本の翻訳依頼をいただいたのですが、ホーキングさんの伝記はもう1冊(『スティーブン・ホーキング〜ブラックホールの謎に挑んだ科学者の物語』キャスリーン・クラル&ポール・ブルワー文 ボリス・クリコフ絵 化学同人 2021.06)を訳しています。
(編集:細江幸世さん 装丁:森枝雄司さん)
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エミリー・ロッダ『彼の名はウォルター』表紙

彼の名はウォルター

ロッダさんの、シリーズではない単発の作品で、オーストラリア児童図書賞を(またもや!)受賞しています。テーマは歴史、多様性、ミステリー、権力に翻弄される若者といったところでしょうか。

学校の遠足で歴史的な町を訪れるはずだったのに、途中でバスが故障します。ほかの生徒たちはそこから歩いて目的地に向かいますが、コリン(転校生)、グレース(足の怪我で松葉杖をついている)、ルーカス(コンピュータ好き)、タラ(バスの中で鼻血を出した)の4人は、フィオーリ先生(イタリア系、遠足の責任者)と共に、その場でタクシーが来るのを待つことになります。

今にも嵐が来そうな天候です。バスを回収に来たレッカー車の運転手に、丘の上の古い館で待つといいと助言され、5人はひとまずその館に避難します。ところがタクシーは現れず、5人はその古い館で夜を明かすことに。コリンは、キッチンにおいてあった書き物机の秘密の引き出しに手作りの美しい本が入っていたのを見つけ、タラと一緒に読み始めます。その本の書名は『彼の名はウォルター』。

ところが、何者かがその本を読ませないようにしているらしく、不気味な館では不気味な現象が次々に起こります。この館では過去に何があったのか、その本にはどんな真実が書かれていたのか──見た目も性格もバラバラで友だちでさえなかった4人の子どもたちが、その謎を解き明かしていきます。

現在と過去を1冊の本で結びつけるロッダさんのストーリーテリングが、すばらしい! 館の不気味さと謎でグイグイ引っ張っていきます。

自分で持ち込んで出してもらった本ですが、原書が276ページ、日本語版が350ページ。ページ数が多いので、訳者あとがきはありません。

(編集:山浦真一さん 表紙イラスト:都築まゆ美さん 装丁:城所潤さん+大谷浩介さん)

 

***

<紹介記事>

・「朝日新聞」(子どもの本棚)2022年03月26日掲載

週末の遠足でグロルステンという歴史的な町へ出かけた子どもたち。乗っていたミニバスが途中で故障し、フィオーリ先生と4人の生徒は田舎道で立ち往生し、丘のてっぺんにある2階建ての古い屋敷で一晩を過ごすことにした。屋敷の中にあった書き物机から、コリンは表紙に『彼の名はウォルター』と書かれた手書きの本を見つける。不安な夜をその本を読み合うことで切り抜けようとするが、物語の世界が現実に侵食してきて、いいようのない恐怖感に包まれていく。スリル満点のストーリー展開に身がすくむ思いがした。(エミリー・ロッダ著、さくまゆみこ訳、あすなろ書房、税込み1760円、小学校高学年から)【ちいさいおうち書店店長 越高一夫さん】

 

<紹介映像>

・大阪国際児童文学振興財団 「本の海大冒険」土居安子さんによる紹介

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2021年12月 テーマ:非日常の経験

日付 2021年12月16日
参加者 ネズミ、ハル、シア、アカシア、アンヌ、さららん、マリトッツォ、雪割草、まめじか、西山、サークルK、(しじみ71個分、ニャニャンガ)
テーマ 非日常の経験

読んだ本:

岩瀬成子『もうひとつの曲がり角』表紙
『もうひとつの曲がり角 』
岩瀬成子/作   講談社   2019.06

<版元語録>小学五年のわたしは引っ越してきた町でいつもと違う知らない道が気になり、ずっと先に白い花がさく家が見える路地へと入っていく。


『海を見た日』表紙
『海を見た日 』
M・G・へネシー/作 杉田七重/訳   鈴木出版   2021.05
THE ECHO PARK CASTAWAYS by Hennessey, M. G, 2021
<版元語録>それぞれの事情で、養母の家に預けられた三人の子どもたち。みんながバラバラの方向を向いていて、ちゃんと向き合わずに過ごしてきた。そこへ新しくアスペルガー症候群の男の子が仲間入りし、その子の母親に会いたいという願いをかなえるために四人は冒険に出かけることになる

(さらに…)

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『海を見た日』表紙

海を見た日

ハル:ここ何回か、里親と里子の家族のお話を読みましたが、今回はだめな里親というか、里親自身も成長していった点が新鮮でした。理想的ではないのかもしれませんが、それでいいようにも思うんですよね。「だめ」の程度にもよるとは思いますが、心が成熟した素晴らしい大人しか里親になれないというんじゃなくてね。p184の観覧車から海を見るシーンが印象的でした。「きっと世界は、そんなにひどいところじゃない」という1行には、励まされもするし、この子たちのこれまでの日々を思ってつらくもなります。

ネズミ:それぞれの声で語りながら、4人の里子や里親の様子がだんだんと見えていく構成、物語としての盛り上がりなど、非常によくできていて、おもしろく読みました。ただ、声をかえての一人称語りは、すぐには状況がつかみにくく、特に日本では、読者を選ぶだろうとも思いました。父親だけ国にかえされてしまった、エルサルバドルからきたヴィク。言葉が出ない、スペイン語圏出身のマーラの状況など、外国から来たということも、よくわからないかも。とてもいい作品だけれど難しそうだなと。

アンヌ:以前読んだ同じ著者の『変化球男子』(杉田七重訳 鈴木出版)では、作者が読者に伝えたい知識──ホルモン剤とか支援団体の存在とか──がかなり盛り込まれた作品でしたが、今回はあとがきに作者の「里親制度」についての思いが書かれてはいるのですが、表立ってはいません。物語も登場人物もおもしろくて、その中で、絶望させない、偏見を持たせないような感じで、里子のことを分からせてくれます。なんと言ってもヴィクの持つスパイ妄想がおもしろくて、夢中で読んでいると話がクエンティンをママに合わせようという「作戦遂行」に移っていき、気がつけば子どもたちがみんな揃って旅に出ていました。ナヴェイアの視点でイライラしながら進んでいく道中の途中で、子どもたちが思いがけず遊園地や海で「楽しむ」ということを知ったり、大声で笑いあったりする場面に行きつきます。クエンティンに母親の死という重要なことを知らせるのに、海辺で砂遊びをしながら話すというところでは、海の持つ力が見事に生かされていると思いました。家に帰った後、ヴィクもナヴェイアもミセス・Kもそれまでと変わっていて、気づかないまま肩の力が抜けている。家族として互いに肩を貸しあって、少しずつ楽になっているという終わり方には感心しました。

マリトッツォ: 読み終わってから、『変化球男子』の著者の方か、とびっくりしました。作風がまったく結びつかなかったです。この本は今回、課題本にしてもらってよかったと思っています。もし自分でたまたま手に取って読み始めていたら、途中、かなりしんどくてやめてしまっていたかもしれないからです。終盤で、ぱっと未来が開かれていくような、なかなか他の本では味わえない満足感があります。これは中盤までの閉塞感があってこそですね。里親を称賛するわけでもなく否定するわけでもない、このリアルさは、著者がこういう活動をしている方だからか、とあとがきを読んで深くうなずきました。クエンティンのような自閉症の子の一人称は、掴みづらいことが多いのですが、他の二人のパートで状況が説明されているのでわかりやすく、バランスが絶妙だと思いました。いろいろ好きな表現があります。たとえば細かいところですが、「足にまだ砂がついていて、シーツにも砂がこぼれてるのがうれしい。ビーチもぼくたちのことが好きになって、それで家までついてきたみたいだった」(p260)という部分、素敵ですよね。一つだけ戸惑ったのは、観覧車の部分です。え、安全バーが必要で何周もするの? と、驚きました。

さららん:里親のミセス・Kのもとで暮らす年齢も境遇も異なる4人の子どもが、1つの家族になっていくまでのお話です。数か月ぶりに読み直してみたのですが、いいものを読んだという印象は変わらず、4人それぞれの在り方がずっと心に残っています。自分も「お姉ちゃん」として育ったので、特にナヴェイアに心を寄せて読みました。しっかり者のいい子に見えますが、自分の未来の夢をかなえるために、ある意味打算的に手の焼ける年下の子たちの世話をしています。でも、クエンティンのママの病院へみんなで行くという1日の冒険を通して、ナヴェイアは大きく変わり、他の子の在り方をまるごと受け入れていくのです。みんなで観覧車に乗って初めて海を見る場面、そのあともう1度病院を抜け出して海にいく場面が、ほんとに効果的で、象徴的です。会話のなかで、4人の関係が少しずつ変化するのがわかり、互いにいたわりあえるようになっていきます。(最後はミセス・Kに対してまで!)自分のことで頭がいっぱいのクエンティンが、英語がほとんど話せないマーラと心を通わす場面など、とてもよかったです。ロードムービーのような展開のため、刻々と場所が移るにつれて感情や考えもゆれ動く、いってみれば「目に見える」物語なので、読者の記憶に深く残るような気がします。それまで英語をほとんど話さなかったマーラが、最後のほうで「まったくうちの家族ときたら」(p277)と首をふりふり言うところ、そこが実に自然で、マーラを抱きしめたくなりました。

雪割草:この作品は、里子の子どもたちを通して新しい家族のかたちを描いているのかなと、読んでみたいと思っていました。最初の印象は、ヴィクがうるさくて口調が老けているように感じました。でも、口調は父親を尊敬しているからでは、と言われて納得しましたし、2回目に読んだときは、ADHDの特徴がよく描かれていると思いました。作品全体を通じては、厳しい状況にある子どもたちが、海の美しさに圧倒されるシーンのように、世界を肯定できるような、希望をもてるような体験をすることや、仲間の存在が生きる力につながるということを、改めて感じることができました。また、原題にある「漂流者」や、「わたしたちは、ひとりでやっていかないといけないの……。」(p161)にあるように、子どもたちの心情もよく描かれていると思いました。私の友人や友人の親が里子を育てていますが、そういった家庭は日本では少ないと思うので、里親制度や、子どもを社会やコミュニティで育てるといった考え方が広まっていくといいなと思いました。「オナカスッキリ! ナヤミスッキリ!」(p180)は子どものセリフとして違和感がありました。

アカシア:これは、吊り広告の言葉をそのまま繰り返してるんじゃないですか?

まめじか:いい作品なんだろうな、とは思ったのですが……。シビアなテーマの作品なのに、今ふうの軽い言葉がいっぱい入ってるのが浮いてるようで、二次元のキャラみたいに感じてしまいました。たとえばヴィクのせりふで、「当ててみ?」(p6)、「オタク、ちょっとヘンタイ趣味入ってます?」(p8)、「タルい」(p30)、「マジ、こわいんですけど」(p155)。一方で「世を忍ぶ」(p11)、「迷惑をこうむる」(p179)など、11歳にしては大人っぽい言葉づかいをするのが、どうもしっくりこなくて。そんな感じで読み進めたので、訳者あとがきの「この世界には、こんなにも、こんなにも素晴らしい子どもたちがいる」という最後の一文でひっかかってしまいました。もちろん、この本に出てくる子たちの状況はとても大変なものですが、そうした子はほかの本の中にも、現実にもいっぱいいるし。あと些末なことですが、マーラがホームレスの男の犬にチョコレートをやっていますが、チョコレートって、犬に絶対食べさせちゃいけないものの1つですよね。p3のクエンティンの語りで、「女の人はこまった顔になって」とあるのですが、アスペルガーのクエンティンは人の気持ちを読みとるのが難しいと思うので、どんな表情が悲しい顔なのか習ったからわかったということですよね。

アカシア:普通は、学習を経てわかるようになると言われていますよね。これまでの多くの作品は、ハンデを持っている子どもが1人という作品が多かったのですが、この作品は、ADHDとアスペルガーの子が登場し、マーラという小さな女の子も何らかの発達の遅れを抱えているのかもしれません。なので、書くのが難しいかと思ったのですが、年齢や性別や障碍も違うのでちゃんと書き分けられ、ひとりひとりが独立した存在に描かれているのがすごい、と思いました。ナヴェイアは、成績のいい子で、ハンデを持っているわけではないと思いますが、黒人なので生きにくさはやっぱり感じています。ナヴェイアがクェンティンを連れていこうとしたときに、白人の女の人に疑念をもたれる場面もありました。生きにくさをそれぞれ抱えている子どもたちだからこそ、お互いとを自分のことのように感じてわかり合えるのだと思いました。ナヴェイアが優等生の自分の殻を脱ぎ捨てて海辺でみんなで楽しもう、という場面は、とても印象的でした。この作品には助ける大人が出てこないので、子どもがお互いに助け合います。しかも、やっぱり問題を抱えている大人のミセスKに子どもたちが保護者的な視線を送っているのもおもしろいと思いました。4人でクエンティンのお母さんを探しにいこうというあたりからは、展開も速くなるのでハラハラしましたし、子どもたちの関係がだんだん密になっていくのもわかって、おもしろく読みました。わからなかったのは、さっきまめじかさんもおっしゃった犬にチョコレートをやるところ。それからp15にミセスKが「養母」として出てきますが、養子ではないので「里親」なのでは?

西山:一気に読みました。作者のあとがきで、現実のことがくわしく書かれてて、これがロサンゼルスの里親制度の抱える問題ということは明示されているわけですが、日本の読者が読んだときに、日本の里親制度にネガティブな印象をもたないかな、とちょっと危うく思いました。海を見た幸せな1日を経て、子どもたちの関係が親密に変化してからの様子に、『かさねちゃんにきいてみな』(有沢佳映作 講談社)を思い出しました。抱えている背景の深刻さは違うとはいえ、異年齢の子どもたちのその年齢らしさや、互いへの気遣いが重なって、状況が違っても普遍性を持っている子どもの本質的な部分を見せてもらえた気がします。(以下、言いそびれとその後考えたことです。クエンティンが他者の中でなんとかやっていけるように、お母さんがたくさんのアドバイスをして、クエンティンがことあるごとに、その言葉を思い出すことでパニックを回避している姿がとても印象的でした。読書会が終わって、つらつら思い返していて、こんなに彼を導いていたお母さんなのに、どうして自分の死を受け入れられるようにする手立てをしていなかったのかとふいに思い至りました。癌を予期できないとしても、いきなりの事故死ではないし、病気にならなくても、いずれ自分の方が先に死ぬのだという現実を、クエンティンが受け入れられるように用意することは最大のミッションなのではと。そう思うと、ちょっと冷めました。)

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ニャニャンガ(メール参加):クエンティン、ヴィクの視点ではじまるため、物語に入るのに少し時間がかかりましたが、ナヴェイアが登場して全体像が見えはじめ、さらにクエンティンのために旅に出たところかにはすっかり引き込まれていました。ミセスKが心を閉ざして子どもたちの世話をしないせいで、ナヴェイアが年下の子たちの面倒を引き受ける姿には胸をしめつけられます。ほかの3人の面倒をひとりでしていたナヴェイアが限界に達したとき、ヴィクが頼りになる存在になり、子どもたちの絆が強くなって、ほんとうによかったです。しらこさんによる表紙も、とてもいいと思いました。ロサンゼルスの里親制度をよく知る作者だからこそ書けた作品です。

しじみ71個分(メール参加): ロサンゼルスの里親制度の実態をリアルに描写していて、子どもたちの切実な実情を伝える本だと思いました。養育に欠ける子どもたちがたくさんいるために、里親にあまり向かないような状況の人のところにも里子が引き取られることがあるというのは、ロサンゼルスに特徴的な事象なのか、全米的な問題なのでしょうか。いずれにしても大変な状況だとまず思いました。最年長のナヴェイアが我慢を重ねて小さい里子たちの面倒を見て、大学に進学して自立することを願う姿はいじらしく、特にp95で、突然「涙が目に盛り上がってきた」という場面には共感して、こちらもウルウルしてしまいました。いろんなことに疲れてるんだろうなぁって思い……。ADHDのヴィクは頭の中に言葉があふれていて、うるさいですが、私には可愛らしく見えて、とても好きなキャラクターです。新入りのクエンティンがアスペルガーで、小さいマーラはスペイン語しか話さないという、それぞれ異なる難しさを抱えた子どもたちがどうなっていくのか、興味に引っ張られて最後まで読み通しました。海を初めて見たシーンは特に印象的で、困難にある子どもたちには子どもらしい家族とのあたたかな思い出や楽しい経験がない、あるいは奪われたりかもしれないということに気付かされて、胸がつまりました。クエンティンの母を探して旅をして、海と出合ったことが、4人の共通の喜びの経験となり、家族として結びついていくきっかけになっていて、そこはとてもうまい装置になっているなと思いました。失意のために、養母としての役目が果たせてこなかったミセスKが、最後に子どもたちのおかげで気力を取り戻し、立ち直るという結末も読後感がよかったです。

(2021年12月の「子どもの本で言いたい放題」より)

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岩瀬成子『もうひとつの曲がり角』表紙

もうひとつの曲がり角

まめじか:英語を習わせるのも家を買うのも、子どものためだと言いながら、実は親の自己満足なんですよね。そうした大人の一方的な思いや、遠いのに自転車通学を許されない不条理な学校の仕組みの中で、朋もお兄ちゃんも窮屈な思いをしています。そして子どもの自我が目覚め、そういう大人の押しつけに反発すると、やれ反抗期だとかなんだとか言われてしまう。そんな中で言いたいことを言えない朋の気持ちが、「先生はいっぱい言葉をもっているのに、こっちにはなにもない」(p88)という語りにこめられていると感じました。朋はひとりの時間に日常のすき間にはいりこんで、そこで不思議なできごとを体験するわけですが、秘密をもつことが成長につながるのは、E.L.カニングズバーグの『クローディアの秘密』(松永ふみ子訳 岩波書店)にも通じます。曲がり角の先は別の道がつづいてる、ここ以外の世界もきっとあるというのを、こういう形で描けるなんて。作者の力量を感じる作品でした。

雪割草:今回の選書係だったのですが、最近読んだなかでとてもよかったので、選びました。まず、私は兄がいるのですが、兄とのやりとりの描写にリアリティがあり、親しみを感じました。しれっと妹に洗いものをさせたり、中学になって変わっていったり、兄も案外考えているんだなと感心させられたり、なんでも兄には話せたり。それから、この作品のように、日常の中でふと、異空間や異次元といった非日常にいくことのできる物語が好きで、子どもの頃から憧れていました。「心って、いつおとなになるの?」(p183)や「ついこのあいだ、わたしもあなたみたいな子どもだったの……。」(p239)とあるように、オワリさんとその子ども時代のみっちゃんを通して、一人の人間のなかに子ども時代が生きつづけていることを感じることができました。また、このふたりをつなぐ存在として、センダンの木を登場させているのもいいなと思いました。ネギを背負った人など、ところどころユーモアがあるのも楽しかったです。ただ、表紙の女の子の絵は、私の想像とは違うと感じました。

アカシア:どんなふうに違ったんですか?

雪割草:本では、もうちょっとおてんばなイメージでした。

まめじか:私も、この子はもっとはっきりものを言える子だと思うので、イメージとは違いました。絵はおしとやかな感じがします。

アカシア:酒井さんの絵は、静的で内容から受ける印象より少し幼い感じがいつもしますね。だから人気があるのかもしれませんけど。

シア:私もイメージと異なって、酒井駒子さんの絵は大人好みになりすぎると思っています。YA辺りならいいのかもしれませんが。表紙から抑えめなのもあって、描写はていねいで良かったんですけれど、心は打たれませんでしたね。将来役に立つから、という言葉がそのとき限りの大人の言葉として扱われていて、悲しく思いました。みっちゃんがそろばん塾を辞めたその後がわかったりすると、大人の方便にも聞こえるような“将来役に立つ”という言葉の意味が生きてくると思うんです。お母さんに隠れて読んだ漫画はどうだったかとか、ダンスはどうなったのかとか、全然わからなくて。大人の言うなりになることと、自分で決めることの本当の違いがオワリさんの人生を通して見えなかったので、このタイムリープで学べるものや成長がなかった気がします。英語にしても、同音異義語の不思議とかいい視点を持っているのに、笑われるからと委縮して言えなくなっていてもったいないと思います。フォローしてくれない人たちがたまたまいただけで。アメリカ人なのに鷹揚に接しない先生も珍しいけど。心を開いたり勇気を出せば、耳を傾けたり足りない言葉をくみ取ってくれる大人もいるという役割をオワリさんがやってくれていないので、見えない将来に時間をかけたくない、で話が終わってしまっていて、結局オワリさんがロールモデルにならず、今回の経験は気持ちが若返ったオワリさんにしかメリットがなかったと思います。子どもが読んだらおもしろいんじゃないかな。「うん、でも、たぶん、わかってないと思うけど」(p250)と最後まで周りと壁を作って、大人と子どもの境界線をはっきりつけてしまう子どもの視点で書かれているので、「だよねぇ!」「わかるぅ!」と今を見ている子どもたちが共感できる作品にはなっていると思います。保護者が読めば気づきみたいなのは得られるかもしれません。気になったのは、なぜ主人公が元の時代に戻れなくなるとか、昔の時代に行けなくなったとかがわかるのかということです。つるバラが決め手なのでしょうか?

