つばな:とてもおもしろい本で、読んでよかったと思いました。なによりも、おとなも子どももいろんな人が出てきて、それぞれが生きること、死ぬことについての考えを述べているところがいい。知らない人のお葬式に出て、式のあとのコーヒーとケーキをちゃっかりごちそうになるおばあさんとか。こういう人、山本有三の『路傍の石』にも出てきますよね。最初は、涙なしでは読めない悲しい物語なのかなと、ちょっと警戒したんですが、どんどんおもしろくなりました。クララ先生にお棺を届けにいった子どもたちが、坂道で遊んでしまうところなんて、「ああ、子どもって!」と思ったり、「本当は、行きたくないから、先延ばしにしているのかも」と思ったり……。私がとてもいいなと思った箇所の一つです。それから、それこそ片足を棺桶に突っこんだようなおじいちゃんが、棺桶を作ることでまた生き返る。ひとりの死が、ひとりを生きかえらせるというところも、深い味わいのある作品だなと思いました。

マリンゴ:実は、クララ先生のパートナーであるマインダートさんに一番感情移入しました。亡くなる前の数時間を独占したい、という気持ちがとてもわかります。子どもが来てクララが喜んだ、という満足感と、自分が最後に言いたいことを言えなかった、という残念な気持ち、その二つを一生抱えていくんじゃないかと、物語が終わった先まで想像しました。わたしが今おとなだから、そう感じたわけで、小学生の頃に読んでいたら、まったく違う感想になっていたと思います。そういう意味でも、読みごたえのある作品でした。

ルパン:ずっと「死を前にした人にお棺をプレゼントしていいのか!?」と思いながら読み進め、最後の最後で泣きました。ご主人のマインダートさんの「きみの旅のためのものだよ」というせりふにすべて収斂された気がします。「たったひとつの人生」ということはよく言われますけど、「たったひとつの死」ということばはあまり聞かれないですよね。死は誰にでもやってくるけど、ひとりひとりにそれぞれの死があることを思い出させてくれる不思議な魅力の物語だと思います。ただ、すばらしいんだけど、子どもに手渡すのには勇気がいりますね。何歳くらいの子が対象なのでしょうか。どこまで理解できるだろうかと思うと安易に手渡すのがこわい気もします。私のなかではまだ結論が出ていません。

アンヌ:西原理恵子さんのテレビ番組(NHKBS「旅のチカラ」)で、ガーナで、とても派手で色々な形の棺桶を作るところを見たことがあるので、国によってはいろいろな棺桶があるのだろうと思っていましたが、オランダではまっ黒なのですね。主人公は自分が夢で黒い棺桶が嫌だと思ったのに、先生がそう言ったと思い込んで棺桶を作るという展開に、もう一つ納得がいかないところがありました。普通の人が棺桶をプレゼントするなんてと怒るのは理解できるし、作る楽しさやおじいさんのたくらみとかはおもしろかったのですが、納得できないところが後を引いて、わくわく読めませんでした。

イバラ:子どもが担任の先生の死をどうとらえて、それをどう乗り越えていくかを描いています。現実を子どもにも隠さず見せるという文化なんですね。日本の作家は棺桶をプレゼントするとは書けない。こういう作品は、違う価値観や世界観を日本の子どもに紹介するという意味があると思います。子どもが先生を大好きだったことも伝わってきます。主人公ユリウスのお母さんについても、単なる事なかれ主義ではなく、死から子どもを遠ざけようとする理由が書かれています。そういう意味で、キャラクターも平板じゃなくて立体的。いい作品だと思いました。

パピルス:おもしろく読みました。先生が「死」と向き合う中での言葉がジーンと響きました。でも、お母さんが子どもを亡くした気持ちに共感できず、途中話についていけませんでした。挿絵自体は良かったのですが、一面ところどころにすべて挿絵のページがあり、余計かなと思いました。

イバラ:私はこの本の挿絵はすばらしいと思います。シリアスな重い内容を、温かなやさしい挿絵がうまく中和している。

パピルス:先生が自分の病気を「モンスター」と表現してますけど、小学4年生くらいの子には病名を言ってもいいんじゃないかな?

レジーナ:クララ先生は、「奇跡が起きるなら、自分ではなく、病気の子どもに起きてほしい」と言い、子どもたちは水着になって授業を受けます。こんな先生だったら好かれるだろうな、と読者は思うし、子どもたちが先生のことをどれほど大切に思っているかが、しっかりと描かれています。だから棺桶をプレゼントするという突飛なアイディアも、読み手が納得できる形に収まってるんでしょう。子どもたちを見守るおじいちゃんも、存在感がありますね。あえてカモではなく、ハトにパンくずをやる場面をはじめ、偏屈だけど人間味あふれる人柄が伝わってきます。エレナは思いこみが激しく、人任せで、もう少し魅力的だったら良かったのですが……。思い出のつまったリンゴケーキを、ひとりで食べたくないと思うマインダートさんに、胸がいっぱいになりました。人の死という厳粛な場に生まれる、独特のおかしみが描かれた場面もあって。たとえば、死者がリスに生まれ変わったと信じて、葬儀でヤシの実を墓穴に入れるなんて、ユーモアがありますよね。作者はオランダ生まれですが、オランダは世界で初めて安楽死が法律で認められた国です。死を描いたユニークな本も早くから書かれていて、ドイツもその影響を受け、ヴォルフ・エァルブルッフの『死神さんとアヒルさん』(三浦美紀子訳 草土文化)のような作品も生まれました。先日、ニューヨークで行われた、児童書の翻訳に関するパネルセッションの記事を読んだんですけど、この絵本は、米国で出版された当初は戸惑う人が多くいたものの、結果的に大きな成功を収めたそうです。死については、おとなも子どもと同じくらい知らないので、この作品のように、子どもが受け止める力を過小評価せず、子どもと一緒に考えていくような本がさらに増えればいいですね。

レン:とても興味深く読みました。日本だとなかなか書かれない作品だろうとまず思いました。暗いこと、ネガティブなことは避けられがちだから。でも、生があるところには死があります。うちの子どもが通っていた中学校でも、3年間の間に二人の先生ががんで亡くなりました。お通夜に行くだけでも年頃の子どもたちは考えるところがあるけど、こういうお話を通して死について考えるのは大事ですね。この作品では、おじいちゃんがおもしろいですね。だんだん元気になってきて。

つばな:子どもは死から遠いところにいると、ついつい思ってしまいますけれど、子どもも大人と同じように死や、つらい現実に直面しているんじゃないかしら。長谷川集平さんだったかな、子どもと大人は同じ現実に立ち向かっている同志だといっていましたが、そういう姿勢をこの作品にも感じました。

(「子どもの本で言いたい放題」2015年5月の記録)