『あさになったので まどをあけますよ』
荒井良二/作
偕成社
2011.12
荒井良二/作
偕成社
2011.12
『あさになったので まどをあけますよ』をおすすめします。
朝になったら窓をあける。何気ない日常のしぐさだが、窓をあければそこには緑の自然があり、さわやかな風が吹き、海がきらめき、人々が会話をしている。
この絵本に描かれている「窓をあける」は、一日一日を新たに迎えたことを喜び、まわりのものをていねいに感じていく行為なのではないだろうか。またそれは、自分の心を開くことにもつながっているかもしれない。
2つの見開きを1つのまとまりにした場面展開には変化があり、どの風景も世界の広がりを感じさせる。
途中で2度繰り返される「きみのまちは はれてるかな?」という言葉も、読者に自分の周囲にも目を向けるように促すことによって、この絵本にもう一つの広がりを持たせている。
2011年の大震災後、日常の当たり前は、当たり前でなくなってしまった。この絵本は、被災地の人たちとのワークショップを何度も行ったことから生まれたとのこと。作者はそうした体験をベタに表現するのではなく、見事に自分の中で昇華して完成度の高い作品に仕上げている。
(2012年5月5日 産経児童出版文化賞「大賞」選評)