まめじか:私は、オワリさんの人生とか、習いごとが将来役にたったかどうかなんていうのは、この本にはなくていいのではないかと。主人公の朋が、今ここだけじゃない世界を知るというのが、この本のキモなので。

さららん:ふつうの家族、絵空事じゃない家族の中にある無数の違和感を、岩瀬さんはいつもうまくとらえています。大人も子どもも、そしてその関係も、ありきたりではありません。いま生きている人間が感じられるところ、そして子どもの反骨心が、岩瀬作品の魅力です。新しい家に引っ越したあと、願いをかなえたママはやけに張りきっているけれど、空回り気味。「わたし」やお兄ちゃんとの関係はもちろん、パパとの微妙にすれちがう関係も会話の中に巧みにとらえていて、「うちとおなじだ……」と驚きました。中学生になったばかりのお兄ちゃんは、コーヒーフロートを勝手に作ってひとりで飲んでいるのですが、そんなエピソードにも妙なリアリティがあります。でも現実の話だけで終わらず、オワリさんというおばあさんが朗読する物語の世界や、時間を超えて主人公が迷いこむ世界など、重層的にいろんな要素が入っていて、かなり凝った造りになってますね。「英語でなにかいおうとすると、普段自分の中にある日本語のいろんな言葉の意味がすうっとうすくなっていくような気がした」(p12)など、英語を学び始めたときのもどかしさを表現する言葉には膝を打ちました。「よりよいって、それはだれがきめるの? 人によって、それはちがうんじゃないの。そんなあいまいなもののために、いまの時間をただがまんして無駄にしろっていうの」(p221)と、主人公がパパにいうところでは大喝采。これが言えないがために、今の子どもたちは炸裂するくらい苦しんでいるんじゃないかと思うのです。「わたし」はほんとに頑張った! オワリさんとの出会い、まったく違う時間、違う角度から自分を見られことが、主人公の力になったのだと思いました。

マリトッツォ:安定の岩瀬成子さん作品という感じで、引き込まれて最後まで読みました。児童文学は、「続ける」「頑張る」「達成する」というテーマがどうしても多くなるので、大人から見て正当な理由がなくやめる状況に寄り添っているこの本は、子どもの味方だなと思います。また、一般的なタイムトラベルものだったら、なぜそこに行ってしまうのか、というロジックが明確でないと入り込めないのですが、この作品は描写がていねいなので、明確な説明がなくてもそんなに気になりませんでした。あと、主人公の「わたし」の一人称と、おばあさんの創作の文章がはっきりと違うので、そういうところにもリアルさを感じました。「わたし」の文章は、同じ言葉を重ねることが多くて、たとえば、「わたしはリモコンで部屋の明かりを消した。リモコンで部屋の明かりを消すのも、この家に来ておぼえたことの一つだった。」(p24)というふうに、重複が多いんですよね。この年頃の子の思考、表現を忠実に再現していると思います。なお先ほど、そろばん教室を辞めて、その結果どうなったのかが書かれてない、という話題が出ましたが、「そろばん塾を辞めても喫茶店の経営はちゃんとできた」ことが、もしかしたらひとつの答えなのかもと思いました。

アンヌ:今回はテーマが「非日常の経験」だったので、てっきりファンタジーだと思っていたのですが、p60まで読んでやっと異世界が現れるので、もしかすると異世界より現実界に比重がある物語なのかと気づきました。なんとなく『トムは真夜中の庭で』(フィリッパ・ピアス作 高杉一郎訳 岩波書店)を思わせるタイムスリップ物なのですが、ファンタジーにある謎とき的要素は全然ないまま終わります。異世界で、犬を連れた男の子やいじめっ子をやっつけることができて自由にふるまえる自分に気づいて、そこで現実世界でも家族に自己主張できるようになるという話がていねいに語られていくのは魅力的でしたが、やはり私としては異世界の方に興味があったので、せっかく、みっちゃんに現実世界で会えても、主人公は相手が自分に気づくかとドキドキしたりしないし、みっちゃんであるオワリさんの方も気づかないままでいるのが、なんだか不思議な気がしました。どちらかというと、朗読している庭に入っていくときの方が、過去にタイムスリップするときよりドキドキ度が高かったり、オワリさんが作る話がおもしろくて謎があったりするので、この現実世界の方がおもしろい気もしました。最後は、主人公がこれからも、またオワリさんに会いに行こうと思っているところで終わるから、いつか、二人がお互いに気づくというか名乗りあう時が来るかもしれません。そんな風に、読者がいろいろ考えて、この物語が続いていく感じで終わるところがこの作品の魅力なのかもしれません。でも、ファンタジー好きの私にとっては、少々不満がある物語でした。

ネズミ:私はとてもおもしろかったです。英語塾をやめたいと言えるまでというのがストーリーの中心だと思います。こうなって、こうなったから、こうなったというふうに結果が差し出されて「はい、終わり」となる本もありますが、岩瀬さんの本は、この物語の前にも後にもお話が続いているのを、ここだけふっと切り取ったような印象があって、そこがほかの書き手と違うなと。曲がり角の向こうに、思いがけない世界があるすてきさ。p8で、マークス先生の言う「エイプウィル」が「四月」のことなんだとわかったあとに、「なんだあ、と思った。それから、疲れる、と思った。」とか、p250のお風呂に入りなさいと母親に言われたおにいちゃんが、「おれはあとで」と答えて、「わたしも」と、わたしがいうところなど、何気ない表現に日常や人となりが透けてみえます。こういう表現が物語を支えているのだと思います。

さららん:会話を「作ろう」とは思っていないのかも。登場人物が頭の中で、いつのまにか動き出して、勝手に話しているんでしょう。

ネズミ:この子が、大人にグサッとささるようなことを言うのも、そういうことなのかも。最後に、英語塾に行かないというのを言えてよかったです。

ハル:作家は皆さんそうだと思いますが、岩瀬さんの小説は、岩瀬さんにしか書けないものだということを特に強く感じます。なんてことなさそうな表現のひとつひとつが素晴らしい。p54で描かれている、お父さんとお母さんのけんかの、端で聞くとうんざりな感じとか、p100で犬をけしかけてきた高校生くらいの男の子に「YTっていうのはおぼえたからね!」とか。いかにもちょっと大人になりはじめた時期の子どもという感じ。p157は、朋がみっちゃんのいる世界は自分がいてはいけない世界だと気づきはじめる場面ですが、p156では「ばいばーい」って無邪気に手を振り合って、p157の3行目でいきなり「後ろはふりむかなかった。ふりむけなかった。ふりむいちゃいけない気がしていた」とくる。そこで読者は朋も気づいていたことを知ってぞっとするわけです。この1行が効いているなぁと思います。そして初読のときから何げに強く印象に残ったのは、作中作までおもしろい! というふうに、あげたらきりがないんですけど、子どもは将来のためでなく「今」を精一杯生きているんだと改めて思い出させてくれるところとか、物語の構成もテーマももちろんなのですが、技巧を楽しむという意味でも繰り返し読みたい1冊です。それから、先ほど、朋がタイムスリップした意味についてのご意見がありましたが、たとえば、みっちゃんが習わされていた「そろばん」だって、今の世界の朋にとったら、学校でちょっと習うくらいのもの。こんなこと言ったら反対意見もいただきそうですが(笑)、朋が習わされている「英語」だって、そのうち同時通訳機みたいなのがもっと優秀になって、いやいや勉強する必要なんてなくなるかもしれない。大人のいう「将来役にたつ」は案外あてにならないぞということを知っただけでも、タイプスリップさせた価値はあるんじゃないでしょうか。

アカシア:岩瀬さんは、言葉の使い方がほかの作家と質的に違いますよね。梨屋アリエさんの『エリーゼさんを探して』(講談社)という作品も、親にものが言えない子どもというテーマですが、梨屋さんのほうは、主人公がお母さんとはすべて「です・ます調」で会話しているという設定で、抑圧された状態を表しています。岩瀬さんの方は、子どもの気持ちをそのまま描いていくという書き方。岩瀬さんは、自分が子どもの時の気持ちを忘れてないんですね。このテーマは、思春期の子どもにとってはとても大きいのでしょうね。嫌なことはしなくてもいいというふうに子どもの背中を押してくれる本なんですね。岩瀬さんは今アンデルセン賞候補になっていますが、このおもしろさを100%楽しめるのは、日本の現代に生きている人たちかもしれないと思ったりもします。岩瀬さんの作品はストーリーラインだけで読ませるものとは違うので、翻訳するのはそう簡単じゃないでしょうね。日本語の堪能なとてもじょうずな翻訳者が岩瀬さんに乗り移ったみたいになって翻訳してくれるといいな。

まめじか:前提となる生活のこまごました背景を知らないと、ね。

サークルK(後から参加):とってもおもしろかったです、主人公と曲がり角の先にいるみつほさん/みっちゃんの関係が、まるで『トムは真夜中の庭で』のトムとハティの関係に似ているのかな、と思ったので。初めての環境に慣れていく子どものドキドキ感が伝わってきました。現代的な両親の期待に(違和感を感じながらも)応えようとしてもがく主人公の姿や、一足先に思春期になってあまり自分の気持ちを話さなくなっていくお兄ちゃんとの関係に、読者は共感できるのではないでしょうか。p30で、お母さんが(賃貸住宅ではない)初めての持ち家に愛着があって、たとえ不在であってもきれいにしておかないと「(台所が)ママに告げ口をするような気がした」という文章にハッとさせられました。人間が不在でも、その人が大事にしているものがその人本人に代わって、人間を見張っていると感じてしまうことは時々あるような気がするから、そういう表現はとても興味深かったです。大人が子どもの先回りをしてどんどんことを進めていくことへの批判――子どもが間違えたり傷ついたりする自由が奪われるべきではない――をこめた主人公の成長物語になっているように思いました。

西山(後から参加):以前読んだんですけど、再読しはじめて、ああこの路地の雰囲気知ってる、この景色見覚えある、この登場人物たちも知ってる・・・と思うのですが、初読時の感想も、ストーリーも思い出せません。自分の記憶の情けなさを棚に上げてなんですけれど、岩瀬成子の作品は、一言一言をおいしく味わう、そういう経験になっている気がします。たとえば、「わたしは塾に行く途中で、急に気が変わる予定だった。」(p30)などという一節がたまらなくおもしろい。そうやっておもしろく読んだのに、覚えていないと……。

アカシア:大テーマのある作品じゃないからですかね?

西山:岩瀬作品は、読書の快を感じる作品ですね。

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しじみ91個分(メール参加):新しい家に越してきて環境に慣れない主人公の朋が、ふと思い立って英語塾に行かずに小道の先の曲がり角を曲がったら過去の空間に行ってしまい、一人の女の子と出会うというお話ですが、嫌なことがあったり、くさくさしたりしたときに、ふっと「どこかに行っちゃいたいな」と思ってしまうときの、「どこか」の感じをありありと体験させられるような物語でした。読んで、子どもの頃、マンションの一室の自宅に帰るとき、いつもと違うの入口から入ったら、角度の加減で廊下の突き当りにあるはずの自宅が見えず、家がなくなったんじゃないかと怖くなった小学生のときの経験を思い出しました。朋が、朗読をするオワリさんと仲良くなって異空間に入り込み、みっちゃんという女の子と仲良くなりながらも、帰れなくなるんじゃないかとこわくなり、こちらの世界に戻ってくる感じは、日常の裂け目に入り込んでしまったときの、空恐ろしい不安をリアルに感じさせてくれ、ちょっと背中がぞわぞわしてしまいました。でも、朋が感じたその恐怖感は、逃避を選ばず、きちんと日常に向き合って行こうとする生命力の裏返しでもあるのかなと思って読みました。また、ほかの方もおっしゃっていることですが、全編を通して、『トムは真夜中の庭で』へのオマージュを感じました。モチーフになるのは双方1本の木で、あちらはイチイの木で、こちらはセンダンの木などと、さまざま両作品間の違いはありますが。過去の異空間にタイムスリップして、おばあさんの若い頃に出会うというしかけには共通するものを感じます。岩瀬さんの物語は、子どもの日常に生じたちょっとしたズレや断層から、日常がゆらいでいく様子を描いているように思うのですが、それを読むと心がざわざわします。でも、それが気持ちよくて、岩瀬さんの物語が好きなんだなぁと自分で思います。お兄ちゃんの晴太の思春期の親離れが進行していく様子も好ましく読みましたが、同時に賢いお兄ちゃんだなとも思いました。岩瀬さんのリアルな描写と、タイムスリップファンタジーとの組み合わせが大変におもしろかったです。

(2021年12月の「子どもの本で言いたい放題」より)

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2021年11月 テーマ:命を見つめる

日付 2021年11月17日
参加者 ネズミ、ハル、花散里、エーデルワイス、アンヌ、しじみ71個分、カピバラ、マリンゴ、雪割草、コアラ、西山、さららん、まめじか、ハリネズミ、アカシア、(ニャニャンガ)
テーマ 命を見つめる

読んだ本:

花形みつる『徳次郎とボク』表紙
『徳次郎とボク 』
花形みつる/著   理論社   2019.04

<版元語録>四歳から小学校六年生まで、祖父とボクの物語。お祖父ちゃんはだいたいのものが、それがどんなに便利でも新しくても高価でも、気に入らない。朝起きて畑に行き、夜寝るまで一度決めたルーティーンは、正月だろうがなんだろうが変えない頑固者だ。そんなお祖父ちゃんのガキ大将だったころの話を聞くうちに、ボクは子どものお祖父ちゃんが大好きになっていく。


『神さまの貨物』表紙
『神さまの貨物 』
ジャン=クロード・ランベール/著 河野万里子/訳   ポプラ社   2020.10
La Plus Précieuse des marchandises by Jean-Claude Grumberg, 2019
<版元語録>戦時下、列車の窓から投げられた赤ん坊を必死に守る大人たち――。モリエール賞作家が描く、人間への信頼を呼び覚ます愛の物語。

(さらに…)

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『神さまの貨物』表紙

神さまの貨物

しじみ71個分:これを読んだのは3度目です。この作品は寓話の形を取りながら、背景としてユダヤ人の迫害とホロコーストの歴史的な事実を題材にとって描いています。ホロコーストの事実を訴える文学は多々ノンフィクションにありますが、ホロコーストを描きつつ、寓話として壮大な愛を描くというのはほかにないタイプの作品だと思います。最初に読んだときは、話がとてもハードで、硬質で、大きなテーマを持っているのに対して、翻訳の言葉がところどころ優しすぎるところがあるのではないかと、一瞬違和感を覚えました。そのときは、同様に寓話の形を取っている、『熊とにんげん』(チムニク著 上田真而子訳 徳間書店)を思い出していたのですが、上田さんの訳が、物語とあまりにも融合していたので、その幸福な感覚とつい比較してしまったのですね。ですが、2回目に読み直したときは、大劇作家による、ストレートでかつ壮大な愛の歌い上げが、物語の最後でドカンと胸に迫り、すごく感動しまして、翻訳云々生意気なことを考えたことを反省しました。特に好きなのは、きこりが、最初は赤ん坊を避けていたのに、おかみさんの導きで赤ん坊の胸に手を置いた瞬間に、愛を感じ始めるシーンです。また、きこりも、森に住む戦争で顔が崩れたおじさんも、おかみさんと赤ん坊のために命を擲ち、戦って死んでいくシーンは何度読んでも胸にぐっと迫ります。赤ん坊のお父さんがホロコーストを生き延びて、娘を見付けたけれど名乗らずに去っていくシーンも哀切です。赤ん坊は美しい少女に育ちますが、ソ連で生きていくことになるという未来が、本人にとって幸せなのかどうかは分からないというところにもまたひとつ仕掛けがあると思うのですが、結果はどうあれ、1つの命を守るためだけに、次々と命を投げ出すことになった人たちがあったかもしれない、という寓話に込められているのは、偶然によってでも繋がれていく命への畏敬の念と賛歌、愛なんだなぁと思い、作家自身の深い思いに圧倒されました。

花散里:私も今回読んだのは3回目ですが、改めて胸を打たれました。ホロコーストの作品はたくさん読んできましたが、心に残る1冊になりました。「むかしむかし…」とおとぎ話のように始まりますが、雪の中に貨物列車から投げられた赤ちゃんが、子どもがほしいと願い続ける、大きな暗い森に住む貧しいきこりのおかみさんに拾われていくという物語は、惹きつけられるような作品で、読んでいて重厚な印象が心に深く残っていきます。巻末の「エピローグ」と「覚え書き ほんとうの歴史を知るために」は、最後にドシンと心に響き、この胸に迫る感じはなんだろうと考えさせられました。装丁もとても良いと思いました。歴史を伝えて行くためにも大事な作品かなと思いますが、内容を紹介して手渡していくことが大切ではないかと感じました。

コアラ:感動しました。この本も電車の中で読んでいたのですが、エピローグの最後、p149の「たとえどんなことがあっても、どんなことがなくても、その愛があればこそ、人間は、生きてゆける」のところで涙ぐみそうになってしまいました。でも、ちょっと冷静になって考えると、読者に読み取ってほしいことを、作者が最後に言ってしまっているというのは、どうなんだろうと。「愛だ」と一言で明かしてしまっているんですよね。ただ、そのエピローグを読んで、私は感動したわけだし、やっぱりこの形でいいんだろうとは思います。出だしは昔話風ですが、読んでいてすぐに、これはナチスの強制収容所に送る列車の話だとわかる。歴史を知っているからこそ、幼い命や、赤ちゃんを守ろうとする大人たちの思いとか幸福感とかが、美しく感じられました。やさしい言葉で書かれていて、子どもから大人まで幅広い読者層に訴える本だと思いました。ただし、私はひねくれた子どもだったので、寓話の形で書かれたこのような本を、子どもの私は、好んで手に取ることは、しなかったかもしれません。大人になって読んだからこそ感動したのだと思います。

カピバラ:今回2度目に読んでみたら、1度目に気づかなかったことに気づきました。p4の冒頭の文章です。「むかしむかし、大きな森に、貧しい木こりの夫婦が住んでいた。おっと待って、これはペローの童話じゃないから大丈夫。出だしは『親指小僧』に似ているけれど、貧しくて子どもたちを食べさせられないからって、自分の子どもを棄てる親の話などではない。そんな話はたまらない」。ストーリーを知った上で読むと、すごいことが書いてあるなと、衝撃を受けました。そして結末がわかっているのに、ページをめくる手が止まらず、また最後まで引きこまれてしまいました。ひとつひとつの文章が、そっけないくらい短くて、客観的でありながら、登場人物の心情が読者に向かってどんどん迫ってくるような感じを覚えました。最後の著者の言葉「そう、ただ一つ存在に値するもの、それは、愛だ。」、このことを言うための物語だったんだな、と納得しました。いろんな立場の人が出てくるんだけれど、その行いがいいとか悪いとかは一切書いてないんですね。だからこそ、最後にこの言葉が生きてくるんだと思います。胸を打たれたのは、木こりが最初は赤ん坊を邪魔者扱いしていたのに、赤ん坊の肌に触れ、心臓の鼓動を感じてから一転してその命の輝きに心をうばわれる場面でした。これも最後の言葉に結びついているんだと思います。物語だけでも衝撃的なのに、エピローグを読んでさらに衝撃を受け、覚書を読んでもっと衝撃を受ける。そして訳者あとがきが静かに全体をまとめてくれる。1冊全体の構成がみごとにまとまった本だと感じました。

ハル:最初に読んだときには、戦争を伝えていく小説は、新しい形の段階に入っているんだなぁと思いました。ただ、胸に迫るし余韻が残る作品ではあるけれど、私はどうとらえて良いのかわからないというのがいまの正直なところです。戦争によってもたらされた小さな贈り物によって、木こりが愛を知っていく場面はほんとうに美しいのですが、その向こうには残酷な背景があって、「戦争によってもたらされた」なんていうことはあってはいけないと思うし、描かれていることは一貫してグロテスクでもあり。小さな贈り物を守るために斧をふるう場面は作品の中でも見せ所でもあるけれども、やっぱりそれが「斧でよい仕事をした」と言い切れるのかというのも苦しい。おかみさんや木こりや小さな女の子は、無垢ではあるけれど、人々の無知であることのかなしみも感じます。おかみさんが最後には神様を妄信はしなくなるのも印象的ではありましたけれども。この子の父親が列車から赤ん坊を投げ捨てたのは、この子を救ったのではなく、もうひとりを救うためでしたし……。一言に「泣ける」「心温まる」「美しい」では片づけられない作品だとは思います。

マリンゴ: ホロコーストを描いた物語は、いかに残酷であったか、という描写に重きを置かれることが多いと思います。そのなかでこの本はおとぎ話のような語り口で、残酷な描写を最小限にして、本質的な部分を抽出しています。作者の祈りのようなものが、伝わってきました。ホロコーストのことをよく知っている大人と、ほとんど知識のない子どもとでは、だいぶ読んだ印象が変わってくるのではないかという気がして、子どもの反応も聞いてみたいなぁと思いました。細かいところですが、p77の「まっ黒な胆汁をペッと吐いた」の部分、黒い胆汁を吐くことがあるのか、と調べたのですが、そういう事例があまり見当たらず、気になりました。

雪割草:胸に迫ってくると同時に、美しい情景の浮かんでくる作品だなと思いました。ホロコーストという酷すぎる状況の中で、生と死、子どもを愛しむ気持ち、希望を上手に浮かび上がらせているなと思いました。おかみさんの揺るぎなさだったり、貧しいきこりが「人でなしにも心がある」と仲間の前で叫ぶまでに変わったり、顔のつぶれた男の心の美しさだったり、人間味がよく描かれているとも思いました。運命のような偶然のようなめぐり合わせとしての構造は人間の人生ってこんなものかなと、本質的なところをついているように感じました。ただ、たまに展開が急だと感じたり、時代背景を知っているからわかる部分も多く、ホロコーストを知らない子ども向けではないかな、どう感じるかなと気になりました。

ネズミ:読むのは2回目でした。とてもよくできたお話でしたが、『三つ編み』(レティシア・コロンバニ著 齋藤可津子訳 早川書房)を読んだときと同様、作為や感動させるための仕掛けを感じてしまい、手放しに深く感銘をおぼえるということはありませんでした。きっと私がひねくれた読者なのだと思います。絶対悪としてのナチスを描いた作品はもう無数にあります。ファシズムと抵抗した人々という構図を示すだけの作品で、ヨーロッパの悲劇ばかりに私たちの目を向けさせることはないだろうという気持ちもあって。大人が読んだら時代背景がわかりますが、何も知らない子どもに読ませるのはどうかなと思いました。

アカシア:ある司書の方が、この本を読んだけど何言ってるかよくわからないとおっしゃっていたのですが、読んでみると、私自身はわかりにくくはなかったし、深いものがあるとも感じました。ただその司書の方がなぜそうおっしゃっていたのかも、わかるような気がしました。たぶんいい意味でも悪い意味でもフランス的なのではないでしょうか。最初に親指小僧が出てきますが、英米の作家ならこういう書き方はせずに、もっと一直線に書いていきます。フランスの作品は斜に構えて書く場合が多いと思うのですが、これもその一つだなあ、と感じてしまったのです。「子どもの本なのにそんなに斜めから書かなくてもいいじゃないか」と思う人はけっこういるんじゃないかな。まあ、この本は、子どもじゃなくて大人向きに出ているのかもしれません。味付けが一風変わっている作品なので逆にひと目を引くし、だからこそこの作品もよく売れているのではないでしょうか。こういう作品もあることは、とてもいいと思いますが、たぶんホロコーストを知らないと、フランス風の斜めの味付けが前面に来てしまって、嫌な感じがしてしまうのかもしれません。ちょっとひねった書き方がおもしろいと思う大人のほうが、この作品はより深く理解できるようにも思います。この作品は1つの命を救うためにほかのいくつもの命が消えていくという大変な状況の話でもあるので、ネズミさんと同じように私も、それを斜めから巧みすぎる技法で書いていることにちょっと抵抗がありました。でも、そこに惹かれる人も多いようなのでこれでいいのかもしれません。

エーデルワイス:みなさんも何度か読み直していらっしゃるのですね。読み直すことは大事ですね。この『神さまの貨物』を1回目に読んだとき、歴史的なこと、後世に伝えていくべき大切な内容と理解できるのですが、どうにも好きになれませんでした。何度か読み直して、戯曲として読めばよいのだとなんとか納得しました。アカシアさんの「フランス文学」の特徴、「斜めにみている世界」、をお聞きして、ようやく胸のつかえが降りたようです。最後に生き延びた女の子が旧ソ連の「ピオネール」として国の機関誌の表紙を飾る。その写真を見た医師になった父親が会いたいと手紙を書いた。その後会えたかどうだか分からない。で終わっていて、すっきりしません。第二次世界大戦後の米ソの混沌とした世界を提示したのでしょうか。

アンヌ:1度図書館でこの本を借り出して読もうとしたとき、どうしても読み切れなかったので、今回やっと読めました。お伽話を読んでいるつもりが、少し進むと現実に頬を叩かれる、というような構造のせいで読めなかった気がします。それでも、きこりが赤ん坊を愛さずにいられない瞬間は実に美しく心が温まる思いがしました。父親が娘に名乗らない場面は謎でしたが、エピローグや覚書が続く中で、収容所で亡くなった双子の家族が現実にいたことを知り、もし自分が父親だったら、こんな風に娘の命を助けられたなら僕は何もいらないと祈り夢見ただろうなと思いました。権力がデマで人心を惑わすことへの警告とか、旧ソ連の体制の欺瞞性とか様々な啓発に満ちた物語でもありますが、子供たちにどう手渡せばいいのかわからず、かなりの註や説明が必要になるのではないかと思っています。

