『おばあちゃんとバスにのって』
マット・デ・ラ・ペーニャ/作 クリスチャン・ロビンソン/絵 石津ちひろ/訳
すずき出版
2016.10

『おばあちゃんとバスにのって』をおすすめします

この絵本のおばあちゃんは、お金や効率よりも人とのふれあいを大切にしています。行き先は、困っている人にごはんを出す食堂。ぼくも手伝って奪った食事をみんなが笑顔で食べてくれると、心もあったかに。

(朝日新聞「子どもの本棚」2016年11月26日掲載 *テーマ「ぬくもり」)


『おばあちゃんとバスにのって』をおすすめします。

どんなときにも人生を楽しめるって、いいよね。でも、それにはちょっとしたコツが必要。

この絵本のおばあちゃんは、人生を楽しむ達人。髪は白いけど、黒い服に赤い傘、緑色のネックレスにピアスのおしゃれさん。孫息子のジェイが「なんでバスを待たなきゃいけないの?」と不満げにたずねても、「だって、バスの方が楽しいんじゃない?」なんて答えてすましている。

おばあちゃんとジェイが乗ったバスには、チョウを入れたビンを抱えたおばさんも、スキンヘッドにタトゥーのこわもて男も、ギターをつま弾く帽子の男も乗っている。盲導犬を連れた人も乗ってくる。おばあちゃんはみんなにあいさつし、鼻歌をうたう。にこにこ顔がまわりにも広がり、帽子の男の演奏と歌にみんなが聞きほれる。

バスが終点で停まると、そこはジェイが「汚くていやだなあ」と感じるような街だ。道はがたがたで、家のドアは壊れ、あちこちに落書きもしてある。でも、おばあちゃんは「ここでもちゃんと美しいものは見つけられるのよ」と言って、空にかかった虹に、いち早く目をとめる。

二人が向かったのは、ボランティア食堂。英語だとスープキッチン。無料で、あるいはとても安い料金で食事ができるところだ。日本で言うと、おとなも来られる子ども食堂みたいな感じかな。おばあちゃんはエプロンをかけて、次々とやってくる人たちに食べ物をよそっていく。ジェイも手伝う。そこは、人と人が触れあうことのできる場だ。ひとり暮らしの人も、友だちに会える。こういうところなら、お腹だけじゃなくて心も満たされるはず。食堂に来るのは恵まれない人たちだけど、貧しいとかかわいそうという視点はまったくなくて、だれもが楽しそうだ。原書は、アメリカでニューベリー賞とコルデコット賞銀賞を受賞した。

(「トーハン週報」2016年12月12日号)