『宮沢賢治「旭川。」より』をおすすめします。

宮沢賢治の「旭川」という詩を基にして、そのエッセンスを活かしながら、言葉を紡ぎ、絵で表現した絵本。

賢治の詩が内包するさわやかさや軽やかさを、みごとに表現している。動物中心の絵本を数多く出してきた作者だが、この絵本の主人公は、帽子をかぶって馬車に乗る賢治。しかし、その周囲には動物も登場し、馬ばかりでなく大きな蝶やフクロウやオオジシギが随所に登場している。

中でも原詩には出てこないオオジシギを、作者は、「天に思いを届け、天の声を聞いて返ってくる使者のようだ」として、三見開きを使って、大きく扱っている。この鳥に、賢治を象徴させているのだろうか。

画面ごとの構成や、余白の使い方、流れや変化のつけ方もすばらしく、この作者がこの絵本で新たな境地を切りひらいたことを思わせる。

(産経新聞児童出版文化賞講評2016.05.05掲載)