西山:はじめてだったんですけど、一気読みでした。すごく興味深かったです。やはりユダヤ人が移送列車から赤ん坊を助けようと投げ出す絵本『エリカ 奇跡の命』(ルース・バンダー・ジー著 ロベルト・インノチェンティ絵 柳田邦男訳 講談社)をすぐに思い浮かべました。しかし、こういう形があるかと驚きました。今の子どもたちにとっては、すでに「歴史」である戦争ですから、昔話のような書かれ方をしてもいいと思います。一方で、抽象化した戦争ではなく、やっぱり事実っていうものを伝える必要もあると思うので、この方法、どうするんだろうと思いながら読み進めてきて、「エピローグ」で「ほんとうにあった話? いやぜんぜん」だなんて人を食ったようなことが書かれていて、しかも、それに続けて「覚え書き ほんとうの歴史を知るために」が来る。年月日と地名と固有名詞の箇条書きのようなこの部分を読むと、私が子どものころこの作品に出会っていたら、虚構もなにも、まるごと、書かれていることは全てほんとだったんだ!と思った気がします。著者の祖父が出てくるのですから。そういう手があったかと驚いたのですけれど、これがいいのか悪いのか、どう考えればよいのかよく分かりません。新鮮だと思ったのは、木こりが自分のやっていることを知っていたという点です。おかみさんの無知ぶりから、木こりも、何も知らず作業にかり出されているのかと思っていたら、十分差別意識をもっている。これは、なかなか厳しい指摘で衝撃でした。生き延びた赤ん坊が長じてソ連の機関誌の表紙を飾るというのも、なかなか皮肉な感じで、そういう展開もはじめて読みました。

さららん:ホロコーストは書きつくされているように思えるけれど、そうか、この手があったか、と私も思いました。昔話のような世界と厳しい現実が1章ごと交代で現れるこの作品を書いたのは、きっと手練れの作家だと思ったら、やっぱりそうでした。短い章をつないでいく言葉が硬質で、寓話の言葉と小説の言葉を巧みに混ぜています。硬質の訳がまたいいですよね。1回目に読んだときは、強烈な後半部分にショックを受けました。木こりの夫婦が女の子の命を救い、愛情をもって育て始めたという話の前半に対して、その木こりが斧で仲間たちを殺すし、情け深い森の男もあっけなく銃で打ち殺されるし、なんて血まみれで残酷な話だろうと、思ったんです。でも2回目に読んだときは、そこはあまり気になりませんでした。エピローグには、この話が作り話だったとわざわざ断りがあり、せっかく読んだものが無に帰すようでしたが、「ただ一つ存在に値するもの――(中略)それは、愛だ。」の締めくくりで、やられちゃいました。ラ・フォンテーヌの寓話やペローの童話のように最後に教訓をつけるふりをしたかと思うと、「覚え書き」まで加えて、現実に起きたホロコーストの記録の一部を伝えている。作者は、文学のジャンルを超える実験を試みたんでしょう。この本の意味がまったくわからない子どもも多いと思います。でも、ひと握りの子どもたちには、忘れられぬ印象を残す作品かもしれません。ここに描かれていたことはいったいなんだったのか?と。

まめじか:収容所の中で起きていることも理解していない素朴な村人のおかみさんは、「列車の神さま」が赤ちゃんを授けてくれたのだと信じています。しかしやがて「列車の神さま」のおかげではなく、雪の中に赤ちゃんを投げた手や、その子を守った人たちの力で赤ちゃんは生きのびたのだと思い至ります。作品にこめられた人間への信頼を感じます。収容所にいる父親の心に希望が生まれ、たとえ当の本人がそれを笑ったり、涙でぬらしたりしても、その芽はのびつづけたという箇所なんかもそうですよね。木こりが赤ちゃんに手をあげようとする場面では、体がふれたときに2人の心臓が響きあい、そのとき木こりは恐怖をおぼえます。いとしいという感情がわきあがってくるのに抵抗しようとするのですが、愛情とかいとしいとか、そういう直接的な言葉をつかわずに表現しているのがすばらしいですね。またおかみさんが赤ちゃんのことを、「わたしの生きがい」ととっさに言うのですが、そんなちょっとしたせりふが真実をあらわしていると思いました。

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ニャニャンガ(メール参加):読みはじめてすぐに、『エリカ 奇跡のいのち』(講談社)の話だと気づき、子どもに伝えるには絵本の方を勧めたいと思いました。この本は、ポプラ社から出ていますが、2021年の本屋大賞、翻訳小説部門 第2位だとすると、大人向けでしょうか。大人向けに感じた理由は、p.25 ひどいことのルビにポグロム、p.135人間性にユマニテとだけあるのは若い読者には親切でないと思ったからです。文章が頭に入らない部分は私の読む力が足りないのだろうと思ったのですが、翻訳についてAmazonレビューに細かい指摘があり驚きました。
https://www.amazon.co.jp//dp/4591166635
フランス語はわからないので翻訳に関してはなんとも言えませんが…名のある方の訳でもあり、有名になると細かくチェックされるのかなと怖くもなりました。

(2021年11月の「子どもの本で言いたい放題」より)

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花形みつる『徳次郎とボク』表紙

徳次郎とボク

アンヌ:児童書というよりすべての世代でそれぞれ共感を持って読まれる本だと思いました。祖父の病院嫌いの場面とか、介護について姉妹でもめる場面とか、今の現実を映していると思います。最初作者が男性だと思っていたので、長女のケイコおばさんの描き方はひどい、介護を担う人の苦労はわかっているのか等と思ったのですが、作者のインタビュウを読んで女性だと知ってからもう一度読みなおしました。主人公の語り口が実におもしろく、p91 の「決まりかな、とボクは思った……決まったな、とボクは思った」とか、p148 の「お母さんの忍耐の結界にはられたお札は今にもはがれ落ちそう」とか、独特の魅力を持つ書き手だなと思いました。主人公が成長しながら死に向かう祖父の気持ちを理解していくという物語よりも、つい介護問題の方に目が行ってしまう世代なので、祖父と3人の息子だったら、こんな風に尊厳を守られたのだろうかとか考え込んでしまいました。

エーデルワイス:「花形みつる」というと『巨人の星』(梶原一騎原作 川崎のぼる作画 週刊少年マガジンコミックス)を思い出し、作者が女性と聞いて驚いています。おじいちゃんと孫の交流を描いていますが、介護をリアルに描いていて、児童書で「介護」を具体的に描いた画期的な内容だと思いました。作者の体験が盛り込まれていたのですね。私事ですが義父母を介護中なので、孫よりも介護する徳治郎さんの娘たちの気持ちに寄り添ってしまいました。97歳になる私の義父も意思が固く、耳は遠くて徳治郎さんとそっくりなんです。徳治郎さんは寝たきりになりますが、最後まで頭はしっかりしていました。世の中たくさんの人が認知症を患っています。今度は的確に認知症を扱った児童書を読みたく思いました。

アカシア:この作品は、子どもの視点で徳次郎をくっきりと浮かび上がらせるのが、とてもうまいなあと思いました。作者は実体験に基づいて描いているのでしょうが、ボクが途中で徳次郎のところに行くより友達と遊ぶほうがおもしろいなと思ったり、母親のきょうだいの言い合いにうんざりしたり、徳次郎の歩く速度が遅くなったのを見て祖父の体力の衰えに気づいたり、などという描写がとてもリアルです。脇役の使い方もうまいですね。エリカちゃんも問題を抱えながらも長所を持った子として立体的に描かれているし、犬のシロは来訪者にぎゃんぎゃん吠えるのに、いつのまにかおじいちゃんの枕元にすわっているし……。最後のほうにヨシオさんという人が出てきて、徳次郎の戦争体験を親族は初めて知るのですが、その出し方も秀逸。死がテーマなのでシリアスですが、文章の随所にユーモアがあるのもいいですね。同じように耳の聞こえない隣の畑のおじいさんとのとんちんかんな会話なんか、想像すると笑えます。この本が産経児童出版文化賞の大賞を取ったときの記事を読むと、徳次郎のモデルは花形さんのお父さんで、お父さんの子ども時代の話がとてもおもしろかったので、それを書こうと思ったのが作品が生まれたきっかけだと語っておいでです。

ネズミ:とてもおもしろかったです。特によかったのは文体で、それぞれの登場人物のせりふや書き分け、特におじいちゃんの口調が巧みで、翻訳ではなかなかできないことだと思いました。高齢者が増えていて、介護と尊厳は大きな問題です。体の不具合をなおすことに熱心になって、クオリティオブライフが後になるというのはよくあることですよね。P.208の1行目に「あのとき、ボクは、わかってしまったんだ、お祖父ちゃんがなにを望んでいるのか。お祖父ちゃんの望みは、自分のやり方で死んでいきたい。多分そういうことなんだ」という言葉があります。また、だれにでもその人なりの人生があるということが見えてくるのが、いいなあと思いました。

雪割草:大変よかったです。読んでいて、懐かしい気持ちになったり、じんわり温かくなったり、電車の中で読んだので泣きませんでしたが、泣きそうになる場面がたくさんあり、いろいろ感じることができる作品でした。おじいちゃんではなく徳治郎としているタイトルからも、ボクがおじいちゃんと一人の人間として出会っているのだと思いました。ボクがおじいちゃんのことをよく観察して、寄り添い慕っているのが本当に見事に描かれていて、こんなふうによく観察して寄り添う力は大切で、ぜひ子どもたちに読んでもらいたいし、おとなにとっても味わい深いと思います。所々、クスッと笑えるところがあったり、親しみがわくところもあったりするもよかったです。特にp60の鳥の巣の場面では、鳥の巣の美しさがわからないいとこたちに向かって「こいつらバカじゃないか」というボクの心の中のつぶやきに、なんだかこう思ったことあったなと妙に共感してしまいました。私は子どもの頃、両親や兄弟、祖父母や曾祖父母と暮らしていて、曾祖父母が老衰のため自宅で亡くなるのを見ました。今は家族で死を看取ることが少なくなっているので、身近な暮らしの中での死を描いているのもとてもよいなと思いました。

マリンゴ: この本は1年以上前に読んでいたので、今回が2度目の読書になりましたが、1回目と2回目で印象がかなり変わった本でした。大前提として、とても読み応えのある本で、人が生きて死ぬリアルが伝わってきますし、3姉妹や姪っ子のエリカちゃんなど、脇のキャラクターも魅力的です。あと、横須賀は多少土地勘があるので、急勾配の坂とか山の上にある畑だとか、そういう風景も目に浮かびました。特に前半、自然の中で虫をつかまえたりおじいちゃんの子どものころの話を聞いたり、そんな場面が鮮やかでした。タマムシが、小道具としてラストに再び登場するのも素敵ですよね。ただ、1回目は、自分が子どもの頃だったらどんなふうに受け止めたか、という視点を持ちながら読んだので、この本に描かれている死への道のりがリアルすぎて、ここまでまだ知りたくなかった、という気持ちになるのでは、と思ったのでした。昨日2度目に読んだときは、その記憶を持って読んだせいで逆に、いやいや素晴らしいじゃないか、死に方の一つの理想じゃないか、と感じました。周りであわてふためきながらも何とかしようとしている大人たちも含めて、みんなが精一杯生きているのもいいですよね。でも、それはわたしが大人として、身近な人の死を経験した後で読んでいるからではないかとも思ったのです。この本の初読と同じ頃に読んだ『昔はおれと同い年だった田中さんとの友情』‎(椰月美智子著 小峰書店)のほうが、児童書としての死との距離感はちょうどいいかも、と感じたのでした。

ハル:ひとが生きて死んでいくさまをおかしみとかなしみをまじえて愛情深く描いた、ありそうでなかった児童文学作品で、わかったような言い方で恐縮ですが、初めて読んだときに、「これぞ文学!」と思いました。おじいちゃんの死が迫る終盤で、「ちっせぇとき」のお月見の話が入ってくるところや、作品の中でのおじいちゃんの最後のセリフが「あくしゅ、してくれ」なところがなんとも美しくて、素晴らしいなぁと思いました。と同時に、版元の理論社は「おとながこどもにかえる本」の位置付けでこの本を出しているのだと思うのですが、まさに、大人が読みたい児童文学なんだと思います。現在中学生のボクの目線がだいぶ大人ですし。だけど、「こども」世代にも、ぜひ、このわめきちらす頑固者のおじいちゃんの魅力や、それをとりまくおばさんたちの愛を想像できるような年頃になったら、ぜひ読んでほしいと思います。

カピバラ:『おじいちゃんとの最後の旅』(ウルフ・スタルク著 キティ・クローザー絵 菱木晃子訳 徳間書店)のおじいちゃんと孫の関係にどこか似ているなと思いました。どちらも頑固でへそ曲がりで、周囲に迷惑をかけることもあるけれども、孫にとっては信頼できるおじいちゃん、大好きなおじいちゃんでもあるわけです。徹底して孫から見たおじいちゃんを描くことで、おじいちゃんの人生を浮き彫にする描き方も似ているなあと思いました。子どもの視点から書かれているという点で、これは子どもにぜひ読んでほしい、子どもの文学として位置づけたいと思います。徳治郎がボクに語る昔の悪ガキぶりが生き生きとしておもしろく、戦争体験もありつつ家族の歴史が伝わってきました。3人の娘たちの会話もリアリティがあって、おもしろかったです。最後に別れのときがくるけれども、ボクにとってはおじいちゃんの人生を肯定して終わることができて、さわやかな余韻が残りました。

コアラ:電車の中でサラサラと読んでしまって、あまり興味をひかれないまま読み終わってしまいました。最初のほうで、竹とんぼが出てきたし、p23で「黒い固定電話」が出てきたので、1970年代くらいかなと思っていたのですが、p75では携帯電話が出てくる。そうすると2000年代くらいになりそうですが、それにしては時代的にしっくりこない気がして、そういうこともあって物語に入れなかったのかもしれません。大人の目で読めば、カピバラさんがおっしゃっていたように、大人同士の会話はリアリティがあっておもしろいなと思ったし、主人公の男の子が祖父の死を見つめるのは大切な物語だと思うんですけれど、心が動かされないまま読んでしまいました。

花散里:徳治郎おじいちゃんのことが印象深く残っていたので、ウルフ・スタルクの『おじいちゃんとの最後の旅』が出版されたとき、この『徳治郎とボク』みたいだと思いました。今回読み直して、改めてとても良い作品だと感じました。孫の視線から見たお祖父ちゃんがとてもよく描かれていて、ボクが成長していくとともに、お祖父ちゃんに対する見方が変わっていくところが伝わってきます。母親と離婚した父親への思いが、お祖父ちゃんの子ども時代とも重なって描かれているのも印象深く思いました。お祖父ちゃんと畑に行くときの様子、昆虫、植物のことなど自然の描き方や、登場人物の描き方も見事だと感じました。言葉の表現の仕方など日本の児童文学のなかで花形さんの作品が好きですが、特に子どもたちに読んでほしい1冊だと思いました。海外の作品で1991年に刊行された『リトルトリー』(フォレスト・カーター著 和田穹男訳 めるくまーく)も環境、家族の絆、人間関係などが描かれた作品ですが、この本と一緒に紹介して前出の『おじいちゃんとの最後の旅』などとともに勧めたいと思います。

しじみ71個分:これを読んだのは2回目です。1回目もすごくいいなと思って、2回目もやはりよかったです。私は生まれたときには既に祖父は2人ともいなくて、祖父のリアルな存在感がまったくないんですね。なので、この徳治郎とボクの関係は私にとっては、とてもすてきで、こんな関係が持てたらいいなと、ちょっと仮想おじいちゃんを頭に描きつつ読みました。自分の父は9人兄弟の末っ子ですし、母方の祖母が大正12年生まれなもので、なんとなくいろいろ自分の状況を重ねて読んでしまいました。ウルフ・スタルクの『おじいちゃんの最後の旅』でも感じたのですが、親子とは違って、微妙な距離感がある、おじいちゃんと孫という関係がこれだけすてきなストーリーを生み出せるのだなぁとしみじみ思いました。親は近すぎて重たくなるのかな。昨今、子どもに、身近な人の生き死にを見せられるのは、祖父母しかないのかなと思いますので、万人にとって共感できる話なんじゃないかと感じました。孫がおじいちゃんを観察して、大変に人間くさく、魅力的に描いていますよね(親だとただ面倒なのだろうと思います 笑)。徳治郎が、自分が生きたいように生き、死にたいように死んでいくという、人間の尊厳を貫き通す姿は魅力的だし、そんなふうに私も残りの人生を歩みたいと思わされました。大人が読んで胸に沁みるのはもちろん、決して子どもに読めなくはないと思います。リアルな死を描きつつ、とてもいい話で、私の好きな本です。人間の死は生前の人間関係に負っているのだということが描かれているのも、重要なポイントだと思いました。

西山:おもしろくは読んだんですけど、けっこう出だしでひっかかってしまいました。80に近いお祖父さんの孫が幼稚園児という年齢でひっかかったり、例えば、p27最後の段落で、「ササゲもみっしり実っていた」と野菜に詳しかったり、「畑は,荒々しいジャングルに出現した勤勉に手入れされた小さな庭園のようだった」とたとえたりというのが、「ボク」がいつの時点から回想しているのか、幼稚園時代を回想しているけれど、かといっておとなの口調ではないし、いったいいくつの子だ?と気になってしまったのでした。先月の、ウルフ・スタルクと読み比べるのもおもしろいと思いましたけれど、身体的に弱っていくことにあらがっている人の最終ステージを淡々と記録した、というそれ以上でもそれ以下でもないというふうに読み終えました。

さららん:おじいちゃんはできることは少しでも自分でやろうとし、気に入らないことには癇癪を起こします。その理由を考え続けたボクが、おじいちゃんは「自分のやり方で、死んでいきたいんだ」と悟るところがとてもいいと思いました。文章も全体に抑制が効いています。例えば、おじいちゃんが死んだ場面でも、死んだとは書いていない。「こうしてぼくは『冒険』を手に入れ、お母さんは『安心』を買いに走った。」(p74)など、切り取り方も巧みです。この作品の良い点は、老いること、死ぬことを、できるだけ具体的に書いてあり、単に孫とおじいちゃんの良い話にはなっていないところ。死に向かう過程をひとつずつ重ねるように描いていて、実際の「死」に触れる体験の少ない子どもたちにとって、学びの多い作品だと思いました。ただ前回の『おじいちゃんとの最後の旅』に比べると、ユーモアやひねりに欠け、エピソードの組み立てが立体的でない気がします。p196で、おじいちゃんが兵役についていたこと、さらに上官に盾ついて、リンチにあったことがヨシオさんによって明かされます。それは家族にとって意外な事実で、権威や押しつけに対するおじいちゃんの反発の根っこであったことが、明らかになるのです。おじいちゃんを理解するうえで大事な要素なので、具体的にどうして盾をついたか、私は書いてほしかった。そこが気になって、クライマックスに気持ちがついていかず、説得力がやや弱いように思えました。作家はあえて書かなかったのかもしれませんが。

まめじか:お祖父ちゃんが畑まで行くのにひと休みするようになるとか、歩くのが遅くなるとか、そういう日常の場面を重ねて、老いることや人生の終わりを迎えることがていねいに描かれています。歳をとって人の手を借りることが増えていくお祖父ちゃんが、主人公やエリカちゃんの心を救う存在になっているのがとてもいいですね。

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ニャニャンガ(メール参加):孫とおじいちゃんの交流を描く物語なので、好みの作品でした。徳次郎じいちゃんが、畑仕事が趣味の自分の父親と重なるところが多く、共感しながら読みました。昔の話をするおじいちゃん、大好きです。父は今年89歳で、わたしはたまにしか帰省せず会っていなかったのですが、父が数年前に大病をして入院お見舞いのため数日通ってつきっきりで話をしたときのことが懐かしくなりました。口の悪さにかけては、徳次郎は『おじいちゃんとの最後の旅』のおじいちゃんに負けず劣らずだと思いました。3人姉妹による介護分担での攻防や、長女の娘エリカちゃんの変化、徳次郎おじいちゃんが弱っていくようすなど、身につまされるようにリアルで読み応えがありました。主人公の語り口について、後半は違和感なく読みましたが、4歳からスタートするにしては大人っぽい語り口なのは仕方ないのでしょうか(わたしは4歳のときの記憶はおぼろげなので少しひっかかりました)。両親が離婚したのに、父親が直接登場する場面がないのは気になりました。唯一登場するのはp62の離婚後の面会日。主人公にとって父親はそれほど薄い存在だったのかと考えてしまいました。

(2021年11月の「子どもの本で言いたい放題」より)

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2021年10月 テーマ:嘘について考える

日付 2021年10月12日
参加者 ネズミ、ハル、シア、ルパン、すあま、ハリネズミ、アンヌ、しじみ71個分、まめじか、さららん、カピバラ、サークルK、ニャニャンガ、マリンゴ、雪割草
テーマ 嘘について考える

読んだ本:

ウルフ・スタルク『おじいちゃんとの最後の旅』表紙
『おじいちゃんとの最後の旅 』
ウルフ・スタルク/作 キティ・クローザー/絵 菱木晃子/訳   徳間書店   2020.09
RYMLINGARNA by Ulf Stark, 2017
<版元語録>死ぬ前に、昔住んでいた家に行きたいというおじいちゃんのために、ぼくはカンペキな計画をたてた…。ユーモラスで、切ない物語。


『大林くんへの手紙』表紙
『大林くんへの手紙 』
せいのあつこ/著   PHP研究所   2017.04

<版元語録>ある時から学校へ来なくなった大林くん。文香が関心を寄せ続けることで、ついに大林くんの気持ちが少し動く……という友情物語。

(さらに…)

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『大林くんへの手紙』表紙

大林くんへの手紙

まめじか:p7でカレンダーを机に置いて、「ノートだけ机に置くより、ずっとかわいい」というところでまず、「かわいい」という表現でいいのかなと思いました。宮子が大林くんの手紙にひとこと「小さい!」と書くのもそうですが、全体的に言葉足らずの印象です。p22で先生が宮子に学級委員の仕事を手伝わせるのも唐突だし、突然訪ねてきたクラスメイトを前に、大林くんのお母さんが平身低頭で謝るのも理解できなかった。人物像や行動が不自然で入りこめませんでした。「~だもの」「~よ」「~わね」というフェミニンな言葉づかいや「あの馬鹿」なんていうせりふも、小学校高学年の子どもにはそぐわない感じがします。また、小学6年生の子が友だちのことを思い描いたとき、「体は細くて胸はないけれど」(p 64)っていうふうになるでしょうか。文香のお母さんは不登校について「たくさん休むといろいろとめんどうなことになる」「なぜたくさん休んでいたのか、何度も説明しないといけなくなる」「役に立たない人間だと区別されるかもしれない」(p107)と言うのですが、あまりにも乱暴な説明にとまどいました。

シア:私も話に入りこめませんでした。テンポが全体的に緩慢で、どこか漫画的でした。そのせいで悪くするとギャグ寄りになってしまう場面もあって、私は卯沙ちゃんの言葉や態度などのちぐはぐさに失笑してしまうこともありました。どこをとってもドロドロしそうな展開なのにしていなくて、あっさりしています。これが現代的で、現代の小学生なのでしょうか? それなのに、先生はいつも役立たずのテンプレで描かれているので悲しいです。気になったのは、大林君のメールアドレスは了解を得て回しているのかというところ。このネットリテラシーはいただけません。それに、空いている席には誰が座ってもいいんですよね。単なる便宜上のもの。移動教室とかクラブ活動もありますし。すべてをていねいに使えばいいんです。マーキングしたい日本人の感覚だなと思いました。ウルフ・スタルクの本を先に読んだので、すべてが狭く感じました。日本的というべきなのでしょうか。最後にツッコミたいところがあって、p172「携帯を開き」とあるんですよね。スマホじゃないのかと。パカパカケータイなのかと。小学生だからなんですかね。

カピバラ:自分の本心を作文に書くことができない主人公の気持ちが正直につづられているから部分部分には共感する子もいるのかもしれませんが、物語としては一向に先に進まないのがもどかしかったです。結局、手紙もメールも書けないまま終わるという結末は中途半端で、大林くんが何を感じ、どうして学校へ来ないのかわからないし、物足りなさを感じました。宮子、中谷くん、卯沙の描き方ももう一つつっこんでほしかった。最初にクラス全員に大林君への手紙を書かせ、全員で家に届けるなんてこと、本当にやっている学校があるのでしょうか。私はここでまず引いてしまいました。大林君とお母さんの態度も後味が悪いです。歴史好きのお母さんとの会話は、おもしろくしようとしているのだろうけど、効果がないし、違和感がありました。

ハリネズミ:感想文や手紙でついつい思ってもいないことを書いてしまうことはあるし、文香が大林君の席にすわって考えてみるという展開はいいかもしれませんが、物語の流れから見て不自然なところが随所にあって、入り込めませんでした。たとえば、宮子がまわりを巻き込む押しの強い性格だとわかっているのに、文香が大林君のメアドを渡してしまうところとか、大林君の席にだれかが荷物をおいているのを見とがめて文香は自分が席にすわりつづけるわけですが、ほかの生徒が荷物をおくより、ほかの生徒がすわってしまうほうが大林君の存在を無視してしまうことになるような気もします。しかも文香はp129で中谷君が文香の席に座っているのを見ると、「他人(ひと)の席に平気で座るなんて」と文句のような言葉をつぶやくのは変。それと、最後の場面が唐突で、ただ情緒的な言葉でまとめたようで気持ちが悪かったです。物語世界がもう少しちゃんとつくってあれば、いい作品になったかもしれませんが。

マリンゴ:発売されて間もないころに、話題になっていたので読んだ記憶があります。そのときは、いい作品だけれどそんなに尾を引かないないなぁ、と思っていました。学校生活っていろんなことがあるけれど、物語があまりに「大林くん」と「手紙」に集約されている印象だったからです。今回、再読したときのほうが、おもしろく読めました。主人公は、ちょっとADD(注意欠陥障害)気味なのか、部屋の整理整頓ができない子で、周りの人はどうなのかあまり気にしていません。でも終盤、人の部屋はどうなのだろう、と関心を持つようになるなど、視野がゆっくり広がっていく感じがいいと思いました。ただ、これは好みの問題かもしれませんが、最終章の六章がまるごとなくていいのではないでしょうか。五章から、時がほとんど進んでないので、そこで終わっている方が、余韻を残したのではないかと思います。あるいは、六章を入れるなら、何カ月かあとに飛ぶとか、そのくらい話が展開したほうがいいような気がしました。

しじみ71個分:読んでなんだかイライラしてしまいました。学校のクラスのとらえ方が古くさいなぁと思いまして……。不登校の子に対してみんなで手紙を書くことを強制して、みんなで届けにいくなんて、ひと昔まえの教室運営ではないかなと……自分の子どものときの話を思い出してしまいました。先生に大林君へ手紙を書くことを強制されるのも不快でしたし、リーダー格の女子の宮子に強制させられるのも、読んでいて本当に嫌でした。宮子から「小さい」とか言われて、一方的に、こうあってほしい大林くん像を押しつけられるというのもいい迷惑だなと感じてしまい、物語の後半で宮子が少しいい子に見えてきた、という表現もあったのですが、ぜんぜんそのように寄り添った気持ちにはなれませんでした。唯一、共感できるとすれば、主人公の子が思ってないことを書けないというのは正直だと思ったことですが、その先の展開がなく、大林君の席に座って、大林君の椅子の傾きを感じ、彼が見ていたものを見る努力をするというのは、わかるような、わからないようなで……。断絶も含め、不在の人への思いや働きかけがあってこそ、読者の心が動く何かが生まれるのではないかと思いました。主人公の中で、不在の人への気持ちや思いがどう深まっていったのか、まったくわからなかったんです。大林くんが禁じられた屋上に上がって、しかられたけれど、なぜ一人だけ反省文を書けなかったのか、という点をきっかけにもっと大林君の物語を深められたのではないかと思うし、彼のお母さんが必要以上に自己肯定感が低いことにも背景があるはずなのに、それがまったく描かれていなくて、もやもやしたままです。結局、椅子に座ることも、手紙を書くことも、彼の気持ちには迫らず、自分たちの自己満足でしかないのではないかと思えてしまいました。『12歳で死んだあの子は』(西田俊也著 徳間書店 2019)にも感じたのですが、亡くなった子のお墓参りをすることに終始して、その人の不在が訴えかけてこなかった点に共通したものを感じ、思い出してしまいました。人の不在に対する心の動きがないと、物語が成立しないんじゃないのかなぁ……。

すあま:主人公は、感想文や反省文と同じように、手紙も嘘を書いていいと思って、きれいな文章の手紙を書く。先生がいいって言ったので正解だと思ったけれど、そのあとでほかの人の手紙を見て、ハッとする。手紙は相手に気持ちを伝えるものだから嘘ではだめだ、ということに気づいたことから物語が展開していくのだと思ったのですが、うまくいっていないように思いました。共感できる登場人物がいないことや細かい描写がちょっとうるさく感じられることなどで、読みづらく感じました。会話の間に頭の中で考えていることが入っているのもわかりにくかったです。登場する大人である先生や親がきちんと描かれていない大人不在の物語で、今回読んだスタルクの本とは対照的でした。あまりおもしろさが感じられませんでした。

サークルK:p47で「いつかちゃんとした手紙」を書く、と書いた文香の「最後の手紙」がp170で「板、ぴったりでした!」で落ちがつく、という展開に肩すかしをくった、というか愕然としてしまいました。もうちょっと、何か言葉はないのかな。ショートメールなどのやり取りになれているイマドキの子どもたちは、短ければ短い方が心に響くと思っているのかしら、ととまどいました。そしてこの物語が今を生きる小学校高学年の子どもたちに「あるある、だよね」という形で受け入れられているのだとしたら、小学校の現場の寒々しさというか、子どもたちがとても気を使って毎日を送っている息苦しさを思ってつらくなりました。これからを生きる子どもたちがもっと言葉を豊かに紡ぐことができるようになってほしいなあ、と願いながら読みつづけるしかありませんでした。

ハル:今、サークルKさんの意見を聞いて、ハッとしたのですが、確かに私はこの本を、今の子がどう読むかという視点では読めていなかったです。それに、2017年の刊行から少し時間が経っていますので、もしかしたら当時は画期的なテーマだったのかも知れず、あくまで2021年11月現在の感想になってしまうことも、考慮しなければいけないとも思います。そう先に断りつつも、これはいったい、いつの時代の、誰の話なんだと思うような、アップデートされていない感じが、私は受け入れられませんでした。仮にこれがノンフィクションだったとして、すべてが実際にあったことだったとしても、それを描き出して「大人ってほんといやよね」「先生って全然わかってないよね」「同調圧力、ほんといやね」で終わるのではなく、じゃあどう変えていこう、どうしたら未来が変わるだろう、というところまで感じさせてほしかったです。ただ、不登校になる理由が明確でないというのは、現実の世界でも往々にしてあることだとは思います。

ネズミ:正直な気持ちを書けない主人公というテーマはいいなあと思いましたが、物語は残念ながらあまり楽しめませんでした。p15で大林くんのお母さんが、パート先で自分の息子が学校であったことを話すところで、こんなことあるのかなと思ってしまって。不登校のことが、p108で「学校に行かないのはとんでもないことらしいのはわかった」と書かれたあと、それ以上に深まらないのも、物足りませんでした。閉塞的な息苦しさを超える、新たな気づきや共感がもっとあったらと思いました。

ニャニャンガ:主人公の文香が嘘を書きたくないという点には共感しましたが、全体的にどうかといえば共感できませんでした。気になったのは、大林くんが不登校になった本当の理由が明かされない点です。また、担任の先生の行動が怖かったです。立ち入り禁止のところに入ったくらいで反省文を書かされ、学校に行かなくなった大林くんの心の傷を理解しているのだろうかと思うほど、子どもたちに無言の圧力をかけ、無神経な行動をとるなど既視感がありました。クラスのみんなで不登校の生徒に手紙を書くとか、宮子を教師の「使える子」として学級運営をしているのは、わが子が小学生だったときと重なったのでリアルだと思います。でも、大林くんのお母さんは謝りすぎ、文香のお母さんはマイペース、友だちの卯沙はふわっとしているようでしっかりしているなど、マンガのようにキャラ立てしようとしているのかなと感じました。

さららん:この作者は言葉にすると壊れてしまう感覚を、書こうとしたのかなあと思いました。主人公は、最後まで手紙を書かず、読者としてはもどかしい感じ。そして大林くんの気持ちが主人公に少し伝わるのは、親友を通しての伝言と間接的なメールの画面だけ。主人公は大林君の席にすわって、その気持ちを想像する毎日なのですが、そんな主人公を大林くんはちょっと意識していて、最後のほうで「板」をくれます。椅子の傾きを調整するために。関係性に踏みこまないで人物を描いているから劇的な展開もなく、開けられた容器に、読者が「大林君はどう感じているんだろう」「どんな子なんだろう」「なぜ学校を休んでいるんだろう?」と自分の想像で埋めるほかない物語でした。そこには空白があって、書きこみが足りないといえばそれまでなんだけれど、今の子どもたちの感覚に通じる部分があるのかも……そういう意味では現代的なんでしょうか? 友だち同士のコミュニケーションが取れているような、いないような関係は理解できませんが、代わりに物の手触りをていねいに書いている点がおもしろかったです。

ンヌ:読みながら、事件と事件との間に物語としてのつながりがなく、読者が詩や和歌を読むときのように、間を埋めながら読んでいく作品のような気がしていました。実に繊細な感じで。だから、具体的なイメージがうまくわいてこない部分も多く、ハンカチが選べなくて2枚差し出す意味とかは、うまく読み取れませんでした。手紙を書き直すというのはわかるのですが、やっと本当の手紙が書けたのに、それを出す前に中谷君と大林君とのメールのやり取りが始まってしまうという第六章は、先ほどマリンゴさんからもご指摘があったのですが、時間の経過が速すぎる気がして奇妙な感じがしました。歴史おたくの文香の母親は、ユーモアとして描かれているのでしょうが、p107で不登校について「何度も説明しなければいけなくなる」は親の立場の説明だとしても、「役に立たない人間として区別される」という発言をするのには疑問を持ちました。

ルパン:私は今回の選書係だったのですが、この本はある意味傑作だと思って選びました。たしかに小学生としてはおとなびた感があり、中学が舞台のほうがよかったなと思いますが、ものすごくリアリティを感じます。みんな、もやもやしていて、方向性なんてないんですよ。定着して方向がつけられた学校制度の中に閉じこめられた子どもたちの現実です。そして大人たちの現実でもある。子どもが不登校になって、どうしたらいいかわからない自信のない親。自分がどうして学校に行かれなく(行かなく)なったのか自分でもわからない子ども。感想文や手紙を書けと言われてどうしたらいいかわからない友だち。旧態依然の価値観をもち、マニュアルに頼る自信のない(あるいはありすぎる)先生たち。この中の登場人物に似た人たち、私のまわりにはたくさんいます。物語の中で不登校の理由がはっきりしたり、それを解決できる大人がいたりしたら、そっちのほうがよっぽど非現実的です。「個人の自由」や「個性の大切さ」を声高に言いながら、足並みをそろえることを強いる「学校」という社会の中でみんな困っている、という現実をあぶり出した作品だと思っています。みんなが先生に言われて書いた手紙の中で、大林君は主人公の手紙だけに反応した。それを知った主人公は何か自分ができることはないかと模索した。ここで二人はちゃんと繋がりました。答えがなくてもいいじゃないですか。りっぱな大人が出てきて解決しなくてもいいじゃないですか。現実ではむしろそんな大人が都合よく出てきてくれることのほうが少ない。この主人公は何もしなかったわけでも何もできなかったわけでもない。私は「理想の大人や理想の子どもが描けていない」と思う人こそ「大人目線」なのだと思います。もやもやして困っている子どもたちはきっと共感し、「こんな自分でも、できることをさがしていいのかもしれない」と一歩、いや、半歩でも踏み出せるかな、と背中を押されるはず。文章の細かいところで課題はあるかもしれませんが、今回はそういう理由で選びました。

(2021年10月の「子どもの本で言いたい放題」より)

 

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ウルフ・スタルク『おじいちゃんとの最後の旅』表紙

おじいちゃんとの最後の旅

アンヌ:私はおじいちゃん子だったので、主人公と祖父が性格の一致を喜ぶ場面には、心がギュッとつかまれました。船の中で、手と手を重ね合わせるところとかを読んで、相手の温かさを感じるだけで幸せな気分になる感じとか、いろいろ思い出してしまいました。題名からわかるように、この物語は祖父が妻の死を受け入れ、自分の死も受け入れていく物語であり、主人公が祖父の死を受け入れていく過程が描かれています。でも、ユーモアたっぷりの物語で、その中にスウェーデンの典型的な食べ物、ミートボール、シナモンロール、コケモモのジャム等が姿を現し、その食べ物にも一つ一つ意味があって、おいしそうで温かくて魅力的な物語となっています。アダムという頼りがいがある大人が出てきて、p131で祖父を病院から連れ出した自分を責める主人公を、おじいさんはああいう人だろうとなだめてくれるところでは、たとえ老人でも病人でも障碍者でも人権があるということを教えてくれます。嘘が嘘を呼ぶ苦い味も12章の「カンペキなうそ」でしっかり描かれていて、実に見事な物語だと思いました。キティ・クローザーの挿絵も一目見た時からあまりに魅力的で、目が離せませんでした。

ニャニャンガ:ウルフ・スタルクは好きな作家なので、刊行後まもなく読んだので再読です。スタルク最後の作品ということで読む前から胸が熱くなりました。おじいちゃんと孫、人生の悲哀をテーマにしたスタルク作品は最高です。ただ今回は、おじいちゃんがあまりに口が悪くて偏屈だったので、物語世界に入るのに少し時間がかかりました。島から帰ってきたあと、天国で妻と再会するときのために言葉遣いを直そうと努力するおじいちゃんが大好きです。ただひとつ残念なのは、キティ・クローザーの挿絵をスタルクさんが見られなかったことです。対象年齢の読者がどのように読むのかを知りたいと思い「読書メーター」を見てみたところ、勤務校の男子生徒にすすめられたという書きこみを見つけ、きちんと届いているんだなとうれしくなりました。

ネズミ:とてもおもしろく読みました。はじめから、おじいちゃんが死んじゃうんだなとわかるのですが、それでも読者を思いがけないところまで連れていってくれます。ストーリーや人物に無理がなく整合性があって、ほころびがない、完成度の高い作品だと思いました。改めていいなと思ったのは、この本に出てくる人たちが、誰ひとりとして、いい人になろうとしないところ。こうじゃなきゃいけない、というような道徳や偽善がない。看護師さんも、おじいちゃんが患者だというのに悪口を平気で言うんですね。日本の子どもの本とは、人間の描き方がずいぶん違うと感じました。

ハル:皆さんの感想を聞いていて、思い出し泣きしそうです。本を閉じてからしばらく泣いてしまったのですが、もしかしたらこんな体験は初めてかも。私は小さいころ、おじいちゃんのことがあんまり好きじゃなかったので、子どものころにこの本を読みたかったなぁと思います。子ども時代に読んでいたら、愛する人を失うという体験を、この本で初めて覚えたのかもしれませんね。登場人物、ユーモアもたっぷりの表現、イラスト、訳文……そういった全部、この本のすべてに愛があふれている感じがします。そして今度、北欧を旅することがあったら、お皿に添えられたコケモモのジャムも大事に食べようと思いました(以前に旅したときは、なんでおかずにジャムがのっているのかよくわからなくて、よけちゃったので)。

雪割草:あたたかくて素敵な作品だなと思いました。おじいちゃんは、古風で怒ってばかりですが、人間味あふれる描写で、「訳者あとがき」にもあるように、作者の、おじいちゃんのことが大好きという気持ちが伝わってきました。それから、「死」の描き方もいいなと思いました。カラスがオジロワシになって飛んでいくラストシーンへ向かって、p149にはウルフの見えないものへの気づきが書かれていますが、子どもの等身大の体験に近く感じました。ほかには、ウルフとおじいちゃん、ウルフとお父さんの関係が、p59にあるように世代の違いだけでなく、一人ひとりの違いとして描かれているのもよかったです。人生のはじめの方にいるウルフと人生の終わりの方にいるおじいちゃんの交流が、味わい深かったです。

マリンゴ:タイトルから、重い展開をイメージして、今まで敬遠していたのですが、想像とは違ってとてもハートフルで、楽しい部分もある物語でした。「嘘」が出てくるお話って、それがバレたらどうしよう、とハラハラする流れが一般的だと思いますが、この作品は、嘘を言うことを楽しむ少年が主人公で、ピンチに陥っても、仲間のアダムがすらすらと嘘をつくなど、嘘を肯定する展開がおもしろかったです。お父さんの前で、おじいちゃんとの冒険の事実を主人公がぶちまけると、お父さんがまったく信じてくれない、という場面が印象的でした。p126「合宿でなにがあったか、話してみなさい」と言われて、「……寝袋の中にゲロを吐いた子がいた」と答える場面はユーモラスで、笑ってしまいました。事実がすべて正義とは限らない、と考える作者の想いが伝わってきます。大きなことではないのですが、唯一引っかかったのは、p114からp115にかけて、アダムが卓球の試合ですぐに負けた話をしたあとの主人公のコメントです。「すぐに負けて、よかった」「ビリだっていったほうが、うけがいいでしょ」「負けた人のことは、みんな、かわいそうだと思うよね。で、ふだんよりやさしくしてくれる」などと続くのですが、これが、物語の流れのなかで若干唐突なので、後の伏線かと思ったらそうでもなく、少しとまどいました。

ハリネズミ:p114からのところは、ウルフの人となりをあらわしている表現だと思って読みました。融通のきくちょっとちゃっかりした性格の子なんじゃないかな。ウルフ・スタルクは角野さんと同じ時期に国際アンデルセン賞候補だったんですけど、選考期間の間に亡くなられたので、候補から除外ということになってしまいました。さっき、ハルさんが泣いたっておっしゃったのですが、私は、あっちこっちで笑いもしました。しみじみさせながら笑わせもする作品って、すごいです。文章にも絵にもあちこちにユーモアがちりばめられています。たとえば、汗臭い女の人に寄っていくっていうエピソード+p20の絵で、私は噴いてしまいました。子どもらしい視点も随所にあります。たとえばp10「ぼくは、まえからずっと、おじいちゃんが怒りだすときが好きだった。その場にいると、ものすごくドキドキする」とか、お父さんに「わたしの目を見ろ」と言われて、p122「ぼくは見なかった。パパの眉毛を見ていた。目でも眉毛でも、パパにはわからない」とか。p130で、パン屋の店に入って「店の中に入ると、あたたかくて、うす暗くて、いいにおいがして、ぼくはからだがふるえた」とか。スタルクには、上から目線や猫なで声がまったくない。あと、短い文章の中で、じつに的確に表現しています。たとえばp72「ぼくがジャムの瓶を持ってもどると、おじいちゃんはしばらくのあいだ、その手書きの文字をじっと見つめていた。それからふたをあけ、パラフィン紙の封をナイフでそっとはがした」というところですけど、あれだけ罵詈雑言を連発していたおじいちゃんが、おばあちゃんの作ったコケモモのジャムには万感の思いを抱いていたことが伝わってきます。それと、どのキャラクターにも奥行きがある。下手な作品だとお父さんを悪者にしてしまうところですが、お父さんも、p146のお菓子を買ってくるくだりや、そのとなりの絵を見ると、ただの堅物ではないことがわかりますよね。最後のカラスとオジロワシのところも伏線がちゃんとあるし。キティ・クローザーの絵も、ほかのにも増してすばらしいので、スタルクを敬愛していたことが伝わってきます。

カピバラ:私もスタルクは大好きな作家なんですけど、大好きなスタルクの最後の作品だというさびしさと、おじいちゃんの最後の旅という悲しさとが重なって、なんともいえないしみじみとした読後感にひたった一冊でした。スタルクの持ち味はユーモアとペーソスだと思いますが、それが十分に味わえる作品だったと思います。時代も国も違うのに、こんなに親しみを感じる人が出てくる本っていうのは少ないものですが、先ほど「登場人物がみなほかの人に自分を良く見せようとしない人たちだ」という感想がありましたが、なるほどと腑に落ちました。何度も何度も繰り返し読みたい作品です。

まめじか:登場人物が人として立ち上がってきて、この人たちはページの向こうにちゃんといると感じられました。主人公のウルフはおじいちゃんのことをよく理解していて、たとえば「死んだ人を愛しつづけることって、できる?」(p60)ときいたときに「だまれ、ガキのくせに!」なんて言われても、それは「できる」という意味だとちゃんとわかってる。わざと汚い言葉を言わせて、その罰として薬を飲ませるのも、おじいちゃんへの想いが伝わってきます。ウルフは人生がはじまったばかりの子どもで、一方おじいちゃんは人生を終えようとしている。夢と現実の境があいまいになって、おばあちゃんとかオジロワシとか、そこにはいないはずのものが見えるようになったおじいちゃんの目に映るものを、ウルフはときどき感じながら最後の時間をともに過ごして、やがておじいちゃんは船のエンジン音のようないびきをたてて向こう側の世界へと出航していく。たった2日間の冒険が、主人公の心にかけがえのないものを残したのですね。冒頭に出てくる紅葉した葉は、次の世代に命をつないでいくことを思わせるし、コケモモのジャムは生きることそのものというか、人生という大きなものを日常のささやかなものにぎゅっとこめるように描いていて、そういうのも見事だなあと。おじいちゃんが弱っていく姿を見たくなくて病院に来たがらないお父さんの描写には、リアリティがありました。あと、ウルフがバスの中で、汗のにおいがうつるようにおばさんにくっつく場面なんか、ユーモアがあっていいですね。挿絵も物語にとてもよく合っています。キティ・クローザーは現実と想像が入り混じった世界を鮮やかに描き出す画家で、私はとても好きです。死をテーマに扱った作品も多いですね。

さららん:しばらく前に読みましたが、ほんとに短いけど、どこもかしこもおかしいような切ないような、魅力的なお話でした。おばあちゃんのお葬式のときに、汚い言葉を吐いてしまったおじいちゃんは、天国でおばあちゃんと再会するときのために、これからはきれいな言葉をしゃべれるようにがんばろう、と決意します。そんなところに、おじいちゃんがおばあちゃんに伝えきれなかった、深い愛を感じました。そして、この本はあえて直訳風にした翻訳の仕方がすごくおもしろくて! p44の「かわりに息子と、とてつもなく愉快なわたしのおいがまいります」とか、下手にやったら目も当てられない表現ですが、それがものすごく笑えるんです。これは菱木さんのマジックかなあ。シナモンロールはよく食べるけれど、カルダモンロールは食べたことないので、食べてみたいです。おじいちゃんが静かにいびきをかきはじめた場面では、涙が出そうになりました。

サークルK:読書会に参加させていただくようになっていちばん涙を流した作品でした。タイトルがすでに物語るように、主人公のおじいちゃんの死に向かっていくお話ではありますが、悲壮感がなく「命がゆっくりと尽きていくときの時間」ということを作者が尊厳をもって温かい言葉で語ってくれていて、素晴らしかったです。その素晴らしさを翻訳と挿絵がさらに引き立てていました。p61のおじいちゃんと孫がまったく同じポーズで船室の椅子に座っているところはユーモラスで思わず笑みがこぼれましたし、p159の挿絵で孫の男の子がおじいちゃんの大きな手を握りながら最後の時を過ごしている様子には、胸を打たれました。ベッドサイドテーブルにおばあちゃんの写真とほんの少しだけ残ったコケモモのジャムの瓶が置かれていることが描かれていたからです。大好きな妻の作ったコケモモのジャムはおじいちゃんの生きるエネルギーそのものになっていたはずなので、挿絵に空っぽの瓶ではなく、ほんの少しジャムが残された瓶が描かれたことによって、おじいちゃんが明日もまた生きておばあちゃんのジャムを食べたいと思っていたのかもしれない、という希望のようなものが感じられました。p90で示唆されていた「オジロワシ」にp161で見事に姿を変えたおじいちゃんの最期は悲しみに満ちたものでなく誇り高いものであったのだなあ、としみじみ感じ入りました。

すあま:最後に登場人物が死んでしまうことがわかっている話は子どものころからあまり読みたくないのですが、スタルクなら絶対おもしろいだろうと思って読みました。ウルフが両親をだましておじいちゃんを連れ出すところは、途中で見つからないか、おじいちゃんは具合が悪くならないかと、ハラハラする冒険物語を読んでいるようでした。アダムがいたのも大きかった。家族じゃないけど助けてくれる大人が出てくる物語はいいですね。出てくる大人がちゃんと描かれているし、アダムも魅力的な大人で、おじいちゃんとわかりあえている感じもよかったです。日本でも、子ども向けに老いや死、認知症をテーマにした本がいっぱい出ているけれど、ウルフ・スタルクにかなう人はいません。泣かせる、感動するだけでなく、やっぱり笑えて楽しいところもあるのが良いと思います。ウルフはいい子だけど、それだけじゃなくて嘘もつくし、個性豊かで生き生きしている。おじいちゃんが亡くなってしまうのも自然に描かれていて、いいなと思いました。死を描いていると、怖かったり悲しすぎたりするものも多くて、そういう話が苦手な子にも読みやすくて受け入れやすい話だと思いました。来日されたとき講演会でお話をうかがったのですが、物語のウルフに会ったようで、とても楽しい時間でした。訳については、汚い言葉を話す人たちを、キャラクターが伝わるように訳すのは難しいのではないかと思いましたが、すばらしい翻訳でした。

シア:『うそつきの天才』(ウルフ・スタルク著 はたこうしろう絵 菱木晃子訳 小峰書店 1996)という本が大好きでしたので、ウルフ・スタルクだ! と思いながら読みました。「最後の旅」という題名を見て、また題名ネタバレをしている……とガッカリしたのですが、結果的にかなり泣かされました。日本版はこの手の題名多いので、なんとかしてください! おじいちゃんの汚い言葉がかえって生き生きしていて、本当におばあちゃんを愛していたんだなというのも伝わりましたし、変わっている人なんですがとても素敵な人だと思えました。こんな人生いいなと思いながら読みました。子どもに是非読んでほしい本です。挿絵は色鉛筆ですかね、きれいな色合いでした。小学生くらいから読むのにいいと思います。夜に読んだので、シナモンロールとかコケモモのジャムなど、誘惑にかられる1冊でした。

しじみ71個分:読んでもうとにかく感動しました。短い物語の中で、どうして人間関係がここまで書けるんだろうと驚くばかりです。詳細な説明は書いていないのに、おじいちゃんとの関係ばかりか、お父さんとウルフ少年との関係など、全部わかってしまうんですね。キティ・クローザーの絵もすばらしくて、最後のおじいちゃんとおばあちゃんの二人がよりそっている後ろ姿の絵を見て、涙腺崩壊しました……。アダムも看護師さんたちも脇役ながら、人がらがみっちりと描きこまれていて、とても魅力的です。著者はキティ・クローザーの絵を見ることなく、出来上がった本を手に取ることなく、亡くなられたとのことですが、自分が老境にあって、おじいちゃんのことをどういう心境で書かれたのかなと思うと、また泣けてきます。汚い言葉を使うけれども愛情深い人で、短い言葉や行動の中におばあちゃんへの愛情があふれていますね。病院を抜け出して島にわたる際におばあちゃんの姿を見たり、おばあちゃんの腰かけていた椅子に座って窓の外を眺めたり、と不在の人を見る、またその人の見ていたものを見ようとするという行為が、不在の人を思う深さを直接的な言葉でなく語っているところに、ウルフ・スタルクのすごさを感じました。それから、ウルフ少年の嘘も、自分の苦しまぎれの保身とか自分勝手とかではなく、おじいちゃんを楽しませるためで、自分の力で考え、アイディアで難局を切り抜けていくという、この物語に代表されるような、西欧の活力ある子ども像は大変に魅力的ですし、そういう物語が日本のお話でも描かれていくといいなと思いました。

さららん:キティ・クローザーが日本に来たとき、お話ししたことがあるんです。そのとき、日本で何をしたいですか? ときいたら、島に渡りたいと言ってました。このスタルクの本の中に出てくる多島海の風景は、ベルギーとスウェーデンの両方を行き来して育ったキティの原風景でもあるんだ、と思いました。

ニャニャンガ:原書の表紙では、おじいちゃんの足元にタイトルが入っていますが、邦訳では上に移動していますね。空の部分が原書の倍くらいになっていますが、どうやってつけ足したのかなと思いました。

ハリネズミ:日本語版には帯がついているから、タイトルを上にしたのでしょうね。原画が大きかったのかもしれないし、コンピュータ処理で空の部分を伸ばしたのかもしれません。

(2021年10月の「子どもの本で言いたい放題」より)

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2021年9月 テーマ:音楽

日付 2021年09月14日
参加者 ネズミ、まめじか、アンヌ、雪割草、アカシア、西山、さららん、虎杖、ハル、コアラ、カピバラ、マリンゴ、ヒトデ、しじみ71個分
テーマ 音楽

読んだ本:

『いちご×ロック』表紙
『いちご×ロック 』
黒川裕子/著   講談社   2021.04

〈版元語録〉受験に失敗し、滑り止めの高校に通うことになった海野苺。そのショックで、友達も作らず、「ぼっち」な毎日を過ごしながらも、クラスのイケメン・シオンへの秘めた恋心をあたためていた。ところが、そんな想いもあっけなくバレ、あえなく撃沈。傷心の苺に追い打ちをかけるように、父親がとんでもない事件を引き起こし、警察のやっかいになることに……。お先真っ暗の苺は、江戸川河川敷で謎の集団の奇妙なパフォーマンスに遭遇する。仙人のような大男、学校1の問題児・笠間緑、そして苺を振ったシオン! 3人が繰り広げるのは……エアー・ギターだった!


『わたしが鳥になる日』表紙
『わたしが鳥になる日 』
サンディ・スターク-マギニス/作 千葉茂樹/訳   小学館   2021.03
EXTRAORDINARY BIRDS by Sandy Stark-McGinnis, 2019
〈版元語録〉主人公の少女デセンバーは、鳥が大好きで『鳥類完全ガイド』を丸暗記している。そして、自分も鳥で、背中から翼が生えてくると信じていた。ある日、動物保護センターで傷ついたノスリが自力で飛ぶ訓練をすることになる。 空を飛びたいと願う11歳の少女の悲しくも希望に満ちた感動物語。

(さらに…)

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『わたしが鳥になる日』表紙

わたしが鳥になる日

ヒトデ:物語のカギとなるビートルズの曲や、ロバート・フロストの詩など、モチーフの入れ方が、とても巧みだなと思って読みました。嫌味なく物語にはまっているというか。こういうのが読めるから、やっぱり翻訳文学っていいなと思いました。「鳥」というモチーフも新鮮でしたし、物語にしっかりハマっていてよかったです。

雪割草:すてきな作品だと思いました。「エリナー・リグビー」がテーマ曲として描かれていますが、知らなかったので調べて聴きました。それで、登校時にエリナーが歌っているこの曲が、悲しい歌詞とメロディーだったことを知り、エリナーのキャラクターをより深く味わうことができました。あとがきにもあるように文章は詩的で、また色でさまざまに表現するところも好きでした。主人公は、自分は鳥だと思っていて、鳥になれば自由になれるのだと、自分の物語(日記)を持ち歩いていますが、ミミズを食べるシーンなどはやりすぎではないか、読者はついていけないのではないかと思いました。ただ、それだけ主人公の傷も深いのだとも思いました。そして、エリナーは献身的で素晴らしい人物だと思いましたが、素晴らしすぎるのではないかと思いました。

カピバラ:デセンバーには、一つ一つの物事がどう見えているのかを、時に詩的な表現を使ってていねいに綴っているのがよかったです。ただストーリーを追うのではなく、一人の少女のものの見方や感受性を共に味わう、といった読書の楽しみがありました。またすべての事柄を鳥の生態や習性と結びつけて考えるのが新鮮でおもしろかったです。オリジナリティがありますね。周りの人々を鳥になぞらえて表現するのもデセンバーならではの見方でおもしろいです。いろいろな辛い体験をしているので、最初はもっと年齢が上の子のような印象でしたが、まだ11歳なんですよね。11歳の身に余るつらい体験を重ねてきたから、自分は鳥なんだと思い込もうとするところが痛ましいです。やっと出会ったエリナーの押しつけがましくない愛情や、シェリルリンのストレートな友情に救われるところはほっとします。あと、意外にソーシャルワーカーのエイドリアンが最後に涙するところは、感動しちゃいました。ずっと見守ってきたんですものね。エリナーが傷ついた鳥を保護して自然に帰す仕事をしているのが象徴的に描かれていると思いました。

さららん:もうすぐ鳥になれると信じ、そのたびに木から落ちて傷つくデセンバー。妄想とか精神障害ではなく、想像を現実とごっちゃにできる、ぎりぎりの年齢として11歳の主人公を設定したのは、正解だったと思います。何が起きているのか見当もつかぬまま読み始めましたが、カウンセラーとの会話を通して、デセンバーが、自分の行動が人から変だと思われることをちゃんと理解している子だと知りました。デセンバーは自分の行動や感じ方を説明するとき、様々な鳥の例を具体的にあげます。その表現がおもしろく、独特な言葉の用法で、ここにしかない世界が作られています。ブルー、ピンクなどの色彩が象徴的に使われ、音楽も聞こえてきました。里親エリナーとデセンバーの気持ちが通じ合うにつれ、エリナーへの共感が増し、飛ぶたびに傷つくデセンバーの姿に、もうこれ以上自傷行為は繰り返さないで!と願う気持ちになりました。大切な友人になるトランスジェンダーのシェリルリンの存在によって、現代に生きる子どもの物語としての厚さが増しています。デセンバーのために、なんとか居場所を探そうとするソーシャルワーカー、エイドリアンの描き方も好ましく、新鮮でした。

まめじか:デセンバーは聡明な面を見せる一方で、空を飛べると思っていたり、自分も剥製にされると思ったりするようなところもあり、そうしたアンバランスな内面がよく描かれていると思いました。ここから飛び立ちたい、自分の居場所を見つけたいという強い思いは、「ある場所に属している」というアカオノスリの学名に呼応し、また渡り鳥の帰巣本能にも重ねられています。餌のネズミをていねいに扱うエリナーを見て、ネズミの運命がわかっているから優しくするのか、自分のことも過去を知っているから優しくするのかと考える場面など、心の動きが繊細に表されています。校長室までデセンバーにつきそってきたシュリルリンが、「あなたはどうしてここにいるの?」と聞かれて、「心のささえになるためです」と答えるのですが、シュリルリンやエリナーやエイドリアンがデセンバーの心に寄り添う姿には胸が熱くなりました。

しじみ71個分:今回の選書係としてこの本を選んだきっかけは、図書館の書棚に並んでいるのを見て、表紙の装丁が素敵だなと思って手に取ったのでした。読んで本当に良かったと思います。前回読んだ『スーパー・ノヴァ』(ニコール・パンティルイーキス著 千葉茂樹訳 あすなろ書房)と内容は似ていて、家族がいなくて里親を転々とし、最後に家族を得るという点は共通しています。スーパー・ノヴァでは主人公は自閉症で、求めているのは最愛の姉でしたが、この本は失われた母親で、その母親が主人公を虐待して大怪我を負わせていなくなるというより厳しい内容でした。里親になるエリナーの名前の由来は、The BeatlesのEleanor Rigbyで、その歌の寂しい雰囲気が物語を通底していると思い、イメージが広がりました。とても切ない歌詞で、教会で結婚式でまかれる米を拾う老婆エリナー・リグビーをはじめ、すべての孤独な人々を歌っていますが、この寂しさを極めたような歌が物語のカラーになっていると思います。里親になるエリナーが娘を亡くし孤独を抱えた人であり、デセンバーも孤独で、孤独な人同士が探り合い、最後に寄り添うというイメージは美しいと思いました。デセンバーが鳥になって飛ぶことに取り憑かれているのも、そういうふうに思わざるを得ないほどに追い込まれた、11歳の体につまった悲しい思いであって、自分を虐待した人でも母と思って慕う姿は読んでいてもつらかったです。お母さんも連れ合いを亡くして精神的に不安定で、それゆえにネグレクトと虐待をしてしまった、ある意味支援の手の足りない人だったのも切ないです。文章が詩的で美しく、言葉からのイメージをたくさん受け取れた物語でした。

アンヌ:最初は本当に「鳥になる」物語かと思っていたのですが、これは飛ぶ話ではなく繰り返し木から落ちる話で、何度も自殺未遂を見させられているようで、読み進めるのが苦痛でした。種しか食べない偏食を自分に課しているデセンバーに、アイスクリームを山盛り食べさせてくれるエイドリアンとか、ゆったり構えて無理強いをしないエリナーとか、まっすぐに友情を示してくれるシェルリリンとか、良い人たちとの出会いがあるけれど、その裏に母親の虐待の事実が少しずつ現れたり、学校のいじめが描かれたりする。その構成は本当に見事だと思うけれど、読んでいてつらいものがあって、後半を読み進めながら、ここでもう一押し誤解があってそれから木から落ちるのかと思うと、つらいなあ、長すぎるなと感じました。詩的表現が心を打つ場面も多いので優れた作品だとは思いますが、読み進められる年齢層はどれくらいなのでしょうか?

アカシア:今日読んだ作品で比べると『いちご×ロック』(黒川裕子著 講談社)が図式的だったのに対して、これは個性をきちんと描き出していると思いました。文学って、こういうもんなんじゃないかな、と。読んでいてたしかにつらいですが、こういう子どもがいるというのは確かなので読んで心を寄せたいと、私は思います。木に登って飛ぼうとするのはこの子の無意識の自傷行為だと思ったし、最後で自分は人間だと何度も自分に言い聞かせているところで、それだけこの子の心の傷が深かったのだと思い至りました。欲を言うと、新人ならではの部分もなきにしもあらずです。たとえば冒頭はどういう状況かつかみにくいし、p54で「剥製にされるんじゃないか」と主人公が本気で思うところで、私はついていけなくて、最初に読んだ時はそこでやめてしまいました。今回もう一度読んだら、作品の深さもわかってきたのですが。それと、里親のエリナーが出来すぎですよね。つらい子どもを受け容れるには、こんなにすばらしい人じゃないとだめなのかと思ってしまいます。

虎杖:同じ訳者による『スーパー・ノヴァ』に設定が良く似てるなと私も思いました。千葉茂樹さん、同じ時期に訳されたのなら大変だったろうなと思ったり、さすがだなと感心したり……。ただ、『スーパー・ノヴァ』の主人公は、お姉ちゃんにとても愛されていたという経験があるのに、この作品のデセンバーにはそれがない。愛されなかったことをナシにしようとおそらく無意識に思いつめたことが、「自分は鳥になる」という思いにつながる。そこのところがなんとも悲惨ですね。作者のあとがきには、実際にいろいろな人に話を聞いたと書いてありますが、このデセンバーもモデルがいたのかなと推察しました。それにしても、色彩にあふれた詩のような文章が素晴らしい。パンプキン畑の描写が特に美しい映画を見ているようで印象に残りました。ただ、エリナーはちょっと出来すぎというか、作りすぎというか……。『おやすみなさい、トムさん』(ミシェル・マゴリアン著 中村妙子訳 評論社)のように、守られている子どもと守っている人が、お互いに影響しあいながら変わっていく様子が見たかったなという気がしました。『スーパー・ノヴァ』の表紙も好きだったけど、この本の表紙もすてきですね!

ハル:私も雪割草さんと同じで、「エリナー・リグビー」がタイトルでピンとこず、読み終わってから調べて「ああこれかぁ!」と思ったので、先に調べてから続きを読めばよかったです。これは失敗でした。作品全体としては、実はちょっとトラウマになりそうなくらい陰鬱な部分もある作品ですよね。たとえば、いじめっ子に追い詰められてミミズを食べる場面とか、繰り返し木から飛び降りる場面とか。それでも、構成力や表現力、人物の魅力で、ぐっと物語に引き込む力をもった作品で、読後はいいお話を読めたという深い満足感がありました。YAとしては、やや読解力を必要とするタイプの作品かなぁと思います。

ネズミ:いい物語を読んだという満足感がありました。心にしみるお話です。鳥がこの子にとっての鎧であり、逃げ場だったのだろうなと思って、胸が痛くなりました。表現のひとつひとつがとても繊細だと思いました。「わたし」が「わたしたち」に変化していくことに象徴されているものがあったり。11歳にしては、全体に大人っぽい感じがしますが、p143からの魔法の杖で遊ぶ場面は、シェリルリンといることから子どもっぽい部分が引き出されているのか、とても印象的でした。タイトルは感じがいいですが、ミスリードしないかなとも思いました。「鳥になる」のが目標なのかと思って読み進めてしまったのですが、そうではなかったので。原題のExtraordinary Birdsというのは、訳すのが難しそうですね。作者の〈謝辞〉に「中級学年むきの作品を書くべき」と言われたとありますが、日本の子どもが読むなら、この作品は中学年より高学年ですよね。

アカシア:日本ではページ数が多いだけで、高学年向けとかYAになってしまうのではないでしょうか。

カピバラ:翻訳もののほうが、設定になじみが薄い分、グレードが高くなるのかもしれませんね。

マリンゴ: 非常に魅力的な本でした。デセンバーが、エリナーのもとに来て、信頼関係を結んでいく物語なのだろうなと、序盤で容易に想像つくのですが、それでも、複数の不安定な要素があって、どういうふうに着地するのか、と引き込まれました。冒頭だけは読みづらくて、数ページ読んでから、人間じゃなくて鳥が主人公の物語なのかな、といったん最初まで戻って読み直してしまいました(笑)。鳥にまつわるさまざまな蘊蓄が随所にあふれていておもしろく、また鳥の一生と人間の人生を重ねている部分なども、説得力があってよかったです。特にp130に出てくるシャカイハタオリという、世界で一番大きな巣をつくる鳥が気になって、調べました。なぜかミサワホームのホームページにくわしい情報が出ていましたよ。デセンバーは、8歳か9歳くらいの幼さを見せるときと、12歳以上の知性を見せるときと、ばらつきがありました。それは、デセンバーのPTSDの深刻さを意図的に見せているのだろうな、というふうに受け止めました。敢えて言えば、エリナーの人柄があまりに優れていて忍耐強いので、デセンバーのような子の信頼を得るためには、里親はここまで頑張らなければならないのか、とちょっとしんどさもありました。なお細かいことですが、「リーキ」という食べ物が登場しますけれど、この呼び方はあまり日本ではなじみがない気がします。ニラネギ、もしくはポロネギと訳してもらったほうが、イメージが湧きやすいかなと思いました。

西山:最初は読みにくかったですね。だんだん加速していって後半は途中で止められなかったのですが、それは、デセンバーに何が起こったのか、その不幸な過去を知りたいという興味で読み進めていて、我ながら、それはちょっといやしい読み方だなと思っています。読みにくかったのは、例えば、鳥が好きなのだったら、ヒメコンドルが不細工だと言ったりする(p38)のかなとか、デセンバーという少女の像が一本に結べず、ついていきにくかったからかと思います。過去の過酷な体験が原因で、彼女の感情面の振幅が激しいのかとも理解しますが、それが読みにくさになっていたかなと。ソーシャルワーカーのエイドリアンが好きでした。デセンバーが彼の心遣いをしっかり受け取っているから、それが読み手に伝わったのだと思います。

(2021年9月の「子どもの本で言いたい放題」より)

 

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『いちご×ロック』表紙

いちご×ロック

ネズミ:非常に勢いのある作品だなと思いました。思った高校に行けなかったこと、母との関係、父親の事件への戸惑い、よくできた姉への劣等感など、いろんな要素がからんでいます。高校生のさまざまな要素を盛り込もうとしているんだなと好感を持ちました。ただ、私の好みの問題かもしれませんが、その勢いについていけない部分もあったかな。特に、ひっかかったのは父親の事件をめぐるやりとりは、すっきり解消せず、消化不良感が残りました。

虎杖:エアギターというのは、テレビでコンテストの風景を見たことがあったけど詳しくは知らなかったので、おもしろいなと思いました。楽器を弾けなくてもできるというのがいいですね。でも、人前で演奏するには、楽器を弾くより勇気がいるかも。濱野京子作『フュージョン』(講談社)を読んだときも、ダブルダッチとか縄跳びの技を知ることができておもしろかったのを思いだしました。文章は軽くて、すらすら読めるし、登場人物もマンガチックだから、中学生は手に取りやすいかな(高校生となると、疑問だけど)。ひっかかったのは、主人公の苺の設定で、受験の失敗で暗くなってる優等生が、たとえモノローグでも、こんな風に話すかなということ。それに、成績が251人中25番で落ち込んでいるらしいけど、ここまで読んだら251人中224人の読者はカチンときて読みたくなくなるかも。お父さんが痴漢で捕まったという事件は、十代の子にとっては大変なことだと思うけど、結局やってたのか、どうなのか曖昧なまま終わりますよね。これって、絶対やってるよね。冤罪だったら、最初から猛烈に怒るだろうし、闘おうとするだろうから。作者も、そのへんのところは気になっているとみえて「このひとは、嘘をいっているかもしれない」なんて主人公に言わせている。いっそのこと、本当にやったという設定にすればおもしろい展開になったのかもしれないのに。変な言い方かもしれないけれど、作者の覚悟が足りないなって気がしました。当然いるだろう被害者(あるいは、被害を訴えた人)のことも、この主人公はまったく考えていないんだよね。実際に痴漢の被害にあった中高生が読んだら、カチンどころじゃなくて猛烈に怒るだろうなと思いました。

アカシア:私はあまりおもしろく読めませんでした。シオンの父親は韓国人なのですが、その設定がうまく生かされていませんね。ただのどうしようもない父親というだけで、それならわざわざこういう設定にする必要がなかったのでは。父親が痴漢を疑われるのですが、もし無実なら最初から家族にはっきりそう言うだろうと私は思ったんですね。最後の娘との和解の場面になって初めて言うなんて、リアリティがないように思います。また娘のほうも高一でそう父親と親しくなければ、父親が痴漢の疑いをかけられたくらいで、これまでとまったく違う人間になろうとするくらいまでぶっ飛ぶこともないように思います。いろんな意味で、文学というよりマンガのストーリーじゃないでしょうか。またエアギターやエアバンドについては、おもしろさを文章で伝えるのは難しいかもしれないですが、この作品からは私はおもしろさを感じられませんでした。出てくるキャラクターも図式的で、魅力を感じるところまで行きませんでした。

アンヌ:一度読んだだけでは、最後がどうなっているのか分からなくて読み返しました。一つ一つの場面では完結しているのだけれど、物語として納得がいくような流れ方をしていないなと思いました。ロクは魅力的だけれど、たぶん難病ものなんだろうなと予感がしてしまって、もう少し別の設定はないのかなと思います。実は裏表紙にUGの絵があったので、最後には出て来てかっこよく弾いてくれると期待していたので、出番がなくて残念でした。

コアラ:おもしろく読みました。ただ、最後のページが、何を言っているか全然分かりませんでした。最後のページの4行目、「さあ、わたしの十五秒はどこにある?」って書いてあるのですが、〈EIGHTY-FOUR〉のパフォーマンスを力いっぱいやり終えたばかりでしょう。「どこにある?」って、これから探すように書かれていて意味が分からない。最後がうまく締めくくれたら、もっと後味がよかったのにと残念でした。全体としては、表現はいろいろおもしろいと思うところがあって、表現に引っ張られて読んだ感じです。エアギターを取り上げているのも、おもしろいと思いました。高校生ならリアルギターもできる年齢ですが、あえてリアルではなくエアギターというところで、リアルな世界での姿とのギャップや、リアルでは出しづらい反抗心とかを描きたかったのかな、とも思いましたし、人目を気にしないでやりたいことをやってみろ、とか、そういうことを描きたかったのかなと思いました。シオンくんが最後にエアドラムを叩く場面は、おお、やるなあ、と思いました。エアだから表現できることって確かにありそうだなという気がします。読み終わってから、YouTubeでTHE STRYPESの〈EIGHTY-FOUR〉を聴いたんですが、この曲を知っていれば、この物語に流れるエネルギーみたいなものをもっと感じられたかなと思います。エアであれ、ロックをやる若者を描いているんですが、文体としてはロック感がなくて、優等生的という感じを受けました。そこが作品としては残念かなと思います。

まめじか:ラストの「わたしの十五秒はどこにある」は、今弾いた曲ではなく、人生の十五秒という意味では? 音楽というのは本来、ほとぼしるような感情の発露なのだということが、エアギターというものに表されていると思いました。自分の思いをぶつけて、自由に表現するというか。一度失敗したらぜんぶだめなのかと、ロクは苺に言うのですが、それは苺が志望校に落ちたことやシオンにふられたこと、父親の痴漢疑惑やUGのアルコール依存症などにつながります。価値観を押しつけ、決めつけてくる大人に対し、苺が自分にとっての真実を見つける物語ですね。ロクが病弱だという設定は、吉本ばななの『TUGUMI』(中央公論社)に重なります。病弱だけど強い魂をもった少女に男の子が思いを寄せ、それを主人公が見守る構図だなあと。

カピバラ:いろんなモヤモヤをかかえた高校生がエアバンドに出会って解放されていく感じがよかったし、高校生らしい比喩とか心の中での突っこみがおもしろいと思いました。でもこの人の描写があまりにも説明的で、新しい人物が出てくるたびに、どういう髪型でどういう服でと、あたかもマンガの絵を上から順に説明するように書かれているんですよね。新しい場所に行くたびに、場所の説明も事細かに書いてあって、ちょっと疲れると思いました。それだったらマンガを読んだほうがいいんじゃないかな。文章を読んでいろいろ想像するような楽しみっていうのがあまりないのが残念です。見た目だけを解説しなくても、雰囲気や性格は伝わると思います。それが文学なので。

雪割草:読みやすかったです。外国籍の背景やいろんな家族のかたちをとり入れていたり、消しゴムのかすに自分を例えている主人公が、エアギターを通して自分を出していく変化を描いていたりするのはいいと思いました。ただ、恋愛模様の描き方や登場人物の設定が表面的なところなど、コミックチックだと感じました。例えば、UG(ロクとシオンの祖父)はヒッピーっぽく、一風変わっていておもしろそうな人物ですが、ダメな感じにしか描けていないのが残念でした。裏表紙の絵の描かれ方も風格がなくてびっくりしました。人生の先輩の年齢の人なので、もっと深みがあって学べるところがあるはずなのに、もったいないと思いました。

ヒトデ:「音楽系」の児童文学が好きなので、今回、推薦させていただきました。「音楽」「バンド」を書いたものではあるんですけど、「エア」というのが、個人的におもしろかったです。「エア」だからこそ、現実の部分をこえて、表現することができる。その着眼点は、この作者ならではのものだと思いました。キャラクターの造形など、マンガ的ではあるんですが、こういった形だからこそ読める読者もいるんじゃないかなと。好みもあるとは思うのですが、ハマる読者はいると思います。私はハマりました(笑)。勢いが楽しいです。

ハル:最後まで一気に突っ走っていくような、疾走感が心地よい作品で、いいねぇ、青春だねぇと、勢いよく読みました。とか言いながら、対象読者よりもだいぶ歳上の私にしたら、途中「ちょっと長い……」と思ったのも正直なところです。でも、青春ってこういうことなのかもねと思います。傍から見たらダサくて全然いけてなくても、何かに熱くなれた時間が、いつか大きな財産になると思うので、読者が何かしら影響を受けて、何かに夢中になってみたい!と思えたら、それはいいことなんじゃないかなと思いました。苺のママと流歌さんがすぐに友達になっているのは意外でしたけど。

しじみ71個分:私は、ああ、青春の爆発だなと思って、その点は好もしく思って読みました。心の中に言い出せないモヤモヤがいっぱい詰まってて、いつも怒りか何かわからないものを抱えていたなぁ、とか自分の若い頃が思い出されました(笑)。制服に口紅でバツを書くなんていう気持ちはとてもよく分かりましたね。苺は受験に失敗したりとか、父親が痴漢の容疑者だったりとか、事件はあったけど割と普通で、ほかの人物は父親の国籍が違うとか、病気を抱えてるとか、それなりの背景があるのに深掘りされないので、苺の視点から見た普通の子の鬱屈は分かるんだけれども、その対比となる部分がない感じがします。エアギターもおもしろいとは思ったんですけど、もうちょっと魅力的にエアギターを書いてほしかったなぁと思いました。そこまでエアギターに入り込む必然性、どうしてエアギターじゃなきゃだめなのか、というところまでは感じませんでした。『拝啓パンクスノットデッドさま』(石川宏千花、くもん出版)は、ネグレクト、ヤングケアラーといった重いテーマを背景にしつつ、パンクへの愛がこれでもかというくらいに描かれていて、なぜパンクなのか、パンクでなければダメなんだという点がとても心にしみて、ぐっと入り込めたんですね。主人公が好きなものは書き込んである方が気持ちに寄り添えるし、設定に入り込めるなと感じました。それと、UGの造形がちょっと物足りないかなと。千葉にはジャガーさんという伝説のヘビメタロッカーがいて、読みながらそういうロックなおじいさんを想像していたんですけど、わりとすぐにUGがエアギターを教えてくれて軽い感じがしたし、ロッカーというよりわがままなおじいさんにしか見えなくて、物足りなさはありました。あとで、The Strypes見ましたが、ちょっと物語のエアギターと結びつかなかったな…残念…。

西山:率直に言ってしまうと、わたしはあんまり好きじゃなかったです。まず、苺が高校生に思えなくて。もちろん、1年生だし、16歳とあるので、実際のところはそんなものかもしれませんが……子どもの本の世界でこんなふうな造形は中学生として読み慣れてきたので違和感があるのかもしれませんが……。作者は、存在しないギターを弾いて見せるエアギターを、映像ではなく言葉で描写するという、「見えない」を二重にして書くこと自体がチャレンジというか、おもしろかったのではないかと勝手に思っています。でも、読者としてそれを楽しむという風にはならなかったわけです。ちょこちょこひっかかりが多くて……。たとえばp76の最後の行で、シオンくんのお父さんが離婚して出ていったことを「クラスメートだけど、そんな話きいたことなかった」とあるけれど、そりゃそうでしょと思います。どんな親しい子だってめったにそんな話はしないし、苺はクラスの中で壁を作って閉じこもっているし、なおのことそうでしょうと。お姉ちゃんに対して屈折していて内心反発していて、心中「夏みかん」と呼んでいるというのもピンとこない。憂さを晴らすためなら違う言葉じゃないかなとか。ラストは説教臭く感じてしまいました。例えば、カラコン外して「素のままの自分」という感覚は大人好みの気がしたのでした。

マリンゴ: 黒川さんの本は、取り上げられる素材がバラエティに富んでいて、次は何かと興味深く読んでいます。『奏のフォルテ』(講談社)はクラシック音楽でしたが、今回はロックですね。いろんな要素が詰め込まれていて、高校生の主人公が混乱してもがきながら、どうにか前へ進んでいく様子が描かれています。いいなと思ったフレーズはp184「百まで生きるより、ずっとかっけー十五秒もあるよ」です。ただ、ストーリーとディテールにそれぞれ気になるところがありました。まずストーリーについてです。父が「自分はやってない」と最後の最後で語るのですが、本当にやってなかったら、引きこもったりとか帰宅したときに謝ったりだとか、そういう言動にならないのではないでしょうか。これは主人公と父が理解し合うシーンを最後に持ってきたいから、敢えて事実を伏せて引っ張っているように思えるんですけども、そのせいで逆にリアリティから離れた気がします。また、ディテールですが、都会の女子高生の一人称のわりに、そういう子のボキャブラリーとは思えない比喩が多くて気になりました。たとえば、p10の「水田の稲の高さくらいは跳んだだろう」とありますが、都会暮らしの女子高生がぱっと思いつく言葉として、「水田の稲」は違和感がありました。もう一つ挙げるなら、p28の「おでんの鮮度でたとえるなら、三日目夕方のはんぺんだ」。16歳の主人公がおでんを食べるとすると、主に家庭でだと思うのですが、お母さんはp104で「潔癖性の気のある」と書かれていて、おでんを三日出すキャラクターとは違いそうです。そうすると、三日目夕方のはんぺんをどこで見たのかな、と。見たことないのであれば、大人ならともかく女子高生が「イメージ」だけでこういう比喩を出すのは少し不自然かなと思いました。三人称で書かれていれば、さらりと読めた気がします。

(2021年9月の「子どもの本で言いたい放題」より)

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子どもの本に見る新しい家族⑫ もっと多様性を!

日本児童図書出版協会で出している月刊誌「こどもの本」に、2017年の5月号から2018年の4月号まで「子どもの本に見る新しい家族」というタイトルで、従来型ではない多様な家族を描いた子どもの本について連載していました。もう一度手を入れてから自分のウェブサイトに掲載しようと思ったのですが、コロナ禍で資料が置いてある東京にも戻れず、手を入れる時間もないので、とりあえず誤植や舌足らずのところだけを訂正し、基本的にはそのままこちらに転載します。


子どもの本に見る新しい家族⑫

もっと多様性を!

これまで11回にわたって、子どもの本に新しい家族がどう描かれてきたかをみてきた。子どもにとって最も身近な環境である家族・家庭を通して、子どもの本をとらえ直してみたいと思ったからである。日本ではまだ家族というと血のつながりが前提だと思い込んでいる人が多い。そして父親はたくましく外で働き、母親はパートくらいはするにせよ家で家事や育児にいそしみ、子どもは思春期には多少の揺れがあったとしても最終的にはしかるべき企業に職を得る─それが安泰な暮らしの基盤であり、家族の理想像だと考えている人もたくさんいる。そこからは、親の離婚再婚は身勝手だと責める目や、単親家庭や里子や養子は特殊な、かわいそうな存在だという視点も生まれる。

子どもの本の編集者の中にも、そうした従来型の家族の理想像を提示することが肝要だと考えたり、日本の平均的な家庭・家族の有り様を描くのが大事だと考えている人が少なからずいる。そこからはずれた状況やマイノリティの人々を描いた本は読んでもらえないし売れないと思っていたりもする。

先日ある若い絵本作家から、子どもがたくさんいる絵を描いたとき、左利きの子どもを一人混ぜておいたら、左利きは描かないでほしいと編集者から言われたという話を聞いた。これは極瑞な例だとしても、そういう風土の中では、ただ今現在自分がいる小さな(いじましい)社会の中でのマジョリティに沿った価値観しか提示されない。女性の役割にしても、一時は編集者たちが討議を重ねて、ジェンダー的にずいぶん考慮された絵本も出版されていたが、最近はそれも少ない。

 

マイノリティの提示にも意味がある

しかし私は、子どもの本がマイノリティを提示していったり、読者がマイノリティの視点を学んでいったりすることも大事だと考えている。そうしないと、子ども社会のなかでも同調圧力がさらに強くなり、なんらかの点で自分は多数とはちょっと違うと思っている子どもたちが「自分は自分のままでもいい」と思えなくなってしまうだろう。ひいては、他者が何を考え、何を感じているのかを想像する力も弱くなってしまうだろう。

日本の子どもの自己肯定感は、諸外国と比べてきわめて低いという。(古荘純一著『日本の子どもの自尊感情はなぜ低いのか』光文社新書)。平昌オリンピックに出場した選手たちからは「自分を信じて」という言葉がよく出たが、自分を信じることができない子どもたちが日本にはたくさんいる。日本ではまた、場の「空気を読んで」、「みんなと合わせる」ことも奨励される。そういう考え方に沿えば、左利きや、LCBTQや、単親家庭をはじめとするマイノリティは特殊なのであって、「みんなと合わせる」ことができない人たちだということになってしまう。

でも、実際は子どもたちの多くが、自分はマジョリティとは違うところがある、とか、どこかで無理をしないとみんなに合わせられない、と感じているのではないだろうか。それなのに、マジョリティに合わせることをよしとする画一的な考え方を親や教師が事あるごとに提示し、本でも見せていたら、子どもの自尊感情が低いままになってしまうのも当然ではないだろうか。

 

◆日本と欧米の作品を比べてみると

ヴィンス・ヴォーター『ペーパーボーイ』表紙家族や家庭にしても、これまで見てきたようにアメリカやイギリスでは、ずいぶん前から多様な家庭が作品の中に登場していたのに対して、日本の作品の多くは、ごく最近までマジョリティを取り上げることを当然と考え、いわゆる問題小説の中にしかマイノリティは登場してこなかった。

ついでに言うと、それは家族像ばかりではない。ほかのマイノリティにしても同じである。

一例をあげると、アメリカの作家ヴィンス・ヴォーターの『ペーパーボーイ』(原著 2013/原田勝訳 岩波書店 2016)と、椎野直弥著『僕は上手にしゃべれない』は、どちらも吃音をもつ少年を主人公にした中学生向きのフィクション『僕は上手にしゃべれない』表紙で、どちらの著者も自分が吃音で悩んだ体験をもっている。しかし、『ペーパーボーイ』においては、吃音は作品を構成するいくつかの要素の一つにすぎない。一方『僕は上手にしゃべれない』の方は、主人公の吃音の克服が最大のテーマとなっている。日本のこの作品では主人公が「他者と違う」点が前面に出ているが、アメリカの『ベーパーボーイ』では、他者と違っているのは主人公だけではない。じつに個性的で多様な人物たちが主人公を取り巻いている。

日本の児童文学作家は、マイノリティを取り上げるときはそれなりの覚悟をして、それをメインテーマにして作品を書くことが多いのに対し、欧米では、マイノリティは多様な登場人物の一人として、さりげなく登場してくることも多い。

『ジェリーフィッシュ・ノート』表紙たとえばアメリカの件家アリ・ベンジャミンが書いた『ジェリーフィッシュ・ノート』(原著 2015/田中奈津子訳 講談社 2017)の主人公スージーの兄アーロンはゲイだが、「兄さんのボーイフレンドのロッコ」という言葉がちらっと出てくるだけなので、気づかずにスルーしてしまう読者もいるだろう。また、スウェーデンの作家アンナレーナ・ヘードマンが書いた『のんびり村は大きわぎ!』(原著 2010/菱木晃子訳 徳間書店 2010)の主人公アッベ(10歳)は、生後3か月のときスリランカからスウェーデンに養女としてやってきた。その後養親が離婚してアッベは養母と暮らしているのだが、この物語がメインに描いているのはそこではなく、子どもたちが村の人たちをまきこんでギネス世界記録に挑戦する様子である。養女であったり、親が離婚していたりする部分は、物語の背景として登場するだけだ。

アンナレーナ・ヘードマン『のんびり村は大さわぎ!』表紙といってもスウェーデンの子どもの本が、すべてそのようなあっけらかんとしたトーンで描かれているわけではない。この連載の3回目でも触れた絵本『パパはジョニーっていうんだ』(原著 2002/ボー・R.ホルムベルイ文 エヴァ・エリクソン絵 菱木晃子訳 BL出版 2004)は、親が離婚して母と二人暮らしの少年が久しぶりに父親と会う話だが、一緒に暮らせない父と息子のやるせなさを漂わせていた。

またスウェーデンの第一線で活躍していた作家ウルフ・スタルク(昨年6月に72歳で死去)の『シロクマたちのダンス』(原著 1986/菱木晃子訳 佑学社 1994、偕成社 1996)は、かなリシリアスなトーンで、別居した両親の間で揺れ動きながら自分を見いだしていく少年の気持ちを描いていた。スタルクが、少し前の作品(たとえばアメリカのジュディ・ブルームが書いた『カレンの日記』や、ドイツのベーター・ヘルトリングが書いた『屋根にのるレーナ』)と違って、離婚する親に非難がましい目を向けていないことにも注目しておきたい。

 

◆それぞれのお国事情はあるけれど

もちろん子どもの本も、それぞれの国の事情を反映している。英米にしろスウェーデンにしろ、親の離婚や再婚、単親家庭、養子、里子などは日本と比べてずっと多い。だからそうした多様な家庭が作品に描かれるという側面ももちろんある。しかし 英米や北欧の絵本や児童文学が「多様性」を重視するのは、それだけが理由だとも思えない。多数派からの距離や違和感を感じている子どもたちに、多様な価値観や多様な存在のあり方を提示することによって「少数派でもだいじょうぶだよ。どんな状況のどんな子どもだって生きていてほしい」というメッセージを送っているのではないだろうか。

私の孫の一人が通っている幼稚園では、母の日にはお母さんの絵を、父の日にはお父さんの絵を子どもに描かせる。「お母さんのいない子は、おばあさんの絵でもおばさんの絵でもいい」などの配慮もあるらしいのだが、配慮があったとしても、単親家庭や養護施設で幕らしている子は疎外感を持つことだろう。といっても、今は保育国、幼稚園、小学校の多くは、家庭の多様化をかんがみて、母の日や父の日の行事をしなくなっているらしいが、差し障りがあるからやらない、というだけでいいのか、という疑問も感じる。

先日目にしたBBCニュースでは、母の日、父の日ではなく「家族ウィーク」を設けたイギリスのある幼稚園が紹介されていた。子どもたちがそれぞれ固有の自分の家族を絵に描き、どんな時に家族といて楽しいと思うか、うれしいと思うかを話すというものらしい。先生たちは、最初から多様な家族像をしっかり認めたうえで、子どもたちが「これも家族」「あれも家族」「それも家族」と自然に思えてくるように指導していた。

 

◆子どもは新たな未来をつくる存在

子どもは新たな未来をつくる存在だ。教師や親や権力者の言いなりになるより、自分の心で感じ、自分の頭で考えて、今よりいい未来をつくっていってほしい。

どんな子どもの本を書くか、出すかは、そこにつながっている。子どもの本にかかわる人たちは、世界は動いていることを認識し、どんな社会に子どもをおいたらいいのか、ということも考えてみてほしい。

家族ひとつを考えても、血のつながりとか、従来型の家族像にばかりとらわれてしまうと、新たな未来にはつながらない。昨年厚生労働省は「新しい社会的養育ビジョン」を打ち出して、里親や養親の数を増やそうとしている。それについても、子どもの本の作り手は考えてみてほしい。そして、子どもたちが未来を考えるときに参照できるような多様な価値観や多様な選択肢を、子どもの本でも示しておいてほしい。

(日本児童図書出版協会「こどもの本」2018年4月号掲載)

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子どもの本に見る新しい家族⑪ 「外から来た子ども」を日本の児童文学はどう描いてきたか

日本児童図書出版協会で出している月刊誌「こどもの本」に、2017年の5月号から2018年の4月号まで「子どもの本に見る新しい家族」というタイトルで、従来型ではない多様な家族を描いた子どもの本について連載していました。もう一度手を入れてから自分のウェブサイトに掲載しようと思ったのですが、コロナ禍で資料が置いてある東京にも戻れず、手を入れる時間もないので、とりあえず誤植や舌足らずのところだけを訂正し、基本的にはそのままこちらに転載します。


子どもの本に見る新しい家族⑪

「外から来た子ども」を日本の児童文学はどう描いてきたか

日本では、まだまだ血縁が大事、実の親がいちばんという神話が威力を発揮している。そのせいか養子や里子はこれまで日本の児童文学にそう多くは登場してこなかった。このテーマはまだ多くの日本の児童文学作家の視野には人ってきていないと言ってもいいのかもしれない。最近になってようやく、連載⑦でとりあげた戸森しるこの『十一月のマーブル』(講談社)のように、「外から来た子ども」がぽつぽつと描かれるようになってきてはいるが、養子や里子を正面からとりあげた、文学的にもすぐれた作品となると、まだまだ数は少ない。

 

◆親族が親代わりになって子どもを引き取る場合

『よるの美容院』表紙たとえば市川朔久子の『よるの美容院』(講談社 2012)では、ある事件をきっかけに声を失い、筆談でコミュニケーションをとる12歳のまゆ子が、美容院を経営する遠縁の「ナオコ先生」に預けられて、開店前の準備などを手伝っている。まゆ子の母親はまゆ子に愛情を抱いていないわけではないのだが、「こんなに一生懸命やってるのに、なにがいけないの。いったいなにが不満なの」とか「お母さんを困らせるためにわざとやってるんでしょ」などと口走ってしまう。おっとりゆったりかまえているナオコ先生とは逆のタイプとして描かれている。

講談社児童文学新人賞を受賞したこの作品では、ナオコ先生が、毎週月曜の夜、まゆ子の髪をあたたかくやさしい手でていねいに洗ってくれる場面が印象に残る。

まゆ子はゆったりと力を抜いて、ナオコ先生の指先に頭をあずける。
ナオコ先生の手は、とても温かい。ぽかぽかした指先できわられていると、かちんとかじかんで冷たくなっていた頭の皮が、ふわっととけていく。

頭皮だけではなく、かじかんでいたまゆ子の心までゆるゆるとほどけていく。まゆ子は半年たらずの滞在を経てやがて親のもとへ帰るので、養子や里子になったわけではない。しかし、実の親ではできないこともあるということをこの作品は見せてくれている。

岩瀬成子『春くんのいる家』表紙

岩瀬成子の『春くんのいる家』(文溪堂 2017)は、祖父母の家に身を寄せる二人の子どもを描いている。一人は、親が離婚して母と一緒にやってきた小学校4年生の日向であり、もう一人は、父親が病死し母親が再婚したあと、祖父が「たったひとりの跡取りなんだ。こっちにわたしてくれ」と言って養子にした中学2年生の春。日向と春はいとこ同士であるとはいえ、年齢も性別も違うのですぐに打ち解けるということにはならない。

陶器の店を経営している祖父は、「今からは、このみんなが斉木の家族だからね」と言うのだが、そう言われるだけですんなりと家族になれるわけでもない。そのあたりの日向や春の心の揺らぎを岩瀬はみごとに描写していく。

日本的だと思ったのは、日向が離婚の理由をたずねても、母親が語らない点だ。

パパとママがなぜ離婚することになったのか、わたしには、今もわからない。「どうしてなの?」と、わたしはママにたずねた。ママがわたしにはじめて「パバとはベつべつに暮らすことになったから、わたしと日向は、これからはおじいちゃんの家で暮らすのよ」といったとき。
ママは、「さあね、どうしてだろ」といった。そして大きい息をひとつついた。少しして、「そういうことになったのよ」といった。

欧米の親は、離婚の理由を子どもにも伝えることが多いが、今のところ同じような状況にある日本の親の大半が、日向の母親と同じような対応をするのではないだろうか。もしかしたら、この母親は自分でも明確に離婚理由を意識化してはいないのかもしれない。欧米人が、たいていは明確に意識化しないと大事な局面で次の一歩を踏み出すことができないのに対して、日本人は「なんとなく」の気持ちが積みかさなってある地点までたどりつくこともありそうだ。ただし、この母親は、現状をよく見ているらしく、春くんが子ネコを拾ってきて祖父が嫌な顔をして飼うのに反対していると、きっぱりと言う。

「ネコ、飼おう」と、いきなりママがいった。きっぱりした声だった。「うちは今、なんていうか、たいへんなときじゃないの。今までべつべつに生活していた人間がこうやってあつまって、なんとか家族になろうとしているのよ。つまり、たいへんなときであるわけよ。でしょう? この際だから、ね、ネコも飼いましょう。みんなでいっしょに家族になればいいんじゃないのかな」

その後、母親は涙ぐむのだが、母親がこの時言ってくれたとおり、子ネコの世話を通して日向と春の距離が近づき、こんな会話が出るようになる。

「この子、この家を好きになるかなあ?」
「きっとなるよ。日向ちゃんはどう? この家、好きになった?」
「うん。好きになったよ。だってしょうがないじゃん」と、わたしはいった。
「日向ちゃん、意外に大人だね」と、春くんはいった。
「春くんは?」
「ぼくも意外に大人だよ」と、春くんはいった。

そして日向は

階段をあがっていきながら、春くんがきてくれてよかったなあ、と思った。それからネコも。きてくれてよかつた。

と、そんなふうに思えるようになるのである。

欧米の作品のように、問題や葛藤がくっきり提示され、それが解決されて物語が終わるというわけではない。ただ、子どもの気持ちを内側から描いていく岩瀬は、日向の気持ちがリラックスしてきていることを次のように表現している。

なぜだか理由がはっきりわからないのにわらってしまうことってあるんだ、と思った。気もちの底のほうがゆるくなって、うれしいような、楽しみなような、おもしろいような、いろんな気もちがごちゃごちゃとまじりあっていて、それはうまく言葉ではいえないけれど、安心するような気もちだった。

 

◆特殊な状況での新しい家族

『岬のマヨイガ』表紙柏葉幸子が野間児童文芸賞を受賞した『岬のマヨイガ』(講談社 2015)では、震災をきっかけに、血のつながらない3人の女性が出会って一つの家族をつくろうとする。3人のうちの一人は、萌花という少女。両親を亡くして、これまで会ったこともない親戚にひきとられることになっているのだが、この子も、『よるの美容院』のまゆ子と同じように口がきけなくなっている。もう一人は、暴力をふるう夫から逃れて家を出て、萌花と同じ電中に乗り合わせていたゆりえ。この二人が、狐崎という駅で電車を確りた後に大地震と津波にあい、中学の体育館に避難する。そこで、出会ったのが不思議な老女キワさんだ。この作品には 「遠野物語」を思わせるようなカッパや妖怪も登場して、ファンタジーとリアリズムが融合した展開になっていくのだが、「家族」という視点から見てみると、まったく血縁関係にない3人が、たまたま出会って過去を清算し、名前も変えて家族をつくる姿が描かれているという意味で、おもしろい。最後にゆりえとキワさんは、こんなふうに言う。ひよりというのは、萌花の新しい名前である。

「私、逃げるのはやめました。夫ときちんと話し合って離婚します。ひよりの伯父さんも、どうなっているのかさがしだして、ひよりといっしょに暮らせるようにたのんでみます」(結になったゆりえの言葉)

「ひよりも結さんも 私の家族だ。ひよりが鳥舞を舞うところも見たい。ひよりが中学生になるところも、高校生や大学生になるところも、きれいな娘さんになるところも見たいね。ひよりや結さんが、狐崎をはなれたいと思う時まで、ここにいるよ」(キワさんの言葉)

 

ファンタジーにおける新しい家族

上橋菜穂子『鹿の王・上』表紙上橋菜穂子の「守り人」シリーズの主人公で女用心棒のバルサは、殺された父親カルナの親友ジグロに育てられ、短槍の達人ジグロからその術を学ぶ。ジグロは、バルサの命を守るために職も名誉も捨てて、養い子であるバルサが一人でも生きていけるよう、愛を持ちながらも厳しく仕込む。バルサは、ジグロの養女という設定になっている。

また、上橋の『鹿の王』の主人公ヴァンは、奴隷として働かされていたアカファ岩塩鉱から逃れた際、もう一人の生き残りだった幼女ユナを発見して、置いて行くことができずに一緒に連れていく。また、ヴァンの追跡を依頼されたサエは、逃亡奴隷の追跡をなりわいとするマルジの娘で、一度結婚したが出戻り、今は父親と同じ仕事をしている。このサエが、しだいにヴァンという存在にひかれていく様子も描かれている。最後は、黒狼熱が人々の町に広がらないように犬を連れてひとり森の奥へと消えて行ったヴァンを、サエとユナがトマ(オキの民)、智陀(移住民)と共に飛鹿に乗って迫いかけるという展開になっている。ヴァンとユナとサエが今後ひとつの家族を形成していくかどうかは描かれていないが、上橋はこう書いている。

オキの民と移住民の若者、沼地の民の娘とモルファの女は、家族のように寄り添って、深い森の奥へ消えていった。

血のつながらない、文化や風習も異なる者たちが一つの家族をつくろうとしているイメージが、頭の中にうかんできたのは、私だけだろうか。

(日本児童図書出版協会「こどもの本」2018年3月号掲載)

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子どもの本に見る新しい家族⑩ 「外から来た子ども」をイギリスの児童文学はどう描いてきたか

日本児童図書出版協会で出している月刊誌「こどもの本」に、2017年の5月号から2018年の4月号まで「子どもの本に見る新しい家族」というタイトルで、従来型ではない多様な家族を描いた子どもの本について連載していました。もう一度手を入れてから自分のウェブサイトに掲載しようと思ったのですが、コロナ禍で資料が置いてある東京にも戻れず、手を入れる時間もないので、とりあえず誤植や舌足らずのところだけを訂正し、基本的にはそのままこちらに転載します。


子どもの本に見る新しい家族⑩

「外から来た子ども」をイギリスの児童文学はどう描いてきたか

イギリスでは、親と一緒に暮らせない子どもは里親や養親の家庭で養育されることが望ましい、とされてはいたものの、最近は養護が必要な子どもの数が増加する一方で、里親や養親は不足していると言われている。そんな背景もあって、かなり早い時期から養子や里子が児童文学にも登場していた。

 

『アンモナイトの谷』の場合

『アンモナイトの谷』表紙バーリー・ドハティのYA小説『アンモナイトの谷』 (後に改題して『蛇の石 秘密の谷』 原著 1996/中川千尋訳 新潮社 1997)の主人公は、15歳のジェームズ。赤ちゃんのときに生母に置き去りにされ、今は養子として暮らしている。客観的に見るといい養親でも、思春期で反抗的になっているジェームズは、養父を必要以上に責めたり、養母にも「ほんとの息子じゃないからね」と言い放ったりする。そして、ある日、養親には内精で生母を捜す旅に出る。紆余曲折を経てジェームズはようやく生母に会えるのだが、その出会いは、想像していたのとは違っていた。生母とジェームズは、会話らしい会話をしない。ぎゅっと抱き合ったりもしない。生母は「幸せなの?」ときき、ジェームズがうなずくと「そう。よかった」と言うだけだ。戻っていく生母を見送る場面は、こう書かれている。

永遠に心に焼きつけておこうとするみたいに、その人は、じっとぼくを見た。その視線に、ぼくは耐えられなくなった。しゃがみこんでアンモナイトをスポーツバッグにしまい、そして立ちあがったとき、その人はもうそこにはいなかった。
夫と、子どもたちといっしょに、ゆっくりと家への道を歩いていた。ぼくは追いかけなかった。そんなことしたくなかった。あの人には家族がある。ぼくにだって。

その後でジェームズはこう考える。

でもとにかく、やろうと思ってたことはやった。お母さんを見つけたんだから。ほんとうに会って、話までした。いまでは ぼくを産んでくれた人がどんな人なのか、ちゃんと知ってる。
それにもうひとつ、おもしろい変化が起きた。あの人のことを、ほんとうのお母さんだとは思わなくなった。うちにいる母さんが、ぼくのほんとうの母親だ。早く母さんに会いたい。

15歳というのは、養子であろうと実子であろうと自分の来し方を確認し、未来に向けてふたたび歩きだす年齢である。ジェームズも生母の存在を確認できたことで満足し、自ら養親を選びとり、こんな手紙を書く。

母さんと父さんヘ

ぼくはいままで、行くはずじゃない場所にいました。生まれた場所を見つけ、母親にも会ったら、なぜぼくを手放したのか、わかりました。あの人といっしょに暮らせないのはわかってます。ただ、会ってみたかっただけです。会ってよかった。いまの家に帰れるのが、とってもうれしい。

愛をこめて  ジェームズ

 

◆ 『おやすみなさいトムさん」の場合

『おやすみなさいトムさん』表紙ガーディアン質を受賞したミシェル・マゴリアンの『おやすみなさいトムさん』(原著 1981/中村妙子訳 評論社 1991)の舞台は第二次大戦下のリトル・ウィアウォルドというイギリスの小さな村。主人公は、空襲を避けてロンドンから疎開してきたた9歳のウィルと、しぶしぶこの子を預かるトムというおじいさん。トムは、妻子を病気で亡くして以来、人付き合いが悪く村人たちから偏屈だと思われている。ウィルは体中に母親から折檻を受けた痕があり、トムからも折檻を受けるのではないかとおびえている。おまけに虐待のせいで体の発達も遅れ、文字の読み書きもできない。

トムは、40年間続いてきた規則正しい日課が崩れることにいらだったり途方に暮れたりしながらも、ウィルの世話を焼き、村人とのつき合いも復活させていく。二人はだんだんに距離を縮めて親しくなり、おたがいにとってかけがえのない存在になっていく。

生母によって呪縛されていたウィルの心身は白由になり、いろいろな力がわき出てくる。ところがそんなある日、母親から、病気なので帰ってきてもらいたいという手紙が届く。ウィルは、半分は期待をもち、母親と抱き会う場面などを想像しているのだが、久しぶりで会った母親は、息子の笑顔にぎょっとし、自分の権威がおびやかされたと感じる。

この生母は、「やさしい」「包み込む」「あたたかい」などという一般的な母親のイメージからは正反対のところにいる。ウィルはまた母親の虐待に直面することになる。生母は人種的偏見にも満ち満ちていて、ウィルが疎開先で親友になったのがユダヤ人だと知ると、息子をさんざんに重たい物で殴り、階段の下にとじこめる。

一瞬彼は いっそリトル・ウィアウォルドに行かなければよかったと思った。そうしたら母さんのことをいい人だと思っていられただろうに。ほかの人と比べようがなかったろうから。絶望感の怒濤が身のうちに荒れ狂い、彼はこの新しい目覚めを呪った。

一方トムのほうは ウィルが悲惨な状態に逆戻りしたことを知るよしもなかったのだが、ある時、夢でウィルの悲鳴を聞く。そして心配で居ても立ってもいられなくなり、ロンドン行きの汽車に飛び乗る。そしてようやくたどりついた家で、ドアを破って入ったときに見たものは、とんでもない光景だった。ウィルは傷だらけで鋼鉄製の管に縛り付けられ、自分の糞尿の中に放心したようにすわっており、両手に何やら小さなものを抱えていたのだ。抱えていたのは、とっくに落命していた赤ん坊だった。母親は失踪し、ウィルは赤ん坊と共に遺棄されていたのだ。

トムに救い出されたウィルは、ふたたびトムと暮らし始めて、徐々に人間性を回復し、生きる方へと視線を向けることができるようになる。その後だいぶんたって母親が自殺したことを聞くのだが、そのころにはまた健康な子どもらしさを取り戻し、こんなふうに思えるようになっている。

生きていたくないなんて――そんなことを考える者が本当にいるんだろうか。したいことが限りなくある毎日。雨の夜、風の日、海の大波、月の満ちかけ、読みたい本、描きたい絵、聞きたい音楽。

やがでトムはウィルを正式に養子に迎えることにする。それを知ったウィルは大喜びし、二人は手を取りあって歓声を上げながら部屋中をおどりまわる。ウィルがトムのことを初めて「父さん」と呼んだ場面は感動的であり、これからの二人の生活を祝福するように描かれている。

ウィルが眠りに落ちた後、トムも床に入ったが、ウィルの言葉の意味がこのときはじめて胸のうちに沈んだ。
「あいつ、わしを『父さん』と呼んだ」と彼はしゃがれ声でつぶやいた。「父さんと」
胸がつぶれるほど幸せな気持ちで、トムは声を抑えて泣いた。涙がさんさんと頬を伝っていた。

キンバリー・ブルベイカー・ブラッドリー『わたしがいどんだ戦い1939年』表紙

 

同じ時代のイギリスで同じように母親に膚待されて、疎開先で人付き合いの悪い大人に引き取られた子どもを描いた作品に『わたしがいどんだ戦い1939年』(原著 2015/キンバリー・ブルベイカー・ブラッドリー著 大作道子訳 評論社 2017)がある。ブラッドリーはアメリカの作家たが、どちらにも共通しているのは、虐待する生母と、人間的な養親との対比であり、養親のもとで人間性を開花させていく子どもである。(現在続編の『わたしがいどんだ戦い1940年』も出版されている。)

 

「トレイシー・ビーカー物語」シリーズの場合

ジャクリーン・ウィルソン『おとぎ話はだいきらい』表紙イギリスの大人気作家ジャクリーン・ウィルソンは、困難を抱えた子どもたちを作品に多く登場させ、その子たちに寄り添う書き方をしてきたが、中でも「トレイシー・ビーカー物語」シリーズの3冊は、イギリスでは里親や里子のためのガイドブックにも登場している。

10歳のトレイシー・ビーカーは、1巻目の『おとぎ話はだいきらい』(原著 1991/稲岡和美訳 偕成社 2000)では養護施設にいるのだが、前に取り上げた『ガラスの家族』(キャサリン・パターソン著 岡本浜絵訳 偕成社)のギリー同様 生母をどこまでも理想化している。また、すでに傷ついている自分を守るために暴力をふるったり悪態をついたりが日常茶飯事で「扱いにくい子」というレッテルを貼られている。

ところが、施設に取材に来た女性作家カムになつき、生母が迎えにくるまでの間、里子にしてほしいとカムにねだる。最初カムは絶対にダメだと断っていたのだが、だんだんに二人の距離が近づき、3巻目の『わが家がいちばん』(原著 2000/小竹由美子訳 偕成社2010)では、トレイシーは、里親研修を終えたカムの養子になっている。そこへ『わが家がいちばん』表紙生母があらわれて娘を引き取ると言い出すのだが、生母は買った物を娘にプレゼントするだけで「子を育てる」とはどういうことかがわかっていない。酒と男で回っていたような暮らしを断念するつもりもない。ある意味、気の毒な人である。

生母の家を飛び出したトレイシーは、しばらく空き家で時間を過ごすが、やがで「家」に帰りたくなる。ここでトレイシーが「家」と言っているのは、カムの家である。

そしてカムのところに戻ったトレイシーは、生母のことも客観的に見られるようになって、こう言う。

「ママって、おもしろいときもあるし。自分の服をあたしに着せて、おしゃれさせてくれてね、すごく楽しかったんだよ。だけど、あきちゃうんだ。あたしにもあきちゃった」

トレイシーも、『アンモナイトの谷』のジェームズと同じように、モノより愛情を自分に注いでくれていた里親を、物語の最後で自ら選びとるのである。

(日本児童図書出版協会「こどもの本」2018年2月号掲載)

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子どもの本に見る新しい家族⑨ 「外から来た子ども」をアメリカの児童文学はどう描いてきたか

日本児童図書出版協会で出している月刊誌「こどもの本」に、2017年の5月号から2018年の4月号まで「子どもの本に見る新しい家族」というタイトルで、従来型ではない多様な家族を描いた子どもの本について連載していました。もう一度手を入れてから自分のウェブサイトに掲載しようと思ったのですが、コロナ禍で資料が置いてある東京にも戻れず、手を入れる時間もないので、とりあえず誤植や舌足らずのところだけを訂正し、基本的にはそのままこちらに転載します。


子どもの本に見る新しい家族⑨

「外から来た子ども」をアメリカの児童文学はどう描いてきたか

「外から来た子ども」とは、非血縁の子ども(養子、里子)のことである。前回は絵本でどう描かれてきたかを見たので、今回はアメリカの児童文学読み物でどう描かれてきたかを見てみたい。

 

『ガラスの家族』の場合

『ガラスの家族』表紙全米図普賞を受賞したキャサリン・パターソンの『ガラスの家族』(原著 1978/岡本浜江訳 偕成社 1984)は、11歳の女の子ギリーが主人公である。生母コートニーに実際は捨てられた状態のギリーなのだが、生母の写真と、写真の隅に書かれた「いつも愛しています」という言葉にしがみついて生きている。生母はそばにいないので、どこまでも理想化することが可能なのだ。

何度も里親をたらい回しにされたギリーが、今回頂けられた里親は、メイム・トロッターという「カバみたいな女性」で、その家には発達障碍をもっているらしいウィリアム=アーネストという別の里子もいる.おまけに夕食を食べに来るランドルフさんは盲目の黒人だ。ギリーはこの家を「はきだめ」だと思う。だれからも安定した愛を受けたことのないギリーは、「とんかりすぎの鉛筆みたいな気分」で、学校でも家でもすべてにつっかかり、自分の強さを誇示しようとする。そして、自分を理解してくれそうな人が出てくると、逆に讐戒心を抱く。

ギリーがこうなったのは 都合のいいときは甘やかし、都合が悪くなると捨てたこれまでの里親との体験がトラウマになっているせいでもある。

ギリーは、やがでトロッターさんとランドルフさんのお金を盗み、一人で生母に会いにいこうとする。ところが長距離バスのキップ売り場で疑われて、保護者に連絡が行く。駆けつけたトロッターさんには、ギリーがお金を盗んだこともお見通しだが、警官がギリーを一晩とめおこうかときくと、断固として言い返す。

「たとえ一分だって、このわたしが自分の子を留置場へいれられると思うのかい?」

トロッターさんは、福祉事務所のケースワーカーとも渡り合い、ギリーを引きつづき家におき、しかも盗みの件には厳しく対処し、なくなった分は働いて返すように言いつけてバイト料金リストを提示する。ベテランの里親として、どう対応すればいいかをよく知っているのである。

ギリーの気持ちはしだいに前向きになるのだが、それを可能にしたのは、トロッターさんならどこまでも守ってくれるという安心感を得たことに加えて、自分が必要とされる存在だと感じたことも大きい。ランドルフさん、トロッターさん、ウィリアム=アーネストの3人ともがインフルエンザにかかってギリーが看病でへとヘとになっているところへ、今まで存在さえ知らなかった祖母があらわれて、「すぐにここからつれだしてあげる」と言う。そのときギリーはこう思う。

だれもあたしをここからつれだしたり、できるものか。だれもが、これほどあたしを必要としているときに。

トロッターさんに心を許し、周囲の人たちともようやく心を通わせ始めたギリーは、しかしながら法的にこの祖母と暮らさざるを得なくなる。しぶしぶ祖母の家に引っ越したギリーは、クリスマスに生母とも再会するのだが、

コートニーがギリーをだきしめた。大きなバッグを胸やおなかにおしつけたままで

ずいぶんと久しぶりに出会った憧れの生母とギリーの間には、大きなバッグがはさまっていた、というこの描写からは、娘の気持ちをかえりみることなく、おざなりに抱くことしかしない生母のありよう示している。ギリーはようやく、生母のことは見切らなくてはならないと悟る。

 コートニーは 自分からすすんできたのではなかったのだ。おばあちゃまがお金をだして、こさせたのだ。だから長くいるつもりもない。ギリーをつれて帰るつもりもないのだ。写真のすみにあった「いつも愛しています」は、うそだったのだ。ギリーはこのいまいましいうそのために、一生を棒にふってしまった。
「あたし、トイレにいってくる」
ギリーはおばあちゃまにいった。ふたりがついてきませんようにと祈った。なぜならまっさきにしたいことは吐くことで、第二は逃げだすことだった。(偕成社文庫版より)

現実に直面して逃げたくなったギリーは、トロッターさんに電話をして「帰りたい」と一度は言ってみるものの、ベテラン里親との心を開いた対話から、祖母も自分を必要としていることを理解して、祖母の家で暮らす決心をする。

訳者あとがきによれば、著者のパターソンは、実生活でも実子二人のほかに養子二人を育て、カンボジアからの里子二人の世話もしていた。里子たちが言うことを聞かないとき、ついかっとなって、どうぜ一時のことだからと思う自分がいたことを後悔し、「せめて本の中では、里子に世界最高の里親をあたえたい」と、 トロッターさんという理想の里親像を造形したという。

 

◆ 『メイおばちゃんの庭』の場合

『メイおばちゃんの庭』表紙ニューベリー賞とホーンブック賞をとったシンシア・ライラントの『メイおばちゃんの庭』(原著 1992/斎藤倫子訳 あかね書房 1993)の主人公は、母親と死別して孤児になり、やはり親戚をたらい回しにされた少女サマーで、今回の里親は、高齢のオブおじちゃんとメイおばちゃん。ギリーと境遇は似ているが、大きく違うのは、サマーには自分が愛情を受けた記憶がおぼろげながらあることだ。

 ある晩、台所で亜麻色の長い髪をあんでるおばちゃんにおじちゃんが手をかしてるところを初めてみたとき、あたしは、森にかけこんでわんわん泣いてしまいたいような気分になった。悲しかったからじゃない。しあわせな気持ちでいっぱいになったからだ。
きっとあたしも あんなふうに愛されてたんだと思う。よくおぼえてないけど、ぜったいにそうだ。だってそうでなかったら あの晩おじちゃんとおばちゃんをみて、ふたりの深い愛情に気つくはずがないもの。
(中略)かあさんは自分がもうすぐ死ぬってわかってて、ほかのどのおかあさんよりもしっかりとあたしを抱いて、たっぶり愛情をそそぎこんでくれたにちがいない。いつかあたしか愛というものをみたり感じたりしたときに、それが愛だってわかるように。

そして、この二人のところに来たことを、当時6歳のサマーは心から喜び、

「ここで過ごした最初の晩は、あたしの人生で、いちばん天国に近い日だった」
「ようやく自分のうちにたどりついた」

と感じている.

しかし、メイおばちゃんはやがて亡くなり、意気消沈したオブおじちゃんを今度はサマーが励ます側にまわる。

この2作は、子どもにとっては食べ物と同じくらい、愛された記憶が必要だということを伝えている。そして、愛をもたらすのは血縁者とは限らず、肉親がかえって加害者になって子どもを苦しめる例もあること、愛とは抽象的な観念なのではなく相手が何を求めているかを察して手をかけ心をかけることだということを語っている。

 

『アラスカの小さな家族』の場合

『アラスカの小さな家族』表紙スコット・オデール賞を受賞したカークパトリツク・ヒルの『アラスカの小さな家族〜バラードクリークのボー』(原書 2013/レウィン・ファム絵 田中奈津子訳 講談社 2015)は、養女ボーが主人公である。ボーは、〈楽しみ女〉のミリーが産んだ子で、育てられないから孤児院に入れてほしいと言ってアービッドの手に渡された。それ以来ボーは、二人の父親に育てられている。アービッドは、ゴールドラッシュのときにスウェーデンからやってきた。もう一人の父親はジャックで、アメリカ南部出身の黒人だ。二人とも大男の鍛冶屋である。ボーは、前回触れた絵本『ねぇねぇ、もういちどききたいな わたしがうまれたよるのこと』の女の子と同じで 自分が二人の娘になったいきさつを何度でも聞いて楽しむ。この作品では、アービッドとジャックがどんな関係にあるのかについては語られていないが、ジャックには昔結婚しようと思った女性がいたことが会話に出てくるので、同性愛カップルと決めつけることはできない。

ともあれボーは非血縁の二人の父親や先住民のエスキモーを含めた多様な民族の混じり合う社会で、みんなに見守られて育っている。家ではアービッドが裁縫、ジャックが料理を担当し、日常生活には全く困らないが、女の子の育て方についてはまわりの人からアドバイスをもらっている。二人の父親は、時に父性的な要素、時に母性的な要素を発揮して娘を大事に育てており、ボーは日々の暮らしに満足している。

ある日、ボーは言葉を話さない小さな男の子に出会う。この子は、死んでいる自分の父親のそばにすわりこんでいるところを見つけられたのた。やがでわかったのは、この子の名前はグラフトンだということ、子だくさんの叔母は孤児院に預けてほしいと願っているということだった。ボーは グラフトンも養子にしてほしいと父親たちに頼む。二人の父親の決定をグラフトンに伝える場面は、こう書かれている.

 グラフトンの目はまん丸くなりました。
ボーはこれ以上だまっていられません。
「ジャックがあんたの父さんになって、アービッドもあんたの父さんになって あたしはあんたの姉さんになるの!」
「グラフトンはわしらの息子になるんだよ」と、アービッドがいいました。
グラフトンはひっそりほほえんで、靴下をはいた足を見つめました。
「今の話、わかったと思うかい?」ジャックが心配そうにボーにたずねました。
「この子がこんなふうににこっとするのは、うれしいときだけなの」と ボー。

ボーがグラフトンの気持ちをよくわかっていることと 父親たちも家族がふえるのを楽しみにしていることが伝わつてくる。

4人家族のだれ一人として血がつながっているわけではないのだが、この作品は全体が日常の楽しさにあふれており、この4人でこれからもあたたかい家庭を作っていくだろうことが予測できる。この作品ではボーはまだ小さいが、続編もあるということなので ボーが成長して反抗期になったらこの父親たちはどうするのか、興味深いところである。

(日本児童図書出版協会「こどもの本」2018年1月号掲載)

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子どもの本に見る新しい家族⑧ 「外から来た子ども」を絵本はどう描いてきたか

日本児童図書出版協会で出している月刊誌「こどもの本」に、2017年の5月号から2018年の4月号まで「子どもの本に見る新しい家族」というタイトルで、従来型ではない多様な家族を描いた子どもの本について連載していました。もう一度手を入れてから自分のウェブサイトに掲載しようと思ったのですが、コロナ禍で資料が置いてある東京にも戻れず、手を入れる時間もないので、とりあえず誤植や舌足らずのところだけを訂正し、基本的にはそのままこちらに転載します。


子どもの本に見る新しい家族⑧

「外から来た子ども」を絵本はどう描いてきたか

前回は、非血縁の親がどう描かれているかについて書いた。次は、非血縁の子ども(養子、里子)がどう描かれてきたかについて考察してみたい。養父、養母、里親を取り上げた作品と、養子、里子を取り上げた作品は、いわばコインの両面なので、ある意味では前回のテーマと重なる部分もある。

 

『ねぇねぇ、もういちどききたいな わたしがうまれたよるのこと』の場合

『ねぇねぇ、もういちどききたいな-わたしがうまれたよるのこと』表紙アメリカで20年以上前に出た絵本『ねぇねぇ、もういちどききたいな わたしがうまれたよるのこと』(原著 1996/ジェイミー・リー・カーティス作 ローラ・コーネル絵 坂上香訳 偕成社 1998)は、アメリカでも日本でもいまだに読みつがれている。作者は、自身も二人の養子を迎えた女優である。この絵本は、自分の写真アルバムを抱えた女の子が、「ねぇねえ、もういちどききたいな わたしがうまれたよるのこと」と両親にせがんでいる場面から始まる。しかし、次の見開きでは、パパとママと犬が一つのダブルベツドで寝ていると、真夜中に電話が鳴って、「わたし」の誕生を告げられたことがわかる。パパもママも、遠くのだれかから赤ちゃんの誕生を知らされるのだ。読者はおやっと思うかもしれない。

知らせを受けたママとパパは、ベビー用品のつまったカバンを持って、飛行機で赤ちゃんを迎えにいく。絵本はさらに、生母が若すぎて世話ができないので、女の子が養子になったことを語っていく。この子が書いた絵入りの家系図によると、親として「パパ」と「ママ」のほかに、「うんでくれたママ」と「うんでくれたパパ」(こちらは語として今ひとつ落ち着かないが)が描かれている。絵本はさらに、養親が初めて赤ちゃんに対面して思わず笑顔になったこと、ママが赤ちゃんを抱いたときうれしくて泣きだしたこと、お人形さんみたいに大事に抱きかかえて帰ったことなど、養親がこの子をどんなに大事にしてきたかが、ゆかいな絵と文章で表現されている。

養子にしろ実子にしろ、愛されている実感がない子どもは、自分の誕生時のことを親に何度も聞きたいとは思わないだろう。本当の愛は甘ったるいものではないから、叱られたりしてしょぼんとすることもある。そんなとき、幸せな出発点を再確認したいと思うのは、いかにも子どもらしいのではないだろうか。

 

『たからものはなあに?』の場合

『たからものはなあに?』表紙それから10年以上たって、2009年に日本でも『たからものはなあに?』(あいだひさ作 たかばやしまり絵 偕成社)が出た。作者は、自分も特別養子縁組をした子どもを育てている。この絵本に登場するのは二組の家族で、たくやは母親のお腹から生まれ、なつかは赤ちゃんの家からやって来た。なつかの養親は、赤ちやんの家に何度も会いにいき、それから家に迎え入れる。たくやがママのお腹の中で大きくなったのに対して、なつかは言う。

 「じゃあ、なつかは ママと パパの こころのなかで どんどん おおきくなったんだね!」

作者は後書きで、

結婚前から、実子の有無にかかわらず養子を迎えたいと考えていた私たち夫婦は、『子どもをもつ最後の手段』とでもいうような、日本での養子の考え方に驚いたものです。(中略)里親や特別養子縁組に限らず、家族の始まり方はさまざまであってよいと思います。そしてどんな始まり方でも、互いを心から思いやり、愛し合って築き上げてこそ家族だと信じています。

と語っている。血縁重視の傾向が強い日本の現状を変えていきたいという意図がこの絵本にはあり、作品からもその意図がくみとれる。

 

『ママとパパをさがしにいくの』の場合

『ママとパパをさがしにいくの』表紙ホリー・ケラーの『ママとパパをさがしにいくの』(原著 1991/末吉暁子訳 BL出版 2000)は、アメリカの書評誌ホーンブックが優秀作品として選んだ絵本で、動物を主人公にしている。最初の場面では、トラのママがヒョウの子どもホラスを寝かしつけながら、こう話す。

「あなたに このうちに きてもらったのは、小さな あかちゃんだったときよ。
なぜって、あなたには さいしょの かぞくが いなくなってしまって、
あたらしい かぞくが ひつようだったから。あなたの からだのもようは
すてきだったわ。ぜひ、うちの子に なってもらおうと おもったの」

しかし、ホラスはママの話が終わる前にいつも眠ってしまう。ホラスは幸せに暮らしてはいるのだが、体の色や模様が家族と違うことは気になる。そこである日、本当の家族を探しに出かける。そして、とうとうヒョウの一家を見つけ、そこに仲間入りして子どもたちと楽しく遊ぶ。しかしそのうちホラスは、育てのパパとママを思い出し、ヒョウの家族の誘いを断って、「ぼく、もうおうちへかえりたいの」と言う。「おうち」とは、養親の家のことである。そしてその夜、いつもの話を養母が繰り返すのを今度は最後まで聞いて、トラの両親を自分の本当のママとパパとして自ら選びとるのだ。

 

『タンタンタンゴはパパふたり』の場合

『タンタンタンゴはパパふたり』表紙ジャステイン・リチャードソンとピーター・パーネルが文を書き、ヘンリー・コールが絵をつけた『タンタンタンゴはパパふたり』(原著 2005/尾辻かな子・前田和男訳 ポット出版 2008)は、アメリカ図書館協会が優良図書に選んだ絵本。ニューヨーク市マンハッタンにあるセントラル・パーク動物園にいるペンギンの実話を基に作られた。いつも一緒にいる雄ペンギンのロイとシロは、ある日、卵形の石をあたため始める。その様子を見ていた飼育員が、他のペンギンが遺棄した卵を2羽の巣においてやると、今度はそれを交替であたためる。その卵からかえったひなは、タンゴと名づけられる。この3羽がいい家族であることは、絵からも感じられる。この絵本は、男性カップルが養子を迎える話というふうにも解釈できるが、非血縁者が家族をつくる絵本としてここに入れておきたい。

 

『おとうちゃんとぼく』の場合

『おとうちゃんとぼく』表紙にしかわおさむの『おとうちゃんとぼく』(2012)も、作者の制作意図は別として、養子の絵本と考えることも可能だ。

「おとうちゃん」の名前はノラさん。犬だが擬人化されてズボンをはき二本足で歩いているノラさんは、子どものころ、人間のおばあさんに引き取られ、世話をしてもらうかわりに、おばあさんを手伝ったり、夜はどろぼうや怖いものが来ないように見張ったりしている。やがて大人になったノラさんは、小さな捨てネコに出会う。この絵本で「ぼく」と言っているのは、この子ネコだ。子ネコを連れ帰ったノラさんは、おばあさんに「おいら こんやから このこの おとうちゃんに なります!」と堂々と宣言し、敷地に小さな家を建ててもらって自立する。そして子ネコにご飯を食べさせたり、おしめを替えたり、遊んでやったりして育てる。

ある日、子ネコを従えてパトロール中のノラさんは、どろぼうをつかまえたのはいいが、自分もケガをして入院する羽目になる。「ぼく」は心配で、ずっとノラさんに付き添う。やがて元気になったノラさんに、人間の女性が言う。「そのぼうや あなたの 子どもじゃ ないでしょ? ちゃんと おやを さがして かえしなさいよ」と。ノラさんは怒って、その女性の服にかみついてしまい、パトロール隊の隊長に叱られる。しょんぼりしているノラさんに、子ネコは言うのである。

「ぼくの おとうちゃんは おとうちゃんの ほかに どこにも いないよ!」

 

『おとうとがやってきた!』の場合

『おとうとがやってきた』表紙イギリスの絵本『おとうとがやってきた!』(原著 1993/ティー・シャールマン作 もとしたいずみ訳 偕成社 1996)は、弟ができた姉ドーラの話だが、その弟が養子であるところが他と違う。イギリスではこの年代でも養子縁組は珍しいことではなかったようで、最初の場面でドーラは、養子の弟がやってくることを

「おとうとはね、あかちゃんじゃないの。それに ほんとのおとうとでも ないのよ。そのこ、パパもママも いないんだって。それで うちのかぞくになるんだ。あたしの おとうとよ。えへ、『サーシャ』って なまえなんだよ」

と学校で自慢して、友だちをうらやましがらせている。

でも、実際に一緒に暮らすようになってみるとサーシャは、ドーラが完成しようとしていたパズルをめちゃめちゃにしたり、ドーラが大事にしているくまさんをお風呂につけてしまったり、せっかく描いた絵をぐしゃぐしゃにしたりするので、ドーラは「もう おとうとなんか、いらないっ!」と言ってしまう。それでも、サーシャが留守にすると、さびしくなる。

このあたりのストーリー展開は、実のきょうだいの場合とそう違わない。違うのは、サーシャの場合は赤ん坊時代がなくてすぐにいたずらを始めるところくらいだろうか。最後はやっぱリドーラが、弟に絵の具をべったりつけられながらも、「うちに きてくれて うれしいよ、サーシャ!」と言う場面で、裏表紙には、ドーラが笑顔のサーシャも入れて描いた家族の絵が載っている。

 

ここで取り上げたどの絵本にも、非血縁の子どもたちが、あたたかく迎えられ、愛をあびて育っている様子が描かれている。養子や里子だから、実子より大きな愛でつつまれている、などということは、もちろん言えない。ただ、実の親が子どもを虐待したり殺害したりする事件を目にすると、私たち日本人も、非血縁の親子関係をオプションとして視野にいれる必要が出てきているのではないかと私は思う。

そういう意味では、養子や里子が出てくる作品に子どもたちが親しむ状況をつくることには、大きな意味があると言えよう。

(日本児童図書出版協会「こどもの本」2017年12月号掲載)

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子どもの本に見る新しい家族⑦ 「外から来た親」はどう描かれてきたか

日本児童図書出版協会で出している月刊誌「こどもの本」に、2017年の5月号から2018年の4月号まで「子どもの本に見る新しい家族」というタイトルで、従来型ではない多様な家族を描いた子どもの本について連載していました。もう一度手を入れてから自分のウェブサイトに掲載しようと思ったのですが、コロナ禍で資料が置いてある東京にも戻れず、手を入れる時間もないので、とりあえず誤植や舌足らずのところだけを訂正し、基本的にはそのままこちらに転載します。


子どもの本に見る新しい家族⑦

「外から来た親」はどう描かれてきたか

 

「外から来た」とは、非血縁という意味である。日本人の多くは、家族は何よりも血縁が大事だと思いがちだ。子どもの本にも、そうした家族観が反映されている場合が多い。しかし、英米の児童文学の作家たちは、そうした家族観がとりこぼしてしまう子どもたちがいることに、かなり早い時期から気づいていたように思う。たとえばアメリカのシャクリーン・ウッドソンは1994年に『レーナ』(さくまゆみこ訳 理論社 1998/連載の第6回でも取り上げている)の中で、父親から性的虐待を受けているレーナに

「血のつながりなんて、事故みたいなもんだよ。親族は血がつながっているんだから愛さなくちゃいけないって、みんな言うけどさ」(p110)

と言わせているし、イギリスのアン・ファインは、血のつながらない多様な家族が登場する『それぞれのかいだん』(灰島かり訳 評論社 2000)という作品を1995年に発表している。日本では、それから20年以上たった2016年に、市川朔久子が『小やぎのかんむり』(講談社)で「親子は、縁だ。あんたとこの世を結んだ、ただのつながりだ。それ以上でもそれ以下でもない」という台詞をタケじいに語らせて、追い詰められていた主人公を救った(連載の第4回を参照)。

今回は、子どもの本に描かれる血のつながらない親、つまり継父や継母を取り上げてみたい。

 

◆昔話の影響?

グリム昔話では、「シンデレラ」にしろ「白雪姫」にしろ「ヘンゼルとグレーテル」にしろ、継母は、子どもをいじめたり、亡き者にしようとする悪い存在として描かれている。ただし、グリム昔話の初版では継母ではなく母(実母)という言葉が使われていた。昔話に登場するのは、もともとシンボルや象徴としての存在で、現実をそのまま語っているわけではないからそれでもいいのだが、グリム兄弟は、虐待するのが実母では、いくら物語でも子どもたちが悪夢にうなされるかもしれないと考えて、継母に変えたのである。

日本の昔話にも、「米福粟福」「落窪物語」「鉢かづき」「手なし娘」のように、継母が子どもをいじめる話がたくさん伝わっているし、スラブの昔話「12のつきのおくりもの」(マルシャークの『森は生きている』でも有名)も、ロシアの昔話「バーバ・ヤガー」も、ネパールの昔話「プンクマインチャ」も、子どもが継母に虐待される話で、絵本にもなっている。

私たちが、血のつながりのない継母や継父に、好感を持ちにくくなっている理由の一端には、こうした昔話の影響もあるのかもしれない。

しかし、児童文学作品の場合は、どうだろう? たしかに非血縁の親が子どもを理解しない存在として登場する場合もあるが、継父や継母=意地悪(ちなみに昔話には継母はよく登場するが継父が登場することは少ない)というステレオタイプを突き崩すような秀作もいくつも書かれている。

たとえばパトリシア・マクラクランの『のっぽのサラ』(原著 1985)は、子どもたちが、継母(候補)と心を通わせていく物語だが、これについては連載の第1回に書いたので、そちらをご覧いただきたい。

 

◆『800番への旅』の父親

カニグズバーグ『800番への旅』表紙アメリカの作家E.L.カニグズバーグが書いた『800番への旅』(原著 1982/岡本浜江訳 佑学社 1987、小島希里・他訳 岩波書店 2000・2005)の主人公マックス(愛称ボー)の両親は離婚している。マックスは母親と暮らしているのだが、母親が再婚することになり、そのハネムーンの間息子は父親のウッディに預けられる。父親は各地をまわり、お客をラクダに乗せてお金を稼いでいる。きちんとした生活が好きで上昇志向もある母親の影響もあり、最初のうちマックスは久しぶりに会った父親を批判的にながめ、周囲の一風変わった人たちのことも冷ややかに見ている。しかし、徐々にマックスも父親のよさを理解し、社会から外れた人たちのたくましい生き方に触れて成長していく。

ところがこの作品には、物語の最後の方に読者をあっと言わせる展開が用意されている。ある女性がマックスに、「(ウッディは)あんたのことも、まるで自分のほんとの息子みたいに愛しちゃったのね」と口をすべらせるのだ。問いただしたマックスは、ウッディが実父ではなかったという事実を知って衝撃を受け、狼狽し、困惑し、どういう態度をとればいいのかと思い悩む。しかし間もなく「ただ、ウッディの息子ボーであることを楽しめばいい」と考え直す。最後の場面では、帰宅するマックスをウッディが車で飛行場まで送っていく。

 それからおしりをすべらせて ウッディに近づいた。ウッディはハンドルを持った片手を放して、ぼくをひき寄せた。
ぼくは空港に着くまでのあいだ、じっとよりかかっていた。

この場面からは、マックスの血のつながりなどを超えたウッディヘの信頼と愛情が感じられる。実母が息子を置いて旅に出てしまったことを考えると、象徴的な場面でもある。ちなみに、800番とはアメリカの無料通話の番号で、ここではウッディの周囲にいる無名の人たちをさしているようだ。

 

◆『ベーパーボーイ」の父親

ヴィンス・ヴォーター『ペーパーボーイ』表紙同じくアメリカの作家ヴィンス・ヴォーターの『ペーパーボーイ』(原著 2013/原田勝訳 岩波書店 2016)にも 血のつながらない父親が登場する。舞台は1995年のメンフィス。吃音を抱え、周囲とのコミュニケーションがうまくない主人公ヴィクターは、夏休みの間友だちのかわりに新聞配達をすることになり、配達先できまざまな人に出会って世界を広げ成長していくというのがメインストーリーである。そこに、自分の出生証明書の父親の欄に「不明」と書いてあるのを見てしまったヴィクターが、思い悩むというわき筋が入ってくる。

どうしてもわからないことがひとつある。だれかよその男の人とお母さんのあいだにぼくが生まれたのだとしたらなぜぼくはお母さんよりお父さんといるほうが好きなんだろう? ばくはお母さんと話すよりお父さんと話すほうがずっと好きだ。お父さんはぼくがひどくどもることを全然気にしていないように見える。(p119)

ちなみに、ヴィクターは話す時は吃音を防ぐために息継ぎをしょっちゅうするのだが、それとは対照的に、文章は息継ぎのカンマなしで書くため、訳文も読点なしになっている。

また 出張から帰ってきた継父とキャッチボールをしている場面では、ヴィクターは、こう考えるようになる。

出生証明書の父親欄は「不明」だったかもしれないがぼくから見れば今こうしてワイシャツ姿でネクタイの先をボタンのあいだに突っこんでキャッチボールをしてくれている背の高い男の人こそが父親だ。びかぴかだったお父さんの革靴は花壇に入ったボールを拾ったものだから泥だらけになった。この人はいつだってぼくのためにこの世のほとんどどんなことでもする気でいる。でもよく考えてみるとそう思わなきゃならない義務なんてない。(p268)

物語の最後では、ヴィクターは「お父さんとお母さんにぼくが生まれてきたいきさつがどうであれ二人の子どもでいられてうれしい」(p278)とはっきり述べている。家族にとっていちばん大事なのは、血のつながりではなく、一緒に過ごす時間の質だという価値観が、この作品には明確に表現されている。

 

『十一月のマーブル』が伝える血縁と非血縁

『十一月のマーブル』表紙戸森しるこの作品はどれも(今のところ、表題作のほかに『ぼくたちのリアル』と『理科準備室のヴィーナス』)、生きることは複雑であり、だからこそおもしろいということを伝えている。デビュー作の『十一月のマーブル』(講談社 2016)は、6年生の主人公波楽(はら)と、自分の性に違和感を持つ親友レンの間に通う繊細な愛の物語とも言えるが、その一方で非血縁の家族の物語でもある。

波楽は、「かあさん」とは血がつながっていないことを最初から承知していて、自分が産んだ娘と波楽を差別しない継母に尊敬の念さえ抱いている。しかし、生母の再婚相手の井浦凪と出会ったことから、波楽は「とうさん」とも血はつながっていなかったという事実に気づいてしまう。妹を含めた一家4人のなかで、波楽だけが血のつながらない家族なのである。波楽は悩みながらも、自分を生まれた時から育ててくれた「とうさん」と、4歳から育ててくれた継母を自ら親として選びとり、自分と顔がそっくりの凪には「凪さんのこと、すごく好きだ」と言いつつ、こうも言う。

「ほんとうの父親がだれかなんて、ぼくにはもうどうでもいいことなんだ。だってぼくのとうさんは、柴田航太郎ひとりだけだから」

波楽は、血縁より、一緒に過ごした時間が長く、自分を愛してくれている非血縁の家族を選びとり(ちなみに生母は亡くなっている)、継母には思い切って「弟はほしくない」と、これまでは言えなかったわがままも言うようになる。その場面では、血縁へのこだわりが逆の意味で顔を出しているのもおもしろいところだ。

ぼくは今でもかあさんをひとりじめしたいって思ってる。血がつながっていないぶんだけ、よけいに気持ちがつながっていなきゃって、どうしても思ってしまう。
血のつながりが関係ないなんて そんなのうそだ。(p169)

血縁へのこだわりが顔を出すもう一つの場面は 航太郎が(妻を略奪した)凪と縁を切らなかった理由について、凪が波楽に語るところである。凪は、いずれ「血のつながりのある相手が、どうしても必要になることもある。たとえばきみが重い病気にかかったとき、ぼくがきみにしてやれることがあるかもしれない」からだろうと推測している。このひと言で、航太郎の波楽に対する愛と、それを察することができる凪の優しさの両方を、うまく表現しているのが見事だ。

ほかにも継母、経父が登場する作品はあるが、ここに取り上げた作家たちの家族観に、私は共鳴している。家族は血縁で縛るものではなく、一緒に過ごす時間の豊かさを大事にするほうがいいと思うからである。

(日本児童図書出版協会「こどもの本」2017年11月号掲載)

 

 

 

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子どもの本に見る新しい家族⑥ 父子家庭はどう描かれてきたか

日本児童図書出版協会で出している月刊誌「こどもの本」に、2017年の5月号から2018年の4月号まで「子どもの本に見る新しい家族」というタイトルで、従来型ではない多様な家族を描いた子どもの本について連載していました。もう一度手を入れてから自分のウェブサイトに掲載しようと思ったのですが、コロナ禍で資料が置いてある東京にも戻れず、手を入れる時間もないので、とりあえず誤植や舌足らずのところだけを訂正し、基本的にはそのままこちらに転載します。


子どもの本に見る新しい家族⑥

父子家庭はどう描かれてきたか

 

先月は母子家庭を取り上げたので、今月は父子家庭が描かれた作品を取り上げてみたい。

 

絵本の場合